「老師、お戻りになられたんですね」
中に戻ると、少竜姫に出迎えられる。儂が一人だけのことに気づききょろきょろと周りを見回しておる。
まあ、何を探しているのかは言わずもがな・・・
「小僧なら降りていったぞ?」
「えっ!?」
ふむ・・・完全に驚いているようじゃのう・・・仮にも一柱の神をここまで依存させるとは。つくづく常識外れの男じゃな。
「いや、なかなか伸びていたようだから儂も一つ修行をつけてやろうとの。人界のとある場所に向かわせたのじゃ」
「とある場所?こんな夜中にですか?」
「うむ。人は気を抜いているときや、突発的に起こる事象に対して脆いものじゃからな。
行かせた所も、人界にありながらそこに辿り着く事さえ並々ならぬような場所じゃ。当分帰ってはこれまい」
「そう、ですか・・・」
ほんに解りやすくなったのう。自分では平静を保っているつもりなのじゃろうが、沈んでるのがまるわかりじゃわい。
「横島さん、大丈夫でしょうか・・・」
う・・・何か妙な罪悪感が・・・儂、一応嘘はついとらんのに。
「そ、そんなに心配することは無かろうて。もしもの時には文珠がある。何より小僧の悪運の強さは類をみないものじゃ」
「そう、ですね」
まだ少し落ち込んどるようじゃが、ま、当分はこれで持つじゃろう。
しかし当の小僧はいったい今何をやっているのやら・・・
煩悩男と歩く運命の夜
第二話『異邦人達の邂逅。横島君と神代の魔女?編』
「〜〜〜っ!!!???」
現在の状況確認。
転落中というか墜落中というか落下中。
少なくてもこんな暢気なことを考えてる場合じゃ無いことは確かな状況。
標高何メートルから落ちているのかは知らないが、こんな考え事が出来るような高さから落ちれば、いくら俺でも多分死ぬ。
流石にそれはイヤだ。遠慮させてもらいたい。
ならばどうする?何と文珠に込めればいい?どの文字なら安全に助かる?
浮?飛?柔?軟?軽?硬?遅?・・・何でこんな時ばっかレパートリー沢山出るんだよ!?無駄に迷ってる暇なんかもう無いっちゅうに!
ってヤバい、もう地面がっ!と、止まっ・・・!!
――ビタッ!!そんな擬音が聞こえてきそうなほど、急激な停止。
「ぶげほっ、げふん、かはっ」
落ち初めから現在の高さまでで増幅された運動エネルギーは、一気にゼロまで低下。お陰で地面との激突は免れた。
その分の衝撃は俺に来たが、死ぬよりはずっとマシだ。
途中頭ん中がテンパったものの、とっさに『止』の字で発動してくれたらしい。
それでも隣に結構高い木の先っちょがある位の高さはある。丁度良いからそれを伝って降りるとしよう。
しかしさっきはスゴかった。
俺のくせにあんな沢山の漢字が思い浮かぶなんて。人間、窮地に陥ると並々なら無い力を発揮できるというが、さっきのがそうだったんだろうか?
