地球連合宇宙軍の最大の牙城である『プトレマイオスクレーター』基地のある月には連合、ザフトどちらにも属さない

中立都市が存在する。そのうちのひとつ『アメンヘテプ』ではプラントとユーラシア連邦の外交官達による停戦交渉が行われていた。

「つまり、そちらは西ヨーロッパを制圧している軍を撤退させると?」

「はい。プラント政府はザフトヨーロッパ方面軍の完全な撤退を行うつもりです。またジブラルタルも返還します」

急激にざわめき始めるユーラシア連邦の外交官達。

そんなざわめきを聞きながら、アイリーンもまたパトリックがここまで譲歩していた事に驚きを感じ得なかったことを思い出す。

(あの男が戦ってもいないのに全軍の撤退を認めるとは……やはり噂の最終兵器の存在があるのか?)

ジェネシスの建造は極秘扱だったが、あれだけの物を作ろうとすればどんなに秘匿してもどこからか情報は漏れる。

具体的に何をしてるかは判らないが、莫大な量の資材や資金が使われているのだ。

政府、軍上層部に近いものなら何かあると即座にわかるだろう。

そしてその動きを連合、いや大西洋連邦の情報機関は掴みつつあった。

尤も情報機関の長達は、ザフトが何か新しい要塞でも建造していると判断している。

さすがにこれが地球本土を直接狙う事の出来る戦略兵器であるなどと知ることはできない。

その正体がわかる人間といったらアズラエルくらいだろう。

(つまり連中にとってはこの交渉は時間稼ぎと言うことか……)

ザラ政権は最終兵器(ジェネシス)でユーラシアが抜けて弱体化した連合宇宙軍を撃滅し、制宙権を完全にザフトのものにして

反撃するつもりなのではないか、とアイリーンは考えた。だがそんなことをすれば連合もどんな反撃の手段に訴えるかわからない。

(すでにプラントは戦争を続けられるような状況ではないはずだ!)

プラントの国力ではそんなに長く戦争を続けることなど出来ない。

プラント経済は表向きは好調に見えるが、それとてこれ以上長く戦争が続けば資本が持たない。

戦争とは勝って終わらなければ意味がない、それは真実だろう。だが戦争に勝っても国家が破産しては意味がないのだ。

それを知るが故にアイリーンは一刻も早い終戦を願っている。しかし状況は厳しい。

プラント国内では穏健派は大きく力を削られている。ラクス・クラインを中心とする勢力はそれなりに勢力を拡大させているが、

それとてザラ政権に比べればちっぽけな物だ。まして市民の多くは強硬路線のザラ政権を支持している。

(最悪の場合はクーデターしかないのか……)

