ブルースウェア主力艦隊がプラント本国に大打撃を与えていた頃、カーペンタリアではある男が焦りを感じていた。
(拙い、まさかボアズまで陥落するとは……)
仮面に隠れてクルーゼの表情は周囲から見えないでいたが、仮面の下では彼は大いに焦った表情をしていた。
ボアズ陥落は彼にとっても予想外の出来事だった。クルーゼはカオシュン上空での会戦で連合軍も少なからざる消耗を被り、ボアズを制圧するためにはもう3ヶ月ほどの準備がいると読んでいたのだ。
いくらジェネシスの完成が遅れているからとは言え、もう3ヶ月の猶予があれば大丈夫だと彼は考えていた。しかし彼の予想は大きく外れ、プラントの防衛圏はあっという間に突き崩されてしまった。
(このままではプラント−地球間航路維持も危うい。いや、それどころかプラント周辺の制宙権すら維持できなくなる)
地球から資源を輸入できなくなるとすると、プラントは宇宙で鉱物資源を入手する必要がある。しかしながら、制宙権が完全に確保できていないとなると、資源の輸入が滞るようになる。そうなればプラントは早々に継戦能力を失う。
そうなれば、彼が望む人類の終焉は訪れない。それどころか、プラントが一方的に殲滅されるか、無条件降伏を強いられる形で戦争が終わる。
(ええい、そんな結末を誰が認めるか!!)
しかし現状では彼に手立ては無い。パトリックと深いパイプがあるとは言っても、所詮彼は一指揮官に過ぎないのだ。プラント帰還後には軍の重職に任じられるが、それとて敗戦間際となれば大した意味は無い。下手をすれば彼のする仕事は敗戦処理になる。
(私に再起を期す時間はないのだ。私に残された時間は……もう少ないのだ)
それゆえに、彼は必死に考える。自分の大願を成就させるための方策を。
クルーゼが人類に滅びを齎すための計略を練っているとき、プラント首都アプリリスの一角にあるビルでは地獄絵図が広がっていた。
あちこちから挙がる悲鳴と助けを求める声、朦々と上がる黒煙、そして人の肉が燃える悪臭……プラントの外の狂乱を内部に持ち込んだような光景が展開されていた。そんな中、担架で運ばれていた女性が目を覚ます。
「く、一体何が……」
「ジュール議員、大丈夫ですか!!」
痛みを感じながらエザリアが目を覚ましたのを見ると、周りにいた側近達は即座に彼女に体調を尋ねる。
「ああ、何とかな」
どこかの骨が折れたのか、時折凄まじい痛みが彼女を襲う。しかし彼女は痛みを気にするよりも状況を確認する。
「それよりも、何が起こったというのだ?」
「何者かが爆発物を設置していたようです」
「つまり爆弾テロか。くっ、この国難の時期に愚かなことを」
エザリアは吐き捨てるように呟くと、財界の重鎮達のことを思い出す。
「彼らは? 重鎮達は?」
「問い合わせた結果、出席者の半数が生死不明です。残りの方々は………死亡されています」
この言葉にエザリアは絶句した。この国難の時期にプラント財界の重鎮達が全滅したのだ。それはプラント経済に多大な影響を与えるだろう。
「救助作業はどうなっているのだ?」
この言葉に多くの人間はうなだれる。
「どうした、一体何が?」
「……救助作業は現在中断しています」
「何故だ?!」
「現在、プラント本国は地球軍の大艦隊の攻撃を受けています。救助作業が可能な環境ではありません」
「何?!」
その直後に大きな振動が彼らを襲う。
「本国が攻撃を受けていると言うのか……」
「ジュール議員。議員には一端、シェルターに避難していただき、緊急処置を受けてもらいます。それまではどうか……」
だがそんなことは彼女の耳に入っていなかった。
(終わりの始まりか……)
彼女は痛みと精神的ショックから気を失う寸前に、プラントの葬送曲が聞こえたような気がした。
