「では、これより遺跡端末の適合実験を開始するよ」

「……うまくいくでしょうか?これまで何十件と行われた適合実験は一件を除いて全て失敗。他の実験体はことごとく分解、消滅。唯一の成功例もネルガルにより奪取され、ろくなデータも残っていません。まして今回は被検体が特殊です」

「その特殊ってところが今回の重要なところなのさ。A級ジャンパーを用いた実験ではこれ以上やってもおそらく無駄だ。唯一の成功例、その特殊性はA級ジャンパーってだけじゃ無い。我らが‘女神’との関係もあるのかもしれないけど、僕は他のところにも注目しているんだ。つまり、彼がパイロットでIFSにより形成された補助脳を持っていたってことさ」

「つまり、どういうことです?」

「いいかげん鈍いね、君も。重要なのは遺跡への親和性だけじゃなくIFS特性にも影響されるんじゃないかって言ってるんだよ。この推論が正しいなら、今までとは別のアプローチもできる。遺跡との親和性は遺伝子操作によりB級までなら上げられるならIFS特性の高い被検体を使えばいいのさ。マシンチャイルドは貴重だけどこれ一体って訳でもないからね。また手に入れることもできるさ」

「なら……遺跡端末制御、できるかもしれませんね」

「どうかと思うよ。遺跡端末自体‘女神’と遺跡の融合の際に偶然生じたものだ。本来遺跡は時間的にも不可変、不可分の存在さ。それから別れた端末と遺跡の間に今だリンクが存在しているのかどうかも解ってないからね。だからまずそれを確かめるのさ。この実験でね。」

「解りました。ではこれより術式に入ります」



 そんな会話をただ彼女は聞き流していた。実験はいつものことだ。もう辛いという感覚さえなくなってしまった。いや最初からそんなものは持っていなかった。彼女は生まれたときから実験体だったのだから、いつものことだと思っていた。
 だが、研究者達が言っていたように今回の実験は特別なものだった。結果彼女は遺跡端末に適合しこれまでの被検体のように分解、消滅こそ免れたものの、適合直後に体内のナノマシンの暴走を引き起こし昏睡状態に陥った。研究者達は原因を究明しようとしたが少なくともわかる範囲で変化は無く、結局、原因不明のまま培養槽の中を漂うことになった。数少ない遺跡端末と適合したサンプルとして。
 彼女の中で何が起こっていたのか把握できたものはそこにはいなかった。
 


契約

 
 同時期、アキトはシミュレーターの中にいた。体はもうほとんど動かない、それでもエステは動かせた。IFSからの情報が感じ取れる全て、それはある意味彼を強くしたのかもしれない。センサーを、レーダーを通してまるで目で見、耳で聞くように処理できるようになった。もうそれしか力を得る手段の無かったアキトは不眠不休でシミュレーターに篭っていた。そうなって既に1年、もはや月臣とさえ互角にやり合えるだけの技量を手にしていた。あくまで機動戦のみだったが……。
 そんな中、それは突然に起こった。全身のナノマシンが暴走、とっくの昔に失った痛覚がこのときだけは存在を強固に主張する。けっして珍しいことでは無いはずだった。何時ものそれなら精神力で押さえ込んできた。それができないなら戦場になど出れるものではない。集中力を乱すことなど許されない、彼が臨む戦場はそういう所だ。だが、今回のそれは何時ものとは違った。痛覚だけではない、視覚、聴覚、嗅覚あらゆる感覚が己の体とは別のものを伝えてくる。そして感覚だけでなく他の意識、思考が進入してきた時、とうとうアキトは意識を手放した。


 

 ネルガル月地下研究所、その一室には3人の人物が集まっていた。

「で、どうなんだい彼の様子は?」

 ネルガル会長、アカツキ・ナガレはアキトの主治医を勤める人者に尋ねた。

「完全に意識不明。どうも脳内のナノマシンが異常に活性化しているようなんだけど……。ある意味何時ものことだしね。少し様子を見るしかないわね」

 イネスは淡々と答えた。その目に不安は感じられない。

「やれやれ、やっと実戦に移ろうかと言うときに……彼もついてないね。今更だけどさ」

「そうでもないわ」

 嘆息しながら言ったアカツキにイネスは否定の言葉を返した。

「どういうことだい?」

「今のままでもエステでなら確かに戦える。でもそれだけよ。エステは目立ちすぎる。いくらボソンジャンプによる奇襲攻撃をかけられたとしてもサポートもなしでは死にに行くようなものよ。ユーチャリスの完成まであと半年は掛かる、オペーレーターもいない。むしろ今の状態は幸運とさえいえるかもしれないわ」

