UC153 5月 13日 月面 フォン・ブラウン近郊 リガ・ミリティア秘匿ドック
引越しの作業を順調に終えようとしてるドック内に、一機のモビルスーツが運び込まれていた。それを目の当たりにして、ライアンが眉をひそめる。
「なんだ? 何でいまさらビクトリーをここに運び込む」
ライアンの疑問も当然だった。工場から出荷したビクトリーの多くは、エアにすでに搬入している。そして、ガンブラスターはレオノラに(サイド2連合艦隊からリガ・ミリティアに移籍したパイロットには、ビクトリーは不評なのだ)運び込まれていた。なので、いまさらここに運び込んでくるわけがわからない。まあ、確かに船に収まりきらない予備パーツなどを別の資材置き場に運び込む前の貯蔵庫として利用するために、ここにはすでにいくつものブーツやハンガーなどがかなり持ち込まれているのだが、さすがにビクトリーの完全体は一つも置いてはいない。(ジェスタやライアンがここに来るときに乗ってきた機体は除く)
はずなのだが、どう見ても今運び込まれた機体は、パーツではない、ビクトリーそのものである。それに答えたのは、ニケだった。
「ああ、これね。LM314V16。通称セカンドXだって。ビクトリーをベースにした実験機、って話だけど」
「実験機? そんなものをどうして」
言葉とともに、ライアンは改めてそのビクトリーに目を向け、そして気づいた。ぱっと見た瞬間は気づかなかったが、この機体は通常の、自分たちが運用しているビクトリーとは形状が違っている。特に、バックパックが。通常のビクトリーと比べてはるかに大きなメインスラスターが左右に一つづつ。まるで羽のように取り付けられている。
「こっちで運用して欲しいってことで流されてきたんだけどね……」
そう言ってそのビクトリーを。セカンドVを見上げるニケの顔は、浮かない。それもそうだろう。技術畑の人間として、試作機や実験機を戦場に送り出す、という思考は問題外なのだから。そして、それはライアンも同じだった。セカンドVを見上げ、難しい顔をする。
「リーンホースのほうに送ったっていうV2はともかく、これはその下準備のために作られた機体だからね。
この三号機は一通りの試験駆動くらいしかしてないし、一号機の実動データからは安全性も確保されてるのはわかるんだけど」
ニケは渡された仕様書に目を通しながら、頭をかく。そこには、このセカンドVの詳細なデータが記されている。そこに書いてあるのは、今ニケが言ったとおり、試作されたこの機体のうち、一号機が実際に消耗しきるまでテストパイロットが乗り回したデータと、それをベースにアップデートされたことを示すデータが記されている。仕様書を見る限りでは完璧に兵器として完成されているといえるだろう。
だが、仕様書どおりに行かないのが現実というものだ。ビクトリーだって、開発に成功してから実戦に投入されるのにかなり時間がかかった。それだけ、実戦で使う兵器というのは気を使うものなのだ。当然だ。命のやり取りを行うための道具なのだから。性能よりも優先されるのは、信頼性なのは間違いない。だからこそ、古株のパイロットにはビクトリーさえ敬遠されるのだから。
「V2か。確か、ミノフスキードライブを実装したモビルスーツという話だが」
「こいつも同じ。ミノフスキードライブユニットそのものは、見た目はちょっと違うけど、仕様そのものは同じなのよ。けど、フレームが違ってるからね。ビクトリーベースのこの機体じゃ、V2ほどの高出力は期待できないみたい。一号機のデータを見る限りじゃあ、やっぱりミノフスキードライブユニットと本体のフレームの接合部に戦闘時の応力が集中しちゃうみたいね」
「……どういうことだ? まさか、空中分解はしないだろうな」
「初期の実験機はそうなってたらしいわよ。出力を上げたとたん、ミノフスキードライブがぶちん、って千切れて飛んでくの。たぶん、すごく豪快だと思うわよ、そのシーン」
いいながら苦笑するニケ。正直笑えない話だが、それゆえに笑うしかない、という気持ちである。それを聞
いてライアンは厳しい顔になった。
「そんな欠陥を持っている機体を、よくもまあ」
「それは初期型の話よ。こいつはセカンドビクトリー計画の最終段階の機体だから。ミノフスキードライブ周りの設計とフレームの改修。それとハンガーとブーツの強化で何とかしたみたい。だから、初期の実験機じゃ半分の出力にも耐えらんなかったのが、今じゃ75パーセントでも戦闘機動には問題ないって話よ。それ以上になると流石にまずいらしいけど」
言われて、ライアンはもう一度セカンドVを見上げる。と、先ほどは気づかなかったが、確かに手足の形状がずいぶんと違っている。全体的に、少しマッシブで、それでいてすっきりとした印象だ。力強い印象を与える形状をしている。
「なるほど。それで強化されている、とは?」
「プロペラントを大幅に削減して、空いたスペースにショックアブソーバーを大量に装備させて、さらにフレーム構造そのものも強化して強度を向上させてるの。で、装甲も強化して剛性を高めてるみたいね。ミノフスキードライブの高出力に対応するためにそうしてるみたいだけど、それでもまだコアファイター周りの強度が今ひとつ足りないみたいなのよ。こいつのミノフスキードライブは後付だからね。で、この機体に施された強化案をベースに新規にフレーム構造そのものにミノフスキードライブを組み込んだコアファイターに設計しなおしたのが、V2ってこと」
「……なるほど」
「実はよくわかってないでしょ?」
「そんなことはないぞ」
「どうだか」
ニケの軽口に、ライアンは口をへの字に曲げて言い切るが、実際のところニケが見抜いたように、よくわかってはいなかった。ただ、実験機である、ということからあまり歓迎は出来ないのはニケと変わらない。それに、ミノフスキードライブユニット、というシステムが今ひとつ信頼できない。何しろ、実戦で使われた記録がないからだ。
いや。ミノフスキードライブそのものは、ライアンも知っている。というより、いまや軍事用に使われている大型艦艇で、ミノフスキードライブを搭載していない艦を探すほうが難しいくらい、普及したシステムである。もっとも、最近になって新規設計された艦を除けばほとんどの艦は後付のミノフスキードライブユニットを強引に艦に搭載したものなので、艦船の、巨大質量を単独で推進させるほどには完全に駆動しているとはいいがたく、結局従来どおりの熱核ロケットを併用しなければならないが、それでも艦の機動性、運動性能は向上しているし、エンジンへの負荷が軽くなっているので高出力のビームシールドの搭載も可能となった上、大気圏内でも運用できるようになっているのでミノフスキードライブの艦への実用化はまさに革命的な出来事であった。
しかし、あくまでもミノフスキードライブユニットは艦船用の装備である。モビルスーツや小型の輸送船などには、搭載を渇望されていながらも技術的な問題で先送りにされてきた代物である。それを、リガ・ミリティアはさまざまなところから引っ張ってきた技術者などに数年前から本格的に開発させ、ついにモビルスーツに搭載することに成功したという。それが、先ほどから話に上っているV2であり、このセカンドVである。
「それで、この機体はしばらくここにおいておくわけか」
「あたしも、他のメカニックも同意見。って言うか、エアのほうでそういう意見が出たからこっちに回ってきたんだけどね」
