月ネルガル極秘施設。
 ネルガルの技術の粋を集めて建設されたその施設は役目を終えようとしていた。
 目的は果たし、それを成し遂げた主も逝った。主の戦いに常に従っていた妖精もまた去ろうとしている。
 ‘闇’の存在は‘闇’へ帰るのみ。

 そのはずだった。


 
 病室に入ってきた黒髪の美女は寝台に横たわる少女に声を掛けた。

「ラピス、具合はどう?」

 その言葉に対する返答は以前と変わりの無い物だった。

「よく解らない。ただ少し体が重い」

 以前と変わらぬ無機質な声。だが、ラピスと2年以上の付き合いのエリナには気にならない。この少女が実験体として育てられてきたが故に感情の表現方法をよく知らないだけの、実際は多感な少女である事を知っているから。この‘妖精’が‘皇子’に向けていた感情をその傍らで見てきたから。ラピスの表に表さない感情を読み取る事ができるようになっていたから。
 だが、それだけにエリナには不思議だった。
 感じられないのだ。今、当然ラピスが感じているだろう感情が。

 ‘死’に対する‘恐怖’

 生物として当然感じるはずのその感情が、ラピスからは全く感じられなかった。






再臨





 火星の後継者の乱から半年後、‘闇の皇子’テンカワ・アキトはこの世を去った。致命的にまで壊され、動く筈の無い体を‘闇の妖精’ラピス・ラズリの力を借りて無理やりに動かしていたが、火星の後継者の乱以後、それまでの反動か急速に衰弱し、最後には言葉を発する事もできなくなって遺言すら残さずに黄泉路へと旅立った。最期まで彼を助けた仲間達に看取られて。
 それから半年後、今度はラピスが死の床についていた。
 ラピスは、元々イリーガルの実験体だ。能力追求のみを目的として生み出された存在故に、耐久性は従来のマシンチャイルドより劣る。その上に実験体の生命の事など寸毫も気に掛けぬ実験を繰り返されたのだ。長くは持たないだろうとは言われていた。
 それでもエリナ達も何もしなかった訳ではない。アキトの時以上の労力を割いてきた。この‘妖精’を一時でも長く生き延びさせる為に、いつか普通の少女として生きていける時まで。それが‘妖精’を残してこの世を去った‘皇子’の願いだと信じて。
 だが、現実はいつも残酷だ。やはり奇跡は起こせず。ラピスの衰弱は止まらなかった。もう、半月持たない。それが昨日イネスが下した判断だ。それでも、エリナは奇跡をまだ信じている。自分達で起こしてみせる。そう、思っていた。‘皇子’をまだ諦めていないのと同じように。



「アキト君の声はまだ聞こえるの?」

 エリナが奇妙な問いを発する。死者は黙して語らない。それがこの世の理だというのに。

「聞こえる。はっきりと」

 ラピスがそう答える。
 アキトが死んだ時、ラピスは泣かなかった。泣き崩れるエリナやイネス、沈痛な面持ちで目を瞑ったアカツキとは違い、普段と何の変わり無く無表情で亡骸の側に寄り添っていた。最初は悲しみの表現方法を知らないだけかと思われていたが、実際は違った。

 アキトの声がまだ聞こえる。

 それがラピスの言葉だった。彼女にとってアキトはまだ滅んでいなかったのだ。それを聞いたときエリナ達は狂気が彼女を蝕んでしまったのかと恐れた。だが、調査の結果それは唯一の拠り所を失った少女が聞いた狂気の産物などでは無いことが解ってきた。ラピスには、未だ脳内に埋め込まれた遺跡の欠片から情報が送られ続けている事が解ったから。そこに希望がある。