そんな苦々しい思いに囚われているアイリーン。

その一方でその正面の席に座るユーラシア連邦の外交官達はなにやら小声でひそひそと密談を繰り広げていた。

そしてその密談がひと段落すると、ユーラシアの外交官達のリーダーである外務次官モロトフが切り出した。

「確かにそちらの条件は魅力的ですが、私たちとしては不満な点があります」

「? この条件で何か不備が?」

バルトフェルドによって組織されたゲリラ部隊と、ビクトリアから脱出した部隊がヨーロッパで暴れまわっているのだ。

それらが撤退すると言うのだから、これ以上ユーラシアにとってよい事はないはず、そうアイリーンは思っていた。

だが彼女達が交渉する相手は、彼女達が思っている以上に強欲だった。それを彼女はいやと言うほど思い知ることとなる。




 ユーラシア連邦とプラントが密かに停戦交渉に入ったとき、地球での戦況は連合に少しづつ有利な状況に変わりつつあった。

ヨーロッパ戦線こそ膠着状態が続いているもののビクトリアの失陥に続き、ザフトは支配下にあった北アフリカと

東アジア地域の主要拠点を少しづつ連合に奪還されつつあった。

ジブラルタル、カオシュンこそ攻め落とすことは出来ないが、確実に連合はザフトを追い落としつつある。

このような戦況を受けて、地球からザフト軍を完全に一掃するべく地球連合軍最高司令部はザフトの地球戦線の要である

オーストラリア大陸北部のカーペンタリア基地の攻略に取りかかろうとしていた。

無論、ザフト軍の地球戦線の要であるだけに守備軍は相当数存在すると考えられていたが、軍内部には楽観論も強かった。

何故なら大西洋連邦は原子炉を使用可能になった事から、無用の長物となっていた原子力空母が使えるようになり、

航空兵力は大幅に増大したのだ。大西洋連邦軍はNJCを装備させた原子力空母4隻を中心にする空母機動艦隊を編成した。

さらに搭載する航空機は多くが新型機、特にスカイグラスパーなど強力な機体が大半を占めている。

その打撃力は推し量るべし。さらに艦長を入れ替えたアークエンジェルも作戦に参加することとなった。

「かなりの兵力だね」

投入される兵力は原子力空母を含めて大型空母8隻、軽空母8隻、さらに時代遅れの象徴などと影口を

散々に叩かれた大型戦艦『ネルソン』、『アーネスト・J・キング』、他にイージス艦、駆逐艦、輸送艦など全て合計して

300隻に及ぶ艦艇が投入されることとなるのだ。さすがにこの物量にはアズラエルも圧倒された。

艦艇も桁ははずれだが、投入される空母航空隊と空軍の基地航空隊も桁外れで、すべて併せて1000機以上に及ぶ。

水中用MSもフォビドゥンの改良型を多数持ってきており、ザフトご自慢の水中用MS対策もばっちりだ。

さらに連合は衛星軌道から多数の部隊を降下させる用意も整えつつある。

降下部隊の護衛として編成を済ませたばかりの第6艦隊が駆り出される。まさしく大西洋連邦軍の総力を挙げた布陣であった。

ちなみにソキウス達は降下部隊の護衛として、暫定的に第6艦隊所属となっているドミニオンに配属されている。

「これだけ兵力を集めればザフトも勝てないでしょう。さらに艦艇、MSにはEMP対策が施されており、

 連中が仮に例のEMP兵器を使用しても、まずやられる事は無いでしょう」

サザーランドは自信満々に言った。確かに物量では連合軍が圧倒している。だがアズラエルは懸念していることがあった。

「連中が核を使ったらどうするんだい? オーブでの核攻撃はオーブの大量破壊兵器の仕業としているが……」

「相手が核を使う、使わないにこだわらず、こちらは気化爆弾を使う予定です。核はまだ使用許可が下りていないので」

地球連合軍はオーブで発生した大損害を、オーブが使用した大量破壊兵器の仕業とした。

尤も真実を知る者たちはこぞって核による報復を唱えたが、カーペンタリアへの核攻撃は幾つかの理由で却下された。

