オーストラリアで激闘が繰り広げられている頃、カオシュン基地を発進した多数の潜水母艦、輸送機が南下を続けていた。

彼らの目的はカーペンタリアから友軍を救出することであった。最高評議会は彼らを派遣するのにかなりの努力を必要とした。

ユーラシア連邦、東アジア共和国との協議や母艦のやり繰りなど苦しい状況の中でやっとのこと派遣できたわけなのだが、

その努力はいまや水泡に帰そうとしていた。いやそれだけではない。プラントを統治する者達にとってさらに忌むべき事態が

進行していたのだ。そしてそのことを彼らが知ったときには全てが手遅れとなっていた。

「クルーゼがあの兵器を持ち出しただと?!」

「はい。すでに都市で使用されたとの情報もはいっています」

パトリック・ザラは武官の報告に顔面を蒼白にさせた。

「馬鹿な、あの兵器は強力すぎる。オーブのように孤島で使用するのならいざ知らず、オーストラリアで使用すれば

 味方にも多大な損害を与える事になるぞ!」

「「「………」」」

事情を知る評議会議員たちもこぞって顔面を蒼白にして、沈黙した。

「あれは我らコーディネイターの英知をもってしても治癒方法を見つけられぬ禁断のウイルスだ。

 そんなものをばら撒けば、ユーラシアとの停戦はおろか……」

一部の議員は顔面を蒼白にしたまま、最悪の事態を予想した。

「下手をすれば完全な殲滅戦に突入する。月艦隊が自暴自棄の総攻撃を仕掛けてくれば我らとて無事ではすまない」

元々今回の戦争はプラントによる独立戦争であった。彼らは最終的にはプラントが独立を勝ち取ることを目的としていた。

尤も強硬派政権が誕生してからは地球軍の徹底的な打倒と地球における覇権の確立に重きをおいているが、別に市民はナチュラルの

完全殲滅を支持しているわけではない。彼らはクライン政権のやり方では戦争は終わらないと考え、ザラ政権を選んだのだ。

迫害された故に、彼らは戦争に勝って自分達の子供に輝ける未来を与えたい……そう思ったからこそ、その未来を与えてくれるかも

しれないパトリック・ザラを市民は最高評議会議長に選んだのだ。

それにプラント財界の意思もあった。彼らは地球から搾取される状況をどうにかしたかったのだ。

地球からの搾取がなくなれば、彼らもまた大きな利潤をあげる事が出来る。そのために彼らは独立戦争を支持したのだ。

同時にそれはナチュラルの殲滅を支持するものではない。彼らにとって地球は莫大な富をもたらす市場なのだ。

それをみすみす自分の手で失わせるような真似は認めない。

これは地球でも言えることだ。市民はともかく、冷静な政治家、財界人からすればプラントは温存しておかなければならない

ことは戦前の関係から言って明白なことだった。それらの要素が殲滅戦への移行を阻んでいた。

別にこの世界の人間は感情ばかりを優先する阿呆ばかりではない。特に金が絡めばそれ相応の考え方をするのだ。

だがオーブでの核兵器の使用、そして今回の生物兵器の使用は連合上層部にプラントが殲滅戦をはじめたと言う

誤ったシグナルを与えかねない。そうなればブルーコスモスの暴走と台頭がますます顕著になってしまう。

仮に連合が暴走して核兵器を使えば、それこそ共倒れになる。いくらフリーダム、ジャスティスを有していたとしても

連中が飽和攻撃を仕掛けてくればかなりの数の核ミサイルがプラント本土に直撃することとなるだろう。 

まぁそれ以前にさらに恐ろしいことがあったが……。

「仮に救出した部隊にウイルスに感染した連中がいれば我々は全滅してしまう」

彼らが主に製作したウイルスは潜伏期間が短く、あっという間に発症するタイプのものだ。

しかし患者によってはウイルスの潜伏期間が長くなることもあることが、すでに判明している。

仮にウイルスをもったまま兵士が帰還した場合、一気に本土でウイルス感染が広がる危険性がある。

「救出作戦を中止しますか?」

「いや、さすがにここまで来て中止は拙いだろう」

「かと言って、閉鎖空間であるプラントにウイルスが紛れ込めば全滅は間逃れん!!」

元々オーブでのみ限定的に使用すると言う事で送り込んだウイルス、コードネーム『V01』。

それはかつてS2インフルエンザのワクチン開発の過程において発見されたウイルスの変異体を改良した物だ。