「何ていってるの?」

 エリナが穏やかな声で尋ねる。

「相変わらず。心配してるよ、皆を」

 それがラピスの答え。

「そう、生前はそんな言葉一言も口にしなかったのにね」

 何時もと変わらぬ答えに苦笑しつつエリナが答える。
 それにラピスが反論した。

「違う。アキトはずっとそうだった。少なくとも私の知ってるアキトは」

 二人をつないでいたリンクの前では互いに隠し事はできない。思考は全て相手に伝わってしまう。だから、ラピスは知っていた。冷徹を装っていた‘闇の皇子’の心の声を。憎悪だけではない、復讐心だけではない。ユリカを案じ、ルリを案じ、ラピスを案じ、そして仲間達を案じていたテンカワ・アキトの心の声を。ラピスだけが。

「そう……。素直じゃなかったわね、彼は。最期まで。それを知りえた貴方が正直羨ましいわ」

 思わずそういう言葉がもれる。せめて自分の前で位そんな姿を見せてくれてもよかったのに。そう、思う。火星の後継者達と共に戦っていた自分達に位は。

「見られるよ。そんなアキトを」

 ラピスがそう断じた。

「……どういうこと?」

「こんな体でも、この施設の中で私の知らない事は無い。エリナ達の計画も私は知っている」

 絶句する。知られてはいないはずだった。侮った。人類最高クラスの電子戦能力を持つ‘闇の妖精’を。

「その計画は成功するよ。アキトは戻ってくる。血肉を備えた人として、もう一度。いや、何度でも」

 構わずにラピスは続ける。

「まさか……」

「そう、そしてそれは私にも可能な事。違う?エリナ」

 その言葉を聞いてエリナは、何故ラピスから‘死’が感じられないのか理解した。




「アキト君を戻せる!?」

「ええ、おそらくね」

 アキトの死から一週間後、イネスがエリナとアカツキに告げた。

 アキトを戻せる

 と。

「どういう事か説明してくれるかい?ドクター」

 アカツキがそう問い掛ける。信じられない。そうその顔には書いてあった。無理も無い。
 死者の復活。
 それは人類の永遠の夢の一つだ。実現が決して不可能であるが故に。

「ラピスの言葉は聞いたでしょう?」

 イネスがそれに答えて言う。

「まだ、アキト君の声が聞こえる。そうラピスが言っている事?」

 エリナが沈痛な面持ちで言った。アキトを失ったラピスが狂気にすがった。そう思っていたから。

「裏が取れたわ」

「どういう事だい」

「あの子が聞いているのは幻聴なんかじゃない。リンクを通した声なき声よ。測定の結果、彼女の脳内に埋め込まれた遺跡の欠片からの情報伝達はアキト君の死後も止んでいない」

「そんな……」

 エリナがうめく。

「もう一つ。心停止後のアキト君の体を調べてみたんだけどね。信じられない事が解ったわ」

 イネスが続ける。

「彼の脳は脳死状態だった。少なくとも半年以上前からね」

「ちょっと待ってよ!半年以上前?火星の後継者の乱以前からじゃない!」

 エリナが叫ぶように言った。あの時はまだ彼は生きていたのだ。動かぬ体を意志の力で動かして戦いつづけていた最中だ。

「彼の脳はナノマシンが絶えず活動していたから脳波測定ができなかった。心停止後、ナノマシンが活動を止めたから調べてみたんだけどね。組織が壊死していたわ。昨日、今日壊死したんじゃない。ずっと前から彼は彼自身が言っていたように既に死んでいたのよ」

 脳死が死と認められるなら彼の言葉は正しかった。イネスはそう言った。今まではただ心臓が動き、肉体が動いていただけなのだ。

「じゃあ、何故彼は動けたんだ!死者が、亡霊が何かを成すなんてできる筈が無い。火星の後継者達を葬ったのは‘闇の皇子’の筈だ!」

 アカツキも声を荒げる。

「脳死が何で人の死とされるのか知ってる?」

 イネスが冷静に続ける。

「それは人の人格を形成する情報が失われてしまうからよ。人も蛋白質で構成された機械人形に過ぎない。それに指令を与えるプログラム―脳に記憶された人格情報―が失われてしまえば、ただの蛋白質の塊に過ぎなくなってしまう。だからこそ脳死は人の死と定義される。だけど、逆に言うなら、その情報さえ保存できるならたとえ肉体が滅びようと人は死ぬ事は無いのよ」

