喪心の舞姫 外伝3
  幼き妖精と王子達




ルリ姉の生まれがわかった。
ピースランドとか言う国のお姫様だったそうだ。
自分の生まれにルリ姉が拘っていたのを知ったから、私は、もしかしたらそのまま帰ってこないんじゃないか、と心配で追いかけて来てしまった。

私はルリ姉みたいに、遺伝子上身元不明だからって気にしたりしない。
自分が、受精卵の時から人工子宮内で遺伝子を操作しつつ生まれたマシンチャイルドだからというのもある。
一応、受精卵の提供者はあの研究所の誰からしいんだけど、その時点で、私は調べるのを止めたの。
あの人達は私を見てなかった。
だったら、そんな人は家族じゃない。

私、知ってるもの。
当人同士が家族だと思えるのが、本当の家族って事。
「未来」で、イネスやエリナにそう言ったら、何故か妙に複雑な顔をされたけど。

だから私、もしルリ姉が悩んでいたら、そう言ってあげようと思ってた。
でも、心配はいらなかったみたい。

ルリ姉はこれからも私達と一緒。
とても、嬉しい。



「うわぁ……。凄いなぁ」
ぽかんと口を開けていたアキトが、呟いた。
ルリ姉の事が何とかなったので、私達はついでだからと、ピースランド城の中を観光していた時だった。
アキトは興味深げに、そこかしこにおいてある彫刻や、壁に掛かっている絵を見つめ出す。

「アキトは料理人なのに、何で美術品に興味を持つの?」
私にはその行動が不思議だったので、聞いてみた。

「料理人には芸術的センスも必要なんだよ。ラピスちゃん。
 料理は目でも楽しむ物だからね。
 同じ物でも、盛り付け方によって、全く違う料理になるんだ。
 簡単な物だと、オムライスの上にケチャップで絵を書くだけでも、変わった気がするよね。
 凄い物だと、和食の飾り包丁とか、お菓子の飴細工とか。
 彫刻家並、いいや、もしかしたらそれ以上かもしれないよ」

素敵な笑顔で嬉しそうに説明してくれるアキト。
まっすぐで、このアキトは、「未来」の「アキト」とぜんぜん違う。
この人が、あの「アキト」になっちゃうなんて。
「アキト」は凄く辛くて、悔しかったんだろう。
ラズ姉が、このアキトのために色々頑張るのもわかる気がする。


……でも私、「アキト」のぶっきらぼうで不器用な優しさも好き。
だから「アキト」にも会いたい。

会いたい理由は、寂しいから、それだけじゃない。
何でかわからないけど、返さなくちゃいけない物が有る気がするの。

よく思い出せないけど、私は「アキト」から何か受け取ったものが有る気がするの。
それは、絶対返さないといけない物なの。私が持ってちゃいけない物のはずなの。

……でも。

「未来」のその時の事を思い出せなくて、悲しくなってきた。


と、その時、どこからか音楽が聞こえてきた。

「あれ? 何の音だろう?」
アキトにも聞こえたのだろう、興味深げな顔で歩いて行く。

たどり着いた先は大きめのホール。そこでは、そっくりな顔の男の子達がダンスの練習をしていた。
ダンス教師だろうか、眼鏡を掛けたショートカットの女性の合図に合わせて、ステップを踏み、軽やかに踊っている。

「あら? どなたですか?」
彼女が私達に気づいて声を掛けてきた。
「俺達はルリちゃんの付き添いで……」
「ルリ姉が心配だったから、追いかけてきたの」
私達の言葉に、ダンス教師は軽く首を傾げた後、壁際の電話、お城の雰囲気に合わせてデザインは古めかしいけど、中身は高性能らしい電話を取リ、どこかに連絡した。
でも、連絡先の相手と少々話したら、納得した顔になってくれた。

「おいでになられたお嬢様はルリお嬢様お一人だけと聞いていたのですけど、違ったのですね」
言葉と共に、なにか作法にのっとっているらしい、綺麗な礼を見せる彼女。
「ようこそ、ラピスお嬢様」
「「「「「歓迎します、ラピスお姉様」」」」」
すぐさま、男の子達も声を合わせて礼をしてきた。
……つまり、この子達はルリ姉の弟達で、ここの王子様なんだ。

王子達が、目を輝かせて声を掛けてきた。
「お姉様は一人だけかと思ったら、二人も出来て、嬉しいです」
ラズ姉も居るから二人じゃなくて三人かも。
「後からお姉様ができる事って、そうないですから」
確かに後から姉が生まれる事はないけど。


「ラピスお嬢様も、踊ってみませんか?」
ダンス教師が、こんな事を言い出した。
「私、踊った事ない」
「大丈夫ですよ。ここは社交界の場ではないのですから、細かい事は気にしなくてもよろしいのです。
 音楽に身を任せて体を動かすだけでも楽しいですよ」
とりあえず基本のステップだけ教えてもらい、王子達と一緒に踊り始める。

音楽に合わせてぎこちなくステップを踏んでいると、王子の一人が私の手を取った。
「お姉様、ステップよりも、音楽に合わせて体全体を。ほら、いち、に、さん、って」
えっ、と思ったのも束の間、状況が変わった。

くるくると回りの景色が変わる。

……踊るのって、何だか楽しい。

この子達のリードが上手いんだろうけど、音楽に合わせて体が動くのが、気持ちいい。



音楽が止まり、踊り終わると、拍手が聞こえた。
「ラピスちゃん、凄く素敵だったよ。初めてとは思えないよ」
拍手していたのはアキト。

「それに、踊ってる間、凄く良い顔してたよ。ラピスちゃんのそんな顔、初めて見た」

ほめられた。
なんだかどきどきして、妙に頭に血が上って、もしかしたら耳とか赤くなってる気がする。
髪の毛のお陰で見えてないとは思うけど。

私が慣れない感覚に心の中で慌ててたら、アキトがなにやら思いついたような顔になり、ダンス教師に少し何か聞いた後、部屋を出ていった。
……どうしたんだろう?


