オーブでの被害でやや遅れたもののユーラシア連邦軍、東アジア共和国軍はビクトリア奪還作戦を発動した。

彼らは自軍の主力部隊の過半をつぎ込み、同地の制圧を目論んだ。

兵力的にはザフトを圧倒しており、攻略は時間の問題と思われていたが……その考えは見事にひっくり返されるのだった。

「ビクトリア攻略に失敗した?」

「正確にはビクトリア基地そのものを制圧することに成功しましたが……マスドライバーの確保には失敗しました。

 マスドライバーは崩壊し、MS隊も投入したMSの実に60%が機能を喪失しました」

アズラエルはサザーランドの報告に思わず唸った。

「一体、何があったんだ? 投入した部隊はユーラシア、東アジアの連中の中でもかなりの練度を持っている連中だろう?」

「どうやら、ザフトは新兵器、前に盟主が仰られたEMP兵器を使った模様なのです」

敵が使った兵器がグングニールであると悟ったアズラエルはユーラシアが敗北したことに納得した。

「……そうか、それなら仕方ないか」

「また、敵は砂漠の虎だったとの報告もあります。ザフトの撤収する際の手馴れた指揮から間違いないと思われます」

この報告にアズラエルは歴史が確実に変りつつある事を悟る。

(やれやれ、どうするかな? ここまで歴史が変るとなると俺の知る歴史は役に立たなくなるかもしれないな)

暗然たる思いを抱いているのと対照的に、サザーランドは大して深刻に考えていなかった。

「まぁアラスカ、オーブ、さらにビクトリアでの敗退で兵力を多く失って静かになるでしょうな」

大西洋連邦とユーラシア連邦は非常に仲が悪い。現在同盟を組んでいるのはあくまでもザフトと戦うためであって

仮にザフトが消滅すればどうなるか分からない。そんな現状では大西洋連邦にとってユーラシアの弱体化は願ったり叶ったりなのだ。

「確かに、連中が静かになるのは良い事だね」

表面上アズラエルは頷いて見せるが、彼は友軍があまりやられたと聞いて喜ぶ人間ではなかった。

それに彼としてはあまりユーラシアが弱体化すると今後の戦略の妨げになるとも考えていた。

(ビクトリアのマスドライバーを確保できなかったとなると、主力宇宙港はパナマだけになるな。

 俺としてはせめて宇宙港はふたつ欲しかったんだけど……こうなっては仕方ないか。パナマの生産ラインを増やして

 MSの量産能力を上げておくか。あと効率は悪いけど、ロケットで物資の打ち上げも急ぐとしよう)

一方でアズラエルの関心は宇宙での反攻作戦に移りつつあった。

ジェネシスの存在を知っているものにとって、この戦争は時間との競争でもあるのだ。

「宇宙反攻作戦の準備は?」

「すでに第5、6艦隊は新造艦の配備によって戦力を回復させています。第7艦隊も順次、新造艦を配備します」

「そうか。できるだけ急いでくれ」

「了解しました」

通常兵器の量産を進める一方で、アズラエルは核ミサイルに搭載する為のNJCの生産に着手することを考えていた。

(あのジェネシスをぶち壊すには核がいるか……)

そのためにはピースメーカー隊の設立とNJC搭載型核ミサイルの量産を連合首脳に認めさせる必要があった。

(首脳陣を納得させたとしても、強硬派の暴走も気にしないといけないか……前途は多難だね、全く)



