「さて……そろそろ別のところに行くか」
古菲と楓の称え合いを眺めながら、横島は不意にこんな事を言い出した。
「えっ? まだ途中ですけど……」
「見たい試合は終わったし」
隣のアキラは驚いたが、横島としては古菲の試合が終わった時点でまほら武闘会に用は無いようだ。
「拙者も終わったからなんとも言えんでござるが、真名はまだ残っているでござるよ?」
「真名ちゃん、こっちの視線気にしてたみたいだからなぁ」
「えっ、真名がアルか?」
古菲と楓は信じられないと目を丸くしていたが、横島は先程の彼女の試合を見てしっかり見抜いていた。真名は自分が見ていない方が全力で戦えると。
「それに、ネギが勝ち残ってるからな。大会中に皆がやってる出し物、見に行ってやりたいし」
「……なるほど、そういう理由では止められんでござるな」
これからの男達の熱い戦いよりも、3−Aの女の子達の方が優先のようだ。それでこそ横島である。
かくいう楓自身も、急遽決まったこの武闘会に出場するため、鳴滝姉妹との約束をキャンセルして来ている。二人は「優勝だー♪」「優勝ですー♪」と笑って送り出してくれたが、内心気にしていた。
「風香と史伽のところにも?」
「ああ、一緒に学園祭を見て回るつもりだ」
そういう話ならば楓も止める事はできなかった。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.160
その後アスナ達にもこの事を話したところ、ネギの試合が気になると木乃香とアーニャは会場に残る事になり、刹那が護衛に残る事になった。
古菲と楓も参加者なので大会が終わるまで付き合うと、この護衛に加わる事になる。これで木乃香は大丈夫だろう。
アキラも、元々亜子の付き添いなので、こちらも会場に残る。
そして実は囲碁部に入っているエヴァは、この時間ならば囲碁大会の方に参加できると、人間界の文化に興味があるコレットを連れて行ってしまった。
「こちらの大会は、3時頃に終わる。忘れずに顔を出せよ」
「へいへい」
という訳でエヴァと合流の約束をした横島は、アスナだけを連れてさんぽ部主催の学園一周イベントに参加する事になった。
ところが集合場所である学祭門に到着したところ、鳴滝姉妹に加えて意外な人物が二人を出迎えた。
「なんで鳴滝6号が増えてるのよ」
「誰が6人目の追加戦士だ」
千雨だ。何故か小学生ぐらいの姿になっているが、髪型と眼鏡で辛うじて分かった。
風香と史伽は真っ先に横島に飛びついたので、フリーのアスナが話を聞く事にする。
「それ、あれよね『年齢詐称薬』」
正確には『赤いあめ玉・青いあめ玉 年齢詐称薬』である。
「なんで使ってるのよ?」
「実は昨日のコスプレイベントで目立ち過ぎたみたいでな……」
千雨は優勝したため、かなり目立ってしまったらしい。
麻帆良祭中は堂々とコスプレしていいという事で、今日もコスプレして出掛けたところネットアイドル・ちうである事がバレてしまったそうだ。
慌ててレーベンスシュルト城に戻り、コスプレを止めて制服に着替えるかと考えたところで、千雨はある可能性に気付いてしまった。
制服姿で出掛けると「学生のコスプレをしたちう」と気付かれてしまうのではないかと。
自分のメイク技術、画像の加工技術は優れているので、正直可能性は低いと千雨は考えていた。しかし、ゼロとは言い切れない。
そうなると「有り得る」と考えてしまうのが、この心配性な少女であった。
そのままレーベンスシュルト城に引きこもっていようかと考えてたところに、留守番をしていたすらむぃがどこからともなく持ってきたのが『年齢詐称薬』だった。これを使えば、普通の人間には絶対にバレないと。
「なにそれ、エヴァちゃんの?」
「いや、カモが置いていったらしい」
ちなみにカモは、念のためにと置いていったようだ。修学旅行の時に横島達もそうだったが、今回の千雨のように正体を隠して行動するにはうってつけなのである。
ちなみに小学生っぽい服装をしているだけで、特に何かのコスプレをしている訳ではない。流石の千雨でも、小学生サイズの衣装をすぐに用意する事はできないのだから。
千雨自身は、子供になった事で普段はできないコスプレができるかもとちょっと思っていたので、衣装を用意できなかった事を内心残念がっていたりする。
「んでまぁ子供の格好するのに鳴滝姉妹に服を借りようとしたら、そのまま連れてこられちまったんだ」
鳴滝姉妹は小学生ではなく同級生だが、そこは気にしてはいけない。ココネがいなかったので仕方がないのだ。いれば小学校の制服を借りていただろう。
そんな「今度借りよう」とか「子供サイズを作っておこう」と密かな決意をしている千雨は置いておいて、さんぽ部のイベントの説明だ。