青の軌跡 第33話
プラント本国に乗り込んだブルースウェア主力艦隊は思う存分にその猛威を振るい続けていた。
「いいか、敵の基地を真っ先に叩け。基地さえ潰せば、敵の追撃は弱まる!」
ハリンは真っ先にザフトの補給源を潰すように指示を下す。彼は基地施設を潰すために虎の子であるトライデントの多くを基地攻撃に振り分ける。
「トライデントの火力があれば多少の基地なら潰せる」
敵地に深入りさせれば、未帰還機が多くなるとの幕僚達の意見をハリンは一切無視した。
「消耗が怖くて戦争ができるか」
ハリンとしては多少の消耗なら、連合の生産力をもってすれば回復可能と考えていた。一方のザフトは連合と同じことなどできはしない。
トライデントを数機の喪失と見返りに得られるであろう戦果とを天秤に掛ければ、どうするかは明白だ。それに基地を潰しておけば自分の艦隊を追撃してくるであろう敵の数を減らすことが出来る。敵の本拠地から逃げ出す前に、ある程度の置き土産はしていくつもりだ。
「追撃されるのは構わんが、あまり数が多すぎると捕捉されるからな」
彼の指示に基づいて、プラント本国各地に建設されていた基地にトライデントが次々に接近していき攻撃を浴びせ始める。二等級の部隊しかいない基地は成す術もなくトライデントの放つアグニや陽電子砲の攻撃を受けて吹き飛ばされていく。
周辺に居たザフト軍部隊は何とかしてこれを食い止めようとしたのだが、質の面で圧倒されていたこと、さらに連合がMSを組織的に集中運用していたので、ザフトは量の面でも圧倒される場合が多く呆気なく撃破されていった。
「くそ、ナチュラルなんてもっと弱いんじゃなかったのかよ!!」
「うわぁあああ!!」
特に学徒兵たちが乗ったジンは地球連合軍からすれば良い的に過ぎなかった。味方のジンが撃破されてパニックに陥っていたいる彼らを撃破するのはブルースウェア艦隊のパイロットからすれば容易なことだった。彼らはザフト軍のMS部隊を思う存分かき乱して分断し、各個撃破していく。
味方の部隊との連携が断たれたことを悟ったザフト軍パイロット達は恐慌状態に陥り、さらに簡単に撃破されていくと言う悪循環が広がっていた。
しかし本国の予備兵力が投入され始めると状況は次第に変わる。連合軍は幾ら撃破しても現れるザフト軍部隊に手を焼き始めた。
「畜生、潰しても潰してもきりが無い!」
ガンパレルでジン2機を立て続けに血祭りに挙げるも、フラガは次々に現れるザフト軍機(主にジン)を見て、露骨に舌打ちする。
『ムウ、どうするの?』
ステラの問にフラガは、少し逡巡したあとに答える。
「……後退する。このままだと磨り潰される」
他の戦線でも同様の光景が見られた。各地で物量でザフトに圧倒された連合軍が後退していった。
尤もザフト軍は連合軍MS1機を仕留めるのに3機ないし4機を撃破されているので、トータルの被害はかなりのものになっていた。
「何だ、この様は! 全く歯が立っていないではないか」
パトリックは軍の重鎮達を責めるように睨み付ける。高官達はその眼光に竦みながら必死に弁明する。
「ほ、本国に配備されている部隊は学徒兵が中心なので……」
「くっ、教導団と実験部隊の出撃を急がせろ。それとフリーダムとジャスティスを各戦線に回して援護させろ!」
「無理です。すでに各部隊は眼前の敵と戦うのが手一杯です」
「フリーダムとジャスティスは一対多数の戦闘を考慮して開発されているはずだ!」
「フリーダムやジャスティスと相対している敵部隊は新型機を多数含んでおり、技量もかなり高い模様でして……」
だがパトリックが投入を決定した予備兵力が戦場に投入されはじめると次第に状況は好転し始める。加えてこの直後、司令部に初めての吉報が飛び込む。