そのおぞましい能力ゆえに、さしものパトリックですら使用を躊躇った兵器……脅威度では核兵器以上のとんでもない品物。

「カーペンタリアに送った物の内、どれほどの量を使用したかは判らんが、まだクルーゼの手元に残っている可能性が高い」

これ以上使用されれば、まさしく自分達は世界最終戦争の引き金を引くこととなる。

それを自覚したとき、彼らは言い知れぬ恐怖に襲われていた。戦争という化け物は自分達の思惑を超えてすべての生命を

滅びに導くのではないか……そんな考えが各々の頭に浮かんでいたのだった。




                青の軌跡 第18話





 プラント本土の上層部がそんな恐怖に襲われていた頃、地球連合軍最高司令部は緊急会議を召集していた。

「未知のBC兵器を?」

「はい。第5軍はかなりの損害を被っている模様です。現在、救援部隊を市街地中心部に派遣する動きがありますが……」

「連中め、オーブでは核、さらにオーストラリアではBC兵器! 一体どこまでやれば気が済むんだ!!」

高官の罵声が会議室に響く。連合国防産業理事として出席していたアズラエルはこの状況を憂慮していた。

(よりにもよってBC兵器か……しかもこれは)

第5軍司令部から届けられた情報を見て、彼は顔を顰める。

(まったく余計な事をしてくれるよザフトは……これじゃあ殲滅戦争になりかねない)

アズラエルは思わず溜息をつく。そして連合首脳陣の罵声を聞きながら善後策を練る。

(どちらにしてもこの状況を放置すればとんでもないことになる。強硬派は暴走するだろうし何より……)

民主主義国家において市民の声は無視できない。仮に連中がそんな凶悪な兵器を使用した事が一般に漏れれば市民が暴発しかねない。

連合の暴走を止められないとなればTV本編の展開が実現してしまう。それはアズラエルにとって容認できない展開だった。

TV本編において連合がブルーコスモスに牛耳られていったのはブルーコスモスのパトロンたるアズラエル財閥が

連合軍にMSを供給していたこと、さらに開戦以来敗退し続けた連合軍内部の鬱積が将兵をブルーコスモスの思想に走らせた為だ。

このたびはアズラエル主導によるパナマ防衛の成功、NJCの入手、さらに反大西洋連邦軍勢力であるユーラシア連邦、

東アジア共和国の弱体化によってさらにブルーコスモス勢力が増大している。

現在は穏健派の復権もあり、かろうじて手綱を握っているが、状況によっては現場の暴走がおきかねない状況だった。

いや、厳密に言うとすでに現場レベルでは暴走している指揮官も多い。これは政府、軍双方の良識派との摩擦を引き起こしている。

これはアズラエルにとって頭の痛い問題であった。尤も彼にとってさらに頭の痛いことが眼の前にあるのだが・・・・・・。

(ザフトもザフトだな。まさかこんな兵器まで使用してくるとは……まさかすでにパトリックはトチ狂ったのか?)

パトリック・ザラのTV本編における暴走を思い出し、彼は最悪の事態が進行しているのではないかと考え始めた。

(拙い、拙い……仮にそんなことになっているとすると、殲滅戦争に移行してしまう。だが……)

方針の転換が必要かもしれない……アズラエルはそう考え始めた。

相手がこちらを殲滅する覚悟でくるのなら、こちらもそれ相応のやり方をするべきだ……そんな考えが頭に浮かぶ。

(敵は滅ぼせ……だが滅ぼしたあとのことを考えないのも阿呆のやることだ。いや後の心配をする余裕がなかったとしたら……)

頭のどこかで誰かが囁く。「滅ぼせ、コーディネイターを滅ぼせ」……呪詛の声がアズラエルの頭の中で響き渡る。

「滅ぼすしかない、相手は人間ではないのだ。話し合いなど意味はない」……だがその声をアズラエルは辛うじて振り払う。

(いや相手は軍にのみ使ったんだ。都市や民間人相手に使ったわけじゃない)

そう仮に相手がこちらの人口密集地帯にBC兵器を使用したとなれば話は別だが、今回はあくまでも軍の部隊に使っただけ。

相手は防衛の為に使ったんだ……そう考える事で、そう思いこむことで彼は殲滅戦を行おうとする思考を振り切る。

(さてさてどうするべきやら……まぁカーペンタリアへの核攻撃で連中への警告はこと足りるだろう。

 それにカーペンタリアにBC兵器があったらまとめて焼いてしまうしかないから、熱処理にもなる)

