第六話 ロンデニオンにて・・・
アスランの身体が勢いよく壁にうちつけられる。
「貴様は!! 動けなくなった機体1機も持ち帰れないのか!?」
イザークは顔を怒りに歪ませ、アスランの胸倉をつかんだ。
「確かに捕獲出来る方がいいが、それは作戦が成功すると言う事が大前提だ! 命令を無視して、おまけに作戦も失敗しては意味がないだろうが!」
「とんだ失敗だよね。あんたの・・・いや、あんた等の命令無視のおかげで」
ロッカールームの壁にもたれながら、ディアッカも苦々しい口調で言う。
しかし、アスランは言い返しもせずにただ俯いただけだった。
「あんた等・・・?」
イザークが不機嫌に聞き返すと、ディアッカはなにか気付いたように頷き、
「ああ、話してなかったな。リムの奴も戦艦を攻撃しないで、敵をアスランの方に行かせないようにしてたんだ」
それを聞き、イザークは少し複雑な表情になる。
このまま感情に任せアスランを締め上げる事も出来るが、リムが一枚噛んでいるのだとしたら締め上げた後が怖い。
如何するべきかと考えているとドアが開き、ニコルとリムが入ってきた。
ニコルが険悪な状況を見て取り、声をあげた。
「なにやってるんですか!? やめてください、こんな所で!!」
「クルーゼ隊が5機で、『あちら』の手を借りても沈められなかったんだぞ! こんな屈辱・・・」
「しょうがないでしょ? あっちにはロンド・ベル隊がいたんだから」
イザークの言葉をリムがあっさりと言い返す。
「MSが5機、戦艦4隻、頑丈なだけの機動兵器が多数・・・たったこれだけの戦力でロンド・ベルを倒せたんなら、苦労はしないわ」
リムが先の戦闘の戦力を言いながら、イザークを睨みつける。
「それにあなたも、アスランの事は言えないんじゃないの? 戦艦を狙わずに、MSに目移りしちゃったんだから」
「うっ・・・」
リムに言われ、イザークは言葉に詰まる。
確かに、最初からブリッツと共にアークエンジェルを攻撃し続ければ仕留める事が出来たかもしれない。
イザークもその事は考えたのだが、自分にも非がある事を認めたくないので目を逸らしていた。
「今回の失敗はアスランだけの所為ではないわ。スーパーロボットが援軍で来た時点で、こっちの戦力を大きく上回ったんだから」
そう締めくくると、イザークもディアッカも文句を言えなかった。
「さてと・・・アスラン、隊長が呼んでるわよ」
「隊長が・・・?」
俯いていたアスランが顔を上げて聞き返す。
「ええ、本国から出頭命令が出たから私と貴方を連れて行くって」
「そんな・・・あれをここまで追い詰めておきながら!」
「追い詰められたのは奴等ではない、私達の方だ」
アデスの呻きをクルーゼが淡白に言い返す。
「先の戦闘で奴等にスーパーロボットが合流した。現時点の我々の戦力で勝てる相手ではない。
それに、奴等はそろそろロンデニオンに入港する頃だろう。あそこには、名将ブライト・ノアやアムロ・レイといった歴戦の猛者達が数多くいる。
迂闊には手を出せんよ」
「隊長・・・まさか諦めになるおつもりですか!?」
「まさか・・・あれは引き続きガモフに追わせる。迂闊に手を出さないように命じてな・・・」
クルーゼの言葉を聞いて、アデスが不審顔になる。
「それでは追わせる意味がないのでは・・・? 数の上でも奴等が上回っているんですよ?
こちらから仕掛ける気が無いのはあちらも気付くと思いますが・・・」
「そうだな。しかし、ロンド・ベルの敵は我々ザフトだけではあるまい・・・第3の敵が奴等に攻撃を仕掛けた所を・・・」
そこまで言われて、アデスはクルーゼが狙っている事に気付いた。
「乱戦に持ち込ませるのですか・・・?」
「そうだ。だが、私が言わずともゼルマン艦長がそう作戦を立てるだろうな。
ヴェサリウスの修理が済み次第、本国に出発するぞ。アスランとリムにも伝えておけ」
指示を終えると、クルーゼはブリッジを後にした。
(ヘリオポリス崩壊の責任を追及されるかも知れんというのに、その事は懸念にも抱いていないとは・・・何を考えているか読めん人だ・・・)
アデスはブリッジの出入り口を見ながら、深くため息をついた。
大介の話から2時間後、アークエンジェルはロンデニオンに入港した。
極秘裏に建造され、認識コードを持っていなかったのでコロニーから通信が入ってきたが、
「こちら、サウス・バニング大尉だ。 新造戦艦アークエンジェルに乗艦している。入港許可を頼む」
バニングが名乗るとあっさりと入港許可が下りた。
「この状況では有難いが、無防備すぎる・・・」
ナタルが頭を押さえながら呟いたが、誰の耳にも入っては無かった。
入港すると司令部から通信が入った。
『こちら、アムロ・レイ少佐だ。責任者のブライト・ノア大佐が所用で手が離せないので、俺が代わりに話を聞く。艦の責任者は?』
「アムロ・レイ少佐・・・!? わ、私、マリュー・ラミアス大尉です」
マリューは突然の通信に驚きながら答える。
『・・・? 失礼だが、大尉とは何所かで会ってはいないか・・・?』
「・・・? いえ、記憶にありませんが・・・どうかしましたか少佐?」
『いや、気のせいだろう。では、大尉と何人かは一度、司令部に来てくれないか。 詳しく事情が聞きたい』
「了解しました。あの、他のクルーは・・・? それに避難民もいるのですが・・・」
『他のクルーは、立ち入り禁止区画に行かなければ、コロニー内を自由に行動してくれて構わない。
避難民はこちらから人を回して受け入れ作業をする。すまないが、そちらからも何人か手を貸してくれ』
「わかりました。では、後ほど」
『それと、バニング大尉。 艦に搭載されている全てのMS、PTの起動プログラム、動力炉をロックしておくんだ』
アムロの突然の指示に、バニングだけでなく、クルー全員が首を傾げる。
全員の意見を代弁するかのように、バニングが質問する。
「・・・なにかあったんですか。少佐? ロンド・ベルの本拠地でそんな処置を必要とするなんて」
『ブライトの所用の関係さ。少し、厄介な来客があってね・・・』
そう言うと、アムロは通信を切った。
「・・・どういうことですか大尉・・・?」
ナタルが不安げにバニングに聞いてくる。
「さあな・・・だが、アムロ少佐が言うんだ。必要な処置なんだろう。艦長、誰が司令部に行く?
