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 横島が妙神山と麻帆良を行ったり来たりしている頃、東京の新横島邸でひとつの動きが起きていた。
 アスナ達ではない。彼女達はおとなしく夏休みの宿題を進めている。遊びにきた薫達が戸惑うほどの真面目さだ。

「おぬし、本気か……?」
「本気も本気、本気と書いてマジと読むネ。ほい、これがデータ」
 動きはここ、地下のDr.カオスの研究室で起きていた。
 ここは地下の半分以上のスペースを使っており、地脈発電機もある。マリアとテレサのメンテナンスや充電を行うのもこの部屋だ。
 鈴音の突拍子もない提案に、カオスは怪訝そうな表情を浮かべている。
 現在、マリアとテレサが衣服を脱ぎ、メンテナンス用のベッドに横たわっている。
 2人は金属製のワンピース水着を着ているような姿をしているが、実際に水着を着ている訳ではない。それが彼女達の裸体だ。
「茶々丸も元々は球体関節でロボロボしてたけど、今では見事なナイスバディネ!」
 そう、鈴音はマリアとテレサの改造計画を発動させようとしていた。
 彼女達が見た茶々丸は、耳のパーツが無ければ人間と区別がつかない姿をしていた。
 しかも彼女は入浴可能らしい。マリアとテレサも生活防水ぐらいはされているが、流石に入浴は無理だった。
 マリアは身体を起こし、テレサは飛び起きてカオスを見る。
 しかし彼は、鈴音が提供したデータを見るのに夢中で、その視線に気付いていない。
「2人もあのムチムチ感が欲しくないかナ?」
 そう言って迫る鈴音。ここでYesと答えてボディを改造する事になっても、カオスの様子を見るに反対する事は無さそうだ。
 顔を見合わせるテレサとマリア。決断は二人の姉妹に委ねられていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.205


「そうは言っても、私達はカオスが作ったのよ? 確かに茶々丸の方が見た目は自然だったかもしれないけど、それ以外の性能は姉さんの方が上じゃない?」
 自分が上とは言わないテレサ。今の自分の状態が分かっている。
 とはいえ、かくいう彼女も茶々丸に勝っている点がひとつある。それはボディの頑丈さだ。
 ボケても、かつては『ヨーロッパの魔王』と謳われたカオス。テレサのボディは現代の技術では再現不可能なもので、茶々丸以上の強度を誇る。
 そしてマリアはそれ以上だ。もし、ボディを茶々丸と同じものにしてしまったら、一気に弱体化してしまうだろう。
「確かにそう……同じものならネ」
「どういう事・ですか?」
 マリアが首を傾げて尋ねた。こちらも気になってはいるようだ。
「ていうか私、未来でマリアのデータを見てるからその辺は全部知ってるネ」
 結論から言ってしまうと、マリアのボディ素材は鈴音でも再現できない。全盛期の『ヨーロッパの魔王』恐るべしである。
「えっ? じゃあ茶々丸って姉さんのデータが元になってるの?」
「エヴァの人形のデータも混じってるけど、まぁ、親戚みたいなものネ。家族でもいいケド」
「では・妹で」
 マリアが即断した。
「じゃあ、それで」
 鈴音も即座に承認した。マリアの表情は変わっていないが、どこか満足気な雰囲気だった。
 それを見たテレサは、ある事が気になりおずおずと尋ねる。
「……え〜っと、茶々丸が生まれたのって」
「起動したのは一昨年の春ネ」
 正確には完成したのが一昨年の1月3日。起動したのが同年4月1日だ。
「うっ、私より早い……」
 そしてテレサが生まれたのは去年。つまりテレサから見れば、茶々丸は姉という事になる。

 それはさておき、鈴音もボディの強度の問題については把握していた。その上で改造を提案しているのだ。
「フッフッフッ、あのムチムチボディは上から被せる形で改造してるから、2人の本来のボディはそのままで改造できるネ」
 というのも鈴音は、強度自体は落とす事なく2人を改造する術を持っていたのだ。
 彼女が未来から来た横島達の娘である事を考えると、元々マリアにも応用できるようにする事を考えていたのかもしれない。
「要するに2人が判断すべきは、自分のボディをムチムチにしたいかどうかだけネ!」
「こいつが横島の娘って、今初めて納得できた気がするわ……」
「あ、衝撃吸収性能も格段に上がるヨ」
「それを先に言いなさいよ」
 しっかりしたメリットもある辺り流石である。
「……やります」
「姉さん!?」
 ここでマリアが即決。
「さぁ! さぁ!」
 残りのテレサに、キラキラした目で迫る鈴音。そのまま壁際まで追い詰められたテレサは、大きくため息をついて「性能が上がるなら……」と承諾の返事をするのだった。


