大西洋連邦首都ワシントンのビル群の一角に、マリア・クラウスが所有する事務所がある。その事務所にある男が訪れていた。
事務所の主であるマリアは、男を応接用の安楽椅子に座らせると話を切り出した。
「まさか、貴方が情報を提供してくれるとは思わなかったわ」
「私は大西洋連邦の軍人です。当然ですよ」
マリアは男の言葉に笑いを隠しきれ無い様子で言い返した。
「ブルーコスモス嫌いの貴方が、わざわざ情報を提供するとは普通は思わないんじゃ無い?」
「……まあ確かに」
男は自分のこれまでの振る舞いを振り返ると、マリアの言葉に苦笑しつつ頷いた。何しろ心当たりが多すぎる。
「ですが私も大西洋連邦の勝利を願っていることには替わりはないのですよ」
「そのためなら、毛嫌いしているブルーコスモスの私兵も支援すると?」
「個人の好き嫌いは公務には持ち込みませんよ。ブルースウェアが大西洋連邦の役に立つのなら支援するだけです。個人的には癪ですが」
「……貴方なら、知っているんじゃ無いの? この機密漏洩の真犯人を?」
マリアの言葉に、男は苦笑いする。
「現在、調査中です。それに……貴方もある程度、目星を付けているのでしょう?」
「まさか。私でもそこまでは無理よ」
「ほぅ?」
大西洋連邦どころか、地球連合各国に深いパイプを持つ女性の言葉とは思えませんね、と男は呟く。だが同時に納得もしていた。彼女は穏健派とは言え、ブルーコスモスの重鎮なのだ。その彼女が、ブルーコスモスとは相容れない自分に手札を見せるわけが無い。
「まあ、そういう事にしておきましょう」
そう云うと、男は事務所を後にする。男が事務所から遠ざかっていくのを窓から確認すると、マリアは女性秘書を呼び寄せた。
「どう思う?」
「反ブルーコスモス派とは言え、信用出来ると思います。ですが、こちらに引き入れるのは困難と思われます」
「……他の反ブルーコスモス派の切り崩しは可能?」
「可能です」
反ブルーコスモス派は元々は、プラントを破壊されることで利権を失う人間が中核となって作られた組織だった。だが逆に言えばアズラエルがその方針を大きく転換したことでその存在意義は少しずつ失われていたのだ。このためその切り崩しは比較的簡単になっていた。
「中道派議員を仲介にして、切り崩し工作を加速させるように」
少なくとも現時点でアズラエルが失脚するのはマリアにとって好ましいことではない。彼女は彼女なりにアズラエルを支援しようとしていた。
「分かりました」
マリアによる政治工作が密かに進められている頃、ブルースウェアは本拠地であるローレンツ・クレーター基地では作戦に向けた準備に取り掛かっていた。ドック中の戦艦や空母に次々とMSやMAが収容され、必要な物資が運び込まれていく。勿論、必要経費は全てアズラエルが出しているので、彼としても手痛い出費であった。
「やれやれ、艦隊を出撃させるって言うのはこんなにも金が掛かるもなんですかね?」
必要経費が書かれた書類を見て、アズラエルはぼやいた。そんなアズラエルに、ハリンは苦笑して言った。
『仕方ありません。作戦を変更するために、予定より多くの推進剤が必要になりましたから』
痛いところを突かれて、アズラエルは苦笑せざるを得なかった。
「……まあ必要経費だと思って割り切りましょう」
アズラエルはそう言って頭を切り替えると、先ほどハリンが告げた変更された作戦の内容について確認するように尋ねる。
「で、この作戦で本当にうまくいくんですか?」
『完全な保証は出来ませんが……それで問題はないと思われます』
「そうですか」
アズラエルはハリンの言葉を聴くと、何かを考えるように眼をつぶって暫く口を閉ざす。数分の沈黙の後、彼は重い口を開く。
「お膳立ては全て整えました。ハリン少将、あとは全て、貴方に任せます」
アズラエルは、この作戦の変更を受けて各所に様々な根回しを行っていた。特に支援部隊については完全にブルーコスモスの息のかかった部隊を揃え、ハリンの指揮に従うようにさせた。
勿論、正規軍の部隊を一私設軍の指揮官が指揮することなど普通は出来はしないのだが、アズラエルは持ち前の強大な政治力に加え、反発する人間に懐柔、脅迫を行って黙らせた。