俺はMSの方が終わったら、避難民の方を手伝わなければならないが・・・」
バニングの言葉を受け、マリューは少し考えてから決めた。
「私と、バジルール少尉、それとフラガ大尉が行きます」
「了解しました」
「わかった。 伝説のニュータイプと会ってみたかったからな」
ナタルとフラガが返事をするのを聞いてから、全艦に放送を流すように指示を出した。
一方、司令室では、
「どうあっても、こちらの要求は聞けんと言うのかね? ブライト・ノア大佐・・・」
「はい。岡長官からの許可無くMSの動力データをお渡しする事は出来ません」
表情を変えずに、ブライトは目の前にいる士官、ジェラード・ガルシアに言い返した。
「木製蜥蜴は謎の新兵器で、最強の盾であるアルテミスを落としたのだぞ? こうなればこちらは最終兵器、核で応戦するしかないではないか。
蜥蜴を核で焼き払った後、プラントを核で攻撃すれば戦争は終わる。その事に口答えをするコロニーにも核を向けて黙らせればいい。
その為には、今だ核融合炉で動いているロンド・ベルの機体のデータが必要なのだよ・・・君達、ロンド・ベルは平和の為に戦っているのだろう?」
ガルシアがそう言ったのが、ブライトの我慢の限界だった。
「ガルシア大佐、貴方はコロニー全てを敵に回すつもりですか!? そんな事をすれば今度はシャア・アズナブルではなく、
アクシズのハマーン・カーンが地球にコロニーを落とす事になりますよ!? それに、我々ロンド・ベルはそんな平和の為に戦っている訳ではない!!」
「うっ・・・」
ブライトの迫力に負け、ガルシアは呻きながら後ずさる。
後方でコネと裏工作だけで出世してきたガルシアが、一年戦争から前線で戦い続けたブライトの迫力に勝てる訳がなかった。
「貴様!! 大佐になんて口を!!」
ガルシアの隣にいた士官がブライトに怒鳴るが、
「それはこちらのセリフだ! この場にカミーユや甲児、ジュドー達が居なかった事を感謝するんだな!!
彼等がいたら、貴方がたは無事でロンデニオンを出れなかったでしょうな!!」
ガルシア同様に、ブライトの迫力に負け押し黙ってしまう。
「・・・月基地には既に連絡してあります。 シャトルの準備が済み次第出発していただきます」
ブライトが静かに告げると、ガルシア達は渋々司令室から退出していく。
「・・・ブライト大佐・・・これ以上、出世できると思うな・・・」
ガルシアが退出際、睨みながら言い捨てるが、
「この年齢で大佐までなれれば充分です。これ以上、上にいくつもりはありません」
と、さらりと受け流した。
ガルシア達が退出してから3分後、
「ブライト、入るぞ・・・どうやら、やりあったらしいな」
アムロがブライトの顔を見るなり、苦笑いをする。
「まぁな。あの連中と同じ考えが今だ連邦の主流だと思うと、シャアとの戦いが無駄に思えてしまうな・・・」
ブライトが重くため息をつく。
「しかし、前よりはかなりマシになったほうだぞ? 確かにガルシアの考えが連邦の大半の意見である事には変わりないが、
コロニー全体を1国家として見て、交渉してくれている連中は確実に増えているんだからな」
「流石に、すぐには変わらんという事か・・・で、なんの用だ?」
「ああ。昨日、ブリットが持ってきた『例の装置』についての書類に判を貰いにな。 後はブライトのだけなんだが」
アムロから書類を受け取り、目を通しながら聞く。
「一体、この技術は何処から流れて来たんだろうな・・・EOTでは無いようだが・・・テスラ研が開発した物ではないのか?」
「ブリットもその辺の事は聞いていないらしい。 カザハラ博士に頼まれて持って来ただけと言っていたからな」
判を押し、書類をアムロに手渡した時、
「ブライト艦長、アークエンジェルの責任者の方々をお連れしました」
部屋の外からエマ中尉が呼びかけてきた。
「さっき入港した新造戦艦のクルー達か。入ってくれ」
ブライトが許可すると、マリュー達が入室してきた。
「マリュー・ラミアス大尉です」
「ナタル・バジルール少尉であります」
「ムウ・ラ・フラガ大尉です。有名なブライト艦長、アムロ少佐にお会いでき、光栄であります」
(ん・・・? この感覚・・・まさか・・・)
アムロはフラガに共感を感じ、少し驚いた。
(この感じ・・・クルーゼのとは違うが・・・)
フラガも顔には出さなかったが、内心は感じなれたプレッシャーと違う、初めての妙な感覚に戸惑っていた。
「ロンド・ベル隊のブライト・ノアだ。大変だったようだな、すまないがここに来るまでの事情を説明してくれ」
ブライトが話を促し、マリューがここに来るまでの経緯を話し始めた。
「―――という事です」
マリューが説明を終えると、
「最新のMSに乗ったのが、コーディネーターとは言え民間の少年か・・・俺の時と同じだな・・・」
苦々しく、アムロが呟く。
「出来れば、彼等も避難民と共に降ろしてあげたいのですが・・・」
「いや、それは難しいだろうな。確かに4機も奪われては機密もないが、Xナンバー開発の責任者はハルバートン提督だからな。
私の一存では降ろす事は出来ない・・・すまんな」
マリューの提案にブライトが首を振る。
「・・・こっちからも質問があるんですが・・・」
フラガがアムロに話しかけた。
「デューク・フリード、彼は何者ですか? もう一つ、こっちに来る途中ちらっと見えたんですが、なんでアルテミスの責任者がここに居るんですか?
差支えがなければ教えていただきたいのですが・・・」
「わかった。デュークが味方だという事は甲児から聞いたな? 彼はパルマ―戦役の時に地球に逃れてきたフリード星の王子だ」
「なっ!? 私達と見た目が変わらないのに・・・彼は異星人なんですか!?」
アムロの言葉にマリュー達は衝撃をうけた。
「そう、驚く事ではないさ。パーム星人だって翼さえなければ俺たちと大して変わらないしな」
(確かにそうだけど・・・ロンド・ベルの人間以外は驚くと思うのは私だけかしら・・・?)
