アズラエルが率いる地球連合軍艦隊の主力部隊はパナマ基地で出撃準備を急いでいる。

慌しい雰囲気が艦内全域を漂う中、アズラエルは特に気を負う事無く部下から提出された報告書に目を通していた。

「MSのグングニール対策は終了。後はザフトがパナマにのこのこ降りてくるのを待つだけか」

アズラエルは私室で一通り報告書を読み終わると満足そうに呟く。

「…ああ、そういえば奴らに関する報告書があったな」

彼は頭の片隅に追いやられていた3バカと戦闘用コーディネイター達を思い出し、机の奥底に埋まっていた関連書類を取り出して読み始める。

彼の顔は書かれた文面を読み進めるうちに眉間に皺が寄って行き、最後の辺りになるとうんざりした顔で書類を机の上に放り投げた。
 
「あ〜やだやだ。まったくこの世界の住人はどうかしてるよ」

そこに書かれたあまりの非人道的な行為の数々にアズラエルは顔を背けたいと言う感情に駆られた。

だがこれは自分が指示したこと、修が取り付く前にやったことだとは言え、アズラエル自身がやったことであると

言うことを思い出しアズラエルは勇気を振り絞り事実を直視した。
 
そして、事実を直視すると次第に彼らと直に話をしてみたいと言う感情が膨れ上がってきた。

「………あってみるか」

彼らと彼らがこれから起こる戦いで駆る予定のデュエル、バスターはまだこのワスプの艦内で整備されているはずだ。

しかしどのように会うか?、それが問題であった。

(無難なのはやっぱり呼び出すことなんだろうな……こちらから会いに行くと色々と不都合そうだし)

仮にも自分は反コーディネイターを掲げる組織『ブルーコスモス』盟主なのだ。
 
それが戦闘用コーディネイターにわざわざ自ら足を運んで会いに行くのは不自然だろうと彼は思う。

特にTV本編の自己中心的な性格のアズラエルを知る者から見れば不審に思うのは必定。

「………仕様が無い、ここに呼ぶか」

アズラエルは苦労するだろう担当者に心の中で合掌しながら、艦内電話でその当人に連絡を入れる。

「もしもし、僕だけど………ああ、例の連れてきた戦闘用コーディネイター、そうイレブン・ソウキスを連れて来てくれない?」

彼は外伝で読んだことのあるイレブンを指名した。別のソキウスでも良かったが、彼はあえて脱走したイレブンを選んだのだ。

最もそんなことを知る由も無い担当者は『何か拙いことしたかな?』と内心びくびくしながら尋ね返した。

『何かあれに御用があるのですか?』
 
「まあ戦闘用コーディネイターとやらをこの目で見ておきたいんだよ。

 なにせパナマ防衛の一翼を担うんだ。だから本人がどんな奴か知っておきたくてね」

『ですがソウキスはコーディネイターですが……』

  担当者は口ごもる。何せ相手はブルーコスモス盟主。

もしソキウスがアズラエルの気分を、いや万が一傷つけることでもしたら自分は文字通り首が飛ぶ。

それが分かっているだけに躊躇った。誰しも危険なことを敢えて行おうとは思わないだろう。

「問題ないさ。どうせ心理コントロールはしているんだろう? だったら安心さ」

渋る担当者を安全性が高いことを理由に説得しに掛かるアズラエル。

「それに何か問題があっても、それは僕の責任だからね」

『……わかりました。ですが私と警備員を同行させて宜しいでしょうか?』

責任をアズラエル自身が取ることを聞かされて少しほっとした担当者だったが、彼自身を含めた安全の配慮からそう懇願する。

最もアズラエルにはそれが過剰な措置にも思えたが相手がこちらのことを思って言っていると思い直すと承諾する旨を伝えた。

提案を了承された担当者が感謝の意を表するのを聞くと、アズラエルはやや不満げに受話器を置いた。

  「全く、あまりに臆病になりすぎだな」

と、不満を言いつつもアズラエルはおとなしく私室で彼の到着を待った。

そして、数分後……躊躇いがちなノックがした。

「アルバート研究主任、並びにイレブン・ソキウス参りました」

アズラエルは少し間をおいて、できるだけ威厳を持たせた声で答えた。

  「入れ」







              青の軌跡 第3話



 

「失礼します」

まず入ってきたのはソキウス達の担当を勤める科学者アルバートだ。

続いてお目当てのイレブン・ソキウスがおずおずと入ってきた。

そして最後に屈強な警備要員がソキウスの動きを監視するように入った。

「彼がイレブン・ソキウス?」

「はい。戦闘用コーディネイター『イレブン・ソキウス』です」
 
「ふ〜ん」

品定めをするように見るアズラエル。

そして暫くすると書類を片手に持ちながら、おもむろに言った。

「確か報告書にある通りなら、通常のコーディネイターより高い戦闘能力を持つってあったけど」
 
「はい。それには間違いありません。乗機となるデュエルの調整も終了しており、高い戦果が期待できます」

「へぇ〜でも、ストライクのパイロットには及ばないんじゃないの?