学園一周イベントというのは、さんぽ部の部員達がガイドとなって観光客を案内するツアーである。
ツアーといってもキッチリスケジュールが決められてるようなものではなく、途中参加も離脱も自由。とりあえず皆で散歩しようというゆるい企画だ。麻帆良祭を目当てに他所から来る観光客には結構需要があるらしい。
ちなみに風香と史伽は、夏美の演劇会を見に行くために途中で横島達と一緒に離脱する予定である。
という訳でさんぽスタート、横島は姉妹二人にじゃれつかれ、更にそれを見てヤキモチをやいたアスナに飛びつかれながら麻帆良祭の見どころを回っていく。
風香と史伽が交代で肩車されているのも見てアスナが自分もとせがんだが、流石にそれは人目があるため却下だった。横島ならばやろうと思えばできただろうが。
千雨は流石に恥ずかしいのか三人のように飛びついてはこなかったが、はぐれないようにと横島の方から側を離れないようにしていた。
ガイドが紹介するのは、麻帆良祭の見どころ施設。学生が作ったとは思えない本格的なアトラクションの数々に横島も驚きを隠せない。
「どうなっとるんだ、麻帆良は普通の生徒も普通じゃないのか?」
「工科大って、実際の遊園地でアトラクション作ったりしてるらしいですからね〜」
「それプロだろ、もう」
最近よく聞く企業と大学の連携、「産学連携」というものかも知れない。
そして一箇所回る度に参加者が減っていく。紹介されたアトラクションはどれも並ばねば入れないため、興味を持ったツアー客はそこで離脱し列に並んでいるのだ。こうなるから途中参加も離脱も自由なのだろう。
3−Aのマジカルミステリツアーの紹介を経て、参加者が半分ぐらいになったところであやかが参加している乗馬会に到着。これに参加するため横島達はツアーから離脱した。
部員達の演技を見てから体験乗馬となる。アスナと横島は平然と乗ってみせたのに対して千雨達は上手くいかない。史伽にいたっては馬の大きさと高さに怯えてしまっていた。
「見て見て、横島さ〜ん♥」
楽しそうなアスナだったが、次の光景を見た瞬間、彼女の動きがピシッと止まった。
「史伽ちゃん、こっちおいで」
「は、はい! お、落とさないでくださいよ!?」
見かねた横島が史伽に近付き、彼女を自分の馬に乗せたのだ。
自分の前に座らせるという、傍目には大人と子供のような光景だが史伽は大喜び。風香が僕も僕もとねだり、千雨も今の身体ならばと続く。
交代で馬に乗せてもらう三人。アスナはそれが羨ましくてたまらない。
「横島さん、私も!」
「お止めなさい。まったく、はしたない……」
声を上げて飛び込もうとしたが、あやかに止められてしまった。
という訳で乗馬会が終わった後は、アスナが横島と腕を組みながら歩く事になった。本人的には恋人同士のようだと考えているのだろうが、千雨から見ると子供、せいぜい妹あたりが甘えているようにしか見えない。
千雨の呆れ顔もなんのその、アスナは嬉しそうにじゃれつきながら次の目的地である夏美が出演する演劇会へと向かう。
会場はなんと、かつてヘルマン達と戦った屋外ステージ。こちらが本来の使用用途である。
チケットは夏美からもらっていたが、予約席などは無いため、一行が到着した時には後方の席しか空いていなかった。座れただけ良しとしよう。
劇では、夏美が可愛い妖精役で登場していた。客席を見渡した時に横島達に気付いたのか一瞬動きが止まったが、それからは気を取り直して真剣に演技しているのが見て取れた。
そして夏美が無事にやり遂げ劇が終わると、横島達は拍手喝采。
舞台裏まで迎えに行くと、夏美は眩しい笑顔で出迎えてくれた。劇が成功に終わって興奮しているようで、紅潮した頬で「どうでした? どうでした?」と話しかけてくる。
また控え室には千鶴も来ていた。横島達はまほら武闘会に行っているので自分がと様子を見に来ていたそうで、横島達が顔を出すと驚いた様子だった。古菲達の試合が終わったから来たというと、察したのか複雑そうな顔になっていたが。
「古菲さん、残念でしたね」
「勝てなかったのは残念だけど、成長は見られたから俺としては十分かな」
かつての横島ならば、楓と戦うと決まった時点で逃げる事を考えていただろう。古菲の勝ち目は正直薄いと見ていた。
それを見事引き分けまで持ち込んだのだ。横島としては褒めまくりたいところである。他ならぬ古菲自身がもっと勝ち進みたかったと考えていそうだったので控えたが。
その後、夏美が着替えるというので一旦横島達は退出。
千雨がこの時期はコスプレなんて珍しくないんだからそのままでいいだろうと言ったが、夏美は汗ばんでいるからと制服に着替える事にした。彼女の本音は、横島と一緒なので臭いを気にしたといったところだろう。
