弾幕を張り続けるザフト軍のジンに援護され、強奪されたGシリーズの四機が戦場から飛び去っていく。

だが、そんな事はどうでもいい。

今は目前においてストライクにブレードを振り翳す『ミゲル専用ジン』の攻撃から逃れなければいけないのだから。

そこで気がついた。

俺は今、なにをしている?





「知るか!三石声は黙って傷口を抑えてろ!」



「冗談じゃないわ!ていうか、三石って誰よ!?」



「五月蝿い!それよりも!うっごけぇぇぇえぇ!!」

叫ぶ。

我武者羅になってとにかく叫びながら必死にコンソールパネルを叩く。

OSを書き換えたストライクの右腕が滑らかな動作を以ってして、横殴りにジンを殴り飛ばす。

その反動でコクピットが僅かに揺れるが、気にせずに次の動作に移る。

画面下では咄嗟の事態に訳もわからず逃げ惑う以下四人をストライクのカメラが捉えている。名前は覚えているが、いちいち呼称している暇はない。

なんせこちらはあの四人を守りながら戦わねばならないのだ。退く事は許されず、そこに間隙はない。





「おい!武器は三石!」



「腰にナイフがあるわ!っていうか三石って本気で誰よ!?」

無視する。

目前では優勢だと思われていたミゲルのジンが再び体勢を立て直し、今度は容赦なくブレードを掲げてこちらに向かって突進してきた。

乗り移ったキラの遺伝子。つまりコーディネーターの性質のおかげか、反射的にすぐさま腰に装備されたナイフ『アーマーシュナイダー』の所持を確認すると大学生時代では到底考えられない神業的タッチでキーボードを叩き、ストライクに指示を飛ばす。

そして、二つの機体が同時に重なり合う一瞬に俺は―――――不意に頭の片隅から引っ張り上げた必殺の名を叫んだ。





「喰らえっ!―――――アーマー」











「シュナイダァァーーー!!!」

それはまるで、巨大なチェーンソーのようだった。

ナイフの外側から走る細かい刃がジンの肉体を深く削り、巨大な鉄の壁を呆気なく切り裂いていく。

火花が散り、閃光染みた光が画面一杯に覆う。

それでも俺は怯まずにジンのブレードをPS装甲で難なく受け止めながらカウンター染みた勢いに任せて、斬り抜いた。

刹那、目前において巨大な爆発が起こった。

ミゲルのジンがアーマーシュナイダーの一閃に耐えられずに吹き飛んだのだ。





「はぁ―――ハァ―――」

敵のいなくなった戦場で、荒い呼吸音だけがコクピットの中に響き渡る。

そこで冷静になった思考にすぐさま疑問が沸いた。





「俺は‥‥‥なんでここにいるんだ?」

額を手で抑え、唇から疑問の声を漏らす。

だが俺の疑問は虚しく鉄の箱に響くだけで、答えてくれる者はいなかった。

しかし、少なくとも。

自分の隣で傷口を抑えている人物が三石―――ではなく、マリュー・ラミアスなのは間違いではなさそうだった。

ああ、悪い夢ならすぐに醒めてくれ。

なんだってSEEDの世界にいるんだよ。俺が‥‥‥。しかもミゲルを‥‥‥人を殺しちまった。

















『俺と種』

『第一話・殺す覚悟と殺される覚悟』

















大学帰りにバイクで事故ったのが運の尽きだった。

トラックと正面衝突した俺はそのまま意識を失い。正直、俺は死んだと思っていた。

しかし、気がついた時に目を開けてみると目の前にはSEEDのアスラン・ザラによく似た人物が俺に向かって銃口を差し向けていた。

おいおい何かの冗談かよ。と内心笑い飛ばしたが、周囲から聞こえてくる絶叫染みた悲鳴と断続的に鳴り響く発砲音。

そして、肌をチリチリと焼く戦場の空気が俺を『今の』現実に無理やり意識を引き戻させられたのだ。

要は無理やりにでもあの状況で納得するしかなかったのだ。今の現実(SEED)に、そして自分が何故か訳もわからずに戦場の真っ只中にいることを―――。

そこからは先程までの悪夢の巻き戻し。

いや、今でも悪夢には違いない。

マリューが俺たち。サイ、ミリアリア、トール、カズィに向けて銃を構えているのだから。





「これは軍の最高機密よ!無闇に触れていいものではありません!!」

とかなんとか言ってるんですよ。

こっちは起きてみればいきなり自分が知っていて全く知らない世界にいて、しかも初めて“人を殺めてしまった”というのに。ナニヲカンガエテイルンダ?





