「唐巣神父、今の試合は横島さんの作戦勝ちでしたね」
「そうですね。妖怪の類に好かれやすい資質を持つ彼ならではでしょう」
「と、言いますと?」
天井のオブジェを取り外し、Gメンの用意した救護班による治療が行われている間司会は唐巣にコメントを求めるべくマイクを向けていた。にこやかだが予定外の早さで決着がついてしまったため時間を引き延ばそうと必死だったりする。
この間にゲストの席ではGメン支持側に座っていた一人がGS協会支持側に移って3対4とGS協会が優勢となっている。
「本来、式神に対し術者以外が命令を下すのは横島君のような資質を持っていても不可能です。今回のケースでは式神が横島君の声に耳を傾け、なおかつそれが術者を…この場合は冥子君を守ると言う式神の目的に反しないからこそ成立した作戦でしょう」
「それでは、横島さんが敵として冥子さんの式神に彼女を攻撃しろと命令した場合は…?」
「式神は命令を聞かなかったでしょうね、幼い頃からともに生きて来た彼女と式神達との絆は相当のモノでしょうから」
「なるほど…Gメンの美神さんは先程の試合どう思われますか?」
美智恵は急に話を振られて少し慌てた様子を見せるが、すぐさまいつもの表情に戻って答える。
「そうですね、彼のような資質を持つ人材は希少です。こう言ってはなんですができる事ならGメンに欲しい人材ですね」
Gメン側の人間として出演している以上あまり横島達を褒めるわけにはいかないのだが、どうしても本音が見え隠れしてしまうようだ
冥子の試合だったと言うのに話題が横島に集中しているが、これは仕方のない事だろう。
何故なら冥子は「何もしていない」のだから。戦いの最中にぷっつんしなかったのではない。ビカラがすぐに勝負を決めてしまったため
、最初から戦ってすらいないのだ。
そして、当の勝利の立役者である横島はと言うと
「横島く〜ん、みんながね〜後で〜一緒に遊ぼ〜って言ってるの〜」
「は、はは…覚悟決めとくっス」
死刑執行書に自らサインしていた。
一方、Gメン側の西条達は
「ど、どうしましょう西条さん」
「うろたえるな! 元々、実力的に彼女相手に勝利は望めなかった。ぷっつんせずに試合が終っただけでも良しとするんだ」
哀れ、先程の天井ぷらーんはスケープゴートだった様だ。
「それに、君と僕が勝てば結果として2勝1敗、我等Gメンの勝ちとなる」
「向こうの二番手はあのヴァンパイアハーフですよ!? 勝てるわけないじゃないですか!」
「フフフ…本来、策士のような知的な役割は僕にこそ相応しい。耳を貸したまえ」
そう言うと西条は二番手の男に何やら耳打ちし、ある物を手渡した。
「これで、君の勝利は間違いない。自信を持って行ってきたまえ」
「ホントに大丈夫なんですか?」
しかし、ここで逃げる訳にもいかず二番手の男は半信半疑の表情でステージに上がりピートと向かい合った。腰が引けているが。
「ピート、がんばれよ!」
「まかしてください、横島さん!」
襟を正しつつステージに上がるピート。観客の女性ファンからの声援を浴びるその姿からは余裕すら感じる。
「第二試合はじめ!」
「先手必勝、くらえ!」
「何!?」
司会の掛け声とともに今度はGメン側が先制攻撃を仕掛け、手にした小瓶を投げつける。小瓶はピートにぶつかり中身をばらまきピートを包み込んだ。
「何のつもりか知らないが、こんなもの僕に…グァッ!」
突如、ピートは苦しみだしてのたうち回る。それを見た司会は慌ててドクターストップをかけGメンの勝利を宣言したのだった。
「い、一体何を…」
司会はステージの上に転がった小瓶を拾いラベルを見てみるとそこにはこう書かれていた。
『テーブル用ガーリックパウダー』
「………」
世界有数のメジャーな弱点を持つ男ピート。観客達は彼の生まれに涙せずにはいられなかった。
「あー…美神さん、今の試合については?」
「ノーコメントですわ…」
美智恵は頭を抱えていた。ゲスト審査員も、Gメン側が勝利したが試合の内容が内容だけに3対4のままで依然GS協会側の優勢だ。
観客の怒涛のブーイングの中、番組は再びCMに入り最後の試合の準備が進められる。
「フフフ…1勝1敗で次に勝った者が勝利者。まるで僕のために用意された花道じゃないか」
霊剣ジャスティスを抜き不敵な笑みを浮かべる西条。しかし、そう思っているのは本人だけらしく観客の目は冷たい。観客の中の自称・ピートファンクラブの女性達に至ってはむしろ熱い。殺気がこめられているからだ。
「西条、かつて俺が言われたセリフを今はお前に送ろう・・・「女性ファンはあきらめろ」」
そんな西条を見詰める横島の眼差しはナマ暖かった。
「す、すいません。横島さん…」
「ピートくんの〜治療は〜ショウトラちゃんにまかせて〜」
ピートは天井ぷらーん程のダメージはないらしく、席について横島の試合を見届けるつもりのようだ。