だがここまで来た以上、連中がいつトチ狂うかわからない。ゆえにアズラエルは別のカードを切ることを決意する。

「キンケード大将、国務長官ちょっと良いですか?」

会議が小休憩に入った際に地球連合軍最高司令部での会議に訪れていたキンケード大将とサカイに呼びかけ、ある提案を行う。

「!!……本気なんですか?」

最初こそ、やや困惑気味だったキンケードとサカイは提案を聞き終えた瞬間に、驚愕の表情を浮かべた。

「ええ本気です」

「ですが、そんなことを申し込めば連中はつけ上がるだけです。ここは断固とした態度で臨むべきです」

ブルーコスモス派であるキンケードはアズラエルの提案に反発した。だがこれをアズラエルは押さえ込む。

「ですが今回のような攻撃が人口密集地帯に対して行われれば我々は無条件降伏を余儀なくされるでしょう。

 仮に北アメリカ東海岸にそのような攻撃を許せば現首脳陣は辞任どころか戦犯扱いを強いられます」

「確かに。そのような状況を防ぐ為にはやむをえないかもしれませんが……」

ブルーコスモスの思想に染まっているとはいっても、ひとによっては信条に関係なく守らなければならないものはある。

それは個人によって違う。ある人は家族だったり、ある人は恋人だったり、ある人は地位だったりする。

キンケードの守るべき物は地位であった。キンケードからすれば自分を軍内部で後押ししてきたアズラエルが

方針を転換するのなら、自分の地位が危なくならないうちは付き合うつもりだった。

黙り込んだキンケードに代って、サカイがアズラエルに尋ねた。

「だがブルーコスモス強硬派が黙っているか?」

「確かに強硬派は文句を言うでしょうが、少なくともザフトが自暴自棄になってこちらの都市部にBC兵器による攻撃を

 浴びせることは阻止しなければいけません。連中も全財産を失うかもしれないことを示唆すれば納得するでしょう」

権力を得た者の大半は自己の権力の維持が上位の目的となる。それはどんな組織でも変りは無い。

ブルーコスモスもその例外ではない。アズラエルをよく思っていない連中も自分の地位、権力、財産を危険に晒すことはしない・・・・・・

これまでの幹部達との会議でアズラエルはそう感じていた。

「ですが下部の者が黙っているのか? 軍内部、特に佐官には息が荒い連中が多い」

「仮にあれが本土でばら撒かれればどうなるかは自明の理です。このたびは一時的な屈辱に耐えてもらいます」

「ううむ・・・・・・投下を阻止することは出来ないと?」

「出来るかもしれませんが、そのためには常に宇宙艦隊を上空に展開させる必要があるはずです。

 それはかなりの負担になります。何せL1の『世界樹』が崩壊している現状では補給にも負担が掛かりすぎます」

サカイの問に軍人の立場からキンケードが答える。

何せ現在再建中の宇宙艦隊を持ってしても、無駄に割ける艦艇は存在しないのだ。

いくら生産力に優れている連合とは言え、揃えることの出来る艦の数には限りがある。

「仮に展開させればプラント本土攻略のための戦力が不足します。核を使ったとしても厳しいでしょう」

あっちをとれば、こっちが立たない。武力で相手を防ぐことが出来ないのなら外交で何とかするほか無い。

「だが仲介となる国が無い。オーブはユーラシアが潰してしまった」

「そのユーラシア連邦を使うんですよ。そう連中が停戦交渉のために維持しているチャンネルを使うんです」

アズラエルはにやりと笑いながら言った。





 地球連合軍、ザフト上層部双方が今後とるべき戦略を模索しているのを尻目に地上では壮絶な戦いが繰り広げられていた。

特に地球連合軍第13軍とザフト軍第1軍団との戦闘は熾烈を極めている。

援軍を受けて勢いづいた連合だったが、手負いの獅子であるザフト軍もイザーク達ベテランパイロットを中心とする部隊が

決死の応戦を行っており、連合軍に手痛い損害を与えつつあったのだ。

「いいか、ナチュラルの奴らに遅れを取るんじゃないぞ!」

崩れ落ちそうになる戦線をイザークを筆頭にしたベテランパイロット達が支えている。

彼らは練度の低い兵達をたくみに指揮し、津波のような連合軍の攻勢を必死に跳ね返す。

ザフトはじりじりと後退しながらも、なお全面崩壊していない。

それはザフト軍兵士の能力もさることながらその士気と団結力を示していた。

「ええい、なぜ崩れん! これだけの攻勢をかけて何故連中は!!?」

参謀の一人がザフト軍の様子を見ながら、当り散らす。

「あれがコーディネイターの力と言うやつだ。くそ、力を不正な方法で得た遺伝子細工の人形が!!」

「あんな連中が青き清浄なる世界に存在することは許されないのだ!」

ブルーコスモスの思想に走っている将校が口汚く罵る。一方で司令部の後退を進言した参謀はそれを冷ややかに見つめる。

(何が青き清浄なる世界だ。その化け物達を良い様にこき使ってその結果がこの戦争だろうが、所詮は20世紀で起こった植民地

 の独立紛争の焼き回しだ。全くそんなことも分からんのか、この阿呆は)

コーディネイターだろうが、国家に忠誠を誓う者ならそれ相応の処遇をするべきだと考えるこの参謀は、コーディネイターの

すべてを敵に回そうとするブルーコスモスを毛嫌いしている。

(敵は各個撃破が原則だろうが。いたずらに敵を増やしてどうするんだ・・・・・・)

コーディネイター全てを敵と見なし、感情的行為に走る軍人が増えている事も事実。

これは第5軍司令官のブラットレーも嘆いていることだ。連合軍は確実にブルーコスモスの思想に蝕まれているのだ。

「司令、ここは司令部直属の第9大隊も前線に投入するべきです。ドミニオンとの連携があれば連中の抵抗も崩れるでしょう」

その参謀はブルーコスモスに対する怒りと苛立ちを納めると、司令たるパウルスにそう進言する。

だがここでブルーコスモス派の参謀が異議を唱える。

「何を言っているのかね、君は。ドミニオンに乗っているMSのパイロットはコーディネイターなのだよ?

