アラスカ戦勃発まであと1週間となった。
アズラエルは来るべきパナマ戦、そしてオーブ戦に備えて新装備の開発に余念が無かった。
今日も今日とて技術部に自ら足を運び、自らが考案した新型機の進み具合の視察及び技術者との意見交換をしていた。
「どうです? 新型機の調子は?」
「はい。輸送機、攻撃機、偵察機ともに新型のバッテリーを追加装備させることでミラージュコロイドが展開可能になりました。
ですが単価が高すぎて、この調子では量産機として正式に採用してもらうのは難しいかと……」
「構わないさ。もとよりこの機体は大量生産をして実戦に投入するものじゃないからね」
「はぁ……」
では一体何のために、と思わず口に出そうになったのを慌てて飲み込む。あまり下手なことは言うことは出来ない。
もしこの人の機嫌を損ねようなら自分達の明日の暮らしがどうなるか火を見るより明らかだからだ。
しかしこの技術者の様子に気にすることなく、目の前にある機体を見つめ続ける。
「それより、こいつのミラージュコロイドの持続時間は?」
「は。輸送機、攻撃機は約30分。偵察機は約50分です」
「十分です。よくやってくれました。あとで経理の人間に命じて君たち開発部の人間にボーナスを出しましょう」
「ありがとうございます。社長」
開発主任がひたすら頭を下げているが、すでにアズラエルの頭には彼のことなど片隅にもなかった。
あるのは今後行う全ての戦争での戦略のみ。
(さて、これでオーブ戦になった際にマスドライバーを確保するための手駒は揃うな。
もっともアラスカとパナマで予定通りになれば、オーブ戦など考える必要もなくなるんだけどね……)
今後の展開を夢見て、思わず小さく笑うアズラエル。
(バスター、デュエル、それにあの3バカトリオもパナマに輸送させている。
最悪の場合マスドライバーを失ったとしても、ザフト地上軍の主力を殲滅できるから一応は帳尻はあう。
でも、その場合はオーブ戦は必至か……あの無敵機体とフリーダム、ジャスティスに対抗できる機体はそうないからな)
何で核動力炉で無限に活動できるんだ?、と無粋な突っ込みをしたいが突っ込む相手もいないので、アズラエルはその衝動を抑える。
(尤も、フリーダムが無事にアラスカから離脱できるかどうかは微妙だろうな。
まぁ個人的にはアラスカで死んでくれたほうが後腐れがないから良いんだけど)
先ほどから躍起になって説明をしていた開発主任が何か言っていたが彼右から左へとスルーしていた。
(さてキラ・ヤマト……最高のコーディネイターよ、お前は無事に生き残れるかな?)
アズラエルはくっくっくっと忍び笑いをこぼす。
「しゃ、社長?」
さすがにこの様子を不審に思った側近達が恐る恐る尋ねる。だがアズラエルは軽く手を振って大丈夫と知らせる。
「さて私も暇ではないですしこの辺で帰るとしましょうか」
「わかりました。社長今日は視察に来ていただきありがとうございました」
「ははは、別に其処まで畏まる事はありませんよ。これも全ては我々ナチュラルが勝つためです。
…ああ、先ほど言ったボーナスは明日までには振り込んでおきましょう」
礼を述べながら頭を下げる主任を尻目に扉を開き部屋を出た。
この後もいくつかの視察をこなし、アズラエルは意気揚々と本社へ戻って行った。
そしてこの工場視察の1週間後………運命のアラスカ戦が開始された。
青の軌跡 第2話
パナマ基地に停泊中の地球連合軍艦隊旗艦『ワスプ』でアズラエルはJOSH−Aが急襲されたとの報告を聞いた。
「情報どおりですね」
作戦室に写しだされる様子に満足げに頷くアズラエル。
その彼にブルーコスモス派の将校である艦隊司令官が意気揚々に言った。
「しかし、アラスカ自体が囮とはさすがのコーディネイターどもも思わないでしょうな」
「その通り。これで連中の余剰兵力を根こそぎ奪うことが出来ます。
まあユーラシアと東アジアがあとで色々と言ってきそうだけど……。
それよりも問題はパナマの防衛。JOSH−Aが成功してもこれで失敗したら意味がないからね」
この物言いに、将校は不満げに問い返す。
「しかし奴らが本当にパナマに来るのでしょうか? 8割殲滅できれば奴らは当分は動けないと思うのですが」
「僕達は戦争をしているんだよ。奴らだって必死のはずさ」
「はぁ」
