機動戦士ガンダムSEED AnotherEdition

第7話 『激突』

「キラ=ヤマト! ガンダム行きます!!」
 リニアカタパルトが作動し、ストライクを撃ち出す。艦と機体をまるで臍の緒(アンビリカルコード)の様に繋いでいたバッテリーケーブルが限界まで伸びきり、弾ける様にストライクから離れる。PS装甲が作動、灰色の待機状態だった機体が鮮やかなトリコロールに色づく。
 急激にかかるGに、コクピットのキラは顔を歪めた。そこに鳴り響く敵機接近を告げる警告音。はっとモニターに視線を移す。そこに映っていたのは、凄まじい加速で迫り来る真紅のMSだった。
「イージス!? アスラン、君なのか?」


 アークエンジェルのブリッジも、戦闘の緊張の中にあった。正規の兵員に混じり、トール達ヘリオポリスの学生も、真剣な表情で手元のコンソールを操作する。
「バジルール中尉、砲戦の指揮は貴方が取って。発砲のタイミングはそちらに任せるわ。操艦は私が直接、指示を出します」
 艦長席に腰掛けたマリューが、ブリッジ下方のCICに詰めるナタルに言う。頷いたナタルは、凛とした声を張り上げた。
「対艦対空戦闘用意!! 主砲および110センチ単装両用砲(バリアント)、全砲門開け! 艦尾ミサイル発射管13番から24番まで対空ミサイル装填! 対空機関砲発射準備!」
 次々と、アークエンジェルの戦闘準備が整っていく。内蔵されていた砲身が姿を現し、艦尾の多目的ランチャーは顎を開いてミサイルの牙を覗かせる。全身の機関砲が、獲物を求めて旋回。
 大天使の名に相応しい優美とさえいえる白い船体は、今や全くの暴力装置として、その本性を剥き出しにしていた。
「後方より接近する熱源3! ローラシア級から発進したMSと思われます! 距離67――こ、これは!?」
 CICで索敵を担当していたチャンドラが、解析情報から得られた結果に絶句する。
「えっ、Xナンバーズです!! X102、X103、X207!!」
 一瞬、凍りついた艦橋で、マリューだけが絞り出すような声を出した。
「奪った<G>を4機、全て投入したというの?」


「ヴェサリウスからはもうアスランが出ている! 後れを取るなよ!」
 青と白に塗られたMSのコクピットで、イザークは叫んだ。GAT−X102<デュエル>。Xナンバーズ全機の基本となった機体だ。他の4機のように特徴的な性能は与えられていないが、その分どのような状況でも実力を発揮する事が出来る。武装も固定式の頭部機関砲に加えて57ミリビームライフル、ビームサーベル、対ビームシールドと、遠近両用に対応したベーシックなものだ。
『フン、あんな奴に』
 GAT−X103<バスター>を操るディアッカが冷笑する。ベージュを基調に赤とカーキ色を配されたバスターは、中・遠距離からの火力支援用として開発されている。主要兵装は左右の肩にそれぞれ装着された、94ミリビーム砲と350ミリレールキャノンという強力なものだ。ただ、完全に射撃戦へと特化した機体のため、サーベルやシールドのような白兵戦兵器は装備していない。
『とにかく、急ぎましょう!』
 モニターの向こうで頷くニコル。彼の乗る黒一色のMS、GAT−X207<ブリッツ>は偵察と近接戦闘用の機体であり、5機の中でも最高の機動性とセンサー能力を有している。50ミリビームライフル、ビームサーベル、3連射出槍(ランサーダート)といった武装の大半を、右腕の攻盾システム(トリケロス)と呼ばれる大型シールドに内蔵するという特徴的な装備をしていた。ちなみに左腕には、カウンターウェイトを兼ねて大型のアンカークロー(グレイプニール)が搭載されている。
「俺はアスランと敵のMSをしとめる! お前達は<足つき>を沈めろ!!」
『了解了解!』
『分かりました、行きます!』
 3体のXナンバーズは2手に別れると、本来の母艦に襲い掛かった。


