そこは砂丘だった。



 遠くまで見渡せて、そして人間一人で扱える飛び道具では何一つ届かないような。



 何かを待ち構えるには絶好の場所。

 





 そして、そこに。

 人間らしい銀髪の西洋人の男性と、おおよそ13〜4歳前後の少女が立っている。

 





「・・・HA、やれやれ」







 嘆息交じりにぐるりと辺りを見回し、右良し左良しと辺りを確認する。

 もう彼を脅かす者は居なくなったらしく、彼は幾分か力を抜きながらポケットに手を突っ込んだ。





 今しがたオーバーアクション気味に肩を竦めたその男。

 喋らなければ二枚目、という奴であろうか。

 その彼は血のように赤いコートを着て、両手を先程のままポケットに突っ込んでいる。









 そして、その背に髑髏をあしらった―――ともすれば儀礼用、それも邪教系の儀式の剣と勘違いしてしまいそうな大きな両刃剣があった。









「こりゃ、どうも・・・フジヤマだのゲイシャだのスシだのと言っている場合じゃ無いみたいだな・・・観光位させろよ、あのジジイ」







 そう言ってニヤリと笑い、いつの間にか―――本当に何時の間にか。一連の動作を目で追う事は出来なかった―――抜いていたらしい大剣の切っ先を、話し相手らしい少女に向ける。

 死を具現化したようなその切っ先を見て、少女はびくりと身を震わせた。





 『平穏』な関係ではないことだけは見て取れる。

 



「・・・ぁ・・・」





「命乞いでもするか、Devil Girl?または転がってるそいつみたく」





 顎でクイッ・・・と地面を指す。

 そこには、人とも動物とも違う、渦巻状の模様が付いたよく分からない何かの死体。



  



 赤い煙のような物・・・少なくとも血ではない物が天に向かってゆらゆらと立ち上っている。







 「―――血みどろに戦うか」

 



 向き直る赤いコートの男。

 目線は少女に注がれている。







 ―――それとも、このまま死ぬか?









 と、問い掛けの変わりに殺気でぎらついた視線を送る。

 少女に更に近づく大剣。







「―――!!!!」







 ばっと身を翻し、逃げ出す少女。

 目の錯覚で無ければ―――その少女の背中には、蝶の様な羽が生えていた。









「・・・・・逃げるか。まぁ・・・それも楽しめそうだ」

 







 ―――さぁて・・・鬼ごっこの始まりだぜ、Devil Girl

                           楽しませろよ―――

 





 背に収められた大剣。

 上空の光の球からの光を浴びて、それは鈍く輝いていた。









  Hell and Heaven  〜天国と地獄の狭間〜  第二話

                               作者 ベルゼブブ

 

 『未だ復讐は終わらない

             狩人は牙を剥き続けるであろう』

                                   ――――狩人への指針 31章 3節 











 静かだ―――。





 衛生病院の一階廊下を忍び足で歩きながら、アキトはふとそう思う。







 ・・・無理も無い。

 地下から出てもう随分歩いた。

 が、これまで患者はおろか医師や看護士にも会っていないのだ。







 今日は閉まっているのかな?とも思ったが、すぐに考え直す。

 閉まっていたとして―――この結構な規模の病院から人が一切居なくなる事など、有り得ないだろう。

 非常勤の医師や、同じく非常勤の看護士、もしくは警備員くらいは居る筈。



 

「・・・廃院なのかな?」





 廃院にしては綺麗な内装、整った設備など納得いかない部分が多々あったが。

 取り合えずそう結論付け、思考のベクトルを違う方向へと向ける。





 

 ディアとブロス。

 大切な俺の家族・・・無事だろうか。

 何処に居るのだろう?ジャンプアウトすら出来ていなかったら―――

 



 

