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「私の味方になれば、世界の半分をやろう! ……じゃなくて、ママと呼んであげるネ♪
「……へっ?」

 呆気にとられるアスナ達。対する鈴音は、それはもう楽しそうな笑顔で彼女達を見ていた。
「ななな、なに言ってんのよ!?」
「えっ? えっ? それはつまり……そういう事でござるか!?」
「そういう事アル! 鈴音、何を言ってるアルか!?」
「そうよっ! タダオは私の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』よ!?」
 途端に慌てだすアスナ、シロ、古菲、アーニャの四人。月詠はきょとんとしており、千雨は呆れ顔で四人を見ている。
 一方横島は、隣の令子の雰囲気が変わったのを察知してそれどころではなかった。
 そして令子は……横島も初めて見るような引きつった笑みを浮かべ、神魔族も裸足で逃げ出しそうなほどの怒気を放っていた。

 横島は理解する。鈴音の言葉は、一撃で自分達のパーティをバラバラにする必殺の一撃であったと。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.186


 これはヤバい。横島は焦った。
 いつもの横島ならば一発ギャグでも炸裂させてこの雰囲気を崩していただろうが、鈴音の性格を考えると、乗ってきた上でこちらをひっかき回してくる可能性が高い。
 そんな事になれば、隣にいるが顔を見るのも怖い状態の令子がどんな反応をするか。考えるのも恐ろしく、横島は下手に動けない状態になっていた。
 しかしアスナ達は令子の状態に気付いていないらしく、四人できゃあきゃあと盛り上がっている。
「千雨ちゃん、行かないで!」
「ええい、巻き込むなぁ!」
 そして千雨は、厄介事に巻き込まれたくないと身をひるがえして部屋から逃げ出した。
 自分だけ逃げるのは気がとがめたのか、しっかりと月詠の手を握って彼女も脱出させているあたり面倒見が良い。
 この場で唯一冷静だった少女がいなくなってしまい、横島にはもはや成す術が無い。
 アスナやシロなどは割と乗り気のようで、それがますます令子の怒気に油を注ぐ。
「古菲とアーニャは、恥ずかしい気持ちの方が強そうネ」
「い、いや、そんな事は……無いアル?」
「当たり前じゃない! 私がママだなんて、まだ早いわっ!!」
 鈴音のからかいに恥ずかしがってしどろもどろになる古菲。アーニャも恥ずかしがっているが、こちらは反発してみせる。なんとも好対照な反応だ。
 鈴音も実に楽しそうに笑いながら彼女達を見ている。
「落ち着け、お前ら! 鈴音の罠だ!」
 部屋の外から顔を覗かせる千雨が声を上げる。横島が動けない現状、一番冷静なのは彼女だろう。
 しかしアスナ達の耳には届かない。鈴音の言葉が衝撃的過ぎてそれどころではないのだろう。
 横島も彼女達を落ち着かせようとしているのだが、そうやって近付く事がアスナ達をますます落ち着きとは程遠い状態に陥らせていた。
「……確かにそうね」
 だが、ここで令子がピクリと肩を震わせる。あふれ出ていた怒気は鳴りを潜め、真顔に戻って真っ直ぐに鈴音を見つめる。
 鈴音もすぐさまその視線に気付き、笑うのを止めて令子に向き直った。
 揃って勝気そうな表情になった二人の視線がぶつかり合う。彼女達の間で霊気がぶつかり合ってスパークを迸らせる。横島は慌ててアスナ達を離れさせた。
「こ、これはあの時の……!」
 アスナ達を庇うように立つ彼の脳裏に浮かんだのは、かつて空港で同じようなにらみ合いを繰り広げた令子と母の姿だった。
「血か!? 血のなせる業なのか!?」
 そうだとすれば色々と業の深い血筋である。
「ちょっ、ストーップ! ストーーーップ!!」
 これはまずい。やむを得ないと横島は二人の間に飛び込んだ。
「あばばばばばばばっ!?」
「横島さーん!?」
 そして霊気のスパークに巻き込まれた。
 煙を上げながらバタリと倒れる横島。その姿を見て、流石のアスナ達も正気に戻る。
「み、美神さん、俺達の目的は儀式を止める事っスよ……!」
 倒れながらも、横島は言葉を投げ掛ける。それにより令子は今度こそ冷静さを取り戻した。
 確かにそうだ。未来から来た娘である事と、部屋に入った途端に「挑発」された事で目がくらんでいた。
「横島君、文珠は出せるわね?」
「えっ? あ、はい」
「あんた達は横島君を部屋から出して治療してきなさい」
 令子は気を取り直して、正気に戻ったアスナ達に指示を出す。
「えっ、でも……」
