過去からの招待状 8


「ここが伝説の修行場、妙神山…」
 愛子とタマモを連れて修行場への入り口に立つかおり。
「なんか、イメージと違いますわね」
 周囲を見回してみるが、どう見ても一昔前の銭湯の脱衣場。
 なかなかに情緒ある風景ではあるが、「伝説の修行場」と言う言葉の持つイメージと結びつける事ができない。
「こんな所で本当に強くなれるのかしら?」
「横島君はここで修行して帰ってきたら、随分と強くなってたわよ?」
「………」
 かおりは横島との出会いを思い出す。
 校舎の屋上でトランペットを吹きながら登場してた男、直後令子に殴り倒され…もとい、落とされていた。第一印象はお世辞にも良いとは言えない。
「…でも、世界を救ったのよね」
 あの世界中を震撼させた戦いに関して、かおりはほとんど知らない。何故なら彼女はパピリオにより霊力中枢そのものにダメージを受けて入院し。何とか体を動かせるようになり、退院した時には全てが終わっていたのだ。
 ちなみに、かおりと一緒に入院していた雪之丞は一週間も経たないうちに退院し、ダチを助けに行ってくると言い残して姿を消してしまった。同じ攻撃を受けたはずなのだが、鍛え方の差なのだろうか?

 かおりが退院する一週間前に魔理が見舞いに訪れたのだが、その時彼女の左腕はギブスで固め、頬に大きな絆創膏を張っていた。退院目前のかおりと比べて、どちらが入院患者かわからない有様だ。
 魔理から話を聞いてみると、世界中で突如巻き起こった妖怪、魔族の大量発生に巻き込まれ、家族を守るために負傷したとの事だ。
 かおりもその事件の事は知っていたが、その時はまだ体を動かす事ができずに闘竜寺の門下生達が病院を守るために戦っているのを横目に見ながら、戦う事のできぬ自分の不甲斐なさに握り締めた拳を震わせる事しかできなかった。

 その時に魔理からおキヌが塞ぎ込んでいると聞かされ、退院後すぐに雪之丞にあの時何があったのかと問い詰めたが、彼は決して何も語ろうとはしなかった。むしろ、その隠された一件には一切触れるなと忠告してきたのだ。
 そんな風に言われて、はいそうですかと引き下がるかおりではない。
 おキヌが塞ぎ込む原因はあの男しかいないだろうと、雪之丞の制止を振り切って横島の自宅に乗り込んだのだが、その時横島は既に行方をくらましていたのだ。

 後日、徐々にだが元気を取り戻したおキヌから横島は妙神山で長期の修行をしていると聞いた。しかし、正直かおりには横島という男が伝説の修行場で修行できるような男には見えず、逃げ出したのでは? と疑っていた。
 無論、本人の前ではおくびにも出さなかったが。



 しかし、先日かおりは自分の認識が甘かった事を思い知らされた。
 初めて横島に会った時、かおりは何故こんな男が業界トップの令子の元にいるのかという疑問しか浮かばなかった。
 その後、人類唯一の文珠使いだと聞いても珍獣程度の認識しか持たず、雪之丞が俺のダチといつも自慢気に話すのを聞いても全く信じてはいなかった。やはり最初の印象が悪すぎたのだろう。
 個人事務所としては最年少で独立した時も、実は世界を救ったのは彼だと聞かされた時も、かおりは横島の事を甘く見ていたと言わざるを得ない。
 クラス対抗戦の代わりに横島と戦う事になって、代表選手を集めて対策を練ろうとしたが、あれも「令子と互角」の横島を警戒したのであって、心のどこかでは大した事はないと考えていた事も否定できない。
 六道女学院は基本的に卒業するまでGS資格試験を受ける事ができないため、自分も彼と同じ除霊助手と言う立場なら負けはしない。すぐに追いつけると考えていたのだ。

 だが、かおりを待っていたのは惨敗という事実。一年生代表十二人に対してたった一人の横島は圧倒的な力を以って勝利してしまった。

 今まで道化の仮面を被っていたのか?
 妙神山の修行でそこまで強くなったのか?
 それとも別の何かがあったのか?

