第十話 変わり始める世界




ナデシコがチューリップから出現する8ヶ月前、火星・・・

「ルリちゃん、火星上空に第二陣の反応はある?」

「・・・反応、ありません」

ルリの言葉を聞いて、プロスペクターが首を傾げる。

「おかしいですな〜、先程の防衛艦隊の数は多かったですが、火星に残存している敵戦力があれだけとは・・・」

「どこかに潜んでいるというのか・・・?」

ゴートの言葉にルリが首を振り、

「それはありません。火星表面から、ミノフスキー粒子、ジャマー、Nジャマー等の妨害粒子は感知されていません」

「う〜ん・・・ここで悩んでても仕方がありません。フィールドを最大にして火星に下りましょう!」

艦長であるユリカが少し悩んでから決断を下す。

「しかし艦長、敵艦が感知されないだけで、例えば・・・地中に潜っている可能性も否定できないぞ?」

「・・・ゲッターロボ?」

ゴートの慎重論にミナトが呆れたように呟く。

ユリカはそれも考えの内に入っていたのか、冷静に答える。

「確かにそうです。出来れば何機かが先行して調査してくればいいんですが、それは無理なんです。
現在、ナデシコにある機動兵器はどれも大気圏突入能力を持っていません。シャトルなら突入できますが、もし敵が潜んでいたら
非武装のシャトルではひとたまりもありません。それに、本当に第二陣がいないんなら今がチャンスなんです。
ここで悩んでいて、敵に集結されたら厄介です。と、言う事で、ミナトさん降下をお願いします」

「了〜解」

ミナトがナデシコを火星に降下させる。

「あっ、それと、艦内の重力制御をお願いね。ルリちゃん」

思い出した様に、ユリカがルリに指示を出す。

「了解です」

ルリは重力操作をしながら胸中で呟く。

(・・・今回は忘れてませんでしたね・・・)




「火星に下りたのか・・・? だが、重力制御がされている・・・?」

格納庫にいるアキトは体に重力を感じながら、誰にも聞かれない様にして呟く。

(こっちのユリカは、少しはしっかりしてるという事か・・・?)

そう思いながらも、地球を出てからのユリカの行動を思い出し頭を振って否定する。

(ゴメン、ユリカ・・・大して変わらないや・・・

「・・・ユウ、微調整くらいは俺達がやるから・・・」

ふと、ウリバタケの声が聞こえ、そちらに目を向ける。

「すまない、前にいた部隊からのクセでな。自分の機体の整備や調整は自分でしないと落ち着かないんだ」

ヒュッケバインMK-Uのコックピットから、パイロットのユウキ・ジェグナンが答える。

「しかし、お前地球からずっと掛かりきりじゃないか? 換装した動力炉との同調は終わってるんだ後の細かい所はこっちが・・・」

ウリバタケの言葉を遮るようにユウキがコックピットから出てくる。

「いや、今終わった。整備班が動力炉の方をやってくれたおかげで、思ってたよりも早く済んだ」

ユウキの言葉を聞いて、ウリバタケが半ば感心した様にため息をつく。

「はぁ〜。お前が所属していた部隊ってのは凄い所だな・・・操作系の方を1人で仕上げちまうなんてな」

「そこの整備を仕切ってた人に、整備のコツを教えてもらったからな」

軽く笑いながらウリバタケに返すと、アキトに気付き声をかけた。

「アキト、帰艦の報告に行かないのか?」

「あ、ああ。ガイ達を待っているんだ」

「待たせたな! アキト!!」

ちょうどその時、ガイがリョーコ達と共に近づいてきた。

「悪いな、この馬鹿が整備班に怒られてて遅くなっちまった」

「まあ〜、怒るのも無理ないよね〜。ヤマダ君、乱戦中にポーズをとってそこを集中攻撃されたんだから・・・」

「ダイコウジ・ガイだっ!!」

「馬鹿=ガイ・・・馬鹿王・・・ガイ王・・・英語にすると、今回は出ない、ガイキ・・・」

「あ〜、イズミ・・・そのネタは止めた方がいいよ・・・怒る人はホントに怒るし・・・」

「何言ってんだ? ヒカル・・・?」

不思議そうな顔をして、リョーコはヒカルに聞き返すが『なんでもな〜い』と答えるだけだった。

リョーコはふと、ヒュッケバインMK-Uの方を見てユウキに問いかける。

「ヒュッケバインMK-U、ようやく使えるのか?」

「ああ。面倒をかけた」

「確か、熱核融合炉からプラズマ融合路に代えたから不具合が出たんだっけ?」

ヒカルの問いかけに頷き、

「そうだ。本当はマオ社の方でテストをしてから来るはずだったんだが、ザフトの月侵攻が迫っている理由でテスト無しで搬送されたからな・・・
リン社長の不安が的中した形になってしまったな・・・」

ザフトの月侵攻が近いと判断した連邦政府は、マオ社に動力の換装が終わったPTを全て地球に運ぶように命令したのだ。

当初マオ社社長のリン・マオは、動力炉の換装によって発生するOS等の問題で起動しないかもしれない、という理由により拒否をしていた。

しかし、連邦が多々の圧力をかけて来たので、不安を残しながらも最後は首を縦に振ったのだった。

「俺としてはMK-Uも良いが、グルンガスト弐式を搬送して欲しかったな。超闘士グルンガストの後継機だしな!!」

ガイが目を輝かせながら言うが、ユウキは一つ苦笑いをして、

「悪いな、オレは弐式よりもMK-Uの方が使い慣れているんだ」

「使い慣れているって・・・お前、以前も乗った事があるのかよ?」

「まあな。どうしたんだ、アキト?」

リョーコが問いかけてくるが、ユウキは詳しく語ろうとはせずに、難しい顔をしていたアキトに話しかけ話題を逸らす。

「いや・・・なんでもない。じゃ、ブリッジに行こうか」

アキトは首を振ってから、格納庫の出入り口へと向かう。

(やっぱり、グルンガストやヒュッケバインなんて機体には心当たりが無いな・・・平行世界とはいえ、ここまで違うと・・・)




アキト達がブリッジに入ると、ユリカとゴート、プロスペクターとフクベ提督が行き先の選考をしていた。

ユリカがアキトに近づけない内にと、ルリがアキトに近寄っていく。

幸いそれに最初に気付いたのはミナトで、メグミに気付かれない様に視線を遮る位置で話しかけた。

(ありがとございます。ミナトさん・・・)

胸中で礼を言いながら、ルリは外に目を向けているアキトに話しかける。

「・・・なにを、見ているんですか? アキトさん」

「・・・いや、俺の故郷の火星と違って赤いな・・・と思ってね」

振り返らずに、優しい口調で返事をするアキト。

「ここが俺達の過去とは違う、平行世界だとは頭では判っているんだけど・・・見慣れた場所が違う風景だったり、聞いた事も無い
機体の話、エースパイロット、戦争、事件を聞いたりすると、まだ戸惑うんだ。それに・・・」

アキトはどこか悲しげな表情になり、

「久しぶり―――火星の後継者との戦いの前に訪れたきり―――の故郷だけど、ここは似ているだけで俺の故郷ではないんだよね・・・
聞けば火星に入居し始めたのは、前の戦争が終わってかららしいし、この俺にとっても、『こっちの世界』の俺にとってもここは―――」

故郷じゃないとアキトが続けようとすると、

「アキトさん、それは違いますよ。確かに私達の世界とは違って、アキトさんとユリカさんが一緒に遊んだのは地球ですが、
お2人はちゃんと火星にいた時期がありましたし、アキトさんの戸籍等を調べたんですが、この世界でもアキトさんは
木星の攻撃を受けるまでは火星に居たみたいです」

ルリの言葉に驚き振り返る。

「どういう事だい?」

「最初からお話しますね。こちらの世界に来てからの最初の相違点は覚えていますね?」

「ああ。こっちの俺はサイゾウさんからの推薦という形で、ナデシコにコックとしての乗艦が決まっていたんだ」

ルリの確認に頷きながらアキトはその時の事を思い出す。



入り口にいた軍人に、身分証を見せろといわれたアキトは持っていないと言い、強行突破をしようとしてそのままワザと拘束され
プロスペクターの前に連行された。

そして、その時のプロスの第1声が、

「なにをしているのですか? テンカワさん?」

であり、アキトと軍人は目を丸くした。

「はあ、身分証を提示しないで強行突破しようとしたので拘束したのですが・・・」

軍人が事情を説明すると、プロスは呆れた様にため息をついた。

「あのですね・・・この人はテンカワ・アキトさん。この機動戦艦ナデシコに乗艦が決まっているコックですよ。
テンカワさん、身分証を持っていないという事はあの時、雪谷食堂でお渡したIDを失くされたのですか?
念の為、荷物の方を見てみてください」

プロスに薦められ、一応手荷物のスポーツバックの中を漁るアキト。

(・・・あるはず無いんだけどな・・・)

そう思っていると、手にカードの様な感触が当たりそれを取り出すと、1枚のIDカードだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・あった」