 過去の自分がそうなる所だった事を思い出し身震いする。 

 浮かんできたネガティブな思考を振り払うため、取り合えず二人を探す方法を考えようと思った。





 探す方法その一。

 『ちょっと情報通な日陰の世界に生きる人』に「羽の生えたでかいロボットを探しているんだが」と聞く。 

 ・・・却下。同じ世界の俺が知っている『地球』に出たのならともかく、違う『らしい』世界では笑ってあしらわれるのがオチ。





 歩きながら更に考える。





 方法二。

 ニュースか何かを見て、『巨大なロボットらしき物体が突然―――』といった感じの情報を見つける。 

 これは半却下。居所を掴んだとして、もし軍に接収されていたりしたら如何近づけばいいのやら。





 服を確保しつつ―――黒い作業服だ。角に引っかかって着るのが辛い―――更に更に考える。





 方法―――と言うか、可能性一。

 『二人は他の人間に見つからない場所に居る』

 『他人に見つからない』イコール『自分が見つけにくい』でもあるので、あまりそうであって欲しくない。

 その場合、二人からの連絡を待つ・・・しかないが、何故かコミニュケは何処を如何弄くっても反応なし。









 連絡が来ようと来なかろうとどんな場所に居ても探し出すつもりだが。









 はた、と止まる。

「・・・むぅ・・・」

 思わずゴートのようにうなるアキト。







 ・・・ひょっとして。

 俺、今手詰まり?







 何度も思ってきた事ではあるが、自分はルリ達が居なければ何も出来ないのだな、と痛感する。





 

 ―――まぁ、外に出るしかないか。



 取り合えずそう思って、出口を探す事にした。









        ◆









 ―――一方その頃。



 追走劇は未だに続いて、劇は建物の中にまで及んでいた。

 少女が『建物の中ならまだどうにかなる』と考えたからなのだが・・・



「ハアッ、ハアッ、ハアッ」



 この通り、追われる立場は変わらぬまま。



 息を切らしながら、少女は院内を駆けずり回っている。

 少女の耳の中にタッタッタッとまず軽い自分の足音が響き、その後、ゴツッゴツッゴツッと地面を抉るようなあの男のブーツの音が響き渡った。

 

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・」





 まだ、まだ死ぬ訳には行かない。

 『あの子』が探している人を見つけるまで。 

 簡単には―――







 しかし。



 自分を追っているのは、死神だ。



 それか、悪魔。



 でなければ魔王?



 ・・・残念ながら、逃げ切れるかどうか・・・少なくとも確信を持って「逃げられる」とは言えなかった。





 タッタッタ・・・・



 ゴツ・・・ゴツ・・・ゴツ・・・

 

 

「ハッ・・・ハッ・・・」



 自分は急いでいるのに、何故こうもアッサリと追いつかれるのだろう?

 それは自分が疲弊し過ぎてもう歩くのと同じ速度しか出ていないからだと気付くのに随分と掛かる。

 頭にも血が回らなくなっているかも知れない。





 チャキッ・・・





 遠くからでもはっきりと響くその音。

 確か、『人間』の遺した本に載っていた気がする。



 アレの名前は―――銃だったか。



 ぼんやりとそんな事を考える。どうも本当に頭に血が行かなくなってきたらしい。





 ・・・・ガゥゥゥゥゥン!!!







「―――あぅっ!」



 響き渡る病院にはまるで縁の無い音―――銃声。

 ―――そして後を追う甲高い悲鳴。





 足首を撃たれた少女。走る勢いのまま、支えを失って崩折れる彼女の体。



 どたりと音がして、天地が反転する。

 彼女は床に身を預けていた。





     B I N G O

「・・・大当たり!って奴だな、お嬢ちゃん?」







 少女から見ると、悪魔より悪魔らしい『人間』が、そう言ってニヤリと凄絶に笑む。



 例えるならばその姿は、死神と死刑執行人と電気椅子と・・・

 死に関連するものを観念物質意味問わず一緒くたにして、人の形にしたような。





 ヤバ―――

 死んじゃうのかな、あたし―――







 もう自分には体力も精神力も・・・魔力も、もう残ってはいない。

 悪魔であるこの体。生まれつきの無尽蔵の体力と、そう簡単には折れぬ強き心も・・・この男にとっては、枯れ木と大差ない物だったようだ。





 体の其処彼処が喧しい位に『もう動けない』と騒ぎ立てている。





 心の何処を探しても『諦め』という単語がない場所など無かった。







 ゴツ、ゴツ、ゴツ。



 死刑執行人が近づいてくる。自分の首に、大きな断罪の斧を振り下ろすために。

 