「何するんですか!?」

「そうだ!?そもそも、気絶したあんたをここまで運んだのは俺達なんだぞ!?」

四人が声を揃えて、口々に非難を浴びせる。

だが、マリューは眉をピクリとも動かさず、拳銃を地面に向けて撃ち放った。

その生の発砲音に脅えるサイ達。それを―――。





「あんたは一体‥‥‥」

悩みたい事や自分の今いる状況を冷静になって見詰めたいのに、クソッ。

銃というのは人の命を簡単に奪えてしまうが故に恐ろしい。

だが、俺はさっき人を殺した高揚感と罪悪感の為か、もしくはただ単に俺がいた現実とここの現実との摩擦に耐え切れずにマトモな神経が逝ったためなのか、感情に任せて声を絞り出した。





「動かないで」

「俺は‥‥‥」

一歩前に歩き、マリューに近づく。

それに気づいたマリューが銃口の先端をこんどは俺に向ける。

だけど。俺は‥‥‥腹が立つ。

機密のためだったか、原作でもこんな馬鹿げたシチュエーションを俺は笑いながら見ていた。そんな自分にも腹がたった。

いや、そんなこと今はどうでもいい。俺はコノテデ―――。





「‥‥‥人を殺した」

「動かないで!」

発砲音。

四人がヒッと怯えた声を漏らすが、俺はそれでも怯まずにマリューに近づく。

どうでもいい。





「人を殺したんだ!!」

「――なと、言っているでしょう!」

二度、発砲。

肩に激痛が走る。

それでも。

どうでもいい。

俺はヒトを―――。





「殺したんだ!?人を殺したんだよ!」

「!?」

マリューの目の前に立った俺はマリューの拳銃を持った手を衝動的に掴み、自分の眉間へと持ってこさせた。

俺の突然の奇行にマリューの表情に驚愕の色が浮かぶ。だが俺の悪夢はコノ程度では終わらない。

だけど、本当にどうでもいい。





「機密とか知らない。ストライクが一体どんなものかも俺は知らない。だけど俺は人を殺した」



「――――ハナッ!」



「だから、この現実が俺は怖い。機密のために銃を取るのは勝手だ。でも俺は殺すのも殺される覚悟も無い。だけどそれほど機密が大事なら!撃てばいい!」



「―――!!?」

自分でも一体何を言っているのか全てがごちゃごちゃでわからない。

それでもここまで場を張った以上、退く訳にはいかない。ていうか、本当に―――どうでもいいから。

はやく、その引き金を引いて悪夢を―――――終わらせてくれ。





「―――――」

けれど俺の一抹の願望は儚くも拒絶された。

銃口を下ろし、堪らなく視線を逸らすマリュー。

後に謝罪の声が耳に届いたが、俺はそれよりも自分が行ったことについて怖れを抱いた。





「―――――?」

一体俺は何をしていた?

マリューに己の眉間に銃口を持ってこさせ、撃たせようとした。

‥‥なんと愚かしい行為だ。

いくら今の状況に怖気づき、自分の行為に畏怖を抱いたからといって、目の前の女にそれを背負わせてどうする。

俺は恐怖に失禁しそうになるのを必死に堪えながら、訳も分からずにただ乾いた笑い声を発した。

吐き気がする。

頭痛もして、視界にノイズが走る。

周りがゴチャゴチャ騒いでいる。うるさい、静かにしてくれ。

目の前が暗くなる。俺の世界が再び反転する。

悪夢はまだ。終わりそうには無かった―――。

















T/Interlude

















「キラ、大丈夫か?」



「ん?ああ、大分楽になった。ありがと」



「もう。びっくりした。キラ、いきなり笑いながら倒れたんだもん。皆、引いてたわよ」



「アハハ。悪い」

額に浸した濡れタオルと陽気なミリアリアの声が不安定な心を落ち着かせる。

ああ、本当に落ち着く。原作ではあまり気にしなかったけど今日から俺は君の心のファンだ。





「でもびっくりしたなぁ。キラが“僕”じゃなくて、“俺”だなんて、もしかして偽者!?」



「ちょっと。キラは疲れてるんだから余計なことは言わないの。それは、驚いたけど」



「いや、いいさ。俺だって当然の事だと思うし」

二人の疑問に苦笑しつつ同意する。

あの一悶着の後。

サイ達が言うには、どうやら俺は笑いながら気絶するという荒業をやったそうだ。

そして気絶した俺の介抱をミリアリアに任せて、サイとトールとカズィの三人がマリューの指示に一応従って、ストライクのパーツを積んだトラックを運んできた事を説明してくれた。

それを聞きながら、俺はようやく周りが見通せるだけの冷静さが取り戻せた。

まず、俺はSEEDの主人公キラに乗り移った。その事実に不思議と“違和感がないことに激しく違和感”を覚えたが、事実なのだから受け止めよう。でなければまた“現実と現実の磨耗”に耐え切れずにあんな奇行に走りかねない。

そして二つ目、今の時間軸は原作第二話から三話の機体換装のシーンの頃だという事。これからは取り敢えず明確な目標もないので、しばらくは原作の流れに身を任せようと思う。その方が咄嗟の事態に対応しやすいし、原作の地上編から船を下りるなり色々できるはずだ。

そして三つ目。肉体の変化。キラのコーディネーターのポテンシャルのせいか随分頭がすっきりしている。それに大学生時代と違って、まるで体が羽のように身軽い。どこまでも走れそうだ。