信じられずに呆然と呟くアキト。

「ありましたか。ご自分でお忘れになった様な所を見ると、どこかに置きっぱなしにしてあったのを、サイゾウさんが見つけて
入れておいてくれたんでしょうな」

プロスもそれを確認すると、軍人に『ご苦労様でした』と礼をいい入り口へと帰す。

「さて、ナデシコの中に案内しましょうか。あなたを推薦したサイゾウさんに恥をかかす様なオトボケぶりは今回だけにしてくださいよ?」



「その時の事は私もブリッジで見てましたし、私はアキトさんよりも1週間も早く逆行してましたから、ハーリー君と調べて
ここが私達の過去とは違う世界である事に気付いてました。それでラピスと連絡が取れるようになってからは、私達が知っている人達の
相違点を調べていたんですが、アキトさんとユリカさんは火星生まれで短い間ですがそこで育った事が判ったんです」

「ちょっと待ってくれルリちゃん。火星に入居が始まったのは―――」

慌ててアキトが言うが、ルリは落ち着いた口調で、

「正確に言うと、火星に最初の入居が始まったのは今から20年以上も前の事です。ですが、その後に火星で起こった『メガノイドの反乱』
によって当時の入居者の殆どが殺されるか、メガノイドにされ、難を逃れた極僅かな人達は火星を脱出し地球に戻ったんです」

「その脱出した人の中に俺やユリカも入っていたって事か・・・」

納得がいった様に言うアキトにルリは頷き続ける。

「テンカワさんのご両親は、やはりテロに・・・ネルガルに暗殺されますが場所は火星ではなく、地球でした。
おそらく研究成果を火星から持ち帰って、そのまま研究を続けていたんでしょうね。この時ミスマル提督とユリカさんはジャブローに、
当時の連邦の本部に引っ越してしまったのでこの事件を知らなかったんです。アキトさんはこの事件の後、孤児院に入り
前の戦争が終わると、火星の復興作業の為に1人で火星に向かったんです」

「なるほど・・・それがこっちの世界の俺の半生と言う事か・・・その後は俺達の歴史通りになったんだね?」

「ええ。その後、アキトさんが地球に居たという記録はありませんでしたから・・・」

「そうか・・・」

アキトは短く呟くが、先程まで射していた影が取れた様にルリは感じた。

「は〜い! 皆さん、注目〜!」

ユリカが声を上げ、全員の視線を集める。

「ナデシコの行き先が決定しました。これよりナデシコはオリンポス山に向かいます」

「そこに何があるんですか?」

プロスの話にメグミが質問する。

「そこにはネルガルの研究施設があるのですよ。我が社の研究施設は、一種のシェルターでして・・・」

「そこが1番生存率が高いからな。そこから周り、可能性が高い順に順次回っていく。それで、研究所への突入メンバーだが・・・」

プロス、ゴートが答えメンバーを発表しようとする。

「済みません、俺にエステを貸して貰えますか? 故郷を・・・ユートピア・コロニーを見に行きたいんです」

(この世界のイネスさんがそこに居るとは限らないけど、可能性はあるからな・・・)

メンバー発表を遮り、発したアキトの言葉を聞きゴートは顔を顰めた。

「何を言うんだ、テンカワ! 今、お前とエステを手放せる訳が・・・」

「・・・構わん、行ってきたまえ」

ゴートの言葉を遮り、フクベが許可を出す。

「提督!! 何を言うんですか!!」

フクベの言葉を驚愕の表情で見るゴートに対し、静かに語り始めた。

「どんな者であろうと故郷を見る権利というものはある。若い者ならば尚更だ・・・それにお飾りとはいえ、戦闘指揮権は私にもあるのだろう?」

「しかし、この何処に敵機が潜んでいるか判らない状況で、1機だけ別行動を取らせるのは危険なのでは・・・?」

「・・・なら、俺も行こう」

食い下がるゴートの前にユウキが進み出る。

「ヒュッケバインMK-Uの慣らしもしたいからな。護衛も兼ねられるし・・・どうだ?」

ユウキの問いかけにプロスが頷き、

「そうですな〜・・・ヒュッケバインならば万が一、エステのバッテリーが切れても担いで戻って来れますし、それにユウキさんの過去の実績も
ありますからな・・・許可しましょう。ただし、無茶はしないでくださいよ?」

「ほえ? 過去の実績って?」

「いやはや。ここから先はプライバシーの問題でして・・・」

首を捻るユリカにプロスは笑って誤魔化した。




「悪いな、付きあわせて」

「構わん、こっちはこいつの慣らしも兼ねているんだ」

陸戦型のエステを走らせながら、アキトはユウキに礼を言う。

「それにしても、メグちゃんがエステのコックピットに隠れてるなんてよく分かったな?」

アキトの過去ではメグミとの接点があった故に起こった事件であったが、今回はメグミとの接点が無かった為に失念しており、
ユウキに教えられるまで全く気付かなかった。

ユウキに気付かれながらも一緒に行くとメグミは言ったが、最終的にはユリカの嫉妬のこもった艦長命令とルリの
微妙に嫉妬の他に殺意の混じった視線に負け渋々と艦に残ったのだ。

「・・・俺の知り合いの女性達も、似たような無茶をするからな・・・なんとなく読める時がある。それに・・・」

問いかけに返しながら、ユウキは1度言葉を切り、

「2人きりで直接聞きたい事があるからな。お前は操縦技術をトレーニングマシン、シュミレーターで会得したと言ってたな?
本当は何処でそれだけの技量を会得した?」

「―――本当も何もないさ。地球を出た時にブリッジで言ったのが真実だ」

ユウキの真剣な問いかけをアキトは誤魔化すが、

「嘘を言うな。あの時のミサイルをかわした手際、そして先程の火星防衛艦隊との戦闘で見たお前の腕は、ロンド・ベル隊のエース級、
アムロ大尉―――つい最近、少佐になったらしいが―――達に匹敵する。それだけの力をシュミレーターのみで会得できる訳が無い」

そう指摘されアキトは答えに詰まった。

(ロンド・ベル隊・・・この世界の地球における最強の部隊・・・このたった1部隊が戦況を覆せるほどの力を持っている・・・か)

ルリとラピスに教えてもらった知識を思い出しながら、アキトは言葉に少し闇を混じらせながら返す。

「なら・・・どういう答えが納得いくんだ? 異星からのスパイとでも言って欲しいのか?」

「そういう訳じゃない。それに、お前からは、あの時の『奴』の様な邪悪な『念』は感じない。
ただお前が力を振るう時、悲しい『念』を感じたからな・・・その力はお前が望んで手に入れた物ではない様に思えて気になったんだ」

アキトの闇に臆する事無く、ユウキは言う。

「・・・すまない。今はまだ、真実を語れないんだ」

言葉少なくアキトは答えるのを拒否すると、それを予測していたのか、

「わかった。いずれは話してくれるんだな? なら別にいいさ・・・と、ここか?」

ユウキがそう告げると同時にユートピア・コロニーに到着した。



「やっぱり、こっちでも同じ・・・か」

アキトはエステから降りるとポツリと呟いた。

「どうしたんだ、アキト?」

「いや、なんでもない」

ユウキに返すとそのまま記憶にある場所に向かって歩く。

「こっちでも此処とは限らないけど・・・この辺だったか・・・なっ!!」

ある程度の目安とつけると、その1点に踵を叩き付けた。

その地点から地面が崩れ、アキトとユウキは地下へと落下する。

「くっ!」

「ちっ!」

2人ともなんとか無事に着地する。

「大丈夫か、ユウキ?」

「ああ。足が痺れたがな・・・」

アキトはユウキに問いかけた後、周囲に注意を向けた。

(俺達の過去ではイネスさんが居たんだけど・・・)

