機動戦士ガンダムSEED AnotherEdition
第3話 『始動』
鼓膜を揺るがす爆音で、マリューは意識を取り戻した。肩を撃ち抜かれた衝撃で、一瞬だが気を失っていたらしい。
まず目に映ったのは、赤いノーマルスーツを着たザフト兵。手にした大型のコンバットナイフを振りかぶったまま、一時停止にした映像のように硬直している。何故?――そんな事はどうでもいい!
肩の痛みを無視し、ザフト兵に拳銃を向ける。発砲。しかし寸前で気がついたザフト兵は、巧みな跳躍でその攻撃を回避する。そのまま、格納庫に残されていたもう1つの<G>に取り付く。
舌打ちしたマリューは、傍らで立ち尽くす少年を、ようやく起動準備が整った<G>のコクピットへ押し込んだ。続いて自身もコクピットの中に飛び込む――前に一度、格納庫を見回した。
彼女の部下は、全滅していた。<G>の起動準備に必要な時間を稼ぐため、圧倒的に優勢な敵と戦った結果がこれだった。一瞬だけ目を閉じ、そしてコクピットに飛び込む。
「シートの後ろに!」
「はい」
マリューは少年を退かせると、席に座り直す。手早く、しかし焦らずに1つ1つスイッチを入れ、<G>の立ち上げを開始する。
「この機体だけでも……私にだって、動かすぐらい!」
駆動音が低く響き始め、計器類に次々と光が入る。メインモニターに、燃え上がる格納庫の情景が映し出された。サブモニターが点灯し、OSの起動画面が大きく表示される。
General
Unilateral
Neuro-link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
「GUNDAM……?」
サブモニターを覗き込んだ少年が、小さく呟く。
<G>の両目に光が灯り、その巨体が動き始める。バッテリーから供給された電力エネルギーが全身のアクチュエータを稼動させ、鋼鉄の四肢が無理矢理に拘束を引き千切る。
燃え上がる炎の中、<G>――GAT−X105<ストライク>は立ち上がった。
『ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。市民の皆さんは速やかに最寄のシェルターへと避難して下さい。繰り返します――』
ヘリオポリス行政府広報部のアナウンスが、戦火に蹂躙される街に響き渡る。我先にと逃げ惑う人々の中に、ようやく地上部へと脱出して来たサイ達4人の姿もあった。
「何で……何でこんな事に……」
懸命に走りながらも、ミリアリアが呆然と呟く。
「分かんねえよ! 分かんねえけど、とにかく走るぞ! ミリィ!!」
その手を引きながら、トールが我が物顔に街を伸し歩くジンを、憎々しげに睨み付ける。
「畜生、俺達の街を好き勝手しやがって!」
実際、この惨禍の大半は、たった1機のジンによってもたらされた物なのだ。信じられなかった。今まで自分達が住んできた世界は、信じていた平和は、こんなにも脆弱なものだったのか? 足元が崩れ落ちるような、酩酊にも似た思いが、少年達の脳を痺れさせていた。
「――! み、見て、アレっ!」
後ろを振り向いたカズイが、上空を指差し絶句する。炎上するモルゲンレーテの工場で、一際大きな爆発が起こる。その炎の中から、さらに2体のMSが飛び出して来た。
「まだ、いたのか……」
サイの呻きにも、絶望の色が濃く滲み出ていた。
奪取した連合軍のMS――GAT−X303<イージス>という名らしい――を、アスランは見事に着地させた。モニターの向こうでは、最後の1機がよたよたした動きで着陸していた。
「キラ……」
あの桜の下で迎えた別れの日の情景が脳裏をよぎる。アスランは頭を振り、思考を切り替えた。
月にいるはずのキラが、地球軍の機動兵器に関わるなど、ある筈が無い。何より今は、このイージスをヴェサリウスへと無事に持ち帰る事に、意識を集中するべきだ。
『アスラン、良くやったな!』
ミゲルから通信が入った。
