「どうなされます?」

クルーゼの会談要請……この要請を受けるか否かについてのサザーランドの問に、アズラエルは即答できなかった。

(何が起こっているというんだ? だいたいクルーゼはカーペンタリアで指揮を執っていたはずだ……それが何故?)

カーペンタリアは地球連合軍が行った核攻撃で文字通り焦土と化した。さらに運良く(?)生き残っていた残存部隊は

その後の徹底的な空爆でほぼ全滅したことが確認できた。アズラエルはクルーゼはカオシュンに脱出したか、それとも

カーペンタリアで死んだ(アズラエルとしては後者を望んでいた)と考えていた。

(考えられる可能性としてはカーペンタリアが核で吹き飛ぶ前に脱出か……いや、奴は己の目的の為に脱出せざるを得なかった

 と言うべきか。一連の敗退の責任をとらされるとでも考えたのか?)

この時点では、オーストラリアにおけるザフトの生物兵器、核兵器の使用がクルーゼの独断であることを知らないので、アズラエルは

クルーゼがオーストラリアにおける戦いの敗北の責任を追及されたためにこちらに接触せざるを得なくなったと考えた。

(ふむ。こちらに接触してくると言う事は、こちらにとって有益な情報を持ってきていると考えてもいいな。

 いや、正確にはこちらが有益と判断できる情報か……ジェネシスの情報か、それともあの生物兵器に関するものか)

ジェネシスの関する情報はある程度は入ってきている。だがそれが地球を直接叩ける戦略兵器であることまでは掴めていなかった。

(いや奴の最終的な目標、世界の滅亡のためにはジェネシスは必要だから、ジェネシスの正体に関する情報はないはずだ。

 消去法でいけば例の生物兵器『ヴェノム』に関する情報と考えたほうが妥当か。しかしそれも恐らく機密のはず。

 それをわざわざ直に持って来ると言うことは陣営を鞍替えするつもりなのか?)

アズラエルはクルーゼの目論みをそう推定した。

(どうする、会談に応じるか? いや、会談に応じるふりをして奴を謀殺するほうが……いや奴のことだ、何か保険がある筈だ)

