第五話 鉄の城、宇宙の王者
「・・・なんで私が、この子を見てなくちゃいけないのよ」
キラの寝顔を離れた所で眺めながら、フレイは愚痴る。
いくらサイの頼みとは言え、コーディネーターと同じ部屋にいる事が嫌だった。
(サイは友達で仲間だって言ってたけど、私には理解できないわ・・・この子はやろうと思えば、私達をあっという間に殺せるのよ?)
フレイがコーディネーターを嫌う理由は父親の影響もあるが、連邦側が過剰に脚色した情報の所為でもあった。
曰く、コーディネーターは一人でナチュラル20人を瞬殺できる・・・と言う情報が毎日のように流されているのだ。
この情報を信じる者はあまり居なかったが、フレイはその少数派、信じる方だった。
サイに頼まれてから5時間、最初は本を読んだりして時間を潰していたが、ついさっき読み終わりする事が無くなったので
なんとなく、キラの方を眺めていた。
「・・・なんで、座って寝てるのかしら・・・?」
ふっ、と思いフレイはキラを横にしてあげようと警戒しながら近づく。
キラは熟睡はしないようにと考え、座りながら睡眠をとっていたのだが、初めての戦場で感じた疲労は重く、座りながら熟睡をしていた。
そっと、フレイがキラの間近に近づくがキラは寝息をたてて起きる様子が無い。
(・・・コーディネーターって、耳とかも良いはずなのに、なんで起きないの・・・?)
寝たふりをしているのかと思い、フレイは顔を覗き込む。
しかし、そんな事はなくキラは安らかな寝顔をしており、それを見たフレイは少し警戒を解く。
(この子・・・本当にコーディネーターなの・・・?)
そう思いながら、フレイはキラの肩に手をかけようとした時、突然艦内に警報が鳴り響く。
その音に驚き、フレイは思わずキラから離れる。
『総員第一戦闘配備! 繰り返す、総員第一戦闘配備! MS隊、発進スタンバイ!!』
放送を聴き、フレイはキラの方を見ると・・・まだ寝ていた。
「この子は、本当にコーディネーターなの!? これだけの警報が鳴っているのに起きないなんて!!」
フレイは半分怒りながら、キラを揺り起こす。
「キラ、キラ! 起きて!! 第一戦闘配備って言ってるわよ!!」
フレイに揺さぶられて、キラはようやく目を覚ました。
「う・・・わかったよ、ミリアリ・・・ア・・・!?」
「起きた?」
目の前にいるのが、友達のミリアリアではなくフレイだった事に気付くとキラの意識は一気に覚醒した。
「な、何でフレイがここに!? あれ、みんなは!? 第一戦闘配備って!?」
少し混乱しているキラに事情を説明しようとすると、外からキョウスケが声をかけてきた。
「キラ、戦闘配備だ。起きているか?」
「は、はい! 今行きます!!」
返事をしながら立ち上がり、キラはキョウスケと一緒にMSデッキへと走っていった。
キラ達がMSデッキに向かう途中、前から来る人物を見て、キラは驚いた。
「! サイ、トール、ミリアリア!! その格好は!?」
三人とも連邦の軍服を着ていた。
「オレ達も戦う事にしたんだ」
「キラ達に頼りっぱなし、てのは悪いからな」
「この艦、今人手が足りないみたいだからね」
サイ、トール、ミリアリアがキラに事の経緯を説明する。
「でも、みんな危険だよ!!」
キラの言葉にサイが言い返す。
「それはお前も、だろ? オレ達は戦うといってもブリッジクルーになるから、お前ほど危険は無い」
「ブリッジ詰めじゃなかったらオレ達は私服で手伝ってたよ。 軍服はバジルール少尉がうるさいから着てるだけだしな」
トールが一言よけいに言うと、後ろに居たノイマンに小突かれた。
「軍服が嫌なら、タスクみたいにマードック軍曹の所に送るぞ。 あの人は服装をとやかくは言わないが、人使いは荒いからこき使われるぞ」
「ひぇぇ〜かんべん」
「でも、キョウスケさんは私服ですよね・・・?」
ミリアリアの一言に、キョウスケは一つ頷き、
「ああ。だが、バジルール少尉は何も言ってなかったが・・・?」
「ロンド・ベル隊は、いろんな軍服の人がいるからですよ。私も今までそれが私服だとは思いませんでしたし・・・」
ノイマンの言葉にトールが『不公平だー』と声を上げているが全員で聞き流した。
「こんな状況だからな、オレ達が出来る事をしていかないと」
「・・・みんな・・・」
サイの言葉を聞いて、キラは一つの大切な事に気がついた。
(僕は・・・一人じゃない・・・・!)