 もう、駄目かな―――御免ね。

 あたし、死んじゃうみたい。



 胸の中に写るのは、砂漠に一人ぼっちで泣いていた『人間』の少女。

 連れとはぐれたらしい黒髪の彼女が探している二人を探しに来たと言うのに、自分は約束すら果たせず―――





「・・・諦めたか。ま・・・この位が妥当だな。根性見せた方だよ、お前は」





 ―――ここで、死ぬのか。





「あばよ、Devil Girl



 男は銃を構え、ぴたりと彼女の眉間に照準を合わせる。

 やって来るだろう痛みと、恐怖と―――死に備えて。

 天の助け―――悪魔が天に祈るとは、何と滑稽な事かと思いながら―――が降る事を願い、ぎゅっと目をつぶる少女。



 



 ガゥゥゥゥゥゥン!



 



 ―――銃声―――









        ◆











 やれやれ、俺って今第三者的には悪役なのかね?



 キッパリハッキリ『そうよ』と言うであろう黒髪の同業者の女は今ここには居ないが、取り合えずそんな事を思う。



 それから俺は、今しがた『撃ってないのに』大きな衝撃を受けて弾かれた左手を銃―――エボニーごとポケットに突っ込んだ。 



 俺の視線の先には、ちょうど今俺の『仕事』をジャマしてくれた五体刺青だらけの角が生えた、黒い作業着の上と妙にぴっちりしたハーフパンツを着た奇妙ないでたちの男が、

 見た事も無い銃から硝煙を立ち昇らせつつ立っていた。

 

 

「だったら邪魔が入るのも納得出来るぜ。お約束って奴だしな」



「いきなり何を言ってるんだか知らないが・・・」





 男が敵意も顕に俺にゆっくりと向かってくる。

 油断はしない性質なのか、単に用心深いだけなのか・・・どっちも同じ事か。

 男はしっかりと銃の照準を此方に向けたままだ。

 





 角やら気配やらを見るに―――『半魔』って所か。・・・因縁だな。

 こんなところに居るんだからして、同業者かそれともよっぽどの物好きかお嬢ちゃんの仲間か。

 少なくとも同業者である筈は無い。同業者ならジャマしないだろうし、な。

 ッてことは二か三か。









「・・・取り合えず、何をしているのか・・・聞かせてもらおうか」



「何って?」



「そのままの意味だ。早くしろ、俺は気が長い方じゃない・・・特に笑いながら誰かをいたぶる様な奴が相手だとな」



「怖いねぇ・・・脅しかい?」



「かもな」

 

「そうかい。ふふん・・・」





 そう言って俺は・・・問答無用で撃った。



 ガゥン! 



 まっすぐに銃弾は男を目指して進んでいく。

 完璧に不意を付いた―――と思ったが、半身をずらすだけで避けられた。

 



 オイオイ、軽くショックだぜ?





「言うつもりは無い、と?」

  

 しれっと何事も無かったように男が聞いてくる。

 完全に向こうさんの銃の照準は外れていた。



「まぁ、脅してきた相手に言う義理も無いだろうしな」



 ため息混じりに「それもそうか・・・」と男。

 納得するのもおかしなモンだが、まぁ、コイツも俺と同じくCOOLな世界に居るんだろ。

 

「アンタ、名は?」



「言う義理は無い」



「そうかい。・・・まぁ・・・この場限りの仲だろうが」



 背中の「リベリオン」を抜き、片手で突きつける。



「―――仲良く行こうぜ?」



「・・・出来るだけ遠慮したいがな」



「そう言うなって・・・つれないな、少年?」



「少年って歳でもない」



 戦闘態勢を取る俺と刺青男。









 さて・・・お手並み拝見だ、半魔の少年・・・



 楽しませろよ?