「何もないなら越したことは無いけど、予防策を張っていて損は無いんだから」
「……わかりました」
「さて、僕らはもうしばしこの様子を観戦することにしましょうか」
そういうと、アズラエルはスクリーンに映るアラスカで行われている激戦の様子に見入るのだった。
このアラスカ基地の様子を映していたのはアズラエルが手配しておいた新型偵察機『バロール』であった。
ミラージュコロイドを装備し、敵に察知されることなく任務を遂行するように作られたこの機体の初任務は
皮肉なことに、友軍に発見されずにアラスカ基地、守備隊ごと敵を葬り去る外道作戦の監視であった。
2人のパイロットの見守る中、アラスカ基地の守備隊は次々にザフトに駆逐されていく。
「くそ、援軍はまだか?! このままだとあいつらが全滅するぞ!」
「まだです。どこにも友軍は確認できません」
彼らには、救援として第4洋上艦隊が向かっているので、それまでに敵の様子を探知しておくようにとの命令が下っていたのだ。
「ち、第4艦隊の連中は何をしているんだ!」
そうこうしている隙に、ザフト軍が浴びせ続けていた集中砲火によりついにメインゲートを突破破壊した。
「メ、メインゲートが………くそ、増援はまだか!」
増援が来るものとばかり、いや正確に言えば迅速に増援が来ると信じていたパイロットは味方の鈍過ぎる動きに歯噛みする。
だがメインゲート周辺に展開していた艦艇が脱出を図り、離脱していく姿を見つけると思わず通信をつなげようとする。
「き、機長、何するんですか?!」
「奴らは敵前逃亡しようとしているんだぞ?」
「しかしこんな状況では離脱するのもわかりますが」
「馬鹿野郎! 基地内の友軍を見捨てて逃げる奴がどこに居る! 増援が来るって伝えて踏ん張らせる!!」
そう言って通信をつなげようとしたとき、それは起こった。
一機のジンがユーラシアのイージス艦のブリッジに迫った瞬間、天空から一筋のビームが降り注ぎ、ジンのライフルを四散させる。
ついでに近くにいたデュエルもあっさり撃ち落された。尤もデュエルはディンに拾われて退避していったが。
「な……何が起こった?」
唖然とする彼らをあざ笑うように遥か上空から巨大な6枚の翼をもつ白色のMSが戦場に舞い降りる。
そして、降下するや否や周囲にいたジンやディンを蹴散らしはじめる。
「あれが増援か?」
「わかりません。ですがあのような機体は味方にはないはずです」
「じゃあ敵か?」
突如、戦場に現れた機体は何かを探すように戦場を自由に駆け巡る。その高い機動性にふたりのパイロットは度肝を抜かれた。
「凄い機動性だな。それにパイロットの腕もよい」
「機長、見惚れている場合じゃないですよ?」
そんなやり取りをしているうちに、彼らに撤退命令が届く。
「撤退? この状況でか?!」
半信半疑の機長は部下に尋ねるが、帰ってきた答えは変わらない。
「わかった……そういえばあのMSの姿はきちんと映したな?」
「勿論です」
「では、撤退する」
「………良いのですか?」
やや間をおいて尋ねられた問いに、機長は苦々しく答える。
「命令なんだから仕方ないだろう。それに、もうアラスカ陥落は間逃れない。手遅れだ………阿呆な味方のせいでな」
忌々しげに、呟きながら機長は離脱を指示した。
「……了解しました」
その様子を遠く離れたワスプで眺めていたアズラエルは謎の新型MSに呆然となる将校と対照的に微笑みを浮かべていた。
(ほぼ予定通り……まああとは第4洋上艦隊によるトドメがさされるのを待つだけか……)
アズラエルが第4洋上艦隊を派遣したのは、弱低下したザフト軍を掃討するためだ。
特にザフト潜水艦を撃沈することは大きな意味がある。
(母艦を多数撃沈すれば、連中の展開能力は大幅に落ちる。そしてそれはパナマ防衛が成功する確率が上がることを意味する)
内心で笑うアズラエル。
一応、オーブ戦の用意も進めてはいるがないに越したことはない。
何せ相手はあのオーブ。決して楽には勝てはしないだろう。
(最もクルーゼの母艦まで沈めるのは拙いが……そのときはそのときだ。
核兵器の代わりとなる要塞攻略兵器の開発もすでに指示している……何せ核が使えるほうが危険かもしれないしな)
だが、そこまで思考を続いたアズラエルの思考はひとりの将校の問いかけによって遮られる。
「アズラエル様、あれは一体………」