「そんな事は不可能よ!」

 現代科学でも人の脳は未知の領域だ。無論人の全人格情報を保存する事などできない。

「もちろん不可能よ。‘私達には’ね。」

「……まさか」

 アカツキが何かに気がついたかのように言った。

「そう彼とラピスを繋ぐリンク。それは彼らの脳内に埋め込まれた遺跡の欠片を通し中央演算装置たる遺跡本体を中継して繋がれている。つまり、繋がれているのは彼とラピスの脳だけじゃない。‘遺跡本体’にも繋がっているのよ。そして……」

「‘遺跡本体’には人の全人格情報を保存する事が可能だった。そういう事?」

 エリナがイネスの後を続けた。
 ‘遺跡’。人類未踏のオーバーテクノロジーの塊。時空間さえ制御するその能力をもってするならそれも可能かもしれない。

「そう、‘遺跡本体’にバックアップとして残されていた彼の記憶と人格。それが彼の体を動かしていた。本来脳から発せられる全ての情報を遺跡の欠片を通して伝達していた。ある意味オモイカネに近かったのね。自ら思考し成長する電子人格。動かすハードは人体。何時の間にかそういう存在へと変わっていたのよ。彼は」

 アカツキとエリナは絶句する。それにかまわずイネスは続けた。

「そして、ラピスの言葉からその情報は未だ遺跡本体に保存されていると思われる。だから、新たなハード―新しい人の体―さえ与えてやれば、彼は彼として生まれ返れる。そしてそれは私達にも可能よ」

「……どうするの」

 沈黙の後エリナが尋ねた。どんな存在だろうと関係ない。自分が愛した彼にもう一度会える。彼女を魅了したあの彼と。そのためならどんな事でもしよう。その決意を込めて。

「彼の体から取り出したわ」

 そう言ってイネスが懐から小さなケースを取り出した。中には金色に輝く小片が入っている。

「遺跡の欠片。これと遺跡本体のリンクはまだ切れてない。これを受精卵もしくは未だ自我の確立されていない胎児に取り込ませる。そうすれば欠片からもたらされる情報を受けて脳は発達していく。そしていずれは彼の人格情報をそのまま受け継いだ存在として成長する筈。その時が彼の復活の時よ」

 そう言ってアカツキに目をやる。

「実行の許可をくれるかしら?」

「それを決断しろというのかい?僕に」

 アカツキがうめくように言った。彼とてアキトにもう一度会いたい気持ちはある。だが、事はそんな問題ではない。死者の復活は、人類永遠の夢であると同時に最大の禁忌だ。今までの説明が正しいなら永遠の命を持つ存在を作り出す。そういう事なのだ。神の領域に踏み込む事になる。

「ええ。言っておくけど反対されても私はやるわよ。もう一度お兄ちゃんに会うために。ただ、貴方の許可が有ったほうがやりやすいのは確かだからね。できたら許可して欲しいわ」

 イネスが決然としていった。その瞳に思いを込めて。

「……負けだね。許可しよう。君達二人を相手にしたんじゃ勝ち目が無い」

 そう言ってエリナに目をやる。返事を聞くまでも無く決意した瞳のエリナに。

「なら、準備にかかるわ」

「……イネス」

 これで会話を打ち切って仕事に戻ろうとしたイネスをエリナが呼び止めた。

「何?エリナ」

「受精卵は何処から手に入れるつもり?」

「当てはまだ無いわ。ま、見つからなかったらクローニングで作りだすわよ。それが一番、精神と肉体のバランスが取れるしね」

「バランスね……私と彼の子ではいけない?」

 エリナがその言葉を発した瞬間、場を沈黙が支配した。

「……どういうつもり」

 イネスがその真意を問う。

「言葉通りよ。彼の精子は保存されている。私の卵子を提供するわ。そして私が産む。それで最低限の適性を持つ体が作り出せない?」

 エリナの言葉には一切の迷いが無い。

「それは確かに可能よ。子孫なら適性は十分でしょうね。でもあえて貴女の子とする理由は何故?」

「あえて理由をつけるなら、生まれた彼に正規の戸籍を用意するためよ。私が人工授精で産んだ子にすれば父親の居ない私生児と言う形とはいえ確たる戸籍を与えられる。ただの‘人’として」

