UC153 6月 13日 月軌道とサイド2の中間空域・連邦軍、リガ・ミリティア連合艦隊

 タシロ艦隊との緒戦は両艦隊ともそれなりの損害を出し合って痛み分け、という形で一応の決着がついた。
とはいえ、実質的には連合艦隊の勝利という形で終了したことは間違いがないだろう。形勢不利を悟ったタシ
ロ艦隊は後退し、結果的に前線はさらにエンジェル・ハイロゥの側に移ることとなり、連合艦隊が戦力を押し
込める結果となったのだから。そしてもう一つ戦果があったとすれば、それはファラ・グリフォンが用いてい
た巨大モビルスーツ、ザンネックを撃墜したことだろう。艦隊にとって、もっとも恐ろしいとされていたこの
機体が撃破されることで、少なくとも艦を一撃で撃沈するような奇襲を恐れる必要はなくなったのである。こ
の戦果は何よりも大きく、結果として連合艦隊の士気は上がった。

 だが、この勝利を得るための代償もまた大きかったというべきだろう。結果として多くの感は未だに戦列に
残っているが、問題はパイロットである。壊れた機体は修復が可能だが、死んだパイロットや傷ついたパイロ
ットは戦列に復帰は出来ない。質で劣る連邦軍のパイロットはラステオ艦隊、タシロ艦隊といったザンスカー
ルのモビルスーツ隊と真正面から激突することで消耗しきり、またしても足を止めざるを得なくなったのである。

 そんな中、巡洋艦エアに一機のモビルスーツが帰還して来た。下半身を失い、片腕を損傷したビクトリータ
イプの機体。ジェスタのセカンドVである。ひとまずジェスタはモビルスーツデッキの管制員の指示に従って
機体を移動させ、ハンガーに固定させた。それが終わると機体の冷却や保守点検が始まるのだが、ジェスタは
コックピットをさっさとスライドさせると、そのままヘルメットのシールドを閉じたままモビルスーツデッキ
を後にした。

 エアロックを抜け、そのまま自室に向かおうとしたジェスタだが、そのジェスタを待つ人影があった。ライ
アンと、アンであった。

「ジェスタ。よく無事に戻ったな」

「悪かったね、厄介な敵を相手させて」

 と、二人は交互にジェスタをいたわるように声をかけた。それにジェスタは少し困ってから、仕方がないの
でヘルメットのシールドをあげ、それを脱ぐ。そして二人のほうに顔を向けると、そろって二人は驚いた顔をした。

「ジェスタ。お前、泣いていたのか」

 ジェスタの目が充血していたのを見て、ライアンもアンも驚いていたのだ。当然だろう。戦場から帰ってき
て、泣いたと思しい様子を見せたのだ。これに驚かないはずがない。

「はい。なぜかわかりませんけど、無性に悲しくなったんです。あいつを、落とした。いえ、殺したときに」

 わざわざ殺した、と言い換えるジェスタ。自分でもなぜかはわからない。が、ある意味自分の鏡像ともいえ
るあの男。ジュリアン・ソゥは、落としたというよりも殺したという言葉を使ったほうが自分にはふさわしい、
と思ったのだ。

「そうか。大変だったな」

 ライアンはそう言って、ジェスタの肩に手をやった。ジェスタはそれに「はい」と頷いてそれから、「着替
えてきます」と言い残すとそのままその場を後にしていった。それを見送るライアンとアン。アンは不思議そ
うにライアンに目を向け、

「どういうことでしょう?」

「あの挟み付きのパイロットは憎しみと復讐だけにとらわれていたらしい。そのあたりが、カガチを憎んで暴
走しかけた自分とダブったんだろう。損な性分だな」

「甘い、というべきでしょうね。普通に考えれば美点なんでしょうが」

 ライアンの言葉に、アンは渋い顔をした。戦場に出る人間の感性としては、ライアンが言ったような思考は
きわめて危険だ。そもそも、戦場に出ている敵はすべて人間。家に帰れば親なりつれあいなり子供なりが待っ
ている、普通の人だ。そんな人間を、自分の目的のために、生き残るために殺していくのが、戦争というもの
だ。そして、それはこちらも同じ。人間同士殺し合いをする日常において、相手の立場を考える感性はただ、
自分の精神をすり減らし、いたずらに命を危険にさらすだけに過ぎないだろう。

「それがあいつの。いや、ニュータイプ的な感性、という奴なのかも知れん」

「ニュータイプ。信じているんですか?」

「さてな。ジオン・ダイクンやらアムロ・レイの言葉がどれほど事実なのか俺のような凡人にはわからんよ」

 ライアンはそう肩をすくめて、その場を後にした。戦隊長である彼にはさまざまな仕事が山積みだ。今回出
撃の際に消費したすべての物資の確認もしなければならないし、帰還してきたパイロットたちの出した報告書
にも目を通さなければならない。そして、一番つらい仕事としては、戦死した隊員の家族に宛てる手紙を書か
なければならないのだ。

 それらを考えて、アンはため息をついた。今回の出撃で、また隊員達が命を落とした。だんだんと人が減っ
ていく。自分がその一人になる可能性もあることを考えると、欝になる。