 急速に接近するストライクとイージス。そのまま2機は、ギリギリの距離ですれ違う。
『キラ、止めろ!! 俺達は敵じゃない、そうだろう!?』
 すれ違いざま、イージスから通信が入る。やはりパイロットはアスランだった。
『お前がなぜ地球軍にいる!? なぜナチュラルの味方をする!? 俺達が同じコーディネイター同士で戦わなければならない理由が、一体どこにあると言うんだ!?』
「……戦う理由なら、ある!」
 親友の声に萎えそうになる指先を叱咤し、キラはビームライフルのトリガーを引いた。致命的な威力を秘めた光条が走り、イージスは回避機動を取りつつストライクから離れる。
『キラ!?』
「僕は地球軍じゃない! でもあの艦には仲間が、友達が乗ってるんだ!!」
 友人を守るために友人と戦う、そのどうしようもない矛盾に、キラは声を張り上げた。
「君こそ、君こそ何でザフトになんか!? 何で戦争をしたりするんだ、アスラン!? 戦争なんて嫌だって、君だって言ってたじゃないか! その君が、何で――」
 キラの叫びを、一条のビームが切り裂く。新手のMSが1機、乱入してきたのだ。
『何をモタモタやっている、アスラン!?』
 スピーカーから流れる聞きなれない声。新たなる敵機のデータに、思わず息を呑む。X−102デュエル、ヘリオポリスで奪われた<G>の1機だ。新たなる強敵の出現に、キラは戦慄した。


「さて、行くぜ!」
 アークエンジェルを目指し、ディアッカのバスターが突撃する。両脇に構えた大口径ビーム砲とレールキャノンを斉射する。
 だが、その返礼もまた苛烈なものだった。両舷の両用砲が、艦橋後方と艦尾から放たれるミサイルが、総計16門の機関砲が、濃密な弾幕でバスターを熱烈に歓迎する。
「ええい!」
 舌打ちしたディアッカは、慌てて回避機動を取る。だが砲火は、巧みにバスターの頭を押さえ込んだ。たちまち撃ち崩され、ズルズルと後退を強いられる。
「くそ、取り付けないとは中々の武装じゃないか。ミゲル達が返り討ちに合うわけだ」
 忌々しげに毒づくディアッカに、ニコルから通信が入る。
『艦底部からしかけます、援護を!』
「OK!!」
 短くそう答えると、ディアッカは再びトリガーを引いた。


 バスターとブリッツを相手に必死の防戦を行うアークエンジェル。その艦橋は、1歩間違えれば混乱に落ち入りかねない喧騒の中にあった。
「敵MS、艦下方へと展開!」
「底部機関砲迎撃開始!!」
 ナタルの指示に従い、機関砲が作動した。 レーダーと一体化した砲身を振り上げ、迫り来る敵機に向けて大量の75ミリ砲弾を吐き出す。だが、バスターもブリッツも今度は回避しようとしないPS装甲の防御力にモノを言わせて強引に弾幕を突破、至近距離からビームを放つ。
 命中。激しい衝撃が艦を揺さぶり、トール達は思わず悲鳴を上げる。
「く、被害報告!!」
「左舷に命中3!! いずれもビーム兵器です!! 損傷はありません!!」
 報告に、胸を撫で下ろすマリュー。アークエンジェルは、ラミネート装甲と呼ばれる特殊装甲を採用している。これは船体全体を1つの装甲に見立て、点に受けたエネルギーを熱に変換し面全体に拡散することでダメージを防ぐというもので、特にビーム兵器に対して高い耐性を持っている。
 嵩にかかって攻撃を続ける2機の<G>。実体弾ではPS装甲に決定打を与えることは出来ない。ならば――
「艦長、敵機に対して主砲を使用します。射界の確保を」
 ナタルの声に、マリューは即座に頷く。
「了解! 左ロール角30、取り舵20!」
「左ロール角30、取り舵20」
 操舵席のノイマンが復唱し、舵輪を握る両腕に力を込める。アークエンジェルは、その巨体からは信じられない軽捷さで回頭した。すかさず主砲砲塔が旋回、砲身が仰角を取り、2機のMSを捉える。
「主砲、撃てェーッ!!」
 ナタルの叫びと共に、直径2メートルを超える極太のビームが放たれた。慌てて後退するバスターとブリッツ。
 一息つきながらも、マリューの胸は晴れない。このままではいずれ限界が来る。フラガはまだなのだろうか?