そしてこれが最後。





「俺は‥‥‥戦えるのか?」

正直言うと怖い。

口先や知識だけなら『殺すということはまた自分を殺される覚悟』を持つ、というセリフをテレビのキラ君に平気で言っていたが、やはり現実と虚構では全く違う。

現実的な死が俺に肉薄してきたあの未知の恐怖。

そしてそれを相手にも与えた自分への畏怖。





「キラ‥‥‥怖いのか?」



「!」

驚いた。

どうやら俺の不安が隣の鉄塊に座るサイに悟られたようだ。

臆病風に吹かれて不覚にも微かに首を縦に振るが、すぐに気丈に振舞う。





「そりゃあ、な。あのストライクを操ったこともそうだが‥‥‥俺は初めて人をこの手に掛けてしまった」



「キラ‥‥‥」



「だけどそれは自分を生かすためには仕方が無かった。それはわかっている。でも‥‥‥‥それでも、俺は」

俯き、コンクリートの残骸に視線を向ける。

ボンヤリと見詰めたソレは戦場の傷跡。

もしかしたらあの外壁の残骸の下には幾人もの人が埋もれ、子供が泣き叫びながら大人に助けを請う悲鳴をあげているかも知れない。
いや、もしかしたら―――。





「キラ!」



「!‥‥な、ど。どうした?」



「どうしたじゃないよ、声をかけてもぼんやりしてるし。それとも肩の傷が痛むのか?」



「肩?」

言われて、初めて右肩の違和感に気づいた。

見遣ると肩から脇に掛けて、包帯でぐるぐる巻きにされてあった。





「ほら、お前があの人の警告を無視して近づいていった時に拳銃で肩を撃たれたんだよ」



「そういえば、そんなことも」

あったかもしれない。

なんとなく傷口に触れる。ズキンと痛んだ。

しかし、今思い返してもあの時の自分はどうかしていた。拳銃を持った相手に近づくなんて。うん、これからは拳銃を持った相手にはなるべく近寄らないようにしよう。怪我して危ないから。





「キラ君」

俺の名前、なんだろうな。一応。

呼ばれて気がつき、気怠そうに視線を向ける。

そこには先程の遣り取りをまだ気にしているのか、マリューが表情を硬く強張らせて俺の目の前に立っていた。

大体いいたい事はわかる。仕方が無いことだって言うのもわかっている。

だから俺は思いつめたマリューからの頼みを断らず、引き受けた。





「いいですよ。もう一度乗りましょう」



「ごめんなさい。私が撃った傷口もまだ傷むでしょうし」



「それはそうですけど。だけど俺も大分落ち着いたし、それにあの時は俺が悪かったんです。すみません」



「‥‥‥いいの。私も子供たちに銃を向けてしまうなんて馬鹿なことをしてしまった」



「そうですか?まぁ誤解も解けたんで良かった」



「―――切り替えしが早いのね」

微かに表情を和らげるマリューから視線を外し、トラックの横で鎮座しているストライクのコクピットに取り付く。





「‥‥‥いくぞ、ストライク」

シートに身を滑り込ませ、無骨な鉄の箱のなかで独り呟く。

原作通りにいくなら、この後ランチャー装備のまま敵と交戦する筈だ。

マリューの指示に従い、順々にパックの装備をストライクに装着していく。

確かに恐ろしい。いまだ心の中で“殺し殺される覚悟”なんてついていない。

けれど、死ぬのはごめんだ。

あの時はヒトを殺した罪悪感と様々な感情がごっちゃになって暴走したが、この肩に穿たれた銃創は本物だ。痛みもある。幻なんかじゃない。

だからこのホンの一欠片のリアルだけは俺の物だ。

この世界は俺にとってよく知っていて、よく知らない世界。

けど、俺は俺自身をこの戦場で生かす為に銃を取る。

それだけは本当の決死だ。間違いは無い筈だ。

コロニーの外壁をいとも簡単に貫く巨大な砲銃『アグニ』を最後に装備し、外部スピーカー越しから作業の終了を告げる。





「終わりました」



「それじゃあ一旦機体から降りて‥‥‥キャッ!」



「なんだ!?どうしました!」

異常に気づき、カメラをすぐに上方へと転移させる。

画面が捉えたのはマシンガンを構えた一機のシグー。

そして、シグーと敵対する様に上空を飛び交うのはオレンジ色の戦闘機。

だが、あの形はどう見てもメビウス・ゼロ。ということは、あれに乗っているのはムゥ・ラ・フラガ!?

では、あのシグーを原作通りとするならば、あれのパイロットは変態仮面こと。





「―――クルーゼ」

戦慄する。

あの男の戦闘力は原作でも最高ランクに位置づけされた兵(つわもの)だ。

なんせSEEDとして覚醒したキラとフリーダムを大破させたという怪物なのだ。

そんな奴に勝てるのか?