「ハイネ隊より入電。『我、敵の新型大型MSを撃破せり。これより他戦線の救援に出る』だそうです」
「本当か!」
さらにヤキン・ドゥーエからの増援部隊がもうすぐに到着することが報告され、司令部は活気付いた。
トライデント撃破……これはザフトにとっての吉報ではあったが、地球連合軍にとっては間違いなく凶報であった。
「トライデントが?」
ハリンはこの報告に眉を顰めた。
「はい。例の核エンジン搭載型のMS、ジャスティスの攻撃を受けたとのことです」
「いよいよ、切り札がお出ましになったか。他の被害は?」
「護衛していたMS2個小隊が壊滅したとのことです」
「ふむ。相手はかなりの腕だな……他の部隊は?」
「他の部隊も次第におされ始めているとの事です」
「予想以上に頑強な抵抗だな……早めに脱出するに限るか。もうそろそろ、アーノルド隊の準備も終るだろうしな」
ハリンとしては最後のおまけとして、ザフト軍の中枢と言えるプラント本国の軍事ステーションをアークエンジェル級2隻の火力で叩いておきた
かったのだが、現状ではそうも言っていられない。内心で舌打ちしつつ、彼は即座に命令を下す。
「全艦は火力を前方に集中しろ。一気に戦線を突破し、現宙域を離脱する!!」
この命令を受け、ブルースウェア艦隊は即座に火力を前面に集中させる。艦隊前方にはナスカ級1隻、ローラシア級4隻が立ち塞がっていたが
30隻以上の艦艇から集中砲火を浴びては、幾ら性能的には優れていても堪らない。5隻は次々に撃沈、或いは撃破される。
「よし、突破する!!」
プラントからの離脱を図ろうとするブルースウェア艦隊だったが、勝ち逃げは許さないとばかりにザフト軍が追撃を行う。
「簡単に逃げれると思うな!!」
ハイネが操るジャスティスはブルースウェア部隊に猛攻を浴びせる。ダガーの改良型では、ジャスティスに歯が立たず一方的に撃破される。
性能では絶対に敵わないと見たダガー部隊は数にものを言わせて弾幕を張るものの、ハイネは巧みにその弾幕を避ける。
「くそったれ、何て速さだ!」
ダガー部隊の隊長は悪態をつくが、悪態をついて敵に弾が当るほど世の中は甘くない。さらに言えば、彼等にはジンを中心としたザフト軍部隊が迫っていた。彼等はジャスティスに注意を取られすぎた故に、味方から取り残されたのだ。
「し、しまった!」
彼等は必死に戦うも、自分達と同数の敵機を道連れにして全滅する。尤もハイネからすればその光景は背筋が寒くなる光景であった。
「孤立した敵を圧倒的多数で包囲してもこのザマか」
総兵力で圧倒的に劣るザフトにとって、連合軍MS1機を倒すのに、自軍MS1機を犠牲にするようでは、到底戦い続ける事は出来ない。
そんなことを続けていれば、あっという間にザフトは継戦能力を喪失してしまうだろう。
「いや、連中には訓練が足りないだけだ。まだ、まだだ。時間があればまだやれるはずだ」
ハイネはそう言って自分を奮い立たせ、次の目標に目をつける。
「あれが新型か……次はアイツだな」
ハイネが見つけたもの、それはザフト軍に多大な出血を強いているアヴァリスだった。一方のアヴァリスも、ジャスティスの接近に気付く。
「あれが噂の核エンジン搭載機か、こんな時に出てきやがって」
アヴァリスを操るヘンダーソンは、招かれざる来客を見て露骨に舌打ちする。彼は強敵と戦うことに生き甲斐を感じるような戦士ではない。
「全く面倒な時に……」
そう言いつつも、ヘンダーソンは公僕の義務として給料分の仕事をするべくジャスティスを迎え撃つ。
「落ちろ!!」
補給のために空母に着艦した際にストライクIWSPを装着したアヴァリスがジャスティスに対してありったけの火力をぶつける。
