亜空間を抜け、通常空間に出現する逆天号。堕天した『天智昇』までもう少し距離があるが、逆天号の射程距離、スピードを考えればこの辺りが頃合いだ。
そして、逆天号にエネルギーを送り込むカプセルの中で目を開いた横島は、目の前に開いたウィンドウに映る光景に絶句した。
「な……なんじゃありゃ……」
究極の魔体は異質ではあったが、まだ人体に近い人間に理解出来るフォルムをしていた。しかし、今艦橋から見えるモノが何なのか、彼には理解する事が出来ない。
一言で言えば肉塊。南極海にそびえ立つ巨大な肉の柱だ。その巨体の割にはシンプル過ぎるフォルムで、見ていると距離感がおかしくなってしまいそうだ。逆天号の艦橋からは見えないが、その表面は常に脈打ち、蠢いている。
「え、え〜っと……」
「安心なさい、横島。魔界でもアレは異質よ。多分、天界でもね」
横島が不安気に口元を押さえると、その心境を察したのか勘九朗が声を掛けてきた。カプセルの中の様子は、艦橋からも見えているようだ。そして、元人間である彼女には、彼の気持ちがよく理解出来たのだろう。その頬を一筋の汗が伝っている。
むしろ、横島と同じ人間である魔鈴の方が、平然としていた。彼女は意外と趣味が悪い一面を持っているので、耐性があるのかも知れない。
他の魔族の面々も、感想は横島達と似たようなものであった。見たくもないと言うのが正直なところのようだ。
しかし、目を背ける訳にもいかない。その肉塊こそが『天智昇』の成れの果て。これから戦う相手なのだから。
「パピリオ! ワルキューレ! 奴の分析を!」
「弱点を探すんでちゅね!」
「任せろ!」
パピリオ達は、通常空間に出ると同時に『天智昇』の分析を始める。逆天号本体の解析能力を駆使したおかげで、『偵察鬼』のみでは分からなかった情報が次々とモニタに映し出されていくのだが、それを見ていた面々の顔色は、どんどん青くなっていった。
逆天号で分析した結果、堕天した『天智昇』の巨大な肉体には莫大なエネルギーが溜め込まれている事が判明した。そして、残念ながら弱点らしきものは発見出来なかった。
だが、倒せない訳ではない。むしろ、簡単に倒せる事が判明した。
あの巨体でも支えきれない程の膨大なエネルギーは今にも内側から溢れ出そうとしており、断末魔砲を一発撃ち込み衝撃を与えれば『天智昇』はそのまま弾け飛んでしまうだろう。
「……それ、不味いじゃん」
「不味いですよねぇ……」
ハーピーと魔鈴が顔を見合わせて溜め息をついた。
『天智昇』を倒せるのは良い。元よりそれが目的なのだから。しかし、あの巨体が弾け飛ぶのは不味い。様々な悪影響が考えられる。
ちょっとの衝撃で弾け飛んでしまう、膨大なエネルギーを抱えた巨体。今の『天智昇』は、言わば巨大な爆弾のようなものだ。
「……確か、南極大陸の氷って、なくなると不味いんだよな?」
「大規模にやると、不味いでしょうね」
「それより、海の上で爆発なんて起こしたら、津波が起きるんじゃない?」
「いや、それ以前にあのサイズの爆弾が爆発したら、地球の一部が消し飛ぶんじゃないか?」
何にせよ、ろくな事にはならないだろう。何より断末魔砲を撃つ逆天号にも悪影響は免れない。爆発に巻き込まれる可能性は大いにあった。かと言って、どこかに運ぶのもあのサイズでは難しそうだ。
「ど、どうする……?」
「いや、どうするって言われても……」
顔を見合わせて頭を捻るベスパ達。しかし、『天智昇』は悠長に考える時間を与えてはくれなかった。
注意を促すブザーが艦橋に響き、魔鈴が計器を見て『天智昇』の変化に気付く。
「目標にエネルギー反応! 熱線来ますッ!」
「クッ……回避ーーーッ!」
慌てて逆天号を上昇させ、極太の熱線を回避する。しかし、『天智昇』は目標が健在である事を察知したのか、次々に熱線を放ってきた。
「よ、避け続けろ! 食らえば一溜まりもないぞ!」
「あ、亜空間に逃げるじゃん!」
「そんな事しても、何の解決にもならないでちゅよっ!」
ハーピーは、亜空間への潜行を進言するが、それでは事態の解決にはならない。仮に潜行したとしても、『天智昇』を倒すためには、もう一度通常空間に出なければならない。そこを狙われる可能性も考えられる。