 かおりにはそれを知る術がなかったのだが、一つはっきりと言える事は横島に対する認識を改めなければならないという事だ。

 そうやって考え事をしていると、横島が運び込まれた奥の方から爆音が聞こえてきた。
 すぐさま反応したタマモが駆け出し、かおりと愛子もそれに続く。
「ったく! あいつら横島に何したのよ!」
「横島君、爆発しちゃったの!?」
「んな訳ないでしょッ!」
 そう言いつつも、否定しきれないタマモは冷や汗を流すのだった。

 三人が廊下の角を曲がると、パピリオが前屈みで咳き込んでいた。
 横島のいる部屋まではあと数メートルという位置だが、周囲の壁、床、天井、いたる所が煤だらけになっている。それでも、汚れているだけで壊れてはいない事から察するに建物自体に何かしらの護りが施されているのだろう。

「一体何があったの?」
「ケホッケホッ、丁度良かったでちゅ。横島が目を覚ましたから呼びに行こうとしてたとこでちゅよ」
「…大丈夫なんでしょうね?」
 タマモが訝し気に問う。彼女が気にしている事は言うまでもなく横島の腕の事だ。それを察したパピリオは神妙な面持ちで頷いた。

 その時、パピリオの背後から横島が姿を見せた。所々に包帯を巻いている。
「おー、お前等大丈夫だったか?」
「「「それはこっちの台詞だぁーーーッ!!」」」
 やたらと能天気な横島に三人の心が一つとなったのは言うまでもない。





 横島の寝ていた部屋は煤で汚れ使えぬ状態のため、横島を妙神山に運んできた魔族の男以外は居間に集まった。
 魔族の男だけは居間から見える庭石の上に座り、こちらに背を向けている。神族と馴れ合う気はないと言う事だろう。

「いやぁ、ご心配おかけしました」
「まったくですよ。あまり無茶しないで下さい」
 小竜姫は悪びれない横島に唇を尖らせるが、今回横島が倒れた理由は山を襲う魔族ベルゼブルから山の者達を守るためだ。同じ様な事があれば、きっと彼は今回と同じ様に自分の身も省みずに戦うだろう。その事は彼女も重々承知している。
「今回の様な手段はあくまで特例です。次も上から許可が降りるとは限りませんよ?」
「わかってるって」
 きっとわかっていない。ジークはそう感じたがあえてその事は指摘せず、溜め息をつくだけに止めておいた。

「それにしても、あんた程の立場の奴を横島一人のために派遣するなんて奮発したもんだねぇ」
 表面上友好的に話しかけるメドーサ。しかし、その目は裏の事情を白状しろと如実に語っている。
 ジークもメドーサの真意に気付いていたが、ここで変な誤解を受けてデタントの流れを乱す訳にもいかないので、素直に許可されている範囲で話す事にする。
「今回の場合は、あのお方が横島さんを助けるようにと魔界の最高指導者に申請したため、私が派遣されたのですよ」
「…あのお方?」
 魔界にいる知り合いで、かつジークが『あのお方』と呼ぶ相手に心当たりの無い横島はオウム返しにジークに問い返した。
 対するジークはお茶を啜りながら事もなげに答える。

「《蝿の王》ベルゼブル様です」

「何いいぃぃぃぃッ!?」
 横島は思わず大声をあげて立ち上がってしまう。それも当然の事だ、ベルゼブルはつい先程倒してきたばかりなのだから。
「横島さんの考えているベルゼブル様はベルゼブルクローンの事ではありませんか?」
「いや、そいつを倒したら他のクローンも消えたし…」
「それはオリジナル・クローンです」
「…はぁ?」
 呆気にとられた横島をよそにジークは説明を続ける。
「そもそも、真の《蝿の王》様は有史以来魔界から出た事などないのですよ。あの方は自意識を持った自分のクローンを生み出す事ができ、それを人間界に放っているのです」
「つまり、あのベルゼブルは…」
「はい、オリジナル・クローンです。それを倒して消えたクローンは、それが産み出した分身なのでしょう。そういう能力を持っているそうですから」
 ジークの言葉が正しければ、人間界はおろか神界における今までのベルゼブルに関する情報は根本的に間違っていたという事だ。


 実は魔界においてもベルゼブルの正体についてはあまり知られていない。ジークも三界連絡員になるまで知らなかった事だ。
 真の《蝿の王》は魔界において『サっちゃん』の影に隠れて一般には知られていないが、その正体は最高指導者に次ぐ第二位の実力者であり、数多くの悪魔を従える最上位の魔王だったりする。
 それだけの実力者にも関わらず、表舞台に出ずにその正体を隠しているのはひとえにその力の強大さ故の事だ。そう、力が強すぎて世界に与える影響が大きいため表舞台に出て来れないのだ。
 とは言え、ただ魔界の奥地でじっとしているだけでは暇なので、さほど力を持たぬオリジナル・クローンを人間界に送り込む事を趣味としている。それは魔族として下級程度の力しか持たぬため、人間界で何をしようとも今まで黙認されていた。