ニケもセカンドVを見上げてそう言った。仕様書を見る限り悪くない。というより、本当に革命的なモビルスーツである、というのは理解できるのだが、ビクトリーがたくさん搬入され、ガンブラスターもいきわたっている状況で、この機体をいまさら運用する理由が見つからない、というのが正直な感想だった。
「まあ、俺もその意見には賛成だな。……試作機や実験機など、実戦で使う気にはなれん。兵器はやはり、信頼性が命だからな」
そう言ってライアンはきびすを返した。向かう先は、自分のヘキサ。これからライアンはエアに向かうのである。が、ニケはしばらくここに残ることになる。いろいろとすることが多いし、今休暇中のジェスタを待ってやる必要もあるだろう。それから、月面用の車両を使って艦に向かえばいい。なので、ニケはライアンに声をかけた。
「あ、そうだ。どうせならジェスタのビクトリーも持って行って。邪魔になるからね」
「それではジェスタの帰る足がなくなるだろう」
「時間的に、あたしたちがエアに帰る時間とあの子が帰る時間がかち合うでしょ? だから、同じバギーで帰るから。そのときにビクトリーで飛ばれたほうがあたしたちにとっちゃ見つかる危険性が高いのよ」
「そういわれてみればそうか。了解した。オートで何とかなるだろう。俺の機体をトレースするだけだからな」
「ん。じゃ、そのあたり設定しとくね」
ヘキサに向かったライアンに、そう答えたニケは手をひらひらと振ってジェスタのビクトリーに向かった。
UC153 5月 13日 月付近の宙域
サイド2ザンスカール帝国本国を出港したモトラッド艦隊の支援艦隊は、月付近の宙域にたどり着いた時点でとりあえずそこで停泊した。月面への降下は行わない、という。その理由は簡単である。月面は、重力がある。そして、ザンスカールが運用するアマルテア、カリストといった艦艇は基本的に上下対称の形をしており、重力がある領域では使い勝手が悪いのである。特に、モビルスーツデッキが。無論、万一のことを考えて下のブロックは普段天井として利用できるポジションが床になるように設計しているが、それでもカタパルトデッキが使用できなくなるなど、やはり使い勝手は悪くなる。
そんな艦隊が、月を下に望む宙域で停泊し、その周回軌道に乗った。月に駐在するザンスカールの諜報員などからもたらされた情報によると、リガ・ミリティアの月の部隊は、巧妙に偽装はしているものの、フォン・ブラウン付近に居を構えているのだという。そして、最近その近くに降下した艦艇があり、それにあわせて動いているモビルスーツの姿が何度か目撃されているらしいのだ。
その情報を入手した艦隊の司令は、各艦の艦長、およびモビルスーツ隊の隊長らと意見をかわし、間違いなくフォン・ブラウン周辺に敵がいると判断。現在マケドニアコロニーでリーンホースを捕捉し、攻撃態勢に入っているモトラッド艦隊が月に到着する前に、敵をあぶりだして、最低でも足止めくらいはする必要がある。
そのため、月面付近を調査するために偵察部隊をいくつか編成し、出撃することになった。そして、その偵察部隊の一つに、アインラッドを伴った三機編成のリグシャッコーがあった。
そのリグシャッコーのコックピットで、アインラッド。つまりはモビルスーツを中に収める巨大なタイヤ型のサブフライトシステムを見ながら、フィーナは首をひねっていた。
「しっかし、何でモビルスーツにタイヤなんだか」
こう見えて防御用に役立ったりするし、推進力もかなりあるため役立つ機械であることは何度も繰り返された説明で理解したし、月に向かう途中何度も行った演習でその使い勝手も理解している。確かに、思ったよりも便利なものだろう。
しかし、タイヤである。どう見ても、タイヤなのである。ゾロアットでは使えないため、この艦隊では少量だけ運用されているリグシャッコーやアインラッド用に調整されたモビルスーツなどがわずかに使用するだけのアインラッドだが、使い勝手はともかく、見た目で敬遠されるケースは意外に多い。
「まあいいか。……では、フィーナ・ガーネット。リグシャッコー、出ます」
そういうと、アインラッドの外装のタイヤが回転を始める。それが、アマルテアの甲板を走り、次いで跳躍。くるんくるん、と何度か回転し、安定飛行に入った。見た目こそ冗談のような兵器だが、Iフィールド制御技術とミノフスキーフライトシステム。ビームローターで培われた技術の織り成す成果が、強靭な防御力とサブフライトシステムとしての機動力を生み出しているのだ。それは悪い気はしないが、やはり。ちょっと抵抗があった。
そんなフィーナ機に続いて、二機のアインラッドが続いてくる。サフィーの乗ったリグシャッコーと、ミューレの乗るリグシャッコーだ。三機の機体は編隊を組み、艦隊の周囲を旋回してから月に降下して行った。向かうは、フォン・ブラウン近郊の渓谷地帯である。艦を隠すならば、いくつか限られたポジションしかない。ならば、そのあたりを探ってみるのが順当であろう。
「さて、と。この機体で実戦は初めてになるわけだけど、どれくらいのものかな? 確かに、レスポンスなんかはシャープなんだけど」
フィーナはそういいながら、コントロールシリンダーをいじり、次いでサイドパネルを軽く触ってみる。演習などで動かしたことが何度もある機体ではあるが、これまでのゾロアットとはかなり違う印象を受ける。別の機体なので当然といえば当然なのだが、それだけではないような気がする。メカニックに聞いてみたところ、三人に配備されたリグシャッコーにはサイコミュが搭載されているらしい。といっても、いわゆるサイコミュ兵器と連動しているような本格的なものではなく、通常のバイオ・コンピュータータイプの機体よりもバイオ・センサーなどによる認識力などを強化したタイプらしい。それにより、サイコウェーブをより強く拾うことが出来、より遠くの敵を認識できたり出来るようになるとのことだった。言われてみれば自分自身の感覚
が拡大したような、そんな感覚があるが基本的に、バイオ・コンピューター装備型のゾロアットと比べて格段の操作性を得たかと言うと、そういうわけでもない。
「それで? あんたたちはどう?」
『いい感じよ。サイコミュ付だからって、何かあるかな? って思ったんだけど。意外に普通って感じかしら』
『このアインラッドって、なんか面白いね。ボクは結構好きだな』
そういいながらミューレはアインラッドに乗せた機体をふらふらと動かした。いったとおり、本当にアインラッドが気にいったらしい。それを見て苦笑するフィーナはひとまずはじめに言われたとおり、フォン・ブラウン近郊の渓谷に降り立つために、月面の地図を呼び出した。
そして、接触回線でつないだ二人の機体とデータ交換をして、降下ポイントを決める。それから月面に向かい、本格的に降りていった。が、そのとき。耳鳴りに似た何かが、フィーナを襲う。それを受けて眉をひそめる。
「これは……」
呟いて、それがなった方角に目を向けた。そちらの方角には、巨大な円形の月面都市の姿が。フォン・ブラウンだ。それを見たとたん、思い出した。そういえば、月に家族がいる、といっていたな、と。
「そっか。今は家族の元にいるんだね。……じゃ、その間にやらせてもらいますか」
どことなくうれしそうに笑みを浮かべ、フィーナはアインラッドを装備したリグシャッコーを駆った。猟犬となって、敵を討つために。
UC153 5月 13日 月面 月面都市フォン・ブラウン
