喪心の舞姫
 第三話

【ブリッジ:テンカワ・ラズリ】

「あけましておめでとうございます!!」
ナデシコが火星に行くには、地球を守っているビックバリアを解除してもらわないといけないから、ユリカ艦長が連合軍と通信している。
だけど、何を思ったのか晴れ着を着て現れた。
何を考えているんだか。
でも、あの天真爛漫な笑顔を見ていると、何だか心が暖かくなる。
あの笑顔を無くしちゃいけないって思えるんだ。

そう思った時、また頭の中に映像が現れた。

……立ちふさがるアオイ・ジュン……説得と、大量のミサイル攻撃……ムネタケ提督の脱走……。
そして……ガイの死!!

な、なんだって!!
今までの事から、これが「予知」である可能性が高い。
だからガイさん本当に死んじゃうの?
しかもこの死に方はエステの戦闘による物じゃない。
一体何がガイさんに?!

「あらそう……ではお手やわらかに……」
「予知」に驚いている間にユリカ艦長の通信は決裂に終わっていた。
じゃあ、連合軍がバリアを通さない為にこっちを攻撃して来るんだ。
となると、ジュンさんはそこで出てくるのかな。
でもわざわざジュンさんが立ちふさがる訳って?

原因と思われる人の方を見る。
「そうだ! アキトにもこの姿見せてあげなきゃ!」
そう言って嬉しそうに出ていくユリカ艦長。
はぁ……。
こっちは中途半端に未来が見えるから苦労しているのにぃ。
あ、ガイさんはアキトと同室だったな。
……ボクも行こう。

【アキトとガイの部屋:テンカワ・アキト】

うおおおおおおおっっっっ!!!
ジョーが、ジョーが死んじまったよおおおおおおっ!!
「アーキートー!」
やっぱり、漢の死に様ってのはこういうのだよなぁ!!
「アキトってば」
ガイ、こんないい物を見せてくれてありがとう!!
「ねえ、アキ「こら、アキトーっ!」」

ガキン!!

いきなりの激痛。
「せっかくユリカ艦長がアキトに晴れ着を見せに来たのに何で気づいてあげないのっ!
 ゲキガンガー3なんか見てないで、ユリカ艦長の方を見なさいっ!」
いつのまにか、晴れ着を着たユリカに、不機嫌そうな顔のラズリちゃんが居た。
俺が二人に目を向けると、ユリカは嬉しそうにポーズをとってみせる。
「どう? どう? アキト? 似合ってる? 素敵? 惚れ直した?」
「ああ、そうだな。ちょっとびっくりした……」
ユリカのこんな格好始めてみたからな。
「えへ、嬉しい! アキト、大好き!」
そう言ったかと思うとユリカの奴、満面の笑顔で抱きついてきた。
全く、こいつは昔もそうだったな。
俺が仕方なしに言ったことでも本当に喜んで、笑顔で抱きついてきたんだよな。
そんな事を思い返していると、ガイが俺の肩をつつく。
ガイがラズリちゃんの方を指さしていた。
見ると彼女がジト目でこっちを見ている。
「……何だかムッとしてしまいました」
ちょっと待て、煽っておいて何でそんな顔なんだよ。
「こうなったら君たち二人、バリアを突破したらシミュレーションで鍛えてあげます!」
「俺はコックだって」
「何で俺まで! それにバリア突破後って事は出撃のすぐ後じゃねぇのか」
無茶な台詞に俺とガイは思わず不平を漏らす。
「何か文句でも」

ギロリ!!

めちゃめちゃ怖いので、おとなしく頷いておく事にした。
隣のガイも同様に思ったのか青ざめた顔で頷いている。
「よろしい。それじゃまた後で」
そう言ってさっさと出ていく彼女。
ラズリちゃんの行動って時々謎だなぁ……。

【倉庫前通路:テンカワ・ラズリ】

「いったいいつまで我々を軟禁するつもりだ!」
「この扱いは明らかに国際法に反してるぞ!」
「ガタガタ言ってると脳ミソだけ残して体改造しちまうぞ! おとなしくしてろよ全く……」
ウリバタケさんが去っていくのを見ながらボクは考えた。
提督が捕まっているのはあそこか。

脱走を「予知」したから、提督の事を調べていたんだ。
ガイさんが殺される理由って、それに関係してるとしか思えなかったし。
ま、ボクは脱走自体を止める気はあんまりないんだ。
ここで脱走されなくても、バリアを抜けた後次のコロニーで降ろす事になるだけだから、ガイさんが死ななかったらどっちでも良いもの。