 一方その頃、横島はヒャクメの転移で妙神山に戻ってきていた。
「ヨコシマーーーっ!!」
 真っ先に飛び込んできたのはパピリオ。
 既に月詠と小竜姫の戦いは始まっているらしく、いざという時の止め役としてメドーサを加えた三人は異空間の修業場に入っているそうだ。
「千草は?」
「ついて行きたがってたけど、危ないから流石に止めたでちゅ」
 流石に同じ異空間に入って巻き込まれてはひとたまりもないだろう。
 異空間につながる脱衣場にいるそうだ。あそこから中の異空間は見えないので、今頃月詠を心配して気を揉んでいるのではないだろうか。
 一人で放っておくのもなんなので、横島はパピリオを連れて千草に会いに行く事にした。
「というか、異空間の映像って別の場所で見れなかったか?」
「あれ、小竜姫の許可が無いと使えないでちゅ」
「猿神(ハヌマン)師匠に頼んでみたらどうだ?」
「その手があったでちゅ!」
 小脇に抱えられていたパピリオが勢いよく飛び出していく。それを見送った横島は、脱衣場に入った。
 中ではやはり千草がそわそわしていた。落ち着きなく歩き回っている。
「落ち着け、千草」
「え、あっ……戻ってきたんか。エヴァ達は?」
「レーベンスシュルト城の方が時間を上手く使えるから、麻帆良で解呪を進める事になった」
「ああ、時間掛かるならその方がええな」
「あの呪いに関しては学園側に責任があるからなぁ」
「罰与えんのはしゃーないんやろうけど、自分で解呪もできんようなもんはなぁ……」
「ヒャクメ滞在に掛かる費用は容赦なく請求するだろうなぁ」
「それくらいはかまへんやろ」
 話している内に千草も落ち着いてきたようだ。
 ここで猿神から許可をもらったパピリオが戻ってきて、三人は異空間内が見られるモニタールームに移動した。

「ここ、実は小竜姫は使えないでちゅ。機械が苦手だから」
 パピリオが、モニターを操作しながらそう言って笑う。
 普段この部屋を使っているのはヒャクメであり、パピリオ、メドーサ、猿神も操作自体はできる。小竜姫だけが使えないそうだ。
「最初に会った頃の小竜姫様、結構世間知らずだったんだよなぁ……」
「今も大して変わんないでちゅよ。留守録の予約も苦手だし」
「ぞ、俗っぽいなぁ……」
 この手の話に慣れていない千草は驚き呆れているが、横島の知る神魔族は、割とそういうところがあったりする。
 次々に切り替わる画面の中に、まるで地獄巡りのような光景が表示されていく。それを見て千草はまた不安そうな顔になっていくが、これはただの修業場の風景である。
 やがてその画面が殺風景な光景で止まる。パピリオが更に操作するとカメラが動いて画面に月詠達の姿が映った。
「……何やっとんねん」
 何故かそこに映っていたのは、向かい合う形で正座する小竜姫と月詠の姿だった。
 どうやら戦いは既に終わっていたようだ。周りは瓦礫だらけ。相当激しくやり合った事が窺える。
 月詠の服はボロボロになっているが、小竜姫の方は土埃の汚れ程度なので、勝ったのは小竜姫のようだ。おそらく圧勝である。
 見たところ、月詠は大した怪我はしていない。小竜姫が手加減してくれたのだろう。千草もそれに気付き、ほっと胸を撫で下ろしていた。
 声はハッキリとは聞き取れないが、どうやら小竜姫が月詠を説教しているようだ。最近おとなしくなっていたが、神剣の使い手である小竜姫を前にして、狂人としての彼女が顔を覗かせたのだろう。
 完敗したからか、月詠もおとなしく話を聞いているようだ。少し離れたところでメドーサが、呆れた顔をして2人を眺めている。
「これ、向こうに行っても大丈夫やろか?」
「行ったら巻き込まれるから放っておくでちゅ」
 それでも千草は危険が無いならばと行きたがったが、結局のところパピリオに扉をつないでもらわないといけないため諦めなければならなかった。
「こう言っちゃなんだが、千草って月詠に甘いところあるから、説教されてる間は行かない方がいいと思うぞ」
「親バカでちゅね」
「う゛……」
 横島に説得されたのもあって千草は納得。モニタに映る涙目の月詠の姿を心配そうに見つめていた。

