地球連合軍輸送船団壊滅の報は、即座に地球連合軍首脳部を筆頭に各組織に届けられた。

この報告はブルーコスモス、中道派を激怒させる一方で、反ブルーコスモス派を影ではある程度満足させた。

「なかなか手際が良いようだな、彼らは」

「はい。これからも連中の戦果が上がり続ければ宇宙軍に対する不信が強まるでしょう」

現在、連合軍、特に宇宙軍はブルーコスモスの強い影響下にある。

これは穏健派であったハルバートン提督が戦死したために、宇宙軍内部で派閥のバランスが大きく狂ったせいであった。

反ブルーコスモス派はこれを苦々しく思っており、これを何とか打開するべく今回、ラクス達をけしかけたのだ。

今回のように輸送船団襲撃事件が頻発すれば、宇宙軍を率いているブルーコスモス派の将官への不満と不信は高まり、

上手くいけば引き摺り落とすことが出来る。特にプトレマイオスクレーター基地は手に入れたいと彼らは考えていた。

「ですが、あまりやりすぎれば反攻作戦そのものにも影響が出るのではないですか?」

「そちらのほうも準備している。プラント内部の反体制派に資金、武器援助はマルキオ導師を通じて行っている。

 連中がプラント内部で動けばザフトも戦争どころではなくなる。それに……あの自由、正義の名をかざしたMSの

 対策もしてある。今回のような失態はもう起きないだろう(いや連中にその余裕がなくなると言うべきか……)」

アンダーソンは微笑みながら言った。

「今はこちらの力を取り戻すことを優先するべきだ。すべては……祖国を正しき道に戻す為に」

今の大西洋連邦は非常に危うい存在となっている……彼はそう確信していた。

(たとえ裏切り者、売国奴の汚名を被ろうとも我々はなさなければならない。アズラエルに世界を委ねるわけにはいかないのだ)