 捨石となる連中の為になぜナチュラルが血を流さなければならないのだ」

「その通り。空の化け物同士が傷つけあうのだ。その決着がついてから部隊を投入するのがベターと言うものだよ」

「それでは兵力の駆逐導入に他なりません!」

「どうせ、カーペンタリアは核で吹き飛ぶ。コーディネイターどもに逃げ場所はないのだ」

「ですが必ずカーペンタリアに逃げ込むとは・・・・・・」

またも参謀達の意見はぶつかり、第13軍司令部は有効な手を打てなかったのであった。

この優柔不断の司令部のおかげで連合軍の前衛部隊は多大なダメージを被る羽目となっていた。

だが奮戦するザフト軍も、連合では厄介者扱いのソキウスたちの参戦によってその勢いを大きく削がされることとなる。



 ストライクIWSPの115ミリレールガン、105ミリ単装砲から放たれる砲弾は、その全てが目標となったジンに直撃した。

PS装甲を持たないジンは、あっけなく装甲を貫通され一瞬でスクラップに成り果てる。

これが中距離ならそこまで問題にはならなかったのかも知れないが、実際の攻撃は超長距離から行われていたのだ。

おまけに連合軍の新型MS『バスターダガー』も射撃を浴びせてくるので始末に終えない。

「な、何であんな遠くから全弾当てられるんだ?!」

「畜生! 戦艦に援護を要請しろ!」

中距離用の武器しか擁さないジンではアウトレンジから一方的にやられるのがオチ。そう判断したザフト軍は数少ない陸上戦艦で

このやっかいな新型機を排除しようと目論むが……。

「ゴットフリート用意! 目標、1時方向の敵陸上戦艦!!」

連合も同様に強力な火力を持つドミニオンを支援に使うわけで……。

「足つきの同型艦が、こちらに主砲を向けています!」

「くそ、砲口の向きから弾道を計算、緊急回避!!」

ザフト軍陸上戦艦は、ゴットフリートが発射される寸前にその砲口の向きから弾道を計測して回避することに成功する。

だがこれによってどうあがいても前線への支援は不可能になるわけで、ジンは良いように的にされた。

「ええい、こうなれば一か八か突っ込むしかないのか!」

さらに4機のジンがレールガンの餌食となったため、指揮官は『虎穴にいらずんば虎子を得ず』を実践することを決意する。

「機動力の高いバクゥを突入させろ! それと本艦に搭載しているディンも投入して牽制させる!」

「デュエルはどうしますか? あの機体の火力は有効だと思いますが」

「グゥルに乗せても的にされるだけだ。あれには地上からの支援に専念させろ」

「了解しました」

「本艦に搭載されているインフェストスはどのくらい使える?」

「ディンに制空戦闘をゆだねていたので、消耗は軽微です。4機全機使えます」

「全機発進させろ。連中の戦闘機を牽制させる」

ザフト軍の陸上戦艦から数機のVTOL戦闘機が発進する。さらにザフト軍戦艦は搭載している主砲をドミニオンに向けて放つ。

「てぇ!!」

轟音と共に撃ち放たれる砲弾は、次々にドミニオンの周囲に着弾し砂埃をあげる。

いや、それだけではない。着弾時の衝撃波でドミニオンの近くに居たストライクダガーも3機を纏めて行動不能にする。

「3番から12番、対艦ミサイル装填、バリアント発射用意。目標1時方向の敵戦艦群、攻撃パターンは任せる!」 

これを受け、ミナカタはゴットフリートで前方のザフト軍MSを牽制してストライクダガーの抜けた穴を埋めておき、

まずは先からいちいち邪魔をしてくる戦艦の排除を優先することにした。

「撃て!」

ドミニオンから放たれる砲弾とミサイルがザフト軍戦艦に降り注ぐ。

「3番艦撃沈!。2番艦大破!!」