「わかりませんが、拙い事には変りませんね。速やかにサイクロプスを使う必要があるでしょう。
もっともサザーランド大佐のことです。もうそろそろサイクロプスを作動するでしょう」
心の中では苦い物を感じつつも、それを押し隠して言うアズラエル。
最もそんなことなど知る由もない将校は生返事をするのみ。
「はぁ」
「おや……はじめりましたね」
スクリーンに青い王冠のような光が広がっていくのが映り始めていた。
アラスカ基地を中心に広がっていくその光に飲み込まれたMSは操り手を失った人形のように倒れた後に爆発四散、
基地施設も次々にまるで砂の塔のように儚く砕け、崩壊していく。
「………これは」
一応、サイクロプスの効果を知っているアズラエルだが思わず呟く。
最も偵察機そのものが空域を離脱しつつあるせいで、映像は徐々に見えにくいものになっている。
しかしこの光の中で数千、いや下手したら数万の命が失われていることを彼は理解した。
電磁波で体中の水分が沸騰し、爆発四散してく兵士達……その姿を思い浮かべると、彼の心に急速に後悔の念が浮上してくる。
だが立場上、彼は気弱なところを見せられない。
そう気持ちを切り替えると、アズラエルは少し間をおいて満足そうに言った。
「………さて、これだけ派手にやればザフト軍もさぞ大打撃だろう」
「はい。恐らくは8割近くは撃破出来たものかと」
「それじゃあ、あとはダーレスの働きに期待ってところだね」
さも楽しそうに笑うアズラエルだったが、内心では修としての良心が疼くのを感じざるをえなかった。
(俺が殺した………結果を知りつつも、俺が……。ここはアニメの世界じゃない。
いや少なくともこの世界の住人は命あるものだ。俺はそれを奪った……俺もこれで人殺しか)
覚悟していてもやはり今まで平凡な大学生であった彼にしてみれば良心が痛む。
(しかし俺は負けるわけにはいかない。この戦いにはナチュラルの命運が掛かっているんだ)
ちらりと周りの将校たちを見る。
命ある存在と言うのなら、ここにいる自分に従ってくれる将兵達も変らない、と彼は改めて思う。
(俺は負けるわけにはいかない。これ以上、無駄な犠牲を出さないためにも)
アラスカ基地が爆発し、消えていく様を見ながら彼はそう決意した。
それが多分に自己勝手なものであるかを承知しながら……。
一方で、サイクロプスのもう一方の被害者であるザフト軍は……
「こ……こんな……!」
アラスカの惨状を見て、ひとりの指揮官が言葉を詰まらせる。
いや、他の兵士達もまたあまりの非現実的な光景に目を奪われている。
「してやられましたな、ナチュラルどもに……」
対照的に、クルーゼは歪んだ笑いを仮面の下に浮かべていた。
このスピットブレイクの情報を漏洩した張本人である彼にはこの結果は満足すべき所だった。
だがその笑みも次の警報によって消える。
「どうした!?」
「レーダーに機影を確認!」
狼狽した口調でレーダー手が告げる。
「6時の方向に地球軍の航空機多数!! 接触まであと3分!」
「何だと!!?」
先ほど言葉を詰まらせていた指揮官が驚く。
「拙いですな。我々は友軍の回収の為に動けない。このままでは良い的になります」
笑みを消したクルーゼの言葉に誰もが凍りつく。
アラスカ基地が自爆したとはいえ、かろうじて生き残った部隊も多数存在する。
人口が少ないプラントの軍隊であるザフトにとっては一人一人の兵士の重要さは連合をはるかに上回る。
友軍の救出は至急かつ、重大な任務であった。
しかしこのままでは友軍を回収するどころか潜水艦隊も大きなダメージを受けてしまう。
「くっ……残っているディンを全て出せ! 何としても奴らを足止めするんだ!」
これにクルーゼが反論した。
「しかしディンもかなりの数があれに巻き込まれています。時間稼ぎにもならないのでは?」
「相手はナチュラルの戦闘機だぞ! 構わん、使える機体は全部出せ!!」
決して友軍は見捨てないとの心意気に多くの兵士が同調する。
最もクルーゼはこの動きを内心で嘲笑していたが……
大西洋連邦軍第4洋上艦隊から発進した160機あまりの第一波攻撃隊の主な任務はザフト軍潜水母艦の撃滅であった。
艦隊司令のダーレスは、潜水母艦さえ沈めれば陸に上り補給を断たれたMSなど物の数ではないと考えていたのだ。
ゆえに第一波攻撃隊は徹底的に潜水母艦に攻撃を行うように厳命されている。