クルーゼの策士としての能力を高く評価しているアズラエルは、簡単にクルーゼを謀殺することに躊躇いを覚えた。

「大佐、スナイパーを用意しておいてください。それと諜報部に命じて国内で何か変ったことが無かったか調査させてください」

「国内ですか?」

「はい。それと、会談の一件ですが、応じると先方に伝えておいてください」

「判りました」

かくしてクルーゼとアズラエル、ザフトの獅子身中の虫であった男と地球連合を裏から牛耳る男が対面することとなる。



 アズラエルが新たな局面に対応しているころ、他の面々も本格的に独自の行動をとり始めていた。

「MSが30機か」

「はい。内訳はストライクダガーを12機、さらにオーブ戦で回収したM1アストレイが8機。

 他に戦場で捕獲したザフト軍のジン10機となっています。これに加えて必要な補給物資も付け加えます」

「なるほど。船は?」

「ジャンク屋に要請してサルベージしたローラシア級1隻、さらに我が軍の駆逐艦3隻が譲渡される予定です。

 必要な人材も着実に集まりつつあります。人員については3日後にメガフロートから送り出す予定です」

「そうか。順調だな」

アンダーソン大将は部下からの報告に安堵する。

「あちらはどうなっている?」

「ユーラシア連邦軍はザフト強硬派の部隊を選別して攻撃を繰り返しています。いずれザフト内部に深い溝が出来るでしょう」

「そうか」

地球連合軍内部の反ブルーコスモス派は第3勢力の母体として、ザフト穏健派を利用することを目論んでいた。

だが第3勢力として育て上げた彼らが、ザフト強硬派と手を組み自分達に牙を向ける可能性を見落としてはいなかった。

そのため、反ブルーコスモス派はアラスカの作戦でブルーコスモスに恨みを持つユーラシア連邦軍と協力して、

ヨーロッパでザフト強硬派の部隊を積極的に叩き、穏健派の部隊には手加減を加えるという作戦を実行していた。

いやそれだけではない。すでに多数のエージェントがザフト占領地で地球軍と穏健派が裏で繋がっているとの情報を流している。

最初こそ、この策は効果が少ないだろうが時間がたつに連れて被害の差が歴然となる。その時にこそ、この策は成就する。

「確かに第3勢力は必要だ。だがそれがザフトを強化すると言う事態は避けなければならない」

彼らが望むのはあくまでも、ブルーコスモスを牽制するために都合の良い勢力に過ぎない。自分の意思で動き回る駒は必要ない。

「引き続き作戦を継続してくれ」

「判りました。それとアンダーソン閣下、諜報部の人間から気になる情報が」

「何だ?」

アンダーソンは部下が差し出した報告書を見て、眉をひそめる。

「ラウ・ル・クルーゼがアズラエルと会談?」

「はい、如何なるルートで接触したかは判りませんが両者がハワイで会談するとの情報が入ってきています」

「と言うことはパールハーバーか。あそこは太平洋方面軍の根拠地の上、ブルーコスモス派の勢力も強い」

地球連合軍基地で、ブルーコスモス派の影響力の強い基地としてニューヨーク基地、パナマ基地、マドラス基地、ハワイ基地、

そしてプトレマイオスクレーター基地がある。無論、他にも彼らの影響力が強い基地はあるが主だったのは上記の基地だ。

連合軍最高司令部があるグリーンランドはさすがに中立だが、そことてブルーコスモスの影響力は日に日に高まっている。

「ふむ、事態によってはさらにブルーコスモスが動くかもしれん。情報の収集を頼む」

「了解しました」

地球連合軍内部でブルーコスモスを中心とする強硬派と、アンダーソンを中心とする穏健派の対立は深まりつつある。

それは決して表にはでず、内部で深く、そして広く亀裂は広がりつつあった。





             青の軌跡 第21話






 ハワイ真珠湾基地・・・・・・かつて極東の小国が当時、世界最大の国力を有していた国家相手に戦いを挑んだ大戦において初の

戦場となった基地であり、本大戦においては地球連合軍の太平洋方面における活動拠点であった。

アラスカ基地なき今、太平洋方面の活動を一手に引き受けているといっても過言ではないこの重要基地で極めて重要だが、

一方の当事者にとって絶対に秘匿しておきたい会合が開かれようとしていた。

「ラウ・ル・クルーゼは?」

「すでに会議室に通しています。ですが本当に宜しいのですか?」

サザーランドの問いにアズラエルは眉をひそめる。

「僕だって不本意さ。だけど彼の能力は決して過小評価してはいけない。こんなあからさまに接触してくる以上は

 何かしら手を打っていると考えたほうが良いだろう。杞憂かもしれないが、その可能性は無視できない」

本来なら戦時捕虜として収容所にぶち込んでおきたいが、そんなことを出来ない事情もあった。

「まぁラウ・ル・クルーゼが寝返ったと言う情報がプラントに流れれば相当の動揺が広がることが期待できるし、悪いことじゃない」

アズラエルはそう言ってサザーランドを説得するが、本人はその考えにまったく納得していない。

(あんな危険人物はさっさと抹殺するに限るさ。情報だけもらったらささっと消して闇に葬ってしまうのが世界のためだ。

 だけどあいつがそうそう簡単に舞台から退場するとは思えない。と言うか絶対にない。だとすれば・・・・・・)

クルーゼはこちらが取引に応じざるを得ない状況を作り上げているのだ。少なくともアズラエルはそう確信した。

だが・・・・・・と彼は思い直す。

(だがここは地球連合軍の腹の中、そうそうおかしなことはできんはずだ。それに保険もかけてあるからな。

 それにわざわざ接触してくると言うことはあちらも追い詰められている証拠のはず。そうそう簡単に負けることはないはずだ)