「粘りますな、連中も」
 ヴェサリウスの艦橋で、アデスがポツリと呟く。
「ああ、そろそろ仕留めよう。有効射程距離内に入り次第、砲撃開始だ」
 悠然と命じるクルーゼに、通信手が報告する。
「ガモフより入電、『本艦ニオイテモ確認サレル敵戦力ハMS1機ノミ』、以上です」
「ふむ、あのMAはまだ出られん、という事か」
 ヴェサリウスからはフラガのメビウス・ゼロを発見出来なかったため、ガモフに命じて確認させたのだが、その返答がこれだった。おそらくクルーゼがシグーで与えた損傷のため、出撃が不可能なのだろう。そう思うのだが、どうもしっくりこない。
 まあいい。フラガとて、機体が無ければ出撃できないのは当然だ。出来れば自分の手でとどめをさしたかったが、翼を傷つけた鷹を籠ごと踏み潰すのもまた一興――そう冷笑を浮かべたクルーゼの脳裏で、ぞわりと何かが蠢いた。
「アデスっ!! 機関最大、艦首下げろ!! ピッチ角60!!」
 唐突に、クルーゼの口から命令が飛び出した。ブリッジのクルー達は虚を突かれ、ただクルーゼの顔を見るばかりだ。当然だ、この感覚を理解するのは他人には不可能なのだから。どうしようもない焦りと苛立ちがクルーゼを苛む。
 その時、管制クルーが驚きの声を上げる。
「本艦底部より接近する熱源! MAです!!」


 敵艦の姿を捉えたその瞬間、フラガはスロットルを全開にした。
「うぉりゃあああっ!」
 気合の雄叫びを上げ、最大加速で突撃。寸前でようやくこちらに気づいたのか、敵艦のエンジンが轟音を立てる。スラスター噴射、近接防御装置(CIWS)作動。しかし、遅い。
 ガンバレル展開、狙いは唸りを上げる巨大な機関部。すれ違いざま、ありったけの火力をブチ込む。
 まさに猛禽の狩りだった。はるか空の高みを遊弋し、驚異的な視力で地上を見下ろす。獲物を見つけるやいなや、いかなる生物をも凌駕する高速で急降下、強靭な嘴と爪で屠り、捕らえる。
「おっしゃあ!」
 手応えを確認し、コクピットの中で小さくガッツポーズを作るフラガ。そのままの速度で上方に抜けると、フラガとその愛機は火を噴く敵艦を尻目に、その宙域から離脱した。


「フラガ大尉より入電、『作戦成功、コレヨリ帰投スル。アリッタケノしゃんぱんヲ用意サレタシ』」
 トノムラの報告に、アークエンジェル艦橋は歓声に包まれた。サイ達も顔を見合わせ、ほっと胸を撫で下ろす。
 今こそ絶好の勝機、そう確信したマリューが背筋を伸ばして声を張り上げる。
「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます!」
「了解! 艦首陽電子砲斉射用意!!」
 ナタルの指示と共に、アークエンジェルの左右の艦首が展開し、発射口が開く。数々の武装の中でも最大の破壊力を誇る陽電子砲が、その姿を現した。
「陽電子バンクチェンバー臨界!」
「マズルチョーク電位、安定しました!」
「アークエンジェルより各機へ! これより本艦は艦首陽電子砲を発射します! 至急、射線上から退避してください!」
 CICの中を駆け回る声。
「撃てェーッ!!」
 ナタルの号令と共に、左右の砲門が火を噴いた。圧倒的なエネルギーを秘めたプラズマの渦が、宇宙の闇を引き裂いた。