・・・結果として混乱したのはそのせいだったのだが、やっぱり生きているからよしと――
「い゛っ!?」
突然、身体を強く下に引っ張られるような、或いは上からたたき落とされるような感覚。
バキバキバキバキと連なった音が聞こえ、同時に体が痛む。
何が起こっているのかというと。
とっさに使った文珠は、文字を込める際集中力やイメージといった物がハッキリとしておらず、発動は不完全だった。
結果、予想よりずっと早く『止』の効果は消滅し、俺の体は再び自由落下へ。
今度は真下にあった大樹の枝を折りつつ落ちているのでスピードはつく前に殺されるが、代わりに体を何度も木に打ちつけるので何度も痛いのだ。
まあ、現在の俺にはそれを理解するしない以前に、何か物を考えるだけの余裕がないのだが。
一瞬、連続していた音と痛みがフッと絶ち消えた。しかし本当にそれは一瞬、或いはそれにも満たない短かな時間だけで、直後再び痛みとそれに伴った衝撃が走る。
ドチャッ
鈍い音と水っぽい音が混じったもの共にあったそれは、さっきまでの局所的な痛みではなく体全体を捉えた面の痛み。落ちたところが泥濘になっていたため、それほど強い痛みではなかったが。
胡乱な頭でそれが地面に落ちたためと理解する。しかし夕立でも降ったのだろうか。泥が冷たく気持ち悪い。
「ってぇ〜・・・」
何はともあれ。そう思い立ち上がろうとした、瞬間。
「・・・げ」
今度は泥に足を取られた。
「のおぉぉぉおぉぉぉ!?」
しかもすぐ側が急斜面になっており、俺の体はみたび高度を下げてゆく。
ゴロンゴロンとそりゃあもう威勢良く。
目まぐるしく視界が回る回る。
そのまま止まることなく転がって行き、最後に一瞬の浮遊感。
そして、飛べば落ちるのが世界の真理。
「ぐべっ!!」
本日三度目の墜落は、どうにも硬いところに落ちたらしい。
「・・・あー、死ぬかと思った」
オーケーオーケー。もう一度状況を確認しようじゃないか。
今は地に足が着いている。もう墜ちることはない・・・ハズだ。
周りは暗い。見覚えのない場所だが、妙神山でも夜だったしあまり問題じゃない。というか寧ろ、場所が変わっただけで異世界に移動とかしてないでくれるとスゴく嬉しい。
俺は自身は無傷。見たところ山から転がり落ちたみたいなのに・・・我ながら自分が本当に人間なのか怪しく思えてくる。
ただ、服はかなりドロドロだ。
元は水色を基調とした中国拳法の胴着みたいな服だったが、今や真っ黒だ。
そう言えば小竜姫様が、修行に使うとよく汚れるから、簡単な術で一度洗うと完全に汚れが落ちる造りにしてあるとか言ってたな。
初め聞いたときは何か地味だな〜と、あまり気にしていなかったが・・・いや、この状況でも無駄か。
よくよく考えれば、替えの服どころかこの身一つで飛ばされたし。まったく、老師も一体何を考えて――
「・・・ぅ・・・」
――それは、蚊の鳴くようなか細い声。ともすれば、聞き逃してしまいそうな程弱々しい声。
けれど、俺の耳にはソレが微かにも聞こえたのは凄い幸運だったのかもしれない。
周りを、見回す。
右・・・誰も居ない。左・・・やはり誰も居ない。前・・・は、さっき転げ落ちてきた山だ。たぶん居ない。じゃあ、後ろ・・・
「え?わっ、だっ大丈夫か!?」
居た。居ましたよ。ローブを着てフードを被っていて表情は確認出来ないが、おそらく女性が俺の足下でうずくまってる。
美人だといいなぁ・・・って違う違う!ぐったりしていてかなりヤバそうな状態。しかも彼女は半透明で、多分――
「幽霊、か?」
別に珍しい訳じゃない。
おキヌちゃんだって幽霊だったし、俺自身幽体離脱を経験済み。だいたい俺はGSで、そーいうのを相手にする商売だ。こんなんに怯えてちゃ話にならない。
問題は、この彼女に今何が起こっているのかがわからない。
はっきりと輪郭が見えるけど、かなり透けている。
息(?)がかなり荒く、けれど弱々しく酷く苦しそうだ。
「ぅ、ぅ・・・」
再び呻く。今度は俺が屈み込んで耳がかなり近くにあるのにその声はさっきより微かになり、彼女の姿も希薄になってきているのは気のせいじゃない。
「な、何なんだ?このままだとヤバいのか!?」
訊いたところで彼女は応えられる状況には無く、けれどその痛々しさが俺の言葉を肯定していた。
「よ、よしっ!文珠っ!」
これで何とか・・・いや、何を入れる?だいたい、原因も解っていないのに、下手な事して逆効果にでもなったら!・・・
「え、な、あ、ど、どーすりゃいい!?」
怪我か病気後は毒とかだったら『治』『癒』で・・・いや、それ以前に幽霊が怪我や病気なんかするのか?
じゃあ呪(のろ)いか?待て待て!それこそおキヌちゃんの時みたいに何かの呪(まじな)いで今を保ってたら悪化させる!
最悪、霊気構造が壊れてたら俺にはどうしようも・・・!