MSデッキに出ると、そこは喧騒に包まれていた。
「おらー!! ゼロの修理は完了してんだ、すぐに出すぞー!!」
「馬鹿野郎!! 誰がソードパックって言った!! 宇宙戦なんだからランチャーかエールでないと・・・」
「ステイメンの弾薬は積んだかー!?」
「班長!! 敵はMSでは無く、蜥蜴の連中らしいですー!!」
整備班の指示が右に左に飛び交う。
「キラ、キョウスケ少尉、来てたのか!!」
タスクがストライクの足元から飛んできた。
「タスク、君はこっちに回されてたのか!?」
キラの問いかけに頷きながら答える。
「ああ。マオ社で整備士のバイトをしてたって言ったら、あのオッサン・・・マードックさんに拉致られた」
その時、下からスパナが飛んできてタスクの頭に命中する。
「誰がオッサンだ、コラぁー!!」
「・・・気にしてたのか・・・?」
キョウスケはマードックの方を見ながら、頭をおさえて呻いているタスクに聞いた。
「気にしてなかったら、スパナなんか飛んでこないと思いますけど・・・?」
答えられないタスクに代わり、キラが言う。
「あの人、口よりも手のほうが早いな・・・あ〜イテッ」
頭をさすりながらタスクが復活する。
「タスク、出せるのか?」
キョウスケが聞くと、タスクは首を振った。
「まだっす。 上から指示があるまで、全員コックピットで待機していつでも出せるように、だそうです」
「そうか。キラ、無茶はするなよ」
キョウスケは言い残すとアルトの方へ飛んでいった。
「タスクー!! 油売ってないでこっちにこい! 念のためランチャーパックもスタンバっとくぞ!!」
マードックが下からタスクを呼ぶ。
「おっと、呼ばれたか。 キラ、お前もストライクで待機して置けよ」
ブリッジは緊張に包まれていた。
「敵、射程距離に入ります!!」
サイの報告にマリューが頷く。
「敵、射程に入るのと同時にローエングリン発射、 その後、各MS発進、バジルール少尉、攻撃指示は任せるわ」
マリューの指示にナタルは頷く。
「ローエングリン照準!! 目標、敵艦カトンボ!! てぇーい!!」
「よし!! 許可が降りたぞ、全機発進だ!!」
マードックがGOサインを出す。
「了解!! ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」
「コウ・ウラキ、発進する!!」
「チャック・キース、出ます!!」
「アルトアイゼン・・・出る!!」
4機が発進し、ストライクは遅れてエールストライカーパックを装着される。
『坊主! エールの使い方はわかるな? ビームを撃ちすぎてバッテリーを無駄にすんなよ!」
マードックが通信を開き注意をする。
「わかりました。気をつけます。 キラ・ヤマト、ストライクガンダムいきます!!」
発射されたローエングリンはカトンボ1機のフィールドを貫いたが、撃沈まではしなかった。
そして、2機のカトンボから大量のバッタが発進してきた。
ジムキャノンUがバッタにビームライフルを撃つが、当たる直前でビームを曲げられる。
「こいつ等、フィールドを張れるようにされている」
キースが舌をうちながらバッタの撃ってきたミサイルをかわす。
「各機へ・・・中途半端な出力のビームは効かん。 格闘戦か、破壊力の高い武器で攻撃をするんだ」
キョウスケが、1ヶ所に固まっていたバッタをクレイモアで殲滅しながら通信を送る。
「それしかないようだな。フラガ大尉、下がってください。ゼロの武装では・・・」
コウはフラガに呼びかけるが、
「心配しなさんなって。まぁ、見てろ」
ゼロのガンバレルが展開され、1機のバッタに砲撃を集中させ、そこにさらにゼロのビームを放つとフィールドが耐え切れずに貫通し爆発する。
「すごい・・・」
キラは感嘆の声をあげた。
「旧式の出力では貫通できないはずなのに・・・」
コウが呆然と呟く。
「そうなのか・・・? なら、不可能を可能にする男って所かな、オレは」
フラガはおどけながらも、敵の攻撃を回避しながら先程の方法で次々とバッタを落としていく。
バッタがストライクにミサイルを放つが、当たりそうな分だけ撃ち落すと爆煙にまぎれて接近し、ビームサーベルで二つに断つ。
「・・・数は多いが大した事はない、問題は」
「ええ、母艦のカトンボ・・・ですね」
キョウスケの言葉にキラが答える。
戦艦のフィールドの出力はバッタの比ではない。
「火星戦時の連邦主力艦の砲撃も効かなかったぐらいだ。この場に居るMSの装備ではどうしようもない・・・せめて俺の機体がデンドロビウムなら」
コウが自分の機体の本来の姿を思い出しながら呻く。
「アルトのステークとヒートホーンは、フィールドを無効化して貫けるが・・・動力炉を狙わなければ、沈める事は難しいな・・・」
「スーパーロボットがいないんじゃ、しょうがないな。キョウスケ、沈めなくてもいい。推進部を破壊して航行不能にするんだ。
敵さんが動けなくなったら、無視してこの宙域を離脱する」
フラガが作戦を立て、それを実行しようとした時、
『MS隊! キラ、戻って!! ザフトが追いついてき・・・きゃあ!!』
「敵、新造戦艦発見しました!!」
レーダー士の報告でブリッジが慌しくなる。
「予想よりも早く追いついたな・・・なにかトラブルでもあったのかな?」
クルーゼが薄く笑いながら言う。
クルーゼの予想は当たっていた。
もし、アークエンジェルが救難ボートを回収せずにすぐに出発していたら、もう少し後に接触していただろう。
「MS隊を先行させろ。ガモフに打電、航路そのままで敵を待て。MS隊はガモフの射線上に敵艦を追い詰めるように攻撃をしろ」
次々とクルーゼが指示を出し、攻撃準備を整えていく。
「しかし、その位は敵もすぐ見破るのでは・・・?」
「だろうな。だが、ガモフは囮だ。奴等がガモフ、カトンボの射線を外そうと動く所をこちらで仕留める。これが本当の作戦だ」
ヴェサリウスの索敵範囲は、アークエンジェルよりも広い。
こちらからアークエンジェルは感知できるが、アークエンジェルからヴェサリウスは感知できない距離にある事を利用しての作戦だった。
「ちぃ! しかたない、二手に分かれよう。オレとキラがアークエンジェルの防衛に行く。
この中で足が速いのは、オレのゼロと坊主のストライクだからな」
フラガがキョウスケ達に指示を出す。
『了解』
キョウスケ達が返事をすると三機が散開し、ゼロとストライクはアークエンジェルの方へと向かっていった。
「すぐ着くからな、それまで堕ちるなよ!!」
フラガは叫ぶと、バーニアを全開にし速度をあげた。
4機のXナンバーとジンUの攻撃を受けながら、アークエンジェルは奮戦していた。
「まさか、奪ったXナンバーを全機投入してくるなんて・・・!」
マリューが絞り出すような声で呟いた。
ブリッツがビームライフルを放つが、当たる前にアンチビーム爆雷を散布し方向を逸らす。
バスターがミサイルを撃って来るが、艦を不規則に旋回させなんとか回避する。
しかし、MS5機を戦艦のみで相手をするのは無理があり、デュエルの放ったビームがアークエンジェルに直撃した。
さらに追い撃ちをかけるように、イージス、ジンUの攻撃が命中する。
「第3、第5、第8ブロック損傷、火災発生、消火剤散布、隔壁閉鎖」
被害状況が次々と報告される。
「くっ、MS隊は何をやっている!?」
ナタルがミリアリアに向かい叫ぶ。
「現在、ゼロとストライクがこちらに向かっているはずです」
「バスターから高エネルギー反応、前方のカトンボからも!!」
ミリアリアの報告と共にサイからも報告が入る。
「取り舵、回避! カトンボ、ナスカ級の射線に入らないように注意せよ!」
マリューが回避の指示を出しバスター、カトンボの砲撃をなんとか回避する。
ナタルはレーダーを見ながら一つの違和感に気付いた。
(おかしい・・・ザフト艦は2隻、確認されていたはずだ。何故、1隻で攻撃を仕掛ける必要がある?
