Action1000万ヒット記念SS
【ある食堂で】

 

「ありがとうございました!」

客の入りも一段落つき、俺は休憩する事にした。
店の隅に設置されているテレビを見るともなく見ていると、あの蜥蜴戦争の特集が始まった。
古傷が痛んだような気がして、俺はテレビを消した。

あれからもう5年か……。

この月で食堂を始めた頃、俺は木連の奴等がここを攻撃した時のとばっちりを受けて、大怪我したんだ。
つい、その傷跡を撫でていた。

ふと、その頃だけ居た青年の事を思い出した。

そいつは何でかわかんねぇが、向こうの展望公園で行き倒れていたんだ。
何でかあいつ、場所や日付を聞くと驚いていたな。

あいつはここに居候しつつ何やらネルガルの奴等と交渉を始めたが、それは上手く行ってなかったらしい。
「くそっ、あいつ等なんで信じてくれないんだよ!」
日に日にあいつがいらついて行くのがわかった。
そんなあいつに俺は食事の乗ったトレイを渡す。
「ほれ、食いな」
「今は、そんな気分じゃありませんよ」
「いいから何か食っとけ。腹が減ってると、碌な事考えねぇし、いざって時動けねぇぞ」
「……わかりました。そうします」
不機嫌な顔のままだったが、食べ始めるあいつ。
そうそう、人間たいていの事は飯が食えてりゃ何とかなるもんよ。

そしてあいつが来て二週間後、あの事件が起きた。
木星蜥蜴の襲撃で、俺は意識不明の大怪我をしてしまう。
意識を取り戻した時にはあいつは出て行った後で、娘の久美の奴が、あいつに酷い事を言ってしまったと悔やんでいたっけな。
私が酷い事を言った所為で、彼は料理人じゃなくパイロットを選んでしまったと。


店の扉が開いたので、俺は物思いを止めた。
「いらっしゃい!」
そこには、黒尽くめの服で顔まで黒いバイザーをした男と、桃色の髪の小さめな女の子が居た。
……変わった奴等だな。

俺の顔を見て、男が驚いた様な気がした。

「……親父、その傷は?」
やっぱり、その事か。
「ああ、こりゃ昔蜥蜴戦争でやられた傷よ。別に軍人やってた訳じゃなくて、とばっちりだったんだけどな」

「……そうか」
表情は見えないが、雰囲気が悪くなったのは感じた。
なんか、気にいらねぇ。

「だが俺は今ここで生きてて、ちゃんと料理人が出来てる。人間生きてりゃ何とかなるってことさ。
 人間万事塞翁が馬。明日は明日の風が吹く。禍福はあざなえる縄の如しってね」
そう言いつつ傷跡を叩く。

「……そうか」
さっきと同じ台詞。
だが、込められていた意味は全く正反対な気がした。
もしかしたらあのバイザーの下には、俺みたいに傷があるのかも知れねぇな。

「兄ちゃん、なにが有ったのかは知らねえけど、愚痴愚痴考えてばっかりじゃ良い事ねぇぞ。
 取り合えずなんか食いな。腹が減ってると、碌な事考えねぇし、いざって時動けねぇからな」
「……わかった。そうしよう」

男の食事をする姿が、何故かあいつにだぶって見えた。

「馳走になった。勘定を頼む」
「ああ、いらねぇよ。今回はつけにしてやる。
 お前さんがそのバイザーを取って、素顔で来られるようになったら払いに来てくれりゃ良い」
「何故だ」
表情は見えねぇが、流石に驚いたようだ。
「なんかお前さん、昔の知り合いに似てんだよ。
 そいつはいきなりやってきて、家に二週間だけ居候してたんだ。
 あんな時代にパイロットやってたせいか、死んじまったらしいんだが。
 俺はそいつに別れの言葉もやれなかったのが心残りでな。
 人間生きてりゃ何とかなるってぇのに」