「ええい! なんて火力だ!」

110センチ等と言う馬鹿げた口径のレールキャノンの直撃を受けて平気な兵器など存在しない。

たとえ装甲の厚い戦艦であろうとも、こんな口径のレールキャノンの直撃を受ければイチコロだった。

2隻の戦艦は相次いで火を噴き、脱落していく。いやすでに一隻は跡形もなく消し飛んでいるが……。

圧倒的火力を誇るドミニオンだったが次は、ザフト軍戦闘機インフェストスの活躍で余裕が出来たディンの猛攻に曝される。




「一気に叩くぞ!」

ディンとの戦闘によってドミニオンの火力が逸れたのを見て、バクゥ隊が一気に突入する。

バクゥ隊の切り込みに続くように、イザ―クのデュエルや多数のジンが一気に連合軍MS隊に突撃を敢行しようとする。

「遅れをとるなよ!」

「「「了解」」」

イザークの号令に隷下のパイロット達は一斉に答える。

「いくぞ!」





 バクゥはその4足歩行から得られる機動力を生かして、前衛のダガー隊を突っ切る。

後方のバスターダガー隊はこの濁流を押し留めようと、迫り来るバクゥに集中砲火を浴びせるが、ビームは虚しく空をかけるだけ。

「早すぎる!!」

「おい、横だ!」

「なっ!?」

バクゥは一瞬で、バスターダガー隊の側面に移動したのだ。そのあまりの早業に絶句するパイロット達。

仮にナチュラルで同じような動きをしたら気絶は間違いないだろう。

「くそ! なんて連中だ!!」

悪態をつく暇もなく、がら空きの側面にバクゥが放ったレールキャノンが命中しバスターダガーを木っ端微塵に粉砕した。

慌てて照準を変えようとするが、今度は正面のデュエルやジンが攻撃を加えてくる。さらに前衛のダガー隊は立ち直っていない。

この状況では、あっけなく突き崩されてしまう。

「……僕が残って連中を牽制します。ですからバスターダガー隊は下がってくだっさい」

ストライクIWSPのパイロットのシックス・ソキウスはバスターダガー隊の隊長にそう伝える。

「……判った。直ちに撤収する。しかし、ダガー隊には援護を要請しておく」

「ありがとうございます」

慌てて撤収していくバスターダガー隊。

これとは逆に追加装備であるフォルテストラを装備したロングダガー2機がストライクIWSPに付き従う。

「さて、行くとしよう」






 バクゥの突撃で大きく陣形が崩れてた連合軍は、突入してきたイザーク達に苦戦を強いられていた。

ストライクダガーに比べてジンはやや性能で劣るとは言え、ジンのパイロットの多くは開戦以来のベテラン揃いである。

経験の差を生かしてザフト軍は互角以上に戦っていた。何せ連合軍側はほんの数週間前から乗り始めたようなMS乗りが殆どなのだ。

「このドンガメが!」

ザフトは直線的な動きしか出来ない連合軍MS隊の動きを先読みして一点に集中砲火を加える。

いくらシールドがあるとは言え、何機ものジンからの攻撃を集中的に浴びればあっという間に蜂の巣だ。

「ちくしょう、まだ俺達じゃあザフトにMS戦闘じゃあ歯が立たないって言うのか!」

軽やかに動き回り、味方にトドメをさしていくデュエルを見ながらパイロットは歯軋りする。

「こうなれば消耗戦だ。連中だっていずれはバッテリー切れがおこる。それまで粘りぬけ!」

ダガー隊隊長はそう言って、部下を鼓舞するがさすがに情勢は厳しい。いくらバッテリー切れを待つといっても

許容できる損害には上限と言う物があるのだ。物量を誇る連合軍といってもそれは無限ではない。

さらに個人的なことだが、数的に優位にたっているのに、これだけ苦戦していては後々の出世にも響く。

「どうすればいい。どうすれば……」





