終わらない明日へ・・・

 by ACE




 第二話 その名はエステバリス 〜初陣〜



 燃え上がる炎をバックに、二人の親友の再会は両者にとって喜び難いものだった・・・

 「アキト・・・なのか?」
 九十九は今自分の前にいる青年がかつての親友アキトであるということが信じられなかった。


 それは彼らが小さな頃のことだった。
 彼らは同じコロニーに住み、そして同じ時を過ごす、無二の親友であった。
 しかし、あるとき別れは突然に訪れる。彼らは再会を約束し、笑顔で別れた。


 アキトは混乱していた。
 つい数十分前までは、ここは平和なコロニーだった。しかし、たった数十分の間に彼の人生は大きく変わってしまった。
 戦争の被害をまったく被っていなかった彼にとって、今回の襲撃は常人以上に辛いものだったに違いない。
 彼には更なる衝撃が襲った。
 かつての親友九十九との再会。それも相手はこの襲撃の張本人。言われなくとも勘のいいアキトはそんなことは理解できていた。

 そんな二人が硬直する隙を彼女は見逃さなかった。

 ―ズキュン

 藍色の長髪の美女、彼女の名は、ミスマル・ユリカ。地球連合軍所属ミスマル.ユリカ大尉である。

 彼女の放った銃弾は九十九の左腕を掠めるだけであったが、大きな隙ができた。
 この隙を彼女は逃さず、アキトを連れて機動兵器のコックピット内へと入った。

 「ちぃ!」
 九十九はもう一機の方の機動兵器へ向かった。
 格納庫内は機動兵器の強引な奪取の影響で、破損状態が深刻なものとなっていった。
 九十九は燃え上がる炎を肌で感じながら、内なる炎の存在に気付いていた。

 ―何故、アキトが・・・・

 自問自答しながら、彼は熱くなっていた。




 機動兵器のコックピットへと入った二人は・・・・・・・

 「あぁん、これどうやって動かすのぉ!?」
 ユリカが騒いでいた。
 「ちょ、あなたは動かし方も知らないでこれに乗り込んだんですか?!」
 アキトは冷や汗ダラダラである。しかし、命の危険性があるにも関わらず、パニックには陥っていなかった。
 「むぅ、こんなの根性でなんとかなるでしょ?とりあえずなんでもいいから押しちゃいましょー!ポチっとな・・・」
 と、おもむろに目の前にあるスイッチを押してみる。
 「いや、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!
 アキトの悲痛な叫びがコックピット内をこだまする。
 しかし、時既に遅し。ユリカはスイッチを押した。

 ―ヴォン

 「「あ、ついた」」
 二人の言葉が綺麗に同調する。
 目の前のモニターに光が灯り、機動兵器は起動した。

 「きゃあ、ユリカ感激ぃ!」
 すると、モニターに起動メッセージが浮かび上がる。


 Welcome to Nergal.
 Serial number 001-code:Strike.
 Go "AESTIVALIS"!


 が、しかし・・・・・・・
 「?あっれぇ?なんで起き上がらないのぉ?」
 頭上に?マークを浮かべるかのように不思議がるユリカ。
 すると、横でその光景を見ていたアキトがしびれを切らして動いた。
 「ちょっと、代わってもらってもいいッスか?」
 頭上にさらに?マークを増やすユリカ。アキトが言った言葉の意味を完全に理解にするのにやや時間を要した。
 とても軍人とは思えないな、と苦笑しながらプログラムを立ち上げるアキト。
 「え?ちょ、これ一応軍事機密だから勝手にいじらないでくれる?」
 ユリカの言った言葉はアキトに届いてはいなかった。
 「無茶苦茶だ!こんなOSでこれだけのものを動かそうなんて!」
 そう愚痴を言いながら、彼の指はものすごいスピードでOSの書き換えを行っている。
 そう、先程機動兵器を奪っていったZAFT軍の軍人、いわゆる”コーディネイター”と同じように・・・

 気がつけば、機動兵器は格納庫の天井を突き破り外に出ていた。
 同様に九十九の乗った機動兵器も見られる。
 「ああ!持って行っちゃ駄目ぇ!!!」
 ユリカは叫ぶ。ただ、これ素直に従うような人がいるとは思えないが・・・

 九十九を乗せた機動兵器は無言のまま飛び立っていった。


 「あ〜あ、行っちゃったぁ・・・」
 本当に緊張感のない軍人だ・・・恐るべし、ミスマル・ユリカ。

 ―ズシン!

 と、呆けている機動兵器の付近にジンシリーズの一つである、テツジンが一機降りてきた。
 明らかに戦闘態勢をとっており、今にも襲い掛かってきそうなオーラを漂わせながら、テツジンは着地する。

 「ちっ、アララギの分は俺が取り戻してやる!」

 着地後、一刻の間動きを止めたテツジンだが、まだユリカ達が呆けているうちに動き出す。

 「喰らえ!ゲキガンパンチ!!!」
 テツジンのパイロットの叫びに連動し、テツジンの腕が機動兵器へと飛んでゆく。

 ガゴン!