 まぁ、後になって思うんだが、もちっとマシな出会い方は無かったんだろうかね。

 これが奴と俺との最初の出会いだった。 









        ◆









 狙い通り、赤いコートの男は少女から興味を失い俺に興味を持ったら。

 明らかな臨戦態勢で迫ってくる男。



 あっちは二丁拳銃に剣。見たところコートの下にも幾つか銃器有り。

 対してこちらは・・・ブラスターのみ。腰に着けていたDFSは・・・ブローディアの中だろうか?

 防具もただの布の作業服・・・防護効果は望めそうに無い。

 





 取り合えず少女は気絶しているだけだと分かりほっとする。

 今だから言えるが、アレは本当にギリギリのタイミングだった・・・狙いをつける時間すらなかったのだから。







 とうとう唸り声を上げながら右から迫ってくる剣。北斗が殴りかかって来るくらいの速度なのには驚いたが、避けるのはさほど苦ではない。

 角に当たらないように苦心しながらお辞儀する格好で避ける。

 避けたと思ったそれはしかし、男が



「シッ!」



 と気合を込めて無理矢理剣を下に振りぬいたため、こちらの苦心など知らずに派手な音を立てて思いっきり



 ガン!



 と硬質な物同士が打ち合った音を立てて角に直撃する。

 かなり痛かった。当たったのが剣の腹の部分でなかったら大怪我だろうな、とぼんやり思う。



「はっは、痛かったろう少年?」

 ぬけぬけと言ってくる男。



「・・・痛くしたんだろうが」

  

  当 た り 前  

Natural!そうじゃなきゃ楽しくも何とも無いだろう・・・がっ!」

 

 ブォン!



 また振りぬく。今度はギリギリの所で避けた。





「楽しむ?」





「そうさ!『男は度胸、悪魔は酔狂』って誰かが言ってたし・・・なっ!」





 ヒュオン!

 およそこんな大剣から発せられる音とは思えない鋭い風斬り音を上げながら危うい所を通り抜ける剣。 





「クッ・・・関係無い様に思えるが」





「そうか?まぁ・・・いいじゃなぃ、かっ!」

 また危うい所を通り抜ける剣。



「・・・・!」

 反撃。徒手空拳だが、とにかく拳を突き出す。

 ・・・が、身を捩っただけで回避される。



「おおっと、今のは危なかったな。ほらほら」

 今度は向こうが反撃。











 向こうも相当の敵だった。

 あちらの剣はこちらに当たらないが、同じ様にこちらの打撃もあちらに当たらない。

 避け切れない剣戟はブラスターでいなし、避けながら蹴りを繰り出したり殴り掛かったりするものの・・・成果は一向に上がらない。







 剣のリーチが有る事を除いても、この男は―――強い。



 



 最早手を抜いている場合ではない。

 『昂気』を体中に張り巡らせる。それを見て男は驚いたように目を見開いたが

 「隠し玉かい!?いいねぇ、そう来たか!」と言って、早く・・・今までより更に早く剣を振ってきた。







 ・・・戦いを楽しむか・・・まるで北斗だ。そう言えばコートが赤な所とかが似てるな・・・。











 昂気を使っても戦いは終らず・・・戦いは更に加速する。

 











 右、左、上、下、袈裟懸け、逆袈裟、打突そして銃撃。

 捌き、避け、はらい、受け流し、受け止め、壁を使い、全てを避ける。

 もはや気合の声も発さず、剣戟の音と鈍い打撃音が響くばかり。







 俺はあの少女を助ける為にコイツと相対したわけだが、目的と手段が入れ替わっている気がしてきた。

 もしかしたら俺、北斗に似てきているのかも知れない。



















 

 何分経っただろうか。





 ガガガガガガガゥン!