 ヴェサリウスの艦橋は、激しい振動の中にあった。
「機関区損傷大! 推力低下!」
「第5ナトリウム壁損傷! 火災発生! ダメコン急げ!!」
 警報と怒号が飛び交う中、更なる凶報がもたらされる。
「熱源接近、敵の艦砲射撃です!! 方位0−0−0!!」
「右舷スラスター最大!! かわせーっ!!」
 普段、操艦指揮はアデスに一任しているクルーゼが、身を乗り出して叫ぶ。傷ついたエンジンで懸命に回避機動を取るヴェサリウス。その右舷を、<足つき>の砲撃がかすめる。
 新たな衝撃が艦を揺さぶる。かろうじて直撃こそ避けたものの、受けた被害は甚大だった。ヴェサリウスは少なからざる兵員と共に、その戦闘能力を完全に喪失していた。
「ムウめ……!」
 怨嗟の声で宿敵の名を口にするクルーゼ。まさか、守るべき戦艦を囮に奇襲をかけてくるとは! 一瞬で王手から完敗へと突き落とされた屈辱が、全身を瘧のように震わした。
「離脱する! アデス、ガモフに打電だ!」


 戦況は、ストライクのコクピットにも逐一と伝わっていた。
「やった!」
 作戦成功の報告に、安堵の声を上げるキラ。デュエルを相手に逃げの一手に徹していたため致命傷こそ避けていたものの、さすがに限界だった。だが、母艦を傷つけられ直ぐに撤退すると思っていたデュエルは、それどころかますます攻撃の手を強めていた。
『イザーク、撤退命令だぞ!!』
『うるさい! 腰抜け!』
 通信を聞く限り、どうやら意地になったデュエルのパイロットが、撤退命令を無視して戦闘を続行しているらしい。
「そんな! 話が違いますよ、フラガ大尉!!」
 思わず情けない悲鳴を上げるキラ。両手にビームサーベルを構え、突っ込んでくるデュエルを辛うじてかわす。そこに背後から突然の衝撃。振り向くと、両腕の砲門をこちらに向けたバスターの姿があった。アークエンジェルを攻めあぐね、せめてストライクを、とでも思ったのだろうか。
「う、うわあぁぁっ!!」
 緊張と恐怖に耐えかね、目茶苦茶にライフルを撃ちまくるキラ。だが、そんなめくら撃ちではかすりもしない。それでもトリガーを引き続けるキラの耳に、甲高い警告音が飛び込む。
 慌ててモニターを確認し、キラは蒼白になった。ビームライフルの射撃にエネルギーを使い過ぎ、バッテリーの残量がレッドゾーンに突入したのだ。もうライフルは使えない。それどころかエネルギーの供給を断たれ、PS装甲まで解除された。
「し、しまった……」
 機体本来の灰色に戻ったストライクのコクピットで、キラは自分の迂闊さを呪った。武器と鎧を失った裸のストライクに、デュエルが、バスターが、次々に襲い掛かる。
 思わず悲鳴を上げ、目を閉じるキラ。だが襲って来たのは機体を破壊する衝撃ではなく、強烈な急加速のGだった。
 恐る恐る目を開け、キラはぎょっとした。ストライクは、ある種の節足動物を思わせる奇怪な形状のMA、その大型のクローによってがっちりと捕獲されていたのだ。
「ア、アスラン?」
 そのMAが変形したイージスだと気づくのに、少し時間がかかった。


