ラグランジュ4……地球連合軍、ザフト軍両軍から大した価値がないとされたこの宙域で、何やら怪しげな動きが起こっていた。

何隻もの輸送船が行き来し、多くの作業員が廃コロニーで様々な作業に取り掛かっている。

「戦力はどの程度揃っている?」

地球連合軍製の駆逐艦のブリッジで、背広姿の男がラクスの隣に居るダコスタに状況を尋ねる。

「そちらから頂いたMSの多くは配備済みです。何なら訓練風景を……」

「いや、構わない。あの砂漠の虎の副官だった君の言うことだ、信用できるだろう」

そう言って、男は話題を変える。

「こちらはあとサルベージした戦艦を2隻、駆逐艦を4隻ほど送るつもりだ。これで作戦行動は可能だろう?」

「ありがとうございます」

すでにラクス達は連合製戦艦を6隻、駆逐艦12隻、アガメムノン級宇宙母艦2隻、ローラシア級4隻を手に入れていた。

さらにMSもM1、ジン、ストライクダガーなど多数の機体を入手しており、決して侮れない勢力となっていた。

「地球連合軍が、いやブルーコスモスが調子に乗ってプラントに攻め込む日も近い。そうなればどうなるか・・・・・・」

地球連合、ザフトは共にオーストラリアの一件については、クルーゼひとりの責任にすることで決着していた。

当たり前だが、この決定にブルーコスモスは不満たらたらだった。それを辛うじてアズラエルが抑えている状態だ。

そんな状態でプラントに攻め込めば、最悪の場合、虐殺が起こる・・・・・・男と彼の属する勢力はそのように判断していた。

「分かっています。必ず、そちらの期待に答えて見せます」

「うむ……だが、最近になって私のスポンサー達の中に君達の実力を疑問視する者が出てきたのだ」

この男の台詞にダコスタは目の前の男が何を望んでいるかを理解した。

「つまり、私達の実力を実戦で示せと?」

「その通りだ。君達がどのくらいの実力を持っているかを知っておかないと、スポンサーの理解が得られない」

ダコスタは現状で自分達が動かせる戦力と、挙げられる戦果を考えた。

(投入できる戦力は半個艦隊弱。練度は平均的な部隊以上と言えるが、全軍をまとめる指揮官が・・・・・・)

本来ならバルトフェルドが実戦部隊の総指揮を執る予定だったのだが、想像していなかったアクシデントによって

彼はまだ地球で奮戦中となっている。現在、ザフト軍はヨーロッパ方面軍の救出作戦を遂行中だが、帰ってくるのは

どんなに早くとも1週間後になるのは確実だった。

(地球連合軍の増強は著しいと聞く。この場は1週間後と言うことで話をつけたほうが良い)