着替え終えた夏美、千鶴と合流した一行は高音のクラスの喫茶店で軽く食事を済ませ、祐奈のバスケ部の出し物である射的を楽しむ。
「はーなーせー!」
「遠慮しなくてもいいのよ〜♪」
なおその間、千雨は千鶴に捕まって愛でられていた。風香と史伽が横島に甘えていたので、それを見て羨ましくなったのだろう。
昼からは3−A関係以外の出し物も見ていこうと話していると、高音と愛衣の二人が現れた。
「横島君、ちょっといいかしら?」
「ん? 喫茶店の方はいいのか?」
「仕事よ」
端的な一言で、横島は魔法使いの仕事だと判断し表情を変えた。
愛衣が認識阻害の魔法を使ったのを確認してから、内容について聞く。
「私達で地下水道を調査して欲しいそうよ」
「別働隊でか、それじゃフェイトとは無関係か?」
「……ええ、問題は超鈴音の方よ」
「超が?」
高音によると、まほら武闘会を利用して故意に魔法使いの情報を流布しようとしている疑いがあるらしい。
それが超によるものという証拠は今のところ無いが、彼女が急遽他大会を買収して開催されたまほら武闘会が利用されている事と、先日の魔法使い達の会議を覗き見していた件があったため限りなく黒に近いグレーと考えられているようだ。
彼女達が地下水道に秘密の拠点を持っている事は学園側も把握しており、今回の調査は、その拠点を見つけ出し超の目的を探るためであった。
「えっ? でも、情報公開の準備してるのよね? 情報流出して何か問題あるの?」
「神楽坂……だからお前はバカレッドなんだ。今すぐバラすと問題があるから準備してるんだろうが」
「あ、そっか」
アスナが疑問符を浮かべるが、すかさず千雨がツっこみを入れた。
彼女の言う通り、情報公開の準備は魔法使い以外のオカルト業界との調整など、後の混乱を避けるために行われている。
準備不足の今の段階で情報が流出するのはまずいが、フェイトに備えている魔法使い達には対処する余裕が無い。
そこで白羽の矢が立ったのが別働隊となっていた横島達なのだ。
「まったく、貴方が木乃香さんと別行動していると聞いて驚きましたわ」
「スマン、でも向こうに護衛は残してきたから」
「それも聞いているから怒ってないんです」
本当は横島達に木乃香の事を任せて高音達だけで調査するはずだったそうだ。
しかし横島達が別行動していたため、それならば横島も調査に参加させた方がいいと高音達は横島を迎えに来ていた。刹那と古菲に加えて楓が護衛に参加していたというのが大きい。
なお地下水道といっても広いため、二手に別れて調査する事になっている。
もう一方は刀子とシャークティ、それに美空とココネで調査するそうだ。
「ハイ! 私も行きます!」
当たり前のごとく立候補するアスナ。神通棍と破魔札は常に持ち歩いている。
「あの、私達はどうしましょうか?」
「千鶴ちゃんは皆を連れて囲碁大会の会場の方に行ってくれ。エヴァがいるから」
「エヴァさんと合流すればいいんですね、分かりました」
こうして千鶴は夏美といっしょに鳴滝シスターズを連れて囲碁大会の会場に向かうのだが、ここで横島が一人の少女を引き留める。
「えっ、私か?」
千雨である。
「いや、千雨ちゃんにも参加してもらわないと。『Grimoire
Book』は調査用のアーティファクトだし」
ぐうの音も出ない理由であった。
彼女のアーティファクトは神族の調査官も愛用するもの。その最新版だ。調査をするなら欠かせない。
実のところ千雨も薄々理解していたため、指摘されると反論できなかった。
「横島さん、こんな小さい子供を……」
「ちょっと待て、同級生。行くぞ、私も行ってやるぞ」
千鶴が千雨を子供扱いして横島を止めようとしたが、逆にそれが千雨に同行を決意させる事になった。
「そうだ、夕映ちゃんも呼ぼう」
「土偶羅魔具羅ですわね」
更に調査に役立つアーティファクトを持つ夕映も参加してもらう事にする。
こちらは連絡すると二つ返事で引き受けてくれた。
「……仕方ねえ、ちゃんと守れよ?」
「そこは任せとけ!」
千雨も仕方なく参加を承諾。こうして横島とアスナ、高音と愛衣、千雨と夕映のパーティが結成された。
これより地下水道探索ミッションのスタートである。
つづく
あとがき
地下水道探索、原作ではタカミチも参加していますが、こちらではまほら武闘会を勝ち進んでいますので不参加となります。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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ここら辺はもう覚えてないなあ。
地下水道ってなんだっけw
下水道じゃないことを祈りましょうかw
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