 しかしこの時、アズラエルの予想だにしない動きが起こっていた。

そう、ユーラシア連邦の都市『ポーツマス』では、マルキオ導師とユーラシア連邦の高官達による極秘会談が開かれていたのだ。

この史実には影も形もない会議で、老人達は険しい顔をしてマルキオ導師からもたらされた情報について話し合っていた。

「!! やはり大西洋連邦はNJCを手に入れたと?」

驚きのあまり、老人達は目を見開く。

「はい。それも現物が完成していると思っても間違いないでしょう」

ユーラシア連邦の高官達は、マルキオの言葉に顔を見合わせる。しかし、高官のひとりが疑問を抱いた。

「しかし、何でそのようなことが分かったのです?」

 この疑問に、マルキオは即答した。

「私も大西洋連邦内部にそれなりの情報提供者を持っているからです。

 尤も私も、アズラエル氏との会談を持つまでは完全に確信するまではいきませんでしたが」

「アズラエル氏との?」

「はい。私はオーブ戦の前にザフトがNJCを地球に、カーペンタリアに持ち込んだこととザフトの介入をお伝えしました。

 その際に彼は静かに『核を使うつもりか?』と呟いたのです。そう、NJCそのものの存在の真偽を確かめることなく」

「それで何故確証を得るのです?」

「本来の彼の性格ならば、まず私に真偽を問い詰めた後、ザフト、いえコーディネイターに対する憎悪を露わにするはず。

 何せザフトが一方的に核を使える状況を手に入れたのですから……しかし彼の態度はまるで違った。

 そう、もはや対抗策を持っているかのように冷静だったのです」

「なるほど………つまり、ムルタ・アズラエルはすでにNJCを手に入れたか、それを実用化出来る程の情報をザフトから手に入れたと」

ユーラシア連邦の高官達の言葉に、マルキオはただ黙って頷いた。

「だとすれば、拙いですな。このままでは大西洋連邦に戦後の主導権を奪われかねない」

「そのとおり。それにオーブ戦で我が国の太平洋艦隊は大きなダメージを受けた。このままでは太平洋における活動に支障を出す」

「いや被害は海軍だけではない。陸軍、空軍も甚大なダメージを受けた。これを回復するのは一朝一夕ではすまない」

アラスカ、オーブ、ビクトリアこの三戦の損害は甚大と言わざるを得ない。

大西洋連邦を打倒して、世界の覇権を手に入れようと思っている彼らとしては頭の痛い問題であった。
かと言って、これ以上大西洋連邦と一緒にずるずると戦争を続けられるほどユーラシアは余力があるわけではない。