いや、そうじゃないだろ。自分。

この世界で頼れる人間はいない。

それに俺は誰だ。あのキラ・ヤマトなんだぞ。

あの化け物じみた戦闘力は既にお前は有しているという事なんだ。ならば、化け物が化け物に負ける道理など無い筈だ。

頬を叩く。ピシャリと乾いた音が鳴り響いた。





「いくよ。しっかりしろ自分。相手は人間じゃない。シグーだ。シグーなんだ。だから殺したって平気だ。先人達もそう言ってるんだ。間違いない」

俺はペダルを目一杯に踏み倒した。

状況は混乱しているが、俺はこんなところで死ぬつもりは毛頭無い。

だから、ガンバレ自分。

その微かな決意と伴うようにストライクの目に強い光が灯った。















1/閑話

















再会を果たした彼女たちの無二の親友は、まるで別人のように変わっていた。

一人称の変化。

口調の変化。

性格の変化。

そして疲れ果てたせいか、幽鬼の様な顔つきを宿した彼。

他にも色々あるが、筆頭を上げるとするならば以上の四つだ。

だが、それでもミリアリアやサイ達にとって彼が親友であるという事実に変わりは無い。

それに彼『キラ・ヤマト』はザフトのMSによって危機に陥っていた自分たちを救ってくれた。

言わば彼は自分たちの命の恩人なのだ。ならば、どうしてその命の恩人を自分たちは疑えるというのだ。

確かに彼には先程からどこか危うい雰囲気を纏っている。

だが、それは仕方の無い事だろう。

初めての戦場。

初めてのMSへの搭乗。

そして自分たちを救う為に初めて人を殺してしまった。

これだけ突発的な事態が連続して起こったら、誰しも精神的に不安定な状態に陥るだろう。

だから、支えねばならない。

再び戦場に向かって機体を駆る彼の無事を祈り、そして戻ってきた時には盛大に讃えてやろうとサイ達は心に決めたのであった。

















U/interlude

















ランチャーストライク専用の巨砲『アグニ』を飛来してきたシグーに向けて冷静に狙いを定める。

だが―――。





「射角が狭い!こんなの使えるかっ!」

引きずり出したスコープをすぐさま押しやり、別の武器を検索する。

バルカン砲が一門に小型ミサイルが二門。





「無いよりはまし‥‥‥くる!」

原作では威力が高すぎたアグニの使用を控え、代わりにバルカンを用いて高速で飛来するシグーに向けてばら撒きながら撃ち放った。

肩口から閃光染みた火花が噴出し、無数の弾丸が上空へ向けて乱射された。

しかし、その地上から放たれた弾雨の嵐をクルーゼの駆るシグーはまるで舞う様にして、いとも簡単に躱しきった。





「なんつぅ冗談!?」

驚嘆混じりの悪態を吐く。

クソ、変態仮面の仇名は伊達じゃないってか。

回避しきったクルーゼのシグーはそのまま身を翻すようにして、銃口の先端をこちらに向けた―――。





「まずいっ!こっちには人が居たんだ!?」

―――ならば如何する。

考えろ。下手をしたら、マリューたち四人にも被害が及ぶかもしれない。

それは不味い。まだアークエンジェルだって登場してないのに、あの四人を死なすわけにはいかない。

―――ならば如何する。

マリューたちに被害が及ばず、尚且つクルーゼを撃退できる方法は――――。

考えろ。技量、技術。全てにおいて自分より勝っている相手を確実に打倒し得る方法を。

―――ならば如何する。

こちらが勝っているのは機体の性能だけだ。

ならば、操縦技術と他全ての技術を機体性能差だけで強引に覆し、必死の覚悟を極めた絶対回避不能の激突を行うだけだ。

そして、こういう時こそ。あれだ。

島本流――――如何にかするんじゃない。





「どうにかしろ!!」

ペダルを踏み、スラスターを目一杯に噴かす。

そしてそのまま俺は真正面から上空にいるシグーに向かって飛び掛った。

刹那、シグーの持つライフルの銃口が火花を散らし、撃滅の一手を極めた射撃が俺のストライク目掛けて放たれた。

だが、惜しくも実弾であるが故にストライクのPS装甲を撃ち貫く事は叶わず、掃射された弾丸の全てがPS装甲によって弾かれる。

被弾面積がコクピット周辺に全て集中していたが、今は気にしている暇は無い。

そのまま、スラスターを全開にしたストライクをシグーの目と鼻の先まで近づけた俺はコントロールレバーを傾け、腰溜めに構えたストライクの拳を―――。





「ゼりゃぁあ!」

刹那染みた勢いを持ってして、シグーの顔面目掛けて殴りつけた。

踉くシグー。だが、PS装甲だけを頼りにした俺の奇襲はこれだけに止まらない。

空中において姿勢を崩したシグーはスラスターを噴かせてこちらと間合いを離そうとするが、俺は自分でも信じられない確信めいた直感だけを頼りに僅かに距離を離したシグーの左脚を掴み、そのまま引き摺り寄せた。

ストライクとシグーでは機体のポテンシャルには天と地ほどの差がある。

故に、ストライクのパワーに負けたシグーは宙に浮いたまま仰向けに倒れた。

仰向けに姿勢を崩したシグーの左足首を掴んだままのストライクを俺は、眼下に根付く地上に向けて―――。





「だりゃあああああ!!」

咆哮と共に投げ飛ばした。

しかし、クルーゼ相手には最後まで思う通りにいかないかな。圧倒的なストライクのパワーに梃子摺るシグーは機体を瞬時に空中で転換させると地上スレスレの所で廃墟と化したコロニーの上空に舞い上がった。