「でも意識不明なんだろう?」

 そんな状態を幸運と言えるのだろうか

「今の彼なら戦える限り戦おうとするわよ。止められやしないわ。もう意識が戻らないって訳でもなさそうだしね。いい休養になるわ」

 そうかと相槌をうちかけたアカツキは慌てて尋ねた。

「って、意識が戻るあてがあるのかい?」

「ええ、脳波を調査したら面白い結果が得られたの。昏睡状態のものではないわ。覚醒状態のものね。だからじきに目を覚ますわよ。保証するわ」

「だってさ、安心していいみたいだよ、エリナ君」

 イネス・フレサンジュの保証なら確かだ。アカツキは軽口をたたく余裕を取り戻すと、さっきから一言も発しない女性に声をかけた。

「………」

 だが、エリナは無言のままモニターに移るアキトの姿を凝視している。
 処置なしと肩をすくめるとアカツキはイネスに説明の続きを促した。

「で、何時頃になりそうだい? 彼の意識が戻るのは」

 それに対するイネスの答えは珍しくあいまいだった。

「それがよく解らないのよね。言ったでしょう。脳波は覚醒状態を示している。にもかかわらず彼は目覚めない。そこが問題なのよ」

「それでよく彼の覚醒を保証したね。何か根拠があるのかい?」

「これも脳波を調査してわかったんだけどね。彼は誰かと会話しているようなの。此処にはいない誰かとね。だから話が終わったらおきると思うわ」

「此処にはいない誰かって……一体誰だい?」

「不明。ただ推測はできるわ。彼の脳に直接情報を送れるようなものは他に無いもの。つまり……彼の脳に埋め込まれた‘遺跡のかけら’」

「じゃあ、まさか‘彼女’と……」

 遺跡本体と融合させられていると思われる‘彼女’かと思ったアカツキはそれならずっと話しているのもいいかもしれないと思ったが、それはイネスに否定された。

「それはないわ。おそらく奴等は彼女を眠らせた状態で遺跡と融合させたはず、そうじゃないと自分たちのイメージングが彼女の自意識に否定されてしまうもの。そして、眠っているものと目覚めているものの間には会話は成り立たないわ。おそらく奴等がまた行ったんでしょうね、遺跡端末制御実験を」

「えっと何だったけそれ」

 前にも聞かされたことはあるがあまりに長い説明だっため記憶があいまいだった。

「前にも説明したでしょ。まあいいけどね。まず奴等の目的はボソンジャンプの制御、そのために彼女を遺跡本体と融合させて翻訳機にしようとした。だけどねこれだけじゃ不十分なはずなの。融合させた翻訳機に自分たちのイメージを伝える方法がないの。脳波コントロールで彼女を直接落とす手も有るけど、それはそれなりに難しいはずよ。だけど‘遺跡のかけら’があるならもっと簡単な方法がある。本来遺跡は時空間的に不可変、不可分。かけらなんか存在しないはず、だけど‘遺跡のかけら’はアキト君の脳に埋め込まれて存在している。これがどれだけ重要なことか解る? つまり‘かけら’ではなく‘端末’なのよ。どうやって奴等がこれを遺跡本体から切り離したのかはわからないけど、これは確実に遺跡本体とリンクしていると考えられる。‘端末’をジャンパーに埋め込みイメージングを行わせる。そのイメージを‘端末’を通して翻訳者に送り込む、これでB級ジャンパーでもボソンジャンプを制御できるわ。事実、アキト君は制御できるでしょ。完全にイメージのみだから不安定な所はあるけどね。後は正確なナビゲーションさえあれば完璧ね。つまり…」

「なるほどね、その被験者と彼が会話しているそういうことか」

 これ以上長くなったらまた要点がわからなくなってしまう。イネスの説明をさえぎるように、アカツキは要点を確認する。

「そう、遺跡本体に中継された端末同士の感応と思われるわ。それが落ち着くまでは彼は目覚めないでしょうね。まあ、半年ってことは無いわ。おそらく一月か二月ってとこね」

「そんなにかかるのかい」

 会話に掛けるのには長い時間だ。

「正確には感応ね。互いの脳を有線でつないだようなものなのよ。あらゆる情報、思考が互いにやり取りされる。自我境界線の再設定と相手の認識にはそれくらいは掛かるわ」

「それって危険じゃないの!」

 今まで沈黙を守っていたエリナが叫ぶように言った。何時も冷静な彼女の姿は此処に無く、目元は微かに潤んでさえいる。

「まあね。失敗したら最悪廃人、互いを同一視し新たな統一自我を確立する可能性だってあるわよ」

 イネスはあくまで淡々と説明を続ける。それが気に障ったのか、さらに強い調子でエリナが叫んだ。

「じゃあ何でそんなに落ち着いてるのよ!」

「成功するからよ。彼の自我がどれだけ強いか、彼の思いがどれだけのものか、それを一番知っているのは貴方じゃない? エリナ」

「………」 

 見返す瞳にはわずかの迷いも無くただ信頼だけを乗せてイネスが告げる。エリナは言い返すことができず沈黙した。

「ならとりあえず問題はその被験者の確保かな。後、残っているなら遺跡端末も抑えておかないとね」

 停滞した雰囲気を変えるようにアカツキが問題点を提示した。奴等にボソンジャンプを制御させる訳にはいかない。なんとしてもその被験者の身柄は抑える必要がある。可能なら端末の切り離し方を封印し、残った端末も抑えておかなければならない。