「余計なことを考える暇はない、な」

 呟いて、アンはひとまずその場を後にして、休むことにした。


 UC153 6月 13日 月軌道とサイド2の中間空域・タシロ艦隊

 連合艦隊と戦い、少なからぬ打撃を受けたタシロ艦隊は後退しながら陣形を整え、次なる戦いに備えていた。
しかし、その位置は不自然なまでに後退し過ぎているように見える。タシロ・ヴァゴの用兵を知るものであれ
ば、このことに不自然さを感じるものは多かったであろう。少なくとも、明らかに不利となる撤退戦をわざわ
ざ自分から仕掛けるというのは不自然である。伏兵をあらかじめ用意し、側面から攻撃をする、というのなら
ばともかく。(本来、ザンネックはこうした使い方をすべきであった)

 そんなタシロ艦隊の、多くの傷ついた艦の中でもアマルテア級戦艦、ルノーは少し微妙な空気に包まれてい
た。鼻つまみ者で嫌われていたジュリアン・ソゥ中尉が戦死したからである。正直、個人としては最悪のレッ
テルさえ貼られる男であったが、パイロットとしての実力は間違いなく超一流の域に達している。そんな最強
のパイロットの一人が、帰らぬ人となったのである。立て続けに超一流のパイロットを失ったルノーの空気は
重く、特にパイロットたちは複雑な顔をしていた。

 そんな艦の空気とは無縁に、薄暗く、よどんだ空気の中、相変わらず代わり映えのない営巣の中で硬いベッ
ドの上で座っていたフィーナはじっと目をつぶってまるで眠っているような状態でいた。そして、彼女はゆっ
くりと目を開ける。その顔は、心なしか嬉しそうであった。

「そっか、勝ったんだね、ジェスタ」

 はっきりと理解したわけではない。が、それが事実だと彼女は判断した。ジェスタが勝ち、ジュリアンを打
ち破った。フィーナは、それに安堵と喜びを感じていた。それは、ジュリアンが死んだから、ではない。ジェ
スタがジュリアンの狂気に引きずられることなく、屈することもなく戦い抜き、そして。勝ったからである。

 その事実が我がことのようにうれしい。しかし、それが次なる戦いで自分たちがジェスタと戦わなければな
らないことだということに至ると少し複雑な気分になる。ちくり、と胸の奥にさすような感覚。それをこらえ
ながら、しみもない天井に目を向けて、

「負けられないね、あたしも」

 そう、一言呟いた。呟きながら、天井に模様でもあれば、もう少し精神衛生上まともに時間を潰せるのに、
と思うフィーナであった。


 UC153 6月 18日 サイド2・月軌道中間地点・エンジェル・ハイロゥ

 長らく組み立てに時間をかけていたエンジェル・ハイロゥだがこの日。ついに完成を迎えた。直径二十キ
ロの巨大な円盤状の機械は、金色の装甲をまとい。そのうちに、約二万人のサイキッカーたちを抱える。その
サイキッカーたちは皆冷凍睡眠カプセルのうちでまどろみ、サイコミュ端末であるそのカプセルを通じて中枢
ブロックにあるキールームの女王マリアの精神波と感応し、その意思を強化。放出する役割をになう。

 今、完成したエンジェル・ハイロゥの中枢に、ザンスカール本国からやってきた女王マリアがそのキールー
ムに立ち。祈りをささげた。彼女が願うのは、平穏な世界。争いがなく、皆平和を重んじ。安らかな世界を、
彼女はただ願う。

 その意思はエンジェル・ハイロゥの中を駆け巡り、サイキッカーたちがサイコミュを通じてそれを増幅させ
る。そして、機体全体に走るアンテナを通じてその思念が周囲に放出された。試運転である今回は、それを戦
場に。正確に言うと、次なる戦いに備えて補給、補修作業に終われる地球連邦軍、リガ・ミリティア連合艦隊
に向けて放たれた。

「ん……」

 自室でまどろんでいたジェスタは、耳鳴りが気になり、目を覚ます。なんだろう、と思って周囲を見回す。
そして自分の目を疑った。自分が眠っていたのは、艦の寝室だったはずだ。元は二人部屋だったが、同室のマ
ジクが戦死したため、一人部屋となった。飾り気のない、無機質な船室。

 なのに、今自分がいるのは懐かしい、アメリアコロニー時代の寝室。目を疑い、愕然としたジェスタは目を
つぶって頭を振った。これは夢だ、ばかげている、と。そして目を開けたとき、そこにあったのは自分の記憶
どおりの、船室の壁。

「疲れているのかな……」

 そんなことを呟きながら、ジェスタは部屋を出る。そして部屋を出たとき、耳鳴りを感じた。なんだ? と
思いながら怪訝な顔をすると、

「にいさん?」

 という声が聞こえる。馬鹿な! と思いながら振り向くと、そこにミラルダの姿があった。

「な、何でミラルダが?」

「はい?」

 顔を引きつらせてそういうと、その少女、ミラルダの姿が掻き消え、そこにいたのは生活班の仕事をがんば
る少女のクルーだった。彼女は不思議そうな顔をしてから、ジェスタのことを心配そうに見ると、

「どうかしたんですか? お疲れだったら、医務室にいかれたら」

「あ、いや、たいしたことはないよ。邪魔したね、アリス」

「はあ、大変でしょうけど、パイロットのお仕事がんばってくださいね」

「ああ。ありがとう、アリス」

 そういいあい、軽く挨拶をかわして分かれる。その少女、アリスを見送ってからジェスタは一度ため息をつ
いた。本当に疲れているのかもしれない。幻覚に、幻聴。ストレスでどうにかなったのかな、と思ったジェス
タは、医務室に向かった。