この短期間に極秘裏に行われた交渉の結果、ハリンは少将の地位でありながら、2個艦隊規模の艦艇を指揮することが可能になっていた。
勿論、ハリンはこの事実が何を意味するのか、よく理解していた。
唯でさえ、反対が多かった作戦の内容を無断で変更したのだ。これで大失敗に終わればアズラエルの影響力は大幅に下がる可能性がある。
原因が参謀本部内部の内通者のせいにしても、アズラエルが軍事について口出しすることが難しくなるのは間違いない。
『必ずやジェネシスは破壊してみせます。朗報をご期待ください』
ハリンは、そう言ってアズラエルに向けて見事な敬礼をする。
「期待していますよ」
そういうとアズラエルは回線を切る。
「賽は投げられたか………本当に、頼みますよ」
青の軌跡 第29話
ブルースウェア主力艦隊……アークエンジェル級戦艦2隻、エセックス級空母4隻を含む50隻強の大艦隊は本拠地であるローレンツクレーター基地から次々と出撃していく。
艦艇の数と質、そしてその規律の取れた艦隊機動は一私設軍の部隊とは思えない程のレベルであった。
50隻あまりの艦隊が出撃した後、アーノルド准将が率いる別働艦隊がローレンツ・クレーター基地から発進していく。
「圧巻だな」
ハリンは次々に出撃していく艦艇を、主力艦隊旗艦サンダルフォンのブリッジから見てそう呟いた。
「はい。これが一私設軍の軍隊とは到底思えません」
地球連合軍艦艇中、最高のMS運用能力を持つエセックス級空母、火力の面では右に出る者がいないアークエンジェル級戦艦、加えて対MS戦闘を前提に建造されたアトランタ級防空巡洋艦、さらに戦艦クラスの火力を有する新型MSトライデント。
これだけの装備が揃っている部隊はごく一部のみと言っても良い。仮に、正規軍の人間がこの光景を見れば、それだけの装備があるなら回してくれれば良いのにと思うことは受けあいだ。
「……まあ自分の艦隊に感心していても仕方が無い。月艦隊司令部から何か連絡は?」
「第7艦隊が出撃を開始したとのことです。第11独立部隊、第16独立部隊、第17独立部隊も一時間以内に出撃すると」
ローレンツ・クレーター基地から宇宙艦隊が発進している頃、地球連合軍の牙城であるプトレマイオス・クレーター基地から第7艦隊を中心とした
一大艦隊が発進していた。第二次軌道会戦でかなりの打撃を受けた連合軍だったが、第7艦隊に加えて、幾つかの独立部隊は動かせる状態だ。
この無尽蔵とも言える物量が、今回の作戦を可能にしたと言ってよい。
「これだけ派手に動けば、ザフトの連中も気づくだろうな」
「出来れば、連中がこちらの狙いがボアズ攻略だと誤認してくれたままであって欲しいものです。敵の本国で待ち伏せにあうのは御免ですから」
「そうだな」
ハリンが直卒するブルースウェア主力艦隊に続いてアーノルド准将が率いる別働艦隊はそれぞれ、ローレンツ・クレーター基地の上空で陣形を整えていく。
そんな中、ハリンはアーノルド准将の乗る別働隊旗艦タワーズと自分の席に設置されている通信回線を接続する。
「アーノルド准将、難しいとはと思うが、誤爆は極力避けてくれ」
ハリンは電話越しに念を押す。
『そのようなヘマはしません……まあ、あの忌々しい砂時計を焼くチャンスを逃すのは些か惜しい気がしますが』
この言葉にハリンは苦笑する。何しろ彼はブルーコスモスでも強硬派に近い部類なのだ。彼にとっては今回の作戦は肩透かしだった。
「仕方ないさ。理事、いや盟主きっての要請だったんだ。我々がどうこう出来る問題ではない……今は与えられた仕事をこなすだけだ」
『まあそれもそうですな。しかし、問題は司令の主力艦隊では?』
「安心しろ。そう簡単にやられはしない。まあ盟主が言うようなテロ集団が出てきたらザフトともども叩き潰してやるだけだ」
仮にザフトが陽動に引っかかって居ない場合は叩き潰されるのは、ハリン艦隊なのだがそんなことは億尾にも出さない。
「兎に角、そちらは予定通りに実施してくれ」
『了解しました。司令こそ、御武運を』
回線が切れると同時に、艦隊の陣形を組み終わったとの報告があげられる。ハリンはこの報告を受けて間髪入れず命じる。
「工作艦、ミラージュコロイドを展開せよ」
「了解しました」
ハリンの命令を受け、艦隊の外周部に展開していた8隻の工作艦からミラージュコロイドの粒子が放出され、数分の後、艦隊を覆い尽くす。