「端末については抑えるに越したことはないけどそれほど気にする必要は無いわ。アキト君を救出して1年これまで何も無かったってことは端末との適合にもかなりの制約があるはず、そうそう成功はしないでしょうから。端末の数自体もそんなにたくさん在るとは思えない。ただ、今回の被験者は絶対に抑える必要があるでしょうね。昏睡状態の被験者にはイメージングは行えないけど、目覚めたなら必ず次の段階を目指すだろうから」

 イネスも同意した。それは確かに必要なことだったから。

「プロス君に連絡してNSSを待機させておいてもらおう。彼が目覚めたら相手の被験者がどこにいるかもわかるはずだ。それとサレナを準備しておいて、彼が目覚めたら即NSSを展開、そこに彼にボソンジャンプで強襲を掛けてもらって相手が状況を認識する前に終わらせる。これでいいはずだ」

「目覚めてすぐ彼を戦わせるおつもりですか?」

 一応非難の形をとってはいるが力無く確認するようにエリナが問う。

「解っているんだろう。戦わせると言うより止めるのは不可能だよ。自分と同じ実験をされ、同じ境遇に陥ったものを彼が放置するはずが無い。それならサポートをつけた計画を立てておくほうがよほど安全さ。何なら賭けるかい? サポートなしでも彼が単身で救助に向かうほうに全財産掛けてもいいよ」

 アカツキの全財産は異常に大きいがそれでもこの賭けに乗るものはいなかった。この場の誰もがその言葉に納得していたから。結局その日の会談はそれで終わり彼が目覚めるのを待つことになった。



 彼女は困惑していた。いったいこれはどういう実験だろう。電子の海に潜ったときと似たような感覚。自我境界線があいまいになるが、慌てて再構築する。このあたりは慣れたものだった。とりあえず何時もするように周りを見渡すと幾つかのデータが見つかった。なんとなく開いてみる。それは記憶だった。一人の男の生きてきた証。特にすることも無いので彼女はそれを見ていた。いつしか魅入られたかのようにその記憶を見つづけているのに気づくことも無く。

 
 自分が誰なのか解らなくなる。そんな経験をするとは思わなかった。
 時間の感覚も既に無い。
 一体此処はどこで、自分は誰で、何をするためにいるのか?
 その疑問が脳裏をよぎったとき彼は彼としてそこにいた。此処がどこでも関係ない。自分が誰かも。ただ、何をするためかは解っている。これだけは忘れない。忘れることなどできない。奴等に復讐し、ユリカを奪還し、同胞の仇を取る。そして、その全てを義妹を巻き込むことなく終わらせる。そのためだけに自分は死者となってもまだ存在しているのだから。だからこんなところに何時までもいるわけには行かない。自分の力はまだ足りない。立ち止まっている暇など無いのだ。奴の喉笛を噛み千切るだけの力を得るには、自分の牙をより鋭利に研ぎ澄まさねばならない。触れるもの全てを切り刻むほどにまで……


 どれくらいその記憶を見続けたのか解らなくなってきた頃に、突然変化がおきた。データがリンクし、人格が組みあがる。それまで自分しかいなかった空間にもう一つの意識が立ち上がっていく。その様子を彼女はただ見守っていた。彼女が干渉したならそれは失敗に終わっただろう。あるいは変質したかもしれない。しかし、彼女は何もしなかった。ただ待っていた。彼が目覚めるのを。


 そして二つの意識が互いを認識した。彼女のほうは冷静だったが、アキトのほうはそうはいかなかった。それはそうだろう、いまだ記憶の共有化は解かれていない。自我の認識と同時に、自分のものではない記憶が流れ込んできたのだ。冷静でなどいられるはずが無い。何とか冷静さを取り戻し、自分の他に存在するもう一つの意識に問いかけを行えるようになったのは、互いの記憶をあらかた読み取り終えた後だった。
 
<…君は……誰だ>

 最初の一言はありきたりのものだったが、それ故に間が抜けてもいた。

<もう、知っているはず。私に、名前なんて無い>

 彼女の答えたとおりだった。アキトは既に知っていた。互いのことは既に解っている。後は意志の問題だった。その確認だけでいい。

<助けを、望むか?>

 ただそれだけを尋ねる。その答えさえ聞けば後は行動するだけだ。

<私には何も無い。何も返せない。それも、解っているはず>

 彼女はただ淡々と、感情の感じられない声で答えを返す。

<必要ない。君が俺と同じだというだけで俺が動くには十分だ。それも解っているだろう?>

 即座に答えたアキトに彼女はわずかの沈黙の後答えた。

<………なら、助けを。私を此処から別の所に>

 どうしてそう答えたのかは彼女にも解らなかった。今まで辛いと思ったことなど無かったのに。彼の記憶を見て影響を受けたのかもしれない。どうしようもなく此処から出たかった。

<解ったすぐに行く。それまで覚醒はするな。君が覚醒したら、奴らはまた実験を開始するはず。少しの間でいい、奴等に気付かれるな>

<解った>

意思の確認はそれで終わった。



 どんなに警戒を強めていても所詮研究機関は研究機関。情報の漏洩には鉄壁の体制を敷いていても戦闘力などあるわけもない。クリムゾン極秘研究所は漆黒の機動兵器の突然の強襲に抗う術は無かった。易々と内部への進入を許し、施設の大半を破壊し尽くされた。全ては極僅かの間に行われ、クリムゾンの機動部隊が警報で駆けつけたときそこには何も残されていなかった。