再び、対峙するように構える純白のストライクとグレーのシグー。

一瞬の攻防だが、傍から見れば俺の行動は自殺行為としか言いようが無いだろう。

それでも確信を持てて実行に移せたのはシグーのライフルが未だ実弾仕様だったと言う事をテレビで覚えていたためだ。





「――――」

しばらくして、シグーは一度だけストライクから目を逸らすとそのまま背を向けて飛び去ってしまった。

恐らく、現行の装備だけではPS装甲を打ち破る事は叶わないとクルーゼは悟ったのだろう。

強引極まりない機体の能力差だけで、パイロットとしての能力差を無理やり組み伏せる。

今回は成功した。だが、次はこうはいかないだろう。

なんせこれはPS装甲だけを頼りにした一度きりの作戦なのだ。

また同じような奇襲を掛けても、瞬時に見切られて機体が撃破されてしまうのが落ちだろう。

しかし―――。





「随分。落ち着いてるな、俺」

無論。怖いものは当然の如く怖い。

それでも一回目の搭乗に比べたら、戦闘後の震えが来ていないだけ戦う事への脅えが極端に激減している。

慣れ、なんだろうか。

むしろ、俺の心よりもこの肉体の方が先行して慣れ始めている気が―――。





「まぁ、いいか」

とにかく今は疲れた。

考える事は後にでもできるし、エネルギーの方も勿体無いので、すぐに地上へと降りようとした。

けれど―――それはコロニーの雲を掻き消しながら突如として現れた真白な巨大船によって阻まれてしまった。





「なんだ!?あれは――――!」

その船体の規模に視線が釘付けになる。

なんせ、ストライクのカメラを白一色に覆い隠して仕舞う程の船体だ。その巨大な図体に体が竦んでしまいそうだ。

しかも、あれは船の形をしつつ飛行している。MSもそうだが、あの船はそれを遥かに上回る非常識。揚力とかの航空力学をチリ紙程度にしか思っていないんじゃないだろうか。

だけど、あの艦の形はどこかで―――。





「あ、そうか。ホワイトベー‥‥‥アークエンジェルでしたな」

すぐに訂正する。





「そうか、あれに乗るのか。なんだか地獄を見そうだ‥‥‥」

例えば、拳銃突きつけられたり。

例えば、G四機と戦闘を行うとか。

例えば、「あんた自分がコーディネーターだからって手加減してるんじゃ(以下略)」

あ、やばい。ちょっと鬱になってきた。





「もう。お家に帰りたいよぉ」

情けない悲鳴を吐き出しながら。

自分は死んだ方がマシな体験を幾つもするのかと思うと、激しく憂鬱な気分に落ち込んだ。

















V/interlude

















「キラ!?」



「おっす」



「よかった!怪我無かったんだな、キラ。ホント」



「そりゃ、死にたくはないからなぁ」

気怠そうに尤もらしいことを告げるが、体から発する怠惰なオーラのせいで台無しになっている。

俺とトール達四人が今いるところはアークエンジェルの格納庫。

戦闘後、マリューから通信を受けた俺はそのままアークエンジェルの指示に従い、ここに来ていた。

つっけんどんして立場を悪くしたところで意味ないし。シェルター全滅してるはずだし、脱出船は全てコロニー外へ射出されている筈だから仕方なくここに来たのだ。

別にアークエンジェルになど乗りたくはない。乗りたくはないが―――乗らざる負えなかったのだ!





「キラ‥‥‥どうしたんだ。ブス〜〜〜っとして」



「俺は不幸と幸福を同時に味わっているのかなと思うと‥‥‥さ。うう」



「なんだ。今度は泣いてるのか?」



「泣いてない。子供の頃から一度でもいいから1/1ガンダムに乗ってみたいと願ったのが間違いだったんだ!だから、これは汗だ。感動と後悔から滲み出す若い青春の汗なのだ!」



「そうっか」



「ああ。理解してくれて凄く感謝」

袖を下ろし、この世界では『今の俺』以外、絶対にわからない愚痴を吐き散らしながら礼を述べた。

辺りを見渡す。

MSを格納するだけあって天井までかなりのスペースを有している。

周囲では再開を果たしたナタルとマリューが共に無事を喜んでいる。

そして、その隣ではメビウス・ゼロから降りて紫を基調としたパイロットスーツを着込んだ金髪蒼眼の男が二人に駆け寄ってきていた。

そう。俺は覚えている。彼の名は―――





「子安さんだ」



「コヤス?」



「あ、なんでもない。気にしないで」

オウム返しに尋ねるトールの疑問に手を振って誤魔化す。

そろそろ。声優ネタはやめておこうかと思案したが、それよりもこの後はマリューが艦長代理に就任するはずだ。

原作での彼女の指揮を思い出す。

乳揺れ。

その使い回しがエンドレス。

人質を勝手に解放したのに注意のみ。

そして各場面において、よく情に流されている。

―――もしかして、助けなかった方がお得じゃなかっただろうか?