世界各地でコーディネイター排斥を進めるブルーコスモス、しかもコーディネイターのみを狙うだけならいざしらず、

無関係の一般市民をも平気に巻き添えにするブルーコスモスのやり方を彼は忌避していた。

「プラント穏健派、いや正確には旧クライン派が政権を奪取するのはもはや困難となった現状ではこうするほかはない。

 諸君らも大変だろうが、これまで以上に心して職務にあたって欲しい」

現在、地球連合軍反ブルーコスモス派は、プラントで穏健派が政権を奪取できる可能性をほぼ零と判断していた。

これはラクスのフリーダム奪取が証拠付きで発表されたことと、NJC流出が彼女のせいだとプラントで断言されたためであった。

さすがの彼らも、売国奴行為を行った人間が属する派閥がプラントで政権を握れるとは考えていない。

ゆえに彼らは穏健派をとことん利用することにしたのだ。そう、使い捨てにする駒として彼らは穏健派を利用する気だった。

だがそれを良しとしない勢力もある。



「なるほど、アンダーソン大将が……」

マルキオ導師は独自のルートからアンダーソン大将を筆頭にする反ブルーコスモス派の動きを掴んでいた。

「ラクス様に警告しておく必要があるかもしれません……」

彼はアンダーソンが同盟者だからといって情報収集を怠るような真似をしなかった。

いや、むしろ同盟者だからこそ情報を集めておく必要ある。裏をかかれないためにも……。

「俺は何をすれば良い?」

今後の事を思案していたマルキオ導師に声をかける青年がいた。

彼の名は叢雲劾。傭兵部隊サーペントテールのリーダーを務める人物だ。

「貴方にはオーブ軍残党と組んでもらい、ある場所を襲撃していただきます」

「どこだ?」

マルキオは机から書類を取り出すと、無言で彼に手渡した。

「捕虜収容所? ここに何の用があるんだ?」

「ここに収容されているキラ・ヤマト、彼を救出してください」









           青の軌跡 第24話








 プラント本土侵攻作戦『エルビス』の発動に備えて、地球連合軍は月に戦力を集結させつつあった。

第5艦隊、第6艦隊、第7艦隊の3個艦隊が史実より遥かに強化された陣容で集結し、MSも多数の新型機を配備していた。

しかし彼らを満足に活動させるために必要な物資もまた膨大な量となっている。

食糧、水、医薬品、酸素など人間が生存する為に欠かせない物資に加えて、各種兵器の部品、燃料など数えればきりがない。

しかも物資は定期的に欠かさずに月に送り届けなければならない。もしそれが出来なければ、月にいる軍は干上がってしまう。

それゆえに今回の輸送船団の襲撃と壊滅は緊急かつ重要な問題であった。

「襲われたのは第213輸送船団です」

サザーランドの説明を聞いているうちに、アズラエルの表情は険しくなっていく。

「生存者からの報告では、襲ってきたのはストライクダガーに間違いないそうです」

「バカな……いや、すでにダガーが実戦に投入されて久しい。ジャンク屋に回収されて出回っていてもおかしくはないか……」

鹵獲した敵軍の兵器を使用すると言うのは古来からあることだ。

しかも相手が正規軍でないとすれば国籍マークすら変えずに使用する可能性も高い。

「ですが不明な点もあります」

「なんです?」

「はい。第213輸送船団のSOS信号を察知した哨戒部隊が現場に急行したのですが、その際にストライクダガーのほかに

 ジンや、オーブのMSであるM1がローラシア級戦艦、アガメムノン級母艦に収容されていくのを見たそうです」

この言葉を聞いた瞬間、アズラエルの脳裏にマリアから報告された言葉が思い浮かんだ。

(消えた資金、ジャンク屋の動き……まさか、奴らが?)

最低でも半個艦隊にはなるであろう勢力……その存在をアズラエルは思い浮かべる。

「だいたいの数は?」

「アガメムノン級1隻、ローラシア級1隻、他に我が軍の戦艦1隻、駆逐艦4〜5隻を確認したそうです」

「10隻弱の艦隊といったところか……」

「艦の数は少ないですがMSは充実していると言ってよいでしょう。確認されたMSの数は20機にもなります」

一回の襲撃で20機ものMS……それはこの勢力が一海賊とタカをくくれないほどの戦力を有している事を示している。

今回の襲撃が全力で行われたものなら良いが、仮に一部だけに過ぎないとすればその勢力は1個艦隊クラスにはなる。

「哨戒部隊は追尾しようとしましたが予想以上に逃げ足が速く、逃してしまったそうです」

「そうか……」

アズラエルはそう言うと押し黙る。

(反ブルーコスモス派の仕業としても証拠がない以上はどうしようもない……かと言って放置しておくのも拙い)

地球と月の連絡線を脅かされるのは決して無視できない。

地球連合軍にとってプトレマイオスクレーター基地のある月は宇宙における生命線といっても過言ではないのだ。

その月を脅かす存在がいるとなれば、排除しなければならない。

(やれやれ、ワルシャワ基地壊滅に続いて輸送船団襲撃事件とは……ついていないと言うべきか何と言うべきか……)