このうち主な理由は潜水艦などにザフトの核兵器があった場合に、カーペンタリア周辺の連合加盟国が核によって報復される

可能性が高い事と、戦後に大洋州連合との確執が生まれかねないことの二点だ。

だがサザーランドはそんな上層部の弱腰をあざ笑う。

「まぁ仮に連中が核を使えば、弱気の上層部もためらい無く核を使うでしょう」

そう、もしザフトが今一度核を使えば大西洋連邦は本気で核を使うようになる。しかしそれをザフトが理解しているかは別だ。

アズラエルとしてはザフトがまだ常識を有しているように、と祈るしかなかった。





                    青の軌跡  第12話





 地球連合軍洋上艦隊はハワイから出航すると、陣形を組んで一路オーストラリアに向かっていた。

彼らは艦隊を3つに分けて進撃している。まずは軽空母を中心とする第8任務部隊、さらに大型空母を4隻づつ配備した

第9、第12任務部隊である。これらはどれもが強力な航空兵力を有しており軽空母を中心とする第8任務部隊でも搭載している

航空機は200機以上になる。3個艦隊あわせれば無敵艦隊と表現しても間違いでは無い。

まして洋上艦艇の他に潜水艦なども順次、オーストラリア沿岸地域に派遣されており、オーストラリア包囲網は狭まりつつある。

さらに宇宙では60隻以上の艦艇がオセアニア上空の制宙権を握りつつあり、制空権の確保も危ういと言うのが大洋州連合の

状況であった。この状況を受けて大洋州連合の首脳陣は首都『キャンベラ』で連日会議を開いていた。

まぁ会議と言ってもほとんど小田原評定みたいなもので結論などまったく下せなかったが……。

大洋州連合が慌てふためく一方で、ザフト軍は撤収準備を急いでいた。

だが宇宙に部隊を移動させるためには上空の制宙権の確保が前提条件となる。

シャトルを打ち上げた途端にビームの嵐を見舞われて分子に分解されては堪らない。

このため、ザフト軍本部はオセアニア上空の第6艦隊を叩き潰すために15隻からなる艦隊を派遣することを決定した。

ナスカ級4隻、ローラシア級11隻からなるこの艦隊は、ゲイツを優先的に配備されており、練度も比較的高い。

本来、重要局面に投入するための部隊だったがこんなに早く投入する必要が出てくるとは、ザフト軍上層部の誰もが考えていなかった。

尤もここが重要局面と言わずに何と言う、と言える状況でもあるが……。

このようにザフトが必死に部隊の撤収を図ろうとしていたが、それを見逃すほど連合は無能でも甘ちゃんでも、お人よしでもない。

現地に潜伏させているスパイ達からある程度の情報は受け取っていたのだ。

軍上層部は別にカーペンタリアだけを欲しているわけでは無い。出来ればザフト地上軍を徹底的に叩くつもりだったのだ。

狙うべき獲物が逃げようとしているのを黙って眺める気はさらさら無い。むしろ、相手が逃げようとしているのだから積極的に

追撃しようと言う考えが生まれていた。その為に一部のスケジュールが大幅に繰り上がることとなる。




 カーペンタリア基地の宇宙港では夜も徹して、積み込み作業が進められていた。

打ち上げ用のシャトルに次々にMSが、資源が詰め込まれていく。中でも第6艦隊の排除が完了しだい打ち上げる予定の第一陣は

すでにその準備を終えている。あとは第6艦隊が排除されるのを待つだけなのだが……彼らには思いもよらない災厄が襲い掛かる。

「撤収作業は順調に進んでいるのか?」

「はい。すでにシャトルの用意は終わりました。あとは発進を待つだけです」

「そうか」

クルーゼは部下の報告に満足げに頷いた。この様子に部下は準備作業が順調に進んでいる事に満足したと思ったのだが、それは違った。

(地球でやるべきことは終わった……あとは宇宙で連中が核を使えば、最後の扉が開かれる)