その希望を打ち砕くかの様に、周囲に殺気が発生した。

「・・・アキト」

「ああ。囲まれてるな」

その殺気にユウキも気付き、アキトに話しかけながら何時でも銃を抜き放てる様に構えた。

「俺達はナデシコの・・・」

アキトが救援に来た者だと言う事を一応告げようとした時、殺気の一つが銃を放ってきた。

「くっ!!」

それを何とか回避すると、そのままユウキと共に近くの岩場へと隠れる。

「こ、この手前等、木星か!? それともパルマーか!?」

「仲間を呼ばれたら厄介だぞ! 撃ち殺せ!!」

殺気の正体、火星の避難民達は口々にそう言いながら銃撃を激しくしてくる。

「くそ、長い間の極限状態で気が高ぶっているのか!? なんとか落ち着かせて話をしないと・・・!」

「・・・落ち着かせる、か――――――なら!」

ユウキは何かを決意すると、

「聞いてくれ!! 俺はロンド・ベル隊所属のユウキ・ジェグナンだ!! 
あなた達、火星の避難民を助けに来た!!
代表者と話がしたい!! 銃撃を止めてくれ!!」

そう大声で言い放つと、途端に銃撃が止み避難民達のざわめきが聞こえて来た。

「ロンド・ベル隊・・・?」

「アムロ・レイがいる、あの最強部隊が・・・?」

「本物・・・なのか・・・?」

アキトも驚愕の表情でユウキを見ていた。

「ユウキ・・・それは・・・本当か・・・?」

ユウキが答えようとした時、向こう側から彼にとって懐かしい声が聞こえて来た。

「何の騒ぎだい? 僕達が留守の間に?」

「この声・・・まさか!?」

驚きながら、ユウキは声のした方に視線を向ける。

「あ、万丈さん。ロンド・ベル隊が救援に来たって・・・」

避難民の1人が簡単に万丈に事情を説明する。

「ロンド・ベル隊が・・・!?」

万丈が驚いて岩陰に視線を向けた瞬間、ユウキが姿を現し声をかけた。

「やっぱり! 万丈さんか!!」

「ユウ!? ユウキ・ジェグナンか!? なんでこんな所に・・・? それに今まで何処にいたんだ?」

「それも含めてお話します、代表者は万丈さんですか?」

ユウキの質問に万丈は首を振り、

「いや、僕達は用心棒みたいな者さ。代表者は奥にいるんだ案内するよ」

「お願いします。アキト、行こう」

「あ、ああ・・・」

アキトは今だ驚きながら、ユウキと万丈の後に続いた。



3人が奥に進むと、少し開けた場所がありそこにはけが人達が大勢いた。

「イネス博士、お客さんだよ」

万丈はその奥の方でけが人の手当てをしていたイネスに声をかける。

「客? 異星人が降伏勧告でも持ちに来たのかしらね・・・エリカさん、ここを包帯で固定しておいて」

イネスは隣で負傷者に包帯を巻いていたエリカに、指示を出してから万丈達に近づく。

「あら、お客さんって彼等なの? てっきり、異星人かと思ってたわ」

アキトとユウキの姿を見て、イネスは軽く驚いた。

「アキト、説明は任せた。俺は万丈さんと話がある」

この話が断られる事を知っているアキトは、イネスの答えをユウキに聞かせない方がいいと判断し、首を縦に振った。

「すまん。万丈さん、こっちに・・・」

万丈と共にアキトに話を聞かれない位まで離れる。

アキトの注意がこっちに向いてない事を確認し、

「すみません、万丈さん。ハッキリ言って、これから話す事はパルマー戦役に参加したロンド・ベル隊のメンバー以外に聞かれたくない物ですから・・・」

「いや、構わないよ。最初から話してくれるんだろう?」

万丈の問いかけに頷くとユウキは語り始めた。

「最初は・・・俺達、SRX計画に係わった民間人が、パルマー戦役の直後どうなっていたかはもう知っていますか?」

「ああ。クスハやブリットはティターンズに身柄を拘束されていたな。君達もそうだったんだろう?」

「ええ。しかし、ティターンズが壊滅した後でも俺達の、『俺とアイツ』の行方が掴めなかった・・・そうですね?」

万丈は頷きながら相槌をうつ。

「そうだ。クスハとブリットの方は、前の大戦の時に姿を見せてくれたが、『君達』の事は結局、姿どころか話も聞かなかったからね」

「そうですね・・・その時、俺達は地上にいませんでしたから」

「!?」

その言葉に万丈は驚きユウキを凝視するが、直ぐに冷静になると視線で続きを促してくる。

「少し話がそれますが・・・パルマー戦役後、イージス計画の前後に行方不明者が続発するという事件がありませんでしたか?」

「あったが・・・まさか、その人達も!?」

ユウキの言いたい事を察し、万丈は驚き聞き返す。

「そうです。その人達も俺達と同じく地上から召喚されたんです・・・マサキ達の世界、地底世界のラ・ギアスへ」

「ラ・ギアスに!? しかし、何故だ?」

「イージス計画時にはマサキ、サイバスターだけじゃなく、魔装機神が全機が地上に上がっていた・・・そうですね?」

質問に万丈は無言で頷く。

「それで手薄になったマサキ達の国、ラングラン王国を攻め入る為に、元々地上人の召喚を行っていたシュテドニアや
周囲の国々が多くの地上人を召喚したんです。戦力の欠けるラングランも多くの地上人を召喚し、その中に俺とアイツが入っていたんです」

「なるほどね・・・確かにパルマー戦役時に、ロンド・ベル隊が地下の異世界に行った事がある事を知らない連中には聞かせられないね」

万丈が納得がいった様に頷く。

「ええ・・・。そして今まで連絡が取れなかったのは、つい半年前まで俺達はラ・ギアスにいたからです」

「戦争はそれほど長く続いたのか?」

万丈の問いに、ユウキは首を振り、

「いえ。戦争そのものは、マサキ達が帰ってきてから半年ほどで終わったんですが、あちらに残った地上人が起こした事件や
その他に起こったいろんな事件に巻き込まれていたんです」

「そうか・・・だから前の大戦時にマサキは地上に出て来れなかったのか・・・」

「ところで、万丈さん。ちょっと、聞いてもいいですか?」

納得した万丈に問いかける。

「既に判っているとは思いますが、ロンド・ベル隊が来たというのは嘘です。来ている戦力は新造戦艦が1隻のみ・・・この状況で・・・」

ユウキの言いたい事を察し、全てを言い終える前に答える。

「僕としては、救助してもらいたいね。今まで敵襲がある度に、僕のダイターンと一矢のダイモスで追い返してきたけど、
弾薬や機材、避難民への食料に医療物資がそろそろ限界だ・・・イネス博士が頷いてくれればいいんだが・・・」

万丈はそう言うと、アキトと話しているイネスに視線を向け、ユウキも同じく視線を向けた。




「あら・・・?」

イネスはアキトの顔を見ると、驚いた様に小さく呟いた。

(まさか、記憶が残っているのか!?)

アキトは内心驚きながらも、イネスに話しかける。

「どうしたんですか?」

「いえ・・・何でもないわ。ちょっと、懐かしい人の顔に似てたから・・・で、貴方達の用件は何?」

イネスは少し頭を振り、アキトに用件を尋ねてくる。

「俺達は・・・」

用件を伝えるが、イネスはアキトの予想通りに救助を断った。

「そんな・・・何でですか! イネスさん!!」

話が聞こえていたのか、負傷者の手当てを終えたエリカが声を上げる。

「わからないの? エリカさん? なら、説明してあげるわ」

エリカに向かって、イネスはどこか嬉しそうに言う。

「ロンド・ベル隊が来てくれているのなら救助をお願いしているわ。でも、来ているのは新造戦艦のナデシコ1隻のみ・・・
火星には多数のチューリップや木星の駐留艦隊がいる状況を、戦艦1隻で脱出できる筈が無いわ。
あの戦艦、ナデシコを設計した私ならわかる。ナデシコでは木星蜥蜴には勝てない・・・沈むと判っている船に乗るよりは、
こうやって地下シェルターを転々としていった方が、生き残る可能性は高いわ・・・それに、ここに居る人達は
軍に、地球に見捨てられたのよ? 地球から助けに来たからといって、それを信じる人がここに何人いるかしらね?」

「でも、食料や医療物資がもう・・・」

エリカの言葉にイネスも顔をしかめる。

「それが問題よね・・・ひょっとしたら、木星蜥蜴が攻めてきた時点で、私達の運命は決まっていたのかも知れないわね・・・」

「それは、何とかなりますよ。イネスさんは住民の代表として、プロスさんにその意思を伝えてください。
その時に、物資を分けて貰う事を言えばいいんですよ」

「・・・そうね。プロスさんに説明する時に頼めばいいわね」

イネスが頷くと、エリカが進み出て、

「私もパーム星人の代表として同行します」

「え・・・? パーム星人・・・?」

その言葉にアキトはキョトンとする。

アキトの顔を見てイネスは微笑むと、

「そっか、エリカさん羽をしまっているからパーム星人と判らなかったのね? 証拠、見せてあげたら?」

イネスの言葉にエリカは頷くと、隠していた翼を広げた。

それを見たアキトは目を大きく広げ驚く。

「・・・貴方、どんな所で生活してたの? パーム星人の事はニュースで報道されてたりもした筈だけど・・・?」

イネスはどこか呆れながら聞く。

まさか、つい最近まで違う世界で生きてましたとは言えないので、どうにか誤魔化そうとすると、

「エリカ! イネス博士!!」

一矢が叫びながら駆け込んできて、話が中断される。

「一矢! どうしたのです?」

「木星の艦隊がこっちに向かって来ている! かなりの数だ! それに、未確認の新型も何機か先行してきている!!」

「通り過ぎる可能性は?」

イネスが聞くと、遅れて入って来たギャリソンが首を振り、

「残念ながらそれはありませんな。幾つかのシェルターを通り過ぎて、真っ直ぐこちらに向かってきてますし、
なにより、この上に大穴が開いていて、その近くに機動兵器が待機しているのですからな」

ギャリソンの言葉にユウキとアキトは、はっと気付く。

「しまった! 俺達の機体か!?」

「くそっ! ここが今は敵地だというのを失念していた!!」

「待て、落ち着くんだ、2人共」

慌てて機体に走ろうとする2人を、万丈が呼び止める。

「イネス博士、ここのシェルターに避難しているのは、だいたい5、60人でしたよね?」

「ええ、そうよ」

イネスが頷くのを確認すると、今度はアキトに話しかける。

「ナデシコのシャトルは1回に何人運べるんだい?」

「えっ? 大体、20人くらいですけど・・・」

「万丈さん・・・貴方、まさか!?」

万丈が考えている事を察し、イネスは声を上げる。

「そう、流石に察しが良いね。ナデシコに救助してもらうんだ」

「貴方達には聞こえなかったのだろうけど、私は救助を拒否したのよ?」

「耳は良い方なんでね、聞こえていたさ。でも、博士? このまま此処に居ても、全滅する事は目に見えているじゃないか。
なら、ナデシコの救助を受けてここから脱出した方が、いくらか生き残る可能性が上がると思うよ」