 そして、ネルガルの月地下秘密ドッグにサレナが虹色の光と共に帰還した。それをアカツキ達と待っていたエリナはほっと安堵のため息をつくと言った。

「どうやら無事に成功したみたいね」

「プロス君からも報告が在ったよ。研究データの確保も問題ないそうだ」

「当初の目的は完全に達成できたということね」

 それに答えるアカツキとイネスの声にも安堵が感じられた。何しろ約一ヶ月の眠りから目覚めてすぐの作戦行動だ。不測の事態も考えられただけに安堵も大きい。しかし、次の瞬間ブラックサレナから小柄な少女を抱えてアキトが降りてきたのを見て、3人は驚愕して目を見開くことになった。彼は既に自力では歩くことすらできなかったはずだというのに……
 そんな3人の様子にはお構いなしにアキトはアカツキに作戦の成功を報告する。

「作戦は成功だ。特に抵抗らしい抵抗も無かった。施設は完全に破壊。データも回収した」

「………」

「どうした?」

 黙りこんだアカツキにアキトが何時もと変わらない様子で尋ねる。それを聞いてアカツキはようやく自失から立ち直った。

「ああ、作戦の成功はプロス君からも報告を受けている。ご苦労だったね。ところで彼女が例の?」

 視線をアキトに抱かれたままの少女に向ける。薄桃の髪に金色の瞳。それは遺伝子改造の傷跡だった。おそらくはマシンチャイルド。あの忌まわしき研究の数少ない生き残り。沸きあがってきた怒りを無理やり押し殺して平静を保つ。このあたりは慣れたものだった。これができなけば会長などやれはしない。本当なら怒りを感じることすらないたぐいのものだ。自分は十年近くたってもまだそこまでは悟りきれないが、隠すことならできる。そのために被った仮面は自分でも気付かぬうちに定着してしまった。今では自分の本質となっている。社内で軽薄と陰口をたたかれているのを知っていても改められはしない。
 そんなことを思い返しているとアキトから肯定の返事が返ってきた。
 
「ああ」

「他の被検者は?」

「……生き残っていたのは彼女だけだ」

 静かな声だったがそれに込められた怒りは計り知れない。一瞬の沈黙がそれを物語っていた。
 思わず声を無くす。沈黙を破ったのはエリナだった。

「それよりっ!アキト君、貴方その体いったい……」

 それが彼女にとって第一の疑問だった。激しく動揺しながら問い掛ける。それはイネスも同様だったようだが彼女は何とか冷静さを保った。

「そうね。作戦前は一人でサレナに乗ることもできなかった貴方がこうして立っている。貴方の治療責任者としては何があったのかぜひ知りたいわ」

「それについては後で説明する。とりあえず、彼女を休ませてやってくれ。俺も少し休む。3時間後に会議室で」

 アキトの言葉ももっともだったのでその場はいったん解散となった。ただ、少女がアキトの側を離れたがらず結局同室で休ませるまでは一騒動あったりはしたが。

 

 3時間後会議室にはアカツキ達3人とアキト、そしてまだ名前も知らされない少女が集まった。その前にアキトと少女にはイネスが簡単な診察を行った。また、データの分析も彼女が行った。よってその結果報告のためイネスが口火を切ったのは当然だったろう。

「まず、さっきの診察の結果を報告するわね。彼女の方は問題も無いわ。遺跡端末以外にも、奴らの実験でナノマシンの投与を受けているようだけど、さすがマシンチャイルドね。無意識のうちに自分で制御しているみたい。遺跡原産の働きもわかっていないナノマシンだから保証はできないけどおそらく大丈夫だと思うわ。一般的な面でも問題なし。肉体の損傷も疾患も無いわ」

「アキト君のほうは?」

エリナが勤めて冷静に尋ねる。

「それが解らないのよね。簡単な診察の結果だけど今までどうやっても直せなかった感覚がいくらか戻っているのよ。まず視覚と聴覚についてはほとんど常人並にまで戻ってるわ」

「それは朗報だね。他の感覚は?」

 アカツキが確認する。重要なのは‘もう一つの感覚’だった。それはかってのアキトを象徴するものだったから。今更彼が止められるとは思わないが一つの救いにはなる。

「残念ながらだめのようね。嗅覚と触覚はかろうじて僅かに回復してるけど……味覚は駄目ね」

「……原因は?」

 エリナが悲嘆を隠し切れない声で言った。最も戻って欲しかったものが駄目だったのだから当然だろう。

「私には不明。ただなんで味覚だけが駄目なのかは想像できるわ。味覚は舌の味らいから得られる情報によってのみ構成される感覚じゃない。嗅覚や、口の中の温感や触感つまり触覚によっても構成される。その二つが大きく減退したのではバランスが崩れてしまう。そのせいでしょうね」

