「ね、ねぇ霞…私達、すっごく場違いな所に来ちゃったんじゃ?」
「う、うろたえてちゃダメよ、ここは堂々としていないと!」
おろおろと辺りを見回す霞と姫。
あの後、パーティーをするからと霞も屋敷に招き入れられ、通された居間でパーティーの準備が終わるのを待っているのだが、一緒に待っているメンバーが尋常ではない。
GS協会の幹部昇進も時間の問題と言われ、最近はTVでも顔を見るようになった唐巣神父。
その唐巣神父の後継者としてGS協会から注目され、その美貌からマスコミにも注目される新人GSの代表格、ピエトロ・ド・ブラドー。
現在活躍中のGSの中で五指に入る知名度を誇る、呪いと黒魔術のスペシャリストである小笠原エミ。
最近はオカルト関連のニュースではお馴染みとも言えるオカルトGメンの西条輝彦。
パーティーの準備を手伝っているためここにはいないが、オカルトGメンの実質No.1と言われる美神美智恵の姿も先程見かけた。
「あの体の大きな人は知らないわね」
「ええ」
哀れ、タイガー。
それはともかく、おキヌの話によればこれで全てではなく、他にも何人かがパーティーに参加するためやって来るそうだ。
おそらく、ここにいるメンバーと肩を並べられる者ばかりだろう。
霊能科の生徒と言うのはこの業界においては研修中の除霊助手とほぼ同じ扱いとされる。
「ほぼ」と言うのは実質的な扱いにおいて除霊助手より下となるからだ。
現役GSの元で現場を経験し実戦経験を積んでいる除霊助手と、正式な教育を受けてはいるが実戦経験の乏しい霊能科の生徒。
危険の伴う仕事であるGSでは実戦経験に重きを置く風潮がある。Gメンはそのあたりがわかってないとは美智恵の弁だ。
要するに、本来なら霞達がお目にかかるもおこがましい人達が今、霞達の目の前にいると言う事だ。
「こんにちわ〜」
聞き覚えのある間延びした声の主が居間に入って来る。
「あら〜? あなた達は〜」
「ろ、六道先輩!?」
思わず霞は立ち上がり背筋を伸ばした。
対する冥子は六道女学院の制服姿である2人に気付き顔をほころばせる。
「あら〜、ウチの生徒ね〜。え〜っと、貴方が張さんでぇ、そっちのコが香月さん〜」
霞は驚きに目を見開いた。霞から見れば冥子とて雲の上の人。まさか、一目見ただけで名前を言い当ててくるとは思ってもいなかったのだ。
「冥子さん、どうして私達の事知ってるんですか? ハッ、もしかして、私達って何時の間にかブラックリスト入り!?」
姫も霞と同じ事を考えていたらしく、少々的外れな事を考えながらも驚きの表情を浮かべている。
対する冥子は事もなげにあっけらかんと答えた。
「え〜? ウチの可愛い生徒ですもの〜顔と名前ぐらい覚えているわ〜」
冥子の意外な一面に居間にいた全員が絶句してしまったのは言うまでもない。
「お、また客だ」
冥子を居間まで案内し、パーティーの準備を手伝うべく台所に戻ろうとしていた横島だったが、玄関のチャイムが鳴ったので、再度玄関へと向かった。
「お、小鳩ちゃん! さぁ入って入って」
横島が玄関を開けると、そこには花束を持った小鳩と貧乏神。そしてカオスとマリアの4人が立っていた。
「わいもおるでー」
「マリアも・います」
「おー、マリアも来たか! さぁさぁ、入ってくれ」
「小僧、どうあってもわしらを無視するつもりか…」
カオスの鋭い突っ込みに横島は冷や汗を流した。
「時に小僧よ、お主を見込んで頼みたい事があるんじゃがの」
「ん、俺に? それじゃ、小鳩ちゃん達は居間の方に行って待ってて。そこの角を左に曲がってすぐだから」
「わかりました、あ…この花束は…」
「そこの台所にいる愛子に渡しといてくれ」
「わかりました!」
小鳩はパーティーの準備を手伝うべく台所に向かい、マリアもそれに続いたため、居間の方へは貧乏神だけが向かった。
「…あれ、神様よね?」
「わ、わかんないよ〜 本物なんて見た事ないもん〜」
霞と姫は更に怯んだ。
一方、台所では
「愛子さん・マリア・手伝います」
「あ、それならこの赤ん坊を…」
「だぁーめ、子守りはタマモちゃんの仕事でしょ? マリアはこっちを手伝って」
「Yes・ミス愛子」
「横暴よ…」
どさくさにまかされた子守りから逃げようとするタマモだったが、愛子にあっさりと阻止されてしまう。
愚痴をこぼしつつもしっかりと子守りをするタマモ。美智恵は唐揚げを揚げつつ、そんな微笑ましい光景を暖かな眼差しで見守っていた。
「愛子さ〜ん、この花瓶ちょっと小さいんですけど」
「え? おキヌちゃん、ちょっとこの鍋見てて」
「あ、はい!」
どうやら小鳩の持って来た花束に対し、花瓶が小さかったらしく、愛子はおキヌに鍋をまかせて小鳩の元へ向かう。
生憎、家にはそれ以上の大きさの花瓶はなく、幾つかの花瓶に分けて飾る事となった。
「…で、俺に頼みって何だ?」
「うむ、それはじゃな…」
カオスはチラリと自分の背後に視線を送り、横島もつられてそちらを見ると、塀の向こうに誰かがいる事に気付く。