人類を滅びに誘おうとする男は、己のシナリオがほぼ予定通りに進んでいる事に満足していたのだ。

だが、その笑みは数分後に響いた爆音と衝撃によってかき消される事となる。

「な、何事だ!?」

彼の執務室のガラス窓がすべて勢いよく吹き飛ぶ。爆風とガラス片がクルーゼと報告官に降り注いだ。

ガラスの破片で首の頚静脈が切れたのか、勢いよく血を流しながら倒れる報告官。しかし、もう一方の男は無事であった。

「くっ一体、何が起こっている?」

何故か致命傷を避ける事に成功したクルーゼは外の様子を見て絶句した。

何故ならカーペンタリア基地の宇宙港、司令本部を中心とした区域が猛火に包まれていたからだ。

時折一際激しい爆発が起こるのは、弾薬庫が爆発しているせいか、とクルーゼはぼんやり考えた。

だがすぐに茫然自失状態から頭を切り替えると、状況の確認と反撃を命じる。

この指示を受けてクルーゼ隊は即座に戦闘態勢に移行したが、彼らに出来る事は少なかった。何と言っても敵が確認できないのだ。

敵の攻撃はあるのに、その肝心の敵を見つける事が出来ない……そのことは出動した兵士たちを苛立たせていた。

「敵はどこだ!?」

「くそ、レーダーには何も映っていないぞ!」

だが攻撃は続き、あちこちで爆発が巻き起こる。MSが収められている格納庫が派手に吹き飛び、管制塔が崩れ落ちる。

さらには保管していた弾薬が誘爆を始めてしまい、手がつけられなくなる。あたり一帯は完全な火の海と化した。

吹き上がる炎はザフト軍の兵士達を生きたまま火葬にしていく。

灼熱地獄と化しているカーペンタリアの上空では、連合軍パイロット達が作戦成功を笑い合いながら祝っていた。

「ざまぁみやがれ!」

「これだけ気化爆弾を降らせれば、さすがのザフトもひとたまりも無いな」

「ま、確かにあれだけ叩けば当分再建はできんだろうな」

「それにしても、こいつは優れ物だな」

ひとりのパイロットが自分達の乗る機体を褒めた。

この機体はコックピットを頂点とする二等辺三角形のような形状をしており、全翼機と言われる種類の飛行機だ。

基本色は白で、夜には目立ちそうだがミラージュコロイドがあるのでさしたる問題にはならない。

「まったくだ。こんな機体が開戦初頭からあれば同期の連中も死ななくて済んだのにな」

「そう言うな。俺達がこいつに乗れた事だけでも神に感謝しないと」

「それもそうだな」

ステルス攻撃機『ジャベリン』……かつてアズラエルがオーブ攻略のために開発と生産を進めていた機体だ。

ミラージュコロイドを装備し、敵に発見されることなく敵中枢を叩くことが表向きの開発目的だ。

本来はフリーダムやジャスティスに見つかる事無く、オーブ中枢を叩くことが目的だった。

尤も、その目的は最終的には達成されることなく終わった。

普通なら単価の高さもあってお蔵入りしていただろうが、その性能の高さと今回の作戦の重要性もあり量産されたのだ。

量産されたと言っても配備されたのは80機程度だが、連合軍は今回の攻撃で稼動機すべてを投入した。

これはかなり危険な賭けだったが、最終的にこの賭けは成功する。何故ならこの攻撃はザフト軍に多大な損失を与えたからだ。

「宇宙港付近は徹底的に破壊され、修復には数週間かかるとの報告が入っています」

「シャトルは半数が完全に破壊されました。これでは到底予定された人員や物資を打ち上げる事は出来ません」

「司令本部で会議中だった基地司令官を筆頭に幕僚の大半が戦死した模様です」

部下達の報告を聞き、クルーゼは顔を顰めた。

「手酷くやられたものだな」

カーペンタリア基地は宇宙港の機能を半ば失い、さらに司令系統も瓦解したのだ。これではいくら部隊がいても烏合の衆だ。

しかも部隊もこれまでの戦いで散々消耗しており、ジンの稼動可能機は200機ほど、ディンは100機、他にバクゥ60機程度。

グーンやゾノはそれなりにあるが、内陸での戦闘になればどこまで戦えるか判らない。

「トリントン基地の宇宙港は使えるか?」

大洋州連合の宇宙軍基地トリントン、そこには旧式だが小型のマスドライバーがある。

あれを使えばMSは無理だが、人員を脱出させることはできる。

「可能とは思いますが……太洋州連合政府の許可が無ければ使用は不可能でしょう」

「……ならば、さっさと取れ。連中も本土を戦火に晒したくは無いはずだ」

仮にザフトが退避するなら、地球連合がオーストラリアを攻略する必要は無くなる。

それは大洋州連合にとっては本土を戦禍に晒さずにすむ事を意味する。しかし、クルーゼは事が上手く進むとは思っていない。

(連合のことだ。徹底的に叩きにくるだろうな)

連合軍第6艦隊がオセアニア上空を支配している。

そんな空間に非武装に近いシャトルが出て行けば、それこそ七面鳥のようにあっけなく撃ち落とされるだろう。

(宇宙軍の連中に期待するしか無いか……)