心の中でマリューは自分に問い掛ける。
「つい、この前まで記憶喪失になっていた。宇門大介はその時の彼の名前だ」
「アムロ少佐・・・逃れてきたと言いましたが、彼もパルマーから?」
ナタルの質問に首を振り、
「いや、彼の母星はパルマー軍とは別の、ベガ星宇宙軍に滅ぼされたらしい」
「そのベガ星宇宙軍が、最近地球圏に現れ始めてな・・・それで、記憶の戻った彼が我々に手を貸してくれているという訳だ」
アムロとブライトの言葉にマリュー達が押し黙る。
「木星蜥蜴だけでなく、第3の勢力が迫って来ているとは・・・」
「しかし、軍からはそういった情報は入って来てませんでしたよ?」
フラガにナタルが不思議そうな顔で言うのを聞いて、
「連中が偵察程度しかしてないからか、上層部はこの事を深刻に思っていないらしいな。
・・・このままでは、パルマー戦役の二の舞になりかねんな・・・」
ブライトは重々しく言い、話題を変える。
「それと、ガルシア大佐の事なんだが・・・実は君達が入港する3時間ほど前にアルテミスが陥落した」
「“傘”のアルテミスがですか!? シールドは張っていなかったのですか!?」
ナタルが驚きブライトに問い掛ける。
「シールドは張っていたらしい、だがどうやって破ったのか、詳しい事は不明だ・・・
ただいえる事は、今まで我々が戦場で目撃してきた兵器ではないと言う事ぐらいだ」
ブライトの答えに違和感を覚え、マリューが聞き返した。
「待ってください・・・それなら、なんでここに提督がいるんですか? 時間的に合わないんじゃ・・・?」
「提督が来たのは昨日の事だ。 こちらに来た理由は・・・機密事項にあたるから言えないがな」
ブライトに現状を教えられ、ナタルは迷惑をかけない為にも早くロンデニオンから出港すべきだと判断した。
「ブライト大佐、出来るだけ早く補給をお願いします。我々は一刻も早く月基地に向かわねばなりません。
また、ザフトにもいまだ追跡されていると思われます。このままではコロニーにまで被害が及ぶかもしれません」
ナタルの要望にブライトは頷きながら答える。
「念の為、索敵の人数を増やして警戒を強めておく。補給の方は出来るだけ急がせるが、避難民の受け入れもあるので暫くかかるだろうな。
それまでコロニー内は自由に行動しても構わない。・・・それと、アムロ。何人か連れて、アークエンジェルと共に地球へ降りてくれないか?」
「!? いいんですか? そんな事をすればここの守りが・・・」
ブライトの頼みにマリューだけでなく、フラガ達も驚いた。
「大丈夫だ。どの道、バニング大尉達のMSは大規模な修理が必要みたいだからな・・・大尉達はここに残ってもらう」
ブライトが言うように、バニング達の機体は修理にかなりの時間を要すると整備班が判断していた。
整備班が全員でやればそうは時間が掛からないのだが、バニング達の機体は一部のロンド・ベルの整備班しか扱わせてくれないからだ。
「了解した、じゃあ・・・カミーユ、フォウ、ファ、甲児、ブリット、エクセレン少尉、アストナージを連れていく・・・構わないか?」
アムロが聞き返すと、ブライトは頷き了承する。
「では、ラミアス大尉、アムロ達を預けます。補給が終わるまで身体を休めておいた方がいいでしょう」
「はっ! では失礼します!!」
ブライトに敬礼を返し、マリュー達が司令官室を後にする。
「・・・ブライト・・・俺たちを地球に下ろす本当の理由は何だ?」
マリュー達が退出すると、アムロはブライトに尋ねる。
「やはり、気付いたか・・・お前とカミーユに軍の本部を見てきてもらいたい」
「アラスカをか? しかし、なんで俺とカミーユなんだ?」
ブライトの頼みを不思議そうに聞き返す。
「今の連邦は、ティターンズと同じ状況に近いような気がしてならないんだ。お前とカミーユなら、見てなにか感じるんじゃないかと思ってな」
「ブライトもそう思うか・・・」
ブライトが自分と同じ事を感じていた事にアムロは危機感を覚えた。
それは自分が考えていた最悪の事態が現実味を帯びてきたからだ。
「出来れば、ジュドーも向かわせたいんだが、今あいつはリィナやプル、プルツー達とアクシズに居るからな・・・」
復興作業が一段落した時、ハマーンがリィナにアクシズの競争率の高い学校への転入を持ちかけて来た。
リィナはパルマー戦役時、アクシズにいる間ミネバと一緒に生活をしていた時があった。
その時にハマーンはリィナの学力の高さに目をつけ、中途半端な所で勉強するよりは、という厚意によるものだった。
誰もがジュドーは容認しないだろうと思っていたが、あっさりと首を縦に振った。
「大丈夫だよ、ハマーンは人質みたいなセコイ事はしないよ。それに邪悪なものは感じなかったし、念のためにオレもついていくんだからさ」
「それなら、アタシも行くー!」
「私も・・・」
ジュドーが言うとプル、プルツーが続きZZガンダム、キュベレイMKーU2機を持ってアクシズへと向かってしまった。
事態の本人であるリィナも、
「ハマーンさんは人質なんて事はしない人です。アクシズで、少しですけど一緒にいてそういう人だって知りましたから」
ジュドーと似たような事を言い、一緒にアクシズの学校へと転入した。
「子供達にはこういう事はさせたくはないな。じゃあ、俺はカミーユ達に知らせてくるよ」
アムロはブライトにそう返すと、部屋から出て行った。
「厄介な所に逃げ込まれたな・・・まさか、ロンド・ベルの本拠地とはな」
「こっちの戦力はMSが3機のみ・・・正面からぶつかるのは阿呆のやる事だな」
イザークの言葉にディアッカがからかう様に言うと、ゼルマンが咳払いをして二人を黙らせる。
ロンデニオンの索敵範囲外に停泊しているガモフのブリッジでは、ゼルマン艦長、イザーク等がブリーフィングの真っ最中だった。
ディアッカはいつもの斜に構えた様子だったが、ニコルは真剣に戦略パネル上のロンデニオンを見つめており、
イザークはパネルを見ずに、腕を組んで考え始めた。
「ロンド・ベル隊は名実共に地球圏最強の部隊だ。現在の戦力で下手に攻撃をすれば先の戦闘の二の舞になるな」
「どうするの。あの戦艦だけ出てくるのを待つ?」
ゼルマンの言葉を聞きながら、くすくす笑うディアッカを、苛立ったイザークが睨みつけた。
「ふざけてる場合かディアッカ。あの戦艦のみが出てきても、スーパーロボットもついて来てる可能性が高いんだ。
最悪、あのアムロ・レイも配属されているかもしれないんだぞ」
そう言われると、ディアッカは黙り込んだ。
この戦力でマジンガーZを相手しながら、アムロの操るガンダムや、他の部隊でなら、連邦だろうとザフトであろうとエースをはれるパイロットが
操縦するMSに狙われる事は遠慮したい。
「・・・ブリッツの機能を使えば、港内で破壊する事も可能ですが」
今まで黙っていたニコルが口を開き、意見を言うが、
「ミラージュコロイドか? 確かにセンサーや人間の目は騙せるが・・・」
「アムロ・レイ達、ニュータイプの勘まで騙せるか・・・だな」
イザークとディアッカの言葉を聞いて黙り込み振り出しに戻る。
「―――この戦力では手の出しようがない・・・第3勢力か『あちら』の無人兵器か、アルテミス攻略隊が来るのを待って乱戦を仕掛けるしかないな」
「しかし、それは何時来るんですか!? 戦線に戻られたクルーゼ隊長に、何も出来ませんでしたと報告をしたくはありません!