それに、MSが我々を主砲射程内に誘導しようとしているのは、すぐに見破れる・・・敵もそれ位はわかるはずだ・・・
それを踏まえた上で、なにか策があるのか・・・? 考えろ・・・すぐに見破られる策・・・居るはずなのに、姿を見せないもう1隻の戦艦・・・
見せてないのではなく、こちらが探知できない所にいると考えたほうが自然か・・・? と言う事は!?)
作戦に気付き、声を上げた。
「艦長! コースを修正してください! ナスカ級は囮です!!」
「!? どういうこと?」
マリューが聞き返してくるが、答えずに操舵を担当しているノイマンに指示を出した。
「ノイマン! 機関を最大にして艦首を下げろ! 急げ!!」
反射的にノイマンは艦を下降させると同時に、
「なっ!? レンジ外から高エネルギー反応、来ます!」
先程までとっていたコースに高出力のビームが通り抜けた。
「ほう、回避したか。あちらの戦闘指揮官はなかなか切れるようだな・・・」
作戦を見破られたが、クルーゼは薄く笑みを浮かべていた。
「作戦は見破られたが、こちらの有利は変わりない。ガモフに打電、『攻撃に参加せよ』、我々も前進しMS隊を援護する」
「艦が前進してくる? その前に決めてやる!!」
ディアッカは再び高インパルス砲を構え、アークエンジェルに狙いをつけるが、突如後ろから撃たれ姿勢を崩した。
「やらせるか!!」
戻ってきたフラガは、そのままガンバレルを展開しバスターに攻撃を仕掛ける。
ゼロから放たれるビームを回避はしたが、ガンバレルを全て回避する事は出来ずに2、3発当たってしまう。
「うわっ! こいつ、本当に旧式なのか!?」
ガンバレルを破壊しようと多数のミサイルを放つが、一つも当たりはしなかった。
動きが止まった所にガンバレルが命中し、機体を横に流される。
「Xナンバー、撃墜するのは少しもったいないが・・・」
呟きながら、フラガはビーム砲の照準をバスターに合わせ撃とうとする。
しかし、後方からビームライフルが飛んで来たので諦め回避に移る。
「旧式相手に、なにをやっているの!」
「うるさい! 結構強いんだよ、こいつ!」
援護に来たリムに文句を言いながら、ディアッカは体勢を整えた。
リムはゼロの方を見ると、なにか納得の言ったような声で、
「あの機体・・・そうか『エンデミュオンの鷹』ね・・・なら仕方がないわ。あのパイロットの腕はアムロ・レイ級だと言われているしね」
リムの言葉にディアッカがウンザリとした声をを出した。
「げっ! アムロ・レイって最強のニュータイプじゃないか! あの人と同じレベルのパイロットかよ!!」
「あくまで噂だけどね。でも、油断は出来ないわ。 行くわよディアッカ君」
ディアッカに呼びかけると、リムはビームサーベルを抜き放ちゼロに向かっていった。
キラはバーニアを吹かしながら、ブリッツにビームライフルを放つ。
ブリッツはライフルをかわしながら、ランサーダートを撃ち返してくるが命中しそうな分だけ撃ち落した。
再びブリッツに照準をつけ、ライフルを構えると下から真紅の機体『イージス』が接近してきた。
「くっ! 下からも!!」
照準を接近して来るMSに変えライフルを撃とうとした時、
「―――キラ!!」
スピーカーから、アスランの声が飛び込んできた。
「アスラン・・・? アスラン・ザラ!? リムさんから聞いたけど、本当にザフトにいたのか!?」
認めたくない事実を目の当たりにし、キラはショックを受ける。
「キラ、事情はリムから聞いた。攻撃を止めるんだ、ぼくらは敵じゃない! そうだろう!?」
キラははっとする。
(そうだ、この戦争に僕は何の関係もない。それに、アスランは友達だ。敵対する理由なんてどこにもないじゃないか・・・)
「同じコーディネーターのお前が、なんでぼく達と戦わなくちゃならないんだ!?」
アスランの一言、一言が耳に突き刺さり、キラの迷いが頭をもたげる。
「何故、お前は連邦軍にいる!? なんでナチュラルの味方をするんだ! 誰かに戦いを強要させられているのか!?」
「リムさんにも言ったけど、僕は連邦軍じゃない。戦っているのは、あの艦に乗っている友達を守りたいからなんだ!」
即座にキラは言い返すと、アークエンジェルに攻撃を仕掛けている別の2機の方に向かおうとする。
しかし、その進路上にイージスが割り込み行かせようとしない。
「キラ! 止めるんだ!!」
「アスラン・・・!」
焦りを感じながらも攻撃するわけにはいかず、キラはやり場のない怒りを言葉に出した。
「君こそ、なんでザフトなんかに! 戦争は嫌だって君も言ってたじゃないか!!」
キラの叫びを一条のビームと数発のミサイルが切り裂いた。
「何をボヤボヤやっている! アスラン!!」
イザークの操るデュエルと3機のバッタが二人の間に割り込んできた。
「あの機体の顔もガンダムに似ている・・・? まさか!?」
ストライクの中にあるデータを検索すると、該当する物を見つけキラは息をのんだ。
「Xー102『デュエル』!? あれも奪われた機体の一つなのか!!」
とっさに距離を取ろうとするが、デュエルはビームライフルを撃ちながら追ってくる。
「手に負えないって言うんなら俺がもらう! 下がっていろ!!」
アークエンジェルはブリッツ、バッタ、カトンボ、そしてザフト艦2隻の相手に、必死の防戦をしていた。
「アンチビーム爆雷発射、イーゲルシュテルン、敵を近づかせるな! ヘルダート発射はオートに切り替えろ」
発射された、アンチビーム爆雷でカトンボ、ザフト艦の砲撃が散らされる。
しかし、威力を完全には逸らしきれず装甲を削られ艦に衝撃が伝わる。
バッタは弾幕に押されそうそう近づけはしないが、ブリッツは弾幕を回避しながら攻撃を加えてきた。
「くっ! MS隊はどうなっている!?」
「フラガ大尉はバスター、ジンUに足止めをされています。キラは、イージス、デュエル、バッタに攻撃を受けて、現在応戦中です!」