「確かにそうね。でも、それだけなら貴女が産む必要は無い筈。それが理由ではないのでしょう?」

「ええ。私が彼の子を産みたい。それだけよ。理由はね」

 彼が誰かによって産み落とされるというのなら、それは自分からだ。他の誰にも、もちろん人工子宮にも譲るつもりは無い。

「……私が産もうかと思っていたんだけどね。譲るしかなさそうね」

 イネスも同様の事を考えてはいた。だが、譲るしかないだろう。
 ‘闇の皇子’の傍らにあった二人には同じ思いを持ちつつも僅かな違いが在った。
 イネスのそれは‘お兄ちゃん’に向けられる物。精神的な兄を慕う少女のそれだ。ホシノ・ルリの抱く物と基本的には同じである。
 対してエリナのものは違う。女性が男性に向ける物だ。
 どちらが彼の子を産むのにふさわしいかは言うまでも無い。

「ええ。この役目は私の物よ。彼の‘妹’である貴女やホシノ・ルリでも無く、‘皇子’を待ちつづける‘姫君’たる艦長でも無く、ただ彼の事を思う‘女’たる私のね。誰にも譲れないわ」

 そういうエリナの瞳には確かな決意があった。

「じゃ、そういう方針でいきましょう。いい?アカツキ君」

「いいよ。僕が口をはさむ事でもなさそうだしね。やり方は任せるさ。僕はただ彼との再会を楽しみにしていよう。‘闇の皇子’の再臨をね」

 それでその場の会談は終わった。



 病室の時は止まったかのようだった。
 ただラピスの金色の瞳が、エリナの黒色の瞳を見つめている。
 
「アキトは今そこに居る。違う?エリナ」

 沈黙を破ったのはラピスだった。そう言ってエリナの下腹部に目をやる。

「………」

 エリナは未だ沈黙したままだ。

「そして、遺跡に保存されているのは、アキトの人格情報だけじゃない。アキト同様、脳内に遺跡の欠片を埋め込まれた私の人格情報も保存されているはず。だから、私にもアキトと同じく復活が可能。新たな命として」

「……だからなの?貴女から死の恐怖が感じられないのは?」

 エリナが確認するように問う。
 それ故にラピスにはアキトの復活を告げなかったのだ。復活が可能故に、今の命に対する執着がなくなってしまう事を恐れて。

「正確には違うよ。復活できるから死んでもいいとは思っていない。確かに、これからもずっとアキトと共に在れる。だから、恐怖は、私には無い」

 そう言って、さらに続ける。

「だけど、アキトと共に在れるだけではいけない。アキトの半身として、アキトの力になる。それが私が私であるために必要な事。だから、私の能力を最大限に発揮できるこの体が、私には必要」

 ラピスには必要なのだ。たとえ耐久力の弱い実験体の体であろうと、己で決めた、己の存在意義を果たすために。

「でも、この体はもうもたない。今の私も、もうほとんどの情報を遺跡のバックアップに頼らないといけなくなってる。つまり、人としての私はもう死んでいる。アキトがそうだった様に」