砂漠の虎を総指揮官として部隊を編成しようと考えたダコスタは、出撃日を1週間後かそれ以降としてもらうと口を開いた。

「ラクス様・・・・・・」

「判りました。早速ですが、部隊の編成を開始します」

「・・・・・・頼もしい答えだ。結果を期待していますよ、歌姫」

しかしダコスタの願いは叶えられることなく、ラクスは出撃を決定した。

男がブリッジを去っていくのを確認したダコスタはラクスに問い詰めた。

「何故です、ラクス様」

「何故とは?」

「バルトフェルド隊長はまだこちらに帰還していません! そんな中で出撃とは」

「バルトフェルド隊長以外にも指揮を任せられるひとはいます。今回はあくまでもパフォーマンスに過ぎないのです」

ラクスは今回の出撃をパフォーマンスと考えている。

「小部隊を使って、地球軍の輸送船団を襲撃させればそれなりの体面は保てるでしょう」

「ですが、最近の地球軍は輸送船団の護衛にもMS搭載艦をつけていると聞きます」

「かと言ってバルトフェルド隊長が帰還するまで待っているいわけにはいきません。事態は予想以上に流動化しているようですし」

「どういうことですが?」

「地球連合軍の反攻作戦はここ1ヶ月以内に発動するそうなのです」

「い、一ヶ月ですか!?」

「はい。マルキオ導師を通じて聞いた話ですが、地球軍は予想以上に宇宙艦隊を増強しているようなのです。

 ここで一度、実戦を経験しておかないと拙いでしょう。それに、輸送船団を叩くことで多少は地球軍の反攻を遅らせる

 ことが出来るかもしれません」

現在、地球連合、いやブルーコスモスはプラントごとコーディネイターを滅ぼすと言う方針を転換しつつある。

だが地球連合軍が予想以上に早く反攻に移れば、ザフト、いやプラントはあっけなく滅ぼされてしまう・・・・・・そう彼女は信じていた。

コーディネイターとナチュラルが仲良く平等に暮らすことの出来る理想世界建設を夢見る彼女にとっては絶対に容認できない。

「プラントで反戦活動をしている同志達は、何とか決戦になる前の和平を訴えていますが、厳しい状況です」

ラクスの息のかかった者の一部はプラントで反戦運動をしているが、大勢には影響を与えることは出来ないでいる。

尤もその多くはラクス自身のせいでもある。何しろ、フリーダムの譲渡は工廠の監視カメラにくっきり映されていた。

このためNJC流出の原因は無論だが、アラスカでの敗戦の原因もすべてラクスの責任とされていたのだ。

しかも地球連合軍がカーペンタリアで核を使うと言う事態が発生し、プラント内部ではラクスへの批判が高まっていた。

これは今まで協力的だった人間達にも少なからず影響を与えている。中にはラクス派からアイリーン・カナーバ達へ

乗り換える人間も出てきていた。無論、大っぴらに乗換えをする人間はいないが、それでも彼女の求心力は低下している。

(ラクス様は焦っているのではないか?)

確かにここで大きな戦果を挙げることができれば、ラクス達は地球軍と内通していない、と内外にアピールできる。

まぁ実際には内通しているのだが、こういうときは騙したもの勝ちだろう。

さらにより多くの援助をスポンサーから得ることができるだろう。それによって彼女はさらなる力を手に入れられるだろう。

そうなればプラントで低下している彼女の影響力を補えるかもしれない・・・・・・そう考えたのではないかとダコスタは推測した。

しかしそんな部下の内心など知る由もなく、彼女は部隊の編成を命じた。








                     青の軌跡 第23話





 ラクス派が動いた頃、地球では地球連合軍による反攻作戦が展開されていた。だがお世辞にもうまく推移しているとは言えない。

カーペンタリアの壊滅によって、ザフト軍は南太平洋における拠点を失い、先の戦いで生き残った部隊はカオシュンに集結していた。

これを受けて連合軍としてはカオシュン基地のある台湾を奪還して残存部隊を殲滅したかったのだが、

先のオーブ戦での洋上艦隊と航空隊の消耗が激しく、お茶を濁す程度の空爆しか出来なかった。

またヨーロッパではユーラシア連邦軍は供給されたストライクダガーを使って西ヨーロッパ奪還を目指して進軍していたが、

その反攻のスピードはかなり鈍っていた。

「何故、こんなに進軍が遅れているのだ! 敵部隊は少数だろう!」

「も、申し訳ございません。ゲリラ攻撃のせいで兵員の輸送が滞っておりまして……」

「くそ、またゲリラ攻撃か!」

そう、ザフト軍は鉄道や高速道路、トンネルなど部隊を素早く展開させるのに必要となる交通網を効率的、徹底的に破壊したのだ。

この策を思いついたのはバルトフェルドで、彼は正面から戦っては勝ち目はないと判断し、徹底的な遅延作戦に出たのだ。

また彼は少数部隊を敵前線後方に潜伏させ、敵の補給線を狙い撃ちにすると言う作戦も実行している。

「くそ、このままでは………」

ユーラシア連邦軍ヨーロッパ方面軍総司令官フォルカー大将は焦りを感じていた。
 
アラスカ、パナマ戦で消耗しきったザフト軍を物量で押し潰すだけの簡単な作戦と思って、指揮を執ってみればこのありさま。

ここでまごついていれば、戦後の地位は危ないと言わざるを得ないだろう。

(ブリテン島では大西洋連邦軍が大陸反攻作戦を目論んでいると聞く。ここで独力で西ヨーロッパ奪還を果たさなければ

 戦後における発言力が低下してしまう……いや、下手をしたら失脚だ)

現在、地球連合軍もとい、ユーラシア連邦軍は旧フランス、ドイツ国境にその主力を展開させている状況で、

ジブラルタル基地にはまだ手も触れられないどころか、旧フランスの奪還すら果たせていない状況だ。

(アンダーソンと手を組んでいるが、それとてどうなることやら……)