 ストライクとデュエルを汎用型、バスターを砲戦型、ブリッツを偵察型とすれば、イージスは一撃離脱を得意とする<強襲型>となるだろう。その最大の特徴は、MAへの変形機能だ。この形態を取る事によってイージスは5機の中で最大の推力を得、また絶大な威力を誇る580ミリエネルギー砲(スキュラ)の使用が可能となる。
 その高速にものを言わせてデュエルの鼻先からストライクを掠め取ったアスラン。通信機から、イザークの罵声が響き渡る。
『貴様、何をするアスラン!?』
「この機体、捕獲する!」
『何だとっ!? 命令は撃破だぞ!! 勝手な事をするな!!』
「捕獲できるならその方がいい! 撤退する!」
 それだけを一方的に告げ、通信をストライク相手の接触回線に切り替える。
『アスラン、どういうつもりだ!?』
 今度はキラの叫びが聞こえる番だった。
「このままガモフへ連行する」
『ふざけるなっ! 僕はザフトの艦になんか行かない!』
「いい加減にしろ!! このまま来なければ、俺はお前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!!」
 思わず声を荒げるアスラン。と一転して、今度は低い、苦渋のにじんだ声でキラに語りかける。
「<血のバレンタイン>で母が死んだ。俺はもう、これ以上――」
 その時、コクピットに警告音が鳴り響く。ハッと顔を上げたアスランの目に映ったのは、太陽を背にして逆落としに突っ込んでくるMAだった。ガンバレルが展開され、四方八方からの射撃がイージスを襲う。
 MS形態になって防御姿勢を取り――アスランは愕然とした。今の攻撃が、イージスからストライクを引き離すためのものだと気づいたのだ。
「しまった! キラ!!」


「すまん、遅くなった! 大丈夫か、キラ!?」
『あ、あんまり大丈夫じゃありません……』
「何だその返事は!? 男だったらちっとは見栄を張れ!!」
 通信機の向こうで蚊の鳴くような声を上げるキラに、フラガは理不尽な台詞を叩きつけた。あんまりだ、と抗議の声が聞こえたがとりあえず無視。
「まあいい、急いでアークエンジェルへ向かえ! アークエンジェル、ランチャーパックの射出準備だ! 空中で換装させるぞ!! 出来るな!?」
『そ、それはシミュレーション上では可能ですが……いくらなんでもこの状況では無茶です』
「やらなきゃ終わりだ! 気合と根性で成功させろ!!」
 狼狽するマリューにそう叫び、通信を切る。と、ストライクを狙うバスターを発見。左右の砲を連結し、構えたその姿を見て、機体のデータを思い出したフラガは舌打ちした。
 バスターは通常のメインバッテリーに加えて砲撃用のサブバッテリーを左右に2つ、砲身の基部に装備している。そのため左右の砲を繋ぎ、2つのバッテリーを直結させる事によって、高い火力をさらに向上させる事が出来るのだ。
「させるかよ!!」
 今まさにストライクを撃とうとするバスターを背後から攻撃。不意打ちを喰らったバスターは吹っ飛んだ。PS装甲のためダメージを与える事は出来なかったが、艦砲並のビームは明後日の方向に飛んでいく。
「ここであの坊主を落とされちゃ、いくらなんでも寝覚めが悪いんでね。せいぜい引っ掻き回させてもらうぜ」
 怒り狂ったバスターの猛撃をヒラヒラかわしながら、フラガは不敵な笑みを浮かべた。


 離脱したストライクは、一路アークエンジェルを目指す。それとタイミングを合わせてカタパルトが展開、勢い良くランチャーパックが射出された。
「来た!」
 それを確認したキラはエールパックを機体から離脱させる。コンピュータがストライクとランチャーパックの相対速度と姿勢を制御、あと少しで届くというところで、コクピットに警告音が鳴り渡る。
「ロックオンされた!?」
 愕然とするキラ。アークエンジェルの支援砲撃を突破して強引に追いすがったデュエルが、ビームライフルを向ける。その銃身下方にマウントされたランチャーから、グレネード弾が放たれる。一拍おいて、ストライクを中心に爆発が巻き起こった。