やっている事はジェネシスと同じことなのだが、こちらは自由に動くことが出来る艦隊であり、その使い勝手は比べ物にならない。
「参謀長。奴らに、新人類を騙る改造人間どもに、これまで夢を、希望を踏みにじられてきた者達の屈辱を、絶望を思い知らせてやろう」
「はい。あの思い上がった連中に思い知らせてやりましょう」
ブルースウェア艦隊がミラージュコロイドによってその姿を隠した頃、第7艦隊を中心としたボアズ攻撃艦隊はプトレマイオス基地上空で陣形を整えて、目標地点に向けて進撃を開始しようとしていた。アークエンジェル級戦艦2隻、エセックス級空母3隻、インディペンデンス級軽空母3隻を中核とする一大艦隊の指揮を執るのは、艦隊旗艦・ワシントンのバーク少将だ。
「これだけの兵力で、陽動とは……まったく大仰なことだ」
バークの不満げな言葉に、幕僚達は苦笑した。何しろ、バークは参謀本部から今回の作戦を知らされたときに、参謀本部の連絡将校にこんなことを言ったのだ。
「第7艦隊の役目はザフトの目を出来る限り、ボアズ周辺宙域に釘付けにすることと?」
「はい。出来る限り派手に暴れてください」
「一つ聞きたい」
「何でしょう?」
「何、簡単なことだ。連中の目をひきつけておくのは良いが、宇宙要塞ボアズ、別に落としても構わないのだろう?」
この言葉に連絡将校は一瞬、絶句したと伝えられている。
「まあこれだけの戦力が与えられているから、司令の自信も判らない事も無いが」
バークの気性、猪突猛進を知っている参謀は苦笑するが、他の参謀が苦言をもらす。
「だがボアズに無理に突っ掛かる必要はない。今後の戦争のために、司令部の言うとおり第7艦隊が大怪我しないように戦うのが上策だ」
彼らはバークに聞こえないように小声で言いあう。その様子を不信に思ったのか、バークが彼らに声をかける。
「何か言いたい事があるのか?」
「いえ、別に何もありません」
地獄耳だな、参謀達は内心でそう呟いた。
地球連合軍とブルースウェア艦隊がそれぞれの目的地に向かっている頃、ザフトでは地球連合軍の動きに神経を尖らせていた。
「奴らはボアズを攻略するつもりなのではないか?」
「やはりその可能性が高いといえるな」
ザフト軍作戦本部では、高官達が今回の連合軍の狙いについて議論してた。その中で最も有力視されたのがボアズ攻撃であった。
何しろザフトの持つ幾つかの情報筋から今回の目的がボアズ攻撃の可能性が高いとの情報が寄せられていたのだ。
勿論、それは連合が意図的に流した情報であったが、多くの将校はこれを真実だと思っていた。そんな彼らに対して数名の将校が疑問を投げかける。
「まさか。ボアズを攻略するにしても、数が少なすぎる。ボアズを突破するには最低でも三個艦隊は必要だ」
ボアズは月面からの艦隊を迎え撃つ前線基地であり、プラントを守る防衛ラインの要的な存在であった。ここを落とせば見返りは大きい。
だがボアズの重要性を判っているザフトはボアズに大軍を展開させている。そう易々と占領できる基地ではない。
「相手はたかが1個艦隊と数個の独立部隊だ。ボアズ守備軍だけで十分に対処は可能だ」
ナチュラルの俄作りの1個艦隊程度、核動力MSを配備したボアズ守備軍なら十分に撃退できる……ナチュラル蔑視思想が強い一部の高官はボアズ攻撃などナンセンスだと言い捨てる。だが一部の高官、これまで前線でナチュラルの手強さを思い知った者は反論する。
「だがボアズも少なからざる消耗を受ける可能性が高い。奴らの物量は底知れずの上、最近は非常に手強くなっている」
「それに鹵獲したMSを研究した結果、操縦性については明らかにわが軍のMSより優れている」
連合軍のMSに搭載されているOSは、すべてナチュラルが操縦しやすいように工夫されている。このため、ある程度の訓練を受ければ大半の兵士は、ある程度動かせるようになっている。
だがザフトのMSはそう言うことを余り考慮されていない。技術開発に携わる人間にとってはMSなどコーディネイターなら乗りこなせて当たり前という考えで作っている。
このためカタログデーターの向上が優先され、出来たとしても使い勝手の悪い場合が多かった。