「でも、ナデシコでは火星から脱出は出来ないわ・・・貴方達、ロンド・ベル隊なら判るでしょ? たった1隻の戦艦の戦力のみで、
艦隊と戦うのがどれだけ分が悪いのか・・・」

だが、イネスの言葉に万丈と一矢は力強く答える。

「知っているさ。伊達にたった1部隊で50万を超える艦隊と戦った訳じゃない。しかし、僕等はそれでも勝利してきた」

「そうだ! どんな絶望の状況だろうと、1歩進んで希望を見出してきた! だからロンド・ベル隊はこれまで勝ち抜いて来れたんだ!!」

そして、ユウキも続けて言う。

「イネス博士。この状況だ、貴女が慎重になるのは判る。しかし、慎重になるのと進むのを躊躇するのでは全く違う。
今は進むべきか、立ち止まるべきか・・・貴女はそれが判らない人には見えないが・・・?」

3人の説得を受けて、イネスはため息をつき、

「・・・確かにね・・・このまま此処に居ても、全員死ぬのを待つだけだし、最後に足掻いて見るのも悪くは無い・・・か。そこの貴方」

「・・・俺ですか?」

突然声をかけられ、アキトは驚きながら自分を指差す。

「名前は?」

「あ、アキト。テンカワ・アキトです」

(テンカワ・・・? まさか、彼は・・・!?)

アキトの名前を聞き万丈は少し驚くが、イネスはそれに気付かず話を進める。

「そう。アキト君、さっきの言葉は取り消すわ。ナデシコに救助をお願いするわ。こっちに戦艦、もしくはシャトルを急いで寄越す様に連絡して」

「判りました」

アキトは頷きながら言うと、イネス達から少し離れてコミニュケをルリに繋いだ。




ルリはブリッジでユリカとメグミの口喧嘩を傍観していた。

理由は先程の、アキトのエステへの侵入でだ。

当初プロスやゴートが止めに入っていたのだが、無理と諦めてミナトやヒカル達と傍観モードに入っていた。

ジュンは未だに止めようと無駄な努力をしているが、ユリカ達はジュンの存在に気付いていない様だ。

「・・・アオイさんも懲りないですね・・・」

間に入り無理矢理止め様として、2人に『邪魔!!』といわれ弾き飛ばされるジュンを見てルリは呟いた。

その時、秘匿回線でアキトから通信が入る。

(・・・アキトさんから? おかしいですね? 予定ではイネスさんと一緒に、エステで帰ってくる筈ですが・・・?)

不思議に思いながらも、ルリは隠れた位置でウインドウを小さく開く。

「どうしましたか、アキトさん?」

「悪い、ルリちゃん。予定変更だ、シャトルを・・・いや、ナデシコをこっちに向かわせてくれ」

ルリは怪訝な顔をする。

ナデシコを直接向かわせたら、自分達の過去と同じ事になり、避難民全員を殺す事になるのはアキトも知っている筈だからだ。

その事を疑問に思い、ルリはアキトを問いただす。

「アキトさん、それでは過去と同じ事になってしまいますよ?」

「事情が少し変わったんだ。木連の部隊に此処が見つかったんだ・・・部隊が直ぐそこまで来ている。火星の人達を運ぶのに、
非武装のシャトルだけでは危険なんだ」

アキトの話を聞き、ルリは一つため息をつく。

「・・・アキトさん、今言っている事が、かなり危険な事だというのを判っていますか?」

ルリの言い分がもっともだ。艦隊の攻撃を受けつつ、避難民の乗ったシャトルを収容、その後戦闘エリアから脱出するという作戦を
戦艦1隻の戦力でやらなければいけないのだ。まともな神経の持ち主ならば、まずやろうとはしない。

ルリがため息をつくのも判らなくは無いのだが、彼女の顔は穏やかに微笑していた。

それを見ながら、アキトは真剣な声で返す。

「判っているよ・・・でも、此処でこの人達を見捨てるような事は・・・出来ない」

「ええ。アキトさんなら、そう言うと思ってましたから。では、これからユリカさんに報告してからですから・・・到着に17分程かかります。
シャトルは、アオイさんにお願いしますね」

「わかった、頼むよ。ルリちゃん」

アキトとの通信を切ると、今だ口喧嘩しているユリカに報告をする。

「あの〜、艦長?」

「―――大体、アキトは私の王子様なんだから! それをメグちゃんが横取りするなんて許せません!!」

「何言っているんですか!? アキトさんは明らかに艦長の事を避けてます!! 艦長がそう思うのは勝手ですけど、私達の恋を邪魔しないでください!!」

私達のとは如何いう事ですか!!」

ルリの呼びかけにも答えずに、口喧嘩は更に白熱していく。

メグミの発言にコメカミを引きつらせながら、ルリは構わず言葉を続けた。

「・・・アキトさんから通信が」

「「アキト(さん)から!?」」

アキトの名前が出た瞬間、2人は喧嘩を止めルリの方を一斉に見る。

(・・・聞こえてたの(か)?)

3人を除いた全員が心の中でツッコミを入れる。

「入ってたんですけど、もう切れました」

「「えー!!」」

2人は一緒に肩を落としたが、気にせずにルリは続ける。

「ユートピア・コロニー地下で、避難民を発見したそうです。しかし、敵戦力に囲まれて身動きがとれません。ナデシコの救援を求めていました」

「大変!! ナデシコ全速!! アキトを助けに向かいます!! 避難民の収容シャトルの操縦は・・・ジュン君? はれ? ジュンく〜ん?」

ユリカはジュンに指示を出そうとして、辺りを見回す。

「・・・此処に居るんだけど・・・」

副長席に座っているジュンが手を上げて弱々しく声を上げる。

「ああ、ゴメン。気がつかなかった」

笑いながら酷い事を言うユリカ。

ジュンは涙を流すが、それに全く気がつかずに続ける。

「避難民受け入れのシャトルの操縦をお願い。リョーコさん達はシャトル、ナデシコの防衛に回らなくちゃならないから、ジュン君しかいないの!!」

ジュン君しかいない・・・その言葉が彼の頭に何度もリフレインされる。

「わかった!! 任せてよ、ユリカ!!」

先程、酷い事を言われたのにも係わらず、ジュンは意気揚々と格納庫へと走っていく。

「・・・道化ですね・・・アオイさん・・・」

「ルリルリ、それはちょっと厳しいんじゃ・・・?」

ルリの呟きを聞こえていたミナトが、苦笑いしながら言った。




「終わりました。17分程かかるそうです」

ルリとの通信を終え、アキトは万丈達に言う。

「シャトルの操縦は誰がやるんだ?」

「ジュンがやるってルリちゃんは言ってたけど」

アキトの返答にユウキは少し考え込む。

ビックバリア突破時に見たジュンの操縦技術は決して低くはないが、お世辞にも高いとも上手いともいえない物だった。

その腕で艦隊からの攻撃、機動兵器が飛び交う中を無事にシャトルを飛ばせるのだろうか?

ユウキの表情を見ていた万丈が指示を出す。

「ギャリソン、シャトルの操縦を頼むよ。エリカさんはビューティ達と避難民の誘導をお願いするよ」

「かしこまりました。万丈様」

万丈の指示を聞いたアキトが、驚いてギャリソンを見る。

「無茶だ! お年寄りに戦闘エリアでのシャトルの突破だなんて!!」

「おや? 私はまだまだ若い者に負けませんぞ」

アキトの言葉を飄々と受け流し、笑うギャリソン。

「大丈夫だアキト、ギャリソンさんはシャトルの操縦、料理、格闘戦、他、多くの事も1流にこなせる人だ。
こう言っては悪いが、シャトルの操縦に関しては間違いなくジュンよりも上だ」

ユウキの言葉に驚き、ギャリソンを凝視する。

「ご安心なさいませ。避難民の方々は私が責任を持って、無事にナデシコに送り届けます故」

ギャリソンは先程と変わらぬ笑顔でアキトに告げる。

「さて、そろそろ行こうか? あまり此処に近づかせすぎると、シャトルへの乗り込みが大変になってくる」

万丈はアキト達に呼びかける。

アキト達はその言葉に頷くと、出口に向かって走りだした。




「ダイターン! カムヒアッ!!」

最初に外に出た万丈がダイターン3を呼び出す。

100Mもの巨大なダイターン3を見て、アキトは呆然とする。

「どうした、アキト?」

「いや・・・なんでもない・・・」

まさかあまりの大きさに驚いていたとは言えず、アキトはユウキの質問を誤魔化す。

「2人共、準備はいいかい?」

「大丈夫です」

「こっちもです」

万丈の問いに、ユウキとアキトは答える。

「よし、先に行くとしようか。一矢の方は少し時間がかかるからね」

万丈の言葉に頷くと、2人は敵部隊が接近してくる方へと機体を走らせた。

3機が少し移動すると、接近してくる敵、先行部隊が見えた。

「見えてきた・・・数は、9機か」

敵影を確認した所で、アキトは違和感を感じた。

(・・・あれ?)