マリューを救った自分の行動に懐疑的になるが、取り敢えず“人間、損得勘定だけじゃない”と強引に納得した。





「‥‥‥艦長以下、艦の主だった士官は全員、戦死されました。よって今はラミアス大尉がその任にあると思いますが」



「え、私!?」

重々しい雰囲気の中、歯切れ悪く告げるナタルの言葉に駭然とするマリュー。

やっぱりなるのか。艦長。





「無事だったのは艦にいた下士官と十数名のみです。私はシャフトの中で、運良く難を‥‥‥」



「艦長が‥‥‥そんな」



「なんてこった。ああ、ともかく許可をくれよ。ラミアス大尉。俺の乗ってきた船も落とされちまってね」

飄々とした態度でマリューに接するフラガ。





「え!?あ、はい。許可します」

予想以上の事態の深刻さに改めて考えを纏めていたマリューは、呼びかけられた事で慌てつつもフラガの申告に了承した。

それを聞いて、艦長代理から直々に許可を貰ったフラガはこちらに歩み寄ると―――。





「んで、アレは?」



「民間人です」



「ふーん?ところで、Gを操っていた子は誰なんだ?」



「彼です。緊急事態だったので私が乗せました。先もジン一機を撃破し、私たちは危うい所を救われました」



「あの木偶の坊を操って、ジンを!?‥‥‥あ、すまん」



「いえ、本当のことですから」

そう言うもののマリューの表情が硬い。やはりフラガの言葉には技術屋として気に障ったようだ。

フラガは俺の方に視線を向け、どこか嬉々とした表情で訊ねてきた。





「さっきシグーをぶん殴ったのは君かい?」



「ええ?まぁ、そこそこに」

なにが“そこそこ”なんだろう?

自分でも何を言っているのかわからないけれどフラガは気を良くして“うんうん”と頷いている。

それで調子に乗ったフラガは今、俺にとって尤も酷な選択肢を与えてきた。





「君は『コーディネーター』だろ?」

瞬間。

周囲の生き残りの兵士たちがざっと身構えた。

コーディネーターはナチュラルにとっての怨敵。

故に兵士たちが俺に銃を向けるのも、わからないでもないが、中立コロニーなんだから戦乱から逃れようとしたコーディネーターがいる事ぐらい察して欲しい。ていうか、察しろ。

俺は周囲の兵士達を見渡し、最後にフラガを見返すと―――。





「違いますよ。俺はコーディネーターなんかじゃない」

正直者のキラ君と違って、デタラメを言ってみた。





「そうなのか?なんか同じナチュラルにしては随分と動きが良かったんでね。これに乗る筈だった奴らのシミュレーションを見てきたが、奴らノロクサ動かすのにも四苦八苦していたんだぜ」



「へぇ」



「それを君はあっという間に操縦して、しかもあいつのシグーを撃退するんだからな!‥‥‥そういえば自己紹介がまだだったな、名前は? 俺はムゥ・ラ・フラガ。メビウス・ゼロのパイロットをやっている」



「俺はキラ。キラ・ヤマト」

素っ気無く答える。

“そうか”とフラガは一言返すと、握手を求めてきた。

俺は応じる様にして掌を差し出し、互いに握り返すとフラガは艦内に向けて去っていった。

そのフラガの後ろではマリューがこちらを疑惑の眼差しを向けている。どうやら、先の俺の返答に納得していないようだ。

当然か、何しろあの女は俺がストライクのOSを瞬時に書き換えている所をバッチリ目撃しているのだ。

隣にいるサイ達もどうして俺がコーディネーターである事を隠したのか、不思議に思いお互いに顔を見合わせている。

その様を見て、俺はただ一言―――。





「死にたくは無い。ただ、それだけなんだ」

生に柵つく、俺の呟きは誰にも聞き取られる事無く。

突然の警報によって掻き消された。

















2/閑話

















「連合軍のMSは化け物かっ!?」

ザフトにおいて、クルーゼはおよそ人間らしくない冷徹な人格者だと周囲から評価されている。

だが、今の彼の感情は激昂に支配され悪態を吐いている。

その人間らしい感情を魅せるクルーゼを今知るものはいない。

コンソールを苛立たしげに叩く。





「何故、撃たなかった!手加減していたとでも言うのか!?あのパイロットは!」

―――“ストライク”