特にフリーダムやジャスティスなどはベテラン位しか扱えない。物量で対抗できないから質を高めると言うのは当然の考えかもしれないが、量も必要なのだ。
「では、どうしろと? まさか本国やヤキン・ドゥーエの部隊を動かせと言うつもりか?」
月面のマスドライバーから時折打ち出される隕石や、長距離ミサイルから本国を守るためには相応の戦力が必要だ。最近は唯でさえ、連合軍との戦闘でザフト宇宙軍は消耗している。ここで部隊を動かせば防衛ラインの厚みがさらに減ってしまう。
「プラントへ直接攻撃を受ければ必ず生産効率の低下を招く。唯でさえ資源の輸入が滞って軍需物資の生産が遅れているんだ。これ以上物資の 生産の遅延を招くような策は採るべきではない」
「ボアズは現有兵力でも十分に敵艦隊と戦える。だいたいボアズには十分な防衛設備を置いているはずだ」
ボアズ守備軍の戦力に自信を持つ人間達はその言葉に頷く。だがその直後にとんでもない冷や水が浴びせられる。
「確かに1個艦隊強の兵力では、ボアズは落ちないだろう。だが、もし奴らが核兵器を復活させていたら?」
この言葉に高官達は絶句した。
「ラクス・クラインによってNJCが流出した可能性がある現状では、その可能性が高いな」
「確かに、奴らが1個艦隊強で打って出てきた訳を説明できる」
「となると、些か拙いな」
ボアズに増援を送る必要はないと主張してきた人間たちも、核兵器の存在を思い浮かべると慎重にならざるを得なかった。
すでに血のバレンタインで30万人もの命を失った彼らからすれば、核を復活させた地球軍が嬉々として核兵器を使うと言うのは決して夢物語ではなかった。
「核兵器が使用されてボアズが陥落した場合、彼らが次に狙うのはプラント、或いはヤキン・ドゥーエだろう。そうなれば我々はジェネシスなしの状態で決戦を強要されることになる」
「もし月面から増援が出されれば、戦線は支えきれません」
「例の新型MS母艦の建造は?」
「ジェネシスに予算を取られて進んでいない。エターナル級、改エターナル級の生産でも予算と資源を取られているからな」
ザフトは切り札であるフリーダム、ジャスティスの母艦としてエターナル級、そして火力を向上させた改エターナル級の建造も行っていた。
ナスカ級に匹敵する高速戦艦でありながら、核動力MSを整備・運用できるように設計されているこの戦艦の建造費用は、決して安くない。
と言うよりもナスカ級よりも高くつく。この2隻の建造を優先的に行っているのだから、他の艦艇に回せる予算が減るのは必然だった。
「……仕方ない。現状でボアズ陥落は何としても避けなければならない。作戦本部としてボアズに増援部隊を回すことを議長に提案する」
同時に彼らはボアズ守備軍に対して、連合軍による核攻撃の可能性があることを伝えることにした。
「地球軍が核攻撃を行うだと?!」
執務室で報告を受けたパトリックは、作戦本部の将校に向けて怒りを露にしながら尋ねた。
「い、いえ、その可能性があるというだけで……」
パトリックの剣幕にダジダジになりながら、必死に言葉と紡ぐ将校。しかしパトリックの怒声は尚も続く。
「馬鹿者! そのような可能性があるだけで十分だ! ユニウス7の悲劇を繰り返すようなことがあればどうなるか判るだろう!!」
パトリックとしては強権を振るっているにも関わらず戦争で苦戦を強いられて国が疲弊している中、地球軍に核攻撃を受ければその指導力に疑問を投げかけられることは間違いない。
現時点でボアズの戦力が充実していれば、パトリックもそこまで怒鳴らないのだが……現時点のボアズの戦力は、最盛期の戦力には及ばないものだった。
「ボアズ守備軍は、地球軍による通商破壊への対応と先の第二次軌道会戦で消耗しているのだ。核攻撃を防ぎきれるか判ったものではない」
「その通りです。作戦部としては本土からナスカ級3隻とローラシア級8隻を増援として派遣することを提案します。増援部隊とボアズ守備軍が連携すれば核ミサイルのボアズ着弾は避けられるでしょう」
「こちらから積極的に迎撃することは無理なのか?」
「敵艦隊はすでに月基地を出撃したとの情報もあります。地球軍のボアズ到着予想時刻から判断すると、ボアズ守備軍と増援部隊が合流してから打って出るのは難しいと思われます」
「増援部隊をもっと早く出せないのか?」