アズラエルはハワイに入る前に、プラントに潜入した諜報員から今回の核兵器、及びヴェノムことV01の使用はクルーゼの

独断であることを知らされていた。ゆえにクルーゼは非常に苦しい立場にいると言える。

(奴は俺が追い詰められているとは知らないはず。恐らく、今回の一件でコーディネイター殲滅を声高に叫ぶと読んでいるだろう)

廊下を歩きながら、アズラエルは頭をフル回転させて今後の策を練る。頭の中で考えを纏めているうちに会議室の前にたどり着く。

「………調査結果は?」

アズラエルは確認するかのようにサザーランドに問いかける。

「アズラエル様の予想通りでした。一応、対処の為に連邦警察に依頼して特別チームを編成しましたが・・・・・・」

サザーランドが即座に答え、その答えにアズラエルは顔を渋くした。そして……会議室のドアが開く。


 アズラエルから向かって正面の机に彼は居た。彼はアズラエルが入室すると同時に立ち上がり、頭を下げる。

「お初にお目に掛かります、ムルタ・アズラエル氏。私がラウ・ル・クルーゼです。以後お見知りおきを」

冷たい眼光を、その仮面に宿しながらもこの男は礼儀正しく自己紹介を行った。

クルーゼから発せられる冷たい風を肌で感じたアズラエルは、内心でやや冷や汗を流しつつも返礼した。

「いえいえ、こちらこそお見知りおきを」

そう言って、両者は椅子に座った。サザーランドはアズラエルの傍で立ったまま、クルーゼに警戒の視線を送る。

彼はクルーゼが何かしら変な真似をしたら即座に射殺するつもりだった。

そんなサザーランドの警戒を内心で冷笑しつつ、クルーゼは切り出した。

「今回、わざわざ理事に御足労いただき感謝しております」

クルーゼの『理事』との言葉に、アズラエルは国防産業理事としての自分と取り引きを望んでいると判断した。

「いえいえ、スピット・ブレイク、NJCなど貴重な情報をこちらに提供して下された貴方がわざわざ足を運んでこられた

 のですから、この程度の歓迎は当たり前です」

彼は国防産業理事であり、大西洋連邦だけではなく地球連合各国に大量の武器を提供する立場にいるVIPだ。

そして同時に現在、地球連合軍を牛耳っているともいえる。地球連合の構成国に大量のMSを提供しているうえに、

NJCに関する権利も一手に握っている。さらにブルーコスモスは軍需産業体そのものと結びつき、大西洋連邦大統領をも

意のままに操ることすら可能になりつつある。彼の今の影響力なら多少の横紙破りは可能だ。

「で、このたびは如何なる御用件でこちらに?」

アズラエルは、即座にクルーゼの真意を問う。クルーゼといちいち世話話をするような余裕もないし、精神異常者と会話を楽しむ

ような趣味はアズラエルこと修は持ち合わせては居ない。

「このたびは商談に参りました」

「商談?」

半ば予想通りの用件に、アズラエルは冷静にたずね返す。

「そちら側の商品は?」

「・・・・・・このたび、オーストラリアで使用されたザフト軍生物兵器『V01』、こちらではヴェノムと呼ばれているものの資料」

「・・・・・・・・・」

自分が喉から手がでるほど欲しがっているものを提示されたが、ある意味で予想通りだったためにアズラエルは驚かない。

一方でサザーランドは驚きのあまり声も出ない。

ブルーコスモス派の軍人であるとはいえ、祖国の機密をぺらぺらと喋る軍人がいるなど思ったこともなかった。

(単な売国奴ではない・・・・・・・・・この男、危険すぎるな)