 何せ報告にある限り、彼は奪われたG4機を相手にたった1機で戦い、そのうえブリッツ、イージスを倒しているけど」

このときイレブンの表情がわずかに変化するが、誰も気づかなかった。

「キラ・ヤマトは異常としか言いようがありません。MIAになったことは非常に残念です」

「………」

口惜しそうに言うアルバート。
 
最も彼が口惜しそうに言うのは、キラ・ヤマトと言う実験動物が失われた事に対する悔しさがあるからであり、

決してキラと言う人間のことを惜しんでいるわけではない。

それが分かるだけに、アズラエルは内心の彼に対する侮蔑を表に出さないことに苦労した。

(こいつら人の命を何だと思ってやがる……最もアラスカの作戦を実施した俺が言える立場じゃないか)

内心で自嘲するアズラエルに誰もが予想しなかった人物が声をかけた。

「キラ・ヤマトはそんなにも強いコーディネイターなのでしょうか?」
 
誰もが驚き、声の主イレブン・ソキウスを見た。

慌てて叱責しようとするアルバートだったが、アズラエルはそれを止めさせる。

そしてあえてイレブン・ソキウスの問に答えた。しかもかなり誇張した内容を。

「ああ。どうやら彼は君たちソキウスより強いらしい。
 
 何せ訓練さえなしにGを起動し、ザフト軍きっての精鋭部隊クルーゼ隊に煮え湯を飲ませ、

 砂漠の虎率いるバルトフェルド隊を壊滅させ、最後には1機のGで4機のGの内2機を倒している。

 恐らく最強クラスのコーディネイターだろうね。全くもってMIAとは残念だよ」

「…………」

黙り込むイレブン。

(対抗意識を燃やしているのか?)

  アズラエルはイレブンの反応を見て考え込む。

(何せ、彼らはナチュラルの役に立てることを最大の喜びとしている。

 もし自分達の存在意義を奪いかねない輩がいたとしてら、心中穏やかではないだろうな。

 何せ時期的に自分自身の役割が終わりを告げつつあったことを理解していたはずだ。

   それが一転してナチュラルの役に立てるようになったのだ。戦闘に対する意欲は人一倍高いはず……)

そこで思考を打ち切り、彼を少し落ち着かせてやろうと声をかける。

「まあその彼はMIAだ。君が気にすることはないさ。今、必要なのは君たちソキウスのような優秀なパイロットだよ」

ほっとするイレブンだが、一方でアルバートはあまりの事態に自失呆然となる。

冷静沈着をモットーとするアルバートが驚きのあまり目を丸くしたのはその驚きはどのくらいかは推し量るべし。

(何で、あの気分屋でコーディネイター嫌いのアズラエル様が……ソキウスを気遣うとは)

自分達の知る盟主とかけ離れた態度に、思わず疑念がわくアルバート。

だがそんなことは露知らず、アズラエルはイレブンに声に言い聞かせるように言った。

「この戦いには君たち、ソキウスが必要だ。わかっているね?」

「はい!!」

  目を爛々と輝かせて返答するイレブン。

(ナチュラルのために戦える。戦う場を貰える)

イレブンはアズラエルに感謝していた。

何故ならナチュラルのために戦う……それが彼ら、ソキウス達の存在意義。

新たにナチュラルのために働くことのできる、それは彼らにとって至上の喜びだ。

「……期待しているよ」

最もアズラエルはイレブンの喜色満面の表情を見て、少し良心に痛みを感じた。

(やはり完全な心理コントロールが施されているな……彼らが自由に生きることはできないのか?

