「うわぁ……」
 コレットは目の前で繰り広げられる光景に思わず感嘆の声を漏らした。
「よっこしまさぁ〜ん
 コレットが早朝マラソンに参加するために別棟の外に出てみると、そこには横島に抱き締められては蕩けるアスナ達の姿があった。彼女達のかわす言葉を聞いていると、どうやら朝の挨拶と共にスキンシップを楽しんでいるらしい。
 その刺激が強い光景に呆然として二の句が継げないコレットだったが、やがて頭の中を整理して一つの言葉を紡ぎ出す。
「『英雄』ってスゴい!」
「そうじゃねーだろ」
 しかし、直後に千雨のチョップ付きツっこみを食らった。あまりの衝撃に、コレットの頭は混乱しているようだ。
 頭を押さえてうずくまるコレット。しゃがんだまま顔を上げて、涙目で千雨を見上げる。
「何するんですかぁ〜」
「お前がバカな事言ってるからだ」
 人見知りの激しい千雨も、コレットに対しては容赦がない。彼女自身成長したと言うのもあるが、レーベンスシュルト城で共に暮らす事になったと言うのは、千雨にとってそれだけ大きいと言う事だろう。
「この場合『英雄』とかは関係ないだろ。私達は数日前まで知らなかったんだぞ」
 その通りだ。英雄かどうかなど、アスナ達にとっては関係がない。横島である事が何より重要なのだ。それはスキンシップに参加していない千雨を始めとする面々にとっても同じである。
「で、でも、『英雄、色を好む』って言うよね?」
「うっ……」
 コレットの意外な反撃に一瞬言葉を詰まらせる千雨。千雨達にとっては関係はなくとも横島が『英雄』であった事は事実であり、彼が色を好む――すなわちスケベである事も事実だ。これを否定する事は出来ない。
 腕を組み、顔を伏せて頭をひねる千雨。そして彼女は反撃の糸口を見付け出し、ビシッとある方向を指差した。
「見ろ、あいつらを! 英雄じゃなくても色ボケしてるぞッ!」
 指差す先にいたのは蕩けたアスナ達。横島に対して「色を好む」事に関しては、彼女達だって負けていない。そう言う問題ではないような気もするが、千雨は咄嗟に浮かんだ言葉を口にしてしまった。コレットもどう反応すれば良いか分からずに、きょろきょろと千雨とアスナ達を交互に見る。
 だんだんと千雨の顔が赤くなってきた。今はこうして傍観者に徹している彼女も、夕方の修行ではアスナ達と一緒にあふんあふんと言っているのだ。彼女達の事を言えた立場ではない。
 修行だから仕方なくとは言えない。あの修行を受け容れ、楽しみにしている自分がいる事に千雨は気付いていた。コレットに「抜け出せなくなる」と言った彼女だが、何て事はない。既にどっぷり嵌って抜け出せなくなっているのは、他ならぬ千雨自身なのである。
「え、え〜っと……」
「言うな。頼むから、何も言うな」
 おずおずと声を掛けるコレットに対し、千雨は耳まで真っ赤にして俯くばかりであった。

「でも、いいなぁ……」
 改めて横島達の姿を見て、コレットは羨ましそうに呟く。
 確かにミーハーな面は否定出来ないが、彼女が横島に対して憧れの気持ちを抱いているのは紛れもない事実だ。ああして堂々とスキンシップが出来るなど夢のような話であり、自分もやりたいと言う想いがむくむくと湧き上がってくる。
 しかし、仮契約(パクティオー)を断られた自分がそんな事をして良いのだろうか。新参者の自分があの輪の中に入って良いのだろうか。そんな不安が頭を過ぎり、一歩踏み出して彼に近付く事が出来ない。
「コレットさん」
「あ、メイ……」
 そんなコレットの肩を、愛衣がポンと叩いた。
「どうしたんです? コレットさんは行かないんですか?」
「い、いいのかな? 私なんかが行っても」
「大丈夫ですよ」
 もじもじと不安気な表情を見せるコレットに対し、愛衣はにっこりと微笑みかける。