 その後居間に移動して、パピリオと横島が暇つぶしにゲームを始めた。
 対戦回数が10回を過ぎたあたりで、もう大丈夫だろうと戻ってきたメドーサも参戦。
 ゲームソフトを3度ほど変えて遊び続け、そろそろ夕食の準備でもしようかというところでようやく説教が終わり、小竜姫と月詠が帰ってきた。
 説教がキツかったのか、月詠は涙目でトボトボと居間に入ってくる。
 パピリオ達がゲームをしている間も、ずっとそわそわして落ち着かなかった千草。月詠の姿を見て思わず立ち上がった。それに合わせて月詠も駆け出す。
「月詠!」
「旦那さまぁぁぁ!」
 両手を広げて受け止めようとした千草だったが、月詠はその横を通り抜け、横島の胸に飛び込んだ。
 そのまま固まる千草。「随分と懐かれてますねぇ……」とこめかみをひくつかせる小竜姫。そしてメドーサはこの光景を見て笑い転げていた。


 それから横島は、小竜姫に『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』の解呪は麻帆良で進めると伝えた。
 エヴァは解呪されない状態で夏休みを終えると麻帆良に戻らなければ呪いによってダメージを受ける事と、レーベンスシュルト城における時間の流れについて説明すると納得してくれたようだ。
 それはそれとしてヒャクメが何か問題を起こさないか心配していたが。
 夕食の準備はいつも通りの小竜姫、それに千草が手伝いを申し出た。
 その間月詠は、横島相手に神剣の使い手・小竜姫がいかに強かったを嬉しそうに語る。その姿はまるで今日学校であった楽しい事を、親に語って聞かせる子供のようだった。
 語っている内容が物騒なのは、ご愛敬である。
 しかし、話の内容が説教された話になってくると愚痴になってくる。やはり精神修行が足りないと言われたらしい。
「小竜姫は、いっつも口うるさいんでちゅ!」
 そういう話になってくるとパピリオも参加してきた。彼女もまた、いつも小竜姫にしごかれている立場である。
 メドーサはうんうんと頷いていたが、自重しているのか自ら愚痴をこぼす事は無かった。

 ちなみに台所は台所で小竜姫と千草が愚痴を言い合っていたりする。
 というのもこの二人にはある共通点がある。
 ご存知の通り、千草は月詠の保護者のようなポジションになっている。
 そして小竜姫はパピリオを預かる身であり、こちらもまた保護者ポジションだ。
 そう、この二人、実はどちらも母親的立場にあるのだ。しかも小竜姫はなんだかんだでパピリオの事を可愛がっており、親バカな面がある事も共通している。
 この二人、ある意味では「主婦友達」と言えるかもしれない。お互い「我が子」について愚痴っているが、その姿はどこか幸せそうだった。

 居間の方でも、子供達の愚痴は続いていた。
 横島は苦笑するばかりだったが、しっかりと話を聞いてみると、月詠はなんだかんだで小竜姫の説教を受け容れている様子だった。
 というのも小竜姫は、月詠が狂人たる所以の戦闘衝動そのものについては否定しなかったらしい。自分とは異なるタイプであるが、それもひとつの戦士の在り方であると。
 そして、それを制御する精神が弱いと言われてしまったそうだ。
「自分より遥かな高みにいるお方に言われてしもうたら、言い返す事もできへんかったわ」
 弱いと言われても反論できなかった月詠。
 先程の説教の間に言われた事らしいのだが、夏休みの間はここで精神修行を中心にみっちりとしごいてくれる事になったそうだ。
 つまらなそうやわと唇を尖らせる月詠だったが、他ならぬ小竜姫の提案という事で素直に受けるつもりになっているようだ。
「ご飯できたで〜。ほら、ちゃぶ台の上はよ片付け」
 そんな話をしている内に夕食の準備が終わり、千草達が居間に戻ってきた。今日の夕食は、小竜姫お得意のカレーライスだ。
 呼ばれた猿神もやってきて皆席に着く。月詠は横島と千草の間に座って、嬉しそうな笑顔を見せていた。





つづく


あとがき

 茶々丸の誕生日についてですが、連載開始の2003年2月の時点でアスナ達が2年生とし、茶々丸の起動日が2001年4月なので「一昨年の春に起動した」としています。
 テレサの方は、原作『GS美神』がサ○゛エさん時空なので、「テレサが生まれたのは去年」という事になっています。

 『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
 超鈴音・茶々丸に関する各種設定。
 魔法のに関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







感想代理人プロフィール

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代理人の感想 
GS美神原作も連載開始時は黒電話しかなかったのに、
後半は横島達が携帯電話使ったりしてたからなあw
原作がまだ続いてたら、しれっとスマホとか出てきたりしたんだろうなw

しかし・・・外装の外側にコーティングするだけでやわらかくなるとか、鈴音! 神か貴様!(ぉ


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