「……そうか」
またも同じ台詞。
だが、そこには僅かに昔を懐かしむ様な雰囲気があった。

「またね」

その時、ずっと黙っていた少女が口を開く。
少女の言葉に驚く男。でも少女は言葉を続けた。

「きっとまた来る事が出来ると思うから。いつかはわからないけど」
一旦そこで言葉を止め、少女は男を見つめる。

「そうでしょう? ア……」
少女が男に呼びかけた名前は男が止めた所為で聞き取れなかった。
「おう、そうかい。じゃあ楽しみにしてるぜ」
言葉と共に少女の頭を撫でる。
僅かに頬を赤らめ、男の陰に隠れる少女。
それを見て、男の口元が緩んだ。

「ふふっ、ここに来てよかったと思いますよ。
 ここは、最初に俺が戦う事と向き合った所だったから、最後にここにも来てみたかっただけなのに」

そう言い残し、男は少女を連れ店を出て行く。

もしかしたら、あいつ……。

考え込みそうになったが、新しい客が入ってきたので、俺はそちらを優先した。

「いらっしゃい!!」






後書き。

1000万ヒット、おめでとうございます。

記念SS、B2Wがテーマですか。
いや、一緒に跳んだ月臣の方は考えた事があったんですけどね。
アキトの方は考えた事が無かったんで、ちょっと書いてみたくなったんです。

でも出来あがったのはこんな話。
これ、期間がずれているので、有りなのかちょっと心配なんですけど、一応B2Wがらみの話かなーと。
雪谷食堂でも良いじゃんというのは却下です(笑)。

最後に、管理人様、代理人様、Action関係者皆様方、皆様の壮健を祈ってこのSSを送ります。

それでは。

 


管理人の感想

yuaniさんからの投稿です。

うーん、こういう展開に持っていかれるとは思いませんでしたね。

いきなり5年後から始まるので、何事かと思いましたが(苦笑)

さり気なく自己主張をしていたラピスも良かった思います。

 


代理人の感想

中々綺麗なショートショートですね。

レギュレーションは微妙にぶっちぎってますが(爆)。

まぁ、面白いので可です(笑)。

 


別人28号さんの感想

なんと言うか・・・スレスレ?

B2Wに関係あるけどB2Wの期間ではない
確かにアキトにとっての転機ではあったのですから
アキトがこういう行動をとっていてもおかしくはないのですが



個人的には久美が出て来てない事が気になったり
お嫁にいっちゃったんでしょうかね?(爆


ゴールドアームさんの感想

反則だけどいい味出してますね。
小説になるかどうかが微妙なのがむしろ問題かと。
もう一捻りできればいいと思うんですが。
 
これからも頑張ってください。


龍志さんの感想

一言いいます。
時間軸が劇場版以降なので「B2W」の条件違反です(苦笑)
と、最大のタブーいった所で感想です。

正直、ひたすら感想つけにくいです(苦笑)
おっさんが立派な人物というのは分ったんですが「B2W」に何があったか全く分らないのが結構致命的ですねぇ…。

ええーと、とりあえず、条件を良く読んで分らない場合はきっちりと確認するようにしたほうがいいかと思いますよ。。


プロフェッサー圧縮inカーネギー・ホール(嘘)の日曜SS解説・特別版

はいどーも、プロフェッサー圧縮でございます(・・)
今回はAction1000万ヒット記念企画と言うことで、解説役にゲストをお招きしておりマス。
圧縮教授「よろしく」
ハイ、では作品の方を見てみましょう( ・・)/

「・・・これはまた、意外じゃな」
そーですねー、確かに数年後とは。
「まあ、その辺は余り野暮なことは言わんどこう」
そーですねー。
「しかしなんじゃな。どういう訳か、『大人』がナデシコの外ばかりにいる気がしてならんのじゃが」
まあ、若い船ですから。
「其処が良くもあり、悪くもありと云ったところかの」
そーですねー。

はい、では次の方どうぞー( ・・)/

 


日和見さんの感想

 ……えーと、レッドカード出します。

 と、これだけじゃアレなので、付け加えますと本企画は「2週間の間に、アキトはどんな体験をしたか?」が主眼なわけで、それが描かれていないのが非常に残念です。

 


皐月さんの感想

……どうにもあれだ。

この手の話を読むと、北辰あたり乱入して血湧き肉踊る展開にならないものかと考えてしまう。
誰とは言わないが、どこぞの管理人の影響。
ところで……これってB2Wの話じゃないような気がするんですが?