「ラスティは失敗だ。向こうの機体には地球軍の士官が乗っている」
『何ッ! じゃあラスティは!?』
通信モニターの向こうのミゲルに、頭を振るアスラン。ミゲルには、それで通じた。その目が鋭く細められる。
『……あの機体は俺が捕獲する。お前は先に離脱しろ』
「了解した」
どこかで後ろ髪を引かれるような思いを感じながら、アスランは機体を跳躍させた。
「オロール機大破! 緊急帰投! 消火班、Bデッキへ」
ヴェサリウスの艦橋に、通信手の声が響き渡る。
「まさか、これほどの手練がいるとは」
戦術モニターを睨んでいたアデスが、思わず呻き声を漏らした。敵特務艦はすでに沈没、メビウスも2機を撃破し残るはたった1機――だが、その1機が曲者だった。
ガンバレルを縦横無尽に操り、巧みに全方位攻撃を仕掛けて来る。すでに2機のジンが、戦闘力を喪失していた。
その時、戦闘指揮をアデスに任せ無言で戦況を見守っていたクルーゼが立ち上がった。
「私が出よう」
「は?」
思わず聞き返すアデスに、クルーゼは不敵な笑みを向ける。
「どうやら些かうるさい蝿が飛んでいるようだからな。シグーの準備は出来ているのだろう?」
ナタルは意識を取り戻した。といっても、自分の置かれた状況を認識出来ていた訳ではない。ドックに強烈な振動が生じ、潜り抜けようとしていたハッチに叩きつけられた事を覚えているだけだった。
誰かの声が耳朶を打った。怒声だった。右肩と両頬に痛みがあった。後者の方が強かった。負傷したのかもしれない。
ナタルは頬に左手を当てた。何かが左手にぶつかった。再び怒声。ナタルはようやく理解した。瞼を開く。誰かが、彼女の顔を平手で打っているのだった。
やや混濁した意識のまま、ナタルは相手を睨みつけた。怒鳴り、平手を喰わせていたのは部下のノイマンだった。ナタルが目を開けた事を知った彼は、中尉、大丈夫ですかと大声を上げた。
一体、何が。ナタルはそう訊ねかけ――そこでようやく記憶と意識の混乱が収まった。ザフト艦からの戦闘通告を受け、急いでアークエンジェルへ向かおうとした所で、爆発が起こったのだ。
「状況は!?」
跳ね起きようとして、自分が無重力空間に浮遊している事に気付く。まだ多少は混乱しているらしい。周囲を見渡す。アークエンジェルのブリッジだった。
「通路で気絶なさっていた中尉を私達が発見し、ここまでお連れしました。現在、トノムラ伍長が生存者の探索を行っております」
「ザフト艦は?」
ナタルの問いかけに、ノイマンは頭を振る。
「コロニーの内外で戦闘が続いているのは確かですが、それ以上は不明です。強力な通信妨害がかけられておりまして」
「そうか」
「それと、港口の隔壁周辺は瓦礫が密集しています。完全に閉じ込められました」
「くっ……」
小さく舌打ちすると、ナタルは手近なコンソールに取り付き、立ち上げる。艦の状況を確認。アークエンジェルは――奇跡的にも――無事だった。
「さすがアークエンジェルだな。これしきの事で沈みはしないか」
満足と賞賛の呟きを漏らす。と、ブリッジのドアが開き、トノムラを先頭に3人の下士官が入ってきた。
「無事だったのは爆発の時点で艦にいた者だけです。取り合えず、工員以外で動ける者は全て連れて参りました」
ナタルの無事に気付き、敬礼するトノムラ。2人の下士官もそれに続く。
「ロメロ=パル伍長です」
「ダリル=ローラハ=チャンドラ2世伍長であります」
「ナタル=バジルール中尉だ」
答礼しながら、ナタルは目眩に似た感覚を覚えた。発見された生存者は下士官兵のみ。つまり、現時点におけるこの艦の最上位者は、ナタル自身という事になる。
感情を押し殺し、ナタルは口を開いた。
「現在、我が軍はザフトの奇襲を受け、危機的な状況にある。だが、幸いにも本艦は無事だ。よって、我々でアークエンジェルを発進させる」
ナタルの言葉に、4人は顔を見合わせた。代表して、ノイマンが質問する。
「これだけの人員で、でありますか、中尉?」