115ミリレールガン二門、105ミリ単装砲二門、さらにビームライフルが一斉に火を吹く。勿論、実体弾ではジャスティスの装甲を貫くのは難しいが、それでもジャスティスの姿勢を崩すことは出来る。
だがハイネはそれだけの破壊力を持つ弾丸の雨を潜り抜け、ビームをアヴァリスに浴びせる。その射撃精度はその辺りのヒヨッ子パイロットとは比べるべくも無い程の精度だったが、アヴァリスはそれをあっさり避けてみせる。
「ちっ、どうやらかなりの腕のようだな」
ハイネはアヴァリスの射撃精度やその操縦技術から、相手がかなりの腕前であることを悟る。
「一気に接近戦を挑むか」
射撃戦闘では蹴りがつけれないと見たハイネは、ジャスティスが得意とする接近戦闘を挑むべくバーニアを吹かしてアヴァリスに向けて突進する。
ハイネはアヴァリスとの距離を詰めつつ、両肩のフォルティスビーム砲を放つ。これを見たヘンダーソンは即座に機体を上昇させて回避するが
ハイネはこれを先読みしていた。ハイネは予想位置めがけて数発のビームを放つ。
「くそ、読まれていたのか」
アヴァリスはABシールドでビームを受け切るが、動きが止まってしまう。ハイネはこれを好機として一機に距離を詰めて、ビームサーベルで
アヴァリスに斬りかかる。
「何の!!」
ヘンダーソンは、咄嗟にシールドを前面に出してジャスティスのビームラーベルを受け止める。ジャスティスとアヴァリスの力比べとなる。
しかし両者共にパワーはほぼ互角。だがジャスティスのビームサーベルがアヴァリスのシールドを焦がし始め、このままではシールドが持たない
と判断したヘンダーソンはアヴァリスの右足でジャスティスに蹴りをいれる。
「ぐあ!!」
いくらPS装甲を装備しているとは言えノーダメージとはいかず、ジャスティスは後方に弾かれる。ハイネはすぐに距離を詰めようとするが
アヴァリスはビームライフルを連射して、ジャスティスの動きを牽制して近寄らせない。
「格闘戦をするつもりはないんでね」
相手の得意な分野で戦う趣味は、ヘンダーソンは持ち合わせていない。彼は比較的、アヴァリスが得意な中距離戦闘に持ち込みたかった。
アヴァリスが離れるのを見たハイネは、アヴァリスが放つビームを避けながらビームライフルとフィルティスビーム砲でアヴァリスを攻撃する。
だがこの時、彼は信じられないものを見る。アヴァリスはジャスティスのビームライフルが放ったビームを2発ほど胴体に受けながら無傷だったのだ。さすがにこれにはハイネも驚く。
「くっ小型MSで、これだけの防御力を持つとは……手強い」
ジャスティスのビームライフルはゲイツよりも強力だったが、それでもアヴァリスを撃墜するのは難しい…この事実はザフトにとって憂慮すべきことだ。ザフト軍の切り札である核エンジン搭載機のビームライフルが通用しないのでは、戦争にならない。
「こんな機体が大量に投入されたら、勝ち目はないぞ……」
ハイネがそんなことを呟いた直後、援軍が到着する。それは緊急事態ということで実戦投入が決定された試作機のザクであった。
「ザフトの新型か?」
ヘンダーソンは核エンジン搭載機に加え、未知の新型機を相手にするのはきついと見て、周りにいた友軍を集めて袋叩きにしようとする。
だがヘンダーソンが次に見たのは信じられない光景だった。駆けつけてきたザクは、装備しているレールガンから立て続けに砲弾を発射。
正確無比な精度をもって、一度に3機のダガーLを撃破する。
あまりの光景に呆然となっているMS部隊の隙をつくように、ザクはブレードトマホークを持ってダガー部隊に斬りかかる。ダガーはシールドで防御しようとするものの、ザクの余りの早さに動作が追いつかず、あっさり切り裂かれる。