ユーラシア連邦は本土をザフトによって蹂躙されて、各地で甚大な損害を被っているのだ。

本土が無事な大西洋連邦とは訳が違う。彼ら政府高官の中には早期停戦を求めるものも少なくなかった。

「貴方がたはどうするおつもりです?」

戦争継続か、それとも一旦は停戦して国力回復に務めるか……彼らは迷っていた。その彼らにマルキオは問いかける。

「プラントと和平をするにはそれ相応の条件が必要です。ユーラシア連邦はそれを呑めると?」

「……」

ユーラシア連邦は確かに疲弊していた。だが国民は士気を完全に失った訳ではない。下手に譲歩すれば彼らの政治生命は危うい。

しばしの沈黙の後、ユーラシア政府高官は重い口を開いた。

「……プラントとの和平はまだその時期ではないが、プラントが相応の譲歩をするなら停戦になら応じてもよいと考えている」

「マルキオ導師、我々は貴方にプラントとの停戦交渉の仲介をお願いしたい」





               青の軌跡 第11話







 ユーラシア連邦で極秘裏に会談が開かた数日後、北アメリカの某所にあるブルーコスモス本部で幹部会が開かれていた。

尤も会議とは言えない物だっただろう。何せ会議出席者の多くが感情の赴くままに強硬論を唱えるだけなのだから……。

「盟主! あの空の化け物どもにしかるべき報いを与えるべきです!!」

「そうです! 思い上がったコーディネイターに正義の鉄槌を与えましょう!!」

「奴らとて、住処の砂時計を叩き壊せば死滅します!」

エキサイトする幹部達をアズラエルはやや冷めた視線で見つめる。そして彼らの主張がひと段落する頃、長い赤髪を持った女性が

強硬論を叫ぶ幹部たちに冷や水を浴びせるように反論する。

「ですが、それが思いもよらない反撃を呼んだらいかにするおつもりですか?」

彼女の名前はマリア・クラウス。大西洋連邦の下院議員を務める才女であり、かつてブルーコスモス穏健派を束ねていた

幹部の一人。今までは穏健派はコリニー中将が纏めていたが、彼女が居たころとに比べてやや統制が欠けていたのは否めかった。

だが彼女が復帰した途端にブルーコスモス穏健派は急激にかつての勢力を取り戻そうとしていた。

そのために、ブルーコスモス内部の強硬派の動きは次第に牽制されつつある。

「NJCは元々彼らが開発した物です。彼らがその気になればより強力な兵器にそれを使用しているかもしれない事は

 鹵獲したジャスティスと言うMSを見ても明らかです。貴方達はもし核ミサイルをプラントに向かって発射した際に

 彼らがいかなる反撃を加えるか判りません」

「コーディネイターをこの世界から抹殺する事が我々の使命なのだ! 臆病者は黙っていろ!!」

そう抗弁する強硬派幹部だったが、痛いところを突かれたことには間違いない。

無論強硬派も感情的にわめき散らすだけでなく、冷静な意見で反論を試みる者も居る。

「しかし仮にミス・クラウスの言う通りだとしても、オーブで使ったようにザフトは核を使う可能性がある。

 幸いこちらもNJCがあり、連中が本土に核攻撃を仕掛けてくれば即座に報復できるが……」

「確かにその可能性もありますが……政治的な解決を図れば核戦争を恐れる必要はなくなります」

この言葉に多くの幹部は絶句した。

「しかし和平は世論が認めないだろう。これだけ叩かれたんだ。数十倍にして殴り返したいと思うのが市民だよ」

「ですが自分たちの命、財産すべてを天秤にかけてまでコーディネイターを滅ぼそうと思っている市民がどれだけいると言うんです?

 彼らはただコーディネイターによって脅かされている自分の未来を守りたいだけでしょう。

 市民達も自分達が、いえ世界が共倒れになるような事態になりかねないと理解すれば和平について考えると思いますが?」

やや間をおいてマリアは言い放つ。

「強硬論を仰られますが、あなた方はその覚悟があるのですか? 自分の家族を、財産を、友人をすべてと引き換えにしても

 コーディネイターを殺し尽くすだけの覚悟が?」

マリアの気迫に強硬派は完全に圧倒されて黙り込んだ。強硬派の数人が助けを求めるようにアズラエルを見る。

「……確かに、私達には己の全てをかけてまでコーディネイターを殺し尽くす覚悟があるとは言えないでしょう。

 ですが、コーディネイターの存在をどうにかしない限りは我々ナチュラルに安息の日は来ません」

「しかし殺すこと以外にも方法はあるはずです」

「それは貴方の主張していたコーディネイターのナチュラルへの回帰ですか?」

「そうです。もしそれが達成できればコーディネイターを滅ぼす事は可能のはずです」

「理想論ですよ、それは。コーディネイターは自分達こそ新人類と見なし、ナチュラルを旧人類と見なしているんです。

 その彼らがナチュラルへ逆行することなど認めるでしょうか?」

「彼らとは話し合いの余地があると思います。少なくとも今までのように拒絶と恐怖で彼らと接していては事態は改善しません」

「しかし即座に停戦して交渉を行うのは不可能です」

「それは判っています。しかし予備交渉を開始することはできます。幸い、月には中立都市も存在します」

「ですが現状では話し合いは不可能です。少なくともプラントに何らかの大打撃を与えて譲歩を引き出さないといけません」

穏健派と強硬派の論争はその後も続き、それを中道派の幹部が仲裁すると言う光景が繰り広げられた。

本来なら忌々しいはずの光景を見ながら、アズラエルはマリアを迎え入れた事は正解だったなと思った。

何せ、彼女をブルーコスモスに迎え入れるには、色々と骨を折ったのだ。

(中道派に根回しさせて、さらに彼女との会談にまで持ち込むのにどれだけ骨が折れた事か……)