「そうだ。不可能か、曹長?」
「いえ、可能です――動かすだけならば」
ノイマンの回答に、ナタルは大きく頷く。半ば以上、意識しての演技だった。
「ならば、全員シートに着け! コンピュータの指示通りにすれば良い!」
弾かれたように全員が動き出す。ノイマンは操舵席、トノムラは通信席、パルとチャンドラはオペレーター席にそれぞれ座る。ナタル自身も、艦長席に腰を下ろした。
可能なのか? ナタルの胸中で不安が頭をもたげる。外は未だ戦闘中なのだ。たったこれだけの人員、しかも指揮を執るのは一介の中尉でしかない自分――臓腑が冷えるような不安を、しかし押さえ込む。出来る出来ないの問題ではない。やるかやらないかだ。
「発進シークエンススタート! 非常事態のためプロセスC30からL21まで省略!」
自分の声が震えていない事に、ナタルは密かに満足した。
「生意気なんだよっ! ナチュラルがMSなどっ!」
気合の叫びと共に、ミゲルはスロットルを押し上げた。翼のようにも見えるジンの背部メインスラスターが火を噴き上げる。ミゲルの機体は、ふらふらと揺れる連合のMSへと襲い掛かった。
何て無様な動きだ。ミゲルは鼻で笑った。ザフトのパイロットならば、前日に座学を終えたばかりの訓練生でも、こんな醜態はさらさないだろう。やはりナチュラルは――と、目の前のMSに変化が起こる。
機体表面にノイズのような揺らぎが走る。一瞬後、メタリックブルー1色だった装甲は、赤・白・青の鮮やかな3色染めに一変していた。
「何の虚仮おどしだ、それは!?」
嘲笑と共に振り下ろされたサーベルの一撃は、しかし防がれていた。敵MSのかざした右腕によって。
「何ぃっ!?」
驚愕するミゲル。ジンのサーベルの刃は鈍い。元々、原型である西洋刀剣と同じで、『切り裂く』のではなく『叩き切る』事を主眼としているのだ。だがその分、刀身は肉厚で重量も十分以上にある。ジンの膂力と相まって、直撃すれば戦艦の装甲すら叩き潰す威力を持っている。それを目の前のMSは、腕1本で受け止めていた。
ノロノロと、敵MSが腕を伸ばす。捕まれば、パワーでは勝てない。そう直感的に判断し、ミゲル機は飛び退った。腰にマウントしていたマシンガンを取り出し、トリガーを引く。
轟音と共に76ミリ砲弾が次々と銃口から吐き出され、敵機へと集中する。そして、その全てが弾き飛ばされた。トリコロールの装甲には、傷1つついていない。
「一体どうなってるんだ!! こいつの装甲は!?」
ミゲルは、思わずコクピットの中で毒づいた。
それとは対照的に、マリューはストライクのコクピットで安堵の息をついていた。
「位相転移装甲、うまく作動してくれたわね」
ストライクを始めとするGATシリーズには、連合の持つ最新の技術がコストを度外視して採用されている。PS装甲もその1つである。これは特殊加工された装甲表面に一定の電流を流す事によって位相転移現象を引き起こし、強度を飛躍的に高めるという物だ。テストにでは、砲弾やミサイルなどの実弾兵器ならば、ほぼ確実に無効化できるという結果が得られている。さすがにビーム兵器はその限りではないが。
「来るッ!!」
一旦、退いたジンが再び突撃してきた。マリューはアームレバーのトリガーを押し込む。頭部機関砲が火を噴いた。弾幕を巧みにかいくぐるジン。何発かは命中したようだが、目立った効果は無い。
ストライクの頭部機関砲は弾径こそジンのマシンガンに匹敵する75ミリだが、頭部内蔵式のため砲身長が極端に短く、弾速と装甲貫通力は明らかに劣る(本来、ミサイル等の誘導兵器に対する迎撃用なので当然だが)。
ストライクの懐に飛び込んだジンは、再びサーベルを振るう。直撃。今度は腕でガードできず、強かに胴を打たれた。
「ああ!」
当然、PS装甲は斬撃を弾いたが、衝撃までは殺せない。ただでさえバランスを崩しているストライクは、大きくよろける。嵩にかかって次々に切りつけるジン。ストライクは堪らず、ずるずると後退した。