 横島が基本的に「可愛ければ来る者は拒まず」と考えている事もある。だが、理由はそれだけではない。
 アスナ達にとって彼に抱き着くのはあくまで挨拶なのだ。魔法界で仮契約が大した事ではないと思われているように、ここでは横島に抱き着いて挨拶する事は当たり前の事として扱われている。「ここ」と言っても「レーベンスシュルト城内」と言う極めて狭い世界の話だ。
 元を辿れば、アスナが子供のように横島に身体をぴったりとくっつけて甘えていた事にある。周りで見ている面々も、当初はそれを恥ずかしい事だと認識していたが、周りの目を気にせず幸せそうに甘え倒すアスナを見て、自分達もやって良いのではと考え始めてしまったのだ。
 幸か不幸か、彼女達は「レーベンスシュルト城」と言う閉鎖された空間で暮らしている。外界から閉ざされたこの場所でならば、周囲に身内しかいないこの場所でならば良いのではないか。現実離れしたレーベンスシュルト城の幻想的な光景も手伝って、この特別な場所でならば良いと言う考えがいつしかアスナ達の中に蔓延してしまったのである。
 もっともアスナを始めとする何人かは、城外でもあまり自重出来ていないようだが。
「ほらっ!」
「う、うん……」
「無理しなくてもいいぞ。あそこで甘えてるのはガキばっかだからな」
 頬を赤く染めた千雨が止めようとするが、コレットは憧れの横島に抱き締められると言う誘惑には勝てず、ふらふらと彼を中心とする輪に近付いて行き、そして横島に抱き着いた。
 コレットを受け止めた横島は、彼女の頭の上に生えている長い耳が気になるようで、そっと指で摘んでは裏側を優しく撫でてみる。どうやら敏感な箇所らしく、コレットは横島の指の動きに合わせてぴくっと肩を震わせ、「ひゃんっ」と小さく声を漏らした。
 そんなコレットの背中を見守る愛衣と千雨。前者はにこやかに、後者はどこか不安気な表情だ。千雨の表情に気付いた愛衣が、彼女に声を掛ける。
「千雨さんも我慢しなくてもいいのに。アスナさん達の言葉じゃないですけど、開き直った方が楽ですよ?」
「お前等があけっぴろげ過ぎるんだよっ!」
「でも、やってみたいんですよね?」
「うぅっ……」
 図星であった。千雨は羞恥心の方が勝ってしまっているのだ。皆に置いて行かれてしまっているような感覚もあるが、こればかりは恥ずかしいのだから仕方がない。
 夕方の修行は、霊力を目覚めさせる修行だからと言う理由で自分に言い訳する事が出来る。しかし、この朝の挨拶は違う。言い訳できない。これに参加する事は、自分の中にある横島への好意を認める事であり、引き戻す事の出来ない一歩を踏み出す事を意味していた。
 チラリと横島の方に視線を向けると、そこにはコレットに続いて横島と抱き合う高音の姿があった。アスナ達のような熱烈なものではなく、軽く抱擁するだけだが、その頬はりんごのように赤い。高音は色白なので、それが余計に目立っている。
 彼女もとうとう心を決め、彼への好意を認めてしまったのだろう。二人には仲良くなって欲しいと願っていた愛衣は、その姿をにこにこと笑顔で見守っている。
「ったく、揃いも揃って浮かされやがって……」
 ため息混じりに呟く千雨。
 そう言う彼女も耳まで真っ赤になっており、同じく真っ赤になった頬は、確かに熱を帯びていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.133


 その日の昼休み、3−Aでは「マジカルミステリーツアー」の準備が進められていた。いつもならば勉強会をしている時間だが、この時期になると流石に学園祭の準備の方が優先される。彼女達が行うのは、かなり大掛かりな出し物なので尚更だ。
 本職である横島とも相談して決めたその内容は、GSに扮したツアーコンダクターが数人のお客様を連れて進めて行くストーリー仕立てのお化け屋敷である。