 急に言われたアスナは戸惑った様子で令子と鈴音の顔を交互に見る。先程まで怖い顔をしていた令子に、鈴音が酷い目にあわされるかもしれないと心配した訳ではない。多分。
 令子とのにらみ合いが終わった鈴音はまたにこにこ顔になっている。彼女が手で行けと促してきたため、アスナは古菲と二人で横島を持ち上げ部屋の外に避難。シロとアーニャもそれに続いた。
 部屋に残ったのは令子と鈴音の二人。再び相対する形になるが、今度は霊気のスパークは発生しない。
 表情を見たところ、余裕があるのは鈴音。先に口を開いたのは令子の方だった。
「そういえば聞いてなかったわね」
「何かナ?」
「あんたがフェイトってヤツと手を組む理由よ」
 横島を運び出したとはいえ、アスナ達はすぐそばにいる。彼女達もこれは気になるようで、扉のところに集まって耳をそばだてている。文珠での治療中なのか横島の姿は無い。
「フム、協力できる余地があった……と言っておくネ」
 鈴音はそう言って笑い、令子は片眉をピクリと動かした。
 嘘を言っているようには見えないが、肝心の部分は何も話していない。
 今の回答から分かるのは、鈴音とフェイトの目的が完全に一致している訳ではないらしいという事ぐらいだ。
「じゃあ、儀式が成功すると何が起こるの?」
「アシュ様の計画ほど、大それた事ではないネ」
 「アシュ様」という呼び方にルシオラの影を感じる。
 ただ、アシュタロスの計画は、それこそ規模が大き過ぎて、比較対象としてはまったく役に立たない。
「そういえばさ、その言葉遣いってキャラ作ってるの?」
「元々はそうだったけど、今は半分以上素でやってるヨ」
 軽く雑談で話を聞き出そうと試みるも、鈴音は簡潔に答えるだけで乗ってはこない。令子の思惑などお見通しという事なのだろう。
 うふふふふふと、どちらもにこやかに会話をしているが、上手く話を聞き出せない令子は明らかに苛立っていた。
 こうして鈴音がおとなしく話をしているのは、儀式が発動するまでの時間稼ぎかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、令子は拳を固めて霊力を集中させる。
「選手交代ー!」
 これはまずいと横島が部屋に飛び込んだ。令子をなだめながら、鈴音との会話を引き継ぐ。
「次は俺から質問させてもらうぞ」
「パパとのお話なら大歓迎ネ」
 にこやかな表情は変わらないが、どこか雰囲気が柔らかくなった。
 部屋の外から覗き込んでいたアスナ、千雨、古菲、アーニャの四人には、そう感じられた。
 横島はチラリと部屋の外にいるアスナ達の方に視線を向け、改めて鈴音の方に向き直り、大事な質問を投げ掛ける。
「鈴音……儀式を止める訳にはいかないのか?」
「……それは、どういう事かナ?」
「さっきも言ったが、俺達の目的は儀式を止める事だ。鈴音と戦う事じゃない」
「なるほど、私と戦うのはあくまで手段の一つと言いたい訳だネ」
「必要無ければ選びたくない手段だな」
 鈴音がチラリと周りを見てみると、令子は先程までの事もあって不機嫌そうだったが否定はしていない。アスナ達の方は、むしろ肯定的で視線が合うとコクコクとうなずいている。
 そう、ネギとフェイトと違い、横島達と鈴音は必ず戦わなければならない訳ではないのだ。
 無論、鈴音次第では戦わねばならないのだが、横島達としてはそれは可能な限り避けたい。令子も怒ってはいるが、本音の部分ではそう考えているだろう。
 皆がかたずをのんで見守る中、鈴音は口を開いた。
「そうはいっても、私もこの儀式のために長い時間を掛けて準備してきたネ」
「だから止められない、か? それは金銭的な問題か?」
「さて、どうだろうネ」
 やはりのらりくらりとかわされている。横島達はそう感じた。
 鈴音は、核心部分を説明するつもりは無いし、横島達の問い掛けにハッキリと答えるつもりが無いようだ。
 このままでは戦いは避けられない。令子はそう感じた。
 同時に、戦いに突入させる事こそが彼女が目的ではないかとも考えた。
 だとすれば何を目的としているのか。もしや霊力を使わせる事が狙いなのか? だとすれば、その目的は何なのか? 様々な考えが浮かんでは消えていく。
 しかし相手が魔族の技術も使えるであろうルシオラの生まれ変わりと考えると、知識が足りない事もあって、どうしても狙いを絞り切る事ができない。
 対する鈴音は余裕しゃくしゃくの態度。悩む令子を見て笑みを浮かべている。
 こうなれば問答無用、一撃で意識を刈り取るべきか。素手では霊力を乗せても足りない。神通棍を使うべきか。いつしか令子の思考は、、そんな物騒な方向へと進み始めていた。
 再び一触即発の雰囲気を感じ取った横島は、握りこぶしの中に文珠を出して構える。
 鈴音も話はこれまでかと、腰の神通棍に手を掛けた。