アズラエルは密かに彼女と会談した日の事を思い出す。




 マリア・クラウスとアズラエルの会談はアズラエル財閥の傘下にある企業が作ったビルの一室で行われた。

「私にブルーコスモスに復帰しろと?」

「ええ。僕としては貴方にブルーコスモスへ復帰していただきたいんです」

このアズラエルの要請にマリアは困惑した。

何故なら、彼女がブルーコスモスを去ったのは他ならぬアズラエルとの確執があったからだ。

その当事者が頭を下げてブルーコスモスへの復帰を要請する……納得できることではなかった。

「何を望んでいるんです? まさか私に政府内穏健派を説得させようと?」

「いやそう言うわけじゃない。僕としては君にもう一度ブルーコスモス内の穏健派の取りまとめを行ってもらいたいんだ」

このアズラエルの台詞に、マリアは目を見開いて驚いた。

「何故、ブルーコスモス穏健派を纏めないといけないんですか? 少なくとも貴方にとって穏健派は邪魔のはずです」

何を目論んでいる? と言わんばかりに尋ねてくるマリアにアズラエルは苦笑する。

「確かにそう思われても仕方ないか……」

修が見たアズラエルの記憶には穏健派との確執が山ほどあった。そしてその全てにマリア・クラウスと言う人物が出てくる。

強硬派のリーダー格であるアズラエルにとって穏健派の女傑マリア・クラウスは天敵に他ならないのだ。

その天敵が突如頭を下げて来たら当惑するのは当然か……アズラエルは率直に自分の意見を言った。

「何も企んではいませんよ。ただ僕としてはこれ以上組織が強硬路線に走るのを防ぎたいだけなんです」

「強硬派の首領である貴方がそれを望んでいないと?」

信じられない、と呟くマリアに苦笑いしながらアズラエルは続けた。

「僕は別にコーディネイターを皆殺しにしてやろうとは思ってはいません。

 僕がこれまで強硬路線を支持してきたのは、あくまでも表向きのポーズです」

「……そのために、どれだけの死人が出たのか貴方は判っているんですか!?」

糾弾するように問い詰めるマリアに、アズラエルは自分(?)の非を認めた。

「確かにやりすぎたのも事実です。そして僕としてはこの事態を何とか打開したい。

 だからこそ、穏健派の纏め役であった貴方に復活して欲しいのです。この戦争がコーディネイターの殲滅戦にならないように」

アズラエルの言葉に、マリアは静かに頷いた。彼女にとってコーディネイター殲滅などは絶対に認められない。

マリアはコーディネイターを作り上げる事こそが悪と考えていた。

無論、それはコーディネイターの能力を妬んでそう思ったからではなく、生まれてくる彼らを不憫に思ったからだ。

(親が商品のように生まれてくる子供の力を操作する。そんなことは絶対に許されることじゃない)

第一世代コーディネイター誕生を阻止するために彼女はブルーコスモスに入った。

元々ブルーコスモスは自然環境の保護と、コーディネイターの自然への回帰を求める組織であったためだ。

しかし次第に組織はムルタ・アズラエルが盟主になってから急速に過激な方針を取っていくようになる。

これに失望し、さらにアズラエルとの確執もあって組織を去ったのだ。

「確かに、このままではコーディネイターの殲滅が実施されかねないですね……」

「そのとおり。まぁ商売人の僕としてはプラントから十分に利益を吸い取らないうちに壊すなんてもったいないじゃないですか」

「戦前の状態に戻すと?」

「いえ。戦前と同じではどこかでまた新たな戦火があがるだけです。『こちら』も相応のことをしないといけません」

(つまり戦後はテロ攻撃などを控えたいと言う事ね……でも、彼では強硬派を完全に御し得ない。だから私が必要ってことか)

アズラエルの言いたい事を悟ったマリアは頷いた。 

「良いでしょう。ブルーコスモスに復帰します」

「感謝しますよ、ミス・クラウス」




 彼女の復帰は中道派の働きかけと言う事になっている。何せ強硬派のアズラエルが復帰を要請したとは口が裂けても言えない。

無論のことだが、マリア・クラウスとアズラエルの会談は極秘扱いであり、関係者への手配も済ませており情報管理もばっちりだ。

(これで強硬路線も修正できるかな……)

