B2Wに寄せて
by ゴールドアーム
Actionを愛する全ての人へ、1000万ヒット、遅ればせながらおめでとうございます。
感想代理人、ゴールドアームです。
まずはじめにこの記念企画、B2Wへ原稿を寄せていただいた投稿作家の方へ。
ご苦労様、そしてありがとうございました。
実は全然原稿が集まらず、あっさり企画倒れのまま終わるという可能性も、私はかなりあると思っていました。
実はこの企画、それを当然と受け止められるだけの裏がありましたので。
感謝を込めて、その辺の舞台裏を少し語りたいと思います。
この企画の発端は、チャット中、日和見氏の思いついたSSのネタでした。
ネタそのもはズバリ、この企画のお題となった、「Blank of 2Weeks」。このタイトルは判る人には判るとおり、ナデシコのゲーム「Blank of 3 Years」のもじりです。ナデシコの物語における、時間的な空白域を埋める物語としての類似性から取ったタイトルです。
私と日和見氏は、よくSSのネタについて話し合ったりしていたので、氏がこのネタを私に振ったのはごく自然な流れでした。
ですが、このネタをテーマにしたSSを書く、と考えたとき、私はちょっと愕然とする羽目になりました。
今更な話ですが……実はものすごく難しいんです、このテーマ。
設定・情報量の絶対的不足、制限の厳しい枠、それでいて変化する主人公の心理。
本編と矛盾無く、この期間をノベライズしようと思ったら、ものすごい努力がいる事に気がつきました。
そもそもネタ出しチャットの際、日和見氏がこれを思いついた背景には、「この期間の事を書いたSSは、現行において滅多にない」という歴然たる事実もありました。人がいまだに手をつけていないからこそSSとして書く価値がありそうだ、というのが日和見氏がこのネタを見いだした理由だったくらいなのですから。
無いわけです。むちゃくちゃ大変な割には、傑作を書くのは難しいネタなんですから。
私も検討してみた結果、「面白いSSを書くのには向かないネタだなあ」と思いました。
ですが。
同時に私は、ある事に気がつきました。
このネタで傑作SSを書くのはものすごく難しい
でも
その行為そのものが、SSを書く上でものすごく勉強になるのでは
という事実に。
この時私の脳裏に浮かんだのは、Actionにおける、否定的だが無視できない意見、「Actionは一握りの玉と無数の石の集合体である」でした。
失礼な言い方ですが、誰でも気軽に投稿できるが故、作品の間に個人的な好みを超えた範囲での『レベル差』が存在している事は、明らかな事実です。
文章そのものが『日本語の文章』の域に達していない作品。
思いつきを並べただけの、小説になっていない作品。
他人に読ませるという事を考えていない作品。
『2次創作』という言葉の意味を勘違いしている作品。
これらはこの膨大な投稿作品の中に、間違いなく存在しています。
それは決して悪い事ではありません。物語を見て、読んで、感じた事を押さえられずに『書く』事を選択した時点で、その人は『一歩先』へと踏み出してしまったわけですから。
それは文字通りの『進歩』です。
ですが、そうして書き綴ったものを、『他者に公開する』事を選択した時点で、その人は『読み手』の存在を意識する事を義務づけられた、とも言えるのです。
ひとたび他者の目に自分の作品をさらす事を決めた以上、そこにはいろいろなものが生じます。
先に挙げたような批判を浴びるという事も、その一つです。
『2次創作』とはなんでしょうか。
それは単なるパロディとは少し違います。
極端な事をいってしまえば、この世に存在する全ての小説や漫画などの『物語』は、全て『2次創作』と言えます。
ちまたで『創作』とされているものは、『現実』や『歴史』、『体験』を1次としているだけの事なのです。
一般的な意味とするならば、『2次創作』は、『すでに作品として作られたもの』をモチーフとした創作、と言えるでしょう。そしてその狭義の意味故に、2次創作には2次創作故の『約束』のようなものが生まれます。
ところが新参の、とくに『作者自身がまだ若い』と思われる人の中に、そういった暗黙の了解的な基本をよく判っていない人が多いと、私は常々思っていました。
また、オリジン、2次物にかかわらず、小説を『作品』としてまとめ上げる事の意味がつかめていない人が多い、とも。
その結果が、『小説』というにはちょっと苦しいタイプの投稿作品です。
悪いのではありません。ただ、判っていないだけ、なのです。
日和見氏にネタを示唆され、このネタの難しさに私が思案を重ねていたとき、ふと私は気がつきました。
このネタを作品として昇華させるために重ねた思案、その思案という行為そのものが、SSを書くという行為に対する、実にいいトレーニングになるのではという事に。
2次創作といっても、創作は創作です。ただそれに加えて、『前提』と『約束』があるだけです。
そしてこのネタが持っている『束縛』は、その二つを強く意識させる性質の物でした。
このネタを主題としてSSを書こうとする行為。それはSS書きにとって、格好の『演習』となる。
それに気がついた私の脳裏で、この事実と、日頃感じていた、投稿作家の方々の間にある無慈悲なまでの実力差、そしてもうじきActionが1000万Hitを迎えるという事実が結びつきました。
『記念イベントに引っかけて、投稿作家全員に、『このネタでSSを書こうと考える』という行為をしてもらうのは、作家としてのレベルを引き上げる役に立つのではないだろうか』
そう思った私は、特にやる事も出ていたかった1000万Hit記念として、このネタのSSを公募するという事を思いついたのでした。
チャットでネタを振り、意見を求め、結果として管理人氏や代理人様にも気にいっていただけ、この企画はGOサインが出ました。
ですが今までくどくどと述べたように、実はこのテーマ、作品にするにはものすごく大変な物なのでした。
しかも公募にあたり、私は原則として時ナデ系やフルオリジナル系を否定するような枠を掛けました。
原作を尊重し、その良いところも悪いところもきちんと生かした上で、そこに作者独自のオリジナリティを加え、原作そのものの評価すら高めるような物語を紡ぐ、そんなSSとしての理想を書き手の方に意識していただきたかったからです。
それ故、私は応募作0の恐れはかなりあると思っていました。
まあ、ふたを開けてみたら、12編という大量の応募をいただき、そして中にはこちらの想像など遙かに超えた傑作もちゃんとありました。
どんなところにでもネタは転がっているんだという事と、私の座右の銘、『矛盾はネタの元』という言葉の正しさを、文字通り身をもって思い知らされました。
そして、この企画への応募を考えてくださった投稿作家の方々へ。
あなたがそう考えてくれた時点で、この企画は成功したも同じでした。
ずるい話ですけど。
書いてみようか、と考えた時点で、あなたは私の仕掛けに嵌っていました。
結果投稿したにせよしないにせよ、考えた時点で穴の中です。
そして『難しく書くのは無理だ』と考えたあなた。よく気がつきました。
作品を書いちゃったあなた。よく頑張りました。
こうした一連の行為が、投稿作家としてのスキルアップにつながる事を、私は期待しています。
そして全てのこれを読んでいる方へ。
お疲れ様でした。
そしてActionがこの先、末永く続く事を、私は祈ります。