クルーゼの危険性を肌で感知したサザーランドは、即座に持っている拳銃で目の前の男を射殺したかったが、それをアズラエルは

目線で制止した。このアズラエルの反応を満足に思ったのか、クルーゼは即座に続ける。

「他にザフト軍が現在開発中の新技術、ドラグーンシステムと呼ばれる量子通信関連の資料、さらにゲイツと呼ばれる新型MSの

 データもあります。如何です、決してそちらが損をする商談ではないと思いますが?」

ヴェノム、ドラグーンシステム、ゲイツの資料などアズラエルにとっては喉から手が出るほど欲しい商品ばかりだ。

しかし世の中には、ハイリターンにはハイリスクがつき物であることを彼は知っていた。

「で、こちらは何を用意すればよいのですか? そちらの商品に見合うものとなると、金額にしては相当になりますが?」

「そう難しいことではありません」

「へぇ? 一体、何なのです? これだけの商品に見合い、かつそんなに困難なことではないというのは?」

その問いにクルーゼは即答した。

「簡単なことです。私を地球連合軍の士官として任用していただきたい。理事のお力添えがあるのなら可能でしょう」

「!!!」

驚くサザーランドだったが、隣の盟主が平然としているのを見て、アズラエルがこの事態を予期していたことを悟る。

(さすがはアズラエル様だ)

畏敬の念を抱くサザーランドだった。

「ザフト軍の内情に詳しい私なら、必ず役に立って見せます。如何でしょうか?」

クルーゼの売り込みに、アズラエルは考える素振りをした。彼にとってクルーゼの条件は予想範囲内のことであった。

だがそれに対してどう答えるかまでは、結論を出していなかった。

(極めてハイリスクで、リターンはリスクに比べて小さい。だが比較論に過ぎないともいえる)

ドラグーンシステムを連合が実用化できれば、その効力は極めて大きいといえる。

NJで無力化したはずの精密誘導兵器が復活すれば、MSなど単なる的にしか過ぎなくなる。

それはかつて第二次世界大戦においてVT信管が登場したのとおなじくらいの効果をもたらすだろう。

さらにゲイツの詳しい資料があれば、今後戦いやすくなる。それらを考慮すれば利益は非常に大きいと言える。

だが最大の問題は、いつクルーゼが自軍に不利益を働くかわからない点だ。これを無視することは絶対に出来ない。

かと言って無下に断れない事情もあった。しばらくの熟考の後、アズラエルがこの場で出した答えは……。







「・・・・・・・・・良いでしょう。その条件を呑みましょう」









Yesだった。

「貴方には地球連合軍中佐として軍に入っていただきます。戸籍、経歴もこちらで用意しましょう」

アズラエルの答えに、クルーゼは満足げに頷く。そしてそのあと、2、3の会話の後、対談は終了することとなる。

両者の間には契約が結ばれることとなり、その場でサインが行われた。

詳しい内容は割愛するが、要約するとクルーゼは資料を後日に届け、それを確認したのちにアズラエルがクルーゼを

連合軍に加えると言うものだった。、尤もこれにはある条件があったが・・・・・・。

「アズラエル様………よろしいですか?」

クルーゼが会議室を後にするのを見てサザーランドが小声で尋ねた。アズラエルは頷いた。

「勿論ですよ、大佐。危険分子は速やかに排除するに限ります。そう、裏切り者は何度でも裏切りますからね」

そして暫くして小声で呟いた。

「少なくとも我が国にヴェノムを送りつけるようなテロリストを放置しておく理由はない」

その数分後、対談が行われた建物の玄関で人が倒れる音がした。



「くっここは・・・・・・」

闇、闇、闇・・・・・・・・・そう表現するしかない部屋でクルーゼは手足を椅子に拘束された状態で目覚めた。

(確か、私はあの会議が終えた後に・・・・・・狙撃された。くっ、あの男め!!)