 この夏に美神令子の監修でオープンすると言うデジャブ―ランドの本家マジカルミステリーツアーは、雑誌の情報によると外国風の路地のようなセットらしいが、アスナ達は学園祭の出し物である事を考慮して、夜の校舎を舞台にする事にしていた。「女子中学生GSが、夜の校舎に巣くう悪霊達を退治する」と言う内容だ。
 実は、当初は「女子中学生GS」ではなく単に「GS」にして、美神令子のようにボディコンを着ようと言うアイデアも出されていたのだが、それは横島が「はしたない」と反対したため実現する事はなかった。
 ボディコンと言えば、彼の元上司のトレードマークとして知られている。それを「はしたない」と言う彼が、どのような目で令子を見ていたのかが透けて見えるようだ。
 その後もノリの良い面々が冗談交じりにお色気を出していこうと主張するが、横島はそれらを尽く却下していった。彼は、こう言うところでは厳しいのだ。あやかを筆頭とする常識人の面々がそれに同調し、ミステリーツアーの内容は、かなり本格的な物になっている。
「でも、これって教室には絶対に入らないわよね?」
 問題は、本格的になり過ぎて教室に入る規模ではなくなってしまったと言う事だ。
 仮に詰め込んだとしても、準備には相応の時間が掛かる。その間、教室で授業をする事は出来ないだろう。
「大学のサークルの出し物みたいに、どこか外部の場所を借りる事になるかも知れないわね」
「それ、中学でも出来るの?」
「それはクラス委員長である私の仕事ですわ」
 皆の不安に対し、あやかは胸を張って応えた。

 国際化に対応した自立心を育成するために、麻帆良祭での営利活動を許可したのが十数年前。それから大学のサークルを中心に商業化は過激さを増し、今では『麻帆良祭』は学園祭と言う名のテーマパークと化している。
 麻帆良内にある全ての学校だけでは飽き足らず、世界有数の規模である学園都市全体がその舞台として、開催期間中『世界樹』を中心に麻帆良の各所でバイタリティ溢れる麻帆良の学生達が技術と熱意を結集したイベント、アトラクションが行われるのだ。
 噂を聞きつけた関東一円から家族連れを中心に観光客が訪れ、開催期間中の入場者数は延べ四十万人。一説には一日に二億六千万もの金が動くと言われている。三日間で数千万円を稼ぐと言われている、超のような学祭長者が現れるのも、ある意味当然の事なのかも知れない。
 それだけに学校以外の場所で出し物をする許可を得るのは並大抵の事ではなかった。早い者勝ちのような単純なものではなく、企画内容をまとめて提出し、学園の審査を受けて、許可を得る必要があるのだ。
 一般人の観光客が四十万人も訪れるのだから当然の事ではあるが、ここまで来ると本当に学園祭の規模ではない。

「そう言えば、横島さんに監修で名前貸してもらうって話はどうなったの?」
「ああ、それなら『横島忠夫』ではなく『横島除霊事務所』ならば良いと許可をいただきましたわ」
「やたっ!」
 あやかの答えを聞き、揃ってガッツポーズを取る桜子、美砂、円。
 外部の場所を借りると言う事は、それだけ集客が見込める本格的なものが求められる。実際、彼女達は大学のサークル以外が外部の場所を借りて出し物をしているのを見た事がない。
 はたしてそんな中で中学生が場所を借りる事が可能なのか。
 無論、何の考えもなしに激戦区に飛び込もうと言う訳ではない。彼女達には武器があった。
 まずは『麻帆良の最強頭脳』と謳われる超鈴音と、葉加瀬聡美の二人。彼女達は麻帆良大学工学部に負けない技術力を持っている。二人の協力があれば、大学のサークルにも負けない本格的なお化け屋敷を造る事が出来るだろう。