ミリアリアはナタルに現状を報告する。続けてマリューが聞いてくる。
「ナンブ少尉達は?」
「木星蜥蜴と交戦中です。フィールド、多数のバッタに阻まれて、戦艦を攻め倦んでいます」
「呼び戻して、艦の防衛に・・・」
マリューが提案するが、ナタルはすぐさま反論をする。
「駄目です! 今、彼等を呼び戻したら、我等はクルーゼ隊、大量のバッタに攻撃を集中されます!」
カトンボは攻撃隊を二つに分けていた。アークエンジェル攻撃隊と自分の防衛用に。
キョウスケ達が敵の実質半分を相手しているので、アークエンジェルの被害は少なく済んでいるのだ。
現状を打破する術もなく、アークエンジェルは不利な戦いを続けるしかなかった。
デュエルのビームライフルをシールドで防ぎ、キラもビームライフルを撃ち返すが、あっさりとかわされ接近される。
接近中に抜き放たれたビームサーベルがストライクに振り下ろされる。
「うわぁ!!」
キラはとっさにバーニアを吹かし後ろに回避するが、そこにバッタ達のミサイルが直撃し、前に機体が流された。
「このぉ!!」
体勢を立て直すとバッタに向けてライフルを放つが、フィールドに弾かれダメージを与えられなかった。
その後ろからデュエルが斬りかかって来たが、気付いたキラがライフルを連射し距離を取ろうとする。
動きが止まったストライクを狙って、バッタ3機が一斉にミサイルを発射してきた。
なんとか撃ち落そうとライフルを連射するが、あまりにも数が多く3、4発被弾する事になった。
「しまった!? ライフルが!!」
被弾の衝撃でライフルを放してしまった所に、デュエルが斬りかかって来た。
キラもビームサーベルを抜き放ち、デュエルの攻撃を受け止めるが、バッタ3機が横からバルカン砲でストライクを攻撃してくる。
ダメージこそないが、バッテリーが削られていく。
「このままじゃ、バッテリーが・・・なら!!」
頭部バルカンの照準を、デュエルのメインカメラ周辺に合わせ発射した。
「なに!? モニターが!!」
着弾の衝撃でモニターにノイズが走り、ほんの一瞬ブラックアウトし、デュエルの動きが止まる。
その間にデュエルから離れると、キラはバッタの方に斬りかかって行った。
バッタがバルカン砲で迎撃してくるが、シールドを前に出しそのまま距離を詰めると、1機を切り裂き、もう1機を串刺しにして破壊した。
残る1機がフィールドを張ったまま体当たりをしてくるが、横に跳んで回避をする。
回避されたバッタは、大きくUターンをするとさらに加速をつけて突っ込んできた。
キラはそれを待っていたかのように、アーマーシュナイダーを1本出し、向かってくるバッタに思いっきり投げつけた。
普通に投げたならば、フィールドに弾かれただろうが、バッタが大きく加速したために運動エネルギーが増加され、
それはあっさりと、フィールドとバッタを貫いていた。
「うまくいった・・・あとは」
キラが息をつく暇もなくデュエルが斬りかかってくる。
「貴様ー!! なめた真似を!!」
イザークは、バルカンによる目くらましという意外な手に引っ掛かった自分に対する怒りを、ストライクに向けて叫ぶ。
ストライクは後ろに逃げながらデュエルの攻撃をかわし、どうしても避けられない角度のだけサーベルで受け止める。
何度目かのサーベルを受け止めた瞬間、いきなりデュエルが胴体に蹴りを放ってきた。
「うわ!?」
「素人が!! 格闘戦はサーベルだけじゃないんだよ!!」
体勢を崩したストライクにデュエルが斬りかかってくる。
キラはバーニアを吹かし、なんとか回避をしようとするが、バーニアからなんの反応も返ってこなかった。
「バーニアが!? なんで!?」
不思議に思いながら、計器類に目をやるとバッテリーがほとんど空になっていた。
戦闘を開始してから既に2時間が経過していた。
バッテリーは4時間の戦闘に持つ程の容量だったが、それはビーム兵器を使わないでの目安であった。
この戦闘でキラは、長距離をバーニア全開で移動、ビームライフルの連射、ビームサーベルの連続使用、フェイズシフト展開でバッテリーを大量に消費していた。
先程から警報は鳴っていたのだが、戦闘に手一杯でそこまで気付かなかった。
ビームサーベルから光が消え、フェイズシフトがダウンしていく。
「もらったー!!」
なんの防御手段を持たないストライクに、デュエルがビームサーベルを振り下ろす。
「!!」
キラは思わず目を瞑り身体を強張らせるが、突如、後ろから鈍い音が聞こえたと思うと、機体に急加速のGがかかる。
キラが恐る恐る目を開けると、ストライクはMAに変形したイージスのアームにガッチリと捕らえられていた。
アスランがデュエルのサーベルが当たるギリギリの所で、キラをひっさらったのだ。
「アスラン!! 何故ジャマをする!?」
倒せたはずの敵を持っていかれて、イザークが怒りを隠さずに叫ぶ。
「この機体は、捕獲する」
「なんだと!? 命令は敵の撃破だろう!!」
「捕獲できるならその方がいい! それに、この機体にはもう戦闘力はない、無意味な戦いは避けるべきだ。一旦、帰艦する」
アスランとイザークの会話を聞いて、キラは状況を飲み込んだ。
「アスラン、どういう事だ!?」
キラの叫びにアスランが応じた。
「このまま、ガモフ・・・俺達の母艦に連行する」
「いやだ! 僕はザフトの艦に行きたくない!!」
「いいかげんにするんだ!! でないと、俺は・・・お前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!!」
アスランの気迫に押され、キラは黙った。
「俺は・・・お前を撃ちたくない・・・だけど、今は戦争中で、俺はザフトの兵士だ・・・お前が連邦側に、敵側にいる限り、友達であっても撃たなきゃならないんだ・・・」
「アスラン・・・」
アスランの声には苦渋が混じっていた。個人としては撃ちたくはないが、兵士という立場にいる限り撃たなくてはならない義務。