でも、いくつか気になる「予知」が浮かんできたの。

……憔悴した姿……私にも、正義を信じていた頃は、あったのよ……。

他のいくつか浮かんだ偉そうな姿と全然違ってた。
何だか気になって、とうとう提督と直接話もしたくなったから来てみたの。

【倉庫:ムネタケ・サダアキ】

「どう?」
「チョロいもんですよ。今時縄なんて、まったく素人らしいですよ」
部下が縄抜けを始めたのを確認して、私は脱出の算段を始めた。
私はこのまま宇宙までつき合う気分じゃないの。

と、その時倉庫の扉が開き、一人の少女が入ってくる。
確かあの子は、サセボで凄い戦いを見せたパイロット。
テンカワ・ラズリとか言ったかしら。
彼女は私を見つけると、しばらく何も言わず、何か色々な感情が交じった様な奇妙な瞳で私を見つめた。
決まりが悪くなって私が何か言おうとした時、彼女は口を開いた。

「あなたにとって、正義とは何ですか?」
いきなり何よこの娘。
……正義ですって?
「ふん、正義なんてもう信じてなんかいないわ。だから私は私のため、ただそれだけのために動くのよ。
 そのためだったら、私はどんな事だってするわ」
「そうですか……、昔は信じていたんですね。それは、貴方の父親と、父親が所属していた軍ですか?」
なっ!
図星だった。
私は父親に憧れ、そうして軍に入った。
でも軍は正義じゃなかった。ただ戦争しているだけだった。
父親もその中の一部でしかなかった。
私は驚き、苦悩し、いつのまにか自分の為だけに行動するようになった。

驚いている私を見ながら、彼女は全く別の事を言った。
「あなたは、無くしてしまった時、どうしても取り戻したくなるような思い出はありますか?」
そう言ったこの娘の瞳には、悲しみと、だがそれに負けない強さがあった。
この娘、記憶喪失って言っていたわね。
だからそんな事を言うのね。
……でも、思い出ね。
確かに私は自分の保身と出世だけを考えていて、そんな思い出なんか無いわ。
だけど、仕方なかったのよ。
親の七光りだなんて言われないように必死だったんだから。
「もっとあなたは色々な事が出来るはずです。
 あなたは、軍、いいえ、人間の汚い所、卑怯な所を知っている人ですから」
彼女はそこまで言うと、不思議な、何か目が離せなくなる様な笑みを浮かべて続けた。
「そうしたら、無くしたくない大切な思い出もできると思うんです」
「ふ、ふん、青臭い台詞ね」
私はそう言うのが精一杯だった。
「そうですね。でも言っておきたかったんです。今のままだと、悲しい未来になりそうだったから」
彼女はそう言って出ていく。
閉まり掛けた扉の前でくるりと振り向いた。逆光で表情は見えない。
だが、あの瞳がこちらを見つめているのは感じられた。
「ここから脱走するならするでかまいませんけど、あんまり他の人に酷い事しないで下さいね」
その言葉と共に扉が閉まる。

何なのよ、あの娘。でも、妙に心に残る瞳をしていたわね……。

【カタパルト操作室:テンカワ・ラズリ】

連合軍の機体が攻めてきた。
やっぱり、ジュンさんが居るみたい。
で、エステが出撃する事になって、ボクはそのオペレート。
オペレートだけならブリッジの方が良いんだけど、パイロットが少なくてボクも出撃する必要があるかもしれないって言われて、ここで指示。

ガイさんの出撃準備を見ながら考えた。
提督、やっぱり脱走するのかな。
……するんだろうな。周りの部下がごそごそ何かやってたし。
でもそうすると、あの憔悴した提督とかは何時の事になるんだろう?
脱走に失敗したりするのかな?
だったら何事もなく脱走してくれる方が良い様な気がするけど。
まぁともかく、まかり間違ってガイさんとぶつかったらまずいよね。

「ガイさーん、ちょっといいですかー」
「おらどけどけー、ダイゴウジ・ガイ様の出撃だー!」
「ガイさんってばー!」
「夢が明日を呼んでるー」
「ガイさーん!!」
「レッツゲキガンガ〜」
人の話を聞け。
こうなったらカタパルト固定用アームで……。

ガコン!!