「別に、問題はないぞ」

 医務室にいき、多少の問答を行い、その上で軽い検査を受けた結果、そういう結論がでた。無論、精密検査
をしたわけではないが、こういう軍艦での医療の場合、ストレス関係の診断というのは、簡易に出来ながら精
度の高い診断というのを可能とするノウハウが確立されているため、問題がない、というのならばそうなのだろう。

「はあ。ストレス関係ではない、と」

「ああ。少なくともな。もちろん、精密なカウンセリングを受けんとはっきりとしたことは言えんが」

「……ありがとうございます。ちょっと、疲れているみたいです」

「そうだな、お前は特に色々と気苦労をしょっているみたいだしな」

「同情、してくれます?」

「してやるよ」

 そんなことを言い合って、軽く談笑してからジェスタは医務室を後にした。そして軽く頭を振りながら、艦
内をうろうろとして、展望室に取り付いた。そして、遠くの風景に目をはせる。

「疲れている、か」

 それもそうかもしれないな、と思うジェスタ。戦いに継ぐ戦い。特に、一番最近の戦い。コンティオカスタ
ムとの戦いでは自分の鏡像を突きつけられたような、そんな錯覚さえ感じられた。怖かった。ああなってしま
う自分の姿を見るのが。憎しみを叩きつけられるのが。そんなことを思って、ため息をついたとき。視界が突
如切り替わる。

「え?」

 今の今まで自分は展望室にいたはず。なのに、今自分がいるのはコックピットの中。そして目の前に。

「黒い……セカンドV、だって?」

 愕然とした次の瞬間、そのセカンドVが自分のほうに向かってきた。強烈な殺気を。憎悪を放出しながら。
思わずそれに対し、ジェスタは身構え、セカンドVが手にもつサーベルから身を守ろうとした。

「何をしている、ジェスタ」

 と、かけられた声に、ジェスタは正気に返った。そちらのほうに振り向くと、ライアンが怪訝なまなざしを
向けている。それに、ジェスタはわけがわからない。今、自分はモビルスーツに乗っていて。黒いセカンドV
と戦って、そしてサーベルに貫かれたのだ。なのに、生きているし、ここはエアの展望室の中だ。

「え? え? え?」

 わけがわからず、周囲を見回るジェスタ。その姿にライアンは心配そうな様子になってジェスタに近づいて
きて、

「どうした。何を混乱している?」

「あ、あの。俺……」

 そう言って、事情を説明した。さっきから自分が見ている幻覚、幻聴などを。それを聞いてライアンは少し
考え事をする。そして先ほどまでジェスタが取り付いていた展望室の窓に向かい、

「ジェスタ。あれのせいかも知れんぞ」

 そう言って、遠くのほうを指し示す。その言葉にジェスタも窓に取り付き、ライアンの言葉どおりにそちら
に目を向ける。そこに移っていたのは、はるかかなたにある、全長二十kmを超える宇宙要塞、エンジェル・ハイロゥ。

「光っている? 作動、してるんですか、あれは」

「ああ。完成したらしいな。……何か、感じるか? 俺は特になんともないのだが」

「そうですね」

 呟いて、ジェスタは青い輝きを静かに放つエンジェル・ハイロゥの巨体に目を向ける。その巨体から、ジェ
スタは何か。耳鳴りのようなものを感じた。穏やかな、歌声にも似た。それに身をゆだねれば楽になれるだろ
う。が、ジェスタ自身はそれに対して強い拒否反応を持つ。

「なんだか、危険な気がします。俺は、あれを認めたくない。そう、思います」

 ジェスタは遠くのエンジェル・ハイロゥをにらみながら、そう呟いた。

 そのエンジェル・ハイロゥのキールームの女王マリアは、戦いに身を浸すものに、そこから開放されるべく
祈りをささげていた。そしてその祈りに抗う意思を持ち、あくまでも戦おうとするものが少なからずいること
に悲しみを感じながらも祈り続けた。しかし、その抗う意志を持つものの中で、特に強い意思を放った少年の
意識が祈りを強く拒否した。マリアはその思念に打たれて、その祈りを中断せざるを得なくなった。

 それを受けて、カガチはまだエンジェル・ハイロゥが完全ではない、と判断する。まだ最終調整が必要であ
る、と。確かに、その機能を完全に発動するにはまだ多少の時間を必要とするであろう。

 しかし、ここにエンジェル・ハイロゥは完成し、戦いは新たなる局面を迎える。

 
 UC153 6月 20日 サイド2・月軌道中間地点

 完成したエンジェル・ハイロゥを撃破するべく連合艦隊はその足を進めようとした、その矢先にエンジェル・
ハイロゥが唐突に移動を開始した。自航が可能、とは聞いていたが、それが突然地球を目指して動き出すとい
うのは予想の範疇を少し超えていた。早すぎる、というのが彼らの意見である。何よりも、タシロ艦隊が戦力
を残しており、その上でズガン艦隊、モトラッド艦隊が完全に戦力を残している状態で正面からぶつかり合え
ば、確実に敗北を喫するのはこちら側だ。なので、攻めあぐねている、というのが正直なところである。

 なので、今は小部隊による小競り合いで時間を稼ぐ、という方法しかとることは出来なかった。それによっ
て、ムバラク・スターン提督が連邦軍のほかの部隊に呼びかけ、協力を要請したり、他のコロニー政庁の部隊
を引っ張り込もうというわけだが、実際のところ、その成果はあまりなく、戦力の増強はさして行われること
はなかった。