表向き、アズラエルとマリアは対立する派閥の首領を演じつつも、密かに両方の派閥にとって納得できる落とし所を探ることとなる。

特に戦後におけるコーディネイターたちへの対応については、これまでのような一方的な強硬策を是正すべく、

両者はお互いの所属する派閥幹部と折り合いをつけながら話し合いを進めることとなる。



 ブルーコスモス内部で密かに軌道修正が進められている頃、プラントでも新たな動きが始まっていた。

「ユーラシア連邦との単独停戦ですか?」

パトリック・ザラの評議会での提案にエザリア達強硬派は唖然とした。何せ強硬派の首領であり、地球軍の徹底的な打倒を唱えていた

はずのパトリック・ザラが停戦とは言え、ナチュラルと話し合いを持つと言うのだ。これで驚かないわけがない。

「そうだ」

「何故、ユーラシアと停戦する必要があるのですか? わざわざナチュラルに頭を下げて停戦するなど」

「私とてナチュラルになど頭を下げたくは無い!」

パトリックは不機嫌そうに強硬派の議員たちの疑問に答える。

「地上軍は壊滅状態で戦線の維持も不可能だ。遅かれ早かれカオシュン、ジブラルタル、カーペンタリアも放棄せざるを得ない。

 だが、ユーラシアが抜ければ地上の部隊を宇宙に退避させるまでの時間が稼げる」

「「「………」」」

「それに、ナチュラルどもが宇宙に上がってきたとしても確実に数が減るだろう。

 ナチュラルなど数を揃えていなければ、我らの前では手も足もだせん」

パトリック・ザラの言う事は正しい、いや正しかったと言うべきだろう。

確かに開戦初頭はザフトに対抗するためには、連合はザフトの5倍の兵力を必要としていたのだ。

MSを装備したとしても、宇宙空間における戦闘では未だにザフトに分がある。それらのアドバンテージと生産を開始した

ジャスティス、フリーダム、そしてゲイツの組み合わせがあれば連合を圧倒することも可能とパトリックは考えていた。

だが連合、特に大西洋連邦が独自に様々な工夫を行い決戦に備えていることを彼は失念していた。

本来なら気づくべきなのだ。彼らがゲイツに装備したビームライフルやフリーダム、ジャスティスと言ったMSを完成させるのに

貢献したデータの基となった兵器が誰の手によって作られたのかを……。

「とにかくだ、ユーラシアとは停戦条約を結ぶ。尤もジェネシスが完成すればそんな停戦条約など紙くず同然だがな」

ザフトが建造を推し進めるジェネシスが完成した暁には、プラントによる地球圏支配が完成する。

「我々にとって成すべき事は、ジェネシスが完成するまでの時間を稼ぐことだ。

 そのためには多少の屈辱は甘んじるしかない……そう、今の所はな」

屈辱に打ち震えるパトリックに、他の議員は声を掛けられない。下手に喋れば爆発する……そんな危うい気配が漂ってたのだ。

彼らに出来るのはパトリックが冷静になるまで待つ事だけであった。

この日のプラント最高評議会で、ザフトの戦略方針が確定した。

まず軍事面ではザフトは今後、正面決戦を避けて徹底的な通商破壊を行い、月〜地球間航路を撹乱、出来れば遮断する。

地上に展開する全部隊は直ちにジブラルタル、カーペンタリア、カオシュンに集結させた後に宇宙に上げて宇宙軍に編入する。

そしてボアズに駐屯する部隊を増強し、月艦隊の侵攻に備えることとなった。

そして外交では、ユーラシア連邦との停戦条約を結ぶことが決定した。

無論、ユーラシア連邦と停戦を結ぶ以上は外交官を派遣する必要があるのだが、強硬派の議員は大なり小なりナチュラルを

見下している節があり、それを前面に出す可能性があった。このためにパトリックは軟禁していたアイリーン・カナーバなど

穏健派議員を中心とする人間達を中立の月面都市に向かわせることにした。