 だが彼らを救うにしても、何にしてもすべては戦後だな……戦争に勝って終わらなければすべては狸の皮算用に終わる)

すでに記憶が無く、ただ凶暴性が残っているだけの三馬鹿トリオより彼らのほうが助けられる可能性が高いな

  とアズラエルは思いながら、取り留めのない会話をしたあとに彼らに退室を命じる。

「ああ、忙しい所すまなかった。もう下がってもいいよ」

「はっ」

いそいそと下がっていくメンバー。

  だがアルバートだけがドアから出て行くときに、アズラエルに向かって振り返って尋ねた。

「盟主、何かあったのですか?」

「何もないさ」

「ですが、盟主の態度が違いすぎます」

不信感を漂わせたアルバートの言葉に、アズラエルは彼が不審に思っていることを悟った。

(そんなに違いすぎるのか? まあ確かにTV本編や小説を見る限りじゃかなりの気分屋と言うかガキだからな)

  今後はもっと気をつけるべきかな?、と思いつつもアルバートの不審をかき消すために答える。

「戦争は気分より、効率だよ。たとえ自分が嫌っている相手でも使えるものは使うのが戦争だろう?」

「それはそうですが………相手はあのコーディネイター、空の化け物です。気遣う必要など」

「戦争で必要なのは使える兵士だ。連合に忠誠を誓うのなら使うし、役に立つならそれなりの扱いはするさ。

 それに君たちも彼らが脱走するのに備えて色々と準備しているんだろう?」

「………」

  アルバートは黙る………だが、それは彼の無言の肯定であることをアズラエルは理解した。

「僕だってあんな化け物を使いたくはないさ。でもこのパナマ防衛戦は戦局を左右する重要な物だろう?」

アズラエルは子供に言い聞かせるように説明を続ける。

「だから使える物は使う。反コーディネイターは大いに結構。でも感情ばかりを優先しては戦争も、そして商売もできない。

 全ては青き清浄なる世界の為に………彼らには精々捨石になってもらうさ」

  全てを嘲笑するような笑みを浮かべて言うアズラエル。彼は内心で冷酷な悪役を演じきったと自負した。

一方でアルバートは別のことで感心していた。

(気分屋の盟主が感情を制御しておられる……コーディネイターを打倒するために精神的な成長を遂げられたのか)

アズラエルが現実に対応する為に精神的成長を遂げたと勘違いしたアルバートは納得の意を示した後に部屋を後にした。

アルバートが部屋を後にしたあと、アズラエルは少し冷や汗を流しながら机に突っ伏した。

(……俺ってそんなに不審に思われるのか? やっぱり、もっと反コーディネイター感情を前に出す必要があるのか?

 だけど戦争を個人感情の好き嫌いでやっていたらとんでもないことになるからな……)
 
嫌いな奴でも役に立つなら使うというのがアズラエルに取り付いた修の信条なのでそう簡単には変えられない。

  (だいたい、あのチームワークが全然取れない三馬鹿よりもチームワークが取れるソキウスのほうが使えるんじゃないのか?)

TV本編における三馬鹿トリオの行いを振り返り、彼らの扱いにくさを思い出す。

(かといってGATシリーズはこれから連合の旗頭になるからな……コーディネイターを前に出せないのはわかる。

 しかしあまりに使えないようだと……拙いな。まぁあのトリオのサポートをさせるのが今の所は上策か)

勝手気ままに動く三馬鹿トリオを遊撃部隊として使い、真面目にこちらの命令を聞くであろうソキウスシリーズは

ここ一番のところで使う予備部隊とするか、と思い直すアズラエルであった。

 