 そして、タシロ艦隊がついにモトラッド艦隊と合流。ベスパの布陣は完璧のものになった、と思われた。

 
 UC153 6月 21日 サイド2・月軌道中間地点

 エンジェル・ハイロゥがそのキールームに女王マリアを迎え、機能を完全に発揮した。女王は、戦場で命
をすり減らす兵士たちに争いを忘れ、穏やかな心を取り戻して命をはぐくむことに心を砕いて欲しい、という
願いをそこに込めた。

 しかし、機械はその願いを歪曲して伝えた。いや、機械が、というよりはその機械のコントロールを握るカ
ガチの意思によって、その平和を願う意思は歪められることとなる。結果として、女王の祈りはサイキッカー
によって増幅され。それは戦場にではなく、地球に向けて発振されることとなった。

 そして、平和を願うその祈りが。人の。いや、あらゆる生命が持つ本能を。生きるために他者を食らい、駆
逐するという本能までをも圧迫し、深い眠りへといざない始めることとなる。それは、すべての生命の退行現
象を言うべきであった。

 それは恐ろしい現象だった。ジン・ジャハナムはこの姿を見て、「これは眠れる森の美女では済まされない」
といった。「眠ったままの生き物は、腐る」とも。それは、事実だった。緩やかな、あまりにも穏やかなる虐殺。
それは、これまで行われたあらゆる虐殺と種類が違う、異質なる殺戮であった。人々は夢の中にいざなわ
れ、そして死にいたるのだ。

 それを目の当たりにして、連合艦隊はもはや時間的猶予はない、と判断。攻勢に移る決断を下す。

 そして、同時刻。ベスパの艦隊のほうにも動きがあった。モトラッド艦隊。ひいてはエンジェル・ハイロゥ
に合流したタシロ・ヴァゴがついに反旗を翻したのである。エンジェル・ハイロゥのキールームに、武装した
部下を引き連れて制圧。そして女王マリアを人質に取り、フォンセ・カガチを弾劾したのである。そこで、フ
ォンセ・カガチは己の望みをついに口にした。平和を願う究極の形は赤子である、と。

 その言葉に女王は己の過ちを悟る。押し付けた意思は平和を実現はしない。ただの、自分の傲慢であったと
いうことを。そして彼女は、タシロに連れられてシュバッテンに連れられるさなか、刹那邂逅した己の娘に。
シャクティ・カリンに対して完全にではないが、己の意思を伝えた。自分には出来なかったことを、なして欲
しいと。子として親を超えて欲しい、と。

 そして、女王マリアを艦内に収容した紫色に塗られたアマルテア級戦艦、シュバッテンがタシロ・ヴァゴの
指揮の下。エンジェル・ハイロゥの元を離れた。目指すは、ザンスカール本国。それに、タシロ艦隊は従い、
離脱を開始。

 そしてその一方で、女王を欠いたエンジェル・ハイロゥはそれでも地球への降下をなすべくその巨体をズガ
ン艦隊、モトラッド艦隊とともに向けることになる。キールームに女王マリアの代わりに、その娘。シャクテ
ィ・カリンを入れることをフォンセ・カガチが提案することによって。

 連合艦隊はどちらを追うべきか迷った。が、結果としてムバラク提督の指令によって、タシロ艦隊の追撃を
実行することに決めた。彼はV2のパイロット、ウッソ・エヴィンの意思に従うこと、といったが、実際には
タシロ艦隊が反転して、挟撃されることを恐れたからでもある。分断したからには、勢力が弱い敵のほうを殲
滅するのは当然のことであった。

 そして、逃げるタシロ艦隊と、追う連合艦隊の戦闘が、幕を開ける。


 UC153 6月 22日 月軌道と地球の中間空域

 エンジェル・ハイロゥから離脱していくタシロ艦隊。その中に、戦艦ルノーも存在していた。そのモビルス
ーツデッキで、スタンバイが完了したリグシャッコーのコックピット内のフィーナの顔は、ひどく複雑なもの
となっていた。今の彼女の任務は、追撃してくる敵の足を止め、艦隊が逃げる支援を行うことだ。それはすな
わち、女王マリアを本国に送ることになる。女王マリアのために戦う、ということで気分的には彼女としては
盛り上がるはず、であった。

 しかし、ふたを開ければそれは逆であった。気分は、最悪といってもいい。その理由は自分でもわかってい
た。明らかに、おかしい。このタイミングで、タシロは反旗を翻した。しかし、戦略的に見ても、このことに
よる利点は無きに等しい。それどころかどう考えても逆効果でしかない。戦力を分断し、各個撃破されれば負
けるのはザンスカールである。切り札のエンジェル・ハイロゥは起動せず(シャクティがいるため、起動に関
しては問題はないがそのことをタシロ艦隊で知る者は女王を除いて一人もいない)後は連邦軍の援軍が来てザ
ンスカールは補給線を絶たれ、どうあがいても勝機を失うこととなってしまう。

 それは、エンジェル・ハイロゥに残った部隊だけではない。よしんばタシロがザンスカール本国まで戻るこ
とが出来、女王を祭り上げることに成功したとしても、その戦力は激減している。と、なればサイド2は再度連
合艦隊を編成し、今度は圧倒的に劣勢なザンスカール帝国を確実に殲滅するだろう。