その二つに挟まれたアスランの苦しみがキラにも伝わってきた。
「血のバレンタインで母も死んだ・・・これ以上・・・俺は大切な人を・・・失いたくはないんだ・・・・」
アスランの言葉にキラは何も言えず、イージスは戦闘宙域を離れ始めた。
「キラ!!」
見ていたトール達が思わず声をあげた。
「ストライク、イージスに捕獲されました! フェイズシフトが落ちました!!」
冷たい戦慄がマリュー達を襲った。ある意味最も恐れていた事だ。唯一、残った機体までもがザフトに奪われてしまう。
「キラ! キラ! 応答してぇ!!」
ミリアリアが泣きそうになりながら何度も呼びかける。
「泣くのは後にしろ! フラガ大尉に通信を取るんだ!!」
ナタルが叱咤すると、ミリアリアはハッとして通信を開いた。
泣くのは後でも出来る、だがキラを助けることは今しか出来ないのだ。
「坊主が!? あの馬鹿!!」
フラガはミリアリアの通信を聞いて、イージスの後を追おうとするが行かせまいとジンUが進路を防いだ。
「悪いけど、この先には行かせないわ!!」
リムは吼えながらビームライフルを連射する。
(隊長にあんな事を言ったけど、私としてもアスランの友達を撃ちたくないしね・・・)
「ディアッカ君! 援護を!!」
「え? こいつを放っておいて戦艦に攻撃を仕掛けたほうが、「私に殺されたくなかったら言う通りにしなさい!!」
ディアッカの意見をドスの効いた声で却下させ、2機でゼロを足止めをする。
「くっ! どうあってもストライクを持っていく気か!?」
フラガは焦りながらガンバレルを展開し、突破口を開こうとする。
「そう、何度も!!」
バスターが高インパルス砲を散弾型に切り替え、発射する。
攻撃を仕掛けようとしてたガンバレルは、広範囲に発射された散弾を回避できずに破壊された。
「くそ! このままでは坊主が・・・キョウスケ! 坊主が拉致られた! こっちに1機回してくれ!!」
距離が離れているキョウスケに連絡してもどうにもならない事は解ってはいたが、何もせずにはいられなかった。
バッタがフィールドを張ったままで、アルトに突っ込んでくる。
しかし、キョウスケは回避しようともせずに真正面からステークを叩き込んだ。
並みの突撃力ならば腕を破壊されるか、フィールドに弾かれ体当たりをまともにくらっていただろう。
だが、アルトの突撃力、そしてキョウスケの間合いの見切り方は並ではなかったので、見事なカウンターとなり衝撃は全てバッタに返っていた。
ステークを叩き込まれ吹き飛ばされると、何機か巻き込み爆発する。
そのままの勢いで、カトンボに接近しステークを叩き込もうとするが、フィールドをものともしないアルトに警戒を抱いたのか
砲撃が、そしてバッタ達の攻撃がアルトに集中した。
「くっ! こちらに攻撃を集中してきたか・・・ウラキ少尉!!」
キョウスケが合図をすると、敵の攻撃が薄くなったステイメンがロングライフルを構えた。
「いけぇー!!」
損傷しているカトンボに狙いを定め発射するが、フィールドでほとんどの威力を消され致命傷を与えられなかった。
「この距離からでも駄目か! あとは零距離から撃つしか手がないな・・・」
「でも、近づくのも一苦労だぜ? これだけのバッタがいたんじゃ・・・」
コウの考えにキースが弱気になって答えた。
その時、コウとキースにとっては聞き慣れた声と技名が飛び込んできた。
「ロケットパーンチ!!」
損傷したカトンボの後方から飛んできた鉄拳は、フィールドを貫き、機関部に突き刺さった。
機関部が爆発を起こし、その爆発が全体に伝わり、最後はカトンボが爆散した。
『苦戦しているみたいだな、コウ! 助太刀するぜ!!』
接近してくるマジンガーZを確認し、コウは驚きの声を上げた。
「甲児! なんでここに!? 宇宙開発公団の方はどうしたんだ!?」
「いろいろとあってな! とりあえず、こいつ等を蹴散らすぞ!!」
甲児は言うが速いが、群がってくるバッタに攻撃を仕掛ける。
「くらえ! 光子力ビーム!!」
横薙ぎに発射された光子力ビームは、フィールドをあっさり貫き、数機のバッタを破壊していく。
離れていた何十機かのバッタが、ミサイルで攻撃してくるがマジンガーZは回避しようともせずに真正面から攻撃を受け止めた。
「まーだまだ! 出直してきな!!」
マジンガーZに傷は一つもなく、攻撃をしてきたバッタ達に狙いを定めると、
「今度はこっちの番だ!! ドリルミサイル!!」
先程のミサイルを遥かに上回る数を発射した。
バッタは回避をしようとはするが、あまりにも数が多く、フィールドを破られ全機が破壊された。
数多く居たバッタが、見る間に撃墜されていく。
「二人とも、今ならカトンボに接近できる。 仕掛けるぞ!!」
キョウスケがコウとキースに呼びかると、アルト、ステイメン、ジムキャノンUがカトンボに接近していく。
カトンボもそれに気付いたのか、3機に攻撃を集中させるがあたりはしなかった。
母艦を守ろうと、残っていた半分近いバッタが壁を作り進路を塞ぐが、
「これだけのベアリング弾・・・かわせるか!!」
それを見越したかのように、アルトが広範囲にクレイモアを撃ち、殆どが撃墜されコウとキースがその場を突破する。
「これでどうだー!!」
ステイメンがほぼ零距離で、カトンボの船底にロングライフルを放ち、
「くらえー!!」
続けて後方に回り込んだ、ジムキャノンUが推進部を狙いキャノン砲を放つ。
「こいつで止めだーっ!! ブレストファイヤー!!」
2機の攻撃で中破していたカトンボに、トドメのブレストファイヤーが叩き込まれる。
カトンボは、フィールドを張ったが防ぎきれずに爆発、四散する。
「・・・あとは、アークエンジェルを攻撃中の敵を倒せば・・・」
キョウスケが言いかけた時、フラガからの通信が入った。
『キョウスケ! 坊主が拉致られた! こっちに1機回してくれ!!』
「なに!?」