アラスカの一件以降、大西洋連邦軍の動きを監視し始めたユーラシア連邦軍にとってみれば、大西洋連邦軍の重鎮と

よしみを通じておくのは好ましいことであった。フォルカーはアンダーソンの要請と引き換えにある程度の大西洋連邦軍の情報を

入手できるようになり、それを利用して軍内部での地位を確固たるものにしていた。だがそれとて失態が続けばどうなるか判らない。

「交通網の修復を急がせろ! 何としても我々だけでザフトをヨーロッパからたたき出すんだ!!」



 ユーラシア連邦軍が大いに焦っている頃、ザフト軍も焦りを感じつつあった。

「こいつは酷いね……」

「はい。連日の空爆で兵士の消耗は無視できないレベルになっています」

バルトフェルドは部下の報告に顔をしかめた。

「お得意の物量作戦か、羨ましい限りだね、こりゃ」

ユーラシア連邦軍は陸軍の進撃こそ、滞っているがその代わりに徹底的な爆撃をザフト軍の基地、部隊に見舞っていた。

ユーラシア連邦軍は高高度爆撃機を利用して、はるか高度から爆撃を見舞う作戦に出ていたのだ。

無論、ザフトとしてもこれを迎撃したいところだったが、空戦用MSであるディンでは高高度戦闘は不可能で、

戦闘機を使おうにも、MSの生産ばかりを充実させてきたためにザフト軍には迎撃に必要となる数の戦闘機が無かった。

さらに最近になって、補給事情が悪化したために飛べる戦闘機自体が減少し、迎撃すら不可能となっていたのだ。

「議長閣下が何か手を打つらしい。そこに期待するしかないな」

ザラ議長が、窮地に立ったヨーロッパ方面軍を救出する作戦を発動したことはバルトフェルドも聞いていた。

だが、具体的にどのような作戦をするのかまではバルトフェルドも知らない。

(ザラ議長はクルーゼの暴走によって疑心暗鬼に駆られているようだ・・・・・・こいつはやりにくいぞ)