よく敵機を見てみると、その違和感の正体がわかった。

「馬鹿な・・・なんで、この時期にジンシリーズがあるんだ・・・?」

敵部隊9機の内、2機がゲキガンガーにそっくりなフォルムの機体、アキト達の世界ではジンシリーズと呼ばれていた機体だった。

アキトの記憶では、木連がジンシリーズを投入してくるのはもっと後だった。

(平行世界とはいえ、技術的には大して変わりは無かった筈だ・・・いくらなんでも早すぎる!!)

動揺しながらアキトはモニターを見ると、もう一つの違和感に気付いた。

(あの機体は・・・!!)

アキトが気付いたもう一つの違和感、それは他の7機の事だった。

それは彼が本来の世界で戦った敵、自分の夢を未来を奪った『火星の後継者』の機体、『六連』そして錫杖を持った紅い機体『夜天光』だったのだ。

その事を意識が、脳が理解すると同時に、彼は体中の血液が逆流した様に感じ、声を出していた。

「―――北辰―――!!」

「!? アキト!! 待て!!」

ユウキの制止の声も耳に届かず、アキトは1人エステを先行させた。




元一朗は試作型のテツジン内で顔を顰めていた。

「どうしたんだ、元一朗? 未だこの部隊編成が納得いかないのか?」

「あたりまえだっ!」

試作型のデンジンから通信を送ってきた源八郎に、不機嫌を隠そうともせずに答えた。

「お前は奴等と、木連の影の影、外道どもと一緒に行動して何とも思わんのか!?」

「致し方あるまい。このジンシリーズ、そして北辰殿達が乗っている機体は、我等木連の次世代機の試作機になるのだからな。
相応の腕の持ち主でなければ、データを収集できないのだからな・・・それに、これは草壁閣下の勅命でもあるのだしな」

源八郎の言葉を聞いても、元一朗の表情は戻らない。

ため息をついて、源八郎は話題を変える。

「本来ならば、九十九の奴も一緒だったのだが、機体の調整が遅れているのならば致し方ないな」

「・・・俺は舞歌殿が一枚噛んでいる様な気がするな」

元一朗の言葉に源八郎は首を傾げ、

「どういう事だ?」

「京子殿から聞いたのだが、ちょうど千沙殿に少し長めの休暇が下りたそうだ。
その日にちは、俺達のこの任務中と同じ期間だったりするそうだ・・・もし、機体の遅れがなければすれ違いになっていたな」

元一朗から事情を聞くと、源八郎は納得したように頷いた。

自分達の直属の上官にあたる東舞歌なら、副官をからかうネタの為に機体の調整を遅らせる事くらい迷わずやるであろう。

「・・・談話はそこまでだ・・・」

2人の通信に突然、紅い機体『夜天光』から北辰が割り込んでくる。

「贄を発見した・・・笑止にも我等を迎え撃つつもりのようだ」

北辰の言葉を聞き、2人は映っている敵機を見る。

「・・・1体だけ妙にデカイな」

「あの機体は見た事がある・・・確か・・・」

「ロンド・ベル隊の機体だ・・・火星の駐留部隊に痛手を与え続けていた内の1機・・・」

元一朗と源八郎の問いかけに答えるかの様に、北辰が低く告げる。

「我等木連とプラントの技術がつまりし機体の贄に相応しい・・・」

北辰が舌なめずりをしながら言った途端、3機の内の1機がこちらに向かって飛び出して来た。

「ほう、ネルガルの機体が先行するか・・・ならば、少し遊んでくれよう・・・烈風・・・!」




六連全機がアキトのエステに向かって、ハンドガンを上空から放ってくるが構わずにそのまま機体の速度を上げる。

アキト達の世界では5年後の機体であり、現在乗っているエステとは4ランクは性能の差がある筈だが、その攻撃をアキトは尽くかわしていた。

(機体の性能は5年後のと同じか・・・しかし、貴様等乗り手の力も5年後のと同じではあるまい!!)