「やったか!?」
 デュエルのコクピットで、勝利を確信したイザーク。だが次の瞬間、デュエルの機体を衝撃が揺さぶる。一条の強力なビームが、デュエルの右腕をライフルごと蒸発させたのだ。
「何!?」
 閃光の中から現れたのは、320ミリ砲を構え仁王立ちしたランチャーストライクだった。さらに続けざまの砲火にさらされ、なすすべも無く後退するイザーク。
『退け! イザーク、ディアッカ! これ以上の追撃は無理だ』
『アスランの言う通りです。このままでは、こっちのパワーが危ない』
 アスランとニコルの通信に、無言でモニターを殴りつけるイザーク。だが、彼にも分かっていた。これ以上の戦闘が不可能なことは。
 4機の<G>は、撤退を開始した。


「敵MS、全機の撤退を確認」
「フラガ大尉より通信。エールパックを回収し次第、ストライクと共に帰投するとの事です」
 報告を受け、マリューは深々と溜め息をついた。勝利の高揚などまるで感じない。ただ、生き伸びれた事への安堵だけがあった。
 周りを見回すと、他のクルー達も似たり寄ったりの様子でぐったりとしている。ヘリオポリスの学生組など、全員がコンソールに突っ伏している。無理もない。さすがに規律にうるさいナタルさえ、それをとやかく言おうとはしなかった。
「バジルール中尉、私達は勝ったのかしら?」
「敵は引き、そして我々は生きています。少なくとも負けてはいませんよ、ラミアス艦長」
 そんな他愛のない会話をしながら、マリューはもう一度だけ息をついた。


 ガモフのロッカー室に、鈍い音が響いた。
「貴様ぁーっ!」
 イザークが秀麗な顔を憤怒に歪ませ、アスランの胸倉をつかむと、そのまま壁に叩き付けたのだ。
「どういうつもりだ!? お前があそこで余計な真似をしなければ!!」
「とんだ失態だよね。あんたの命令無視のおかげで」
 壁にもたれかかったディアッカが、苦々しげに吐き捨てる。その声の奥にも、隠しきれない怒りが滲み出ていた。アスランは一言も言わず、されるがままになっていた。
「何とか言ったらどうだ!! ええっ!?」
 その態度が癇に障ったのか、イザークが拳を振り上げる。遅れて入ってきたニコルがはっと驚くと、イザークを止めようとする。
「何やってるんですか!? 止めてください、こんな場所で!!」
「4機でかかったんだぞ! それで仕留め切れなかった! こんな屈辱があるか!!」
「だからといって、ここでアスランを責めても仕方ないでしょう?」
 イザークとニコルの視線がぶつかり合い、火花を散らす。しばらくの後、イザークはアスランを突き放すように手を離すと、ロッカー室を出て行った。ディアッカもそれに倣う。
 2人きりになると、ニコルはアスランにためらう様な視線を向ける。
「アスラン、貴方らしくないとは、僕も思います。でも――」
「今は放っておいてくれないか、ニコル」
 視線をそらしてそう言い、ノロノロと部屋を出るアスラン。その口元に、自嘲の笑みが浮かんだ。
 何の事は無い。隊長の前で『その時は、私が撃ちます』と大見得を切っておいて、実際に戦闘となればこのザマだ。イザークやディアッカが腹を立てるのも当然だ。
「兵士失格だな、俺は……」