「坊主・・・? まさか、キラが!?」
「どういう事ですか? 大尉!!」
「・・・キラって・・・誰だ?」
通信を全機に開いていたので、コウ、キース、そして甲児にも聞こえていた。
『どういう事って、そのまんまだよ! フェイズシフトが落ちた所をイージスにもっていかれた! 』
フラガが状況を説明すると、コウは顔をしかめた。
「この距離で追いつけるのか?」
「いや、間に合うだろう」
甲児があっさりと言い放つ。
「? なにか確証でもあるのか?」
不思議そうにキースが聞いて来た。
「ああ、ここには俺の他に二人来てるんだ。 その二人が上手く足止めをしてくれるさ」
『わお! 期待してくれるなんて嬉しいわね♪』
突然割り込んできた明るい声に、コウ達は驚いたが、キョウスケは驚きもせずに言い放った。
「そちらに行くのに少し時間がかかる・・・頼むぞ、エクセレン」
『少しは驚いて欲しい気もするけど、りょ〜かい』
戦闘宙域を離れようとしたイージスに、突如横殴りの衝撃が襲った。
「くっ! 射撃だと!? 何処から!?」
アスランがレーダーを見ると少し離れた所に反応があり、その距離に驚いた。
「この距離で、イージスだけに命中させるだと!?」
アスランの驚きをよそに、続けて2射、3射が飛んできた。
狙いが正確で、回避が出来ないと判断したアスランは、防御をするためにイージスをMS形態に戻した。
自由になったストライクに、通信が飛び込んでくる。
『もしもし、離脱できる?』
「えっ・・・? 女の人・・・?」
突然の通信にキラは驚き、呟く。
『う〜ん。声からして、10代の美少年って所かしら? あ〜、顔が見えなくてお姉さん、ちょっと残念だわ・・・』
「え!? あの・・・」
『あらら。 今のは気にしないで・・・コホン。 ここはお姉さんに任せて離脱しなさい』
「あの・・・バッテリーがなくて身動きが取れないんです」
『じゃあ、直接回収するわね』
一旦通信が切れると、キラは白い機体がこちらに近づいてくるのが見えた。
イージスが白い機体を狙ってビームライフルを放つが、その機体は素早い動きで尽くかわして近づいてくる。
「なんて、運動性だ!?」
「んっふふ〜♪ ヴァイスの足の速さ、知らないでしょ?」
アスランは驚きながらもビームライフルを連射するが、一向に当たりはしなかった。
「返しは痛いわよぉ・・・」
白い機体は、左腕に装備されている3連ビームキャノンを撃ち返し、イージスをストライクから離れさせた。
「しまった!? キラ!!」
アスランはもう一度ストライクに近づこうとするが、白い機体が間に割り込み3連ビームキャノンを連射して来たので、離れざる得なかった。
「さっ、今のうちに後退しましょ」
白い機体から接触回線が開き、そのままストライクを引っ張って行こうとする。
「あの・・・貴女は・・・? それに、その機体、キョウスケさんの『アルトアイゼン』と似た武器が装備されてますけど・・・?」
キラは、左腕に装備されている武器を見て不思議に思いながら尋ねた。
「わお! なかなか鋭いわね? 私はエクセレン。この子は『ヴァイスリッター』、キョウスケの機体と同じ計画の物だから多少似ているわね。
ちなみに、私の事は先生、又はお姉さんと・・・」
『キラ! 行くな!!』
通信にアスランが割り込みながら、イージスが追いかけて来た。
「なんだか訳ありみたいだけど、無理矢理は良くないわよ・・・っと!」
エクセレンは言い返すとオクスタンランチャーを構え、
「オクスタンランチャーのBモード! どうぞ〜」
実弾タイプのBモードを発射する。
撃ったのが実弾タイプだとアスランは判断すると、回避行動もとらずにイージスを加速させた。
実弾はPS装甲には通用しない、という事を知っていての判断だったのだが、アスランは一つ失念していた。
それは、先程イージスをふっ飛ばしたのはこの武器であると言う事をだ。
確かに実弾武器ではPS装甲にダメージを与えられない。スーパーロボットの武器は例外ではあるが。
しかし、ダメージを受けないだけであって爆発時の衝撃まで防げるわけではないのだ。
結果、イージスはオクスタンランチャー着弾時の衝撃に負け、再び吹っ飛ばされた。
「くっ・・・! バッテリーが心もとなくなってきたか」
今の一発を受けて、バッテリーがレッドゾーンに突入し、警報がイージスのコックピット内に鳴り響く。
ちょうどその時、ヴェサリウスから撤退を知らせる信号弾が発射された。
「撤退信号・・・!? くそっ! キラ! 必ずお前を連れていく! それまで死なないでくれ!!」
アスランはキラに言い残すと、イージスを撤退させた。
時間は少し戻って、ヴァイスリッターがイージスに攻撃を仕掛けている頃。
「!? 高速で艦の下方から接近する機体が・・・」
「スペースサンダー!!」
レーダー士の報告が終わる前に、ヴェサリウスに衝撃が貫いた。
「うお!?」
「くっ! 艦の被害状況を報告しろ!!」
クルーゼが崩れた体勢を立て直しながら指示を出す。
「機関区損傷大! 推力低下!!」
「第五隔壁損傷! 火災発生!!」
クルーの悲鳴のような報告が次々と入ってくる。
「敵機、正面にでます!」
正面に映し出された敵機を見て、クルーゼは目を見張った。
それは、敵機が変形するところだったからだ。
「シュート、イン! グレンタイザー、ゴー!!」
胴体が甲羅のような部分から飛び出すと、それは完全な人型だった。
「マジンガー系列の機体か・・・? いや、似ているが違う!!」
その姿を見てクルーゼは呟くが、すぐに思い直した。
「グレンタイザーだと・・・? 聞いたことがないな・・・新型か・・・?」
クルーゼはハッとしてアデスの方を振り向いた。
変形の過程、そしてフォルムを見て相手がスーパーロボットだと判断し、撤退の指示を出そうとしたが、怒りに任せたアデスがそれを待たずに叫ぶ。
「敵は1機だ! 撃ち落せーっ!!」