 クルーゼが最後の頼みとしていたザフト軍宇宙艦隊は、この日の奇襲攻撃の2日後に第6艦隊と激突した。

第6艦隊を率いるのは知将ハルバートンの同期であるマッケーン准将。

ハルバートンほどではないが、現存の連合軍将官の中では比較的有能な人間と言える。

「輸送船団は駆逐艦6隻をつれて下げておけ! こっちはザフトを蹴散らす!」

駆逐艦を連れて輸送船を艦隊から分離すると、第6艦隊は旗艦であるアガメムノン級宇宙母艦『フェーべ』を中心に

密集隊形をとった後に大量のMS、MAを発進させた。

その多くはストライクダガーだが、中にはデュエル、バスター、さらにデュエルダガーと言った高級機もある。

さらに新型機はMSだけではない。

「コスモグラスパー隊、発進する!」

スカイグラスパーの宇宙戦闘機版であるコスモグラスパーもこの戦いに投入されていた。

こちらは最新鋭機なので数は多くは無いが、それでも従来のメビウスに比べれば非常に高い戦闘能力を有している。

MSに新型MA……これらは開戦以降散々苦渋を舐めさせられてきた地球連合軍が如何に勝利を望んできたかを示していた。

「いいか、何としても勝つぞ!」

部下を叱咤激励するマッケーン。コレに応じて部下達の士気も上がる。

そんなやる気満々な連合。それに相対するザフト軍は余裕に満ちていた。

「ふん、ナチュラルがMSだと? 尤もナチュラルがどこまで使えるかはわからんが」

「おまけに足つきもいます。クルーゼ隊が梃子摺っていたあの船ごと連中を叩けば、クルーゼの無能を証明できますね」

ザフト艦隊司令官と艦長は余裕の笑みを零す。開戦以降、連戦連勝を重ねてきたザフト軍将官にとって連合など

単なる烏合の衆に過ぎなかったのだ。まして今回、彼らには新型MSゲイツが配備されている。

彼らは艦艇の数で大幅に劣っていたとしても、MSの質の差であっさり覆せると考えていたのだ。

それも判らない事ではない。ゲイツはスペック上では連合のGATシリーズの『デュエル』に匹敵する力、いや分野によっては

デュエルを上回る性能を有している。それを50機、さらに次期主力機の座から追い落とされたもののそれなりの性能を持つシグー

までが配備されている。他にジンも合せれば約90機のMSを彼の艦隊は保有しているのだ。

しかもパイロットは開戦して以降、戦闘経験を積んできたベテランぞろい。これで負けると思う指揮官はいないだろう。

「MS隊を発進させろ! 蹴散らすぞ!!」

ザフト艦隊からゲイツ、シグー、ジン含めて90機が発進する。文字通り全力出撃だ。



「90機か、厳しいか?」

ザフト艦隊から発進したMSの数を聞いたマッケーンはやや苦い顔をする。

これまで散々ザフトのMSに苦労させられてきた記憶がよみがえるが、彼はすぐにそんな記憶を振り払う。

「敵機がレッドゾーンに入り次第砲撃を開始! 奴らを近寄らせるな! 特にドミニオンにはな!」

この命令によって第6艦隊に近づいてきたザフト軍部隊は、次々に激しい砲火を浴びた。

連合はこれまでの教訓から対空火器を増設していたのだ。さらにどんな陣形が最も効率的に弾幕が張れるかも研究している。

さらに暫定的だが、地球連合軍でも随一の火力を誇るアークエンジェル級戦艦のドミニオンがいる。

増設された対空火器を持つ従来艦に、高性能な対空火器とその威力を十分に発揮できる火器管制システムを持つドミニオン。

これらの組みあわせはナチュラルが決して無能ではないことを、ザフト軍兵士にその身を持って思い知らせる。

「くそ、何て弾幕だ!」

バズーカを抱えた為に機動力が著しく落ちたジンが次々に落とされていく。

いや、ジンだけでなく、ゲイツやシグーと言った比較的身動きが取れる機体も落とされていく。

何機かのゲイツやジンはこの炎の壁と表現して良いほど濃密な弾幕を潜り抜けて、戦艦に接近することに成功するが、

弾幕を何とか掻い潜った彼らは次に連合MSとコスモグラスパー、メビウスによる嬉しくも無い歓迎を受ける。

「これがナチュラルのMSか!」