 どちらかと言えば反デタント側の思想を持つが、立場上それを表明すれば魔界を二分する争いに成りかねないため、それを表に出す事はない。
 アシュタロスに協力していたのも、自意識を持つオリジナル・クローンが勝手にやった事で、真の《蝿の王》はそれをめんどくさいと言う理由で放置していただけだったりする。


「『不滅の双翅目』等と呼ばれたりもしていますが、本当は死なない訳でも、生き返る訳でもなく、ただ単にオリジナル・クローンが倒されたら新しいのが現れるだけなんですよ」
「て事はまた現れるのか? 俺、あいつに恨まれてるんだけど」
「いえ、新たなオリジナル・クローンが現れる事はあるかも知れませんが、それは横島さん個人を恨んでなどいないでしょう。その憎しみはあくまで前のそれの感情ですから」
 真の《蝿の王》から見れば、あのオリジナル・クローンはコスモプロセッサで復活した際にその支配から逃れてしまった裏切り者で、それを始末してくれた横島には恨むどころかむしろ感謝しているらしい。横島を救うために最高指導者にかけあったのが感謝の気持ちの表れであろう。
 その言葉に安心して、横島は腰を下ろした。



「すぐに他の魔族が動く事はおそらくないでしょう。今はこの妙神山でゆっくりと養生して下さい」
「養生するなら自分の家の方が落ち着けるでしょ? さっさと帰りましょうよ」
 横島の両脇に陣取って火花を散らす竜と狐。その様を見つめる愛子とメドーサは呆れ、ヒャクメとパピリオは楽しそうに目を輝かせ、そしてかおりは信じられない物を見る様に目を丸くしていた。
「…私は仕事がありますので、これにておいとまさせて頂きます」
 ジークはその騒ぎに付き合う気はないらしく、湯呑みを置いて立ち上がった。そのまま部屋を出て、庭石の上の魔族の男に近付く。


「むむ、其の方は魔界正規軍の士官であるな」
「その通りだ。三界連絡員ジーク・フリードがサラマンドラの眷属に《光を避ける者》の御言葉を伝える!」
 その言葉にサラマンドラの眷属と呼ばれた男は慌てて庭石から降りて平伏した。
 《光を避ける者》とは『ルー坊』こと地獄の宰相ルキフゲ・ロフォカレを指す言葉。つまり、真の《蝿の王》の様な表舞台に姿を現さない者を除けば、魔界において『サっちゃん』に次ぐ第二位の者直々の言葉と言う事だ。
「《光を避ける者》の御言葉である。汝に魔界正規軍への復隊を命ずる!」
「我を…何故に」
 思わず顔を上げる魔族。アシュタロスの配下であった魔族の大半はデタントの流れに取り残され正規軍を追い出された者であり、この男もそんな魔族の一人だった。急に復隊を命じられても信じられる物ではない。
「横島に協力し、《蝿の王》を裏切りしオリジナル・クローンを屠った事が評価されたのだ。至急魔界に帰還し、復隊の手続きを行う。準備は良いな?」
「…感無量なり」
 ジークが魔界へのゲートへ手をかざすと、ゲートが大きく広がり魔族の男が通れるだけの広さになる。
「横島よ…我、感謝するなり」
 そう言って魔族の男はゲートの向こうに消え、続いてジークもゲートを潜るとそれは何事もなかったかの様に元の大きさに戻った。



「…で、結局どうなったんだ?」
 状況の理解できない横島達がヒャクメに問いかけた。
「アシュタロスがいなくなって神魔のバランスが神側に傾いたのねー。だから魔界は魔の勢いを取り戻すために旧アシュタロス陣営を取り込もうと必死なのねー」
 神界もあえて人間界に駐留する神族を引き上げさせて一時的に神の勢力を衰えさせようと言う意見もあるが、そこまでする必要はないと反対が根強いため実現には至っていない。