それこそいい恥さらしだ!!」
ゼルマンの作戦決定に近い発言に、イザークは異を唱える。
その時、レーダーが敵影を掴み警報がなり響いた。
「!? 識別不明の戦艦らしきものがロンデニオンに向かっています!!」
レーダー士が報告を挙げてくる。
「こちらに気付いてはいないな? 映像を正面にだせるか?」
ゼルマンが指示を出すと正面にノイズ混じりの最大望遠の映像が出される。
「ミノフスキー粒子の影響で、こちらに気付いてはいないようですが、これ以上の画像の拡大は無理です」
「ふむ・・・見た感じ地球圏のものではないな・・・パルマーでもないな・・・という事は第3の勢力のものか・・・」
少し考えを廻らせるとゼルマンは頷き、
「奴等が第3勢力の可能性が高い。奴等がロンデニオンに攻撃を仕掛けたら、タイミングを見てこちらも攻撃を開始する! 総員戦闘配置に着け!」
「なあキラ、MSを見に行かないか?」
トールは部屋で本を読んでいるキラに声をかけた。
「ここにはガンダムタイプのMSがたくさんあるんだろ? こんな機会でもなけりゃ生で見れないぜ?」
「でも、勝手に艦から出ていいのかな・・・?」
トールにキラは不安そうに問い掛けるが、
「だいじょーぶだって、あのアムロ・レイが許可したんだぞ? それに運がよかったらアムロ・レイに会えるかも知れなし・・なっ?」
軽く答えるのを聞き、キラは頷き一緒に行く事にした。
「よーし決定! ミリィとサイはどうする?」
「・・・まっ、暇だし・・・いいわよ」
「オレも構わないが・・・フレイ、格納庫に行かなくていいのか? ここで降りれなくなるぞ?」
サイが一緒にいるフレイに問い掛ける。
退艦希望の避難民は、全員格納庫で手続きをするために集まるように放送を流したにも関わらず、フレイはサイ達の傍を離れようとはしなかった。
「いやよ。私、降りない」
「!? ちょ、フレイ!?」
「フレイ!? なにを!?」
フレイの言葉にキラとサイが驚き声を上げる。
「貴方達以外に知り合いなんていないんだもの・・・また心細い想いをするのはいやよ」
サイがため息をついて、どう説得するか考えた。
いつもフレイは誰かと一緒か、自分が中心で誰かと行動を共にしており、他人に依存する傾向がある事をサイは解っていた。
そして、一度言い出したら聞かない頑固ともいえる性格である事も。
「はぁ・・・わかったよ。言い出したら聞かないもんな・・・」
「えっ!? サイ、いいのか!?」
サイの諦めの言葉にキラが驚く。
自分が言っても意味がない事をキラは知っていたので、サイに望みを託していたのだが、そのサイがあっさりと折れてしまった。
「フレイが言い出したら聞かないからな・・・それに、もしかしたら俺達、此処で降りれるかもしれないし・・・その時フレイも一緒に降りればいいしな」
フレイの婚約者であるサイが言うんだ、自分が口を出してもしょうがないとキラは思いながら渋々と頷いた。
「じゃあ、フレイも一緒に行くんだな? よし、行こうぜ」
トールが言いながら部屋を飛び出すと、ちょうど部屋の前を通りかかっていた甲児にぶつかった。
「うわ!? すいません」
「おっと!? 気を付けな・・・って、キラ達か」
甲児は部屋から出てきたキラ達を確認すると、
「急いでどこいくんだ?」
「ロンド・ベル隊のMSを見に行くんですけど・・・」
「そうか、でも中は結構広いからな・・・俺が案内をしてやろうか?」
キラから行き先を聞いて、甲児は快く案内役を申し出てくれた。
「いいんですか?」
「構わねぇって、どこを見に行きたいんだ?」
ミリアリアの質問に甲児は笑って答えながら、行き先を聞いてきた。
「オレ、アムロさんのガンダムを見たい!!」
「コラッ! 調子に乗らないの」
ミリアリアがトールを軽く叩いてたしなめる。
「ははっ! OK、ただアムロのガンダムは今、月にあるんだ。 ここにあるガンダムはカミーユのZとガンダムMK-Uだけになっちまうが」
甲児は笑いながら、トール達を連れ格納庫へと向かっていく。
「あの・・・甲児さん、キョウスケさん達は・・・?」
機体のロック作業以降、キョウスケとエクセレンの姿を見ていない事に気付いたキラは甲児に問いかけた。
「ああ、二人とも調べたい事があるからってロンデニオンの資料室にいったぞ」
資料室でキョウスケは、開戦してからの記録を一つ一つ確認していった。
「キョウスケ、コーヒー、ブラックでいいわね?」
「ああ」
キョウスケの脇にコーヒーを置き、そのままエクセレンは机の上に腰掛けた。
「こんな広い部屋で二人きりなんだから、少しは甘い事をする気はない?」
「思っていたよりも、記録が多いな・・・エクセレン、5ヶ月前から3ヶ月前の方を調べてくれ」
エクセレンの言葉を受け流し、キョウスケはまだ手をつけてないデータの確認を頼む。
「もぉ〜聞きなさいよ〜」
頬を膨らませ文句を言いながらも、頼まれたデータに目を通していく。
その時、入り口のドアが開きナタルが入ってきた。
「ナンブ少尉、ブロウニング少尉も調べ物ですか?」
「も・・・と言うと、バジルール少尉もか・・・この戦争についてか・・・?」
「!?」
キョウスケの発言に、ナタルは驚いた。
「図星か・・・どの辺りで不審に思った?」
黙っていようかとも思ったが、調べる事は同じなので話すことにした。
「・・・先程の戦闘です。最初の遭遇戦は、我々を足止めするかのようなタイミングで仕掛けられてきましたから・・・ナンブ少尉は?」
「もう少し以前からだが、決定打になったのはやはり先の戦闘だ・・・蜥蜴もザフトも互いに攻撃を仕掛けていなかったからな・・・」
キョウスケの言葉に頷きながらも、ナタルは一つ疑問に思い聞いた。