尤も彼は、このあとさらにとんでもない、そして重要な報告を聞く事になる。

そして彼はある決断を、今までの戦略を大きく転換する決断を強いられることとなった。




 輸送船団襲撃事件から数日後、連合軍最高司令部グリーンランドでは臨時の会議が開かれていた。

「アズラエル、エルビス作戦は延期させて、一旦はヨーロッパ奪還に専念したほうが良いのではないか?」

「そのとおり。本土を攻撃しても満足な戦果が挙げれるかはわからないからね」

ヨーロッパ反攻が頓挫したことで、地球連合軍最高司令部ではエルビスの開始を延期させてヨーロッパ奪還を優先させようとする

勢力が現れ始めていた。特にユーラシア連邦はエルビス作戦開始を棚上げして、余った物資を地上に回すように主張する。

「ヨーロッパ奪還は我が国の悲願。特に西ヨーロッパは重要な意味を持つ」

「それにザフトは戦線をジブラルタル周辺にまで後退させている。ここは追撃のチャンスだ!」

「北アフリカのザフト軍残党を掃討するためには、ジブラルタル基地を確保する必要が……」

アズラエルは高官達の言葉を遮るように反論した。

「何、暢気なことを言っているんです、皆さん?」

ボアズ、ヤキン・ドゥーエの部隊を根こそぎ叩けばザフト軍の戦力は大幅に低下する。

そうすれば地球のザフト軍の維持など到底不可能になるのだ。そう説明してアズラエルは予定通り作戦の実行を主張する。

「ザフト軍のホームベースを叩けば地球に残っているコーディネイターどもも立ち枯れします。

 ヨーロッパに残っているコーディネイターなんて無視しちゃって構わないでしょう?」

「だが……」

「何を悠長な事を言っているんですか。判ってます? 仮にコーディネイターがあのヴェノムをばら撒けば人類は滅亡ですよ」

「「「………」」」

「連中が引き下がったのも、ワクチンがなかったせいです。仮に連中がワクチンを開発すればどうなるかは判りきった事です」

「だが、連中にも理性は残っているだろう……」

「確かにオーストラリアの一件はラウ・ル・クルーゼの暴走であり、ザフト、及びプラント政府は関与していないでしょう。

 ですが、連中の理性がいつまでもつかは保障できない……そうでしょう?」

「た、確かにそれはどうだが……プラントには穏健派も居ると聞く。彼らが……」

「その彼らは国家反逆罪の疑いで勢力を低下させていると聞きます(あの電波の姫君のせいでね!!)。

 そんな彼らがザフト軍の凶行を阻止できる……そう考えているんですか?」

アズラエルの言葉に、ユーラシア連邦外務大臣のカニンガムが反論した。

「確かに彼らでは難しいかもしれないが、強硬派も停戦交渉が大幅に難しくなることはしないだろう」

「何故そういえるのです? 地上から駆逐されれば次はプラントであることは連中も自覚するでしょう。

 連中は自分の巣を守る為にあらゆることをするはずです。その中に生物兵器の使用がないと言い切れます?」

「しかしこちらが核を使わなければ問題ないと思うのだが……」

「僕だって核兵器は使いたくありません。ですがそれは戦争の長期化を招き、国力の低下をもたらします。

 戦争は勝って終わらなければなりません。ですが勝ち方にも問題があります。仮に勝利しても国が衰退すれば敗戦と同義です」

「だがこちらが核を使えばあちらもヴェノムを使用するだろう。それをどうやって防ぐのかね?」

「エルビスが成功すればザフトの戦力は大幅に低下します。そうなればこちらの部隊の配置にも余裕が出来るはずです」

「だが、それはこちらの被害が少なくすめばの話ではないのかね?」

「だからこそ核と、例の拠点攻撃兵器を使用するのですよ。作戦次第では被害は極小ですむでしょう」

(まぁ万が一の事態の保険のために、今回、あれを使うんだけどね……)