 つまり、どうあがいてもその先に待っているのは破滅でしかないのである。そして、タシロ・ヴァゴはそれ
を理解できないほど頭が悪いわけはない。それゆえに、フィーナは怖いのだ。これからどうなってしまうのだ
ろうか、と。

 しかし、一人のパイロットでしかない彼女には何もできることはない。出来ることといえば、戦場に出て。
敵と戦い、女王の命を守ることくらいか。それは彼女の本質的な望みであるはずだ。が、そこに喜びを見出す
ことは、まったく出来なかった。

「女王は、望んでいないもの」

 それがわかってしまう。女王マリアは、今。深い悔恨の中に沈んでいる。これまで自分が重ねてきた罪。彼
女は、それをエンジェル・ハイロゥを用いて人類に恒久的な平和を実現することで償うつもりだった。しかし、
彼女が思っていたことを機械はストレートな形で果たし、より深い罪でそれを汚すこととなった。

「でも、あたしは戦う。それが、あたしの戦う理由だから」

 そう呟き、フィーナは目を伏せる。目を閉じて感覚を開放して、モビルスーツの鼓動を感じる。迷いは晴れ
ない。苦しみも消えることはない。が、戦う意思は、そこに残る。それだけで十分だ。フィーナはそう思い、

「ガーネット小隊。フィーナ・ガーネット。リグシャッコー出ます」

 そういうと、カタパルトデッキから機体を射出させた。それに引き続き、サフィーのリグシャッコーが射出
される。出るのは、二機。続くはずのミューレはいない。そのことに、フィーナは悲しみを覚える。しかし、
今は感傷に浸っている暇はない。

「いくよ、サフィー。気合を入れてね」

『あなたこそね』

 接触回線でそう返事が来る。それにフィーナは笑みを浮かべて、機体を後方から迫ってくる敵に向けて飛ば
した。その中に、ジェスタの意思を感じる。が、今の彼女にとって、ジェスタは戦いたくない相手であった。
こんな、後ろ向きの自分の姿を、見られたくはない。それが、その理由だった。

 タシロ艦隊のモビルスーツ隊が連合艦隊のモビルスーツを迎え撃つ。しかし、その士気が低いこと。数が少
ないことが災いして明らかに劣勢だった。しかも、だ。その連合艦隊のモビルスーツ隊の先頭にいる、白いモ
ビルスーツ。ニュータイプといわれるパイロット、ウッソ・エヴィンが操るV2ガンダムが展開する光の翼。
それが、士気の低いタシロ艦隊のモビルスーツ隊のパイロットたちに「ガンダム」という名を強く意識させ、
明らかに及び腰になるものが多かった。そして、果敢にもV2に挑んだパイロットの多くは、そのほとんどが
援護するモビルスーツと、パイロットの卓抜した技量。機体性能が合わさったせいで、一蹴される結果となる。

「あいつ! 白い奴!」

 フィーナはそれを発見し、舌打ちとともにビームライフルを撃つ。V2はそれを機体をひねって回避し、こ
ちらに牽制のビームを撃つ。フィーナはそれをかわしながら接近戦を仕掛けようとして、いやな予感がしたの
で機体をひねった。瞬間、リグシャッコーのいた空間を、V2の光の翼が薙ぐ。危なかった、と思う暇もなく、
V2はそのまま加速してシュバッテンの方角に向かおうとした。

「女王の元には行かせないよ!」

 そう叫びながらそれを追おうとしたフィーナに、ビームが降り注ぐ。直前にそれを予測できていたため、フ
ィーナはリグシャッコーに回避行動を取らせ、全てのビームを回避した。

「おまけの癖に生意気なのよ!」

 叫びながら振り向くと、二機のガンブラスターがこちらに向けてビームを放っていた。それに対し、フィー
ナは機体を突進させた。まずはこいつらを片付けないと、V2は追えないだろう、と。まずは一機の機体にラ
イフルを撃つ。それをガンブラスターは回避しながらこちらに反撃を行う。それなりに熟練のパイロットの動
き。が、その攻撃はフィーナの目には稚拙に写る。後方からこちらをはさみ、二機態勢で攻撃を仕掛けてきて
いる。その連携はたいしたものだ。

「その程度の連携!」

 フィーナはそう叫び、ガンブラスターに接近。後方の機体には、サフィー機が直下方向から攻撃を仕掛けて
いた。それを見るまでもなく理解したフィーナは必死になって反撃しながらサーベルを抜くガンブラスターに、
ライフルで牽制を加えた次の瞬間、機体を沈み込ませ。すばやく加速して敵機の背後に回りこんだ。その動き
に、敵は反応できない。

「悪くない腕だったけど、ね」

 そう言って、サーベルをつこうとしたそのとき、フィーナの脳裏を声が掠めた。それは、女王マリアの声。
それを聴いた瞬間、フィーナは攻撃を止めていた。それとともに通信を開き、怒鳴る。

「サフィー! やめなさい!」

『な!? どういうこと!?』

 攻撃を取りやめ、後退したフィーナの叫びを聞いたサフィーは、もう一機のガンブラスターをロックオンし
た状態でそれを取りやめ、距離をとる。その、二機の敵の動きにガンブラスターのパイロットたちも戸惑いを
隠せない様子だった。フィーナはその姿に少し険悪な目つきをしたが、国際規格のバンドに無線を合わせて