 

 剣を素早く背に収め、二丁拳銃を構えたコートの男が連射をしてくる。

 



 避けようと上体を反らす。

 そして反射的に一歩後ろに下がり・・・



 ガギキッ・・・



 異音。石が何かに擦れた様な音。

 迂闊にも足元に有った瓦礫を踏んでしまったらしく、ぐらりと体が傾ぐ。

 当然、肉体は反射的に体を立て直そうとし―――結果、一瞬だが隙が出来てしまった。

 



 しまった―――!?



 

 もう遅い。



 案の定男はニヤリと笑い、腰溜めに剣を構え―――



「―――チェックメイトだぜ、少年!」



































 呆気無い物だ・・・。

 とっくに分かりきった事ではあったが、運命の神様はとことん俺が嫌いらしい。







 そう思って、左胸を見る・・・。

 

 赤く染まった、鉄色の剣。



 それは墓標の如く・・・俺の背後まで貫き、壁に刺さっている。

 

 肋骨叩き折りながら心臓を貫いているにも拘らず・・・不思議な事に痛みは無いし、出血もさほどではない。

 ・・・そう思っていたら血が濁流の如く溢れ出た。

 希望的観測一切抜きで冷静に判断して・・・死ぬな。

 







 これじゃ北斗に笑われるな。

 もう会う事も無いだろうが。









 死ぬんならせめて皆に一言くらい言わせてもらってから死なせて欲しかった。





 





 勝利を確信してニヤリと笑っている赤く染まった男の姿を視界に納めてから、

 そしてアキトの意識は暗転した。











        ◆











「―――ゼハァッ」



 肺に溜まった二酸化炭素を一息で全て吐き出しつつ―――まぁ、出そうが出すまいがこの体は死んではくれないが―――

リベリオンを引き抜き、血糊を払って背に仕舞う。

 リヴァイアサンの目を突き破った時よろしく真っ赤に染まっちまった顔をコートの袖で拭いながら、少年のことを考えた。





                                             具 体 化 さ れ た 絶 望

 久々に骨のある相手だった・・・少なくとも此処に来る前に始末した『THE DESPAIR EMBODIED』よりは絶対に強い。

 ・・・まぁ、『アンタ魔界のとんでもない奴より強いよ』って言われて喜ぶ人間が居るかどうかは知らないが。

 何処でどう鍛えたのか、それとも生来の力なのか、教えてもらいたかったが・・・死人になんとやら、だな。

 

 







 アイツの死体を一瞥する。

 少年を壁に縫い留めていたリベリオンを引き抜いたため、壁をズルズルと滑り落ち、今は丁度床に座り込んだ格好で動かない。

 赤い血がどくどくと流れ落ち、もう息もしておらず、見る限り生命活動が全て止まっている。







 ・・・そう言えば名前、聞きそびれた・・・Shit







「・・・」





 気絶しているお嬢ちゃんが目に入るが、もうこのお嬢ちゃんに用は無い。

 ・・・十分、楽しんだしな。

 



「さて・・・行くか」





 前金で依頼されたからには、果たさなくっちゃな。









 エボニーとアイボリーの弾倉を交換し、外へと出るために出口へと向かう赤コートの男。

 













 ・・・が、唐突に足を止める。





「・・・そうかい」





 一人ごちり、振り返って一点を凝視する男。

 そこには、相変わらず少年―――アキトの死体。













                    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 それがあるはずだったのに、『アキトの皮を被ったナニか』が、代わりに其処に在った。















 その『ナニか』は、体から大量の血を流していたにも拘らず立ち上がっていた。



 不気味に光る目。理性の色はまるで無く、ただ獲物を狙う飢えた猛獣・・・いや、むしろ猛獣と言うより猛禽類か?そんな野生の目。

 体を覆っている刺青は、作業服の上からでもうっすらと見えるほど眩く発光している。

 その光は体の半分以上を覆った血の色とあいまって、『ナニか』の放つ邪悪な雰囲気をいっそう深めていた。 







 更に目を引くのは、その背に有るモノ。







 白い・・・真っ白な、雪のような色の三対六枚の・・・コウモリの様な。

 いや、どちらかと言うと悪魔の様な大きな翼が、自らの存在を主張するように神々しさを振りまいていた。













 その姿は、まるでかの『大魔王』ルシファー・・・。

 













