高速道路を疾走する高級車。その後部座席には唐巣神父とGS協会の幹部である男の姿が見える。
今日は収録当日。唐巣はピート達が出演する番組にコメンテーターとして出演する事が決まっていて、この話を持ち込んで来た男とともにTV局へ向かっていた。
「ひとつ…お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだね?」
「何故ピート君なのですか? GS協会の威信を背負うには若輩ではないでしょうか?」
本当なら「彼はオカルトGメンを目指しているのだから巻き込むな」と言いたいのだが、それを言うには唐巣は理性的過ぎた。
「何を言うかと思えば・・・」
男は苦笑して続ける。
「今回の戦いはただオカルトGメンに勝利するだけではいけないのだよ。一般市民の支持を得なければな」
「………」
「君も場合によっては無償で除霊を行っていると聞く、そういう意味では君でもよかったのだが」
「では何故、私ではなくピート君を?」
「アシュタロスの一件の時のマスコミの対応を見たかね?」
「!?」
「マスコミは真実そっちのけでブラドー君を追っていた。彼にはそれだけ世間の目を集める華があるのだよ!」
「それはそうかも知れませんが・・・」
確かに、あの戦いの直後は普段はオカルト業界に見向きもしないマスコミがこぞってGS達を追いかけ、当初は現役GSの中でも特に有名な令子、エミ、冥子を追っていたが、金を請求されたのか、呪われたのか、暴走に巻き込まれたのかは知らないが、やがて、マスコミの注目は新人GSの代表格と言われるピートへと移って行ったのだ。
「まぁ、君の言い分も理解できるし、あまり綺麗な手段でない事も承知している。しかし、Gメンの登場が死活問題となっているGSもいる事は忘れないでくれたまえ」
「…はい」
その言い分は理解できる。そもそも、民間GSの相場はGメンに比べて高いが、世間で騒がれるほどあこぎな物ではない。そう言われる原因は極一部のGSにあるのだ。
そして、唐巣はこれ以上何も言える立場ではなかった。
何故なら、彼の元から巣立っていった1人がその『極一部』なのだから…
しかし、そうだとしても彼にはどうしても確かめておかなければいけない事がある。
「では、何故…3人目が冥子君なのですか!?」
その言葉に露骨に男の顔色が変わった。組んだ腕の指が忙しなく動き、目も泳いでいる。
「そ、それは…そのだね…」
「今回の目的が死活問題に陥るGS達を救う事では 彼女の起用はその・・・」
この先を言う事ができないのが 唐巣の唐巣たる所以であろう。しかし、男の方はそれで全てを察したらしく堰を切ったようにまくしたてはじめた。
「わかっている! その件に関してはブラドー君と彼の推薦した横島君にまかせるしかない! 私だって本音は反対なのだ! しかし、考えてみたまえ! 現役GSの中で有名どころの名を挙げれば美神令子、小笠原エミ、そして六道冥子、この3人だ! はははははははは まだ可愛気があるじゃないか! そう言って私は上を説得したのだよ!」
「あ、あの…」
「君も知っているだろう? 六道女史の恐ろしさを…」
「血の涙を流すほどですか?」
冥子の母が何をしたかはわからないが、糸が切れたマリオネットのようにうなだれる男を見る限りこの件に関してはこれ以上触れない方が良さそうだ。唐巣は何も言わず愛用の胃薬をそっと手渡すのだった。
「…ブツブツ…私としては魔鈴君を推薦したかったのだよ…彼女なら、彼女なら…あの癒し系笑顔で世間のハートをきゃっちざふゅーちゃーできたハズなのに…ブツブツ…」
「…心中お察し致します」
既にトラウマにでもなっているのか、膝を抱えてガクガク震え出した男はひとまず置いておいて唐巣は運転手にTV局へ急ぐよう頼んだ。
番組収録開始まであと一時間足らず。もはや唐巣にできる事があるとすれば 彼等のために祈る事だけだ。