 テツジンのパイロットはこれで勝負は決まったと確信していた。
 何故なら、今までこの攻撃を受けた敵の兵器は問答無用に破壊、もしくは機能停止に陥ったからだ。
 しかし、連合軍の新型兵器はそうは行かなかった。

 「なんだとぉ?!」

 テツジンのロケットパンチはあろうことか機動兵器手前で軌道が変わってしまったのだ。


 一方、コックピット内。何故かユリカはこの機動兵器の説明をアキトに受けていた。
 「へえ〜、このロボットってエステバリスって言うんですかぁ。」
 と、そんな中、ロケットパンチの接近を感知したレーダーが警告を出す。
 「ほえぇ!?」
 「今の状態じゃ避けられない!やられる!!!」
 次の瞬間に起こったことは、ある意味この二人が一番びっくりしただろう。
 ロケットパンチは突然軌道を変えて明後日の方向に飛んで行ってしまった。
 外したわけではあるまい――そう思ったアキトはエステバリスの機能スペックを確認してみた。
 ”ディストーションフィールド”
 エステバリスの最大の特徴ともいえる、重力の盾。
 対ジンシリーズ用の切り札として作られたこの機体。
 ジンシリーズを撃墜するには、ジンシリーズを遥かに上回る機動力、なおかつ高い防御力に攻撃力を備えなければならない。
 このディストーションフィールドは攻防一体の革命的なシステムなのだ。
 「なるほど・・・これなら、行ける!ユリカさん、席替わってください!」
 補足としていっておくが、この二人、ある程度自己紹介はしてある。



 再度、ロケットパンチを放ってみるテツジン。当然ながら、フィールドに弾かれまたも明後日の方向に反れてしまう。
 両肩の部分に装備されている大型ロケットランチャーを放ってみるも敢無く失敗。
 テツジンの攻撃が止まると、遂にエステバリスが動き出す。

 今まで、ただただ沈黙を保っていただけに無人かとも思ったが、こう動き出した以上パイロットが乗っているに違いない。
 テツジンのパイロットは、少し動揺を見せたが、すぐに冷静になる。
 いくら新兵器とは言えど、パイロットは所詮ナチュラル。さほどの脅威ではない。そう判断したからだ。
 しかし、彼にとってエステバリスにテンカワアキトが乗っていることが人生最大の誤算になるということを、当然彼は知らない。



 バーニアを噴かせ、軽快な動きをアピールするかのようにエステバリスはテツジンの周りを動き回る。
 そう、これが本来のエステバリス。先程までのOSではこれだけの能力を発揮することは・・・いや動かすことさえできなかったであろう。
 潜在能力を開放したエステバリスは製作者の予測を遥かに超えた力を持っていたのだ。
 対して、テツジンはロケットランチャーを放つもフィールドにかすりもしない。
 そんな回避を繰り返すうちに、ロケットランチャーの弾は意外に早く尽きた。

 弾が切れた瞬間にエステバリスは攻撃に転じる。

 腰下に装備されている唯一の初期装備、イミディエットナイフを手に持ち、テツジンとの間合いを一気に詰める。

 ―ガギィィィン

 イミディエットナイフがテツジンの装甲に接触し、分厚い殻を無理矢理ねじ開けるかのようにテツジンを切り裂く。
 テツジンは格闘戦で応戦するが、相変わらず空振りの山。
 エステバリスはヒット&アウェイ戦法でテツジンを攻撃。

 しかし、テツジンもやられ放題というわけではない。
 先程まで空振りの山だった格闘攻撃が確実にエステバリスを捕らえられるほどとなっていた。
 蹴りを繰り出す度、機体はギシギシと不愉快な音を立てるがパイロットには聞こえていない。

 「くそが!ナチュラルがなんでこんな動きを?!」
 叫びながら繰り出したテツジンの蹴りはエステバリスの持つナイフに直撃。ナイフは当然のことに折れた。

 しかし、エステバリスの攻撃手段が断たれたわけではなかった。

 エステバリスは腕にアームガードを降ろし、自機の前方にフィールドを集中させる。
 「うおおおおお!!!」
 アキトは絶叫しながら、テツジンに突撃する。

 ―ガガン!
 エステバリスのフィールドを応用した体当たり―いわゆる”ディストーションアタック”―はテツジンに直撃する。
 テツジンは連続で装甲を切り裂かれ、さらに強い衝撃を受け、自らの重量に耐え切れなくなった機体は自壊してしまった。