クルーゼはアズラエルとの商談が成立したあと、即座にその建物を後にしたのだがそれが仇となった。

彼はアズラエルとサザーランドが特別に編成した狙撃チームによる麻酔弾の集中砲火を浴び、その天性の才能を生かすことなく

麻酔弾数発を命中させられて深い眠りに落ちたのだ。そのあと彼は拘束されて、この部屋に運び込まれたのだ。

「何としてもここを脱出し、しかるべき報復をせねば」

憎悪をこめた呟きだったが、それに答える声がした。

「それは無駄ですよ」

「アズラエルか!!」

どこからとなく聞こえてくるアズラエルの声に、クルーゼは反応した。

「貴様、契約をどうするつもりだ!!」

「最初に契約を破っていたのは貴方でしょう」

「何だと?!」

「V01、あれを大西洋連邦、ワシントンを含めた主要都市に持ち込んでいるでしょう? あれが敵対行為以外の何なのです?」

クルーゼは富豪であったフラガ家の財産の一部を横領しており、隠し口座には莫大な資金が溜め込まれていた。

その莫大な資金を使えば、試験管サイズのものを大西洋連邦にこっそり持ち込むのは難しくない。

しかし今は戦時下、さらにアズラエルの依頼で連邦警察が調査をしていたために、怪しげな物体が運び込まれていることが判明した。

一部のものを押収して調査した結果、ヴェノムと判明したのだ。

「き、貴様気づいていたのか!」

元々、クルーゼが持ち込んだV01は交渉が決裂した場合や難航した場合の切り札だった。

いや、最終的にはクルーゼの指令次第で発動する地球連合を暴走させる劇薬でもあった。

だが、その存在を察したアズラエルは、まずクルーゼを油断させてから捕縛する道を選んだのだ。

「いえ、具体的に何処に送り込まれているかを知ったのは、貴方が自白剤で色々と自白してからです」

「!!」

クルーゼは仮面の下の目を見開いた。

「貴方ほどの策士が、何の保険もかけずに、わざわざのこのこと連合軍基地に現れるわけがないですからね。

 こちらもそれ相応の準備をしていたということです。私も無能ではないのでね。

 あ、そうそう・・・・・・この基地から脱出することは考えないほうが良いですよ。貴方が大西洋連邦本土に送り込んだ

 V01はあらかた回収させていただきましたし、ついでに貴方が雇っていた人間もまとめて逮捕しましたから味方はいません。

 尤も仮にここを出たとしても、市民に見つかって八つ裂きにされるのがオチだと思いますが」

「どういうことだ!」

「貴方がV01と核爆弾を無断で使用したこと、それに貴方がオーストラリアで採った卑劣な戦術の数々は

 全世界に公表済みですから。まぁ近日中に公開裁判を開く予定ですので、覚悟しておいてください」

「き、貴様!!!!」

クルーゼの憎悪をこめた声に、アズラエルは嘲笑をもって答える。

「せいぜい、貴方が持ってきた資料は有効に利用させていただきますよ。『世界の滅亡』を防ぐために」

世界の滅亡を防ぐ・・・・・・その言葉にクルーゼは歯軋りした。だがそれも次の言葉に凍りついた。

「まったく、死に掛けのクローンがここまで世界を引っ掻き回すとはね。人の執念、見せてもらったと言うべきか・・・・・・」

思わず出たアズラエルの本音の一端・・・・・・それを聞いたクルーゼは愕然とした。

「き、貴様は私のことを知っていたのか」

「!!・・・・・ええ。知っていました。おかげで貴方がどんな手を打ってくるかもある程度見当がつきました」

失言だったな、と内心で舌打ちしつつアズラエルは続ける。

「まぁ貴方にはここで舞台から退場していただきます。

 世界の滅亡なんて言うバットエンドな展開を望むヘボ監督兼役者を放置しておくのは好ましいことではありませんからね」

「ぐっ!!」

「まぁあと数十年後、あの世、いえ地獄でお会いしましょう。尤も地獄なんてものが存在すればの話ですが」

(尤も俺が死んであの世、恐らくは地獄だろうけど、死後の世界にいければの話だけどね)