「このままでは……」
焦るマリュー。一見、互いに決め手を欠いた状態にも見えるが、このままではストライクが圧倒的に不利だ。なぜなら――
「あああっ!!」
その時、今まで後部の補助シートで大人しくしていた少年が驚愕の叫びを上げた。その大きく見開かれた目は、サブスクリーンの1つ――ストライクの下方を映した映像に釘付けになっている。
「サイ、トール、ミリアリア――カズイまで!!」
「な、何でこっちに来るんだよ!?」
悪態を吐きながら逃げ惑うトール達。争う2体のMSは、あろう事か彼らの方に向かって来ていた。
必死になって走る――走る――走る! だが、人間の10倍以上の頭頂高を持つMSは、その歩幅も10倍以上。到底、振り切る事は出来ない。サイの指示で何度か方向を変えたものの、まるで悪意があるかのように鉄の巨人達は4人を追ってくる。
「きゃぁっ!!」
ボロボロになった路面に躓き、地面に倒れるミリアリア。
「い……った……」
転んだ拍子に足を捻りでもしたのか、起き上がれない。
「ミリィ!!」
慌てて駆け寄る男3人。トールが両足、サイとカズイが肩をそれぞれつかみ、ミリアリアの華奢な体を持ち上げる。
「い……意外と重い――」
思わず失敬千万な事を口走るカズイ。だが、それに抗議するような余裕はミリアリアにもトールにも無い。再び全力疾走開始。しかし、速力は明らかに先程よりも落ちている。
「うわぁ!?」
今度は焦ったカズイが足をもつれさせる。引きずられ、4人まとめて横転。
「いててて」
起き上がった少年達の顔が、恐怖で凍りつく。頭上には、今まさに彼等へと落下しようとしている、巨大な鋼鉄の足の裏があった。
それは、咄嗟の行動だった。
キラは操縦桿に飛び付くと、女の手を押しのけて左手で握り、手前に引っ張る。同時にかがみこむと、フットペダルを右手で押し込んだ。
踏み下ろすストライクの左足が、寸前で方向を変えた。そのままストライクは腰を落とし、かろうじて転倒を避ける。
起き上がったキラはモニターのジンを睨みつけると、今度は右のレバーを握り、前方に倒す。身を沈めた機体がサーベルをかろうじてかいくぐり、そのままジンに体当たりする。大質量同士が激突し、ヘリオポリスの大地を揺るがした。
機体のパワーは、明らかにストライクが上だった。ジンの巨体が吹っ飛び、無様に横転する。
「みんなは!?」
サブモニターを確認。巨大な足跡の脇、ほんの1メートル程。腰を抜かしてへたり込んでいるものの、4人は無事だった。キラはほっと息をつくと、唖然としている女性兵士を振り返った。
「ここにはまだ人がいるんです! こんなモノに乗っているんだったら、何とかして下さいよ!」
「君!?」
とがめるような女性士官の声を無視し、キラは次々とスイッチを入れていく。サブモニターに移った機体の制御プログラム。それに目を通したキラが、思わず絶望の叫びを上げる。
「無茶苦茶だ! こんなお粗末なOSで、これだけの機体を動かそうなんて!」
「まだ全て終わってないのよ!」
そう、GATシリーズは、機体はともかく制御システムは未完成だった。
戦前からMSを主力兵器と定めて研究開発を行って来たザフトと異なり、地球側には人型機動兵器に必要な技術の蓄積などある筈が無い。マリューを含めたスタッフ達の想像を絶する努力により、1年未満という信じ難い短期間で機体のロールアウトにまで漕ぎ着けたものの、その機体を動かすためのOSがまだ存在していないのだ。
一応、鹵獲したジンのものを参考に組み上げてはいたものの、コーディネイターの反応速度を前提としたOSはナチュラルに使いこなせず、不完全な仮OSでかろうじて動かしているのが現状だった。
尤も、そんな事情はキラの知った事ではない。彼に分かるのは、このひどくアンバランスな兵器で目の前のジンを撃退しなければならないという事だけだ。何故かって!? そうしないと僕もサイ達も助からないからに決まってるだろう!!