「・・・お楽しみはこれからって事か。しつこいねぇアンタも」





「・・・」





 ふしゅうぅぅうぅ・・・



 

 挑発に乗ったのか如何なのかは知らないが、『ナニか』が怒った様に食いしばった歯の間から細く長い息を吐いた。

 『ナニか』は、戦闘体勢―――少なくとも人間が取る戦闘体勢ではないそれをとる。







 一挙一動見逃せない。

 リベリオンを構え、アキトを凝視する男。











 何故だろうか。軽口が思いつかない。

 何時もならポンポン出てくるのに。

 代わりに背筋にどっと冷たい物が流れ落ちている感覚があるのは、気のせいか?





 



 互いにその体勢のまま、暫く―――数時間なのか数秒なのか、判断出来なかった―――経つ。

 最初に動いたのは『ナニか』だった。















 爆ぜた。

 吹っ飛ばされた瞬間には漠然とそんな認識しか出来なかった。



















 一瞬。





 0,001秒あるかないか。





 コートの男の目の前で僅かに翼を羽ばたかせてアキトが消えたのと、男の目と鼻の先にアキトが現れたのは・・・同時。







 ―――ズドン!





 「!?―――カハァッ」







 音速、いやそれ以上の速度に反応出来る人間はそうは居ない。

 コートの男は為す術も無く吹っ飛ばされ、壁に身体を叩きつけられた。























 ちょうど先程のアキトの様に、ズルズルと滑り落ちる。







 

 「グッ・・・」

 ―――アバラ五本持ってかれた。ついでに肺もやられたか・・・背骨にもヒビ・・・生きているのが不思議だ。







 ゴボリと口の端から血が流れる。これは重症だ。

 簡単に死ぬような体ではないが、そのままにしていたらおそらく死ぬだろう。  







 こんな状態で、戦えってか・・・無理だ。

 チッ・・・癪に障るが・・・仕方が無い。







 まだ自分は死ねない。女を三人も残してきているのだ。

 それに・・・。



 













 俺の復讐は、まだ―――

















 小型グレネードランチャーをコートから引き抜き、近くの壁に炸裂させる。

 ある種、賭けだったが―――何とか結果は俺の勝ちだったらしい。

 破壊された壁の向こうは、何処までも・・・何処までも続く荒野だった。









 穴に身を踊らせる俺。

 『奴』が追ってくる様子は無い・・・なるほど。余裕ってか?









 ・・・あばよ、半魔の少年。

 次に会う時はどっちが死ぬかね?























 あとがき

 BGMは片翼の天○で(開口一番それか



 えー・・・大方の予想や本来のシナリオをぶっ壊してまでいきなり登場ですダンテ君。

 いや、一応理由はありますよ?





 ダンテが好きだからです。







 御免なさい冗談です石を投げないで下さいああ斧は駄目です死にますって。





 

 本当の理由は・・・初戦闘のシチュエーションが思いつかなかったんです。

 ああ、自分の描写力の低さが恨めしい。

 理性の無い奴(ウィルオウィスプとか)は書き辛いです・・・。





 戦闘をさせるため・・・思い切った苦肉の策でダンテ君に出張ってもらったんです。

 スタイリッシュって言うか、何か鬼畜狩人になりましたが。 





 さて、相変わらず起承転結書けたかどうか不安です。正直起転転転転転半結の様な気が・・・。

 もっと修行を積まねば・・・進歩ないなぁ私・・・。

 

 あ、ようやく家のパソコン直せましたので、掲示板が見られるようになりました。

 気が向いたら、ご感想、ご意見よろしくお願いいたします。

 

 それでは、また今度。

 ベルゼブブでした。







感想代理人プロフィール

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代理人の感想

第三者的にも何も、根っからの悪人でしょうがアンタ(爆)。

時々人が良さそうに見えて人懐っこい悪人、というあたりが彼の立ち位置だと思いますがいかにw