あたふたと考えてるうちにも彼女はどんどん薄くなっていく。
「こ、こーなったらっ!!」
再びパニックになりつつも、俺は文珠を彼女にあてる。
込めた文字は『保』。この状態で『保』ってしまえば、原因を調べるまでの時間稼ぎにはなってくれるハズだ。・・・或いは、問題の先送りともいうのかも知れないが。
しかし神様はそれすら許してくれなかったらしい。
「嘘っ、いや、何?どうしたんだ!?」
文珠をあて、保たれるはずの彼女は体から淡い光を発する。
「ま、まさか俺のせい゛っ!?って、な、何じゃこりゃーっ!?」
それに呼応するかのように俺の右手甲も焼け付くような軽い痛みと共に発光しだし、そして――
「・・・やー、ホント助かった。もうどうしようかと困って困って」
話し声が聞こえる。ここには誰も居ないから、部屋の外か。
意識を覚醒させた私は、軽く目を瞑って自分の体に在る魔力について把握する。
どういう事?――何か、魔力とは別の力が私の中に在る?
「ははは。人一人抱えてこんな夜中に走ってるような奴をほっとくわけにもいかないしね。ま、半分はアタシの自己満足さ」
「ああっ、そんな姉御肌の君が好きだーっ!」
どげしっ
「あー、これでも少し武術をかじっててね。そう言う過剰な愛情表現は相手を考えた方が良い」
・・・声から察するに男と女が一人づつだろう。
話にあった抱えられていた『人』とやらが私ならば、男の方が私をここに連れてきたことになり、妙な力もその男の能力の可能性が高い。
「いや、相手のことを考えれば、寧ろアタシのようなので良かったのか?」
女の方がぶつぶつと言いながら戸を開け、私の居る部屋に現れた。
「っと、目が覚めてたのかい?おい、あんたの連れてきた姫様が目を覚ましたよ」
思いの外若い。肩口で髪を切りそろえて、なかなか整った顔をしている。けれど魔力は感じない。
しかし、この娘は私を『姫』と呼んだ。まさか私の真名に気づいているの?
「お、気がついたのか?良かった〜」
男の方も顔を出した。
やはり若い。先程の女と同じくらいか。
顔は十人並み。造形が悪いわけではないが、整っているわけでもない。魔力はやはり感じない・・・魔術師では、無い?
「貴方が・・・私を?」
男は安堵の表情のまま、にこやかに応える。
「あ、一応ここまで運んだのは俺だけど場所と布団を提供してくれたのはこっちの、えーっと・・・あれ?」
「どうしたの?」
「・・・そう言えば、自己紹介がまだだったなー、と」
「んなぁ」
コテン
・・・はっ!
気づくと、私は布団の上で器用に転んでいた。何で私がこんな無様な真似を・・・『世界』がそうさせたのかしら?
「そう言やそうだったね。アタシは美綴綾子。確かにここはアタシの家で布団を貸したのもその通りだけど、ホントにそれしかやってない。
そいつがおまえを抱え廻って慌ててたから、少し手を貸しただけに過ぎないよ」
女――アヤコは微かに口元を歪め、男を目で示した。
「で、アタシもアンタらの名前が知りたいんだけど?」
「俺は横島忠夫。将来有望なGS見習いにして日本最高のGSのアシスタントさ!」
輝くような笑顔で男――タダオはそう言い放つ。でも・・・
「ジーエスって、なんだい?」
私と同じ疑問を、先にアヤコが口にしていた。
タダオは何故かその疑問に一筋の汗を額から垂らす。
「あー、ゴーストスイーパーの略なんだけど・・・知らない?」
「ゴーストスイーパー?」
きょとんとするアヤコを見て、今度はゆっくりと顔を青くさせ私を向いた。
「ひょっとして、君も?ほ、他に核ジャック事件とか美神令子とか・・・」
ゴーストスイーパー・・・幽霊の掃除屋?