 連合軍相手に互角に以上に戦う友軍を見て、イザ―クは満足していた。

(よしここでの追撃を断念させれば退却までの時間は稼げる)

すでにザフトに勝機がないのは明らかだった。予備戦力はもはやなく、弾薬も心もとない。

それに戦艦が2隻も相次いで脱落した事で、補給や整備が難しくなっている。

ここで踏ん張らなければ、総崩れになるのは自分達なのだ。

「ここで一気に攻撃に出るぞ!」

一回補給の為に艦に戻ったのち、彼はそう言って戦場に踊り出るが、その決意は予期せぬ闖入者によって阻まれる事となる。

彼が前線に出たとき、踏ん張っていた3機のジンが相次いで高出力のエネルギー弾を浴びて粉砕された。

「何?」

これだけの出力を誇るからには、砲戦型のMSとイザークは判断した。だが次に来たのは……。

「ビームカッターだと?」

辛うじてイザークは回避したが、横に居たジンが突撃銃を持っていた右腕をごっそり切り落とされた。

この攻撃の元凶を求めてイザークはビームカッターが戻っていく方角を見る。そこには……。

「連合の新型機、パナマに出たという砲戦型のMSか?」

その予想を肯定するように、その機体はレーザーをデュエルに向けて放つ。だが……。

「その程度の攻撃に、このイザーク・ジュールが当たるか!!」

彼はそれをあっさり回避し、逆にビームを撃ち返す。尤も相手もそんな攻撃にあたるようなものではなかった。

「くそ、手ごわいな……ここまで粘るナチュラルがいるとは」

ビームとレーザーによる撃ちあいをするが、中々決着がつかない。

だがバッテリーの量の問題もある。そう無意味なビームの撃ちあいに付き合ってはいられない。

イザークは砲戦型MSであるなら、接近戦闘には弱いはず……そう考えて一気に勝負に出る。

アサルトシュラウドの機動力で一気に距離を詰める。無論、無傷ではすまない。

幾つものレーザーが肩や足をかすめ、装甲に傷を残す。そして……。

「ちっ、シヴァがやられたか」

右肩に設置してあった115ミリ・レールガンのシヴァがレーザーで焼ききられる。

だがそれを犠牲にした甲斐はあった。イザ―クはついに敵MSを接近戦闘を挑める距離に収めた。

「もらった!!」

ビームサーベルで一気に相手を切り裂こうとした……その瞬間、彼は驚くべき物を目にする。

「何!!?」

先ほどまでレーザーを放っていた物が、突如として対艦刀として機能したのだ。

目の前のMSはデュエルのビームラーベルを、右手の対艦刀で防ぐ。そして左手の対艦刀をデュエルに向けて突き刺す。

「くそ!」

慌てて、後ろに飛ぶデュエル。辛うじて左手の対艦刀の刃からは逃れられたが、胸部装甲にやや損傷を受ける。

「やってくれたな……」

イザークはまだ知る由もなかったが、この戦いこそが彼とイレブン・ソキウスの2回目の戦いとなる。

尤も今それを知ったとしても、彼は喜んだだけだろう。何せ今でも燃え滾る闘志があるのだから……。

「いくぞ!」

かくして次世代機のGATシリーズとして開発されたソードカラミティと

GATシリーズの雛型として開発されたデュエルの戦いの火蓋が切って落とされた。








 あとがき

青の軌跡第18話をお送りしました。う〜ん、忙しいのに何しているんでしょう、私は(汗)。

今回ひさしぶりに盟主登場。そのあおりでイザ―クとイレブンの戦いは次回になりました。

それでは第19話でお会いしましょう。

駄文ですが最後まで読んでくださりありがとうございました。










代理人の感想

橋渡しといった感じの回でしたね。

盟主もそろそろ活躍しないと、現場の話だけでは忘れられてしまうかも(笑)。