 そしてもう一つが横島除霊事務所の監修だ。流石に本家マジカルミステリーツアーの『美神令子監修』ほどのネームバリューは無いだろうが、プロのGSの監修は、それだけ本格的である事の証明となる。
 「横島忠夫」ではなく「横島除霊事務所」としたのは横島からの提案だが、この「除霊事務所」と言うのがミソだ。まだまだ新人である横島は、一般人の知名度は大したものではない。しかし「除霊事務所」の名前があるのだから、プロのGSが関わっている事は伝わるのである。
 当初は横島も、学園祭にプロが入り込んで良いのかと難色を示していたが、和美から昨年の学園祭の様子を報じた記事を見せてもらい考えを改めた。前述の通り『麻帆良祭』はただの学園祭ではない。特に飲食店に関しては、本職である生徒の家族が指導する事は珍しくもなかった。ココネのクラスは『白くまクレープ』なる出店をやる予定だが、こちらもクレープ屋でバイトをしているクラスメイトの姉が手伝ってくれているらしい。
 ちなみに横島が事務所の名前を提案したのは、自分の知名度などを考慮したからではない。ただ単に自分の知識が足りない自覚があったため、除霊助手である千草の知識を頼りにしたからだ。この事は千草の方にも伝えられており、彼女は「しょうがないやっちゃなぁ……」と呆れながらも、横島に足りない部分を自分が補う、これぞ内助の功だと言わんばかりに二つ返事で協力を約束してくれている。

「……ところでさー」
「アスナ、どしたん?」
「横島さんの監修でマジカルミステリーツアーをやるのはいいんだけど……ツアーコンダクター役、私じゃダメ?」
 ツアー内容に関するアイデアがまとめられたノートを手に、アスナが小首を傾げて尋ねた。他ならぬ横島の監修なので、彼女も積極的に参加したいようだ。
 その言葉を聞き、あやか達は顔を見合わせる。確かにツアーコンダクター、つまりは女子中学生GS役の候補の中に、今のところアスナは入っていない。
「そうは言いますけど、アスナさん。あなた……セリフは覚えられますの?」
「う゛っ……」
 確かにアスナは除霊助手だ。女子中学生GS役に相応しいかも知れない。だが、それを言ってしまえば楓、真名、刹那、超と言ったオカルトに関わる面々も相応しいと言う事になるが、彼女達もツアーコンダクター候補に名前は挙がっていない。
 それにツアーコンダクターに必要なのはノリの良さと演技力。そしてお客のツっこみにもアドリブで対応出来る応用力である。ただでさえセリフを覚えられるかどうか厳しいと言うのに、更にアドリブまで求められるとなると流石に難しいと言わざるを得なかった。
 ちなみに現在候補に挙がっているのは美砂、円、桜子、それにハルナの四名である。アスナだけでなく裕奈もやりたかったようだが、魔法と霊能力の修行で忙しい身の上なのに、更にツアーコンダクターの練習をする余裕はないと判断したようだ。ちなみにハルナの方は、ネギ達に混じって修行している訳でもなく、のどか達に混じって魔法の練習をしている訳でもないので大丈夫との事だ。
「まぁまぁ、こっちは私達に任せなって」
「そうそう、アスナはやる事あるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどね……」
 肩を落とすアスナの両隣で口々に慰めの言葉をかける美砂と円。
 かく言う美砂、円、桜子の三人は、麻帆良祭三日目に予定されているライブイベントに参加する予定だったが、こちらの方が面白くなりそうだとライブイベントへの参加を取りやめてクラスの出し物に集中する事にしている。
 その代わりと言っては何だが、麻帆良祭が終わったらまた横島に頼んで、オールナイトのカラオケに連れて行ってもらおうと企んでいるらしい。

 昼休みの最中に生徒が自主的に話を進めてはいるが、最終的にそれを取り纏めるのは担任であるネギの役目だ。彼は教壇に立って皆の視線を集めると、彼女達に最終確認をする。