こういった外交攻勢に出る一方で、パトリックは反乱分子であるラクスの摘発に心血を注いでいた。

シーゲルは射殺せざるをえなかったが、出来ればラクスは生きたまま捕らえようと考えていた。

シーゲルはともかく、彼にとって忌々しいことだが、ラクスを殺す事は国内に動揺を広げかねないのだ。

その為に、パトリックはラクスは幽閉するつもりだった。無論、戦争が終われば国家反逆罪で処刑してやる気だったが……。

「いいか、何としても裏切り者を捕らえるのだ!」

司法局にそう発破をかけて、プラント中を捜索させるパトリック。しかし、彼女の行方を全くつかめなかった。




「まぁ、ユーラシア連邦と和平を?」

ラクス・クラインはどこぞと知れぬ隠れ家で、軍上層部の隠れシンパからの報告を聞いて驚く。

「はい。ですがザラ議長はジェネシスの完成までの時間稼ぎと考えている節があります」

ダコスタの意見にラクスは頷く。

「確かに。彼らはナチュラルを徹底的に打倒するまでは戦いを止めようとはしないでしょう。

 私達は何とかしてこの動きを止めなければなりません……軍内部の切り崩しはどうなっています?」

「順調です。アラスカ、パナマでの敗退で軍内部にはザラ政権に対する不満が溜まっているようです」

長い戦争によってザフト、いやプラント社会は人的資源が少しずつ枯渇しつつある。人口が少ないプラントでは一人の兵士の価値は

連合の比ではない。まして兵士が不足すれば、さらに社会から兵士を集めなければならない。

それは社会を、プラントを弱体化させ最終的にはザフトを衰退させる。

長きに渡って消耗戦を続け、その直後に果てしない拡大路線を突っ走ったツケがプラントに回ってきている。

プラントの将来を危ぶむ者達は、このままザフトを、プラントをパトリック・ザラの手に委ねてよいものかと考え始める者もいた。

祖国の将来を憂いる者達で、少なくない人間がラクスに協力していた。尤も協力するといってもその度合いはまちまちであるが。

「私達は何とかして、彼らの暴走を止めなければなりません。バルトフェルド隊長はいずれプラントに帰還するでしょう。

 その時が、私達の動き出す時です」

戦争を終わらせて、平和をもたらす……その為に彼女はパトリック・ザラを排除することも視野に入れていた。

すべては彼女の理想の世界、コーディネイターとナチュラルが共存していける世界のために。

しかし彼女はまだ理解していなかった。人間と言う生き物が誰しも持つ心の闇の深さを……。









 あとがき

 改訂版第11話をお送りしました。外交や戦略を組み入れたら大幅に書き直さざるを得なくなりました(汗)。

まぁ戦争って言うのは外交とかそういった舞台裏こそが重要なんでしょうけど、書くのは大変ですね……。

アズラエルの敵が無能と言うご批判も食らいましたから、このくらいのどんでん返しはないといけませんが

……さて、無事に停戦が結べるかな(邪笑)。それと第10話以前の話も結構書き換えています。
要点を纏めると@アークエンジェルは連合を離脱していない Aマリアは財務省幹部ではなく、連邦下院議員で元ブルコス構成員

主なものはこの2点です。AAクルーは次回以降登場予定です。史実になかったAAクルーとアズラエルの

会話も書きたいな、と思っています。ついでに本編では結局出番があまり無かった種版アオイ・ジュンことサイ君にも

活躍していただくつもりです。ブラックなサイじゃありませんよ……多分。

それではここまで読んで下さりありがとうございました。出来れば感想をお願いします。

青の軌跡第12話でお会いしましょう。

それと代理人さん、メールの返答が遅れて申し訳ございませんでした。改めてお詫び申し上げます。





代理人の感想

ふむふむふーむ。

ま、面白ければいいや(爆)。