また、水中に隠れると言う手段も使えない。『天智昇』の放つ熱線は海水の層など軽く突破し、そのまま地球を貫いてしまいそうだ。究極の魔体にも出来た事だ。今の『天智昇』に出来ないはずがない。
そのため、逆天号は上空へ、上空へと逃れていった。どこに向けても撃たせた時点で問題がありそうな気もするが、地球に向けて撃たせるよりかはマシだと言う判断である。
この状況は、カプセルの中の横島とルシオラにも伝わっていた。
「ル、ルシオラ! これ不味くないか!?」
『確かに不味いわね……』
傍目には横島が独り言を呟いているようにも見えるが、横島は自分の中にいるルシオラと会話しているのだ。
『何とか、他に被害を出さない方法であいつを倒さないと……』
そう言ってルシオラは、横島の中でいかに周囲に被害を与えずに『天智昇』を爆発させるかを考え始める。結界で包み、爆発のエネルギーを上へと受け流すべきか。いくつかの方法を考え、それを実現するために必要な準備を考える。
しかし、どれも入念な準備が必要なものばかりであった。やはり、一旦亜空間に潜行して退くべきか。しかし、通常空間に戻り、別の場所で準備を進めたところで、どうやってアレを誘き寄せれば良いのだろうか。まともな知能を持っていないために、誘導するのも難しそうだ。
「……ラ! ルシオラ!」
『えっ? な、何?』
考え事に没頭していたルシオラは、横島の自分を呼ぶ声にハッと我に返る。
「なぁ、俺も考えてみたんだが……こう言う方法は出来ないか?」
ルシオラと同じく、横島も『天智昇』を倒す方法を考えていたようだ。自分の思い付いた方法をルシオラに話す。
「………!」
彼の語る方法は、ルシオラにとって盲点とも言えるものであった。確かにその方法ならば周囲に被害を与える事はない。問題があるとすれば、逆天号が危険に晒される事ぐらいだが、それは『天智昇』と戦う事を選んだ時点で今更の話である。
横島は、すぐにそれをベスパ達に伝えた。ベスパ達は『天智昇』の猛攻を凌ぎつつ、震動に耐えながらその話を聞き――そして、絶句した。この間、横島の話に耳を傾けず、回避行動に専念してくれた勘九朗とハーピーに感謝せねばなるまい。
横島の話を聞き終わり、ベスパ、パピリオ、ワルキューレ、魔鈴の四人は顔を見合わせ頷き合った。
横島とルシオラが同期連携合体をしていられる時間にも限界がある。迷っている暇は無い。
「よし、にいさんの考えた作戦で行くぞ!」
「分かったでちゅっ!」
「異存はない。現状では、それ以上の作戦はないだろう」
「私も賛成です。と言うか、それしかないでしょう」
四人の意志は固まった。その直後、回避行動に専念していた勘九朗とハーピーが、視線は前に向けたまま悲鳴のような声を上げる。
「作戦は決まったの? それじゃ、何をすればいいのか教えてちょうだい!」
「て言うか、避け続けるにも限界があるじゃん!」
「ああ、分かった。それじゃ……このまま突っ込むぞ!」
「了解! ……って、ええっ!?」
その指示は流石に予想外だったらしく、勘九朗は目を丸くして艦長席のベスパの方へと振り返る。
「前っ! 前でちゅよっ!」
「ハッ!」
その間も休む事なく『天智昇』の攻撃は続く。勘九朗はパピリオの声でそれに気付き、慌てて回避行動を取った。熱線が逆天号のすぐ下を掠め、逆天号全体がグラグラと揺れる。
「た、確かに迷ってる暇はなさそうね。行くわよっ!」
「あーもう! こうなったら、やぶれかぶれじゃん!」
勘九朗とハーピーも、迷ってる時間など無い事に気付いた。やるしかないのだ。
この手の兵鬼の操縦に関しては、勘九朗よりもキャリアが長いワルキューレ。操舵を彼女に交代し、逆天号は勢いよく『天智昇』に向けて突き進んでいく。それなりに距離があるが、逆天号ならば数十秒で肉薄出来る距離だ。
当然、『天智昇』も迎撃してくるが、ワルキューレは巧みな操舵でそれを回避。『天智昇』の間近まで迫り、そのまま全身から放たれる熱線を避けつつ、旋回を始める。
「今だ、パピリオ!」
「はいでちゅ! 亜空間潜行開始ッ!」
ベスパの指示でパピリオが異空間潜行装置のスイッチを入れると、周囲の空間が歪み、亜空間への道が開いた。すぐに逆天号が潜り抜けられるだけの道が開くが、それでも逆天号は通常空間に留まり続け、更に道は広がっていく。