アキトは心の中で吐き捨て、ライフルで応戦しながら夜天光へと向かって行く。

実際、六連の動きはアキトの記憶の物よりも少し鋭さが欠けていた。

もし、アキトの記憶どおりの動きだったとしたら、性能の劣るエステでこんな無茶は出来なかったであろう。

六連全機の攻撃を掻い潜り、夜天光を射程内に捉えライフルを放つ。

「ほお・・・面白い・・・」

六連の攻撃を掻い潜ってきたエステを見て、北辰は薄い笑いを浮かべながら回避をし、そのまま接近する。

「北辰・・・!」

接近してくる夜天光にワイヤーフィストで迎撃するが、回避様にワイヤーを断ち切られる。

「くそ!」

ライフルを投げ捨て、残った腕にイミディエットナイフを構える。

振り下ろしてくる錫杖をナイフで受け止め、受け流すとその勢いを利用し後ろ回し蹴りを繰り出した。

「ぬ・・・!」

北辰はギリギリで回し蹴りをかわすが、錫杖が叩き落され少し驚き一旦距離を置こうとする。

それを許さずアキトは距離をつめ、夜天光に追撃をかける。

横薙ぎに出されるナイフを腕で防ぎ、そのまま北辰はコックピットを狙い蹴りを繰り出す。

しかし、その攻撃をアキトはエステの脚でガードする。

「やらせるか! 北辰!!」

「何!?」

接触しているのでアキトの声が伝わり、自分の名を呼ばれた事に北進は驚き、上空へと一度退避する。

「何故、木連の影である我の名を地球人が知っているのだ・・・?」

北辰は少し考えるが、アキトがそれを許さずにエステを跳躍させる。

「北辰! 貴様との因縁、ここで切らせて貰う!!」

「ふっ、笑止!!」

ハンドガンを放ちエステを撃ち落そうとする。

回避行動をとろうとするが、陸戦フレームだったので機体が思うように動かなかった。

「くそ! このフレームでは・・・」

機体を丸くさせ、コックピットへの直撃を避けるとそのまま着地をさせ、損傷を確認する。

「この損傷では格闘戦は無理か・・・」

アキトはそう判断すると、先程投げ捨てたライフルを拾い、夜天光に狙いを定めた。




「隊長!!」

アキトのエステと一騎打ちを繰り広げる北辰を、六連達は高度を下げ援護に向かおうとするが、

「行かせん!」

背後からフォトンライフルを撃たれ、それは阻止される。

そのままユウキはライトソードを抜き放ち、ヒュッケバインMK-Uを六連達へと突撃させる。

六連達は一斉にハンドガンを放つが、尽く回避されるか発生されたGウォールによって防がれる。

「油断は禁物だ!!」

六連の1機にライトソードを振り下ろすが、かわされ上空へと逃げられる。

「チャンスは逃さん!」

フォトンライフルを構え、上空へ逃れた六連へ狙いを定め放つ。

弾は機体の左肩を直撃し、左腕が破壊される。

「こやつ・・・出来る!?」

北辰の部下の1人がその光景を見て驚き、全体に緊張が走る。

彼等と同等、また以上の腕のパイロットは木連には北辰とあと1人しかいない。

試作とはいえ、新型を操る彼等と互角以上に戦える事に部下達はユウキに脅威を感じた。

そして、1機では不利と判断し6機全員でヒュッケバインMK-Uに攻撃を集中させる。

「くっ! MK-Uで6機相手は少しキツイか・・・?」

ユウキはそう言いながらも、攻撃をかわしながら積極的に反撃をしていった。




元一朗たちがダイターン3に攻撃を仕掛けようとした時、ダイターン3の後方から別の反応を捉えた。

「新手か!?」

源八郎が見ると1台のトレーラーがこっちに向かって走って来る。

「工業用車両・・・いや、違う!?」

元一朗がそう判断した時、

「ダイモス、バトルターン!!」

彼等の目の前でトレーラーが変形し、ダイモスになる。

「一矢、遅かったじゃないか?」

「すみません、万丈さん。出入り口が落盤で塞がっていたんで、彼等が空けた穴から出て来たんです」

一矢は謝るとダイモスをダイターン3の隣へとつける。

「あの機体もロンド・ベル隊だったのか・・・行くぞ! 元一朗!!」

「応! たとえロンド・ベル隊が相手でも、鉄の拳が叩いて砕く!!」

『ゲキガンパーンチ!!』

一斉にダイターン達へとロケットパンチが放たれる。

「やれやれ、外見だけじゃなく武器まで僕らとそっくりとはね」

万丈は軽く笑いながら、ダイターンザンバーでロケットパンチを弾き落し、

「ふん! 甘っちょろいぜ!!」

一矢は手刀で叩き落すとそのまま元一朗のテツジンへと接近する。

「くっ! ゲキガンビーム!!」

させじと元一朗は小型レーザーを放つが、

「当たるか!!」

ダイモスはあっさりとかわし、肉迫すると正拳を放つ。

後ろに下がってかわそうとするが、回避しきれずに頭部にダイモスの正拳が直撃する。

「ぬお!!」

ジンシリーズは頭がコックピットになっているので、元一朗は凄まじい衝撃に体を揺さぶられる。

続けてダイモスが回し蹴りを放って来たので、なんとか腕でガードするが威力に押され機体が横へと流される。

「くっ!! これが、ロンド・ベル隊の特機の力か!?」

元一朗はダイモスを見据えると次の攻撃のタイミングを計る。

「双竜拳!!」

ダイモスが双竜拳を装備し、こちらに攻撃が当たる直前に、

「今だ!! 跳躍!!」

テツジンがダイモスの目の前から消えた。



「さて、反撃開始といきますか!! レッグキャノン!!」

レッグキャノンが放たれ、デンジンに直撃するがディストーションフィールドに威力の大半が殺される。

「ふん! このデンジンの歪曲場にその程度の攻撃が・・・」

「ダイターン、ハンマー!!」

源八郎の言葉を遮り、煙に混じってダイターンハンマーが投げつけられる。

「何!?」

この攻撃は予測できておらず胴体に直撃し、跳ね返ったハンマーをダイターン3が受け取るとそのまま回転させ連撃を仕掛けてくる。

「ぐっ! 噂に違わぬ力だ・・・!!」

連撃を全て受け、後ろに弾き飛ばされながらもデンジンはまだ戦闘が可能だった。

「フィールドがあるとはいえ、タフな機体だね」

万丈は呆れるが油断はせずに相手の次の出方を窺う。

「ロンド・ベル隊相手に小細工は無用か。ならば! くらえ、ゲキガンビーム!!」

源八郎は気合を入れると、小型レーザーを放つ。

「ダイターンファン! 出ろ!!」

万丈は咄嗟に反応し、ダイターンファンでレーザーを防ぐがその瞬間を狙い、

「目に物を見せてくれる! 跳躍!!」

万丈の目の前からデンジンが消える。

「なんだって!?」

万丈が驚いた瞬間、後ろに敵反応が現れた。

「後ろ!?」

「ゲキガンシュート!!」

ダイターン3との距離があったのでなんとか回避が間に合った。

「くっ、まだ跳躍の距離に誤差があるか・・・」

源八郎の狙いは、もっと近距離に出現して攻撃する事だったが、まだ慣れない跳躍時のイメージが少しずれたのだった。



(消えた機体の狙いはこの俺・・・ならば、あの時と同じ様にダイモスの近くに出現するはず・・・)

テツジンが消えた瞬間に、一矢は前の大戦の時にあった似たような時の事を思い出しそう見当をつけた。

一矢がそこまで考えた時、予測通りにダイモスの直ぐ近くに敵反応が現れる。

「くらえ! ゲキガン「ダイーモ、シャーフト!!」

元一朗がグラビティブラストを放とうとした瞬間に、用意しておいたダイモシャフトを投げつける。

「なんだと!?」

予想だにしなかった反撃に驚き、回避が間に合わずダイモシャフトがグラビティブラストの発射口に突き刺さり、爆発を引き起こした。

「読まれていたというのか!? そんな馬鹿な!!」

「悪いな! テレポートする相手との戦闘は経験済みなんでな!!」

一矢はそう叫ぶと、追撃を仕掛けていった。




ナデシコから先行して出たシャトルは、予定よりも早くユートピア・コロニーへ到着した。

「おや、来ましたな。では皆様、落ち着いて順番に乗り込んでください」

ギャリソンに引率され、避難民が続々とシャトルへと乗り込む。

「では、エリカ様。他の方々の誘導をお願いいたします」

ギャリソンは誘導をエリカに任せると、シャトルのコックピットへと向かう。

「失礼いたします」

突然の来客にジュンは驚き、振り向く。

「ナデシコの方ですな? ご苦労様です」

「ちょ、ちょっと、避難民の方が此処に入られては困ります!」

ジュンは慌ててギャリソンを追い出そうとするが、レーダーが敵の反応を捉えると急いで離陸準備に入る。

「敵反応!? 離陸します! 早く席に・・・」

「おや、思っていたよりも早く来ましたな。すみませんが、操縦桿をお借りします」

ジュンの文句を受け流し、副操縦席に座ると避難民の乗り込みを確認する。

「ふむ、乗り込めるだけは乗ったようですな。離陸いたしますぞ」

「ちょっと、勝手に・・・うわ!!」

万丈達が取り逃がしたバッタ達が放ったバルカン砲がシャトルの至近距離に直撃し、ジュンは身をすくめた。

しかし、ギャリソンは怯えもせずに準備を整えるとシャトルを離陸させた。

「うわー!! ミサイルが! バッタが!!」

「ほっほっほ! この程度では当たりませぬぞ」

ミサイルが目の前に迫ったり、バッタが体当たりをしてきたりする度に、ジュンがやかましく騒ぐがギャリソンは笑って回避をする。

「ナデシコはどの辺りにいますかな?」

ギャリソンがジュンに問いかけた瞬間、

『ジュン君! 避けてね!! グラビティブラスト、発射ー!!』

ユリカから突然通信が入り、ギャリソンはシャトルを右へ回避させる。

その瞬間、今までいた所に重力波が走り、追って来ていたバッタ達が全機破壊される。

画像が開き、ユリカが笑いかけてくる。

『ジュン君、やるじゃないの!!・・・って、ジュン君操縦してないの? そちらのおじいさんが操縦してるの? なんで?』

ジュンが操縦桿を握ってない事にユリカは気付くと首を傾げる。

『おや? あなたは、確か破嵐財閥のギャリソン時田さんですか?』

「正確には、元破嵐財閥ですがな。お久しぶりですな、プロスペクター殿」

通信に割り込んできたプロスと面識があるのか、ギャリソンは丁寧に挨拶をする。

『ええ。破嵐財閥が解体されましたからな。ここにあなたがいるという事は、万丈さんも・・・?』

「はい。前線で敵を足止めしておりますが、敵の数が多いので手助けに向かっていただきたいのですが・・・」

『わっかりました! エステバリス隊、全機発進してください!!』

ギャリソンの頼みの応え、ユリカは指示を出した。




北辰の攻撃をかわしながら、バッタをアキトは撃ち落していく。

「くそ! これ以上は・・・!」

北辰が本気で攻撃してこないので、なんとか回避しながらバッタを撃ち落せているが、エステのフレームがもう限界だった。

「アキト! 一旦退け! バッテリーもそろそろ限界のはずだ!!」

ユウキの言葉通りバッテリーもそろそろ限界だったが、もしここで後ろを向けば北辰が狙ってくる事をアキトは感じていた。

「しかし・・・!」

アキトが反論しようとした時、後方からグラビティブラストが飛んできた。

「ぬっ!」

北辰たちはあっさりと回避するが、バッタ達が全て落とされる。

空戦フレームを装備したエステが夜天光、六連達へと攻撃を仕掛けていく。

「大丈夫か!? アキト!!」

夜天光に攻撃を仕掛けているエステ、ガイから通信が入る。

「ガイ!? そいつの相手は無理だ!!」

「はっ! 無理かどうかはやってみなくちゃ・・・」

ガイが言い終えるよりも早く、夜天光の手刀がガイのエステの左腕を叩き壊した。

「己の力を計れずに散るか・・・?」

北辰が細く笑み、次々と攻撃を仕掛けてくる。

「くッ! ちっ! があああ!!」

ガイは何とか攻撃をかわしていくが、最後に蹴りが胴体に直撃する。

「ガイ!!」

アキトは叫んで援護しようとするが、ガイは夜天光の脚を掴み、

「来るな! アキト!! ナデシコに戻って、フレームを交換して来い!! それまではオレがこいつを抑える!!」

「なっ!?」

ガイの言葉にアキトは驚く。

「少し戦ってみて判った。今のオレではこいつに勝てない! だが、お前なら、アムロ・レイ級の力を持っているお前なら倒せる筈だ!!
お前が戻ってくるまでは、なんとかオレが抑えてみせる!! 早く行け! テンカワ・アキト!!」

「―――判った。間違っても死ぬんじゃないぞ! ガイ!!」

ガイにそう言い残すと、アキトはローラーダッシュでナデシコへと急いで戻る。

(テンカワ・アキト・・・やはり覚えがないな・・・)

会話を聞いていた北辰が首を傾げる。

北辰は考えるのをとりあえず止め、目の前にいる身の程知らずの機体に攻撃を仕掛けた。




「なんなんだよ!? こいつ等は!!」

「速すぎ〜!!」

「角つけて赤くないだけマシだけどね・・・!」

六連3機の攻撃を何とか回避しながらリョーコ達は反撃するが、機体性能の差がありすぎて相手にならなかった。

リョーコはライフルを連射するが、あっさりと回避されながらハンドガンを撃ち返される。

とっさに回避運動を取るが、かわしきれずに右脚に被弾し破壊されてしまう。

「リョーコ! ヒカル、バラけてちゃ分が悪いわ、固まってリョーコを援護するよ!!」

「うわ〜・・・イズミ、珍しくマジだ・・・」

イズミの真剣な声を聞き、ヒカルは驚くがすぐに気を引き締めた。

それだけ敵が強く、状況がマズイ事に気付いたからだ。

損傷したスバル機を守る様にイズミとヒカルが正面に付くが、3機は気にせずに攻撃を仕掛けてくる。

回避をしながらも、僅かな隙を突いて反撃をするが六連に1発も当たりはしない。

「だぁー!! ヤマダの奴はどうしてんだよ!?」

機体に無理をさせ、ハンドガンを何とか回避しながらリョーコが怒鳴る。

「ヤマダ君はアキト君の代わりで紅い機体と戦っているけど・・・」

ヒカルが応えるが、その声に明るさがない。

その理由はリョーコも知っていた・・・否、見えた。

少し離れた所で、紅い機体の攻撃を必死に回避、防御し傷ついていくガイのエステを。

出来れば援護、救援に向かいたいが自分達はこの3機の相手でも必死なのだ。そんな余裕はない。

「なんなんだよ!? あの動きは・・・!? アキトと同じ位の動きじゃないか・・・!」

紅い機体の動きを見て、リョーコは愕然とした。

ガイの腕はリョーコから見ても悪くはない・・・バカではあるが。

そのガイが防御、回避しか出来ない、その行動も通用しない・・・その事にリョーコは漠然と恐怖を感じた。

「くそっ! 何とかなんないのかよ!!」

「―――悔しいけど、現状の私達の力ではどうにもならないね・・・この場で何とか出来そうなのは、テンカワ君と・・・彼だけね」

リョーコの叫びに答える様に、イズミがナデシコに向かっているアキトと少し離れた所で戦っている
ヒュッケバインMK-U、ユウキの方を見ながらライフルを連射した。




(いちいちナデシコに戻っている時間はない・・・なら!)