生憎と私が『世界』に与えられた知識に、GSとやらに関するソレは全く無かった。
「知らないわね」
その事実のみを簡潔に答えてやる。
すると、タダオは一筋だった汗をどっと噴き出させて、フラフラと部屋の隅に行き膝を抱えてブツブツと呟きだした。
距離が離れているせいで、ここからでは何を言っているか解らない。
「お、おい、どうした?」
アヤコが近寄って肩を揺すっている。が、タダオはまるでそのことにも気づいていないかのようだ。
「何なんだ?・・・所で、そっちの名前も聞きたいんだけど?」
名前・・・鉄則として、私たちの真名は軽々しく喋るわけにはいかない。ましてアヤコは一般人らしいから、下手なことを言って手間をかけるのも煩わしい。
「その前にタダオと話したいことがあるんだけど」
何より、タダオは何者なのかが知りたい。この得体の知れない力・・・GSとやらと関係があるのだろうか?
「・・・内密な話ってやつか?」
「そんなところね」
もし当てが外れたとしても、私がこれから生き抜くためには――男の方が、御しやすい。
「――そうか、解った。じゃあアタシは少し席を外すよ。でも、さっき言ったとおりこっちにも訊きたいことがある。そうだな・・・一時間位したら戻ってくるから」
「解った」
アヤコが静かに部屋を後にする。
さて、後はあの男から――
「で、訊きたいことがあるんだが」
「きゃんっ!」
いきなり後ろからぼそぼそと話しかけられ、私は驚いて飛び退いてしまう。
「い、いきなり後ろから話しかけないでちょうだい!ビックリするでしょう!?
だいたい貴方、いつの間に復活したのよ!!」
私の檄を飛ばすような勢いに、タダオはポリポリと頭を掻きながら苦笑いする。
「いやースマンスマン。でもアレだ、あの娘――アヤコちゃんを追い出したって事は人に聞かれたかない話なんだろ?
何だ?悩みなら聞くぞ?幽霊の悩み聞くのも仕事の内だからな」
悩みを聞く?・・・掃除屋とか言うからてっきり退魔の関係かと思ったのだけれど、交渉人みたいなものかしら?
・・・まあそれは兎に角。
「幽霊?私が?」
「違うのか?消えかかったり安定したり変身したりと変わっちゃいるけど幽霊・・・だよな?」
最後を疑問形にする辺り、彼にも自信がないらしい。
確かに私は幽霊と言えばそうかも知れないが――
「――馬鹿にしないでちょうだい」
毅然とした声で言い放ってやる。
「貴方からすれば幽霊かも知れないけれど、私は『英霊』よ」
「英霊――って、戦争で戦って死んだのか!?」
「戦争?・・・ああ、その英霊とは意味が違うわ。生前偉大なことを成したと見なされる人間が、『世界』と契約して魂を括られた存在。それが私たち『英霊』。通称『サーヴァント』」
「さーう゛ぁんと?」
「『奴隷』と言う意味よ」
途端、タダオは私をマジマジと見るなりドレイ、ドレイと呟いてから――
「そ、そんな年でなんてふしだらな!お父さん許しませんよ!?」
「ナニを想像してるのよ!!」
ガスッ
いきなり暴れ出したので、つい殴ってしまった。・・・あら?私の手って、こんなに小さかった?
「っててて・・・」
タダオは殴られた頭をさすっている。あまりダメージは無さそうだ。
少し魔力も込めたつもりだったのに。
「・・・見た目弱そうなのに、案外タフなのね」
「おう、慣れてるからな。そんな事より、契約して魂括ってまで奴隷になるって何のメリットがあるんだ?
しかも私たちって事は、ひょっとして近所に他の英霊とかも居たりするのか?」
頭もそこそこ切れる――いや、回転が速いのかしら?