 イネスの説明にも力がない。一番冷静なのはアキトだった。

「かまわないさ。今の俺には必要なものじゃない。無くてもエステでなら戦えるし、対人戦でも味覚は必要ない。痛覚が鈍いのはありがたいぐらいだ」

「そうか」

 アカツキが嘆息しつつ言った。やはり止められない。解っていたことだった。

「対人戦もする気かい?」

「ああ、おそらく必要になる」

 必要だろう。間違いなく。彼は狩人であるだけでなく、奴等にとっては獲物でも在るのだから

「ゴート君と月臣君に連絡しておくよ。彼らなら問題ないだろう?」

「ああ、頼む」

「ただ対人戦については君は完全な素人だ。奴等に対抗できるまでとなると生半可じゃ無理だよ」

「解っているさ」

 そう、アカツキにも解っていた。おそらく彼は身に付ける。対人戦でも奴等に対抗できるだけの牙を。人の執念がもつ力はこの一年で見せ付けられていた。それを奴等に思い知らせるまで彼は止まらない。

「話を本題に戻しましょ。彼の感覚が戻ったのは何故?」

エリナが振り切るかのように話を戻す。彼女にも解ってはいるが、止めたいという思いは彼女のほうが強いのだろう。止まらないアキトを見る彼女の目には隠し切れない悲しみが宿っている。

「いったでしょ私には解らないわ。ただ推測が一つある。アキト君、貴方彼女とリンクしてない?」

 イネスがほとんど確信している様子で尋ねた。

「ああ、彼女のおかげだ。今もつながっている」

「なるほどね」

「どういうこと?」

 一人で納得したイネスをエリナが咎めた。

「さっき言ったでしょ。彼女は無意識に自分の体内のナノマシンを制御してるって。それと同じように彼女は端末同士のリンクを通して彼の体内のナノマシンをも制御してる。嗅覚と触覚が弱いのは彼女の経験が少ない所為かしら」

「おそらくな」

「だから一人で納得しないで説明してよ」

 エリナが少し苛ついて言った。

「そのままよ。彼女は完全な実験体。培養槽の中とマシンチャイルド故の電子の海の中にしか存在したことが無かったんでしょうね。そんな中じゃ感覚も発達しないわ。特に嗅覚は培養液の匂いしか感じられないはずだし、触覚も似たようなものだったんでしょうね。奴らの実験で苦痛を与えられることが無かったって事だから、これはむしろいい事かしら」

「でも彼女の感覚は在るんでしょう」

「人の感覚は経験によるわ。個人個人で感じるものは微妙に異なるのよ。彼女は自分の感覚は無意識にナノマシンのノイズを補正できるけど、アキト君の感覚はそうじゃない。意識して補正してるんでしょうね。違う?」

「その通りだ。今でも彼女が補正を止めたら俺はまた動けなくなるだろうな」

 イネスの問いをアキトが肯定する。要はエステの操縦に近い。レーダーやセンサーの変わりに自分の眼や耳を使い、システムの変わりに彼女を通して情報を受け取っている。

「だからこそ、その補正にも彼女の経験が作用する。自分が使い慣れない言語を他の言語に訳す事なんてできない。そういうことよ」

「解ったわ」
 
 ようやくエリナも納得する。一方、アカツキは黙って何か考え込んでいる。その表情はかなり厳しい。それとはお構いなしにイネスは説明の続きを開始した。

「次の課題に移るわよ。今回の作戦の結果から得られたデータの分析した結果解ったことが幾つか在るわ。
まず、今回の作戦のもう一つの目標だったほかの遺跡端末について」

 話題を変えることを確認するかのようにイネスが全員を見回した。頷きが帰ってくる。ただ薄桃の髪の少女だけは何の反応も返さず金の瞳でアキトを見つめていた。
 イネスが続ける。

「遺跡端末の分離方法はどうやら奴らにもわからないみたいね。偶然に得られたものみたい……」

 そこでいったん区切って思いきったように続ける。

「……‘彼女’と遺跡本体の融合実験の時にね」

 その瞬間に感じられた鬼気は部屋の温度を一気に下げた。その灼熱の冷気に全てが凍りつく。その中心はただ沈黙を保っていた。瞳に‘闇’を宿らせて……

「……続けていいかしら」

「……ああ」

 冷静に聞こえるその声には誰にでもわかるほどの激情が込められていた。

「生成した端末の数は二つ。つまり、今ここにあるので全部よ。もう一度彼女を分離して再融合でも行わない限り手に入れることはできないでしょうね。そして、奴らがそのリスクを犯す可能性はほとんど無い。再融合に失敗すれば奴等は跳躍を制御する方法を完全に失うことになるからね。少なくとも貴方達が奴らの手に落ちない限り遺跡端末による跳躍制御は奴らにはできないわ」

「それは逆に言ったら……」

「そう、アキト君達さえ手に入れれば跳躍制御ができる、と奴等は考えるでしょうね」

 それはアキトの戦いがより熾烈になることを意味する。遺跡端末を取り込み覚醒したジャンパー、それには組織の全力をかける価値さえあるのだ。敵の手に渡しておけるものではない。最悪でも抹殺する必要がある。だがそれでもなおアキトは笑った。獰猛に。