当然、ゲートは『天智昇』にも影響を及ぼし、みるみる内に広がっていくゲートは、やがて『天智昇』の巨体を飲み込む大きさまで広がった。
「よし、このまま飲み込んでやれ!」
亜空間への道が『天智昇』の巨体よりも大きくなった事を確認すると、ベスパは亜空間への潜行を中断し、その場から離脱する。当然、広がった亜空間への道がそのまま何事もなく消滅するはずもなく、閉ざされていく空間が、『天智昇』を亜空間へと飲み込もうとしていた。
「ゲート、間もなく閉じます!」
「よしっ! にいさん! 姉さん!」
「任せろ!」
通信で横島の声がする。ルシオラの声は小さくて聞き取れなかったが、彼女も同じ様な事を言っているか、或いは彼を励ましているのだろう。
『行くわよ、ヨコシマっ!』
「ああ、行くぞ!」
「「断末魔砲、発射ッ!!」」
『天智昇』の周囲から離脱した逆天号は、少し離れた所で急旋回し、砲口を『天智昇』へと向ける。
そして、亜空間へのゲートが『天智昇』を飲み込み、閉じられようとする瞬間、逆天号から放たれた断末魔砲が亜空間へと飲み込まれるように消えて行った。
「……………」
「……………」
「……………」
固唾を呑んで見守る一同。
完全にゲートが閉じ、何もなくなってしまった空間。
ややあって、空間を越え爆発の衝撃が伝わってきた。亜空間で『天智昇』が爆発したのだ。空気がビリビリと音を立てて震え、逆天号の艦橋もガクガクと揺れる。ベスパ達は咄嗟に計器や椅子にしがみ付いた。
眼下を見てみれば、『天智昇』と一緒に海水も飲み込まれてしまったようで、海面にポッカリと開いた穴を埋めるべく、轟音を立てて海水が流れ込み渦巻いている。こちらの世界で『天智昇』を爆発させた時の被害を考えればささやかなものであろう。
「やった……のか?」
ベスパが顔を上げて、呆然とした様子で呟く。その声を皮切りにパピリオ達も顔を上げて、辺りをキョロキョロと見回した。
しばらく待ってみても『天智昇』が亜空間から出てくる様子はない。先程の断末魔砲の一撃で、空間を隔てた向こう側で爆発してしまったのだろう。元より残り滓のような存在だったのだ。そのエネルギーが全て爆発してしまえば、後は消滅するだけである。
「は、はは……やったじゃん!」
「私達の勝ちでちゅっ!」
「ふぅーっ、流石に疲れたな」
ハーピーが喜び、パピリオも一緒になってぴょんぴょん飛び跳ねている脇で、ワルキューレが緊張の糸が切れたのか、へたり込むように床に腰を下ろした。熱線を避けながらの旋回。亜空間へのゲートを開いてからの急速離脱と、断末魔砲を撃ち込むための急旋回。彼女がいてこその勝利であった。
「お疲れ様です。お茶をどうぞ」
声を掛けられたワルキューレが顔を上げると、そこには水筒を手にした魔鈴の姿があった。差し出すコップには紅茶が注がれている。
おそらく魔鈴は、勝った後の事を考えて事前に用意していたのだろう。
「……いただこう」
小さく笑みを浮かべたワルキューレは、コップを受け取り熱さを確かめながら一口飲む。鼻腔をくすぐる芳香とまろやかな味わいが、集中力を使い果たし、疲れ切った身体に染み渡っていく。
「あ、私も欲しいでちゅ!」
「私も欲しいじゃん!」
「はい、お茶菓子もたくさん用意していますよ」
皆に余裕と笑顔が戻って来た。艦長席に身を沈めたベスパ。ようやく勝利したのだと言う実感がふつふつと湧いてきたのか、安堵を溜め息をもらしていた。
そんな中、勘九朗がある事に気付いてポツリと呟く。
「あら? そう言えば、ルシオラと横島は無事なの?」
「「「「「あ」」」」」
慌ててベスパ達が艦長席の背後にあるカプセルの扉を開いてみると、中には目を回した横島とルシオラの二人が、寄り添うように入っていた。
『天智昇』爆発の余波がカプセルの中にも響いていたらしい。その間に同期連携合体が溶けてしまい、カプセルの中で二人に戻ってしまったと言う訳だ。
ベスパはクスリと笑うと、二人を起こす。別段、急ぐ必要はないのだが、こうして『天智昇』を倒してしまった以上、彼女達はいつまでも人間界に留まる訳にはいかない。この限られた時間を寝て過ごすのは、横島とルシオラにとって、あまりにも勿体ない話である。
「ほら、姉さん起きな! にいさんも!」