「くそ、数だけは揃えやがって!!」

性能ではゲイツはストライクダガーを圧倒していた。搭載している武装もゲイツはダガーを凌駕しているのだが、如何せん数が違う。

ゲイツは50機、それに対抗するストライクダガーは実に100機を越える。さらにデュエルにバスター、デュエルダガー、

MAのコスモグラスパー、メビウスまでいるのだから、さすがのゲイツも手を焼く。

一機のストライクダガーを血祭りに挙げようと攻撃をしかければ、後ろから無数のビーム、レールガン、ミサイルが浴びせられるのだ。

さらに連合軍は集団戦法に長けているのか絶対に1機で戦いを挑んではこない。最低でも2機掛りで来るのだからさらに手に負えない。

「ちくしょう、味方の援護はないのかよ!?」

ザフト軍のMS隊は次々に分断されて苦戦を余儀なくされる。しかしそう簡単にゲイツは撃破されはしない。

ゲイツの性能はストライクダガーは勿論、デュエルに勝るとも劣らないのだ。そしてパイロットはどれもナチュラルのパイロットの

技量を大きく引き離している。簡単にやられるわけが無かった。だがゲイツ以外は数を少しずつだが、数を減らしつつあった。

「これでも喰らえ!」

ジンやシグーは第6艦隊のMS隊のビームライフルの集中砲火を浴びて、次々に爆発四散する。

彼らにはゲイツ程の性能はなく、2対1に持ち込まれるとかなりの不利を強いられるのだ。

各地で奮戦する第6艦隊のMS隊。しかしその奮戦は数に頼っていると言わざるを得ない。

何せMSの操縦経験、しかもMSに乗って戦ったことなど連合の兵士には殆ど無いのだ。

ましてナチュラル用MSのOSでは細かい動きまでは再現できないし、出来るOSがあったとしてもナチュラルでは扱いきれない。

OSの性能、ナチュラルとしての限界、パイロットの経験不足などが重なり、連合MSの動きはやや単調なものであった。

それがあまり問題が無いのは、相手を完全に物量で圧倒しているからだ。

そんな単調な動きしか出来ない部隊が多い中、戦闘用コーディネイターのソキウス達は圧倒的な活躍をしていた。

「はぁああああああああああ!」

イレブン・ソキウスの駆るソードカラミティのシュベルトゲベールによって、一機のゲイツが脳天から一刀両断される。

「ち!」

他のゲイツやシグーは僚機を叩き切ったソードカラミティにビームライフルや突撃銃で攻撃を加える。

だがソードカラミティは信じられない急加速で上方に移動して攻撃を回避すると、逆に強烈なお返しをザフト軍に御見舞いした。

「な!?」

胸部に装備しているスキュラから放たれたエネルギー弾は、一撃でゲイツ2機を撃ち抜いた。余りの威力に絶句するパイロット達。

「ひ、怯むな、撃ちまくれ!」

MS隊指揮官はスキュラの攻撃で乱れた部隊を叱咤するが、イレブンには相手が立ち直るまで待ってやる義理はなかった。

ザフトMSが攻撃を加えて来る前にマイダスメッサーを振り投げる。

回転しながら迫るビームの刃。

これを見て慌てて避けようとするザフト軍MSだったが、数機がビームの刃に腕や足を切り落とされ、バランスを失ってしまう。

「し、しま……」

慌ててバランスを取り戻そうとした時には、すでにソードカラミティは彼らの前に迫っていた。

イレブンはすれ違いざまに二刀のシュベルトゲベールで3機のザフト軍MSを真横に断ち切る。

真横に断ち切られた彼らは数秒の後、火球と化す。

「ちっ、この!!」

離れていくソードカラミティにせめて一太刀浴びせようと生き残ったゲイツが再度ビームライフルを構える。

だが彼がビームを浴びせる前に、振り返ったソードカラミティから放たれたレーザーがゲイツを貫いた。

ソードカラミティのシュベルトゲベールはレーザー砲としても使用できるのだ。接近戦しか出来ない阿呆な機体ではない。

「さて次の敵は……」

撃破した敵を一瞥すると、イレブン・ソキウスは新たな敵を求めて戦場を駆け巡った。

イレブンのソードカラミティを筆頭にソキウス達は多くのGを与えられている。デュエル、バスター、制式採用仕様のレイダー、