「どいて下さい!」
倒れたジンが立ち上がるのを見ながら、キラは叫んだ。
「早く!」
それから数秒の間、マリュー=ラミアスは自分の肉体に命令を下したものが果たして自分の脳であったのか、かなりの時を経た後でも結論を出せなかった。
マリューがシートから腰を浮かし、そこへキラが割り込むように座った。シートの脇からキーボートを引き出す。左手の指がまるで別の生き物であるかのように蠢き、凄まじい速度で打鍵する。
「――キャラブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定……ちっ! なら擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結――」
ぶつぶつ呟き、舌打ちや悪態を差し挟みつつ、キラはストライクのOSを書き換えていく。迫るジン。キラは左目だけでそれを確認すると、右腕1本でレバーとトリガーを操る。機関砲が唸り、火線がジンに集中。続いて放った右のパンチが命中し、再びジンを吹っ飛ばす。
「ニューラルリンゲージ・ネットワーク再構築……メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動――」
その間にも左手は、とんでもない速さと正確さでキーを叩く。
(この子――)
補助シートで、マリューは驚愕していた。戦闘行動を取りながらのプログラム書き換え――それも全くの素人が――などナチュラル、いや例えコーディネイターであっても可能とは思えない。
「伝達関数――コリオリ偏差修正……」
だがマリューの畏怖、というよりむしろ恐怖すらこもった視線にキラは気付かない。ひたすら自分の全脳力を解放し、キーボートを叩き続ける。
「運動ルーチン接続、システムオンライン……ブーストラップ起動――!!」
終了。ジンが上体を起こし、マシンガンを構えようとするのに気付き、キラはペダルを踏み込んだ。機体は敏感に反応し、高く高く跳躍する。ジンもその後を追って跳んだ。
「他に武器……後は――」
武装を検索。モニターに機体図が表示され、頭部機関砲の他に両腰が点滅する。
「戦闘ナイフ!? これだけかっ!!」
舌打ちしながらも選択ボタンを押す。左右の腰のホルスターが開き、射出された巨大なナイフを掴む。着地と同時に、大地を蹴って前方に突撃。今までの稚拙な動きからは信じられない軽快な機動で、一気にジンに肉薄する。
「こんな所で、やめろーッ!!」
突き出された2本のナイフは、ジンの装甲をあっさり切り裂いて左右の首筋を抉った。火花が飛び散る。数度の痙攣後、まるで糸が切れた人形の様に、あっけなくジンの動きは停止した。
「何なんだあいつ、急に動きが!?」
完全に光が落ちたジンのコクピットで、ミゲルは叫んだ。
「ハイドロ応答無し、多元駆動システム停止――ええぇいっ!!」
忌々しげに言うと、コクピットハッチを開き、脱出する。ラウンドムーバーを噴かして戦場から離脱しつつ、連合のMSの姿を目に焼き付ける。
「この借りは、返すぞ!」
ジンから脱出したパイロットに気付き、マリューはある事を思い出した。慌てて叫ぶ。
「まずいわ! ジンから離れて!!」
「え?」
しかしキラは、呆けたかのように虚脱した声で答えるだけだった。
次の瞬間、自爆装置が作動し、ジンの巨体が爆発した。至近距離で爆風を食らい、ストライクもまた宙を舞う。
「うわああ!!」
凄まじい振動にさらされるストライクのコクピット。その中でマリューは、キラの顔をもう1度見た。
(この子は、一体……?)
その疑問を最後に、マリューの意識は途絶えた。
後書き
ナタルの階級ですが、開始時点で中尉に改めています。士官学校出の現役士官(しかも戦時中)なのに、25歳で少尉は低いんじゃないかと思いまして。
代理人の感想
うーむ。
相変らず好調ですが、そろそろ変化が欲しいところかなーとは思わないでもありません。
現状、原作から殆ど逸脱してませんからね。
それとも、このまま再構成補完で行くのかな?