核、生物兵器と言う禁断の手を勝手に一指揮官が使用し、世界最終戦争の引き金に成りかけたことは市民を震撼させた。

すべての責任はクルーゼひとりに押し付けることで辛うじて事なきを得たが、パトリックは隊長クラスの指揮官の暴走を

恐怖するようになり、権限を縮小すると同時に徹底的な監視をつけることにしたのだ。

仮にバルトフェルドにも疑いをかければ徹底的な調査を行うだろう。

そのとき、もしラクスと通じていることが判明すれば粛清されるのは間違いない。

物量で迫る連合、疑心暗鬼にかられたザラ議長・・・・・・彼にとってはやりづらいことこの上ない。

ちなみに一連の事態の引き金となったV01と呼ばれた生物兵器は厳重な警備のもと、パトリック・ザラの命令で

残っている現物、データのすべてをヤキン・ドゥーエに収容されていた。

パトリックは確かにV01を危険な存在と見てはいるが、その有用性は否定していなかった。

彼はV01のワクチンを研究させる一方で、その亜種の開発も命じていた。

それはコーディネイターには発症せずに、ナチュラルのみに発症すると言う一種の民族浄化の研究であった。






 バルトフェルドを悩ましている連合軍の物量、それを支えるには強力な後方拠点が必要だった。

連合軍のヨーロッパ反攻軍は先のオーストラリア戦で投入された兵力を遥かに上回っており、部隊を維持するだけでも膨大な

労力を必要としている。連合、いやユーラシア連邦は彼らを養う物資を集積できる兵站基地を

東ヨーロッパ、かつてポーランドと呼ばれた国の都市ワルシャワに置いていた。

その地には、多数の輸送機が一度に発着することのできる大規模な空軍基地があり、さらにウラル山脈付近にある

ユーラシア連邦軍の工廠と直結している鉄道があると言う最重要基地である。

ゆえにザフト軍も散々攻撃を仕掛けていたが、分厚い防衛網が設置されているために指一本触れることが出来なかった。

だがそんな基地に迫る影があった。

「観測班から報告、衛星軌道から降下してくる物体を探知!」

「衛星軌道からだと?!」

ワルシャワ基地の中央司令室に緊張が走る。

基地司令官達が座る席の前に設置されている大型スクリーンには、衛星軌道から降下してきていると思われる物体が

二等辺三角形のマークで表現されている。

「数は3、一直線にワルシャワに向かっています!」

「まさか核ミサイルか!?」

基地司令ディアスの言葉に司令室に詰めていた将兵すべての顔が引きつった。それはここにいる人間全員が懸念していたことだった。

すでにザフトが核兵器を使えることは知られている。仮にカーペンタリアを核で壊滅させたことに対する報復なら、ワルシャワへの

核攻撃は十分にありえるとディアスは判断した。

「迎撃ミサイル用意! 戦闘機も全機だせ、何としても叩き落すんだ!!」

「了解しました!!」

基地全域に直ちに戦闘配置が発令され、迎撃ミサイルが発射用意に入る。さらに戦闘機隊が慌しく発進していく。

また最悪の事態に備えて、基地、及び都市全域に対してシェルターへの避難命令が発令された。

「総員退避、繰り返す総員退避!!!」

市民、軍人ともに恐怖に顔を引きつらせながら、我先にシェルターもしくは地下鉄に逃げ込む。

一方で退避命令が出ても逃げない人間もいた。

「班長は避難しないのですか?」

観測班の班長アンソニー・エルジェンバレン大尉は、この部下の言葉に笑って返した。

「あれは核じゃない」

「何故です?」

「核攻撃ってわりには中途半端だ。もし俺がザフトのTOPだったら核攻撃は敵勢力の中枢に向ける」

彼はザフトが核の保有量では地球連合よりはるかに劣っていることを知っていた。なにせ宇宙では材料となるウランは採取できない。

ウランを供給してくれそうな勢力であった大洋州連合が消滅した今、彼らは核の保有量を増やすことが出来なくなった。

そんな状況でザフトが本気で核攻撃をするつもりなら、連合軍最高司令部や月基地、宇宙港のあるパナマ基地を狙うはずだ。

しかも防空網を突破できるように手持ちの核をすべて振り分ける。それくらいしなければ成功は覚束ない。

「勿論、俺の言葉が信用できないのなら逃げてもいいぞ」

これには部下が首を横に振る。

「班長だけ置いて逃げるわけにはいきませよ。まぁ、それに班長の勘だけは信用できますから」

「おいおい、まるで俺が勘だけが取り柄みたいな言い方だな」

「自覚がなかったなら、精神病院にいくことをお勧めしますよ」

そう言って彼の部下も配置に戻る。彼らはレーダーサイト、及び光学望遠鏡で目標を観測する。そして・・・・・・。

「あれは・・・・・・MS?」

彼らは目にする。ザフト軍にとっての切り札、そして地球連合にとっては死神と同義語ともなるMSの姿を・・・・・・。

「・・・・・・いそいで、中央司令室に知らせろ! あれはミサイルじゃない、MSだ!!」

「ったく、それにしても大気圏を単独で突破してくるMSってどんな化け物なんでしょうかね?」

ワルシャワ基地の中央司令室に非常回線で情報を伝達しつつ、あきれ果てたと言わんばかりの口調で呟く部下に

アンソニーは苦笑いして返した。

「噂では大西洋連邦のGはスペック上では単独で大気圏突入が可能らしい。

 恐らくヘリオポリスで奪取された連中のGATシリーズをベースに開発したんだろう。形状も何となく似てるしな」

「で、連中の不始末のせいで俺らが苦労するってわけですか。連中は自分のケツも自分で拭けないんでしょうかね」

「さぁな。そんなことよりも、MS隊の連中をたたき起こさせろ。このままだとあと3分もしないうちに降下してくるぞ」



 そのころ観測所からの報告を受けて、基地の中央司令室は基地全体に迎撃体制をとらせていた。

迎撃ミサイルを全弾発射し、さらに戦闘機隊も随時攻撃に入らせる。

「敵がミサイルと戦闘機の網を抜けたら、高射砲を撃ちまくれ、この際味方を誤射しても良い!」

「MS隊発進急げ! ぐずぐずするな!!」

ディアスは全軍に迎撃を命じたが、内心ではそこまで問題にはならないだろうと思っていた。

(たかが3機だ。ミサイルと戦闘機、それに高射砲で防ぎきれるさ……)