昨夜、予期せぬ休暇をもらうことになったジェスタは一晩を家で過ごした後、翌朝目を覚まして自分の家である、という実感を持てずにすぐに気持ちを切り替え、出撃できるようにすぐに意識をはっきりとさせた。が、そこが殺風景な艦の光景ではなく、落ち着いた内装にまとめられた自分の部屋だということに気づいて頭をかいてベッドから降りた。
それから部屋を出て、顔を洗いに行く。それを終えてから、いい匂いがしたのでダイニングのほうに向かった。そこに、キッチンに立つエプロン姿のミラルダを見つけ、
「早いんだな、ミラルダ」
「あ、兄さんおはよう。兄さんこそ、ずいぶん早いじゃない。驚いちゃった」
振り返ったミラルダが、そう言って笑顔になる。久しぶりに兄が家にいることが、よほどうれしいのだろう。
しかし、彼女は少し残念そうになって、
「でもちょっと残念。朝食が出来上がったら起こしに行こうと思ってたのに」
「馬鹿なことを言ってんじゃない。……母さんは?」
「もう出かけたわ。レナちゃんはまだ寝てるみたい。昨日の夜は、子供にしては遅かったもの」
「そうか」
ミラルダの言葉にそう答え、手持ち無沙汰なのでテレビをつける。ガラス板に映像が直接投影されるタイプの一般的なテレビだ。サイズは、中型。こういう家にはちょうどいい大きさだ。
ニュースは月面の各都市で起こっている事件などがメインで、あまりザンスカール帝国の戦争のこととかは載っていなかった。
「戦争のことはあんまり報道しないんだな」
「うん。でも、最近月の近くでザンスカールの船が撃沈されたって、一昨日くらい流れたのよ。びっくりしたわ」
そういいながら、トーストやハムエッグを持ってくるミラルダ。「もっとこったものがよかった?」と聞いてくるが、「これで十分だよ」と返すジェスタ。そして、ミラルダの今言った言葉に、月面に到着する前に遭遇し、殲滅した偵察艦隊のことを思い出した。あの事だな、と思いながら
「ああ、あれね。へえ。月からも観測できたんだ。まあ、三隻も撃沈したわけだから、それも当然かな」
「よく知ってるね、兄さん」
「そりゃそうさ。その戦いに参加してたんだ。知ってて当然だろ?」
何気なく言ったその言葉に、ミラルダは顔をゆがめる。こうしていると、昔と同じ兄に見えても、その実。戦争に行って戦いを経験している人なのだ、と。
「それ以外に報道されてるのって、後はどれくらいなんだ?」
「え? あ、ああ。うん。サイド2の艦隊が、ザンスカールの艦隊と戦争したって言うのは聞いたわ」
「アレか……アレは、ひどかったからな。たぶん、近年で最大の戦いだっただろうから」
「うん。兄さんがあの戦争に行ってたらどうしようって。母さんと一緒に言ってたもの」
「うん。確かに何度か危なかったときもあったね。仲間が、目の前でやられたし」
あの戦場で戦死したリュカのことを思い出して、唇をかむジェスタ。しかし、それ以上にミラルダが顔を真っ青にしていた。今言ったジェスタの言葉から、ジェスタがサイド2連合艦隊が敗走した戦争に参加していたことを読み取ったからだ。
「ねえ、兄さん」
「なんだ? ああ、今日の予定か? 俺は何にも予定がないから、お前の予定に合わせてもいいぞ。行きたいところがあったら付き合ってもいいしな」
笑顔になって妹のほうに目を向けるジェスタ。そして、ジェスタはミラルダが青ざめていることに気づいた。
「どうしたんだ、ミラルダ。顔色が悪いぞ」
「……兄さん。もう、戦争に行くのはやめて」
「ミラルダ。それは」
「私や母さんが、兄さんがいない間どれだけ心配だったか、わからないでしょう?」
「わかるさ。俺だって、向こうにいる間。二人がどうしてるか心配してたし」
「違う! 全然違うよ! 戦争に行く人を心配するのと、平和な都市で暮らす人を心配するんじゃ、違うよ!」
ジェスタの言葉にミラルダは半泣きになってそう言い返してきた。それは、ジェスタが初陣を迎える、といった一月のあの日以来。ずっとミラルダの心の中にたまっていた蟠りが形になったものだった。その、すごく重い言葉を受けて、ジェスタは眉をひそめる。が、
「違わないよ。ミラルダ。戦場で、俺が死んだりしたら、母さんやお前がどれだけ心配するだろうか、とかこのままザンスカールが覇権を握って、ギロチンが世界中で行われるようになったら平穏なんてなくなるとか。そんなことばっかりを考えてると、絶対に死ねないな、って気になるから。だから、お前たちのことと自分のこと。とても大切で、心配するんだ」
「……心配なら、戦場になんて行かなきゃいいのよ」
ジェスタの言葉に、ぷい、と顔を背けるミラルダ。その様子に苦笑しながら、ジェスタは用意された朝食に手をつけていく。久しぶりの、家族ととる朝食。それは、やはり少し風味が違って思える。
「それで、今日はどうするんだ?」
「別に、予定なんてないわよ。せっかくの休みなんだから、家でゆっくりとしたら? 私も予定なんてないもの」
その言葉に、ジェスタは少しだけさびしそうな顔をした。昔は友達もたくさんいたミラルダだが、ギロチン以降すっかり内向的になってしまった。学校には行っている様だが、おそらく懇意になっている友人はいないのだろう。
「そうか」
と、一言言ってジェスタは朝食を終えた。それから、テレビに目を向ける。基本的に、テレビでする話題はやはり、身近なニュースばかりのようである。
「やっぱり連邦軍は動かないのか」
連邦政府はザンスカール帝国の外務関係者と会談を行い、どちらかというと距離をとる、ということを発表しているらしい。政治のことはよくわからないが、政府としての見解はあくまでもコロニー間同士の内戦には不干渉を決め込むつもりであるようだ。かつてはコロニーを抑圧する象徴であった連邦政府も、すっかり形骸化してしまった。情けない話だ、と思いながらジェスタはチャンネルを変える。そのチャンネルでは、何かドラマをしているようだが、さっぱりわけがわからない。
「うーん。さすがに一年近くブランクがあるとさっぱりわけがわからないな」
と、呟くジェスタ。改めて考えてみれば、リガ・ミリティアの活動に参加するために家を飛び出したのが、今から一年近く前なのだ。その間の時間の変化など、ジェスタにしてみれば戦争の推移や、ザンスカールの変化。リガ・ミリティアの活動などでしか推し量れなかったわけで。消費社会の時間の流れとずれがあるのは仕方がない。
まあいいか、と思う。どうせ、今日一日休んだらまた明日から戦場に行くのだから。別に普通の生活に無理になれる必要はない。と思う。自分がかなりいびつな存在になりつつあることに、ジェスタは実のところあまり気づいてはいなかった。
とりあえずテレビを消して、うーん、と大きく伸びをする。そして、
「おふぁようごじゃいましゅ」
といいながら目をこすってきたレナと会う。
「おはよう」
と、そんなレナに挨拶をするジェスタと、ミラルダ。普通なようでいて、どこかずれている朝の光景。それが、今朝のローレック家の光景だった。
UC153 5月 13日 月面 フォン・ブラウンからすこし離れたところの渓谷地帯
フォン・ブラウンからそれなりに離れた渓谷地帯に、上部甲板に偽装を施して岩陰に隠れる形で、エアとレオノラの二隻の艦艇は停泊していた。そこに、ライアンのヘキサと、オートでついてきたジェスタのビクトリーが到着し、二機のモビルスーツはハンガーに固定され、ライアンだけがヘキサから降りてきた。