大西洋連邦軍は戦訓をもとに改良した量産性、整備性に優れたブリッツや、ジャベリンの航宙機タイプの導入を急いでいる。

いや、すでに一部の部隊には配備が進められている状態と言っても良い。

「準備は万全です。何の心配もいりませんよ」

「だが、万が一の事態にそなえるのが政治家の役目なのだ」

「そのとおり。我々政治家には国民の生命と財産を守る義務がある」

国務長官のサカイを筆頭に穏健派がこぞって、反対意見を述べる。この反論にアズラエルはしばらく黙り、尋ねた。

「では、どうします?」

「我々としては、君が先に主張した戦時条約締結をプラントに提案しようと思う」

核、生物、化学兵器の使用禁止、NJCを利用した大量破壊兵器の製造、開発の禁止を盛り込んだこの条約は

オーストラリアで行われたザフトの凶行(?)によって沸騰した強硬派の手によってお流れになったが、穏健派は

条約締結を諦めてはいなかった。特に協調路線を重んじる派閥(マルキオの信奉者)はこれを通じて話し合いの場を持ちたい

と密かに動いており、プラント最高評議会との接触を図る者も存在している。

「外交で連中の暴走を食い止めると?」

「そうだ。彼らも共倒れになることは望んではいないはずだ」

ユーラシア連邦首相ダニガンはそう言って、アズラエルを説得しようとする。

「君達、ブルーコスモスも共倒れは願ってはいないはずだ。

 それに幹部達の中には穏健な意見が増えていると聞いたことがある。方針転換も可能だろう?」

「それは難しいですね。何しろ、ブルーコスモス構成員は、コーディネイター憎しで凝り固まっている者も多いです。

 クラウス女史の復帰である程度は強硬派を抑えていられますが、それでも限度がありますよ?」

強硬派の首領たるアズラエルの言葉に、何人かの高官は内心、顔を顰める。

「尤も上の連中は比較的抑えることは出来るでしょう。ですが、そうそう簡単にはいきません」

「……我々に何をしろと?」

アズラエルが言外に何かしらの報酬を求めていることを察したサカイは、アズラエルに彼の望みが何なのかを尋ねた。

「簡単なことです。エルビス作戦、及びそれ以降の宇宙での作戦の指揮権を委ねてもらいたいのです」

「「「!!!」」」

この常識外れの要求に多くの高官が絶句した。

「そんなバカな事を認められるわけがないだろう!!」

ウォーレス大将は思わず怒鳴った。冷静沈着を心がけている彼だったが、さすがにこの要求には感情をあらわにして激怒した。

「地球連合軍はあくまでも多国籍軍だ! その軍の統帥権を一圧力団体に譲渡できるわけがないだろう!!」

「ですがそれくらいの譲歩がなければ、各国のブルーコスモス、親ブルーコスモス派を抑えることは難しいかと……」

本大戦では民間人にも多数の犠牲を出している。その犠牲は憎悪と怒りを呼び、周り巡ってブルーコスモスの台頭を招いている。

世論にあわせるように、各国の政治家の中にも強硬派が台頭しており、その制御は難しくなっている。

ブルーコスモス、特に上層部はマリア・クラウスの復帰とアズラエルの政策転換で抑えているが下部組織の暴発までは抑え切れない。

要するにアズラエルもそれなりの成果を引き出せなければならない立場にある、ということだ。

「だが、それだけは譲歩できない。別のことならある程度は……」

国内の情勢と戦後のことを睨んで、苦悩する高官達はアズラエルに譲歩を要請する。

「う〜ん、そうですね……でしたら、宇宙艦隊の人事にこちらの要望を最大限反映させること、それにエルビス作戦においてのみ

 前線指揮官の権限を強化することを認めること……これでどうでしょう?」

幾分、トーンダウンした要求に高官達は小声で協議する。

「権限の強化とはどの程度なのだ?」

「プトレマイオスに展開する全軍の指揮権をエルビス作戦終了までエルビス作戦の責任者の指揮下におくことです」

人事のことを踏まえれば、一時的にとは言え、宇宙軍全軍の指揮権を寄越せといっていることに等しい。

「それは……」

「無論、そちらが懸念するようにプラントごとコーディネイターを抹殺しようなんて考えてもいないので安心してください」

この言葉に多くの人間は沈黙する。

「構わないのか?」

アズラエルの言葉に高官達は半信半疑だった。

「構いません。そのくらいしないと、そちらも譲歩できないでしょう?」

「そ、それはそうだが……」

「では、よろしいですね?」

この言葉に、高官達は頷かざるを得なかった。さらにこの後、細かい協議を行って会議は終了した。




 地球連合は戦略の全体的な見直しを決定することとなった。

エルビス作戦の1ヶ月の遅延と戦時条約締結交渉が決定され、地球連合はプラントに条約締結を呼びかけることとなる。

武装勢力に関してはこの1ヶ月の期間の間に徹底的に掃討することで決着となった。

尤も一ヶ月の遅延は認められても、ヨーロッパ反攻作戦の繰上げ実施はないので、不満を募らせる者も多い。

さらに一部の和平論者はこれが停戦に向かうかもしれないとの希望を抱き、ブルーコスモス派はこれに不満を募らせる。

世界は混乱する様相を見せつつあった。だがその影では密かに次のステップに向けた動きが見え始めていた。

大西洋連邦某所に存在する総合病院、そこにアズラエルの姿があった。

「彼の具合はどうです?」

アズラエルは捕虜収容所から、ブルーコスモスの影響下にあるこの病院に収容させた少年の様子を尋ねた。

本来なら意識が回復したらすぐに軍によって厳しい尋問がされる予定だったのが、それをアズラエルが横から掻っ攫った。

尤も当たり前だが、別に彼はヒューマニズムでその捕虜を助けたわけではない。

むしろ、非人道的な作戦を遂行するための手駒として彼を自分の手元に置いたのだ。

「すでに体調は回復しています。洗脳を行っている最中です」

担当者の言葉にアズラエルは満足げに頷く。尤も内心では苦りきっていたが・・・・・・。

(よりにもよって、こんな作戦をしなくちゃいけないなんて・・・・・・まったく)