これだけの機体を与えられたのだから、その力を発揮できないわけが無い。

彼らの活躍は、確実にザフト軍MS隊を崩壊に追い込みつつあった。





 ザフト軍は頼みのMS部隊が押されて、地球連合軍を抑える手段を失った。

MSが介入してこなければ、あとは純粋な艦隊戦となる。そして艦隊戦となれば艦の数と指揮官の腕が決め手となる。

「よし、ここをザフトの墓場にしてやる! 全艦、凹字隊形にシフト! ドミニオンは陣形中央へ!!」

第6艦隊の左翼と右翼に展開していた部隊が激しい砲撃をザフト艦隊に浴びせつつ、整然と前進を開始する。

艦艇の数では4倍もの差をつけられているザフト軍に対抗する術は無い。圧倒的な砲火の前に1隻、また1隻と落伍していく。

「おのれ、ナチュラルどもが!!」

呪詛の念を飛ばすザフト艦隊司令官。

怒りを露にするものの、自分達にすでに勝機は無いということも悟っていた。

「突撃隊形をとれ! こうなれば中央突破する以外に助かる手は無い!!」

彼はこのとき、自分が出来うる最後の策として第6艦隊の中央を突破することを決意する。

命令に従い、方錐陣形にシフトしていくザフト艦隊。これを見たマッケーンは敵が最後の罠にかかったことを理解した。

「よし、奴らは罠に飛び込んだぞ!」

にやりと笑い、彼はザフト軍の命運を決定付ける命令を下した。

「ドミニオン、敵がレッドゾーンに突入したら最大出力でローエングリンを発射しろ。

 本艦を含めた主力隊はこの場に固定。ドミニオンのローエングリン発射2秒後に全力射撃を行う」

決死に第6艦隊に突撃してくるザフト艦隊。さすがにこの決死の突撃には連合軍も多くの犠牲を余儀なくされる。

「戦艦ノースカロライナ、ブリッジに直撃! 戦線離脱!!」

「第12駆逐隊沈黙!!」

報告される被害は許容範囲のうちだったが、ザフトの悪あがきに思わずマッケーンは舌打ちする。

「敵をひきつけてから撃て、いいか一気に殲滅するぞ!」



 ザフト軍の決死の突撃により、第6艦隊の陣形中央は突き崩されつつあった。

「このままいけば、突破できるな」

前衛の駆逐艦を抜き、このままいけば脱出できる……ザフト軍司令官が思い始めたとき、マッケーンは短く命じた。

「今だ、撃て!」

この命令のわずか1秒後、ザフト艦隊の中央を一条の光が貫いた。

「な、何!?」

何がおきたかわからぬまま、ザフト艦隊司令官はドミニオンからローエングリンから放たれた陽電子の濁流の前に

一瞬で分子レベルにまで分解されて、この世界から消滅した。そして、それに前後して彼の乗艦や周囲の戦艦が爆散する。

「すさまじいな、アークエンジェル級の火力は……アークエンジェル級が量産されれば、ザフトなど物の数ではないかもしれんな」

従来艦艇とはあまりにかけ離れた火力を持つドミニオンを見て、

マッケ―ンは軍本部に本気でアークエンジェル級の量産を進言してみようかと考えた。

尤もアークエンジェル級の建造費用などを考えれば夢物語なのだが、彼をしてそう呟かせるほどの光景だった。

何せドミニオンのローエングリンはザフト艦隊旗艦をはじめとしてナスカ級戦艦4隻、ローラシア級2隻を一瞬で殲滅したのだ。

それはザフト艦隊の指揮系統、戦う力、そして何より戦う意志も根こそぎ奪い取った。

実際、かろうじてローエングリンの直撃を間逃れた戦艦やMSはまともに戦闘をすることなどできなかったが、

それを理由に見逃す連合軍ではなかった。彼らは徹底的な掃討戦を実行する。

残存部隊はそれこそ袋叩きにあい、最終的に降伏したローラシア級2隻を除く全艦艇、全MSが宇宙の塵と消えた。

第2次地球軌道会戦と後の世で言われる戦いでザフトは投入したナスカ級戦艦4隻、ローラシア級戦艦11隻、MS90機すべて

を喪失、一方の第6艦隊は戦艦2隻、駆逐艦6隻、MS31機、MA36機を失っていた。

第6艦隊の損害も決して少ないとは言えなかったが、マッケーンはこれを勝利だと断定した。

(ハルバートン、お前の仇は討ったぞ)