 エリナには掛ける言葉がなかった。ラピスの状態は彼女が言った通りだったから。もう、エリナ達がラピスにしてやれる事は一つしか残っていなかったから。

「……貴女はそれを望むの?」

 問い掛ける。

「次の復活の時には、貴女はただの人として産まれられる。遺伝子操作された実験体のマシンチャイルドではなく、ごく普通の、少女として」

 アキトが願った様に。

「それは、アキトの願い。私の願いとは異なる。私は普通の生活なんて望まない。‘闇の妖精’は‘闇の皇子’と共にあり、その力となる。それ以外は望まない」

 その願いはただひたすらに純粋で、何の迷いも無い。
 
「だから…」

「解ったわ」

 ラピスの言葉を遮りエリナが告げた。

「ラピス。貴女の願いは、私達がかなえてあげる。貴女にあげるわ。貴女の能力を最大限に、いえ今以上に引き出せる新しい体を」

 ネルガルの持つ非道の技術でもって。それは人の命で作り出された禁断の技術。二度と使う事の無きようほどこされた封印を破って。

「ありがとう」

 そう言ってラピスは微笑んだ。ほんの僅かに、だが、確かに。

「何か願いはある?」

「えっ?」

 唐突なラピスの問いにエリナは戸惑った。

「‘妖精’との‘契約’だよ。エリナ達は私の願いを聞いてくれる。だから、私もできる限り貴方達の願いをかなえるよ。何がいい?」

 ‘妖精’との‘契約’には対価が必要とされる。
 ‘皇子’が‘妖精’に名と存在意義を与えたように。
 そして、一度交わされた‘契約’は絶対だ。
 ‘妖精’が‘皇子’を支え続けようとするように。

 エリナ達は対価を払う事を誓約した。
 故に、‘妖精’に願いを掛ける権利を持つ。

「………一つだけ在るわ」

 沈黙の後エリナが答えた。

「何?」

「貴女に与える体は、電子戦能力のみを強化した物にはしない。耐久力も上げて貴女が人として生きていけるような物にしてみせる。だから、貴女も人として在って。あの人の、この子の側で。ずっと」

 そう、己の下腹部に手をやりつつ願いを掛ける。
 これからアキトとラピスは長い時を共に過ごすだろう。何度でも蘇る人外の存在として。人の身である自分達とは異なる時間を。
 それでも、エリナは二人に人であって欲しかった。
 彼女が愛した存在であって欲しかった。
 ‘男’として愛した‘闇の皇子’テンカワ・アキトにも。
 ‘娘’とも思った‘闇の妖精’ラピス・ラズリにも。
 彼らに存在し続けて欲しかった。
 ‘皇子’と共に‘人’として在る事。
 それが、エリナが‘妖精’に掛ける願い。
 その願いに‘妖精’は

「解った」

 ‘契約’の成立を示す言葉で答えた。



 20年後。月ネルガル極秘施設。
 そこは眠りから覚め、再び活動に入ろうとしていた。
 主の帰還と共に。

「いくの?」

 40代となったエリナが息子に声を掛けた。

「ああ。放っては置けない。奴等は止める。たとえ再びこの手を血に染める事になっても」

 漆黒の戦闘服に‘産まれて初めて’身を包んだ19になる彼女の息子は答えた。
 半年前、NSSがクーデターの情報を掴んだ。それだけなら彼が出る事は無い。連合軍に任せておけばよかった。だが、その内容が問題だった。
 遺跡の奪取。
 跳躍制御の為のジャンパーの誘拐と人体実験。
 それはかつての悲劇の再現に他ならなかった。
 連合に通達はした。だが、軍は動かない。どうやら握り潰されたようだ。それだけ上位の地位についている者が首謀者だという事だ。無論それで政治的な働きかけをやめた訳ではない。工作は続けているが、それでは時間が掛かり過ぎるのだ。犠牲者が増えていくのをこれ以上は看過できない。
 だから、武でもって阻止する。