そして、ブリッジに行ってハサンらと会い、いろいろと話をして深刻そうに顔をゆがめた。
「そうか。リーンホースはマケドニアに……」
複雑な表情をして答えるライアン。マケドニアコロニーといえば、ライアンの出身地だ。ライアンは、マケドニアがザンスカールに迎合し、ギロチンも認めたことに危機を覚え、そのあたりで上申をしたところ、軍を除隊させられた経験を持つ。その後あわや逮捕されかかったところでリガ・ミリティアのスタッフと接触し、故郷を昔の姿に戻したい、という思いからその活動に参加したのだ。
その故郷に、同志たちが拘束されているのだという。複雑な気分になるのも当然だろう。
そして、ライアンらが余り顔色がよくないのは、これだけが理由ではない。聞くところによると、ザンスカールは新規に艦隊を編成すると、それを使って新たに地球侵略を目論んでいるという。そして、それを支援するためなのだろう。先行する艦隊があり、それが月付近に居座っているというのだ。
「この艦隊の役割はおそらく。モトラッド艦隊が取り逃がしたリーンホースを挟撃する。あるいは月にいる我々をいぶりだして殲滅するつもりだろう」
ハサンが渋い顔をしてそう言って腕を組んだ。その意見に、その場にいたクルーのほとんどが頷く。ライアンも、同意見だった。その上で、表示されたその艦隊の拡大写真に目を向けて、
「おそらくは、そうだろうな。それで、どうだ? 偵察のためにモビルスーツを出すようだが」
「まだこちらからは手を出さんほうがいいだろう。だが、脱出してきたリーンホースは月の裏側に行くらしいからな。挟撃させるわけにも行かんから、こちらに奴らの目をひきつける必要はありそうだ。動けるようになったら適当に奴らの目をひきつけて見せよう」
「ならば、パイロット連中には俺のほうから尻を叩いておく。やれやれ。こんなことじゃあ早くジェスタを呼び戻しておくべきだったか」
と、ライアンは苦笑した。皆もそれを聞いて笑う。が、すぐにまじめな様子になって、ハサンが手を叩いて
「さあ、お客さんを迎える準備を整えるぞ。偵察機はおそらく、こっちには手を出さんだろうが、見つかるのは時間の問題だ。そのときに逃がさんように、な」
その言葉に、リガ・ミリティアのスタッフたちの目が鋭くなった。皆、歴戦の勇士の貫禄が出てきている。
その姿は、実に頼もしいものだった。
UC153 5月 13日 月面 月面都市フォン・ブラウン
結局のところ、ジェスタは特に行くところもすることも考え付くことがなかったので午前中は家でのんびりとすごすことになった。それでまったりとし、気分的に落ちついたはいいが、いい若いもんがこれでいいのか、とひそかに自分につっこんで少しだが欝な気分になった。
そんなこんなで、時間は過ぎていき、今は昼過ぎ。ミラルダが張り切って作った昼食を食べ終わり、昼からはどうしようか、とひそかに悩んでいた。ミラルダは別に家でゆっくりとしていていい、と言ったが、なんとなくそれでは気がすまなかったのである。思考が微妙に、仕事で忙しくたまの休日で家族サービスに必死になるサラリーマンのお父さんチックなのだが、あいにくジェスタはそのことに気づいていなかった。
しばし腕を組んでうんうんとうなっていたジェスタは、ポン、と手を打ってこう言う。
「そうだ。この辺を散歩でもしようか。レナちゃんもこの辺になれていたほうがいいし。久しぶりに帰って来た、家の周りがどう変わったのかも確かめたいしね」
その言葉に昼食の後片付けを終えたミラルダと、一緒に遊んでいたレナの二人がジェスタのほうに目を向け二人そろって笑顔になって賛成した。
それからすぐに散歩の用意をして、三人は家をでた。月の人工の町とはいえ、その風景は出来るだけ自然なものにするべく心がけられている。故に、あちこちに公園が作られたり、わざわざ土を盛って丘を作ったり、川が流れていたりする。いずれもそう大きなものではないが、あくまでも「自然な町」を演出するためのものなのでそれらはよく整備されており、きれいなものであった。
三人は、そんな公園の一つの遊歩道を歩いている。あちこちから、環境を乱さない程度に放されている鳥や虫の声が聞こえてくる。それらを聞きながらここを歩いていると、地球出身のものはここがゼロから作られた人工的な空間であるとはとても思えないだろう。
ああ、いいなあ、と遊歩道を歩きながら、目を細めて思うジェスタ。殺伐とした戦場とはまったく違う空気。
とても居心地がいい。そう思うジェスタの顔が、わずかにほころぶ。それを見て、隣を歩いていたミラルダがうれしそうに笑みを浮かべた。
「何だよ、ミラルダ」
「ふふ。兄さん、とってもうれしそうなんだもの。なんだか安心しちゃった」
「そうか?」
「うん。戦争に取られちゃったんじゃないかって思ったけど、そうじゃないみたいだから。よかった、って思ったのよ」
そうか、と答えるジェスタ。おそらく、朝。当たり前のように戦争のことを。自分が戦場にいたことを語ったことが、ミラルダの心の中にしこりとして残っていたのだろう。すでにジェスタの中で、戦争が日常となっている。それは、いうなれば自分が拒絶し、忌み嫌う世界にジェスタがいってしまい、二度と戻ってこなくなってしまうのではないか、と言う不安をミラルダの心の中に抱かせたに違いない。
だが、今のジェスタの表情から、ジェスタが今の家族とともにいる日常を大切に感じていることがわかり、安心したのだ。
「けど、こうしてるとやっぱり平和な日常ってのはいいな」
大きく伸びをしながら口に出すジェスタ。それを聞いてミラルダは少し期待したような顔をする。そして、
「ねえ、兄さん。だったら……」
そう口にした瞬間だった。ジェスタが、何かに気づいたように体をこわばらせ、真剣な顔になると急に空のほうに目を向けたのだ。その顔は、今まで気持ちよさそうにしていたジェスタではなく、モビルスーツに乗り。戦っているときの戦士の、パイロットの目だった。
その兄の変化に、言葉を失うミラルダ。しかし、ジェスタはそんなことに気づいてはいない。今しがた、唐突に感じた感覚。自分に向けられた人の意思を感じ取ったため、それに完全に意識を奪われていた。
今の感覚には覚えがある。それを反芻するまでもなく思い当たったジェスタの脳裏に、かつて闇の中出会った一人の少女の面影がよぎる。ジェスタは厳しい表情をして、呟いた。
「フィーナ。君なのか」
「兄さん?」
恐る恐る声をかけるミラルダ。それを聞き、現状を思い出したジェスタは、ミラルダとその隣にいるレナに目を向け、わずかに申し訳なさそうな目をした。それを見た瞬間、ミラルダはいやな予感を感じる。
「すまない、二人とも。俺は行かないといけなくなった」
「ど、どういうこと?」
「敵襲だ。だから、行かないといけない」
そうはっきりと言ったジェスタの顔は、もう完全に一人のパイロットの顔だった。幾度もの戦場を渡り歩き、戦い抜いた戦士の顔。それは、ミラルダの知らないジェスタの姿だった。そのジェスタを見て、ミラルダは顔面を蒼白にした。今、近くにいることを実感した家族が、はるかかなたに行ってしまったような。そんな錯覚を感じたのだ。
「いや! ダメよ、兄さん。兄さんはもう、そんなことをしなくてもいいじゃない!」
反射的に涙目になってミラルダはそう叫んでいた。周囲に人はいなかったが、いたら確実に注目をあつめるであろうほどに、その声は大きく、悲痛だった。ジェスタは思わず驚きに目を見開き、しかし。それに負けることはなかった。