心の中で、今は亡き同期生の顔を思い浮かべ、マッケーンはこの輝かしい勝利を報告する。

(お前も、これくらいの兵力が与えられていれば死ぬことなんて無かっただろうに)

フェーべの周りを飛び交う連合製MSを見ながら、そう思わずにはいられないマッケーン。

確かにこれだけのMS、いや第6艦隊が保有しているMSの5分の1でもあれば、第8艦隊は壊滅せずに済んだだろう。

軍上層部の決定の遅さがハルバートンを殺したのだ、彼はそう思わずにはいられなかった。

だが彼はそんな不満をもらすような人間ではなかった。強い意志で上層部への不満は心の底に押し込める。

「損傷艦は月に曳航させろ。護衛は戦艦1隻、駆逐艦4隻ほどで良い」

「了解しました」

大勝利に酔いしれる幕僚達を横目に、彼は必要な指示を次々に出して行った。






 ザフト宇宙艦隊全滅の報は、少し時間をおいてプラント本土に届けられた。

「全滅だと!?」

最高評議会の席上で伝えられた凶報にパトリックは激怒した。

「はい。全艦艇を喪失したとの情報が入っています。

 すでに連合はこの勝利を派手に宣伝しているようでして、地上軍の間に動揺が広がっています」

「おのれ! ナチュラルごときが調子に乗りおって!!」

暴君が怒り狂う一方で、一部の議員はユーラシア連邦から示された停戦条件を呑んだほうが良いかもしれないと考え始めた。

カーペンタリアの部隊が回収できない以上、ジブラルタルの部隊は絶対に回収しなければならない。

ましてこのたびの宇宙軍の敗北を補うには、地上軍の人員の宇宙軍への編入が必要不可欠だ。

「やはり、ユーラシアとは一時的に休戦したほうが良いのではないか?」

「確かに。宇宙軍がこれだけ一方的な敗北を遂げたとなると、地球軍の戦力はこちらの見積もりを大きく超えているかもしれない」

「ジェネシスが完成するまではあらゆる犠牲を容認するしかないだろう」

小声でそう相談する一部の議員たち。尤もその彼らもユーラシアの強欲振りには怒り心頭だった。

何しろ、連中の持ち出した停戦条件がザフトには到底承諾できないものだったからだ。それは……

「NJCを無償で提供しろか……ユーラシアの連中め、人の足元を見るにも程がある」

その忌々しさに満ちた呟きは、誰の耳に入ることなく議場に消えていった。














 あとがき

 青の軌跡第12話をお送りしました。

さて、ついに艦隊決戦が実現しました。本編では艦隊同士の殴り合いが殆どなかったので書いてみたかったんです(爆)。

といっても結果はザフトの大敗ですが(苦笑)。

まぁソキウス達がガンダムに配属されていれば、相応の活躍が出来たと思うのでこうなりました。

……それでも、ちょっとやりすぎたかな(冷汗)? まぁドミニオンも少しは活躍できたからいいかな(爆)。

さて、うって変わってアークエンジェルクルーは相変わらず出番なしでした。

次回からは本格的な地上戦が開始されるので、出番は来ると思います。サイにも頑張ってもらわないと(笑)。

それにしても、もしユーラシア連邦がNJCゲットしたら、ハイペリオンが最強の機体になってしまうような気が。

あれに核エンジンなんて取り付けたら、変態仮面のガンダムなんて目じゃないし。

(尤も現実的には原子炉を抱え込んだまま機動戦をするなんて、自殺行為のような気がしますが………)




駄文にも関わらず最後まで読んで下さりありがとうございました。

青の軌跡第13話でお会いしましょう。





 

 

 

代理人の感想

勝利、勝利、大勝利!

ノリはそんなとこでしたなw

 

つーか、ローエングリンってそんなに強力だったのか・・・・知らなかった。w

だって殆ど波○砲並みの威力じゃないですか(笑)。

 

さて、NJCの無償提供という恐ろしい条件を飲んでしまったと思しきザフトですが・・・・・どーなることやら。

最初にその威力を思い知るのは、ヤキン・ボアズへの核攻撃かもしれませんね。