揺れの衝撃で気絶してしまったが、別段頭を打ったりした訳ではないらしい。ベスパが揺さぶって起こすと、二人はすぐに目を覚ました。そして、『天智昇』が無事倒された事を知ると、他の面々も交えて手を叩いて喜び合うのだった。
それから数時間後、横島達はまだ南極海に居た。あの後、天界の方から連絡が入り、神族が到着するまで南極海一帯を霊波ジャミングしながら待機していて欲しいと頼まれたためだ。
『天智昇』を倒したが、まだ海に落ちた宇宙のタマゴは見付かっていない。それを探すために、神族が捜索隊を派遣する事になっていた。
宇宙のタマゴは元々、ルシオラがアシュタロスから受け継いだ物なのだが、既に『聖祝宰』を含む彼の派閥の天使達が入り込んでおり、最早創世を止める事は出来ない状態であるため、ルシオラは回収する事はとうに諦めている。
艦橋の方は、既に宴会場状態になってしまっていたため、横島とルシオラは早々にデッキの方へと避難していた。場所が場所だけにかなり寒いが、横島はマント一枚羽織っただけで、あまり気にならなくなってしまった。大きなマントなので、一緒にルシオラも潜り込んで暖を取っている。
そのマントは、かつて横島が逆天号に乗り込んでいた頃にパピリオが作ってくれたマントだ。当時は気付かなかったが、想像以上に高性能な物だったらしい。
「神族の捜索隊、まだ来ねーのか?」
「まだみたいねー」
二人で空を眺めながら呟く。
「………」
「………」
そこから話題が続かず、しばし無言の状態が続く。
この限られた時間を無駄には出来ないと、先に口を開いたのはルシオラの方であった。横島の腕の中でマントに包まりながら、彼の顔を見上げて話し掛ける。
「ねぇ、ヨコシマ」
「ん?」
「人間界での貴方の目的は、どう? 進んでる?」
横島の目的、それは人と人ならざるものとの共存の道を探る事だ。
そのために令子の下から独立し、今日まで頑張ってきた。まだ実現には程遠いが、これまで出会ってきた先人達の姿を想うと、それこそ人としての一生を掛けた仕事だと思えてくる。
「まだまだ先は長いかな。でも、諦めるつもりはないぞ」
「そっか……」
元より今ここで横島を魔界に連れ帰る事など出来るはずがないと思っていたが、こうしてハッキリと言われると、ちょっとショックである。
しかしルシオラは、それ以上に横島の事が誇らしかった。
「ヨコシマ。私にもね、目的があるのよ。魔界でしたい事」
「へ〜、何がしたいんだ?」
これには横島も興味を持った。体勢を変え、目線を合わせて尋ねてくる。
ルシオラはにっこりと笑って答えた。
「私の目的はね……もっと、魔界の皆に人間界の事を知ってもらう事よ」
「魔界に、人間界の事を?」
「そう。私ね、思うのよ。『人と人ならざるものとの共存』って、人間界だけで進めても仕方ないんじゃないかなって」
「な、なるほど、確かにそうかも知れないな」
確かに彼女の言う通りだ。仮に人間達が魔界に、魔族に歩み寄ろうとしても、魔族側にその気がなければ共存は成り立たない。
見た目は幼児だが、頭は出会った頃のルシオラのままだと言う事を改めて思い知った。横島は興味深げにルシオラの話に耳を傾ける。
「だから、魔界からも人間界に歩み寄るの。そのためには相互理解が必要でしょ?」
「そうやって人間界の事が知れ渡ったら、魔族が人間界に観光に来たりするのかなぁ?」
「今でもたまに居るらしいわよ?」
「……マジで?」
あくまで個人レベルの話ではあるが、人間界に赴く魔族が存在する事は確からしい。
「そう言う人達って、犯罪行為をしない限りは放っておかれてるらしいけど」
「デタントって、意外と進んでるのかも知れないな」
「かもね」
そう言ってルシオラは、視線を空へと戻し、横島の胸にもたれ掛かる。
「見て、ヨコシマ!」
「お、夕日だ!」
ルシオラが指差す先を見てみると、真っ赤な夕日が海に沈もうとしていた。
「昼と夜の一瞬の隙間ね……また、一緒に見れちゃった」
「そうだな……」
「………」
「………」
しばし無言で夕日を見詰める二人。瞬く間に夕日は水辺線の向こうに沈んで行く。
やがて太陽は完全に見えなくなり、辺りはだんだんと暗くなっていく。
そして横島は、日の光が消えた水平線を眺めながら、ポツリと囁いた。
「なぁ、ルシオラ……お互い、頑張ろうな」
「……そうね。横島は人間界で、私は魔界で頑張れば、それだけ共存の道は開けるわ。皆一緒に暮らせる日が近付くのよ」