PS装甲を新規に投入したナチュラルの試作MS。

ナチュラルのMSだからと決して侮っていたわけではない。

こちらは実体弾としては最強の威力を誇る『強化APSV弾』を用いて確実に撃破しようとしたのだ。

しかし相手はこちらの思惑を見切り、被弾覚悟で真正面から突撃するという自棄めいた攻撃に出た。

―――結果は裏目に出た。

フェイズシフト装甲を打ち貫く事は不可能。しかも弾丸を弾き返しながら距離を急速に詰める相手を如何にして倒せというのだ。

故に、死を覚悟した。

その筈が―――。





「――――」

あのパイロットはあろう事かバルカンや未使用のミサイルを使わずに殴打、投げ飛ばす等と言う無意味な攻撃に出た。

無論、そんな攻撃でシグーが撃破される訳が無い。精精メインカメラの動作が不調になる程度だ。

もしや、あのパイロットは恐らく人を殺す事に慣れていないのかも知れない。

ならば余計に腹立たしい。

フラガ以外のナチュラル。しかもその新兵に遅れをとる等とクルーゼは絶対に許さない。





「この借りは必ず返すぞ、Xナンバーのパイロット!」

クルーゼは拳を握り締め、吠える様にして復讐を誓った。

















W/interlude

















さておき、俺は言ってみた。





「なんでです?」



「なんでって」



「俺は仕方なく乗っていたんですよ‥‥‥」



「だけど、あなた以外にストライクを操れる人はいないの」



「それはそうでしょうけど、俺が民間人だということ忘れませんか?」



「忘れてはいないわ、ただ状況が状況だから協力を申し出ているの」



「“協力”‥‥‥か」

反芻する。

しばし、考え。





「わかった。あくまでも協力ですからね!」

俺は駆け足でストライクのコクピットに乗り込む。

やっぱりマリューなのか、と半ば『自称人情家』の事を諦めながら装備を確認する。





「対艦刀『シュベルドゲーベル』にビームブーメラン『マイダスメッサー』‥‥‥『ソードストライク』に換装したのか、何時の間に?」

カメラを下げる。

すると黒人風の男が愉快な表情で手を振っていた。





「マードックさん‥‥‥あんた凄すぎ」

俺はストライクを起こし、歩きながら後部ハッチから這い出る。

そうだ、決め台詞を忘れてはいけない。





「キラヤマト。出るぞ!」

フェイズシフトを起動させ、ハッチから飛び出した“ストライク”を空高く飛翔する。





「うわぁ」

途端、俺は圧倒された。

生のコロニーの全貌は俺が生きていた世界では到底信じられない技術力で構成されていた。

筒状の造り。戦火に巻き込まれた所為で壊滅していたが、本来なら上から下まで家々が並び、大気までも現実のほぼソレと同様に再現されていたのだろう。

故に、惜しい。

折角なら、キチンと見たかった。





「――――」

ロックオンの警告。

機体をロールさせ、宙に漂っていた障害物に身を潜める。

間も無く大型のミサイルが押し迫り、俺が咄嗟に隠れた障害物に突き刺さる。

刹那、爆発。





「グゥッ!」

爆発の振動がコクピットまでダイレクトに伝り、衝撃で呻く。

堪らず機体を爆炎から振り払い、更に上空へと舞い上がった。

景色が一変にして変わり、そこへ躊躇無くストライクの胴体目掛けて―――奴は。





「シグー!?‥‥‥クルーゼが!!何故!?」

ブレードを振りかざし、踏み込んできた。

火花が散る。

ブレードの一閃をPS装甲で受け、思わずたたらを踏む。

その隙にシグーは賺さず蹴りを放つ。





「クッ―――」

我が目を疑う。

何故なら先の戦闘とは打って変って、執拗さ、そして熾烈さを孕んだ連撃を浴びせる“シグー”。

正確無比な攻撃はそれだけでも回避しづらく、また相当な威力が籠められている。

確かに俺は既にミゲルを撃破している。

だから、ザフトが新たにミゲルの代替パイロットを用意するとは思わなかったわけではないが、だからって―――。





「おいおい。話が違うじゃないか!?」

クルーゼを寄越す事は無いだろうが!

響く振動音。

パイロットの熟練度の差が、ここに来て仇となった。

更に繰り出される剣撃に俺はなす術も無く、PS装甲によって弾き返すのみ。





「ちぃ、速い!」

違う、巧いのだ。

機体の操作技術がこちらとは違い無駄が無く、洗練されている。

故に、錯覚した。相手と自分の決定的な戦力の差を。





「―――ツゥ!?」

しかし、それも時間の問題。

PS装甲で剣閃を捌くものの、刻一刻とバッテリーの残量は著しく消耗している。

無闇に攻め込めば敵の思う壺。

しかしこのまま反撃を加えねばバッテリーの底が尽き、防御の手段を欠いたストライクは確実にシグーの一撃によって撃破されてしまう。





「まずい―――」

目に見える危機感に恐れをなす。

スラスターを噴かすなりして距離を離そうとはしているが、その度に蛇のような執拗さで俺を追い詰めていくのだ。

回避も、ましてや反撃もできない。

このままなす術も無く、俺は―――。





「―――ふざけるな」

冗談じゃない。

こんな来たくも無い場所にこっちは訳も分からずに越させられて、気がついたら死んでいました?

ふざけるな。こっちは戦いたくも無いのに銃を取って戦っているのだ。

それなのに、一方的にやられて御終いだなんて、何の為にこっちは命を張っているんだ。

なのに、全く持って度し難い。

ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく――――!!

いちいち―――!!