アキトはそう判断すると、ウリバタケに通信を開く。

「ウリバタケさん、空戦フレームを射出してください!!」

アキトの頼みにウリバタケは目をむいて驚く。

「射出って・・・お前、空中換装するつもりか!? 途中でアサルトピットごと破壊されるのがオチだ!!」

「お願いします!! このままだとガイが危ないんです!!」

「しかし・・・!」

その通信に六連3機と戦闘中のユウキが割り込む。

「俺からも頼む。換装中はヒュッケバインが壁になる・・・これならどうだ?」

その言葉にウリバタケは頭をかくと、

「だあー! もうわかった!! 一発で成功させろよ!! フレーム射出!!」

ウリバタケの指示に従い、空戦フレームが射出される。

アキトはエステを跳躍させると、アサルトピットを分離させた。

そこを狙い、2機の六連がハンドガンを放ってくるが、ヒュッケバインMK-Uがエステの前に割り込んでくる。

「させんぞ! Gウォール・・・全開!!」

六連のハンドガンが展開されたGウォールに弾かれる。

残る1機がヒュッケバインMK-Uを無視し、フレームを装着中のアキトに攻撃を仕掛けようと脇を通り抜けようとするが、

「その程度、俺が読んでないと思ったか!! チャクラムシューター、発射!!」

放たれたチャクラムに胴体から2つに断たれ、コックピットらしきものが射出された直後に爆発した。

それと同時にアキトの換装も終了する。

「テンカワ、お前に頼まれたフィールドランサーは未だ出来ちゃいないが、その代わりに
イミディエットナイフのロングタイプ―――イミディエットソードってとこか―――を付けといた、切れ味は俺が保障するぞ」

「わかりました! 待ってろ、ガイ!!」

ウリバタケの言葉に頷くと、イミディエットソードを抜き放ちエステを加速させた。




夜天光の拳が、ガイのエステの頭部を破壊した。

「くっそ! サブモニター切り替え!!」

ガイはサブモニターに切り替えると、同時に放たれた蹴りを何とか回避する。

「ほぉ・・・よく耐える・・」

北辰はボロボロになったガイのエステを心底愉快そうに見る。

今の攻撃でエステの頭部は無く、その前の攻撃で左腕も肩から破壊され、右脚も膝から下が無くなっていた。

「ちぃ・・・この俺がここまで追い詰められるなんてな・・・」

コックピットのガイも攻撃を受けた際、頭をぶつけ出血していた。

「人の執念・・・見させてもらった・・・しかし、貴様に飽きた・・・滅・・・!」

「こいつ・・・次は本気で来る・・・・!?」

夜天光の雰囲気が変わった事を、ガイは直感的に感じ口元に笑みを浮かべた。

「そうこなくっちゃな!! 正義の味方は最後には大逆転で勝利するんだからな!!」

自分を鼓舞するかの様に叫ぶと、残った右腕を腰溜めに構える。

(悪いな・・アキト・・・約束は果たせそうに無い・・・)

頭の隅でそんな事を考えながら、ガイは夜天光が仕掛けてくるのを待つ。

(狙いはクロス・カウンターのガイ・スーパーアッパーだ。奴の頭を叩き潰す・・・!)

その時、北辰に部下から通信が入る。

「隊長、申し訳ありません! 貴重な試作機を1機破壊されました!!」

「ほお・・・お前らがあの機体で遅れを取るとはな・・・」

ガイから注意を逸らさずに、部下の報告を聞いて北辰は少し驚いた。

「パイロットは無事収容したので、データが失われる事はありません」

「そうか。では撤退準備をしろ・・・我もこやつを片付け次第撤退する・・・月臣、秋山にも伝えろ」

部下にそれだけ告げると通信を切り、ガイに仕掛けようとしたその時、高速で向かってくるエステに北辰は気付いた。

「先程の機体か・・・? 面白い!!」

北辰はガイからアキトのエステの方に注意を向け、自らそちらへと向かって行った。

ガイはアキトのエステの方を見ながら笑みを浮かべた。

「へっ・・・アキトの奴、判ってるじゃねぇか・・・正義の味方は遅れて登場するってよ」




「ガイは・・・無事か」

アキトはガイの方を見て少し安心すると、向かって来る機体を睨みつけた。

「北辰!! これ以上、俺の仲間を傷つけさせはしない!!」

「ふははははっ!! その機体が現状では一番適している様だな。良かろう、貴様の力、受けて立とう!!」

北辰は笑いながらアキトのエステにハンドガンを放つ。

それをアキトは回避するが、避けた所を先読みされあっという間に肉迫され、右の拳が放たれる。

「ちぃ!!」

拳をイミディエットソードの柄で受け止めるが、続けて右膝蹴りが放たれアキトは一旦、後ろに距離をとった。

「くそ! 機動性から全てに置いてあっちが上だから、先手先手を取られてしまう・・・せめて、機動性だけでも埋められれば・・・!」

アキトはそこまで言うと、ウリバタケが冗談半分でつけたリミッター解除のレバーを思い出した。

(リミッターを外せば機体限界まで機動性が上がる・・・夜天光の性能が俺達の世界の物と同等だとして、
性能差が4ランクから2ランクまで迫れる筈だ・・・これに賭けるしかない!!)