 そもそも、神魔の勢力争いと言うのは神魔混合属性の人間界をどちらかの属性に傾かせる事を目的とした物だ。
 世界を天秤に例えた場合、神魔混合属性と言うのは神の皿と魔の皿が釣り合った状態の事を指す。世界に神属性の者が増えれば天秤は神の皿の方に傾き、魔属性の者が増えればその逆となり、天秤にかかる重さはその者の強さに準ずる。
 しかし、異界より来た神魔族よりも人間界で生まれた土着の者の方が世界に与える影響ははるかに大きく、古来より神魔族はあの手この手を使って数も多く、人間界に最も大きな影響力を持つ種族、人間を自分達の勢力に傾けようとしてきたのだ。

 宗教、魔術に始まり、魔装術等神魔族の力を借りる物は全てこの勢力争いの産物だ。
 現在、人間界におけるオカルト関連の術、道具で神魔混合属性の物と言えば人間の霊力の可能性を突き詰めた仙術、陰陽術、後は精霊石ぐらいしかない。

 意外な所では日本の八百万の神々は精霊や妖怪としての側面を持ち、実は神魔混合属性だったりする。
 この様な土着の神と呼ばれる者達はかつて世界中に存在していたのだが、神族が人間界に宗教を広めた際にその大半が堕天させられ魔属性となり、魔界に追いやられてしまったのだ。ジーク・フリートがこれにあたる。
 それに対し、八百万の神々は日本特有のシャーマニズムを元とするアニミズム(精霊崇拝)により仏教が伝来した後も神魔混合属性であり続けていた。


「うぅ…もしかして我が家に伝わる弓式除霊術も、神魔の勢力争いの産物?」
「そのあたりは気にする事ないでちゅよ。そこのおばちゃんの仕出かした事に比べればよっぽどましなケースでちゅ」
「誰がおばちゃんだ!」
 フォローはするが、否定はしないパピリオ。メドーサは自分の事を言われている自覚があったようだ。
 確かに彼女の行った人間への魔装術の伝授、魔鳥ガルーダの霊組織の譲渡。どちらもこの世界を魔属性に傾ける物だ。

 ちなみに、今のメドーサの外見はせいぜい中学生程度。小竜姫やヒャクメはおろか愛子、かおりの二人よりも若い。


「神魔混合属性の人間界は神界、魔界両方の影響を受けながら、どちらとも違う多様な進化を遂げているのねー。そんな人間界をそのままのまま見守るってのが当初のデタントの目的なのねー」
 今は神、魔族が力を抑え込まれながらも共存できる世界としても注目されている。
 デタントの最終目標と言うのは今も模索され続けているのだ。

「横島さん、神、魔族に名前売れてきたんだからこれぐらい知っとくべきなのねー」
「…無茶言うなや」



「それで、どうするの? 泊まってく? 帰る?」
「うーん…ゆっくりと休みたい所だけど、いつ依頼が来るかわからんからなー。やっぱり早く帰った方がいいだろ」
「そう、ですか…仕事なら仕方ありませんね。せめて鬼門に送らせましょう」
 勝ち誇った笑みを浮かべるタマモに拳を震わせる小竜姫だったが、なんとか平静を保ち鬼門達にテレポートで横島達を家まで送らせた。
 その後、事の次第を猿神に報告しに行ったところ、ゲーム猿になっている猿を発見し、横島が大変だったのに何をしているのかと無慈悲にもリセットボタンを押す小竜姫であった。





「あ、おかえりー」
「ぽー」
 テレポートで庭に現れた横島達を庭掃除していたテレサとハニワ兵が出迎えた。

「げっ、もうこんな時間か」
 いつもなら縁側にたむろしている六道の生徒達の姿が見えない。それもそのはず、空を見上げれば既に月が輝いている。
「あー、門限破りさせちゃったかな?」
「いえ、事情が事情ですし…それに妙神山をこの目で見れて有意義な時間を過ごせましたわ」
 笑顔で答えるかおりの言葉は、正直横島には有難かった。
 何せかおりは日本有数の除霊の名門弓家の娘。直接会った事はないが、厳格な父親像が容易に想像できる。
 門限破りなどさせて、よくも娘を等と言われたら色々な意味で怖い。
「夜も遅いし、駅まで送っていくよ」
「そうですわね…それじゃ、お願いしようかしら?」
 横島の申し出にしばし考えた後、かおりはぺこりと頭を下げた。



「…私は何をしているのかしら?」
 横島の三歩後ろを歩きながらぽつりと呟くかおり。
 横島忠夫と言う男に興味があったのは確かだ。いつも我が事の様に彼の事を自慢していた雪之丞の言葉も今なら信じられる。