「以前からとは・・・? なにか他にも不審に思った事があったのですか?」
「ええ、かなりね。今までのコロニーの被害を確認すればよくわかる事なんだけど、蜥蜴に攻撃されたコロニーはサツキミドリみたいな
連邦側に属するコロニーばかりで、ザフトに味方するようなコロニーは攻撃された事がないの。
ここも被害が無いように見えるけど、何回か攻撃を仕掛けられてるしね」
エクセレンは質問に答えながら、そのデータをプリントアウトしナタルに手渡した。
渡されたデータを見ながらナタルは考え込み、一つの答えが浮かんできた。
「・・・やはり、ザフトと蜥蜴は同盟を結んでいるのでしょうか?」
「そう考えるのが自然だろうな・・・サイド3一丸で挑んできたジオン公国ですら1年しか持たなかった。
サイド5の広い範囲とはいえ、一部でしかないプラントが11ヶ月も戦線を維持してるのはどう考えてもおかしい。
それに、過去の大戦でも異星人と手を組んだ組織はあったからな・・・」
ナタルの考えにキョウスケも賛同するが、その表情は晴れなかった。
「他にも引っ掛かる事があるんでしょ? いつものムッツリ顔が3割増しになってるわよ?」
キョウスケの表情に気付いたエクセレンが、微笑みながら聞いてきた。
(・・・いつもとあまり変わらない様に見えるが・・・?)
エクセレンの言葉にナタルは首を捻るが、それに気付かずキョウスケが語りだした。
「ああ、俺が引っ掛かっているのはこの戦争そのものだ」
「・・・どういう意味です?」
「もう少し解りやすく・・・」
キョウスケの言葉にナタルとエクセレンが解らないという表情で聞き返してくる。
「今回の開戦のきっかけになったのは、ユニウス・セブンへの核攻撃だが・・・この時点で二つ引っ掛かる事がある。
一つは誰が核を発射したか・・・だ」
「軍からの発表を聞いてなかったのですか? あれは上層部が決定して・・・」
ナタルが当時、アラスカで聞いた発表の事を思い出しながら答えるがキョウスケは首を振り、
「シャア・アズナブルとの戦い以来、核の存在にはロンド・ベルが厳重に警戒していたはずだ。だが、アムロ少佐達の話では
ロンド・ベル、極東方面軍やその協力関係の組織は、ユニウス・セブンが攻撃されるまでその事に気付けなかった・・・
ロンド・ベルにも上層部に上官がいるが、その人にも知らされてなかったらしい・・・その発表はサマである事は間違いない」
核の使用には、大多数の上層部の許可がいる事はナタルだけでなく、軍関係者なら知っている事だ。
上層部の人間にはその決議の召集令状が必ず届く仕組みになっており、出席にせよ欠席にせよ核の使用決議の開催を知る事になる。
だが、今回は核の使用はおろか、決議がある事すら岡長官達には知らされてなかったのだ。
「そうなると、あの核攻撃は連邦の決定ではなくて一部・・・しかも・・・信じたくは無いけど、
連邦内部の一組織の独断によるものだと言いたいのね・・・?」
「そんな・・・」
キョウスケの言葉だけで、かなりのショックを受けていたナタルに追い討ちをかけるかの様にエクセレンが自分の考えを言う。
キョウスケはエクセレンの言葉に頷き続けた。
「ああ、しかも上層部にかなりのパイプを持つ組織だろう・・・全ての核の保管場所は一部の上層部しか知らないからな。
ロンド・ベルが知っていたのは、シャアに奪われた北米アリゾナ基地だけだ」
「となると・・・一番クサイのは、やっぱブルーコスモスの連中かしらね? あの宗教、上層部にも流行ってるみたいだし」
「ブロウニング少尉・・・宗教ではないんですが・・・」
なんとかショックから立ち直ったナタルが弱々しくつっこむ。
「恐らくな・・・だが、そうなると二つ目の方と矛盾する事になる」
「わお! まるで謎解きね? 私達は美少女名探偵っていった所かしら?」
「私も入ってるんですか!?」
「茶化すなエクセレン・・・二十歳を超えて少女というのは無理があるぞ。バジルール少尉も釣られないでくれ」
「あら〜手厳しい・・・」
キョウスケにつっこまれ、ナタルは赤面し、エクセレンは肩を落とした。
「・・・話をもどすぞ。二つ目は攻撃目標だ・・・何故、農業コロニーを・・・ユニウス・セブンを狙ったか・・・だ」
「補給を断つ為では? プラントの中ではかなりの規模の農業コロニーでしたし・・・」
キョウスケはナタルの言葉に頷きながら答えた。
「俺もそう思った。だが、同時に引っ掛かりもした。あそこは『かなりの規模』の農業コロニーであり『唯一の』ではない。
現にプラントで食料難に陥ったという話は聞かないしな」
「確かにね。小規模ながらも農業をしているコロニーは結構あるし・・・」
エクセレンが頷きながら答える。
「そして、これが引っ掛かっている最大の理由なんだが・・・ブルーコスモスの思想はなんだ?」
キョウスケに聞かれ、エクセレンが答える。
「赤き正常なる世界のために・・・だっけ?」
「・・・『青き清浄なる世界のために』・・・です。 しかも『清浄』の所が違うように感じましたが?」
「あらら、気にしない気にしない」
ナタルにつっこまれ、笑いながら誤魔化すエクセレン。
「・・・つまり、コーディネーターの全滅が連中の目的のはずだ。もし連中が核を発射した犯人なら、
農業プラントを狙わずに直接プラント本国を狙うはずだ・・・その方が被害者の数が多いからな」
「防衛規模の問題でユニウス・セブンを狙ったのでは? 核は1発しか撃っていませんでしたし・・・」
プラント本国と農業コロニーの防衛隊の規模は、比べるのが馬鹿らしく思えるくらいの開きがある。
当時の本国の防衛規模は、ジンが8小隊に対しユニウス・セブンはジンが3機のみというものだった。