「ミラルダ。俺は」
「兄さん。私、耐える。怖いことみんなに耐えるよ。ギロチンだって怖くないよ。これ以上心配だってかけさせない。だから、もうやめて。戦争に行くのなんて、やめてよ。兄さんが死んじゃうのは、どこかに行っちゃうのはいやだよ」
涙を流してそういうミラルダの様子に、ジェスタは耐えるように唇をかんだ。そして、ミラルダの肩に手をやり、
「すまない。だが、行かないといけない。俺が戦うのは、確かにお前を、家族を守るためってのもあるけど、それと同じに、俺のことを信頼してくれる仲間たちがいるんだ。みんなと一緒に戦って、生き延びる。そのために、俺は行くんだ。それに」
そこで言葉を途切れさせるジェスタ。しゃくりあげるミラルダは、それに不思議そうな目を向ける。その視線に気づいたジェスタは、少し照れ笑いをして、
「……あそこにはな、ほうっておけない奴がいるんだよ。敵、なんだけど。なんかさ、ほうっておけないんだよ、そいつは」
「敵……?」
「ああ。最後はどうなるかわからない。他の奴がやってしまうのか、それとも俺が殺してしまうのかもしれない。でも、それでもほうっておけないんだ。あいつは。だから、俺は行かないといけないんだ。お前には悪いことをしているってのはわかってる。妹を泣かせる最低の兄貴だってのもな。でも、それでも俺は行かなきゃいけないんだ」
「私には……わからないよ」
「ああ。そうだろうな。でも、これだけは断言する。ミラルダ。俺は、絶対に家に帰ってくる。何があっても、ここが。家族の元が、俺の帰るところなんだから。隊長が、レナちゃんのところに絶対に帰ってくるっていったみたいにな」
そういうと、ジェスタは笑みを浮かべた。それは苦難を乗り越えた経験を持つものだけが持ちうる、深い笑み。それを見たミラルダは言葉を失った。力強い自信を感じさせるジェスタに対し、ミラルダは卑怯だ、と思った。そんなふうに言われたら反論できないじゃないか、と涙目でにらみつけた。その目にジェスタは口元を引きつらせ、若干引いたが、それでも
「二人とも、悪いけど……俺は、今からドックに向かう。ちゃんと帰れるな?」
「馬鹿にしないでよ、兄さん。そんなことで兄さんに心配されるほど、私は子供じゃないわ」
「そーだよ、おにーちゃん。おにーちゃんはレナを甘く見すぎです!」
と、少女二人はそう言ってジェスタを責める。それを聞き、ジェスタは安心したのか、笑顔になるとそのまま背を向けて、走り去った。その後姿に、レナは「がんばってー、おにーちゃーん」と声をかけるも、ミラルダは声をかけない。いや、声をかけられなかったのだ。その様子に不審に思ったレナがミラルダを見上げると、
「おねーちゃん。泣いてるの?」
「……うん。泣いちゃだめだって、わかってるんだけどね。でもね、やっぱり。泣いちゃうんだよね……」
ミラルダはジェスタが走り去った方角に目を向けながら、大きな目からぼろぼろと涙をこぼしていた。そんなミラルダに、レナが
「おねーちゃん。泣いたらダメだよ。泣いていいのは、おとこのまえだって、かーさんがいってたもの」
「こら、レナちゃん。そういう冗談は言っちゃいけません」
レナの言葉に、ミラルダは泣き笑いの表情でそう言って、二人で笑ってからレナの手を取り、家に帰った。
UC153 5月 13日 月面 月面都市フォン・ブラウン近郊 リガ・ミリティア秘匿ドック
公園を後にした直後、ジェスタはエレカを拾うとそのまま大急ぎで移動を開始した。そして、血相を変えてドックに飛び込むと、唖然とするスタッフたちを横目にすばやくパイロットスーツに着替え、そのままモビルスーツデッキに向かう。
そしてそこがビクトリーのパーツやら推進剤のコンテナやらがたくさん置かれていることに驚き、さらに自分が置いておいたビクトリーの姿がないことに愕然とした。
「俺のビクトリーが!」
「って、どうしたの。ジェスタ。あんた。帰ってくるの、明日の朝でしょ?」
目を丸くしてそう言ってきたのは、資材のチェックをしていたニケだった。そのニケに、ジェスタは詰め寄
った。その迫力にニケは思わずのけぞる。
「ニケさん! 俺のビクトリーは!」
「え? 邪魔だからオートでエアのほうに持ってったよ。ほら。ここ、一杯荷物を置く羽目になったから」
そのニケの言葉に、ジェスタは膝をついた。その様子にニケは? 顔になる。
「何がどうしたのよ。家族をうっちゃっていきなりきてビクトリーのこと聞くなんて。何かあったわけ?」
「敵襲です! 敵が来てるんですよ! ああ、もう。他に何かモビルスーツは……あれは!?」
そう言って忙しなく周囲を見回したジェスタが、ハンガーの片隅に置かれた一機のモビルスーツに目を向けた。特徴的なバックパックが目立つビクトリータイプの機体。セカンドVだ。それに気づいたニケが頭をかきながら、
「ああ、アレね。アレはダメ。アレは試作機の範疇に入る奴だから、あたし的には……」
「使えるんですね?」
「ん? まあ、一応テストは済ませてあるし、実動データもあるから。使えないことは……ってコラ! 人の話は聞きなさい!」
「すみません! あの機体、借ります!」
そう叫びながら、ジェスタはニケの言葉に答えず走り出した。それを見てニケは眦を吊り上げてジェスタの後を追いかける。あちこちに荷物があるため、二人ともモビルスーツの。セカンドVのところまでたどり着くまでに少々迂回しなければならなかったものの、結果的にはものの配置に詳しいニケが先回りすることが出来た。
「あのねえ、この機体はまったく新しい技術も使ってるし、今言ったみたいに、試作機って言うか、実験機の範疇に入る機体なのよ、これは。性能は確かに問題ないらしいけど、そんなのにパイロットを乗せるわけには行かないのよ」
ニケは真剣に言った。これは、メカニックの。整備士の意地だ。整備士にとって、一番の仕事は自分が手がけたマシンの信頼性を確保し、万に一つの不備も起こさせないことだ。自分たちの仕事の一つ一つがパイロットの、ひいては部隊の運命を左右するのだから、その仕事にはおのずと厳しくなる。なので、自分たちの手を入れるまでもなく信頼性の低い機体など、実戦に投入させることは許容できる問題ではない。
「でも、今ここから出せる機体はこれしかないんでしょう。……強い敵が来てるんです。俺は、行かなきゃいけないんですよ。だから」
そうニケの肩をつかみ、大きくゆすりながら言い切るジェスタ。それにニケは目を白黒させつつ、
「ちょ、やめなさいってば。目が回るでしょうが!」
「なら、ニケさん!」
「あー、もう。何でこんなに強引なんだか。……わかったわよ。確かに今ここにはこれしかないわけだから、行くとしたらこれしかないんだけど……ほんとに敵襲なんてあるの?」
と、懐疑的なニケ。当然だ。今ここでジェスタが言った言葉が真実である保証などどこにもないのだから。そこに、
「ニケ! エアのほうに敵襲らしいぞ! 偵察部隊とやりあうようだ!」
「うそ」
タイミングよく入ってきた情報に、ニケは目を丸くする。そして、ジェスタのほうに目を向けて、その顔が冗談を言っているようには見えないことに口元を引きつらせる。そしてしばらく考えてから、
「ああ、もう。仕方ないわね。とりあえず、この機体を使わせてあげる。でも、その前にあたしがセッティングするからね。それくらいは待ちなさいよ」