勿論、ザフトも黙ってみているはずが無く、辛うじて生き残ったディンを総動員して迎え撃つ。
「敵は少数だ。数で押し込むぞ!!」
だが攻撃隊の隊長の言葉の通り、ザフトが出しえたディンはあまりに少なかった。
何せ先の爆発の影響でまともに飛べないディンがかなりあり、飛べたとしても整備と補給が終わっていない機体も多いのだ。
そして慌てて整備を行おうとするザフト軍だが、それはさらなる悲劇の呼び水になる。
空中戦はまず、地球軍戦闘機からの対空ミサイルの発射によって始まった。
それもディン一機あたりに向かって4機の戦闘機がミサイルを放つと言う飽和攻撃。さすがのディンでもこれは堪らない。
次々にミサイルの餌食となり撃墜されていく。辛うじて生き残ったものも、集団戦法を用いた地球軍戦闘機に
一機、また一機と撃ち落されていく。勿論、彼らも黙ってやられてはいない。
機動力に物を言わせて強引に戦闘機では対処できない下方に回り込んで、相手を撃墜すると言う離れ業をやったディンもあった。
言うのは簡単だが、かなりの急激な機動でありナチュラルのパイロットならまず耐えられない。
コーディネイターの面目躍如といったところだろう。だが如何せん、多勢に無勢であり戦局をひっくり返すには至らない。
「駄目だ! 相手が多すぎる、阻止できない!!」
ディンのパイロットの献身的な働きにも関わらず、攻撃隊は数に物を言わせて次々に防衛線を突破していく。
そしてディンの手荒い歓迎会を突破した彼らの眼下には友軍の救出を行っているザフト軍潜水母艦の群れがあった。
「ひょ〜こりゃ豪勢な食事だな」
「いいか、コーディネイターたちが折角用意してくれたご馳走だ。食い残すんじゃないぞ」
「分かってますよ」
眼下の海に展開する多数の潜水母艦群を見て多くのパイロットは舌なめずりした。
「全機攻撃を開始せよ!」
定められた目標に対していち早く発射位置に到達した部隊が対艦ミサイルを放つ。
回避しようと決死に舵を切る潜水母艦もあるが、所詮は無駄な努力であった。
「命中、命中!!」
喝采をあげるパイロット。しかし次の瞬間、それはさらなる歓声に変る。
対艦ミサイル4発の直撃を受けた母艦が、立て続けに誘爆を起こして轟沈したのだ。
「ひゃっほー! こいつは幸先が良いぜ」
母艦の周りには、艦やMSの破片、それにかつて人間だったものが浮いているのみ。
生存者は恐らく皆無だろう。
最もこの悲劇の最大の原因はザフト軍が慌ててディンを飛ばそうとしていたことだ。
現在、母艦の多くは迎撃のため、ディンの発進作業を行っている。その作業中にミサイルが飛び込むのだ。
敵を葬り去るための兵器が自軍を殺傷するのに役立っている。何とも皮肉であったが、それをパイロット達は知る由もない。
「こちらブルー小隊、攻撃を開始する」
「ブルーツー了解」
「ブルースリー了解」
彼らはただ命令どおりに、定められた攻撃目標に対して次々にミサイルを放つ。
攻撃機全機から放たれたミサイルの総数は100発を下らない、文字通り飽和攻撃であった。
Nジャマーによって命中率は落ちているとはいえ、さすがにこれだけの数が放たれればかなりの数が命中する。
ブリッジに、MS発進口に、機関部にミサイルが命中して紅蓮の炎に包まれて沈む潜水母艦の群れ。
炎を背負いザフト軍母艦がのた打ち回る様は、今まで散々に苦渋をなめさせられてきたパイロット達の溜飲を下げるものだった。
「はっはっは、思い知ったか! 空の化け物供め!!」
「撤退ですな……」
近くのボズゴロフ級潜水母艦の1隻が炎上、沈没していくさまをモニターで見ながらクルーゼは言った。
かろうじて彼の乗艦はミサイルの直撃を受けなかったものの、他の艦の多くは爆発炎上している。
もはや友軍の収容は不可能であった。
「くっ……」
指揮官は歯噛みするが、もはや彼には手はなかった。
「全軍撤退………」
血を吐くような思いで指揮官は命じる。
他の兵士達もうな垂れつつもそれに従った。ブリッジが葬式会場のような暗い雰囲気になる。
彼らは復仇を誓いつつも、離脱を開始した。
これに従い、かろうじて被害を間逃れた潜水母艦は旗艦に続いて陸で救助を待つ部隊を見捨てて離脱していく。
一方でそれを見た多くのザフト兵は味方に見捨てられたと悟り士気を喪失した。