「でも、核が1発だけ保管されているって事はないでしょ? 基地に保管されている核を使用したんなら、かなりの数が揃うはずよ?」
エクセレンの言葉にナタルも気付いたようだ。
一つの基地に保管されている核の量はかなりの数になるはずだ。間違っても1発のみという事は無い。
もし撃ったのが最初に仮定したように、上層部にパイプがあるブルーコスモスの連中だとしたら、大量の核でプラントに攻撃を仕掛けていたはずだ。
「ならば・・・見せしめが目的では・・・?」
少し考えてからナタルは推察するが、
「それはないだろう。当時のプラントの反連邦感情は危険な程高かった事は誰もが知っていた。
あの状況での攻撃は見せしめではなく、相手の敵意を煽るだけな事くらいはバカでもない限りは想像がつくだろう」
キョウスケはコーヒーに口をつけながら否定する。
「確かに・・・一つ目の仮定とは矛盾しますね」
「う〜ん・・・迷宮入りかしらね〜」
ナタルとエクセレンが頭を悩ませ考え込む。
「・・・どの道、ここで調べられる事には限界がある・・・蜥蜴とザフトが手を組んでいるという可能性が高い事がわかっただけでも良しとしよう」
キョウスケがそう言った時、ドアが開きアムロが入ってきた。
「3人ともここにいたのか。エクセレン少尉、俺達はアークエンジェルと地球に降りる事になった。
必要な荷物をアークエンジェルに運び込んでおくんだ」
「わお! これからは一緒に行動できるのねダーリン」
「・・・抱きつくな。それと、その呼び方はやめろ。・・・アムロ少佐」
アムロの報告を受けて抱きつくエクセレンをいなしつつ、キョウスケは今3人で調べた事を報告する。
「・・・そうか、キョウスケ達もそう考えたか・・・」
「!? 少佐もですか!?」
アムロの言葉にキョウスケは驚き、声を上げる。
「ああ、ブライトとも話し合ったんだが、プラント側に蜥蜴による被害が出てない事に気付いてね・・・
今、ちょっとした知り合いに調査を頼んでいるんだ」
「・・・余計な意見でしたか・・・失礼しました」
キョウスケが謝るとアムロは首を振り、
「いや、おかげでこの事が現実味を帯びてきた。礼を言いたい位だよ」
「さてと・・・キョウスケ、荷造り手伝ってよね? 私の荷物は多いんだから」
エクセレンがキョウスケの腕を掴み、引っ張っていく。
「・・・多いのは余計な物があるからだ。これを機会に少し整理しろ」
「余計な物なんてないわよ。女性の旅行は荷物が多いのよ」
「・・・これは旅行ではないんだが・・・アムロ少佐、失礼します」
キョウスケは引っ張られながらもアムロに敬礼し、先程エクセレン達に言えなかった事を内心で呟いた。
(あの核攻撃はまるで開戦をさせるためのカードに思える・・・やはり今回の戦争は起こるべくしてではなく、何者かが狙って起こした戦争か・・・)
「くそっ! あの青二才め!!」
ガルシアは通路の壁を殴りつけた。
(今だ核融合炉で動いている、ロンド・ベルのMSのデータを得る為に、無断でここに来たというのに何もつかめず、
しかも留守中にアルテミスが落ちたとあっては処分は免れん・・・!)
そう、ガルシアは核の情報を得る為に防衛責任のあったアルテミスを無断で離れたのだ。
ガルシアとしては、核の情報を上層部に売り、その見返りに出世をしようと思っていたのだが、
アルテミスの陥落の所為でその予定が大きく狂い出していた。
このままでは出世どころか、軍法会議にかけられ処分される事になるだろう。
(なんとかせねば・・・核の情報ほどでなくてもいい。上層部が飛びつきそうなものを手に入れなければ・・・どんな手を使ってもな・・・)
甲児達が格納庫に着くと、避難民の退艦手続きは終わっており、整備班達が慌しく補給作業を行っていた。
次々とトレーラーが入ってきて、リ・ガズィ、Ζガンダム、メタス、ガンダムMK-Uを運び込んでくる。
「あれ? もう終わったのか?」
甲児が目の前を通ったタスクを捕まえ聞く。
「ああ。避難民の4割しか降りなかったからな。なんか、残った人たちは地球に降りる事を希望してるみたいだけど」
「4割!? それしか降りなかったのか!? それに、なんで地球に!?」
タスクの言葉にキラが驚き声を上げる。
「例の刈取り事件の影響だろうな。武装のないシャトルで他のコロニーに移住するより、戦艦で地球に降りた方が安全だと思ったんだろう」
キラの声を聞いたのか、離れた所で整備班と話していたカミーユが歩み寄ってきた。
「カミーユ!? なんでアークエンジェルに?」
甲児の言葉にカミーユは不思議そうな顔をする。
「甲児・・・聞いてないのか? 俺達、アムロ少佐と地球に降りる事になったんだぞ?」
「え・・・?」
カミーユの言葉を聞いて甲児は驚き、その様子を見てため息をつく。
「・・・聞いてなかったんだな」
「ああ・・・コロニーに着いてから、ずっとアークエンジェルの中を見学してたから・・・」
「道理で姿が見えないと思ったら・・・君達は?」
キラ達にカミーユが話しかけてきた。
「僕はキラ、キラ・ヤマトです。僕もみんなもヘリオポリスからの避難民なんです」
「なぁ、カミーユ。キラもニュータイプなのか? 民間人なのにガンダムを操縦していたけど・・・」
事情を何も知らない甲児がカミーユに問いかけると、キラ達は俯き、カミーユは驚愕の表情でキラとストライクを見た。
「君が、あの機体を動かしていたのか!?」
「・・・はい、友達を守るために・・・」
カミーユの問いかけに、キラは俯きながら答える。
(自分からではなく、友人を守る為にやむなく・・・か。アムロ少佐の時と状況が似ているな・・・でも、彼はニュータイプではないみたいだ・・・
なら、なんで民間人がいきなりMSを動かせたんだ・・・?)