「そう言えば、雪之丞はどうしたのかしら?」
「…あ、そういや忘れてた」
 何とも薄っぺらい友情だ。
 意識を失い、妙神山に運ばれたため、雪之丞の事を気にかける余裕がなかったのも確かだが。
「俺等が妙神山に行った事は山の人達から聞いてるだろうし…」
「だ、大丈夫ですわよね?」
 あの時感じた不思議な感覚についてはあえて無視する二人。
 彼が覆面の快傑と出会い、新たな道に目覚めた事を彼等は知らない。

「ま、まぁ…報告のために戻ってくるだろうし、その時に俺の事も伝えといてくれよ」
「わかりましたわ」
 そう言いつつ冷や汗を流す二人。どうにも嫌な予感を拭い去る事ができない。
 無言のまま駅に辿り着き、互いに別れを告げようと横島の方に向き直ったが、
「よう、横島に弓じゃないか」
「「!?」」
 直後、背後からかけられた聞き覚えのある声に驚いて振り返った。

「「雪之丞!」」
 そう、そこに立っていたのは雪之丞。たった今改札から抜けて来た所らしく、旅行鞄を担いでいる。
「妙神山に運ばれたって聞いていたが、もう戻ってきている所を見ると大した事はなかったようだな」
「おかげさまで何とかな。ところでお前の方は大丈夫だったか?」
 横島の言う「大丈夫」には様々な意味が込められている。

「フッ…心配するな横島」
 そう返事をする雪之丞だが、逆に横島達の不安はどんどん募っていく。
 二人にはわかる。一見、何事もなさそうに見える雪之丞がどこか明後日の方向を見つめている事を。


「俺は怪我をするどころか、むしろ新しい力に目覚めて来たぜ」
「は?」
 疑問符を浮かべる横島を置き去りにして旅行鞄を下ろし、雪之丞はトレードマークの帽子とコートを脱ぎ捨てた。
 そして、どこかで見た様なポーズを取ると、周囲の道行く人々の注目を集めている事を気にも留めずに高らかとこう叫んだ。

「変身ッ!」

 いつもの様に発動する魔装術。特殊な姿に変わっている様な事はなく、いつも通りの姿だ。
「それが、新たな力…?」
 ぽつりと呟く横島の疑問をさらりと流して、雪之丞は更にハイテンションになって続ける。



「戦場を駆ける黒い閃光! 敵か味かげぶぅっ!?」



 とりあえず、二人がかりでタコ殴りにしました。周囲の視線が痛かったので。

「横島さん! それじゃ、ここまで送っていただいて有難うございました!」
「うん、それじゃ気をつけて!」
 やけに勢い良く別れの挨拶を済ませると、二人は動かなくなったダテ・ザ・キラーを放置したままそれぞれ帰路につく。次に目覚めれば、きっといつもの雪之丞に戻ってくれると信じて…














 後日談。
 結局、元には戻りませんでした。




おわる?



あとがき
 妙神山に関する各種設定。
 魔界正規軍に関する各種設定。
 ベルゼブルに関する各種設定。
 弓かおり、一文字魔理のアシュタロス戦時の行動。
 ジークフリードが出世している。
 ダテ・ザ・キラー覚醒。
 これらは『黒い手』シリーズ独自の設定です。ご了承ください。


 

代理人の感想

ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ(爆笑)。と、ゆー訳で今回は、
「黒き閃光! 覚醒ダテ・ザ・キラー!」の巻でした。

(え? 違う?)

それにしてもマスク・ザ・ジャスティスとダテ・ザ・キラーはともかくとして、オカルトGメンってあんなのばっかりですか。「皆の正義を僕の剣に!」とかみんなノリノリなんですが。いやぁ、上層部はともかくいい組織だ。(笑)

一応ケイ少年の成長話とか、人間と妖怪の共存とか、横島の魔族化とか重いテーマもあるんですが、そういった方面の話が完全に霞んでるのはさすが別人28号さんです。なんと言ってもあの二人の活躍が濃すぎ、素晴らしすぎる! いや褒めてますけど一応(爆)。

それはそれとして次回はどうなりますかね? これまでの展開からしてコスモプロセッサ復活組・・・犬飼ポチとか、ハーピーとか、死津喪比女とか・・・他にまだ出て来てないのはいたかな? まぁ、とにかくそこらへんが中心になりそうな。個人的にはおまぬけテレサの下働き日記とか読んで見たい気もするのですがw