「行きなさい。女王が呼んでいるわ。……早く。間に合わなくてもいいの? 白いモビルスーツの援護。する
んでしょう」

 そう、一方的に話すと、相手の反論を許さずに無線をきる。そして二機のガンブラスターに背を向けると、
そのままサフィーのもとに飛び、ともに連れ立ってその場を後にした。二機のガンブラスターのパイロット。
オデロ・ヘンリークとトマーシュ・マサリクはその奇妙な敵に唖然としながらも、自分たちが先行するV2の
援護をするためにここまできたことをすぐに思い出し、敵のことを忘れてV2の後を追った。


 二機のガンブラスターを素通りさせたフィーナのリグシャッコーに、サフィー機が近づく。

『フィーナ?』

「聞こえたんでしょ? サフィーにも。女王マリアは、白い奴が来ることを望んでいるんだ。なら、あたした
ちに出来ることは。彼らを通すことだけでしょ」

 自分でそういいながら、フィーナは納得できていない様子だった。女王マリアは、深い悔恨と絶望の中にい
る。利用されて、それに抗うことも出来ずに最悪の事態を招いてしまったことに、心を痛め。あるいは、断罪
を求めている。それは違う、と彼女は思う。だが、フィーナはそれを口にすることも出来なければ、女王マリ
アの心を救うべく動くことも出来ない。彼女に出来ることは、何もなかったのだ。ただ、女王の求めのままに。
少年たちに道を譲ること以外は。

「任せよう。あの人たちが、女王の心を救って。タシロ司令の闇を払うことを」

 悲しげに言うフィーナ。だが、自分でいいながら、タシロの闇をはらうのは無理だと思った。あくまでも、
白いモビルスーツのパイロットはタシロにとっては敵である。そして、タシロにとっては自分の闇を招く要因
となったのも、「ガンダム」なのだから。だから、どうしても。その闇を払うことは難しいだろう。

『そうね。私たちに出来ることは、何もないものね』

 そう答えたサフィーの声は、暗い。サフィーもわかっているのだ。胸の奥にわだかまる、いやな空気。これ
が晴れることがないことを。連鎖的に、すべてがいやな方向に向けて転がっていっていることを。

 フィーナはその目を後方に。シュバッテンの方角に向けた。V2があけた穴に。連合艦隊のモビルスーツは
旗艦ジャンヌ・ダルクが橋頭堡代わりになって吶喊し、もはやタシロ艦隊は総崩れとなっている。すでにいく
つもの艦が撃沈された。その中に、彼女たちの艦。ルノーの姿も、あった。


                     *****


 総崩れになっているモビルスーツ隊、艦隊。それを立て直すべく、現場レベルではモビルスーツ隊の指揮官
が通信をフルに使って機体を集結させ、必死になって立て直そうとしていた。そんな中に、コザックのリグシ
ャッコーもある。元々カイラスギリーのモビルスーツ隊の隊長を勤めていた彼の呼びかけに応じて、ばらばら
になっていたタシロ艦隊のモビルスーツ隊は集結を開始していた、が、そこにライアン率いるハルシオン隊の
主力が強襲。モビルスーツ隊同士の組織戦に突入した。

 艦隊が崩れていることで動揺していたコザック率いるタシロ艦隊の生き残りのモビルスーツ隊は巧みなハル
シオン隊のモビルスーツによって分断され、次々と各個撃破されていく。無論、何機もの機体を道連れにしな
がら、ではあるが。

「くそ! 司令は一体何を考えているんだ!」

 コザックはそういいながらその目をちらりと旗艦のシュバッテンのほうに向け。直後、シュバッテンが撃沈
されるのを目にした。それに唖然とした瞬間、

「悪いが、ここは俺の勝ちだな」

 そう言ったライアンのヘキサが接近戦を仕掛け、巧みな攻めの前にコザックのリグシャッコーはコックピッ
トを貫かれ、その命を散らせた。最後の瞬間。コザックは本国に残してきた妻と、生まれたばかりのわが子の
笑顔を見た。

 爆発するリグシャッコー。それを見ながらライアンは周囲をうかがう。と同時に、ジェスタのセカンドVが
すごい勢いで離脱していくのを確認し、軽く驚きに目を見開いた。が、その理由を察して笑みを浮かべ、

「うまくやれよ、ジェスタ」

 そういい残すと、残敵の掃討と撤退の準備を友軍機に言い渡した。それに答え、生き残りのハルシオン隊の
隊員たちは機敏に動き始める。


                     *****


 セカンドVに乗って戦っていたジェスタは、ライアンの指揮の下集結しつつあったタシロ艦隊のモビルスー
ツ隊と交戦し、その中にフィーナがいないことを感じ取り、フィーナの気配を探りながら戦っていた。そして、
彼女がモビルスーツの交戦空域から若干離れたところで戦っていることに気づく。それによって、彼女がかな
り戦意を失っていることを感じ取っていた。

 その様子にジェスタは不安を感じ、皆には申し訳ないと思いながらも、ひとまず目の前のゾロアットを撃破
すると機体を反転させてフィーナがいるであろう空域に向けてセカンドVを加速させていった。

 そしてその途中、ジェスタの意識を貫く断末魔の意志があった。それは、初めて感じる。しかし、強い意識。
いや、何度か呼び声は聞いたことがある。己の所業に罪を感じ、それを断じることを望んだ悲しい女性。女王
マリアの意識だ。