だが、その甘い考えは一瞬で驚愕に変ることとなる。

「ミサイル全基撃墜されました!」

「接触した第3小隊、第5小隊ともに音信途絶! 全滅した模様!!」

「そんな馬鹿な!?」

だが戦況が映し出されたスクリーンには、先ほどまで映されていた自軍のミサイル、戦闘機のマークが存在しない。

この常識を超えた事態を見て、ディアスは敵が容易な相手ではないと判断せざるを得なかった。

そしてその判断は、観測所から送られてきた映像を見て、さらに補強された。

「パナマとオーブに出てきたザフト軍機か! くそ、あの新型が出てくるとは・・・・・・」

パナマ攻防戦の際に、たった1機で司令部を破壊して指揮系統を瓦解一歩手前に追い込んだジャスティス。

オーブ攻防戦の際に、たった1機で圧倒的兵力を誇る連合軍の侵攻を遅らせてみせたフリーダム。

どちらも厄介極まりない相手であった。

「出せるMSと戦車、ヘリは洗いざらい出せ! 出し惜しみは不要だ!!」

「前線に送る部隊もですか?」

「当たりまえだ! このままでは何もしないうちに破壊されるぞ!!」

この基地には多数のMSがあるが、守備隊用のMSは半分程度であり、残りは前線に送るためのものであった。

しかし、かと言ってそれを遊兵にするほどの余裕はない。彼は全軍でたった3機のMSを迎え撃つ決定を下したのだ。

「敵機、第5滑走路付近に降下します!」

「MS隊を急行させろ! 戦車部隊はどうした!?」

かくして、ワルシャワ基地攻防戦が幕を開ける。






 このワルシャワ基地に降下したのはジャスティス1機、フリーダム2機の合計3機からなる小部隊だった。

だがたった3機の部隊だが、その3機はいずれも常識外れの戦闘能力を有している。そしてパイロットも優秀な人間が揃っていた。

「病はもとから断たねばならない。判っているな?」

攻撃部隊の隊長はザフト軍でも指折りのパイロットであるミハイル・コースト。彼は乗機のジャスティスから部下が乗る

フリーダム2機に通信回線を繋げて確認する。これに対して、部下達は簡素に、明確に答えた。

『判っています』

『勿論です』

「よろしい。では、始めるぞ」

ジャスティスは滑走路付近に降下すると、待機中だった輸送機などを次々にビームライフルで破壊し始める。

続いて管制塔、さらに周辺の格納庫、倉庫を次々に火の海に沈めていく。

重厚なコンクリートに覆われる施設に対しては攻撃力の高いフォルティス・ビーム砲で一瞬で叩き潰した。

ジャスティスの猛攻によって成すすべもなく崩れ落ちていく施設。輸送車両は機関砲で蜂の巣にされていく。

「第4から第7ブロックの格納庫全壊!」

「第5滑走路に待機中の輸送機、全滅した模様!!」

「周辺で火災発生、なおも延焼中!!」

次々に中央司令室に入る凶報。だが凶報はこれだけに止まらなかった。

「『フリーダム』2機が燃料タンクに接近しています!」

「!! 何としても燃料タンクを守れ!!」

燃料タンクが破壊されれば基地自体に多大な打撃を受けるばかりか、ヨーロッパ方面軍の行動にも影響が出る。

それだけは絶対に避けなければならない。だが現実は非情だった。

燃料タンクを死守すべく、急行したストライクダガーだったが、フリーダムの持つ圧倒的火力の前に成すすべもなかった。

収束ビーム砲、レール砲から浴びせられる砲火の前に、ストライクダガーは次々に撃破されていく。

無論、戦車やヘリなどは的以下の存在にしか過ぎなかった。彼らは反撃どころか回避もできずに一方的に撃破されていった。

「戦車部隊、消耗率50%を超えます!」

「ヘリ部隊全滅した模様!」

「たった10分の間にか!?」

ディアスはあまりの被害の大きさに思わず目を剥いた。しかし悪夢はこれからであった。

守備隊をあっさり排除したフリーダムは、次に五月蝿い対空砲を叩き潰すと、燃料タンクへ殺到した。

そして・・・・・・ワルシャワ基地を全体を揺るがすほどの大爆発が起きた。

「ね、燃料タンクが・・・・・・」

紅蓮の炎をあげて次々にタンクが吹き飛んでいく映像を見て、ディアスは放心状態になってしまう。

何しろ、彼の目の前のスクリーンにはヨーロッパ方面軍が2週間動くことが出来る燃料が吹き飛ぶと言う、基地の責任者から

すれば悪夢のような光景が広がっているのだ。放心状態になるのも無理はなかった。

(死にたい・・・・・・)