ミサイルが、ビームがグレンタイザーに向かって撃たれるが、艦が振動していて上手く狙いが定められず、その殆どがかわされた。
それでも、撃たれた数が多いのでミサイルの何発が当たるがダメージを受けた様子もなかった。
「くっ! 主砲を用意しろ!!」
「まて、アデス! ここは退くんだ!!」
砲撃が通用せず、ムキになったアデスにクルーゼが撤退を促すが、それよりも早くグレンタイザーが反撃をしてきた。
「今度はこちらから行くぞ! スクリュークラッシャーパーンチ!!」
グレンタイザーの両手が、発射用意をしていたヴェサリウスの主砲を貫き破壊する。
「主砲大破!! 第四、第八ブロック火災発生!!」
さらに報告される被害に、アデスは歯ぎしりをする。
「スーパーロボットの攻撃力を甘く見たな、アデス。 MS隊に撤退信号を放て。 ガモフの方は?」
「敵艦のMS隊が戻ってきたので、既に撤退を始めています」
クルーゼの問いかけに、通信士が答える。
「流石、ゼルマン艦長だ。 退くべき時を熟知している・・・こちらも退くぞ! 全ミサイル発射! 敵を近づかせるな!!」
弾幕を張りつつ、ヴェサリウスが撤退を始める。
グレンタイザーは追撃をしようとしたが、数多くのミサイルに阻まれ出来なかった。
「流石に、頑丈ですね・・・」
ニコルはアークエンジェルに攻撃を仕掛けながら呟いた。
最初はバスターと攻撃をしていたが、今はブリッツと何機かのバッタで攻撃をしていた。
「ブリッツとバッタの火力では、少しキツイか・・・?」
「何時まで手間取っている! ニコル!!」
イザークが怒鳴りながら近づいてきた。
「イザーク、助かります。 アスランは?」
「奴はストライクを捕獲したから、一旦帰艦するそうだ・・・くそっ! あと少しで倒せたものを・・・」
悔しがるイザークに、ニコルはやんわりと返す。
「いいじゃないですか。 敵にしろ味方にしろ、死者が少ないほうが・・・んっ?」
「どうした、ニコル?」
何かに気付いたニコルに、イザークが話しかける。
「・・・MS隊です! 戻ってきました!! しかも1機増えてます!!」
「なに!?」
ニコルに教えられ、レーダーの反応がある方を最大望遠で見て、イザークは声を失った。
「・・・本当だ・・・しかもあれって、マジンガーZじゃないか・・・?」
「・・・そうですね・・・イザーク、退きましょう。 この戦力では・・・」
ニコルの提案をイザークは怒鳴って却下する。
「ふざけるな! マジンガーZとはいえ、操縦しているのはナチュラルだ!! コーディネーターが、クルーゼ隊が負けるわけないだろう!!」
イザークはニコルが止めるまもなく、バーニアを吹かして突撃をする。
「マジンガーZの前に、貴様を沈める!!」
行き掛けの駄賃かの様に、アルトに接近しながらビームライフルを放つが、目の前で拡散されてしまう。
「なに!?」
「これを抜いても装甲がある・・・くってはやれん・・・!」
キョウスケが言い捨て、アルトアイゼンをデュエルに接近させる。
「とった・・・!」
ステークが叩き込まれる瞬間、イザークはとっさに回避行動をとった。
胴体を狙っていたステークは、デュエルの右肩に突き刺さり、右腕が吹き飛ばされる。
「ぐあっ! な、なんて機体だ!? PS装甲ごと右腕を持っていきやがった!!」
イザークは慌てて、アルトから離れる。
その時、視界の端にヴェサリウスからの撤退信号が見えた。
「イザーク!! 撤退信号です! 帰艦しましょう!!」
ニコルがイザークに撤退を促すが、イザークは歯軋りをしながらアルトアイゼンを睨みつけていた。
「イザーク!!」
「わかっている! アイツは必ず、オレが仕留める・・・!」
イザークは唸るようにいい、デュエルを反転させブリッツと共に撤退させた。
「ディアッカ君! 撤退信号よ!!」
リムが撤退を知らせるが、ディアッカは聞かずにゼロに攻撃を続ける。
ジンUがバスターの前に出て攻撃を止めさせた。
「撤退だって言ってるでしょう!!」
「したければ一人でしろよ! クルーゼ隊が1機も撃破できずに帰艦できるか!!」
ディアッカがムキになって反論して来たので、リムはビームライフルをバスターの頭に突きつけ、冷たい声で話し出した。
「・・・撤退よ。戦況を理解せず、自分の功を得るために上官の命令を無視するのがいると、こっちの命に関わるわ・・・
どうしても聞けないのなら、この場で私があなたを撃ち殺すわ・・・」
リムの今までとは違う殺気を感じ取ったディアッカは、青い顔で返事を返した。
「わ、わかった。 解ったから、ライフルを退けてくれ・・・」
「解ればよろしい」
リムはビームライフルを退けると、バスターと撤退を始めた。
その時、バスターのフェイズシフトが落ち、ディアッカが驚いて声を上げる。
「うわっ!? なんでだ!?」
「そりゃあ、あれだけ攻撃をバカスカ食らって、ライフルを撃ちまくればね〜」
リムは呆れながら、バスターを牽引してヴェサリウスへと帰艦していった。
「追わないのか? キョウスケ」
コウが、デュエル達が撤退して行った方を見ながら聞いて来るが、キョウスケは首を振った。
「今は追撃よりも、残敵の掃討とストライクの奪取が大事だ・・・エクセレン、応答しろ」
『は〜い! 呼んだかしら? ダーリン』
「ダーリン?」×3
エクセレンの発言にコウ達が一斉にキョウスケを見る。
「その呼び方はやめろ・・・キラは、ストライクは救助したのか?」
『この子、キラくんって言うのね? ダメよ〜、女性を先に名乗らせちゃ〜』
『え・・・あの・・・』
通信にキラの声も聞こえてきたので、キョウスケ達は胸をなで下ろした。
「からかうな、エクセレン・・・キラ、大丈夫か・・・?」
『あ・・・はい。なんとか』
「そうか。俺達は残敵の掃討をする。エクセレン、キラをアークエンジェルまで連れて行ってくれ」
キョウスケが通信を切ると、今度は甲児の方に通信が入る。