「CMが終りますので、準備をお願いします!」
「横島く〜ん、がんばってね〜」
「ふぅ〜 んじゃ、行きますか」
夫を見送る新妻のようにヒラヒラと手を振る冥子の声援を受けてステージに向かう横島。既にステージに上がる西条は抜き身の霊剣ジャスティスを下げて待ち構えている。
「さて、いつぞやの決着をつけようか 横島君」
「…お前、顔怖いぞ」
「それでは、第3試合はじめ!」
その声と同時に『栄光の手』を出す横島。西条もジャスティスを構え隙を伺っている。
横島としては文珠を使えばそれこそ「瞬殺」できない事もないのだが、そんな物騒な文字は使わずに試合をしようと考えていた。理由は1つ、本当に瞬殺になりかねないからだ
「行くぞ!」
「来い!」
ジャスティスの初太刀を《栄光の手》で受ける横島。込められた霊力が火花を散らす。
「腕を上げたな、あの頃ならその霊波刀ごと腕を落とせただろうが…」
「あの頃の俺と一緒に…するなよっ!」
空いた左手でサイキックソーサーを作り西条の懐へ投げつける横島だったが、西条もそれに気付くとすぐさま距離を取り直撃をかわす。
「さて、どうしたものか…」
その実、西条は態度程の余裕はない。なにせ横島は一度令子に勝っているのだ。口惜しいが単純な戦闘能力では横島の方が上だろう。
「だが、戦いはそんな単純なものじゃない!」
それでも西条は自分の勝利を信じて疑わなかった。
「一気に勝負をつけるぞ!」
距離をとった西条は横島が懐の銃を警戒していると見越してベルトにホルダーを付けて隠し持っていた数枚の破魔札を横島に投げつける。
「ぐぁっ!?」
これは横島も完全に予想外だったらしく、咄嗟に避けようとするが何枚か直撃をくらってしまう。西条が破魔札を使っているところなど見た事がないが、西条は美智恵の弟子。使えて当然なのだ。
「ハハハ! 僕を霊剣と銃だけの男だと思ったかい?」
勝ち誇る西条。横島は咄嗟に左腕で破魔札の攻撃を防いだため服は破け、肩口から流血し力無く垂れ下がっている。
「おいおい、TVでこんなの放送していいのかよ?」
「まったく、こういう状況でもその態度は変わらんな…そう思うのなら潔く降参したまえ」
そう言いつつもジャスティスを構える西条。しかし、その思考は勝利後の栄光へと飛躍している。
「ククク、誰が勝者で誰が敗者であるかをハッキリさせる時が来たようだね横島君。これが正しい姿なのだよ! 女難は僕のキャラじゃない! これでもう隊長の書類整理を押し付けられる事も、お茶汲みさせられる事もなくなるんだ!」
「…後半2つは関係ないと思うが」
「そんな事してたんですか?」
「な、なんの事かしら?」
司会者の突っ込みに美智恵は目を逸らした。
「さぁ、見ててくれ。僕が彼に勝利する様を! そして君は僕の元に戻ってくるんだ令子ちゃん!」
演技がかった調子で観客席に向けて両手を広げる西条。
しかし、向けた手の先に令子の姿はない。
「…あれ?」
「美神さんなら俺らの控え室で寝てるぞ?」
「え…?」
「あ、あと油断し過ぎな」
西条が自分から背中を向けたために簡単に後ろを取った横島が西条の背中に文珠を押し当てる。
跳
「のぉぉぉぉぉぉッ!?」
文珠が発動した瞬間西条は凄い勢いでステージの外へ飛んでいく、だけではあきたらずピンポン玉のごとくスタジオ内を跳ね回るのだった。何にせよリングアウトである。
「勝者、GS協会!」
西条の動きが止まったのを見計らって司会がそう宣言すると観客席から大きな歓声があがった。
「また腕を上げたわね横島君」
「うむ、見事な戦いぶりだったよ」
試合場に降りてきた美智恵と唐巣が横島を労い、もう回復したのかピートと冥子も駆け寄って来る。
「やりましたね、横島さん!」
「横島く〜ん おめでと〜」
そして、いつもの調子で横島の元へとやって来た冥子がやはりいつもの調子で更にこう続けた。
「みんなもね〜。横島くんに〜、「おめでとう」って言いたいって〜」
「「「「え゛?」」」」
その後の事はあえて語るまい。
生放送であったため放映を中止するには手後れすぎてGメン、GS協会双方の担当者は上からこっぴどく叱られたそうだ。
GS達にはもはやおなじみの某病院の一室。
「先生、僕達なんのために戦ったんでしょう?」
「言うなピート」
「それにしても、なんで隊長はあの状況で無傷なんですか?」
「女には色々と秘密があるものなのよ。横島君」
ピート、唐巣、横島が仲良く入院したのに対し、何故か無傷だった美智恵はにこやかに花瓶に花を活けていた。
一方、別室では
「フ、フフフ…覚えておきたまえ横島君。僕はまだ諦めないぞ」
あの時美智恵に盾にされ、ミイラ状態の西条が懲りずに横島へのリベンジを誓っていたそうな。
めでたしめでたし?
代理人の感想
うーむ、相変わらず面白い。w
こう言うテンポのいいギャグってのはやはり素養が無いと書けませんよねー。
見習いたいところであります。
それでは次に続く。