「きょ、距離を取れ!」
ヘンダーソンは部下達に命じるものの、ザクのパイロットはそれを許さない。近くにいたダガーやダガーLは次々にトマホークの餌食となり距離を取ろうとした者は、レールガンによって次々に撃墜される。
「ザフトの新型MSは化物か!」
ジャスティスに加え、この新型を相手にするのは犠牲が多すぎると見たヘンダーソンは弾幕を張りながら後退を指示する。
ザクのパイロットは追撃しようとするが、バスターやバスターダガーなど強力な火力を持つ機体が増援として現れるのを見ると追撃を断念した。
「すごいな。これが噂のザクか」
ザクの活躍ぶりを見たハイネは思わず唸った。そんなハイネにザクのパイロットから通信が入る。
『こちらはザフト兵器設計局ヴェルヌ局所属のコートニー・ヒエロニムス。聞こえるか?』
「ああ。助かった。それにしてもその新型機、かなりの性能だな」
『評議会の肝いりで開発されている機体だからな』
「その機体はいつごろ、配備されるんだ?」
『まだ未定だ。何しろテストも殆どしていないからな』
「テストなしで?」
さすがのハイネもこれには驚く。新型機というのは初期のものは大半が不具合が出るものなのだ。それなのにテストなしに虎の子である試作機を貴重なテストパイロットと共に前線に送り出す……それは如何にザフトが追い詰められているのかを示していた。
『ああ。先の戦闘でもかなり不具合が出ている。これ以上は戦闘継続は難しい』
「わかった。後は任せておけ。お前さんの奮闘は無駄にはしない」
『頼んだ』
ザクに代表されるように、ザフトが試作機まで持ち出して追撃しだしたことでブルースウェアの被害は次第に増大した。
各部隊から寄せられる被害報告にハリンは眉を顰める。
「ちっ、今日はザフト軍の新兵器展示会か」
本国を強襲しているのだから、当然予想されるべきことだったが、余りに被害が多すぎた。彼は衰えたとは言え、未だザフト軍の戦力は侮れないことを痛感した。だが作戦がほぼ成功したと彼は判断する。
「さて、総仕上げだ」
ブルースウェア主力にザフトのすべての目が向いており、ヤキン・ドゥーエの戦力も自分達の追撃に回されている……これは本命であるアーノルド隊の障害が減った事を意味する。主力がこれだけ派手に暴れたのは、全てはこのためだった。
ザフト軍司令部では、ブルースウェア主力部隊とは、プラント本国を挟んで正反対の位置での異常を感知した。
「敵艦隊多数出現!!」
「何?!」
パトリックはこの報告に驚愕した。そしてハリンは勝利を確信した笑みを浮かべる。
「勝ったな」
だがハリンも、次の瞬間驚くべき報告を耳にする。
「艦隊前方に、エターナル級を含む約30隻の艦隊を発見!!」
「何?!」
遅まきながら、ラクス軍がついにプラント本国に到着したのだ。
「拙い……」
ハリンは焦りを隠しきれない。何しろ自分の艦隊はプラント本国での戦闘でかなり疲弊しているのだ。ここで新たな敵艦隊と戦う余裕は無い。
一方のラクスは絶好のタイミングとまでは言わないが、それなりのタイミングで参戦できたことを理解し、この好機をいかすべく動き出す。
「ザフト艦隊と協力してブルースウェア艦隊を挟撃します」
「了解しました。全艦、砲撃戦用意!! 目標、ブルースウェア艦隊!!」
ラクスとバルトフェルドの指示の元、ラクス軍はブルースウェア主力艦隊に照準をあわせる。
「射撃準備完了!!」
オペレータの報告を聞いて、バルトフェルドは躊躇う事無く命じる。
「撃て!!」
プラント本国での戦闘で疲れ切ったブルースウェア艦隊に、容赦の無いビームとミサイル攻撃が降り注ぐ。