すっ転ばしてあげました。
「何しやがる!!」
「人の話を聞かない方が悪い」
「……ラズリさん。何でしょうか」
人の顔を見て青ざめるとは失礼だよね。
「ガンガー・クロス・オペレーションなんて馬鹿な事考えないでくださいね。敵が合体中には手を出さないなんて事無いんですから」
「な、何でそれを……」
うわ、ほんとに考えてた。
この間の対チューリップ戦の時こんな事言ってたし、今回何となくやりそうな気がしたからカマ掛けただけなのに。
まあ、ちょうど良いや。
「ガイさん、この後のシミュレーション、5戦追加します。戦闘終わったらすぐにシミュレーションルームに来てくださいね」
「とほほ……」
「終わったらすぐですよ。少しでも遅れたら怒りますからね」
「り、了解!!」
こうやってシミュレーションルームに行かせておけば、脱走者達とぶつかる事はないはず。

で、ガイさんは最初っから重武装タイプで出撃したんだけど。
何で敵を倒すたびに決めポーズとるかなぁ。
しかも重武装タイプは機動力無いんだぞ。
見る間に敵に囲まれちゃって、ブリッジからは増援の指示。
ま、結局は「予知」通りなんだけど。

そんな訳でアキトが出撃。
「何で俺が出ないといけないんだよ」
「今日のボクはオペレーターさんですから」
本当は、あれが「予知」通りジュンさんだったので、何となくアキトが行った方が良いと思ったんだ。

【エステバリス:テンカワ・アキト】

俺、コックなんだけどな……。
思わずそうぼやきつつも、敵に捕まったガイを救出する為に俺は出撃した。

「ごめん、ジュン君。やっぱり私ここから動けない。ここは私が私としていられる場所だから」
「ユリカ、やっぱりあいつがいいのか……」
何やらユリカとジュンが会話をしている。
話してる内容が何か噛み合ってないみたいだが。
今の内にガイを助けないとな。

が、いきなりジュンの話の矛先がこっちを向いた。
「テンカワ・アキト! 僕と勝負しろ!!」
何?!
「お前絶対勘違いしているだろ。ユリカと俺は何でもな……」
何でもない、そう言い掛けた瞬間、胸に鈍い痛みが走る。
くっ、何だよこれ。
胸をよぎった感情を振り払い俺は叫ぶ。
「だからってなんで俺とお前が戦わないといけないんだよ! 一緒に同じ艦に乗ってた仲間じゃないか!!」
「うるさい! 勝負だ!」

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

ジュンさんのデルフィニウムとアキトさんのエステバリスが格闘戦を始めました。
武器はあるのに格闘戦ですか……。
それはともかく、このままではアキト機、エネルギー供給フィールド圏外に出てしまいます。
なのに、ラズリさんからの報告が来ませんね。
と、思ったら。

「馬鹿ーーっ!!」
二人の間に割り込んだエステバリスが一機。
「ラズリさん、いつの間に?」
「職場放棄ですなぁ」
プロスさんはそんな事を言いましたが、ラズリさんはオペレーター兼パイロットですから一応問題無いのでは?

ラズリさんは、妙に思い詰めた表情で言いました。
「ボク、戦いで決着つけようとしているのを、ただ横で見ている事だけしかできないのかって思ったら、何だか苦しくなってきて。
 このまま見ているだけなんて何だかとても嫌なの。だから、割って入ります」
そのまま二人を見つめていた彼女でしたが、だんだんといつものふわっとした表情に戻り、口を開きました。
「それに、貴方達二人は、こんな風に戦う必要ないはずだから……ね?」
最後に女の私でも見とれてしまいそうな優しい笑顔を浮かべるラズリさん。
その優しい表情に見惚れでもしたのか戦闘が止まります。

が、そう言う感覚に無縁らしい熱血男が一人。
「この燃えるシチュエーションを邪魔するなんて、男らしくねーぞ!」
「ボクを何だと思ってるんだー!!」
その声と共にヤマダ機をナデシコへと蹴り飛ばすラズリ機。
ラズリさんは女性ですから、仕方ないですね。