「好都合だ。いくらネルガルの情報網でも完全に潜伏されたら追いきれない。そこに奴等から仕掛けてきてくれるなら足取りは掴める。それを遡って殲滅してやるさ」

 アキトの言葉は後に実証される。実行者たる‘外道’こそ逃したものの、其処からたどって殲滅された関連施設やサポートを行う組織、人材は火星の後継者達にかなり大きな損害を与える。その損害の大きさゆえ彼等の目はアキト達にのみ注がれ、‘死亡したA級ジャンパー’イネス・フレサンジュの存在を見落とす事となる。そして、彼女によって火星に送られた存在が彼らの息の根を止めることとなる。今の時点ではまだ誰も知る由の無い事だった。
 
「もう一つ問題があるの貴方達に埋め込まれた遺跡端末はゆっくりと貴方達と融合している。‘彼女’と同じようにね。ただ彼女と貴方達の間には違いがある。彼女の場合は‘彼女が’遺跡に‘取り込まれる’形で進行している。だからこそ完全に取り込まれる前に分離できれば、彼女は人として生きていけるわ。取り込まれてしまった部分は戻らないからどれだけもつかは解らないけどね。融合している時間が短ければ短いほど彼女の余命は長くなる。何度も説明したわよね」

 それにアキトは頷く。だからこそ時間さえもが彼の敵となったのだから。

「でも貴方達の場合は違う。貴方達の場合、‘貴方達’が遺跡端末を‘取り込む’形で進行している。既に核と思われるものは貴方達に取り込まれてしまっているわ。もう分離は不可能よ。今は脳の一部と融合しているだけだけど次第に脳から全身の神経系、そして体細胞にまで及んでくるはず。そのとき貴方達がどうなるのか、私には解らないわ。其処に至ったとき初めて他の実験体のように分解、消滅するのか、それともその状態を保ちつづけるのか、全く異なるものへと変化するのか、そのときが来てみないと解らない」

 イネスは今日最も沈痛な表情で告げた。アキトはほんの僅かに動揺したようだがすぐに落ち着きを取り戻して言った。

「それにはどれくらいかかる」

「奴らの実験の影響もあるからね。進行速度から考えて貴方が2年、そしてこの少女が6年と言った所だと思うわ」

「そうか。なら問題ないだろう俺のほうの状態を見極めて、それに沿った治療を彼女にしてやってくれ」

 その声には何の動揺も無かった。それまでには既に奴等との決着はついてるはずだったから。

「解ったわ。とりあえずその方針で進めるわ。でも、私は貴方達がそのままで在れるように全力を尽くすからね。それが貴方の主治医としての私の責任よ」

「好きにしろ」

 言葉はそっけなかったが、アキトの表情が一瞬柔らかいものに変わったのにイネスは気付いただろうか?
それはかってのものとは違っても明らかに微笑みと呼ばれるものだった。

「じゃあ、残った問題は一つだけだね」

 沈黙を守っていたアカツキが説明が終わったのを感じて話し出した。表情は変わらずに厳しい。

「まだ、なにかあったっけ」

 イネスが首を傾げるようにして思考をめぐらす。

「有るわ。それも最大の問題がね。」

 エリナもまたアカツキと同じ思いを抱いていたのだろう。真剣な眼差しでそれを肯定する。

「彼女のことだよ」
「彼女のことよ」

 二人の声が重なった。アキトの傍らの少女に目を向ける。

 アカツキが続ける。

「アキト君はもう止まらないし、止めるつもりもない。それはいい。だが、彼女のことは別だ。今までの話を聞く限り彼女は明らかに奴らの標的となっている、彼女には保護が必要だ。さらに、アキト君が奴等と戦い続けるには彼女の協力が必要不可欠だ。対人戦闘が想定される以上、以前のように動けなくなることはできないし、機動戦においてもユーチャリスを扱えるのはルリ君を除けば、おそらく彼女だけだ。つまりアキト君、君の‘戦い’に彼女を巻き込むことがどうしても必要になる。君のためにも、彼女のためにもね。だけど、完全に実験体として生きてきた彼女は奴等への恨みをそれほど感じているようには思えない。そんな少女を君の戦いに巻き込み、その手を血で汚させることが果たして君にできるのかい? ルリ君を巻き込むことだけはしないと誓った君に」
 
 偽りは許さないと強い瞳でアカツキがアキトを睨みつける。その真意をも見透かすように。
 果たしてアキトは沈黙を保ち拳を握り締める。その拳からは血が滴り落ちていた。
 エリナとイネスも真剣な瞳でアキトを見つめている。
 痛いほどの沈黙がその場を包んだ。

「かまわない」

 その沈黙を破ったのは今まで一言たりとも話さなかった少女。

「もともと私には何も無かった。だから確かにあの人達を恨んでるわけじゃない。でも私は今は持っているものが有る。アキトの記憶、アキトの意志。それを無くさない為にならどんなことでもわたしはできる。それで、それだけで私はいい」