 その、女王マリアの意識が強くはじけるのを感じた。

「女王が、死んだ!?」

 叫ぶジェスタ。ちょうどそのころ、ブリッジに取り付いたV2を前にしたタシロ・ヴァゴが、その狂気を抑
えきれなくなり、女王の開放を望むV2パイロット。ウッソ・エヴィンの言葉に哂い。それを嫌悪した女王が
自分を抱き寄せるタシロの腕を払い、ウッソ・エヴィンの手によって己を討つことを望んだ瞬間、タシロが手
に持った拳銃で背後から女王を射殺したのだった。

 女王を射殺したタシロは、その直後。激昂したウッソの手によって、V2のビームサーベルでその身を焼き
尽くされるという最期を迎えた。信じていたものに裏切られ、すべてを破壊しようとした哀れな男の、あっけ
ない最期であった。

 女王が死んだ。その事実に、ジェスタは顔をゆがめる。フィーナは。あの孤独な少女は、女王をよりどころ
にして戦うことだけが、自分のすべてであると認識していた。その少女が、どうなるのか。それが、心配だっ
た。少なくとも今。女王の死を感じ取ったフィーナが、強い精神的ショックを受けたことがジェスタには理解
できていたのだから。

「フィーナ!」

 叫び、ジェスタはミノフスキードライブのリミッターを解除。それによってセカンドVは爆発的な加速を得
る。ジェスタの意思に答え、鋼鉄の騎士は瞳を輝かせ、その背後に輝く尾を引き、漆黒の宇宙を駆け抜ける。
その姿は、まるで彗星のごとくであった。


                     *****


 そのときを迎えた瞬間。フィーナは絶望を感じた。

 脳を貫く、死のイメージ。それがはっきりと伝わってくる。女王マリアの肉体を、鉛の弾丸が貫き、その命
を無慈悲に奪うイメージが。女王を形作っていた意識が、拡散し。霧消していくさまを、フィーナははっきり
と感じ取ってしまった。それは、彼女の脆弱な精神を強く刺激し。強烈な痛みを、絶望を強いた。

 それは結果的に、彼女に自失させ。ブレーカーが落ちるように、フィーナの意識は途切れてしまう。は、と
息をはくと同時に、フィーナの体は力を失い、その手がコントロールシリンダーから離れる。そのとたん、こ
れまでフィーナの意思に従い、手足のように動いていたリグシャッコーが動きを止めた。

「フィーナ!?」

 その動きを見たサフィーが叫ぶ。周りには敵がいる。その状態で、フィーナは意識を失った。そしてそれは、
死を意味する。サフィーの顔が絶望に歪む。敵が、フィーナのリグシャッコーをロックオンするのがわかった。
それをとめることは出来そうにない。

 とっさにサフィーが取った行動は、その敵に対して相手が撃つよりも先にこちらが攻撃を仕掛け、撃墜する
ことだった。しかし、目の前の敵がそれを許さない。フィーナを狙う敵機に照準を合わせた瞬間、横合いから
攻撃を仕掛けてきたのだ。

「く!」

 機体が揺れる。足に被弾した。それで照準がずれる。しまった、と口の中で叫ぶ。もう間に合わない。

「フィーナ!」

 サフィーがそう叫んだ瞬間だった。フィーナに向けて放たれたビーム。それを、直上方向から常軌を逸する
速度で飛来してきたセカンドVがシールドを開いて受け止めたのだ。そのセカンドVのコックピット内で、急
激な減速で発生するGに顔をゆがめ、一瞬ブラックアウトして視覚を喪失しながらもジェスタは自身がフィー
ナの命を救えたことに安堵していた。それを確認して安堵したサフィーは、とりあえず目障りな近くにいるジ
ャベリンを瞬時に撃破し、ついでフィーナを狙っていたジャベリンを、撃墜した。そのジャベリンのパイロッ
トは、ビクトリーがベスパの機体をかばったことに呪いの言葉を吐きながら体を焼かれ、死んでいった。

 そして、警戒しながらもセカンドVに近づく。セカンドVはこちらに顔を向け、ワイヤーガンを射出した。
通信が繋がる。

『君は、フィーナの友人か?』

「ええ。そうよ。ジェスタ・ローレック。フィーナを助けてくれて、ありがとう」

 つい堅い声で応答してしまうサフィー。フィーナを助けてくれたとはいえ、敵であることは確かだ。なので、
気を許す気はない。そんなサフィーの態度に、ジェスタはコックピットの中で苦笑していた。

『俺は君たちを撃つ気はないよ』

「それくらいはわかっているわ。でも、それが気を許すことには繋がらないし、あなたたちに恭順する気もない」

 ジェスタがこちらに投降を呼びかけるつもりだというのはサフィーにはすでにわかっていた。しかし、サフ
ィーは投降する気はなかった。今は意識のないフィーナだが、フィーナもまた。同様に投降の意思がないこと
を明言するだろう。

 そのサフィーの言葉に、ジェスタはため息をつく。ジェスタ自身。二人の少女が投降するとは思ってはいな
かった。なので、

『そうか。でも、君たちにいっておくことがある。君たちの友人、ミューレ・エメラルドは今、捕虜という身
分だけど、俺たちのもとにいる。だから、安心してくれ。戦争が終わったら、諸手を挙げて会えるはずだから』