【デルフィニウム:アオイ・ジュン】

僕とテンカワの勝負に割り込んできた彼女、テンカワ・ラズリ。
「さ、ミサイル来るからさっさと帰りましょう」
彼女は立ちはだかった敵を呼ぶんじゃなくて、何だかどこかに行っていた友人を連れ帰るような表情で言った。
「でも、僕は……」
言いよどむ僕に、彼女は当たり前の事を言うような口調でこんな事を言った。
「貴方はユリカ艦長の副官でしょう? 今、貴方の居るべき場所は其処ですよ」
驚く僕に、テンカワまでもこんな事を言ってきた。
「そうだよ。それに、それ以上の場所だって、まだ開いてるんだぜ」
「ナデシコなら、それが出来るって言うのか……?」
「というより、さっきのユリカ艦長の言葉から見ても、ナデシコじゃないと出来ないと思います」
そこで彼女は僕だけじゃなくて、テンカワの顔も見て、続けた。
「ユリカ艦長を護るのは。……ね?」
そうして先ほどの笑顔を見せた。
「「……う、うん」」
思わず頷いてしまう僕とテンカワ。

と、彼女の顔が何だかニヤリって感じの猫のような表情に変わる。
「でも、ユリカ艦長の事よく理解しないまま、今回みたいに迷惑掛けていちゃ駄目ですよ。
 それじゃ何時までたってもお友達のまま、それ以上の場所には行けませんよ」
くっ、お友達……。
「ラズリちゃん、それキツい」
引きつった顔をして声を掛けるテンカワに、言い返す彼女。
「だって、記憶喪失のボクが横で見ててわかる事を、幼なじみのジュンさん、わかってないんだよ。この位言いたくなるよ」
「……テンカワは、それをわかっているから、ユリカに好かれているって言うのか」
「んー、アキトは無意識でやっているみたい。だから質悪いんですけどね」
そう言った彼女の表情は、嬉しさとか誇らしさとか羨ましさとかが色々混じった実に複雑な表情だった。

「……テンカワ、彼女の言ってる事わかるか?」
「全然わからないよ……」
テンカワに聞いてみたが、返ってきたのは困りきったテンカワの表情。
その顔を見ながら思った。
まだ決着は付いてないんだな、って。

【シミュレーションルーム:テンカワ・ラズリ】

「だからどうして決めポーズとるの!」
「それは男のロマンだから……ぐああっ!」
戦闘終了後、ガイさんをシミュレーションでボコっていると、オモイカネから提督達が逃げたって報告が来た。
でもガイさんはここで生きている。
未来、変わったのかな?






【後書き:筆者】

第三話です。

前回の後書きは、「少し長い」後書きでは無い様なので、今回はこのぐらいにしてみました。

さて、今回の話ですが。
ラズリちゃんは偶然使えた「予知」能力を駆使してガイさん達を救いました、まる。
て、感じの話ですね、今回。
筆者としては、予知と思っていても話は転がるか、の確認の話でしたから予定通りですけど。
ですが、読者は少し欲求不満だったかもしれませんね。
まだ、筆力が足りないです。くっ……。

後、書いてて思ったんですが。
何故か、ジュン君せっかく見せ場を用意したのにただの嫉妬男に成り下がっちゃってて。
どうして君は脇役へ脇役へと移動したがりますか?

それはそれとして、ラズリ、大人っぽい時と子供っぽい時があって、人格安定してませんよね。
ムネタケを説得している時なんか、かなり別人っぽいと思います。
説得内容自体はかなり無茶な気がしますけど。
ま、「予知」なんて言えない以上、仕方ないのかもしれませんし、彼女の理由も気になったから、でしか有りませんから。
ムネタケ、考え直してなんかいないはず……ですよねぇ? いくら美少女にあんなお願いされたからって、大の男が……。

まぁそれはその内考えるとして、彼女、無くしたとはいえ、「記憶」に引きずられているんでしょうね。
筆者としては早くラズリとしての人格を形成して欲しいです。
これから色々経験してもらわないとなぁ……。

最後に、一応前話で頂いた代理人様の感想に対する返答です。

>やっぱり逆行ものだとガイって見せ場少ないですよねぇ(爆)

とりあえずホウメイガールズよりはあると思います(核爆)。

では。

 

 

代理人の感想

ラズリくん、傍から見ると情緒不安定にも見えますね〜(苦笑)。

ひょっとしたら実際にそうなのかもしれませんが、読者にもいまいちわからない訳でして(笑)。

 

ムネタケは現時点では「ちょいと引っかかった」程度の様ですが、

単純なアキトの方はTV版と比べてかなりの影響を受けている様で。(笑)

この時点ではユリカの事を本気で鬱陶しがってた様に見えましたからねぇ。

 

 

 

>取合えずホウメイガールズよりは

ぐはっ(爆)。