アキトが出ていったら、王子が一人、私の前にひざまづき、手を差し出した。

「お姉様、今度は私と踊ってくれませんか」

それを見て、残りの王子達も一斉に私の前で同様の行動を取った。

私、軽い驚きと共に彼らを見てしまう。
男の子達がかしずいてるのを見回すと、何か不思議な感じ。
気持ち良いような、くすぐったいような。

……こういう事ができるのを、ましょうの女と言うんだと思った。
イネスが、そんな事を教えてくれた覚えがある。

「いい、ラピス。女は男を振りまわすぐらいがちょうど良いの。
 だから少しぐらい、アキト君にわがまま言っても良いのよ」

こんな感じで始まって、私がよくわからないって言ったら、いろいろ例を出して教えてくれたっけ。
でも、実践したら、「アキト」にはもうしないでくれって言われちゃって。
あの時は不思議なだけだったけど、今は「アキト」の行動がちょっとだけ可笑しく思える。
この子達も、あの時の「アキト」みたいになるのかな。

確かこういう時は、イネスに言われたのは、胸を張って、背筋をを伸ばして、エリナが時々やったように自信有り気に見下ろして。

「私の手を取るのは誰なの?」
こんな感じだったかな?

私と目が合った王子の一人が、何故か頬を赤らめつつ手を取る。
「私でよろしいですか、お姉様」
「ええ」
一言答え、口元を少し緩めると、より赤くなった気がした。
なんか、面白くて気持ち良い。
……ましょうの女って、ちょっと、良いかも。
そのうち、ハーリーにも試してみよう。



「皆、ちょっと休憩したらどうだい」
しばらくして、なにやら台座を押しながら、アキトが戻ってきた。

「ラピスちゃんが頑張ってたから後褒美。
 ちゃんと、一緒に踊ってくれた王子様達のもあるよ」
そう言いながら、アキトは台座の上に乗っていた何かを切り分け、私や王子達に手渡してきた。
「あ、これ……」
城下町で食べたあの美味しくない屋台のと同じ料理だ。

でも、アキトが作ったのは味がぜんぜん違った。
あの屋台の料理が、材料を千切って、纏めて乗せて、焼いただけだとすると、アキトのは、丁寧に切って、綺麗に重ねて、しっかり火を通したって雰囲気。

「アキト、すごい。あの屋台の料理がこんな風になるなんて」
私の言葉に、アキトが喜ぶ。
「ホウメイさんに、料理人は食べた料理の味を記憶し、再現、改良できる様にならなきゃ駄目だって言われててね。
 上手く行って良かったよ」

嬉しそうに微笑むアキト。
本当に、このアキトは料理が大好き。
しかもこんなびっくりさせる事をしてくれて。
未来の「アキト」とは違うけど、こっちのアキトも良いな、って思った。


「こんな物、初めて食べました」
「でも美味しいです」
王子達も嬉しそうな声を上げている。
きっと、こんな風に手で持って食べる料理なんて口にした事が無かったんだろう。

「私は辛い方が好きですけど、貴方の腕は確かなのですね。
 ラピス様も、お小さいのにお目が高いですね」
あのダンス教師も、料理を食べて笑顔になっている。

アキトの料理を食べてると、みんな笑顔になって、何だか幸せな雰囲気になる。
これってとっても素敵だと思う。

素敵な事が目の前にある時は、目いっぱい素敵な事を楽しもうって、ラズ姉やユリカなら言うかな。
だから、「アキト」の事は大切だけど、今はこっちを。

「どうしたの、ラピスちゃん?」
「なんでもない」

アキトが不思議そうに声を掛けてきたけど、誤魔化すように料理にかぶりつく。
口の中に美味しさが広がる。……嬉しい。
良く噛んで味わった後、飲みこむ。……心もお腹も幸せな気分。

やっぱり、ましょうの女の色気も良いけど、今はまだ、食い気の方が好きかな。


いつか「アキト」に会えたら、アキトの事や、こんな風に思ったって事、沢山話そう。









後書き。


第十八話でカットしたネタを使って再構成してみました。
なぜカットしたか、わかり易過ぎますね(苦笑)

最近ちょっと苛つく事があったので、まったりほのぼのしたい気分もあって。
ちょっとした小ネタであまりひねってないですが、存在証明って感じで。
まあ、ほのぼのだけだと外伝としてアレなので、軽く伏線台詞とかも混ぜつつ。
ラピスの「アキト」とアキトへの思いと、それでも年相応の女の子な部分を書いてみた話にしたつもりです。

なんか、自分の中の乙女心分、かなり使いこんだ気分ですね(///w///)

屋台の料理がどんな物かはしっかり書かないほうが良いかなと思ったので、書いてません。
描写をしっかり書くと雰囲気が足が地についた感じになりますよね。
今回は、オトメちっく(苦笑)なふわふわとした感覚を優先したかったもので(笑)

ですから、ピザでもハンバーガーでもクレープでもサンドイッチでもケバブでもお好み焼きでもたこ焼きでも、屋台で出来そうなら何でも良いです。
お好きな料理を想像してくださいませ。


それでは、次回は本編の方で。

 

 

 

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代理人の感想

あはははは、ラピスが可愛いですねぇ。

確かに乙女チックだわ、こりゃw

 

>姉が後から

でも兄が後からできることは時々ありますね(それは鉄腕アトム)。