「無理です。唯でさえ最近は兵力の消耗が激しいので、そう簡単に艦を引き抜けません」
プラント本土を守るザフト艦隊は、連日の消耗で大幅に稼動可能な艦艇をすり減らしていた。彼らは必死にドックで艦艇の修理に当たっている。
だが、予算と資材が不足していた。史実を遥かに超える消耗は、すでにザフトの国力ではカバーしきれるものではなくなっていた。このために様々な場所で弊害が生まれている。
「現時点で動ける艦艇は整備が必要なものも多いので……」
この答えにパトリックは苦々しい顔をするが、どうしようもない。
「判った。早速、そちらで必要な手を打ってくれ。こちらも出来る限りのことはする」
パトリックは今更ながら、カオシュン救援のために宇宙艦隊を送ったことを後悔した。もしカオシュン救援のために艦隊を送ることさえしていなければ、この事態にもっと迅速に対処できた……彼はそう思った。
(やはりクルーゼをはやめに呼び寄せるしかないか)
信頼が置けるかどうかは兎にも角にも、能力のある指揮官を早く宇宙に集めて決戦の準備を整える必要がある……パトリックはそう考えた。
そんなことを考えていたパトリックは、作戦部の将校が退出した後に財界要人との会合があることを思い出す。
「だがボアズ攻撃があるとなると財界連中との会合は無理だな。ふん、連中はエザリアにでも任せるか」
どうせ、資源の輸入が滞りがちなことに対する不満を言うつもりなのだろうと思っているパトリックは、エザリアに面倒ごとを押し付けることにした。
彼は最近になって裏で地球連合との講和を主張するようになったエザリアを煙たく思っていたのだ。
「怖気つきおって」
今か
ら和平を言い出しても、戦前より酷い状態にしかならない……そう考えるパトリックにとって和平など論外だった。最近の戦況の悪化によるプラントの経済状態、社会状態の悪化とその影響もパトリックはある程度理解していた。
「このままだと、プラントが戦えるのは精々半年か……」
プラント社会と経済は急速に瓦解しつつあった。地球全土に戦線を拡大させ、その過程で失った兵力も膨大だが、地球に展開する友軍への補給を維持するために費やした予算と資源も莫大なものだった。緒戦の勝利におごり、戦線をむやみに拡大させたツケを彼らは払わされていた。
「金は地球から賠償金を搾り取れば問題ない。人口問題は若者を社会に復帰させると同時に、クローンを作って人口を維持するしかないな」
だが軍の動員を解除して、若者を社会に復帰させても無事に社会復帰できるかどうかは疑問だった。戦場から帰ってきた兵士の内、少なくない数の者が社会に適応できず、犯罪に走るケースがある。
元々、長年戦争を行ってきた連合各国はそのことを理解しているが、プラントにそのことを理解している人間がいるかとなると……甚だ疑問だった。講和を唱えるエザリアもそのことを理解しているとは言いがたいのが実情だ。
「まあジェネシスが完成すれば、短期でケリがつく。そうなれば、講和を唱える連中もどちらが正しかったかがわかるだろう」
彼はそう嘯くと、早速面倒ごとを押し付けるべく、エザリアの執務室に電話をかけることにした。
だがそれが後にプラントの運命を大きく変えることになることを、彼は知る由も無かった。
あとがき
青の軌跡第29話をお送りしました。この度は短めで話が進んでいませんが(苦笑)。今回はプラントの内情を大きく扱っています。
ちなみに連合も結構、財政面では苦しいのですが何とか持ちこたえています。
この状況でジェネシスが破壊、もしくは大打撃を受ければザフトの戦略が根底から崩壊し、降伏を余儀なくされるでしょう。
軍も将校達が士気を維持できないでしょうし。尤もクルーゼがそんな状況を見過ごすとも思えませんが……。
駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。次回は本格的な戦闘、とりあえずボアズ戦になる予定です。
青の軌跡第30話でお会いしましょう。
代理人の感想
バークって「ブル」なんつー仇名があったりしないだろーな(爆)。
某赤いお茶くみ男と違って本気で言ってるような気もするし。
しかしボアズも疲弊しているようだし、本当に落ちたら大笑いだなこりゃ。