 パナマでアズラエルが準備を進めている一方でアラスカで壊滅的なダメージを負わされたザフトは部隊の再編に

四苦八苦させられていた。何せMSは9割、潜水母艦は6割を喪失し地上軍はまともな作戦遂行能力を失った。

ジンにいたっては95%が未帰還と言う目も当てられない状況であり、どこかへ侵攻するという考えそのものが浮かばない。

  いや、まともな指導者ならそう考えるのだが、アラスカ侵攻を強行したパトリックはこの事態の責任をごまかすために

新たな作戦を求めていた。

無論、多くの指揮官達は無謀だと反論した。

投入できる兵力はアラスカ戦には到底及ばず、即時に派遣できる潜水母艦も多くはない。

潜水母艦は地球連合軍第4洋上艦隊に徹底的に叩かれ、残っている艦もその多くが修理を必要としている。

「つまり絶望的なまでに兵力が不足していると、そう言いたいのだな?」

  「はい。現有兵力ではとてもパナマ攻略は不可能です。仮にグングニールを使用するにしても降下ポイントの制圧もままなりません」

レイ・ユウキの言葉を聞いてパトリックは考え込む。

しばらくの熟考の後、さも忌々しげにパトリックは命令を修正した。

「……ならば、ジャスティスも投入する。それと宇宙からも増援を送り込め!」

「ですが!」

  「降下ポイントさえ制圧すれば問題ないだろう! パナマのマスドライバーは破壊しても構わん!!」 

ユウキの反論をそう封じると、パトリック・ザラはユウキに退室を命じる。

パトリックはグングニールさえ使えれば地球軍など物の数ではないと考えているのは明らかだった。

だがユウキは不安を隠せなかった。

  確かにグングニールを使えば、地球軍の守備軍を無力化できるだろうが、それは降下ポイントを制圧できればの話だ。

仮に地球軍の抵抗で降下ポイントを制圧することが出来なければ作戦は水泡と帰す。

まして、パナマ戦でさらに戦力を失えば地球戦線が維持できなくなることは必定。

だが軍の誰もが、パナマを制圧できなければプラントも危ないことは理解していた。

「しかし……できるのか?」

軍本部に戻る途中の廊下で彼は自問自答する。

  アラスカで失われた兵力を補充する力はザフトにはない。

仮にあったとすれば、11ヶ月も戦線は膠着はしなかっただろう。

「議長はジャスティスとグングニールで攻略できると思っているが、新兵器の開発を行っているのは我々だけではない。

 地球軍ももうそろそろMSを投入してくるだろう。いやパナマには配備されている可能性が高い」

ザフトも情報収集をしていないわけではない。 

様々な方法で情報収集を行い、パナマにはMSが配備されている可能性が高いと判断していた。

  拿捕した連合のMSからも明らかのように、地球軍のMSは決して弱くない。

なぜそれがわからないとユウキは苦々しげに口元をゆがめる。

「時間がないのは議長なのだろう」

すでにアラスカ侵攻を強行したザラに対して、穏健派が突き上げを行っている。

クライン親子を国家反逆罪として指名手配し、全ての罪を穏健派に被せたとしてもこの失態は誤魔化し切れるものではない。

  政治的な思惑でパトリック・ザラは無謀な作戦を強行しようとしている。

だが彼にはもうどうすることも出来はしなかった。

パトリック・ザラはプラント最高評議会の議長で、プラントの国家元首なのだ。

そしてザフト軍の軍人であるユウキは彼の命令を拒むことは出来ない。








 





 かくして、翌日にはザラ議長のごり押しで第2次スピットブレイクの発動が議会で承認された。

  目標は地球連合軍パナマ基地。投入する兵力はザフト軍が地上に抱える余剰兵力のほぼ全てを費やすこととなった。

また宇宙軍からもジン隊を増援に送ることが決定した。

いや、それだけではない。この作戦には本来はフリーダムの捜索と奪還に赴くはずだったジャスティスまでもが投入される。

ジャスティスはカーペンタリアへ到着後、攻略艦隊と行動を共にすることとなった。
 
「今度こそ失敗は許されない」

パトリック・ザラの言葉どおり、この作戦では失敗は許されない。

この戦いで敗北すれば、地上兵力を大きく失ったザフト軍では連合を地上に閉じ込められなくなる。

それはプラントを危険にさらすことに他ならない。

アラスカ戦で疲れていた兵士達は己に喝を入れて新たな作戦に挑む。

アラスカの復讐戦だ、と気合を入れる彼らであったが、彼らはパナマで待つ己の運命をまだ知る由もなかった。
 








 あとがき

earthです。青の軌跡第3話をお送りしました。
 
第2話のおまけはあまり反応が宜しくないようなので、今回からはやめました。

不得意なギャグに挑戦するのはよくないですね(苦笑)

さて、アズラエルが今回会った外伝のキャラクター『イレブン・ソキウス』。

個人的には結構お気に入りのキャラクターなのでそれなりに活躍させたいな〜と思っています。

キラとの絡みもやってみたいし、いずれはクルーゼとも絡み合わせたいなと考えています。

尤も、まずはイザークとの戦いかな?

アスラン&イザークVS三馬鹿トリオ&ソキウスシリーズ……何故だろう、一方的にザフトが負けそうな気が(汗)

次回はパナマ攻防戦。さて、アズラエルはマスドライバーをザフトの魔の手から守りきれるのか? 

  それでは駄文にも関わらず最後まで読んでくださってありがとうございました。

次回も拙作にお付き合いしていただけるなら光栄です。






 

 

代理人の感想

うーむ。

種ってどこかの誰かが脚本から離れるとこんなに・・・げふんげふん(爆)。

ソキウスとやらは耳年増程度にしか知らないのですが、面白くなりそうな。

ではまた。