「まあ、本当の所は俺達ネルガルに奴等を裁く権利なんて無い。それは解っている」

 遺伝子操作による人体実験はネルガルも行っているのだ。彼の半身がその実例である。

「それでも、放っては置けない。そうだよね」

 傍らに立つその半身が答える。薄桃の髪に金の瞳の少女が。

「ああ。間違っているかな、母さん」

 母に問い掛ける。かつては‘彼’が戦う事に反対した母に。

「それは私には解らないわ。だから、どうするかは、自分で決めなさい。自分の意志で。貴方にはそれができるのだから」

 かつてそうしたように。

「ああ。そうする。行ってくるよ」

 外道の存在は‘闇’の力でもって‘闇’に滅する。今回も。

「行ってらっしゃい。……アキト君」

 エリナは自分の息子に、アキト・キンジョウ・ウォンにそう言った。20年前の呼び方で。

「工作は続けてくれ。その方が犠牲が少ないから。頼むよ、……エリナ」

 アキトもまた母をそう呼んだ。20年前の、産まれる以前の呼び方で。
 そして、自らの半身たる少女に呼び掛ける。

「行くぞ。ラピス」

「了解。アキト」

 そして、新たなる‘闇’の存在が産まれた。かつて‘闇’に帰ったその場所から。
 かつてエリナが望んだその姿の通りに。



 その戦いは歴史には残っていない。
 公になる前に決着が着いたという事だろう。
 ただ、ある噂がその時期に前後して流れている。
 跳躍を自在に操る白亜の戦艦と漆黒の機動兵器の噂が。
 20年前の亡霊が再び現れたという者もいた。
 だが、真相は‘闇’の中である。
 

後書き

 どうも、お久しぶりです。
 第五作です。
 いや、こんなに苦労するとは思いませんでした。
 書きかけて没にしたのが3本。書き上げたはいいけれどで発表できなかったのが1本。
 限界ですかねえ
 ネタが無かったんです。
 書けない時は書けないもんですね。
 こうやって更新は滞るんだなあと実感しました。

 今回は自分でもまずいと思います。
 自作の二番煎じやってどうするんだって感じです。
 言い訳します。
 思いっきりキャラに引っ張られました。
 最初はただの転生物だったんです。アキトとラピスの復活の話でした。
 ラストはラーメン屋やってるユリカの所へエリナが子を連れて来る、といった物だったんです。
 ただ、書いてるうちにこうなってしまいした。
 自分で書いた‘闇’の設定に引きずられてしまいした。
 結果として‘闇’の異伝みたいな形になってしまいました。
 ‘奇跡’に繋がってしまう……
 一応宣言しときます。‘闇’とは無関係です。そのつもりで書いていたのになあ……
 本当になんでこうなったんだろ
 もう劇ナデアフター‘闇’以外書けないかも……
 次どうしましょうか

 自虐はこれぐらいにして今作の解説です。
 メインはエリナとラピス。
 シーンはこの二人の‘契約’です。……ここで被ったのかなあ(黙考)
 契約で扱いが軽かったエリナをメインにしてみようと思いました。
 それでも説明シーンではイネスが出て来る。また、抑えられませんでした。……未熟。
 ラストは人である二人を書いておこうと思って入れたんですが、どうも表現できてない。
 
 はっきり言って発表躊躇ったんですが、更新は滞ってますし、これ以上止めると書けなくなりそうなんで……
 覚悟完了してますから存分に叩いてやってください。
 
 それでは
 今回は特に、乱文失礼いたしました。どうかご容赦ください。


 






 

 

代理人の感想

作品の感想自体は文句が付けようもなく面白いのでちと脇に置いておいて。

 

>自虐

う〜〜ん。よくわかりますねぇ、その気持ち。

ただ、書く方と読む方を両方とも知っている身としてはある意味無意味な悩みといわざるを得ません。

読者にとっては出てきたものが全てです。

作品に対する作者の思い入れや制作秘話なんぞお構い無しに、

ただ作品の完成度やそこから受けたインパクトだけで作品を判断します。

(そして、読者としてはそれが当然の読み方でもあります)

1ヵ月かけて書いた大作より、1時間で書いたバカネタの方が大受けする、なんてのは良くある話ですしw

 

ぶっちゃけ、知ったことではないんですよね、作者の事情なんぞ。

読者の要求は只一つ、「面白いものが読みたい」だけなんですから(苦笑)。

だから、この作品は作者としては敗北なのかもしれませんが

読者から見れば「『闇』シリーズの外伝として楽しめる佳品」なわけです。

納得はいかないかもしれませんが、読者を楽しませることができればそれはそれで勝ちなんじゃないでしょうか。

自分は満足できなくても他者を満足させることは出来たと。

試合に負けて勝負に勝った、ってなもんですなw