この世界でアズラエルとして死んだら自分はどうなるのか・・・・・・現実の世界で殺されたときのようにまた別の世界に行くのでは

ないかと、そんな漠然たる不安を抱えながら彼は話を締めくくった。




 クルーゼの処分を、ブルーコスモスの息のかかった司法関係者に任せると、アズラエルはクルーゼから押収した資料を

北米のアズラエル財閥本社に持ち帰り、即座に研究に取り掛からせた。その結果、ドラグーンシステムに関しては短期間で

実用化できるとの報告を技術陣から受け取った。

「ドラグーンシステムですが、1ヶ月程度でこちらで実用化できます。しかしエルビス作戦には間に合いそうにありません」

「いえいえ2ヶ月程度で前線に配備できれば十分です。それにしても早いですね、もうすこし時間がかかると思いましたが」

「はい。もともと量子通信はCE初期から基礎研究がされていましたので」

「まぁ良いでしょう。これで精密誘導兵器を復活させることは可能ですね」

「はい。量子通信でミサイル等の誘導が可能になります。

 さらにMS、MAの遠隔操作も将来的に可能になりますから、その影響は非常に大きいと言えるでしょう」

元々MSが幅を利かせるようになったのは、NJで精密誘導兵器が使用不能になったという理由が大きい。

このために有視界戦闘が主流となり、機動力、汎用性、攻撃力に優れるMSが戦場の主役に躍り出たのだ。

これは第二次世界大戦初期から中期にかけて航空機が戦場の支配者となったことに似ている。

航空機の艦船をはるかに越える行動範囲と、技術革新による攻撃力の向上などによって航空機は戦場の支配者となった。

だが第二世界大戦後期からは、連合軍が開発したVT信管(近接信管)などの対空火器の発達によってその被害を拡大させた。

それと似たようなことがこの大戦においても起ころうとしていた。

(精密誘導兵器を多数搭載した防衛衛星を衛星軌道に配置すれば軌道上に接近してくるザフト軍艦艇を迎撃できるか)

人工衛星などザフト軍にとってみれば良いカモだった。だがそれも精密誘導兵器が搭載されているとなれば話は違う。

(多数の軍事衛星によって構成される衛星軌道の防衛網。これに地上から誘導可能な迎撃ミサイルがあれば・・・・・・)

アズラエルは、このドラグーンシステムを利用した防衛網の構築を議会に諮ることを決意した。

そして防衛システムの開発と連動して、アズラエルはエルビス作戦の変更を取り下げることとなる。

かくして本大戦は、史実と異なる流れを辿ることが決定付けられたのだった。






 あとがき

お久しぶり、earthです。青の軌跡第21話をお送りしました。え〜クルーゼ退場です。

まぁあとは公開裁判で処刑が適当でしょう。色々と異論はあるかもしれませんが、これにて彼の出番は終了となります(多分)。

アズラエルの頭痛も少しは和らぐでしょう(苦笑)。尤も次回以降はさらに頭痛を助長させる方々が動く予定ですが(爆)。

・・・・・・彼に安息の日は来るのだろうか、書いている自分も判りません。

エルビス作戦の発動も間近ですが、それゆえに色々と動く方々も出てきます。

地球圏の興亡はこの一戦にありって言う展開にまではもう少し時間がかかりそうです。

それでは駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第22話でお会いしましょう。

感想代理人プロフィール

戻る

 

代理人の感想

おや、意外にあっさりと。

まぁこれはこれでスッキリするので良し。(笑)

原作では視聴者に散々ストレスを与えた挙句、それを解放しないで勝ち逃げしましたからねー。

やっぱり悪役ってのは最終的にはやられて何ぼだと思うのですよ。

ではまた。