決断すると、アキトはリミッターを外しイミディエットソードを構えた。

そのまま先程までとは比べ物にならない速度で、夜天光に接近する。

「むっ! 速度が急に・・・!!」

北辰は突然のスピードアップに驚き、構えている刀を振るわれると思い、そちらに注意を向けた。

しかし、アキトはイミディエットソードを振るわず左の拳を夜天光の頭部に叩き込んだ。

「クッ! 抜かったわ! 刀は囮か!!」

夜天光のモノアイにヒビが入るが、それ以外の損傷は無く北辰は反撃の蹴りを放った。

アキトは蹴りを機体を半身下がらせるだけで回避すると、夜天光を縦に断とうとイミディエットソードを振り下ろす。

蹴りの反動のまま北辰は機体を1回転させ、イミディエットソードをかわし、その勢いのまま後ろ回し蹴りを放つ。

それをアキトは左手で受け止めるが、左腕全体が軋みを上げ、そのまま北辰は左腕ごとアキトを砕こうとする。

アキトは左腕が破壊される前に、そのまま夜天光の脚を掴むと機体を回転させて、夜天光を振り回し投げ飛ばす。

少し離れた所で夜天光は停止し、体勢を整えた。

「やはり、機体の性能の差はこれ以上埋めようが無い・・・か」

互角の勝負をしている様にも見えるが、アキトの方は常に機体限界の状態で戦っているのだ。

長期戦になれば不利・・・と、アキトは判断し次の一撃で勝負を決めるためにイミディエットソードを両手で構える。

「やりおるな・・・機体では我が有利ではあるが、乗り手では彼奴の方が上か」

北辰は自分とアキトとの戦力の差を見極めると、次の一撃で勝負を着けようと両腕を腰溜めに構える。

アキトと北辰は機体を限界まで加速させ、互いに接近させていく。

「うおおおおおおおっ!!」

「ぬおおおおおおおっ!!」

そして、両機が交差した瞬間に互いが必殺の一撃を放った。

そのまま2機が離れ、互いに振り返る。

アキトのエステは左腕の肩から先が破壊され、夜天光は右肩が斬り落とされ、右脚も付け根から先が斬りおとされていた。

「隊長!! 我々は何時でも撤退出来ますが・・・?」

「この機体性能差で、我をこれ程まで追い詰めるか・・・ふははははっ!! 面白い・・・!!」

部下の報告を聞いていないのか、アキトのエステを見ながら、北辰は愉快そうに笑った。

「隊長・・・?」

不安になった部下がもう一度声をかける。

「聞いておるわ・・・撤退だ」

部下にそう返すと、北辰も夜天光を撤退させる。

「退く気か!? 逃すか!!」

アキトは追撃しようとするが、身動きできないでいるガイの事を思い出し諦めた。

「―――また会おう、テンカワ・アキト―――!!」

北辰は戦闘エリアから脱出際、そう呟いた。




撤退の指示を聞いて、元一朗と源八郎は命拾いをしたと感じた。

元一朗のテツジンは胸のグラビティブラストが破壊されたのと、右肩が破壊され装甲全体にひびが入っていた。

源八郎のデンジンに至っては、両腕のロケットパンチが破壊され、もし撤退指示があと少し遅かったら、
ダイターン3の必殺技、サン・アタックを放たれる所だった。

「元一朗・・・生きているか?」

「・・・・どうにか・・・な」

源八郎の問いかけに、疲れた声を出して元一朗は応える。

「あれが地球最強の部隊、ロンド・ベル隊の力・・・か」

「正確には、その部隊の1部の特機だがな・・・跳躍がなければ、何回か死んでたぞ」

元一朗は、何回かの危なかった場面を思い出し寒気を覚える。

「あの部隊と互角に戦う為には、いや戦って生きて帰ってくる為には、跳躍可能な者が必要不可欠の様だな・・・」

「今の所、跳躍可能なのは俺と源八郎、白鳥もか・・・そして、北辰達・・・か」

「あと、舞歌殿の所の優華隊もだ。それに、北斗殿・・・枝織殿も出来たはずだ」

元一朗の言葉の後を源八郎が補足する。

「我等の他にも跳躍が可能であるのならば、地球などすぐさま滅ぼしてやれるというのに・・・」

元一朗の言葉に源八郎は首を振り、

「致し方あるまい。我等がこの力を手に入れるまで、多大な犠牲があり、それによって得た力も未だ判らぬ点が多いのだ。
さらに犠牲を増やす事が無いのかハッキリせねば、大々的に手術をさせる訳にもいくまいて」

そう答えると、木連へと続くチューリップを目指していった。




「万丈さん、追わなくて良かったんですか?」

撤退していく2機のジンタイプを見ながら、一矢は万丈に問いかけた。

「しょうがないさ。こっちにとっては、大変なのはこれからなんだから。あの2機を相手にしている余裕は無いよ」

そう言うと、万丈は遠くに見える大規模な敵艦隊と、ナデシコの後方から迫る小規模な敵艦隊を見る。

先程落しそこね、シャトルに攻撃を仕掛けていたバッタは、この艦隊の偵察用のものだった様だ。

「どこかのチューリップから出て来たのかな? まったく、僕や一矢がコツコツと駐留していた艦隊を倒していったというのに、
これじゃ振り出しに戻ったね」

肩をすくめて、万丈は軽く言う。

「万丈様。避難民の全ての方の避難が完了いたしました」

「ご苦労だったね、ギャリソン」

万丈がギャリソンからの報告に返した時、

『万丈さん達、ナデシコの射線上から退避してくださいね? グラビティブラスト、てぇー!!』

ユリカから通信が入り、ナデシコがグラビティブラストを放つが、

「敵、小型機は殲滅するものの。戦艦タイプは依然として健在。 その数・・・更に増大しています」

「な、何でグラビティ・ブラストが効かないの?」

「・・・艦長、敵もディストーション・フィールドを張ってるみたいです」

「そんな・・・」

ルリの報告にユリカは呆然とするが、そこに万丈から通信が入る。

「ナデシコの艦長、テンカワ君達を収容したら、反転して逃げるんだ」

「反転って、後ろにも敵艦がいるんですよ!?」

「・・・ちなみに、後ろにいる敵艦はヤンマ4隻です。火力、フィールド出力はカトンボよりも遥かに上です」

ルリが後方にいる敵艦の情報を知らせてくる。

「大丈夫、僕のダイターンと一矢のダイモスで突破口を開くから。そうしたら全速で逃げるんだ、いいね?」

「万丈さん、俺もいますよ」

ユウキが万丈の通信に割り込んでくる。

「でも、今の君の機体はヒュッケバインMK-Uだろう? MK-Vなら兎も角、MK-Uでは火力が足らないんじゃないかな?」

「大丈夫です。リン社長がパルマー戦役の時に使っていたMK-Uのプラスパーツ、Gインパクトキャノンを積んでくれましたから」

その言葉に万丈は感心した様に頷き、

「へぇ、流石リン社長。気が利いた事してくれるね。じゃあ、ナデシコの何所かに機体を固定して援護を頼むよ」

「わかりました。ウリバタケさん! Gインパクトキャノンを射出してくれ!!」

「わかった! 整備は完璧にしといたぞ、上手くやれよ!!」

射出されたGインパクトキャノンを受け取ると、ナデシコのディストーションブレードの上に機体を固定させた。

「艦長、アキトさん達、エステバリス隊が帰艦します」

「収容、急いでください。収容が済み次第、ナデシコ反転、後方の敵陣を突破します!!」

ルリの報告が終わると同時に、ユリカが指示を出す。

「じゃあ僕等は先に向かうとするよ。行こうか、一矢」

「はい!」

ダイターン3とダイモスが先に敵陣の中へと突っ込んでいく。

「心強いですな〜。ロンド・ベル隊のスーパーロボットがいますと」

「でも、あの機体の形状であれだけのエネルギーは無茶です・・・いいとこ、攻撃した瞬間に機体がオーバーロードを起こして爆発します」

プロスの言葉に、ルリがこの世界に来てから疑問に思っている事を口にする。

「いやはや、それを可能にしているからこそスーパーロボットと呼ばれるのですよ」

「アキトさん達が収容されました!!」

メグミの報告が入って来ると、ナデシコは反転を開始した。




ヤンマがレーザーを放ってきたり、ミサイルを大量に撃ってくるが、万丈達は回避し、撃ち落しながら距離を詰めていく。

4隻から多数のバッタが出撃してくるが、ダイターン達の後方から放たれたGインパクトキャノンに殆どが破壊され、
残りはダイターンザンバーや三竜昆で破壊されていく。

そして、ダイターンとダイモスはそれぞれヤンマの近くへと接近し、

「いくぞ!! 日輪の力を借りて、今必殺の! サン・アタック!!

「ダブル・ブリザード!!」

ヤンマのフィールドをあっさりと貫き、膨大なエネルギーが、冷気がヤンマを貫く。

「ダイターン・クラーッシュ!!」

「烈風! 正拳突き!!」

止めの一撃がヤンマ2機を貫き、爆発を起こした。

残った2隻がダイターン達を狙うが、それをユウキがGインパクトキャノンで阻止をした。

フィールドを貫き、1隻のヤンマが中破する。

「流石に1発では沈まんか。だが、こいつで止めだ!! Gインパクトキャノン・・・発射!!」

続けて放たれた2発目が中破したヤンマを襲い、損傷した所から連鎖的に爆発を起こし、撃沈される。

「残り1隻!!」

ユリカが声を上げた瞬間、ナデシコに振動が走った。

「なに!?」

「後方、敵艦隊からの攻撃です・・・何気にナデシコ、後方前方両敵艦の射程内にいたりします・・・」

「ほえー!! 機関全速! 射程内から離脱します!!」

ルリの報告を聞き、慌ててユリカが指示を出した。

「万丈さん達はそのまま先に戦闘エリアから離脱してください!! ヤンマ1隻くらいの火力ならナデシコのフィールドで防げます!!」

「わかった。じゃあ、この辺りで待っているよ」

ユリカの指示を聞き、万丈はあるポイントの座標を送るとダイファイターに変形しダイモスと共に離脱していった。

「ユウキさんも戻ってください! フィールドを張りつつこの場を離脱しま・・・」

ユリカの指示が終えるよりも早く、後方から放たれたビームやミサイルの雨がナデシコを襲った。

『きゃああああ!!』

メグミとミナトが悲鳴を上げる。

「くっ! 被害状況を・・・」

「そんなの後です!! とにかくフィールド張って全速で逃げてください!!」

ゴートの指示を遮ってユリカが言う。

被害状況を確認しているだけの余裕が無いと判断したからだ。

後方からの攻撃を受けつつ、ヤンマとすれ違い様にミサイルをフィールドに貰いつつ、ナデシコは何とか戦闘エリアを離脱した。




第十一話に続く

あとがき

これが火星編の第1話になります。時間軸上で言えばこれが1話に当たるんですが、回想だと思って第10話として扱ってください。
さて、今回登場した設定や人物で『おや?』と思った人が何人いるでしょうか?
まずはユウキ。彼は私がαをプレイした時のリアル系主人公でした。という事で、この世界では彼が『MK-Vの本来の持ち主』という事になります。
もし次のOGが出たり、第三次αが出たりすると彼ではなく、リョウトあたりが『MK-Vの本来の持ち主』になりそうな予感が・・・
そして次に彼等が行方不明だった理由ですが、判る人には判る、そうで無い人は何だが知らない。
『ラ・ギアス事件』と昔懐かしの『魔装機神伝』を混ぜてみました。時間軸上では魔装機神伝の物語は終わっていますが、
マサキとシュウが出会わない方のシナリオエンドで、リューネは『ラ・ギアス事件』時にシュウと会っていないという世界です。
シュウがどうなっているかは、今の所誰も知りません。唯一いえる事は、
マサキはリューネとウェンディに追い掛け回されているという事だけです。(爆)

 

 

代理人の感想

ほほぉ、なるほどなるほど。

話は結構纏まってきましたね。

後はそれを見せるための文章力があれば・・・・・

頑張ってください。