「それじゃツアー内容の骨子は、旧校舎の七不思議をテーマにすると言う事でいいですか?」
「おっけー♪ それで大丈夫だと思うよ、ネギ君」
 ネギの問い掛けに、ハルナが笑顔で親指を立てて答える。
 夜の校舎を舞台にすると言う事で、ミステリーツアーのテーマは学校の七不思議にすると言う事になっている。ただ、麻帆良の校舎をモデルにしてはおどろおどろしい雰囲気が出ないと言う事で、架空の「旧校舎」をでっち上げる事にしていた。
 本家のミステリーツアーがどのような内容なのかは分からないが、こちらは「何人もの生徒が行方不明になっている旧校舎に一般人が入り込んでしまい、丁度除霊に来ていた女子中学生GSが彼等を安全なところまで誘導する」と言う内容になっている。もちろん安全に逃げるだけで済むはずもなく、GSと悪霊の戦いに巻き込まれたりするのだ。
 アスナの前に置かれたアイデアがまとめられたノートを覗き込みながらカモが疑問を口にする。
「七不思議って割には、六つしか無いんだな」
「七つ目が分からないってのが、それっぽいじゃない」
 ちなみに中心となってストーリーを考えたのはハルナだ。漫画研究会の本領発揮だ。
 ただのお化け屋敷で終わせるつもりはない。この舞台となる旧校舎では一人の霊力を持った女生徒が行方知れずになっており、実は女子中学生GSこそが七つ目の不思議で幽霊と言うオチを最後の最後で明かしてやろうと目論んでいる。
 超達の協力を以て、このギミックを実現してみせるとハルナは意気込んでいた。
「……具体的にどうやるんだ?」
「鏡に映らないとか、影がないとか?」
「いや、それをどうやるのかと……」
 千雨の問い掛けにハルナはいくつか案を出すが、マンガ的な演出ばかりで具体的には考えていないようだ。
「いっそ、立体映像にしてみるかナ?」
「それは面白いかも知れませんね〜」
 その一方で超と聡美は盛り上がっていた。二人の間で専門用語が飛び交い、いかにしてハルナの要望を実現しようかと話し合っている。こうなるともう誰も間に入る事が出来ない。
 ハルナの荒唐無稽な話を聞き、それは流石に難しいのではないかと思っていた千雨だったが、二人の様子を見ていると本当に実現しそうに思えてくる。まだ時間はあるのだから、無理ならばその時に別の手を考えれば良いのではないか。そう考えた千雨は、彼女達の盛り上がりをあえてツっこまずに放置する事にした。

「となると、問題は時間だね〜」
 そう呟いた美砂は、アスナから神通棍を借り、それっぽく構えて見せる。
 彼女はアスナのようにGSになりたいと考えている訳ではないが、最近はテレビなどでオカルト関連のニュースなどを見るようになったため、芸能人に対する憧れのような気持ちを抱いているらしい。もしかしたら横島を慕っているのも、そう言う側面があるのかも知れない。
「確かに、麻帆良祭までに完成するかが問題よね」
 円もその呟きに同意した。ツアーの内容を把握し、セリフを覚えるのは自分達の役目だが、肝心の舞台が麻帆良祭当日までに完成しなければ何の意味もない事だ。
 しかも、外部の場所を借りる事になれば、教室をお化け屋敷にするのとは訳が違ってくる。きっと大学のサークルなどはずっと以前から準備を進めているに違いない。そんな所に自分達が踏み込んで良いのだろうかと言う不安もある。
 この不安は、円だけでなくクラスの皆が漠然と抱いているものであった。
 どんどん話が盛り上がっていき、出し物の規模が大きくなっていくのは良いのだが、はたしてそれは自分達の手に負えるのだろうかと言う不安があるのだ。
「あの、葉加瀬さん? 工学部の工作機械を貸していただけると言う話は……」