自分がしなくてはならない作戦を思い浮かべて、彼は内心でため息をついた。

(だが、この作戦は絶対に成功させなければならない。そう、絶対にだ・・・・・・そのためになら手段は選べない)

すでに状況は始まっている。サザーランドに命じて必要な人員、艦船、MSの用意も進んでおり、

さらに必要となるであろう情報の収集も始まっている。もはや後戻りは出来ないのだ。

(まさかこんな博打じみた作戦をしなくてはいけないとはね・・・・・・)

連合の物量で正面から敵を叩き潰す・・・・・・それが彼の基本戦略であった。

しかし今回、彼はそれとはまったく逆の作戦に手を出そうとしていた。しかも如何にも悪役っぽい作戦を・・・・・・。

(ある意味で史実どおりの展開になるのかな・・・・・・これも歴史の修正力か)

病院にいる少年、アスラン・ザラが辿るであろう将来を思い、彼は溜息をついた。


 アズラエルは病院を後にして、今度はブルーコスモス本部でサザーランドと打ち合わせを行った。

「参加する艦はドミニオン、アークエンジェル、この2隻だけ。これで足りるのかい?」

「襲撃場所であるヤキン・ドゥーエはプラント本土防衛の要とな拠点です。中途半端な数の艦船で接近すれば

 探知されて撃退されるのは目に見えています。今回のような作戦では少数精鋭によって一気に敵中枢を制圧するのがベストです」

「そうか・・・・・・」

そう、アズラエルが今回仕掛けようとしていたのは、ヤキン・ドゥーエであった。

無論、プラント本土防衛の要であるこの要塞をたった2隻で陥落させようとするものではない。

「敵の生物兵器製造プラントはヤキンの内部に存在しますが、今回のような策をしかけるのなら2隻で十分です。

 それにMS隊も精鋭ぞろいですので戦果は期待できます」

「確かに・・・・・・」

今回参加するパイロットはソキウス、強化人間、さらにフラガを筆頭にエース級パイロットになる予定だった。

ちなみにフレイとサイは、今回の作戦に参加するのには錬度が足りないと判断されて外されている。

「最悪の場合は戦術核の使用も許可されていますし、いけると思われます」

今回の作戦は、大統領を筆頭に政府高官から秘密裏に許可を得ている。

サカイは今回の作戦を聞いて猛反発したが、V01の危険性とジェネシスの存在(公式には新たな要塞として説明している)

を聞いて納得せざるを得なかった。かくしてこの作戦は破壊工作の類として承認されたのだ。

無論、今回の作戦は最高機密として厳重に情報統制が行われており、作戦に参加するために宇宙にあがる

アークエンジェル、ドミニオンの2隻も、プトレマイオス・クレーター基地に寄港した後に、表向きは新型MSの習熟訓練を行う

ことになっていた。

「謎の武装勢力に関してですが、プラント本土の諜報員の報告ではL4に人員の流れがあるようです。

 またそれに連動するようにザフト内部にも何かしら不穏な動きがあるようでして、プラント本国では若干の混乱が見られます。

 まぁ我々にはありがたい限りなのですが」

プラント本国での混乱、それは皮肉にも反ブルーコスモス派によって助長されていたのだ。

ザラ派、旧クライン派、さらにラクス派など様々な派閥が入り乱れている状況では、どうしても防諜が甘くなる。

さらに隔離された世界で生きてきたコーディネイター達には、己の能力への過信とナチュラルの能力の過小評価も相成って

外部からの侵入者への警戒心がかなり薄かったのだ。このため機密情報が駄々漏れ、ということもあった。

それゆえに今回、ヴェノムことV01がヤキン・ドゥーエで量産されつつあるとの情報を入手できたのだ。

「まぁ連中が混乱してくれるのなら願ってもないことさ。今はこの作戦に全力を注ぐとしよう」

だがアズラエルはそう言いながらL4と言う言葉が頭に残っていた。

(L4・・・・・・メンデルか? まさか今回の襲撃の犯人はラクスか?)