ため息混じりに言うと、ニケはセカンドVの足元に近づき、装甲の一部のハッチを開くと、そこのレバーを引く。セカンドVの胸部パーツが前方にスライドし、同時に腰のフロントアーマーが持ち上がった。そして、乗降用のワイヤーが降りてくる。
それにつかまって、まずはニケが。そして、ジェスタがセカンドVのフロントアーマーに乗ると、ニケはジェスタにコックピットシートに座らせて、計器類の説明を始めた。が、その構造そのものは
「ビクトリーと変わらないですね」
「そりゃ、元は同じだからね。これはあくまでも、ビクトリーのコアファイターにミノフスキードライブを組み込んだ機体なんだから。一応、ジェネレーターは強化型に換装されてるし、コアファイターもハンガー、ブーツもかなり手は入れられてるけどね」
「ミノフスキードライブって言うと、船に使う、アレですよね?」
「そうよ。で、これがそのための説明。よく見ときなさいよ。ミノフスキードライブは、これまでの機体の推進器とはまったく違うの。それに、モビルスーツ用の小型バージョンはまだ未完成で、ほら。後ろのユニット。あるでしょ? あそこから、メガ粒子が吹き出すから。後ろに味方がいるときは気をつけること」
「武器にも使えそうですね、それ」
「馬鹿いってんじゃないの。後、この機体はミノフスキードライブの出力を縛ってあるから。これが、そのリ
ミッターの解除用のコードだけど、機体剛性が不足してるから。ほんっとうにピンチのとき以外は絶対に使わ
ないこと。いい?」
いいながら、ニケはコンソールパネルを手馴れた手つきでいじる。整備士と言う仕事上、コックピット内によく出入りする彼女らしい手つきだ。ニケは続いて機動プログラムの環境設定の画面を呼び出した。そしていくつものウインドウを呼び出して、ジェスタから意見を聞きながらすさまじい速度で設定を行っていく。それは、ジェスタが自分でするよりも数倍の早さだった。モビルスーツはきわめて高度なプログラムで動く機体である。ゆえに、その整備をする整備士には専門的なコンピューター知識が要求される。当然、ニケにもそれは備わっており、このピアニストのように動く彼女の指はそれを物語っていた。
「は、これでとりあえず終了。悪いけど、一度システムを立ち上げてくれない? きちんと見てみたいから」
「あ、はい」
いって、待機モードになっていたセカンドVを起動させる。鈍い音が響き、セカンドVのデュアルセンサーがグリーンの輝きをともした。そして、白い巨人が息を吹きかえらせる。
「うんうん。いい感じね。これで……あれ?」
そう言ってサイドコンソールをいじったニケは、その手を止めた。操縦系に関する設定を見たところ、これまでになかった表示がでていたのだ。それは、仕様書では見たものだ。が、機体のテストデータでは一度も表示されたことのないもの。
「どうしたんですか?」
「……ジェスタ。あなた、なんともない? 頭痛とか、いろいろ」
突如、真剣な様子になって尋ねてきたニケに、ジェスタは戸惑いつつも、首を振った。
「いえ。むしろ、なんだか頭がクリアになったって言うか。すっきりした気分になりましたけど……」
「ううん。ならいいの。そう。そうなの」
そう言って、ニケは複雑な表情になってジェスタの顔を見る。そしてため息をついてから、
「とりあえず、使えるようにはしたから。いい? あくまでもこの機体はビクトリーとかガンイージほどの信頼性はないの。一応、予備のハンガー、ブーツはいくつかあるから大丈夫だけど、その辺気をつけて使いなさい。わかったわね?」
「ハイ。心配させて申し訳ありません。ですけど、俺も家族の元に帰るって約束しましたから。絶対に、無理はしませんよ」
「そうよ。あんなにいい家族を悲しませたら、許さないからね? よし、それじゃ行って来い。がんばんのよ」
「ハイ。ニケさん。では、危険なので」
「わかってるわよ」
そういうと、ニケは「よっと」といいながら、フロントアーマーから飛び降りて、近くのハンガーに飛び移った。そこから、さらに地面に。それを見ながらジェスタはキャノピーを閉じ、コックピットを収納した。一瞬コックピット内が暗くなるも、すぐにキャノピー部分がモニターになり、周囲の光景が映し出される。その一部にウインドウを作って、足元にいるニケに目を向けると、ニケは安全圏に退避して、大きく手を振っていた。それにジェスタはセカンドVに手を振らせると、ミノフスキードライブを駆動させる。
機体がミノフスキードライブの作用でゆっくりと重力に逆らって浮遊すると、そのまま前進を始めた。それにあわせてドック内に警報が鳴り、エアロックが作動し始めた。ジェスタはそちらに機体を進め、エアロックに進入。
そして外に通じる扉が開くと同時に、ジェスタは足元のペダルを踏み込んだ。そのとたん、ミノフスキードライブが一気に出力を増し、機体は弾かれるように加速した。が、その割りに感じるGは少ない。そのことに軽く驚きつつ、セカンドVはトンネルを抜け、一気に月の大地に飛び出した。そして慣熟飛行をかねて目の前にある切り立った山岳地帯に突入。あちこちに存在する山や岩を、高速で飛翔しながら回避していく。
「すごい……! これほどの運動性能を持ち合わせているのか、この機体は」
その速度に。運動性能に驚くジェスタ。ガンイージやガンブラスターでは、これほどの速度でこういった地形を自在に飛び回るのは難しかった。というより、不可能であった。が、ミノフスキードライブユニットを搭載しているセカンドVにとっては、ほぼ全ての推力のベクトルをジェスタの意志で自在にコントロール可能なのでジェスタが思い描いたとおりの軌道をトレースすることが出来るのだ。それも、非常に高速で、だ。
あまりにも飛行性能がよいので、ジェスタは刹那。自分自身が鳥のように空を飛んでいるような、そんな錯覚にさえ襲われる。いや、翼持つ鳥でさえここまで完璧に飛ぶことはかなうかどうか。セカンドVはさらに加速しつつ、目の前にある小さなクレーターに沿って飛行し、次いで目の前の切り立った岩を、意図的に装甲がこする寸前の至近距離でパスする。
それから機体を一気に上昇させてから、さらに出力を引き上げる。と、同時にセカンドVのミノフスキードライブユニットから一気にメガ粒子をあふれ出した。そのメガ粒子は百メートルほどの長さになる。左右のユニットから伸びたそれは、少し離れたところからみるとまるで光の翼を開いたように見える。
そして、セカンドVは一度、その翼をはためかすと同時に、その羽ばたきで加速するように弾かれたように前進していった。はるかな先に感じ取ることが出来る一人の少女を目指して。
MSデータ
LM314V16 セカンドV
頭頂高 15.2m 本体重量 12.1t 全備重量 17.2t ジェネレーター出力 6120kw
武装 頭部バルカン・ビームシールド×2・ビームサーベル×2(2)・ハードポイント×10
肩部ウェポンプラットホーム×2
LM314V16はビクトリーにミノフスキードライブを搭載した試作型モビルスーツで、一般的にセカンドVと呼称されるが、実はこれは正しい表現ではない。
セカンドVと言う名前は、あくまでもLM314V16につけられた名前ではなく、それを含む次世代型ビクトリーの開発計画の中で作成されたミノフスキードライブ実装型のビクトリーすべてにつけられたいわばプロジェクトネームであって、モビルスーツの名前ではないのである。故に、セカンドVと言う名前は後世にあいまいな形で伝えられることとなる。まあ、これに関してはLM314V21。V2ガンダムがあまりにも有名であり、目覚しい戦果を挙げたことなどによってLM314V16の存在そのものがかすんでしまったこともあるだろうが。