しかし相手が士気を喪失したとしても、地球軍には手を緩める理由は無かった。
アラスカの仇とばかりに航空攻撃と、現場にたどり着いた艦隊による対地攻撃が行われる。
巡航ミサイルに艦砲射撃によって次々に破壊、もしくは行動不能にされていくMS。
難を逃れるべく物陰に隠れようとしたMSにも対地攻撃ヘリが群がって砲火を浴びせる。
もはやザフト兵は哀れな標的に過ぎなかった。
バッテリーが切れ、動けなくなったMSを破棄して逃れようとする兵士にも容赦のない機銃掃射が浴びせられる。
いや仮に機銃掃射から逃れられたとしても、絶え間ない艦砲射撃とミサイル攻撃の巻き添えで多くの兵士が死んでいった。
このあと数時間続いた掃討戦でザフトは投入したMS部隊の実に9割を損失。
そして潜水母艦もその6割を失うと言う大損害を被った。
それは補給能力が弱いザフトにとっては致命的ともいえる大打撃であった。
戦闘終結の数時間後、ワスプの私室において戦闘の最終報告を聞いたアズラエルはほぼ満足した。
「これで、パナマにこられる兵力は限られたものになるな」
TV本編を遥かに上回る大損害。ザフトがこれを一朝一夕に回復することは不可能だ。
だが彼らはアラスカでの失点を、何とかパナマで挽回しなくてはならない。
軍事的、そして政治的理由で……。
(この失態をごまかすにはクライン親子に罪をかぶせる程度では不可能。
あの議長のことだ、間違いなくここに来るだろう……罠が張り巡らせてあるとも知らずに)
すでにG3機とデュエル2機、バスター4機が対EMP防御措置を行って配備されており、
ストライク・ダガーも半数以上が措置を終えている。
ふと、アラスカ戦以降消息不明のキラの台詞を思い出す。
(ふん、お前は最後まで何と戦うのかと言う問に答えを出さなかったな。
と言うか偉そうに言っていたが、お前らのやっていたことはテロリストと変らないんだぞ? わかってるのか?)
と言うか、それは戦争と言うものを全く理解せず単なる弾の打ち合いとしか理解できなかった阿呆なスタッフのせいだな
と思考を切り替えたが、今度はスタッフ、特に監督とかに対する憤りが出てくるアズラエル。
(腹が立ってしょうがないが……あの阿呆監督のことはこの際忘れよう。この場で憤っても意味がない)
スタッフ陣のことを頭から追い出すと、今度はアラスカでの犠牲者が書かれた報告書を取り出す。
(やはり死者は万の単位にいくか……)
自分の指示によってこれだけの人間が死んだとなれば、やはり良心の痛みを彼は感じざるを得なかった。
(痛ましい犠牲だ。だが、俺はお前達の死を絶対に無駄にしない。何としてもこの戦争を早期に終結させて見せる。
だから、勝手だとわかっているが……お前達の冥福を祈らせてくれ)
戦争が終わったらアラスカ戦で命を落とした者達を慰める為に、私費で慰霊碑の建設でもしようと彼は思った。
たとえ、それが多分に偽善的と分かっていても、彼には必要なことだった。
かくして、アズラエルにとって最初の試練であるアラスカ戦は幕を閉じた。
ザフト軍は史実をはるかに上回る大損害を被り、各地の戦線を縮小せざるを得なくなっていった。
だが、彼らもまた負けるわけにはいかないのだ。
軍情報部の調査によれば、すでにザフトは部隊の再編に取り掛かっている。
アズラエルにとって戦争の正念場は、ここからであった。
あとがき
earthです。青の軌跡第2話お送りしました。
さて、アラスカ戦終了。ザフトはMSは勿論ですが、潜水母艦も大きな損失を被りました。
これによってザフトは海洋における活動が大幅に制限されることでしょう。
……キラ達の描写がないのは、アズラエルが主人公のSSと言うことで勘弁してください。
え〜次はパナマ戦、正確に言えばその準備編になると思います。
パナマ戦では3バカトリオとそれに少数ですが生産された地球軍のバスターとデュエルの活躍を書きたいなと思っています。
パナマのマスドライバーが崩壊するかどうかはお楽しみと言うことで……
それでは駄文にも関わらず最後まで読んでくださってありがとうございました。
青の軌跡第3話でお会いしましょう。
管理人の感想
earthさんからの投稿です。
容赦が無いですね、このアズラエル君(苦笑)
この調子だと、オーブも案外簡単に落ちてしまいますかねぇ?
元々影の薄いキラ君は、さらに薄くなっていますが(爆)