「全員、その場から動かないで貰おうか・・・」
カミーユ考えていると、格納庫の入り口からガルシアが銃を構えた何人かの兵士と共に入って来た。
兵士達の前に進み出たガルシアは、横柄な口調で尋ねる。
「この艦に積んである、最新MSのパイロットとロンド・ベルの技術者は誰だ? 」
「あ・・・」
正直に答えようとしたキラの前に、カミーユが手を出し押しとどめる。
「なんのつもりですか・・・! ガルシア大佐・・・!?」
カミーユがガルシアに問いたてるが、
「キミ達に質問する権限はない。私の質問に答えた方が身の為だぞ? いくらニュータイプでもMSに乗らなければ、そう怖いものではないからな」
ガルシアはにやにや笑いながら銃を突きつける。
すると、コウがムッツリとしながら質問する。
「なんで、こんな形でしかも我々に聞くんです? ブライト大佐やラミアス艦長の許可がないからですか?」
キラは、はっとし入港時にアムロがMSのコックピット、動力炉をロックしておけと命じた理由が解った。
「ぐっ・・・」
図星を指されガルシアは小さく呻いた。
ガルシアの狙いは当初の目的の核、そして舞い込んできた新型MSの情報を手に入れ、それを反ハルバートン派に売り渡し、
自分の失点を回復させる事にあった。
あの、ブライト・ノアに言った所で許可が下りるはずが無いと確信し、強硬手段に出たのだ。
「ストライクを、ロンド・ベルのMSをどうするつもりですか・・・?」
ガルシアは、ふっと笑うと、
「別にどうもしないさ。公式発表よりも先に見せていただく機会に恵まれたんだ。いろいろ聞きたいしな。
ロンド・ベルのMSは、珍しいのが多いからな。技術者の感想みたいなものを聞きたくてね・・・パイロットと整備班の班長は?」
マードックとタスク答える。
「パイロットはフラガ大尉ですよ。お聞きになりたいのでしたら大尉にどうぞ」
「整備班は、まだこっちに来てないっすよ。ラー・カイラムの格納庫を見てきたらどうっすか?」
「なら、そこにあるメビウス・ゼロは誰が扱っていたのかね? その機体を扱えるのはエンデミュオンの鷹くらいだろ?」
あたりを見渡し、誰も答える者がいないと見ると、ガルシアはキラ達に目をつけ近づくと、ミリアリアの腕を掴んだ。
「きゃ・・・」
嫌な笑みを浮かべながら、ミリアリアの腕を後ろに捻り上げる。
「まさか女性がパイロットとは思いたくはないのだが、ロンド・ベルには女性パイロットが多いしな・・・」
ガルシアのあまりの行為に、キラは激昂して叫ぶ。
「やめてください! あれに乗っているのは僕ですよ!!」
「坊主、彼女を助けたいという心意気は買うがね。あれはキミの様なひよっこが扱えるものではないだろう・・・ふざけた事をするな!!」
ガルシアは突然殴りかかって来たが、キラは拳をあっさりかわすと逆に腕を掴んでねじり上げた。
その流れるようなスピードに兵士達が目を丸くして見る。
「僕はあなたに殴られる筋合いは無いですよ!」
「貴様・・・! なにをしている!? とりおさえんかっ!!」
命令されると、兵士達が慌ててガルシアに駆け寄ろうと銃を下ろす。
その隙を見て、カミーユ、甲児、コウが兵士達に殴りかかった。
兵士達が慌てて銃を構えるが、引き金を引くのよりも早くカミーユ達に叩きのめされる。
「ロープ持って来い!!」
すかさず、マードックが整備班にロープを持って来させ、兵士達を拘束した。
「形勢逆転ですね・・・ガルシア大佐!!」
「くっ・・・」
カミーユに睨まれ、ガルシアは呻き声をだす。
「しかし、カミーユは空手をやっていたから強いのは知っていたけど、キラも結構強いみたいだな? なにか武術をやっていたのか?」
「え・・・そういう訳じゃ・・・」
甲児の質問をどう誤魔化そうとキラが考えていると、
「あら、強いのは当たり前よ? だってその子、コーディネーターだもの」
さらりと発したフレイの言葉に、マードック達は沈痛な表情になり、ガルシアや兵士達は唖然とする中、
カミーユ達は少し驚いた表情をするだけだった。
(やっぱ、驚かないんだ・・・)
カミーユ達の表情を見て、タスクが胸中で呟く。
「お前なぁ、なんでそんな事を言うんだよ!?」
「だって、本当の事じゃない」
怒鳴るトールにフレイはけろっとした顔で答える。
「キラがどうなるかとか考えてなかった訳!? お前って!」
「お前、お前ってなによ! だってここ味方のコロニーなんでしょ? それに甲児さんとかって、ロンド・ベルの人なんでしょ?
ウラキさん達はキラに普通に接してくれてたから、この人達なら知っていても大丈夫でしょ!?」
「連邦が何と戦っていると思ってんだよ! それにロンド・ベルでもない奴が目の前にいるだろう!!」
トールが、今だキラに抑えられているガルシアを指差すと、フレイは『あっ』という声を漏らす。
「その・・・キラ、ごめんなさい・・・」
「いや、気にしないで、ねっ? フレイ」
キラが慌てて首を振り、フレイに言う。
「ふん、なるほどな・・・貴様は裏切り者のコーディネーターか」
抑えられているガルシアが口元を歪ませながら吐き捨てる。
その言葉にキラは衝撃を受けた。
「裏切り者・・・!?」
「そうだ! ここにいる連中はともかく、他の大多数の人間は言うだろう!