LM314V16は、先ほどあげたとおり、V1とも呼ばれるLM312V04ビクトリーをベースにし、ミノフスキードライブを搭載したモビルスーツである。リガ・ミリティアは、この次世代型の推進システムをかなり早い時期から注目しており、かつてのサナリィのスタッフを取り込むことに成功したこともあって、そのシステムのモビルスーツ用に小型化する研究そのものはかなり早い時点から開始していた。(元々サナリィ自体、ミノフスキードライブの小型化計画に着手していたが、試作機の製作すら間々ならぬ状況であった)これは、象徴としてのモビルスーツに搭載することだけが目的ではなく、兵器開発関連の企業に対する取引のカードとして使用する意図もあったためと思われる。事実、LM314V16、およびLM314V21の開発に当たって、リガ・ミリティアはアナハイム・エレクトロニクスからかなり便宜を図ってもらったようであった。
なお、ミノフスキードライブユニットと言うシステムではあるが、これはUC150年代にはすでに、艦艇には標準装備されているシステムである。このシステムはユニット内部に複数の特殊なミノフスキーフィールドを生成し、そのフィールド同士の干渉、反発によって推進力を得る、と言う画期的なシステムであった。
どの辺が画期的であるか、と言うと、何より、このシステムを持って駆動する際、加速する際に推進剤を必要としなくなる点が上げられるだろう。この点がはじめに注目されたのは、惑星間航行をする大型艦船であった。こうした超長距離間の移動を行う艦にとって、最大のネックは大量の推進剤を艦に備蓄しておかなければならないため、スペースはとられるし、重量は増すし、その割に加速は限られてくるなど(減速の手間も考えると、あまり加速は出来ないのである)悩みの種は多かった。そこに登場したのがミノフスキードライブユニットで、このシステムを導入した惑星間航行艦は、圧倒的に推進剤の搭載量を減らすことが出来たし、何よりもジェネレーターからユニットに電力を供給するだけでほぼ無制限に加速、減速が可能であると言う点から、超長距離間の航行にかかる時間が大幅に削減される。さらに、副次的作用として発生する、慣性を緩和する機能もあるなど、これまでのあらゆる常識を覆すまさに夢のような発明であった。
そしてそれは、だんだんと通常の大型艦船にまで普及されることになり、最終的には軍事用の艦船にはほぼすべてに搭載されるまでになった。
すると、当然。このシステムをモビルスーツにも、と言う動きがでてくるのは当然である。ミノフスキードライブの最大の利点は、「推進剤を必要としない推進機関」である。これは、モビルスーツと言う、限られたスペースしか持たない兵器にとってはあまりにも魅力的な特徴である。
当然だろう。小型、軽量化したモビルスーツにとって、最大の難点は積み込まざるを得ない推進剤である。苦労に苦労を重ねて軽量化したモビルスーツが、推進剤を積み込んだとたんに重量が倍になる、と言う話はざらに聞く。運動性と機動性が売りのモビルスーツにとって、まさに推進剤とはネックであった。ゆえに、ユニット内部でフィールドの制御をすることで推進力を得ることが出来るミノフスキードライブユニットは、うまく制御さえすればアポジモーターすら必要としなくなる可能性もあったし、何よりも熱核ロケットとは比較にならないほどにジェネレーターに対する負荷が軽かったので、総合的なモビルスーツの性能の向上に欠かせないものであると認識されたのである。だから、あらゆる研究機関が、小型のミノフスキードライブの開発に乗り出した。が、これは見事に失敗した。
なぜなら、ミノフスキードライブユニットは、ユニット内に生成したIフィールドの中に特殊なミノフスキーフィールドを複数生成し、干渉させる必要がある。つまり、いくつものフィールドを作成し、さらにそれを各個に制御しなければならないと言うことである。艦船用のミノフスキードライブユニットなら、スペースも大きく、その分形成するフィールドも大きくてよく、おまけにモビルスーツのように短時間に極めて複雑な機動をする必要もないのでそれぞれの制御もまた比較的楽に出来た。(それでもその開発には恐ろしく時間がかかったのだが)だが、モビルスーツサイズとなるとそうも行かない。限られたスペース内でまともに機能するミノフスキードライブの開発に取り掛かったすべての技術者はみな、「砂粒に普通のペンでモナリザの絵をかくようなものだ」とこぼしたと言う。それほどまでに、小さなスペース内で展開したIフィールド内に発生させた、いくつもの電荷を持ったミノフスキーフィールドを完全に制御し、推進力を得る、と言う成果を得るのは、ハードウェアの面はもちろん、それ以上にソフトウェアの面で大変だったと言う。
これを成功させたのが、リガ・ミリティアの開発スタッフだった。積極的に開発していたバイオ・コンピューター関連の技術の蓄積があったからこそ可能だったとはいえ、その苦労はそれこそ爪に火をともす思いであったことは言うまでもないことだろうが、残念なことに、おなじ技術の下地を持つザンスカール帝国もこれに若干遅れるも、ミノフスキードライブのモビルスーツ用の小型化に成功したのである。
ミノフスキードライブユニットの内部に発生する力場のコントロールを、モビルスーツと言う小型の機動兵器の複雑な動作にあわせて行うのは単純に機械的なものだけで操作するのは難しく、それゆえにバイオ・コンピュータとの連動を前提に開発せざるを得なかったのが、この時代においてこのデバイスをリガ・ミリティアとベスパだけが開発に成功したと言えるだろう。しかし、その機能を完全に発揮できるのもバイオ・コンピューターが制限なしで駆動する「ニュータイプ」と呼ばれるパイロットだけであったと言うのがこのユニットの不完全さを物語っている。事実、テスト段階で行われた機動力、運動性能と実際の戦場で観測されたV2の運動性能にはかなりの差があったのである。
さらに、小型化に成功したとはいってもそれはまだ未完成でユニット内で形成したフィールド同士を反発させた際に生じる余剰エネルギーをうまく処理できず、それを処理するために後方にメガ粒子で放出すると言うかなり強引な手段を用いることとなったが。(艦船用の大型機関の場合、Iフィールド内でそのエネルギーをうまく冷却することができるのだが、モビルスーツ用のミノフスキードライブ内の小さなIフィールド内でそれを行うことは現段階では不可能だったのである)これに関しては放出したメガ粒子そのものが巨大なビームサーベルのような形となるため、その特性を武器として使う、などといった怪我の功名的な扱いがされたが、あくまでもこれはLM314V21のパイロットの技量が卓抜していたからであり、普通のパイロットが用いるとむしろ味方に危険をもたらす可能性さえあった。
なお、この放出されたメガ粒子はV2二号機の場合(ウッソ・エヴィンが使用した機体)最大約1qにまで及び、かなり強力な武器として扱われたようである。一方でV2一号機はおよそ百五十メートル前後のメガ粒子を放出し、そしてLM314V16もおおよそ同程度のメガ粒子の放出量であったようである。ゆえに、「光の翼」と謳われたV2のそれとは違い、ほとんど目立つことはなく、それもまたLM314V16と言う機体を目立たなくした一因のようであった。