「まだまだ先は長そうだけどな〜」
「それはこっちもよ。魔王見習いになって、ホントに忙しいわ。周りの魔王級が、皆アシュ様並に強いのよ」
「うへぇ……」
アシュタロスの集団など、考えるだけでも恐ろしい。横島は、思わず舌を出して顔をしかめた。
その顔を見て、ルシオラがクスクスと笑う。その後は互いの近況を報告し合う、他愛のない世間話が続いた。しかし、それはなんとも和やかな時間であり、二人にとって、とても楽しく、そして心安らぐ時間となった。
だが、そんな楽しい時間も永遠には続かない。
完全に辺りが暗くなった頃、突然二人の前に妙神山の鬼門が姿を現した。ただし、片方だけ。
「そろそろ時間だぞ、横島」
「あれ? もう片方はどうした?」
「南極海と妙神山の往復。妙神山とお主の家との往復で二往復しないといかんからな。ここは交代制で瞬間移動する事にしたのだ」
「なるほど……」
妙神山に縛られている立場にある彼等は、妙神山から離れるとエネルギー消費が激しくなってしまう。そのため、こうして左右の鬼門がそれぞれ一往復ずつ担当する事となたのだ。
「神族の捜索隊がじきに到着するので、お主達は彼等の到着後、魔界に帰還するといい。『サっちゃん』様が呼び戻す手筈になっておる」
「……分かったわ」
ルシオラは、二人の時間の終わりを告げる使者、鬼門を見て頬を膨らませていた。
しかし、冷静に考えてみると、彼がこの時間に来たおかげで、こうして横島と一緒に夕日を見る事も出来たのもまた事実である。
「………ん?」
更に冷静になって考えてみると、鬼門の来るタイミングはかなり良かったのではないだろうか。誰の差し金かは分からないが、もしかしたら夕日が沈むまで待っていてくれたのかも知れない。
となると、ここでワガママを言う訳にもいくまい。ルシオラは、笑顔で横島を見送る事にした。
「ヨコシマ……また会いましょっ!」
「あ、ああ! またな、ルシオラ!」
満面の笑顔で再会の約束を交わす二人。
新鋭の民間GS横島忠夫、新魔王見習いルシオラ。
この先、二人の動きが人と人ならざるもの達との共存の道を切り開き、そしてデタントの流れを加速させる事となるのだが、それはもう少し先の話である。
つづく
あとがき
天界、魔界についての各種設定。
神魔族に関する各種設定。
宇宙のタマゴと、それを用いた創世に関する各種設定。
逆天号に関する各種設定。
パピリオが作った横島のスーツに関する各種設定。
文珠に関する各種設定。
鬼門に関する各種設定。
小型兵鬼『偵察鬼』
これらは『黒い手』シリーズ独自の設定です。ご了承ください。
なお、『聖祝宰』、『天智昇』の名前、及び外見、『天智昇』堕天後の姿は『ビックリマ○2000』からお借りしております。
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
「横島、結婚式始まるぞ・・・お前とルシオラの結婚式・・・どうした、腹でも壊したか?」
「なあ雪之丞・・・俺、とんでもないことをしちまったんじゃないかな・・・」
「は?」
「俺の人生はこれで終わりだ! おお、輝かしき自由の日々よーっ!
・・・・いや、今からでも遅くはない! 俺は逃げるぞ!」
「ちょっと待て! てめぇの結婚式だろうが!?」
「頼む! 見逃してくれプリーズ!」
「横島! てめぇ男だろ!!」
「お前だって今に分かる!」
・・・・最終回で「大団円」なんつーサブタイトルだから悪いんやw
いや、「大団円〜散りゆくは美しき蛍の光〜」とかでもいいですけど(爆)。
まぁ、厳密に言えば最終回というわけではないみたいですし、
最近では第一話で「大団円」というタイトル付けて、しかもどこが大団円だというような展開を見せた作品もありますが(ぉ
それはともかく、本当に大団円ですね。
贅沢を言えば、後一話分くらい使って話自体をきれいに締めて欲しかった所ですがw
まぁ、横島とルシオラがまた一緒にあの夕日を眺めて、それで話を締める事が出来たわけですし、これはこれでありかなと。
当時からGS読んでた身としては、凄い感慨深い物がありますねぇ・・・。
感無量です。
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