「大丈夫です! 鈴音さんは、横島さんと話せて喜んでます!」

 その次の瞬間、部屋の外からここにいないはずの声が聞こえてきた。
 攻撃のタイミングを窺っていた令子と鈴音は突然の声にバランスを崩し、倒れるのはなんとかこらえて入口の方を見る。
 すると扉のところに並んでいたアスナ達が左右に動き、その後ろにいた人物が顔を見せた。
「本屋……!?」
 そう、そこにいたのは『本屋』こと宮崎のどか。ネギの『魔法使いの従者』であり、ここにはいないはずの少女だった。
 確かに、ここに来るまでの監視カメラは横島達に壊され、見る事ができない状態だった。
 とはいえ、こんな近くまで来ていれば気配で分かる。鈴音ならば察知できるはずだった。
「ふっふっふっ。甘いね〜、超りん……じゃなくて鈴りん」
 更にネギパーティのメンバーであるハルナとまき絵も現れた。そしてハルナは手に持ったそれを見せる。
「それは……!」
 彼女の手にあったのは『隠』の文字が発動している文珠。
「さっき治療していた時に!」
「せいか〜い、横島さんに借りたんだよ〜♪」
 能天気なまき絵の声。しかし、鈴音はそれどころではない。彼女の視線の先にいるのはのどか、正確にはその手にある本。
 それは彼女が持つアーティファクト『いどのえにっき』、名前を呼んでから開くと、その人物の心を読むことができるというものだ。
 その時鈴音の脳裏に浮かんだのは、地下に突入する前にネギと連絡を取っていた横島の姿。
「そうです! 私達はネギ先生から連絡を受けて、こちらに来ました!」
 ネギがのどか達を危険な戦場に連れて行く訳がないと考えていた。だからフェイトとの闘いの最中にのどか達の姿が見えなくても気にも留めなかった。『学園防衛魔法騎士団』の会場を手伝っているのだろうぐらいに考えていた。
 しかし、それは甘かった。横島からネギ、ネギからのどかというルートで連絡を回し、横島はのどか達をここに呼び寄せていたのだ。その目的は言うまでもない。鈴音の本心を読み取るためである。
 横島は分かっていたのだ。鈴音の性格的に、何を聞いても素直に答える訳がないと。だからこそ事前にのどかを呼び出していたのだ。ここまでの隠しカメラを破壊してきたのも鈴音に気付かれずにのどか達を潜入させるためである。
「のどかちゃん、鈴音は何か企んでる訳じゃないんだな?」
「はい! 今は悔しがってますけど、さっきまで大喜びでした!」
「すごかったよ〜♪」
「しっぽがあったらブンブン振ってたね、あれは!」
「ちょっ!? 三人ともストップ!!」
 慌てて三人を止める鈴音。その顔は真っ赤になっている。
 『いどのえにっき』は名前が分からないと使えないという弱点があるが、それを差し引いても非常に強力なアーティファクト。それが完全に決まったのだ。
 鈴音の顔にこれまでの余裕は無い。形勢は完全に逆転していた。





つづく


あとがき

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







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