「うぜぇぇんだよ!テメェハァああああ!!!」

キレた。

完膚なきまでにキレた。

なんか頭の奥で、“パリーん”とか鳴ったが、全て無視。

今は奴の―――変態仮面の絶殺にのみ意識の全てを傾ける。

咆哮と共にレバーを傾け、対艦刀をストライクの手から離し、脹脛に内蔵されているアーマーシュナイダーを両手に装備する。

刹那、散る火花。





「無駄ぁア!」

長柄の物は確かに強力だが、すぐ近くまで近接されては使い物にならない。

アーマーシュナイダーでシグーのブレードを受け止め、刃を滑らせる。

そのまま二の太刀へと繋ぎ、必殺を打ち出す。

躱す、シグー。

間髪いれず、ビームブーメラン“マイダスメッサー”を投擲し、同時にスラスターを全開にして、開いた間合いを瞬時に詰める。

踊るようにして、隙の無いビームブーメランを回避するシグー。





「―――――」

俺は間合いを詰めると左のアーマーシュナイダーを滑らせ、シグーの左脇腹を襲いに掛かる。

それをクルーゼの駆るシグーは返す刃でブレードによって弾いた。

そこへ三度目の右のアーマーシュナイダーが斬殺せんと奇襲に掛かる。

だが、それすらも弾き返した。

これで、アーマーシュナイダーによる攻撃は手詰まり。

従って踉いたストライクは敵と相対したまま事実上行動不能。

しかし、それは一瞬の間だ。だが、クルーゼという怪物にとってその間は絶好の勝機。

故に―――それを可能とする怪物だからこそ一瞬の閃きに頼り、布石を打ったのだ。

叫ぶ、“必定の反撃”を―――。











「来い!―――マイダスメッサー!!」

そう確信した必中のカウンター。

大きな弧を描いて、シグーの背後から迫る必死の斬撃が華麗に羽ばたく。

裂昂の気合と共に叫び、絶殺せしめんとするビーム状の刃が背後から無防備を曝け出すシグーの両腕を切断した。

―――自ら隙を作り出すことにより、相手に絶好の勝機を見出させる。

そこへ予測不能の背後からの奇襲。誰が予測できるというのだろう。
まさか躱した筈の武器がもう一度襲いに掛かるなどと、いかな豪傑といえど無事に回避する事は不可能。

だからこその“必定の反撃”





「‥‥‥ついでだ。これでも喰らえっ!!」

お返しとばかりに、俺は先程の礼のつもりでコクピット部分に蹴りを放った。

衝撃によって互いに間合いが離れる。

シグーはそのまま間合いを離すとスラスターを全開にし、すたこらさっさと逃げだしていった。

しかし、こちらも被弾を防ぐためにバッテリーを消耗しすぎて迂闊に追う事はできない。





「生きているだけ、儲けものか?」

視線の先ではムゥの駆るメビウス・ゼロと早速実践に投入してきたアスラン・ザラの『イージス』が戦闘を行っている。

俺は頬を人差し指で掻きながら―――。





「援護‥‥‥向かった方がいいのか?」

スラスターを噴かしてメビウス・ゼロの元へと駆けつけていった。

















3/閑話

















そうして、イージスのパイロット『アスラン・ザラ』はメビウス・ゼロのガンパレルの猛攻から逃れ、反撃を行っていた。

有線式の360度から放つ銃弾はそれだけでも十分な脅威。

しかし、PS装甲を起動させたイージスの前ではガンバレルの連射など霞も同然。

だからアスランはメビウス・ゼロをすぐさま撃破し、先行したクルーゼの援護。そして昔の幼馴染かもしれない人物と接触できると油断していた。

そう、未だにイージスに機体ダメージを蓄積し続けているメビウス・ゼロがコーディネーターと対等に渡り合う程の手練でなければ―――。





「ちぃ!」

ビームライフルをガンパレル目掛けて撃つ。

しかし、操縦者の意志に操作されたガンバレルはとても機械とは思えない機敏な動きをしながら光束を回避する。

これで既に都合十発。

束ねられた光の粒子をまるでマシーンの如く冷静に躱し続け、そして絶好の機会に反撃を撃ちに来る様は野獣そのもの。





「キラが!‥‥‥あそこには、邪魔だ!」

欠かさず撃つ。

銃口の先端から伸びる破壊の光は、それだけでも装甲の脆弱さが目立つメビウス・ゼロにとっては致命傷だ。

だが、あのメビウス・ゼロはまるで“攻撃が来るポイントが既に理解しているかのように”神業めいた高速機動でこれを躱した。

刹那、イージスの背後からガンバレルの銃口が火を噴いた。





「ツゥ!」

反則。

脳裏を掠めるこの一言が、酷くアスランの癇に障った。

こっちはあのMAと遊んでいる暇は無い。

アスランは果敢にもメビウス・ゼロに近接し、一撃を以って破壊しようとするが―――。





『クルーゼだ。各機撤退』



「‥‥‥クルーゼ隊長!?」

彼の意思とは裏腹に、戦闘は無常にも終わりを告げた。





「キラ‥‥‥」

アスランは一度、惜しむようにキラの名を呟くが、メビウス・ゼロの牽制から逃れるようにして指示に従いナスカに撤退した。