放心状態の頭の中、彼は死を願いはじめた。さすがにここまでの失態を犯せば軍法会議は間違いない。

下手をすれば不名誉除隊、良くても予備役行きだろう。そんな屈辱に耐える自信は、彼にはなかった。

だが彼の望みは、次の瞬間叶えられることとなる。

ジャスティスのフォルティス・ビーム砲が中央司令室を直撃したのだ。その火力の前に防御壁はあっけなく貫通され、

ビームは一瞬で司令室にまで届き、中にいた人間を一瞬で消滅させてしまった。

司令室の壊滅によって、一時的に指揮系統が麻痺した連合軍は、たった3機のMSに次々に各個撃破されていく。

フリーダムの正確極まりない射撃に、次々に撃破されていくストライクダガー。

ダガー隊が沈黙し、防衛線に穴があくと其処をつくようにジャスティスが突入。一気に後方の部隊を蹂躙していく。

MS隊を前面に押し出し、後方から自走砲で攻撃しようとしていた部隊は、ジャスティスの攻撃に一方的に殲滅されていく。

急いでジャスティスを止めようとするダガーもいたが、フリーダムの攻撃はそれを許さない。

航空部隊はフリーダムを抑えようとするも、もう1機のフリーダムのレール砲の前に次々に撃ち落されていく。

撃ち落された戦闘機は、次々に自軍の基地に墜落してさらに被害を拡大させていく。

「ちくしょう、後退するぞ!」

味方の戦闘機の巻き添えを恐れて、次々に後退していく連合軍。

だが連合軍が後退したことで、無防備になった倉庫は次々に破壊されていく。弾薬が、燃料が、食糧が次々に灰燼に帰す。

周辺をあらかた灰燼に帰すと、3機は新たな獲物を探すべく基地を飛び回りながら破壊の限りを尽くした。

連合軍将兵は指揮系統の瓦解と、圧倒的と言っても良いジャスティス、フリーダムの攻撃力に恐れをなして逃亡を始めた。

「ふん、さすがは核エンジン搭載型だな・・・・・・」

ミハイル・コーストは圧倒的な自機の火力を見て、思わず感嘆した。

ジャスティスとフリーダム2機によって、ワルシャワ基地は大打撃を受けていた。

迎撃してきた戦車部隊は60%が叩き潰され、ヘリはほぼ全滅。

ストライクダガーも実に20%が完全に破壊されるか、大破状態。

さらに燃料タンクや弾薬庫の誘爆に巻き込まれて、多数の機体がダメージを受けている。

尤も、地球連合軍にとって、より深刻なのは燃料タンクや倉庫、さらに輸送機、輸送車両などの損失だろう。

物量を誇る連合軍ゆえに、日々必要となる物資も膨大な量となる。

その物資を送る手段が失われれば、前線の部隊は軒並み立ち往生を余儀なくされる。

「作戦は成功だな。撤収する」

基地の破壊状況を見て、ミハイル・コーストは作戦成功と判断して、撤退を命じる。

これ以上粘っていると、周辺の基地からの増援も考えられるし、何より弾薬が心もとない。

かくしてワルシャワ基地に大打撃を与えた3機は、機体を翻して基地から離れていった。

彼らが基地に突入して離脱するまで、わずか20分弱。だがその間に彼らが与えた打撃は想像を絶するものだった。

この基地に貯蔵されていた物資の実に60%が灰燼と帰し、輸送機も半数あまりが完全に破壊された。

さらに火災によって多くの施設に延焼してしまい、再建には3ヶ月はかかると判断されるほど破壊されてしまったのだ。

それはユーラシア連邦軍主導によるヨーロッパ反攻作戦がほぼ頓挫したことを意味していた。

それは同時にザフトの目的が達成されたことを意味していた。



「ワルシャワ基地が?」

アズラエルはこの凶報に耳を疑った。詳細な情報こそ入ってきていないが、ユーラシア連邦が甚大な打撃を受けたのは明らかだった。

「はい。ユーラシア連邦はヨーロッパ反攻作戦が2ヶ月は遅延することは確実だと言っています」

サザーランドの言葉には不甲斐ない同盟国への嘲笑以外に、何かを心配するような響きがあった。

尤もアズラエルはそんなことは気付かなかった。

「ジブラルタル攻略は困難か……」

「はい。最高司令部は洋上艦隊を使って、海側から攻略する作戦を立案しています。