「クルーゼ隊長へ、本国からであります」
 アークエンジェル追撃を一時断念し、応急修理を行っていたヴェサリウスに、プラント本国から通信が入った。通信兵から手渡された文面を一読したクルーゼは、鼻を鳴らすとアデスに手渡す。
「最高評議会からの出頭命令ですか」
 思わず唸り声を上げるアデス。ある意味で予想通りの内容だった。
「ヘリオポリス崩壊の件で、評議会は今頃テンヤワンヤといったところだろう。まあ、仕方あるまい」
 まるで人事の様にクルーゼは笑った。その様子は、これから査問に掛けられる当事者とはとても思えない。自分の行動に、余程の自信があるのだろうか。付き合いの長い上官だが、いまだアデスにとってクルーゼは理解しかねる点が多かった。
「アスランをガモフから帰投させろ。航行可能なまで修理が終わり次第、ヴェサリウスは本国へと向かう。<足つき>はガモフを残して、引き続き追わせよう」


 ストライクのコクピットハッチを開けると、格納庫の喧騒が飛び込んできた。ヘルメットを取り、油の臭いの混じった空気を吸い込む。
「お疲れだったな、坊主。お迎えが来てるぜ」
 機体の点検に来たマードックが指差した先には、サイ達の姿があった。ふらふらと4人の所まで空中遊泳したキラは、たちまち全員から揉みくちゃにされる。
「心配したぜ、本当」
「でもよかったわ、無事で」
 様々な言葉をかけられ、肩や背中を叩かれるキラ。と、そこで格納庫の扉が開き、フレイが姿を現した。
「フ、フレイ、その格好!?」
 驚く一同。フレイはミリアリアと同じ薄紅色の軍服を着、その上からエプロンを身に付けていた。押して着た大きなカートには、良く冷やされたドリンクが満載されている。
 小さく笑って、フレイは答えた。
「ああ言った手前、引っ込みがつかなくなっちゃって、生活班に志願したの。とは言っても要するに、雑用係なんだけどね」
「そういう風に卑下するモンじゃねえ。腹が減っては戦は出来ぬ、ってな。裏方も大事な仕事だぜ」
 いつの間にかやって来たマードックが、豪快に笑った。
「喜べ野郎共!! ちっとばかし小休止、それも差し入れに来てくれたのは美人の嬢ちゃんだ!!」
 マードックの声に、そこかしこから歓声が上がる。群がり寄る整備兵を前に、フレイと(成り行きで)ミリアリアは、手際良く配給をしていく。
「ま、俺達もちょっくら休もうぜ、キラ」
 ちゃっかり自分たちの分のドリンクは先に確保していたトールが、キラにカップを差し出す。
「うん、ありがとう」
 と、フレイが振り返って声をかける。
「サイ、ブリッジはどうだった? 私は凄く怖かったわ。ものすごく揺れたし」
「怖い、と感じる暇も無かったな。ただ夢中で」
 そで、いつも通り調子に乗るトール。
「そうそう、何かゲームみたいだったよなあ」
「迎撃に失敗すれば弾が飛んでくる、ゲームオーバーで全員死亡、嫌なゲームだ」
「……悪かった、すまん」
 あっという間にサイにへこまされるのも、いつもの事だった。
 クスクス笑うフレイが、ふと無言で座り込むキラを見た。
「どうしたのキラ、飲まないの?」
「あ、ああ――頂くよ」
 手にしたドリンクを飲みながらキラは、ようやく戦いが終わった事を実感した。





















 後書き

 1話分、まるまるドンパチ。素晴らしい、戦争、戦争、戦争だ――その割りに展開は本編そのままという、手抜きの極みですが。
 ところでアークエンジェルの武装ってすごいですね。特にバリアント。何と言っても110センチ砲ですよ、110センチ。つまり、直径1メートルを超える砲弾をぶっ放すわけか。伍長閣下のドーラも吃驚ですね。

 

 

 

感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・やっぱり、いくら理屈をつけてもビーム砲とレールキャノンを連結するのは無理があるよなぁ。

勇者シリーズじゃあるまいし、と読んで久々に突っ込んでみたり(笑)。

どーせならガンダムモドキじゃなくてユウシャモドキの方が受けたぞ、絶対(爆)。

 

※まぁ、ほぼ同時期に「オオバリユウシャモドキ」(グラヴィオンの事ね)という番組もやってたわけですが!