「ん? もう1人連れてきているのか?」
「お主も知った顔なのじゃがな…おーい!」
カオスに呼ばれ、塀の向こうの人影がこちらに向かってくる顔は、確かに横島の知った顔だった。
「て、ててててて、テレサ!?」
「…久しぶり」
そう、そこに立っていたのはマリアの妹テレサだった。
アシュタロスとの戦いにおいてコスモプロセッサにより何故か復活したが、その後アシュタロスの怒りを買い破壊され、更にハニワ兵の自爆により粉々にされたあのテレサだ。
横島は不意に小竜姫の言葉を思い出す。
コスモプロセッサで復活した者は、コスモプロセッサが動いている限り、倒されても復活していたと…
そう、テレサも復活していたのだ。
「まぁ、ボディのほとんどが使い物にならなかったんで、マリアと一緒にオーバーホールしたんじゃがな」
「あの物騒な武器は…?」
「予算の都合もあって、ほとんど取り外してあるわい。性能も落ちてるし、残った武装はロケットアームだけじゃ」
カオスの話を聞いてテレサはおもしろくなさそうに唇をトガらせる。
それを見て横島は間違いなくあのテレサだと確信した。
「性格は変わってないみたいだな」
「三原則ぐらい組み込もうかと思ったが、それをやるともはや前のテレサとは違う。マリアがそれに反対しての」
「マリアがねぇ…で、頼みってのはなんだ? テレサもパーティーに参加するんならとっとと入れよ」
当然、パーティーの参加者が1人増えようと、そんな事を気にする横島ではない。先程、2人増えたばかりだ。
横島は歓迎しようとテレサの手を取るが、カオスは困った様子でテレサを見た。
「いや、お主に頼みと言うのはな…テレサを住み込みで働かせてやって欲しいんじゃ」
「………はい?」
カオスの言葉に横島は呆気にとられ、テレサは不本意そうにそっぽを向いた。
「先程も言うたが、テレサの人格プログラムはわしらに反抗した時とまったく変わっていない。弱体化したから今はおとなしくしておるがの」
「それは見ればわかる」
横島の言葉にカオスは何故か満足そうに頷く。
「ならば、テレサのこの性格を矯正する方法はテレサが自らの学習能力を以って自分で成長するしかないんじゃが、これは周囲の環境が物を言う」
「そこで、なんで俺が出て来るんだ?」
当然の疑問を問うが、カオスはニヤリと歯を見せて笑う。
「今、お主はテレサの性格が変わっていないと気付いたではないか。だからじゃよ」
「…いや、わからねーって」
「つべこべ言わないで、あんたは私を雇えばいいのよ!」
従業員の態度ではないが、少なくとも「雇われる」意志はあるようだ。
「なぁに、安月給で構わんのじゃ、わしの生活費の足しになればの。テレサも、自分の人格プログラムが変わっていない事にお主が気付けばおとなしく雇われると言うてたし」
「…まさか、ホントに気付くとは思わなかったわ」
要するに、カオスとしてはテレサを理解してくれる相手にテレサをまかせたいのだろう。
横島は愛子達にも話をして決めると返事し、テレサを愛子達に紹介する。
愛子は事情を聞くとすぐさま了承し、エプロンを渡してパーティーの準備に参加させた。
「小僧、テレサの事を頼んだぞ。わしは居間の方で待たせてもらうかの」
そう言って笑うとカオスは居間へと向かった。
「あ、あの人! 雑誌で見た事あるわ! 《ヨーロッパの魔王》ドクター・カオスよ!」
「…もう、何を見ても驚かないわ」
「これだけの人を集められる横島さんって何者なんだろうね?」
興奮気味の姫に対し、霞はどこか悟った表情をしていた。
「さてと、この皿を広間に運べば準備完了だな」
「マリアが・行きます」
マリアは料理の乗った皿を持って広間に向かい、テレサがそれに続く。
「えーっと、まだ来てないのは誰と誰だ?」
「令子は仕事があるって言ってたわ」
「バカ犬は散歩してから来るって言ってたわよ」
美智恵はタマモに預けていたひのめを受け取り抱き上げる。
やっと肩の荷が下りたとばかりに腕を回すタマモ。そんな態度を取りつつも子守りに慣れたようだ。美智恵に抱き上げられたひのめがタマモに向けて手を伸ばしている。
「一文字さんが弓さんを連れてくるって言ってました」
「そう言えば厄珍さんがまだ来てないわね。魔鈴さんの方も店を早めに閉めて来るって言ってたわ」
そう言うと、おキヌと愛子も全ての準備を終えてエプロンを外した。
「随分といるなぁ…でも、料理もできちまったし、先にはじめとくか?」
横島の提案に愛子はしばし考えていたが熱々の料理を食べてもらいたいと言う事もあって、先にパーティーを始める事にする。
「そうね、足りなくなったら後で作ればいいし、いつまでも待たせてるのもね」
「よし、それじゃ俺が皆を呼んでくるよ」
そう言って横島は居間に向かった。
「おーい、準備ができたから広間に行って…どうしたんだ?」
横島が襖を開けて居間に入ると
「………」
「………」
周りのメンバーに気圧されたのか、霞と姫が捨てられた子犬のような瞳で横島に助けを求めていた。