 またイギリスで編成中の3個軍を西ヨーロッパに上陸させることも考えているようです」

「だがそれだけの兵力があるのかい? エルビスの発動も近いはずだ」

「北米の部隊を使います。幸い、200機ほどのストライクダガーが動けますのでそちらをヨーロッパに回します」

「なるほど、それなら良いか……いや、ジャベリンも1個戦隊ほど回そう」

「判りました。早速進言しておきます」

補給基地たるワルシャワの壊滅によって、ヨーロッパ戦線は一時的に膠着状態に陥った。

ユーラシア連邦軍は補給が続かず、戦線を維持するだけで精一杯となり、一方のザフトはこの隙をついて一気に戦線を

ジブラルタル周辺に下げた。そして順次、集結した部隊を宇宙に脱出させ始めた。

無論、これを黙って見ている地球連合軍ではない。

彼らは西ヨーロッパに陸軍を上陸させる計画を練る一方で、洋上艦隊によるジブラルタル攻略を目論む。

尤も作戦実行にはどうしても2ヶ月は必要となると最高司令部は判断していた。

カーペンタリア攻略戦で消耗した物資、さらにエルビス作戦で必要となる物資の合計した量を穴埋めするのは

物量を誇る地球連合とは言え、非常に重荷であった。

これに加えて西ヨーロッパで新規の反攻作戦するのに必要な物資をそろえるのは国力の面から言って困難であった。

「どちらにしろ、西ヨーロッパを奪還できるのはエルビス作戦のあと、と言う事か」

彼からすれば頭の痛い問題であった。

「………また死人が増えるか」

溜息をつくアズラエル。それを気遣うようにサザーランドは言う。

「アズラエル様、大丈夫ですか?」

「……まぁね」

「多少、休暇を取られたら如何ですか? 最近、働き詰と聞きますし」

この言葉にアズラエルは頷いた。

「そうだね。少し休ませて貰うとしようか……」

かくして、アズラエルは数日の間、休みを取る事となる。その休日の間に何があったかはここでは記さない。

だがこの休日の間に育毛剤の入った2本のビンがアズラエルの部屋に置かれるようになったことだけを記しておく。

ちなみに育毛剤云々を置いておけば、比較的まともな休暇を過ごすこととなり、彼は疲れを癒す事ができた。

尤も、彼は休み明けにワルシャワ基地壊滅に輪をかけるような凶報を聞いて頭痛に襲われることとなるが……。

「輸送船団が謎の武装勢力に襲われて壊滅した?」

第3勢力たるラクス……彼女がついにアズラエルの前に姿を現す。

すべては彼女の願う平和、アズラエルの目論む戦後とは相容れない世界を実現させるために。









 あとがき

 青の軌跡第23話をお送りしました。ラクスが動き始め、ますますアズラエルは頭痛が増えます(苦笑)。

折角休んだのに台無しです。ちなみに今回出てきたザフト軍パイロット、ミハイル・コーストは外伝のキャラです。

アストレイでは、特殊部隊を率いていたお人でした。(尤も、ハイペリオンの前に部隊は彼を除いて全滅しましたが)

それなりに強そうだったので今回はジャスティスにのって登場していただきました。一応ゲスト出演となると思います。

レギュラーにはならない予定です(多分)。ジャンク屋については登場自体が不明です……どうしましょう(爆)。

駄文を長々と書いてしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。

第24話でまたお会いしましょう。


感想代理人プロフィール

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代理人の感想

「圧倒的じゃないか、我が軍は」

などというパトリックの高笑いが聞こえてきそうな回でしたな(笑)。

そーだよなー、ジャスティスとフリーダムが20機もあれば、

今回みたいに軌道上から降下させてあちこちの補給基地を叩くだけで戦況が一変するもんなー(笑)。

宇宙で自由に行動できない限り、三馬鹿トリオのMSを迎撃に配置するか核ミサイルでも叩き込んで各個対処するしか方法は無いし。

スーパーロボット大戦じゃあるまいし、なんつースペック差だ(苦笑)。