とりあえず不完全とはいえミノフスキードライブの小型化に成功したリガ・ミリティアは、当然それを当初の目的どおりビクトリーに搭載させた。しかし、ここで問題が出た。当初はビクトリーの換装用の装備程度にしか考えていなかったミノフスキードライブであったが、これが生み出す推進力が強すぎて、機体剛性がまったく足りなかったのである。特に、アドバンストビクトリー計画におけるミノフスキードライブユニットはあくまでもビクトリーのフレームにミノフスキードライブユニットを後付にする強化装備案であったが故に、いざ装備させてみると強力な推力の戦闘機動時における急激なベクトルの変化に、ミノフスキードライブと本体の接合部が集中する応力に耐え切れなかったのである。初期のテスト機では少し出力を上げて戦闘機動を取らせただけで接続部位が引きちぎれてしまったという。その上、本体の強度も足りなかったため、振り回される際に生じるGに、機体全体が。特にドッキングブロックが耐えられなかったのである。
それゆえに、とりあえずは計画を見直すことにした。
そして、開発陣はある決定をした。ビクトリーへの搭載を諦め、新たに作ったコアファイター内蔵式の新型ビクトリーを開発し、それをミノフスキードライブ実装機とすることである。その開発のために、既存のビクトリーをベースにさまざまな強化案を実行した。それが、プロジェクトセカンドVである。LM314V16は、その中で生み出されたLM314V21のための強化案の中の、最終バージョンである。この機体に施された、プロペラントの大幅削減と、それによって開いたスペースを利用した機体剛性の確保などを盛り込んで、新規にビクトリーを設計したのがLM314V21へと繋がる、一連の新型ビクトリーである。
なお、LM314V21を生み出すための踏み台となる形となった「セカンドV」、そのほとんどは使うことも出来ない代物であったわけだが、最終バージョンでもあり、それ以前の機体のデータすべてを元に作られたLM314V16は、コアファイターそのものの強度を引き上げ、ビクトリーのものをベースにしていながら、大幅に削減したプロペラントのおかげで開いたスペースを利用して剛性を増したブーツとハンガーのデータからほとんど新規に作ったブーツ、ハンガーを採用するなど(この際に作られたブーツ、ハンガーはLM314V21のパーツとかなり共通するものが多い)など、その完成度も高く、少なくとも出力さえ制限すればまともに戦闘が出来ることは試作機のデータからも明らかとなっていた。(なお、この場合の「出力100パーセント」とはミノフスキードライブユニットの理論上の最大出力ではなく、通常戦闘で必要とされる出力、程度のことである。LM314V16はこの数値で75パーセント程度が限界であるが、V2はこの出力をはるかに上回る、200パーセント以上の出力を搾り出しても問題なかったといわれる)
そして、リガ・ミリティアは三機作ったLM314V16。耐久テストなどで使いつぶし、解体された一号機とアナハイム・エレクトロニクスに研究資料として譲渡した二号機。そして、若干テストを行いその作動に関して問題ないとされた三号機を、実戦に投入することを決定した。
これは、すでにロールアウトしたLM314V21は、その生産量が極めて少なく、(と言うより、試作機しかなかった)そのうち二機をリーンホースにまわさざるを得ず、リガ・ミリティアのもう一つの実戦部隊であるハルシオン隊に象徴となるV2をまわすことが出来なかったため、仕方がなく、と言う感じで回されたようである。
そして、ハルシオン隊におけるLM314V16であるが、あいにくなことにリガ・ミリティア上層部が期待したような象徴的な意味合いからはまったく成果が上がらなかったようであった。これには二つの要因が存在しており。同時期に運用されたV2が、そのニュータイプと謳われたパイロットのこともあり、象徴的な意味合いであまりにも目だったため、その陰に隠れてしまったことである。
さらにもう一つの理由として、LM314V16がビクトリーベースの機体であることも上げられる。ベスパも連邦のパイロットたちも、戦場でLM314V16を目撃しても、ビクトリーと代わり映えのないその姿をただのビクトリー。あるいはちょっとだけスラスターを強化した程度の機体、としか認識せず、これがミノフスキードライブを実装した初の実戦型モビルスーツであるとは誰も思わなかったのである。
さらに言うなら、リガ・ミリティア上層部も結局重視したのはリーンホース隊とV2であり、そちらを優先するあまり、LM314V16は実戦に投入されたと言うデータもあいまいな形になってしまったためであろう。これらから言うに、試作機、実験機としてはともかく、実戦に出た機体としてLM314V16はまさに不運な機体であるといえた。所詮、V2の踏み台としてしか存在意義のない機体。それがLM314V16と言う機体なのであろう。
なお、メカニズム的に見たLM314V16の最大の特徴はやはり、言うまでもなくミノフスキードライブユニットであるが、それ以外にも見るべきところは多い。まず、ビクトリーベースでありながら、専用に開発されたブーツ、ハンガーは飛躍的に剛性は高くなったが、本体重量はかなり重くなってしまった。ビクトリーの本体重量が7.6トンであるのに対し、LM314V16は12.1t。あまりにも大幅に重量が増している。が、その反面全備重量はビクトリーが17.7t。LM314V16は17.2tと大幅に軽量化が施されていることがわかる。無論、全備重量の中には推進剤以外のものも詰め込むため、一概には言えないが、ミノフスキードライブ実装型モビルスーツがいかに軽量化が可能であるかがこれでわかるだろう。
そして、ミノフスキードライブの搭載にあわせて、LM314V16はビクトリーのものをベースにした強化型ジェネレーターを搭載している。それによって出力は向上し、さらにミノフスキードライブをメインにしているためジェネレーター出力には大幅に余裕が出来た。それに対応させるため、LM314V16はコアファイターそのものにハードポイントに近い特性があるウェポンプラットホームを搭載し、それにさまざまな高出力のオプション兵装を装備させることが可能となっている。もっとも、このシステムは、運用上何か不都合があったのか後続の機体LM314V21には装備されることはなかったが。
補足説明をするならば、LM314V16はコアファイターそのものにも手を加えられ、ドッキング部位もまた、強化は施されている。が、それでもこの機体はビクトリーのハンガーやブーツを運用は可能なのであった。もっともその場合、ただでさえ強度不足気味で、出力を縛らざるを得なかったミノフスキードライブ(およそ75%程度)を、さらに落として、40%前後まで落とさざるを得なくなるため、よほどのことがない限りは行われなかったようである。
(注)この機体、セカンドVは元々小説版機動戦士Vガンダム(著 富野由悠季)にでてきたモビルスー
ツ、セカンドVを参考にしていますが、厳密には同名モビルスーツと同一の機体、というわけでは
ありません。外見は小説版セカンドVそのものをイメージしていますが、中身は相当改良を受け、
強化されている、となっています。