 「ばかな・・・ナチュラルなんかにぃぃぃ!!!」

 ドゴォォォン




 「アキトォォォ!!!」

 初陣を終え、未だ緊張が解けないアキトが聞いた声は聞き覚えのある友の声だった。
 ふとモニターに目をやるとそこにはガイ、ハーリー、ラピスの姿が映っている。
 どうやら彼らも逃げ遅れたらしい。
 つい先程まで戦闘が行われていた場所に人がやってくるというのも奇妙な話だが、彼らは戦闘が起きていたことどころか、このコロニーが攻撃を受けていることすら知っていない。
 シェルターを追われ、逃げ遅れたであろうアキトを探し、ここにいる。

 『みんな!!!』
 アキトはハッチを開け、彼らと再会する。


 戦火の及んでいないところまで彼らを運び、アキトがエステから降りようとしたとき、ユリカの声が掛かった。

 「はいストォップ!君たち一緒に来てもらえるかな?」
 彼らとさして歳の変わらない女性にいきなりこんなことを言われても反応のしようがない。
 「ええっと、一応私軍人なんですよね」
 こういった状況はもはや慣れっこだ、と顔に書いてある。
 「で、あなたたちは軍の機密、このロボットのことを知ってしまったから、身柄はこちらで確保させて貰います。」

 一同がざわつく。別に知りたくて知ったわけはない。
 たまたま通りがかって、たまたま知ってしまった。彼らの心境はこうであった。
 しかし、民間人の彼らにそれを拒絶するだけの権限はない。





 ―ヘリオポリス宙域
 コロニー外ではZAFT軍と連合軍が激しい戦闘を繰り広げていた。それを先陣で指揮するのは北辰だ。

 「アララギが散ったか・・・ふむ、一機取り残しがあると」

 北辰の耳に入った情報は、四機の機動兵器の強奪に成功し、アララギが死んだことを端的にまとめた内容のものだった。
 指揮官用、いや彼専用の朱色のマジンを操りながら北辰は現状況を見る。

 「回収に向かった兵との連絡は絶。ならば、破壊するまでよ」
 北辰はニヤッと不気味に嗤い、爬虫類を思わせる細い舌で唇を舐めた。

 今、彼のマジンの目の前にはこの戦争で巡り会った宿敵がいる。
 宿敵の名は知らないが、彼はいつも漆黒のデルフィニウムを駆り北辰の前に現れる。
 彼は「瞬神の飛燕」という二つ名を持つ連合軍が誇るエースパイロットだ。
 しかし、連合軍でも彼の本当の名前、姿を知る者はいない。謎多き人物なのだ。

 「黒き飛燕よ、この戦しばし預ける」
 そういい残して北辰はコロニーの中へと向かった。
 漆黒のデルフィニウムは無言で朱色のマジンを追っていく。





 ―ヘリオポリス内 
 コロニーは崩壊が進んでいた。大地は不穏な叫びを上げ、爆発の音がそれを装飾する。

 先程コロニーに侵入した北辰はアキトの駆るエステバリスと交戦していた。
 戦闘が始まってからさほど時間は経っていないが、勝敗は既に目に見えている。
 機体性能の差分を越えて、北辰の操縦技術はアキトの遥か上を行っているからだ。

 その戦いを見守るかのように、上空では漆黒のデルフィニウムがいる。
 何故か、その戦いに加勢しようとはしない。

 アキトはディストーションフィールドでエステバリスの足元にいるユリカ達を守っているため、必然的にも防戦一方となり、文字通り手も足も出ない。
 それでも、最後の足掻きとでもいえようか、マジンにラピッドライフルを放ち続ける。
 しかし、マジンはその大きな体に似合わない柔軟な動きでライフルの弾を余裕で避ける。
 アキトは僅かながらも死というものを見た気がしていた。

 そんな危機に思わぬ、救世主が現れる。

 ごごごごごごご・・・

 コロニーの外壁が崩れる音ではない。
 なんとネルガルのドックがあった場所から純白の戦艦が姿を現したのだ。

 『ユリカァァァ!!!』

 と、男性の声が戦艦から聞こえる。

 「その声は・・・ジュンくん!?」





 あとがき

 どうもこんにちは、ACEです。
 細部微妙に原作と違ってますが、気にしないでください。
 原作そのままで書くとなんらオリジナリティーがないので、変えています。
 とまぁ、そんなこんなで第二話も完成いたしました。あと48話ですね!
 これからも諦めずに書いて行きたいと思います。では、また・・・乞うご期待!!!

 

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代理人の感想

ふむふむ。いや、面白い。

話の流れは原作と殆ど一緒なんですが、各キャラクターの反応やマシンの差がちゃんと設定変更に沿った物になってるんで読んでて面白いです。

「アキトと九十九の友情話」はTV版の和解後のアキト=九十九の関係が幼少時から成立していたとイメージすればいいかな?

原作ではガイとであった後に九十九と出会ったわけですが、ここでは幼少時にすでに出会っていたと。

話の先が面白くなりそうですね。ではまた。期待しています。