 少女が続けた後にはまた沈黙が残った。誰も少女の思いに口をはさめない。はさめるのは一人しかいなかった。

「それだけで、いいのか?」

アキトが静かに尋ねる。

「いい、でも……」

「でも?」

「もう一つほしいものが私には有る。それを……くれる?」

 おずおずと少女が切り出したその問いにアキトは即座に答えた。

「俺が与えられるものならどんなものでも」

 その答えに少女は自分の願いを告げた。

「私には名前が無い。今までは気にもしなかった。だけど……今はそれが無性に寂しい。だから私に名前を頂戴。実験体ではなく私が人として生きていく名を」

 アキトは暫し黙考し、ただ静かにその名を告げた。

「……ラピス。ラピス・ラズリ。瑠璃の輝石のその別名。その名を君に送ろう。俺が……守るものの名として」

 その名にはどんな思いが込められていたのか。義妹への思いか、それとも守護の誓いか、あるいはその全てか、それは彼にしか解らない。いや、彼にも解らなかった。ただ、この少女にはこの名がふさわしい、そう思ったのだ。それだけだった。名前自体には意味など無い。だが、その人の名を呼ぶ時、あるいは呼ばれる時、其処には確かに意味が生じる。それをこれから教えてやればいい。そう、思ったのだ。

 少女は自分に与えられた名を口にして、そして、自分の意志で初めての決意をこの場に示す。

「ラピス。ラピス・ラズリ。それが私の名前。アキトが私にくれた名前。アキトが私をこの名で呼んでくれる限り、私は貴方の目になり、耳になる。手となり、足となる。そして、貴方の振るう剣となり、貴方を守る盾となる。それが私の、ラピス・ラズリの生まれて初めての誓い、決意。私が自分でこの名を名乗る限り、私はこの誓いをたがえない。私が私である限りこの誓約は破らない」

「君がその名を名乗る限り、俺は君を守ろう。君の傍らでその名を呼ぼう。それが、これから君を血塗られた戦いに引き込む俺が君にできる唯一の誓約だ」

 少女の誓約にアキトもまた己の誓約で返す。それを他の3人はただ見つめていた。

(これは‘契約’だ。‘闇の皇子’と‘闇の妖精’の‘契約’。)

 アカツキはそう思った。

(傷ついた皇子は名前の無い妖精に名を与え、名前を与えられた妖精は皇子の力となり、その傷を癒す、か。まるで御伽話だね。でも……悪くない。きっとこの契約は守られる。僕等3人は見届け人って所か現実って奴も結構洒落た真似をしてくれるもんだねえ)

 そう、思った。



 2年後、火星軌道上。ナデシコC先行試験艦、実験機動戦艦ユーチャリス艦橋。
 其処には二つの人影があった。漆黒に身を包んだ青年と薄桃の髪に金の瞳の少女。
 青年は艦橋から見える火星を見つめ、少女はその青年を見つめていた。

「これで……終わりか」

 そう、青年が呟く。だが、少女はその言葉に否定の言葉を返した。

「終わらない。私はまだラピス・ラズリだから」

 青年は苦笑して返す。

「そうだったな。ラピスがその名を名乗る限り、俺はラピスの傍らにいる。そういう約束だったな」

 己に誓った誓約は全て果たした。少女との物とたった一つ守れなかった物を除いて。
 義妹を巻き込んでしまった。自分の戦いに。そして、知らせてしまった。自分の存在を。あの子はこれから自分を追うだろう。義姉のために、己のために、そして自分のために。誰が止めても無駄だろう。血の繋がりの無いあの妹は妙な所で自分に似ているから。そう、あの子は紛れも無く自分の家族だから。

「これからどうするの?」

「いったんは月に帰るさ。サレナも直さないといけないしな」

「そのあとは?」

 そのあとは、どうするか?
 アキトは両目を閉じて思いにひたる。
 ラピスを伴い家族のもとに帰る。一瞬そんな夢が脳裏をよぎった。夢だ。実現することは決して無い夢。自分の存在は何よりも大切な家族から光の下で生きる権利を奪ってしまうから。自分が戻れば、義妹達は自分を守るために戦おうとするだろうから。たとえ世界を相手にしても。自分がそうしたように。だが、それは自分の役目だ。だから、アキトはこう答えた。

「戦うさ、また。火星の後継者の残党と、ボソンジャンプを制御するために非道を行う全てのものと、二度とこんな悲劇を生まないように。俺の家族と俺自身のために。ユリカはA級ジャンパーだ。ルリちゃんもマシンチャイルドだ。また同じようなことがおきれば真っ先に狙われることになるだろうから。そんなことはさせない。決して、させない。テンカワ・アキトの名に誓って」

「なら、私もアキトと共に戦う。アキトがくれたラピス・ラズリの名に誓った誓約はまだ生きているから」

 そう、もう一つまだ果たされない。まだ生きている誓約がアキトには残っている。
 自らの半身と誓った誓約が。

「ああ、ラピスがその名を名乗る限り、俺はラピスと共に在る。どうやら遺跡の端末はイネスが願った通りの結果を俺にもたらすようだから」

「それは、私にもだよ。アキト」

 そう、あれから2年。アキトはアキトのままで此処にいる。そして、おそらくはこれからも今のまま在り続けるだろう。ラピスも4年後にはその成長と老いを止めるだろう。アキトの直勘がそう告げている。人ならぬ身となって戦場を渡り歩いていくことになるのだと。罪の報いは永遠。それがどれほど恐ろしい物かはそのうち嫌でも味わうことになるだろう。だが、望む所だった。意志尽きるまで終わらぬ煉獄を戦い続けて生きていこう。人として。テンカワ・アキトとして。共にはあれぬ家族のために、己の半身との誓いのために。ラピス・ラズリがその名を名乗る限り。