全ての準備を終えてミラージュコロイドを解除したアーノルド隊だったが、ブルースウェア主力が挟撃されていることを見て、その司令部では迷いが生じていた。
(このままでは主力艦隊が壊滅してしまう……)
いくらブルースウェア主力とはいえ、プラント本国守備隊に加えて、30隻余りの謎の艦隊との挟撃を受ければ壊滅する可能性が高い。
待機していた支援部隊が駆けつけて、謎の艦隊を撃破したとしてもザフト軍から逃げきれる可能性は低くなる。そうなれば自分達も危うい。
(こうなれば……やむを得ないか。命令に反するが、まあ誤射ということにしてしまえば良い)
プラント本国への攻撃は厳禁とされていたが、このままでは自軍が全滅する可能性が高くなる……彼は多少コーディネイターに犠牲を強いても味方を生かすことにした。
アーノルドはアルキメデスシステムを操る管制艦にある指示を出す。オペレータ達はこの指示に驚愕するも上官命令は絶対であるためにその指示に粛々と従って、アルキメデスシステムに入力するデータを一部改編する。これにアーノルドの幕僚たちはこれに異議を唱える。
「し、司令。これはさすがに拙いのでは……」
「構うものか。空の化物たちを生かすために、下らん政治のために友軍を犠牲にする必要は無い」
だがアーノルドは部下たちの反対意見を抑えると、即座に攻撃開始を命じる。
「アルキメデスシステム照射開始。目標、ジェネシス!!」
「了解!!」
彼の指示を受けてアーノルド隊が1時間で設置した数十万枚の極薄の鏡が急速に光を発し出す。その光景はハリン、ラクス、そしてパトリックの三者全員が見る事が出来た。
ハリンは勝利の笑みを、ラクスとパトリックは驚愕の表情を浮かべる。
そして次の瞬間、太陽光を利用したある意味最も原始的な戦略兵器・アルキメデスシステムが、プラントが誇る戦略兵器・ジェネシスに牙を向いた。
放たれた光は、一瞬にしてミラージュコロイドなどで巧みに秘匿されていたはずのジェネシスに命中する。
PS装甲を施す暇もなく、ジェネシスは太陽光エネルギーの前に成すすべもなく外殻部を蒸発させられていく。
工事が未だに終わっていない箇所から次々に高エネルギーが内部に侵入し、ジェネシス内部を食い尽くしていく。
ジェネシス建造に必要な物資を運んでいた輸送船が、或いはジェネシス防衛のために配備されていたMS部隊が、まるで飴細工のように溶かされ蒸発していく。
そしてついにその破壊は、ジェネシスの中枢に及ぶ。NJCが、動力炉が余りの高温に耐え切れず融解し、そして誘爆していく。
破壊は破壊を呼び、ジェネシスを崩壊へ導いていく。照射開始から数十秒後、ジェネシスは期待された役目を果たす事無く閃光の中に消えた。
だが次の瞬間、アズラエルにとって最悪の事態であり、ハリンにとって想定外の事態が発生する。
「高エネルギー体の一部がプラントに向かいます!!」
「何?!」
ジェネシスに牙を向いていたエネルギーの一部が、突如としてその矛先をプラント本国に向けたのだ。
「馬鹿な、アーノルドは何をしている!?」
だが彼の叫びも虚しく、アルキメデスが放った光はプラント本国に降り注いだ。
あとがき
青の軌跡第33話をお送りしました。
ちょっと、アルキメデス(ソーラシステム)が強力過ぎたかもしれませんが、ついにアズラエルが恐れていた事態が起こります。
この後始末に苦しむことでしょう(邪笑)。
駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。
それでは青の軌跡第34話で御会いしましょう。
代理人の感想
・・・つくづく不幸な奴よの、アズラエル。
アーノルドの思考は理解も支持も出来るんですけど、これはねぇ・・・・。
南無南無。