「! そう、ミューレが。……あの子、元気にしてる?」

『ちょっと落ち込んでいるけどね。健康状態には、問題はない。……それより、ここはもうベスパの勢力圏じ
ゃなくなってる。早く離脱しないと、逃げ切れないぞ』

 そう言って、ジェスタのセカンドVはサフィーのリグシャッコーに、いまだ意識を失ったままのフィーナの
リグシャッコーを押し付けた。それを抱えたサフィーは、接触回線で伝わってくるフィーナの生命反応に安堵する。

「……じゃあね。礼は、言わないわよ」

『ああ。わかってる。変なことを言うけれど、気をつけろよ』

「お互いに、ね」

 そう答えると、サフィーはリグシャッコーを抱えたまま加速していった。それを見送ったジェスタのセカン
ドVはしばらく消え行くテールノズルの輝きに見入っていたが、それが見えなくなった時点で撤退を開始した。
多くの命を消し去り、一つの戦いが終わりを告げようとしている。その光景を悲しく感じながら、ジェスタは
撃破された多くの機動兵器や艦船の残骸が漂う空域を、白い機体でかけぬけていった。


 モビルスーツデータ

 LM314V21 V2ガンダム

 頭頂高 15.5m 本体重量 11.5t 全備重量 15.9t ジェネレーター出力 7510kw

 武装 頭部バルカン×2・ビームサーベル×2(2)・ビームシールド×2・ハードポイント×10

 LM314V21V2ガンダムは公式記録に出るミノフスキードライブを初めて実装した実戦型モビルスーツで、史
上初の戦闘を行った機体である。(実際には、実戦を初めて行ったのはLM314V16のほうが一日早かったのだが、
公式記録ではV2こそが初めての機体、ということになっている。これはリガ・ミリティアがフラッグシップ
としてのV2の価値を落とさないために情報を操作した結果である)
 V2の最大の特徴は、やはり完成度の高いミノフスキードライブユニットを初めて内蔵した機体、というこ
とであろう。LM314V16では、機体の強度不足のせいとあくまでも外付けの装備であるが故にミノフスキードラ
イブの出力を制限しなければならなかったが、この機体はそれをふまえて、基礎フレーム構造そのものにミノ
フスキードライブユニットを内蔵し、剛性を高めた設計になっているので、ミノフスキードライブの全力稼働
に耐えうるだけの剛性を確保しているのである。それゆえに、機体の本体重量が大幅に増加したのだが、積み
込む推進剤が大幅に減っているため全備重量で言えば同規模のモビルスーツよりはるかに軽くなっている。
 そして、さらにこの機体にはこれまでのノウハウをもとに強化したジェネレーターを搭載している。一機で
7000kwオーバーという驚異的な出力を誇るジェネレーターを装備し、さらにその出力の多くをミノフスキード
ライブのおかげで武装に回せるという利点から、この機体はバスター装備とアサルト装備という二つのオプシ
ョンを装備してなお、戦闘を行うだけの出力の余裕を確保することが出来た。これから考えても、ミノフスキ
ードライブを装備したV2ガンダムがザンスカール戦争時における最強のモビルスーツであることに異論を挟
む余地はないだろう。
 ただし、この機体にも欠点はある。それは、LM314V16に比べればこの機体のほうが剛性が高いが故にミノフ
スキードライブの出力をフルに発揮できるが、そのせいでユニット内部から放出するメガ粒子の量が莫大なも
のとなってしまったことである。実際に残されているデータや、目撃談によるとV2の放出するメガ粒子は通
称「光の翼」と呼ばれ、その最大延長は一kmにも及んだという。戦場にて、左右一qずつの光の翼を開くその
姿は目立つ上に、友軍の機体にも被害を及ぼす危険があった。しかも、この光の翼の間に働く高濃度のミノフ
スキー粒子の相互作用によって生じた電離作用でこの間を通過したモビルスーツなどの電子機器が機能停止を
起こすという現象も報告されている。これらから、この機体は非常に組織戦において運用しがたい機体となっ
てしまった。にもかかわらずこの機体がザンスカール戦争において絶対的な戦果を挙げたのは、ひとえにメイ
ンパイロットであるウッソ・エヴィンの卓抜したモビルスーツのセンス。技量によるものであった。彼はミノ
フスキードライブユニットを意図的に「暴走」させて「光の翼」を発生させ、武器として、盾として器用に用
いることで単体の戦果のみならず、組織戦においても友軍の援護を完璧に行ったという。この結果は明らかに
V2の設計の想定外にあったことであったが、残念なことにウッソ・エヴィンという「ニュータイプ」と称さ
れる天才的パイロット以外ではこのような運用は不可能であると思われた。事実、V2のテスト段階ではテス
トパイロットたちは出来る限り「光の翼」を出さないように機体を制御する、ということに腐心していたとい
う報告もある。(そのせいで通常、LM314V16もV2一号機も排出されるメガ粒子の最大延長が150メートル前後
であった)
 今後、ミノフスキードライブがモビルスーツの主推進機関として定着するのは間違いないだろうが、その際。
このメガ粒子の放出現象を解決してからであるのは言うまでもないだろう。


 



 

 

代理人の感想

うーむ、今回は盛りだくさんでした。

捕虜になったミューレに、エンジェル・ハイロウの試運転に、ログ捜索に、ソゥ戦死に・・・

しかし最早物語はクライマックス。

歴史に語られない彼らの物語がどう言うラストを迎えるのか・・・今から不安で一杯ですね。

 

それはともかく今回は、アンが死ななくて良かったなーと(爆)。