「‘妖精’と‘皇子’が交わした‘契約’は、自ら破らぬ限り、決して破れる事は無い」

 そう言っていたのはアカツキだった。それを思い出して苦笑すると、アキトは目を見開いてラピスに告げた。

「ラピス。月に帰還する。ジャンプフィールド展開。シークエンス開始」

「了解。アキト」

 数瞬後火星軌道上からユーチャリスは虹色の光を残して消えた。




 ある噂がある。
 2度の乱の後、火星の後継者の残党はことごとく姿を消した。
 それは‘闇’に飲まれたからだと
 幾つもの組織が研究機関が人体実験に手を染めた直後に壊滅させられた。
 それもまた‘闇’の怒りをかったからだと
 あくまで噂だ。
 だが、その噂は、二百年の後、ネルガルのフレサンジュ研究所が人体実験を伴わずにボソンジャンプの制御を達成するまで、二百年にわたって囁かれ続けたという。

後書き

 第2作になります。
 前作の3倍にまで膨れ上がりました。拙き長文をお読みくださってありがとうございます。
 前作‘奇跡’と関連付けてあります。そのために膨れ上がってしまった所も在るんですが、何とか収まりました。できれば、前作も読んでみて下さい。

 まず、謝辞を。
 今作の遺跡端末の設定はゴールドアームさんの「再び」にでてくる「生体置換ナノマシン」の設定を私が自分流にアレンジしたものです。生体置換が完全に終わったらそのときの状態を維持しつづけると言う設定です。
 ゴールドアームさん。快く設定の使用を許可していただきありがとうございました。

 次に謝罪を。
 もともとROMだった私ですので他の皆さんのSSの影響はどこか受けていますが、今回意図して使用したセリフがあります。ラピスの剣になり、盾になるのセリフです。失礼なことにどこで読んだのか忘れてしまったんですが、妙に心の中に残っていたセリフです。ラピスがこのセリフを言うシーンを自分で書いてみたかったと言うのが創作動機の一つとなりました。許可を取ろうにもできなかったのでこの場にて謝罪させていただきます。お心当たりのある方はメールにてお叱りください。改めて謝罪させていただきます。

 今作は、アキトとラピスの話です。
 書きたかったのは‘契約’のシーンです。このシーンを目指して書き進めていったんですが幾つか計算違いが生じました。
 メインの二人が無口な所為か、立会人の3人のうちアカツキとイネスが、かってに話しだし止まらなくなったんです。特に、イネス。説明を始めたら作者の私が止めようとしても止まらないんです。際限なく説明を続けて容量を増やしたあげく設定を幾つか作り出してくれました。新米の私の手におえるキャラではなかったようです。恐るべし、イネス・フレサンジュ(笑)
 エリナの影が意図したのよりも薄くなったのもイネスの所為です。最初は3人均等に動かすつもりだったんですけどね。アカツキは締めるところは締めさせられたんですが……。エリナは今作では感情的になる役割を担っていたんですが、そういうシーンも少なかったので…。もう少し動かしたかったですね。
 何とか狙いのシーンにたどり着いたので一応満足しています。もう少し削ったほうがよかったような気もしますが、せっかく書いた文が惜しくなって残してしまいました。キャラがかってに話した分、会話が情景に比して多くなりすぎてもいます。反省点を挙げたらきりがありません。批判、批評等ありましたら御遠慮なく。
 
 それではこのあたりで、乱文失礼いたしました。










 ゴールドアームの感想。


 ゴールドアームです。
 いや、圧倒されました。
 実に『おもしろい』SSを読ませていただきました。

 原作では描かれないアキトとラピスの関係を、見事に補完しています。
 こういうのが二次創作の『キモ』ですな。
 動かなかったエリナさんは気にしなくても良いかと。彼女は今回のメインテーマというかメインストリームに入っていませんから。
 むしろ、話の流れそのものがイネスさんを選んでエリナさんは軽くしたと見るべきでしょう。



 設定その他に関しても、きちんと収まるものが収まるべきところに収まっています。
 前作とのリンクも見事ですし。



 基本的に見て今回の話には、『破綻』がありません。短編として見事に完成しています。
 批判的なことを口にするとすれば、それはただ一つ。
 内容ではなく、『書式』に関することだけです。

 申し訳ありませんが、今回、句読点に関して多少手直しをさせていただきました。


 点と丸は統一しましょう。「,」と「。」を組み合わせて使うのは間違いです。
 「,」を「、」に変換しました。

 会話の末尾、“」”の前には読点を入れません。何カ所か入っていたので除去しました。

 文の流れからして、明らかに読点を入れるべきところ数カ所に読点を補いました。


 以上3点を校正させていただきました。勝手ながらご了承ください。



 それでは、次回作を楽しみにお待ちしております。がんばってください。