「それは問題ありませんよ〜。工学部でも色々とやっていますが、私の権限で動かせる物もありますから」
 具体的に言うと、超一味が独自に使用している工作機械だ。『超包子(チャオパオズ)』の店舗も、その工作機械で造られている。それらは工学部では使えない物であり、いつでも超と聡美が自由に使う事が出来るのだ。
 そのようなものをクラスの出し物に使って良いのかとも思うが、これは超が良いと判断を下していた。
 彼女が工学部とは関係なしに色々と所持しているのは学園側にも把握されている事なので、いつまでも隠し持っているよりもこれを機に表に出して隠す必要すらもなくしてしまった方が良いと考えたらしい。
「建物とか仕掛けは私達に任せてくれればいいネ」
「私達が用意出来るのは『箱』だけですから、中身は皆さん頑張ってくださいね」
 にかやかに言う超と聡美。二人の言葉を聞いて一同は顔を見合わせる。
 彼女達の言葉が意味するところ、それは舞台を用意するのは自分達に任せてもらうが、その上で何をするかは他の皆に任せると言う事だ。つまり、外部の場所を借りればそれだけ難しくなるとかは考えずに、いつものノリでやれば良いと言う事である。
 二人に頼る事になるが、それならば何とかなるかも知れない。アスナ達の顔に安堵の笑みが浮かんできた。
「と言うか、私は本家美神令子のマジカルミステリーツアー越えを目指してるから、皆にも頑張てもらわないと困るヨ」
「うわっ、それは無茶じゃない!?」
「いやいや、美神令子はその筋じゃケチで有名だからネ。どこかでケチてミスするに決まてるヨ」
「そ、そうなのかなぁ……」
 そう言うアスナも強く反論する事が出来ない。『季刊GS』を愛読し、また本人にも会った事がある彼女は、確かに令子ががめつい性格である事を知っているのだ。
「皆も、やるからには目指すは打倒美神令子ネ!」
「お、おーっ!」
 更にはクラスの皆を扇動し始める超。当初は戸惑っていた面々も、超と聡美の力に加えて皆で協力すれば何とかなるのではないかと思い始め、ノリの良い者達を中心に盛り上がりだす。
「え、え〜っと……」
 教壇のネギは皆のノリについて行く事が出来ず、かと言って止めて良いものかも判断出来ずにおろおろとするばかりだ。
「ネギ先生……」
 そんな彼の肩をのどかがポンと叩いた。ネギが彼女の方に視線を向けると、のどかは諦めたような表情で首を横に振る。
 そう3−Aのノリは、横から口を出してそう簡単にどうにか出来るものではない。出来るとすれば学年主任の新田を連れて来て怒鳴ってもらう事だが、流石に昼休みに彼が現れる事はないだろう。ましてや彼女達は休み時間を返上して麻帆良祭の出し物について話し合っているのだから。
「みなさ〜ん! もうすぐ昼休みが終わりますからね〜! 話し合いも授業が始まるまでですよ〜!」
 ネギは教壇の上から声を張り上げるが、それが皆に届いているかどうか微妙なところであった。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







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代理人の感想
楽しそうだなぁ。
こういうのって、実際にやるよりもあーだこーだと皆でアイデアをこねくり回しているのが一番面白いんですよねw
そしてこう言う展開に妙な感慨を持ってしまうのは、多分自分が年をとってしまったからでしょう(爆)

>ボディコン
普通なら中学生が着てもお笑いぐさなんですが、この組の面子だとなぁ・・・w
でも、ツアコン役の面子だと、平均的女子中学生とサイズは大差ありませんでしたっけ?


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