だがエターナル強奪の情報が入っていないだけに、アズラエルは判断できなかった。

(だがエターナルを擁さない状況で、奴が動けるのか?)

さすがのアズラエルでもザラ派の力が史実よりも低下したためにラクスがプラント本国から脱出できたことは知らなかった。

かと言って見過ごす事は出来ず、アズラエルは輸送船団の護衛部隊を強化させる一方でL4メンデル周辺への偵察を命じた。

また反ブルーコスモス派による妨害も考慮して、ブルーコスモス派将兵が多い部隊を投入することもサザーランドに命じる。

(兎に角、情報の収集が必要だな。まったくヴェノムと言い、ジェネシスと言い、厄介なものを作る連中だ……)

1ヶ月の作戦の遅延が、何をもたらすかを想像するだけでアズラエルは薄ら寒いものを感じていた。

だが、仮に予定通り史実より一ヶ月早く作戦を実行に移した際に、ヴェノムのデータがどこかに逃れていては意味がない。

もしどこかで第二、第三のヴェノムが造られれば、それこぞ人類滅亡の危機となる。

クルーゼの資料を見ても、人類滅亡の可能性は決して低い物ではない。

(連中は間違いなくヴェノムを使う。亜種か、オーストラリアで使用したかものと同じかは判らないが……)

武装勢力の鎮圧も急務だが、ヴェノムの生産施設を根こそぎ叩き潰すことも必要不可欠だった。

ゆえに彼はプラントを油断させるため、そして特殊作戦を準備する期間のために一ヶ月の作戦の延期を呑んだのだ。

無論、指揮権や人事権はエルビスの際に掌握するつもりだったが、あまり派手にやりすぎれば軋轢がうまれるし、下手に譲歩すれば

足元を見られるか、こちらの真意を探られかねない。そのために今回のように交渉を行ったのだ。

(あちらも、ブルーコスモスの暴走を食い止められたと胸をなでおろしているだろう。

 尤もこっちの真意を知らないからこそ、こちらの条件を呑んだんだろうけど……)

今回はうまく行った。だが、かと言ってそうそう自分の思う通りには動いてくれるとはアズラエル自身、思ってはいない。

「どうなることやら………いや、『どうなるか』、ではなくて、『どうにかする』んだ」

自分の思う通りには動いてくれない世界に振り回されて、つい弱音を吐くがすぐにアズラエルは自分に言い聞かせた。

(男が出来る事をしないうちから弱音をはくのは駄目だ。泣き言を言うのは最低でも出来るだけのことをやったあとだ)

だがこの日の夜、さらに頭痛と胃痛が酷くなり、弱音を吐きたくなることが起きることとなる。







 北米某所にある捕虜収容所、その周辺に怪しい影があった。

「用意はいいか?」

劾の問いに、イライジャをはじめとして、他の屈強な男達が頷く。

すでに彼らの仲間は、収容所の各所のセンサー、及び連絡システムに細工をしている。あとは突入するだけだ。

「いくぞ!」

ブルーフレームやジン、さらにM1数機が動き出す。

かくして誰もが眠る丑三つ時、静寂を保ってきた収容所は戦場と化した。











 あとがき

 青の軌跡第24話をお送りしました。

劾が登場しましたが、ゲスト出演となる予定です。尤もダブル(?)主人公は復活する予定です。

まぁ彼らが主役として動き回れるかは不明ですが……。

さて戦時条約とエルビス作戦の延期が行われますが、その影でアズラエルが動きます。

それでは駄文にもかかわらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

第25話でお会いしましょう。



感想代理人プロフィール

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代理人の感想

うーむ。「キラinジャスティス 対 アスランinフリーダム」みたいな無茶な決戦がいずれ行われるのか?

アズラエルも、どうせならキラも一緒に洗脳して置けばよかったのに(笑)。