『甲児君、敵母艦は撤退を開始した。そっちに敵は残っているか?』
「こっちに残っているのは、別口の連中だけだ。すぐに片が付くさ」
『わかった。そちらの戦艦で合流しよう』
通信が切れると、コウとキースが話しかけてきた。
「甲児、誰なんだ? 話を聞いていると、敵母艦を攻撃してくれたのは彼みたいだけど・・・」
「鉄也・・・じゃないよな? 声が違うし・・・」
「ああ。あの人はデューク・フリード、今ロンド・ベルに手を貸してくれている人さ。で、詳しい事は本人に聞いてくれ。
俺じゃ上手く説明できそうにないんだ」
甲児はそう言うと、残っていたバッタに向かっていった。
バッタの数は少なくはなかったが、フィールドをあっさり貫くマジンガーZ、無効化出来る武装を持っている、アルトアイゼン
そして、オールレンジ攻撃の出来るゼロが途中で合流した事もあり、掃討するのには大して時間が掛からなかった。
残敵の掃討を終え、帰路に着いたキョウスケは今の戦闘について考えていた。
(この戦闘中、ザフトも蜥蜴も互いを攻撃せず、アークエンジェルだけを狙ってきた・・・過去の大戦から見て、異星人と手を組むのは珍しくはないが、 今回の戦争はいろいろと引っ掛かる事が多い・・・コロニーに着いたら調べてみるか・・・)
アークエンジェルに着艦したエクセレン達、そして戦闘に参加したメンバーは、ブリッジに上げられていた。
ロンド・ベルのパイロットが、少数でこんな所にいる理由を聞くためだった。
「エクセレン・ブロウニング少尉よ。よろしく〜♪」
エクセレンが官名を名乗った時、ナタルがコメカミを引きつらせて注意をした。
「ブロウニング少尉! 真面目に名乗ってください!!」
「あらあら、自己紹介は明るく、楽しく、笑ってやるのがクラスで人気者になる為のコツよ?」
「ここは教室ではありません!! 戦艦なんです!!」
「・・・エクセレン、バジルール少尉、話が出来ん」
キョウスケが二人の言い合いに歯止めをかけ、バニングが甲児に話しかけた。
「甲児、事情を説明してくれ。 何故、ロンデニオンから離れた宙域にお前らがいたのか」
「あ〜っと・・・大介さん、タッチ」
甲児は頭をかきながら考えをまとめていたが、上手くいかなかったのか隣にいた大介と呼ばれた青年に話を振った。
「あれ? さっき、甲児がデューク・フリードって言ってた人だよな?」
キースが大介を見ながら問いかける。
「ええ、僕の本当の名はデューク・フリードですが、宇門大介も本当の名前なんです」
「???」
大介の言葉に頭を捻るアークエンジェルのクルーに、
「長くなるからその事は、ロンデニオンでブライト艦長に直接聞く、って事でいいかしら?」
と、エクセレンが聞くと全員が頷き了承する。
場が落ち着いてきたので、大介が話し始めた。
「僕達がこの宙域に来てたのは、調査兼パトロールのためです」
「調査ってなにを? それになんでラー・カイラムを使わないんですか?」
「はい、エクセレン先生の出番ね。 ラー・カイラムは核融合炉を動力にしているから、Nジャマーの所為で動けないの」
キラの質問にエクセレンが答え、大介は話を続ける。
「この宙域周辺で・・・頻度は少ないんですが、妙なシャトル事故が起こっているんです」
「妙な?」
ナタルが聞き返す。
「ええ、それは、シャトルには損傷は少ないんです・・・ただ乗っていた人間が全て殺されているんです・・・」
「・・・宇宙海賊『クロスボーン・バンガード』の仕業じゃないの?」
マリューが聞くが、甲児が首を振る。
「それは、ねぇよ。 あいつ等がそんな事をするはずがないさ」
「? なんで言いきれるんだ?」
フラガがさらに突っ込んで聞いてくるが、
「あんな殺し方、人間ができる筈がないからよ」
エクセレンが真面目に言うのを聞いて全員が驚き、大介の次の言葉を待つ。
「殺された人達は全員、身体の何処かしらを『刈取られて』いたんです・・・」
「・・・どういう事・・・ですか・・・?」
サイが声を絞り出すようにして聞き返す。
「人によって違うのよ・・・ある人は目を、ある人は全ての血液を、ある人は脊髄を・・・」
「酷い人は骨を残して全て『刈取られて』いた」
エクセレンと甲児の言葉を聞いて、ブリッジが静まり、大介の言葉が響く。
「『刈取られて』受けた致命傷以外、傷らしい傷がないんです・・・それで、調査している人達はこの事件をこう呼ぶんです・・・『刈取り』と・・・」
第六話に続く
あとがき
作:今回は視点があっちこっちに移動してまくっていて、読みにくかったかもしれませんね・・・すいません。
次回でやっとブライト艦長とアムロが登場します・・・今まで名前がいっぱい出てきてたんで何を今更って感じもしますが・・・
次にアクシズの話が出てきますんで、ちょっと書いときます。
この世界の第2次では、ハマーン様と共闘しており、アクシズがまだ存在しています。
掲示板にも書きましたが、武蔵は恐竜帝国との決戦で死亡しています。
それと、最後に名前だけ出て来た連中の出番はもっと後の方になります。
イネス先生のなぜなにスパロボ
イ:前回は出番がなかったわね・・・忘れてたのかしら作者・・・
なんで旧式のゼロがフィールドを破壊できたのか?
イ:ご都合主義のSEEDの機体だから・・・ではないわ。
ナデシコの原作『深く静かに戦闘せよ』で秋山さんが言ってたのが元ネタね。
ミサイルの集中砲火を受けている場面で「ここに重力火砲を受けたら・・・」って言ってるしね。
断じて、熱血や魂がかかっていたり、気力が150だったわけではないわ・・・たぶん・・・
管理人の感想
コワレ1号さんからの投稿です。
うーん、キラが活躍できませんね(苦笑)
ま、早々たる豪華メンバーと共に戦っていれば、ルーキーにスポットが当たるはずないですかw
そのうえ、スーパーロボット軍団の登場ですからね・・・ますます窓際(爆)
次回にはアムロとブライトも参戦となると・・・
敵側が段々哀れになってきますね(笑)