どっちにしてもこの男は凡庸な見た目より能力が高いらしい。
「そうね。メリットは確かにあるわ。私たちは、死して尚望みを叶えたいが為に世界と契約して『英霊の座』に括られるのよ。『どんな願いも叶えられる』と言う権利が与えられるから。・・・当然、リスクもあるのだけど」
「リスク?」
「契約した存在が、誰しも願いを叶えられると言う訳じゃないわ。
その中から選ばれた七人が現界――つまり現世に召還され、殺し合った末に生き残った一人とその召還主が願望機である聖杯によって願いを叶えられる」
「ふむふむ」
忠夫は真面目な顔で私の話に聞き入っている。
そういう顔をすれば、なかなか器量が良く見えるわね。まるでさっき暴れ出した人間とは思えない。
「・・・呼び出される七人にも規定はあるわ。例えば、剣の扱いに長けた英霊、弓の扱いに長けた英霊、ひたすらに力を持ち理性を不要とした英霊。そういう技能を持った存在から選ばれ喚び出される。
誰が顕現するかは召還主、いわゆるマスターの技量による」
「はい質問」
「何?」
右手を挙げるジェスチャーをしている忠夫に、質問とやらを促す。
「そのマスターってのは誰でもなれるのか?」
「そうね、有る程度に能力を持った魔術師ならなれるでしょうね。当然、技術や魔力といった能力が高ければより強力な存在を呼び出せるわ」
「つまりアレか、喚び出した本人が強ければ強いほどサーヴァントも強いから、凄く有利って事か。
・・・ん?でも、もし喚び出した奴と馬が合わなくて内輪揉めにでもなったらどうすんだ?『世界』だかに括られてるって事はみんな滅茶苦茶強いんだろ?」
「・・・その心配は無用よ。マスターは召還したサーヴァントに対して『令呪』と呼ばれる強制権を持つの。
それに、マスターからの霊力供給で顕現している私たちは逆にソレが断たれればたちまち存在できなくなる。サーヴァントが居なければ戦うことは不可能でもあるから、極僅かな例外を除いてそんな事はあり得ないわ」
私は、その『極僅かな例外』だけど。
「成る程。悪い、続けてくれ」
「喚び出される英霊は、その能力からクラスに割り振られる。それぞれセイバー、アーチャー、バーサーカー、ライダー、ランサー、キャスター、アサシンの七つ。
そして私は魔術師のサーヴァント、“キャスター”よ。ここまでは理解できたかしら」
タダオは、一度うーむと考えこむ。
「要は何でも願いが叶えられる戦いがあって、そのサーヴァントってのは喚び出されて勝ち抜かなきゃ願いを叶えれない。
で、お前は魔女ッコのサーヴァントでキャスター、と」
「そうね、大体そんなと――魔女ッコ?」
確かに私は神代に名を馳せた魔術師である。不本意だが、裏切り魔女と称されることもある・・・が、魔女ッコと呼ばれたのは初めてだ。
タダオは苦笑しながら申し訳なさそうに言う。
「あー、ひょっとして気づいてないのか?鏡、持ってる?」
「も、持ってるけど・・・」
嫌な予感がする。酷く。
私は動揺しつつもローブの中に手を入れ、鏡を取り出す。
そして恐々自分の顔を映してみる。
「こ、これでも善意、善意で助けようとしたらお前がそーなって、俺がこーなってしまってな・・・・・・スマン」
そこには、とても可愛い顔をした『女の子』が居た。
そこには、我ながら絶世の美貌を称えた『女』は居なかった。
私はキリキリと音が聞こえてきそうなスピードで、この部屋にいる容疑者に顔を向ける。
淡く綺麗な青の服を着た男が、自分のむき出しの右腕を左手で指さし申し訳なさそうに笑っていた。
その右腕には、意匠を凝らした独特な形状の入れ墨が顕れていて――
「どうなってるのよーっ!!!???」私の絶叫が、こだました。
ガクンガクンガクン
「何っ、何をしたのよ貴方は!」
「あぐっ、ちょ、ちょっと、止め、へぶっ、喋れっ」
視界が揺れる揺れる。襟を捕まれ激しく揺さぶられてる俺。
見た目12歳位なのに凄い力だなコイツ。あー、そういや見つけたときは美神さんくらいの身長だったっけ?・・・だとしたらもったいないことをしたんかな、俺。
うん。自分で何言ってるか解んなくなってきた。
だってそうだろ?たまたま道路の真ん中で倒れてた女が、実は魔女ッコで自分と同じような奴ら7組でバトルロワイアルしてますーなんて、マンガみたいなあり得ないことに出会ったら誰だって――・・・ん?よくよく考えたら似た様なことが前にも何回かあったような・・・
例えば、道端で絡まれてたガキが竜の王子様だったり、或いは夜道に人狼の娘っ子に牛丼強奪されたり、山道で迷って助けてくれたのが実は化け猫母子だったり。
・・・やっぱりあんま珍しい事じゃなかったのか?