『どんな理由かは知らないが、同胞を裏切った事に変わりは・・・』ムグゥ!!」
「黙っていろ!! オイ、こいつ等をブライト大佐達に引き渡して来い!!」
マードックがオイルが付着したタオルで猿ぐつわをさせ、他の兵士同様にロープで拘束する。
ちょうど、その時アムロがキョウスケ達と共に格納庫内に入って来た。
「なんの騒ぎだ、これは・・・? ガルシア大佐!? まさか!?」
周りを見てアムロは状況を飲み込むと、カミーユに事の経緯を聞いた。
「―――という事なんです」
「そうか、けが人はいないんだな?」
「ええ、MSにも近づけてませんし・・・ただ、キラが・・・」
カミーユがキラの方に視線を向け、アムロもそちらに目を向ける。
「彼がそうなのか・・・?」
「アムロ少佐、彼の事は・・・?」
「ああ、ラミアス艦長から聞いている」
アムロはそう言うと、キラへ歩み寄った。
「裏切り者・・・違う、僕は・・・!!」
これまでの人生でキラはコーディネーターである事をハッキリと自覚した事はなかった。
初めて出来たナチュラルの友達であるサイ達に、自分の正体を明かした時も彼等は驚いてはいたが、すぐに笑って、
「そんなの関係ないだろう?」
「そうそう、お前がコーディネーターなだけで俺達の友達である事には変わらないんだからな」
「あでも、そんならオレのレポートを手伝ってくれないか?」
「調子に乗らないの! キラ、手伝わなくていいからね」
サイ、タスク、トール、ミリアリアは自分に対して普通に接してくれた。
だが、そう接してくれるのはごく一部の人間達である事を、ガルシアの言葉で否応無しに悟らされてしまった。
(僕は・・・ここに、こちらに居てはいけない人間なのか・・・?)
そう思い、アスランの言葉が思い出される。
『同じコーディネーターのお前が、なんでぼく達と戦わなくちゃならないんだ!?』
このままこちらに居れば、自分の仲間であるコーディネーターと戦い続けなければいけなくなる。
自分は友達を守るためにやむなく戦ってはいるが、事情を知らない心無い人達はガルシアと同じ事を言うだろう。
同胞を裏切り、殺し続けた卑怯者・・・と。
「キラ・ヤマト君、少しいいか?」
「えっ・・・?」
思考が暗く沈んでいる時、アムロに呼ばれキラは顔を上げた。
「アムロ・・・レイ・・・?」
アムロの顔を見て、キラは驚き目を見開いた。
「流石に、俺の顔を知っているか」
「ええ、雑誌で見た事がありますから・・・」
月に居た時に、アスランと一緒に読んだ雑誌が一年戦争の特集で、アムロの写真が掲載されていたのをキラは覚えていた。
「そうか、キラ。奴に何を言われたかはある程度察しが着く」
アムロがマードック達に連行されていくガルシアを指差し言う。
「ニュータイプだからですか・・・?」
「いや・・・奴の様な連中は連邦に数多く居るからね。軍の中にいれば、誰だって嫌でも解ってしまうものさ。
それで、これは俺からのアドバイスだが・・・」
アムロはそう前置きして語り始める。
「他の人間がどう言おうと、君を1人の人間として、友人として接してくれている者が居る事を忘れるな。
自分が信じた人を、自分を信じてくれた人の事を信じるんだ。
・・・少なくとも、訳ありでロンド・ベル来た人間はそうだ」
アムロの言葉が聞こえていたのか、カミーユとフォウが目を合わせる。
その時、戦艦ドック内に警報が鳴り響いた。
『コロニー外に敵母艦発見! 総員第一戦闘配備!』
それを聞き、カミーユが手近なインターフォンで管制室に通信を繋ぐ。
「敵母艦!? 所属は何処だ!? ザフトか?・・・ベガ星宇宙軍!? アムロ少佐!!」
カミーユに呼びかけられると、アムロは一つ頷き全員に指示を出す。
「パイロットは自分の機体に搭乗しておけ! ラミアス艦長達が戻り、艦を出港させ次第出るぞ! 整備班、補給物資の運びいれを急げ!」
指示を出され、全員が慌しく動き出す。
その時、エレカが猛スピードで格納庫内に入って来た。
「すみません! 遅くなりました!!」
「ブリッジ担当は急いで上に上がれ!」
「すぐに出るぞ! 準備はいいか!!」
マリュー、ナタル、フラガがエレカから飛び降り、持ち場へと着く。
アムロは格納庫内を見渡し、ブリットの機体が無い事に気付き、
「ブリット、君の機体はまだ輸送機の中みたいだ。急いで取りに行くんだ」
「わかりました! エレカ借ります!!」
ブリットは、今マリュー達が乗ってきたエレカに飛び乗ると、自分が昨日乗ってきた輸送機があるドックへと走らせる。
そして、キラは・・・
(アムロさんの言うとおり、自分が信じた人を、自分を信じてくれた人を信じたいけど・・・)
「キラ、大丈夫か? 無理なら、医務室に・・・」
立ち止まっていたキラに、キョウスケが声をかける。
「大丈夫です・・・出れます」
そう言い、キラはストライクへと走る。
しかし、その心中は大丈夫とは言えないほど重く沈んでいた。
(今は、その内の1人が・・・アスランが敵になっているんだ・・・)
第七話に続く
あとがき
え〜と、最初に謝っときます。ゴメンなさい。
SEEDの詳しい年表を持っている方が何人いるかわかりませんが、ユニウス・セブンへの核攻撃の部分を公式のとはかなり違っています。
持ってなくて知らない人は、公式のとは違う事だけは覚えておいてください・・・この設定を信じてると馬鹿にされますよー。
そしてジュドー達の事ですが、出来ればアムロ達と行動をさせたかったのですが諸般の理由により、無理矢理アクシズに行って貰いました。
ジュドー以外のシャングリラチルドレンはロンデニオンに居ますが・・・
別に、ただでさえ影の薄いキラがさらに目立たなくなるからではありませんよ?(爆)
管理人の感想
コワレ1号さんからの投稿です。
う〜ん、無理にキラを目立たせる必要は無いかもしれませんねぇ・・・
元々、主体性はないし他人の意見に常に左右される男ですから(苦笑)
せっかくスパロボシリーズの主人公達を活き活きと書かれているんですから、無理に活躍をさせようとすると物語が破綻しかねませんよ?
・・・そういえば、ナデシコは何時出るんでしょうね?(苦笑)