ああ、それにしても視界が揺れるなぁ。
「なんだ、どうしたんだ!?」
勢い良く戸を開けてアヤコちゃんが現れた。まだ一時間経ってないのに何でだ?
あ、そういやコイツ・・・キャスターが結構デカい声で叫んでたもんなぁ。そりゃ驚くし、来るのも当然か。
「あっ、そうよ!」
「ぬぉうっ!?」
何か思いついたのかキャスターは唐突に俺の戒めを解いた。
思いついた何かに夢中で、アヤコちゃんが来たことには気づいてない。
「私は元々この姿になれるんじゃない!だから、普通に元に戻ればっ!!」
喜々として叫ぶ(外見)推定12歳。
そして彼女は、淡い綺麗な光を自らの全てを覆うように生み出す。
「ひ、光ってる!?」
アヤコちゃんは人間が文字通り輝くという現象に目を丸くする。
しかしその発光は――ぷすん、というガス抜けの様な音と共にかき消えた。
「え、あれ?」
残ったのは白昼夢でも見ていたかのように呆然としているキャスターのみ。
「なんで!?魔力が足りなかった?・・・違う。満ちているわけじゃないけど、存在する分には足りてる・・・くっ、もう一回!」
暫しブツブツと考え込むと、再び発光。
軽い脳震盪を起こしかけたのかうまく動けない俺と、人が発光するという怪奇現象に驚いていて言葉も出ないらしいアヤコちゃん。
そして再び結果をもたらさずに光は失われた。
「やっぱり戻れない・・・」
がっくしとうなだれるロリっ子。
「よくわかんないけど・・・大丈夫か?」
復活したこの家の住民が慰めている。とはいえ未だかなり困惑している状態なのが見て取れるけど。
「・・・何・・・したの?」
「は?」
俯いていた少女から、ボソリと言葉が漏れた。
キョトンとするアヤコちゃんだが、ゆっくりと顔を上げるキャスターの双眸は底冷えするような温度で俺を睨みつけていた。
「魔力が足りないわけじゃないし魔術もちゃんと発動してる。私には問題がないのよ何一つ。それなのに私は完璧なのに全然元に戻れない。普通はあり得ない、あり得ないのよこんなこと。でもね、ほかに原因となる要素があれば話は別」
・・・何かヤバいスイッチが入ったみたいだ。
「あのー、キャスターさん?」
俺は恐る恐る声をかける。アヤコちゃんなんか、さっきは慰めていたのに今は数歩後ずさっている。
決して高くない俺の危機察知能力ですらキケンキケンと訴えかけてくる。
例えそれでも防ぐ由もなく、俺はキャスターに縋り付かれた。
「貴方、何をしたのよ・・・魔力が足りなくてろくに意識すら無かった私の体に何をしたのよぉーっ!!」
「なぁっ!?」
キャスターさんその言い回しはマズいです。だってほら、そこのアヤコちゃんが俺のことを汚物を見るような目で・・・
もう手遅れかなーと悲しくなりながら、俺も叫ぶことにした。そうすればきっと現実逃避くらいにはなるはずだから。
「違うっ!!俺は・・・俺はロリや無いんやぁーっ!!!」
「何をしたのよぉーっ!!」
きっと確実に近所迷惑な叫び声が二つ、夜の町に空高く響いた。
――後・記――
106式国産牛です。二回目です。
今回はキャスター美綴登場。後はキャラを生かしていければっ・・・!
それはさておき、最近ワイド版のGSを買って、連載開始した頃からもう15年以上経ってるんだなぁとしんみりしたりしてます。
あの頃の自分は・・・正直何をしていたか良く覚えてません。時が経つのは早いものです。
でもGSしかりナデシコしかり、良い作品はいつも良いものと思えるのですが・・・
代理人の感想
ああ、横島だなー(笑)。
こーゆー碌でもない疑惑を掛けられているのを見ると実に懐かしい気分に浸れます。
・・・90年代初頭の漫画なんだよなー。
まあそれより先に始まって未だに続いてるガイバーとかベルセルクなんてのもありますけど。