第十四話 力の片鱗
「・・・失礼します」
アークエンジェルに戻ったキラは、早速艦長室に呼び出され、キョウスケ達と共にマリュー、フラガ、アムロとナタルから叱られていた。
・・・最も、主に叱っていたのはナタルであり、他の3人はキラ達に助け舟を出すのが殆どだったのだが・・・
外で待っていたトールとミリアリアが心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫? なんて言われたの?」
「お前も、トイレ掃除1週間とか?」
「おー、いいね、それ。やってもらおうか」
トールが尋ねると、部屋から出て来たフラガが笑いながら肩を叩いて去っていく。
ナタルは対照的で、キラ達に冷たい視線を送ってから、フラガとは別方向に歩き出した。
「あらら。伝統的な罰ね?」
少し遅れて出て来たエクセレンが笑いながら言う。
「・・・キョウスケさん達は・・・って、キョウスケさんとダバさん、頬腫れてますよ!?」
ミリアリアが部屋から出て来たキョウスケとダバの顔を見て驚き、叫ぶ。
「ああ。他の者への示し、という奴だ・・・気にするな」
「レッシィやエクセレンさんみたいな、女の人を殴らせる訳にはいきませんからね・・・」
キョウスケとダバの言葉を聞き、トールは気付いた。
「ひょっとして・・・ロンド・ベル隊、名物の『修正』ですか?」
「まあ、そうだ。殴ったのはフラガ大尉だが・・・」
「すみません・・・何だか、巻き込んでしまった様で・・・」
キョウスケの頬を見ながら、キラが申し訳無さそうにして頭を下げる。
「気にしないでくれ。ボクが勝手に手を出した事なんだしさ」
ダバが軽く笑ってキラに返し、キョウスケの代わりにエクセレンが笑って返す。
「そうそう。それに、キョウスケも私もそれなりに修正に慣れてるし・・・どちらかというと、もう一つの処分が痛いわ・・・」
「もう一つって? まさか独房に!?」
ミリアリアが聞き返すと、キョウスケが静かに教える。
「・・・正確には自習室だがな・・・俺とエクセレンは月に着くまで、待機中は自習室に入る事になった。
エクセレンが言っているのはもう一つ、減給十ヶ月、の方だ。エクセレンは前の分もあるからな。合計で・・・一年か」
『うわ・・・』
その長さに、キラ達全員が声を漏らす。
「でも、トール。トイレ掃除って?」
キラが先程のミリアリアの言葉を思い出し問いかける。
「・・・キラが出た後、マードックのおっさんにすっげぇ怒られた・・・で、罰としてキャオさんと一緒にトイレ掃除1週間だと」
ミリアリアはちょうど、罰を言い渡された所を目撃しており、その時の事を思い出し、くすくすと笑っていた。
「キャオもか・・・」
「・・・サボらなきゃいいんだけどね」
トールの言葉を聞きながら、ダバとレッシィが呟いた。
「ゴメン! 僕も手伝うよ」
キラは笑ってトールに言うが、
「止めときな。キラが手伝おうとすると、キャオの奴がサボるからさ」
「うーわ。キャオさん信用ねえな〜・・・」
レッシィのキツイ一言に、トールが苦笑いを浮かべた。
キラ達が出て行った艦長室に、マリューとアムロが残っていた。
「ナタル、不満そうでしたね・・・」
マリューはキラ達に処分を言い渡した時の、ナタルの表情を思い出しながら言う。
「ああ。だが、彼等の行動に問題はあったが、結果的に艦を救い、ラクスを無事に返還しているんだ。
そう厳しい処分をしなくとも大丈夫さ」
アムロの言葉にマリューは安心した様に息を吐いた。
「フレイの事はフォウとファに先に話しておくよ。幸い、ロンド・ベル隊は彼女と年齢が近い者が多いからな」
アムロの言葉を聞き、マリューは心なしか肩を落し、
「・・・アムロ少佐、彼―――テンカワ・アキトでしたか―――が言った事を信じますか? 私は信じたくありません・・・
普通の少女である彼女が、復讐の為に動く可能性があるなんて・・・」
「・・・俺もそうは思いたいのだが・・・子供の頃に父親を暗殺され、その復讐の為に生き、ザビ家を倒した男を俺は知っているからな・・・
楽観してそれはないと言い切れない」
「・・・クワトロ・バジーナ・・・いえ、シャア・アズナブルの事ですね・・・?」
マリューの答えにアムロは静かに頷く。
「奴の様にさせない為にも、念の為、俺達も少し注意して見ておくんだ」
最後のアムロの言葉に、マリューは黙って頷いた。
フレイは、誰もいなくなった医務室で目を覚ました。
あの後そのまま気を失ってしまい、サイがフレイをベットに寝かしたのだが、その事に気付かずフレイは辺りを見渡す。
「あれ・・・? なんで、私ベットに・・・サイ・・・?」
事態が掴めずサイに聞こうと思わず呼ぶが、部屋には誰もおらず何だか不安になって来た。
「・・・どこにいったのかしら・・・?」
取り合えず、サイを探そうと思いフレイは部屋を出る。
当てがある訳では無いので艦内を歩きながら、適当な人を捕まえるか、部屋を覗いて見るかしようとした時、通路の先から
トール、ミリアリアの声が聞こえて来たので、フレイはそちらへ足を向けようとするが、
「この声・・・キラ・・・!?」
微かにキラの声もする事に気付き、フレイは思わず来た道を戻り、通路の影に身を隠した。
途中の通路で、キョウスケ達と別れるとトールは真顔になった。
「・・・本当はさ、ちょっと心配だったんだ・・・お前が戻ってくるかって・・・」
「え?」
「どういう事、トール?」
トールの言葉に、キラとミリアリアが聞き返す。
「ミリィ、他の人に言わないでくれよ? あの、イージスに乗ってんの・・・友達だったんだろ・・・ゴメン、あの時はそこから聞いてたんだ」
キラは驚いて立ち止まった。
ラクスを連れてた時に話は聞いていたと言っていたが、それはキラが彼女を返そうとしている所からだと思っていた。
(アスランの事からだと・・・かなり始めから!? あの時の会話、全部聞いていたのか!?)
あの会話を聞いて、トールは自分の事をどう思ったのか? と、キラの胸に不安がよぎった。
しかし、トールはキラの不安を吹き飛ばすかの様に笑い、
「―――でも、よかった。お前、ちゃんと帰って来たもんな!」
心底嬉しそうに言った。
その言葉を聞き、キラはあの時にした自分の選択が間違っておらず、ここに帰って来て本当に良かった、とそう思った。
だが、キラ達は気付かなかった、いや、気付くのは無理だっただろう。
彼等に武の心得は無く、枝分かれした通路の影にいる者の気配を感じる術は持ってはいなかったのだから・・・
「このままには・・・しないわ・・・・!」
話を聞いていたフレイは、地を這うような擦れた声を漏らし、その場を立ち去った。
フォウとファが食堂へ向かう途中、アムロに呼び止められ足を止めた。
「2人ともすまないが、少しいいか?」
「ええ。構いませんが・・・?」
ファが答えると、アムロは近くの部屋へと2人を促す。
「・・・どうしたんですか?」
通路では話せない事だとフォウは察すると、アムロに問いかけた。
「・・・あの戦闘の後、君達はフレイに会ったか?」
アムロが確認する様に問いかけてくる。
「私達、機体の整備が終わってから会いには行ったんですが・・・」
「その時は、あの子眠っていたので後でもう一度行こうと思ってたんです」
ファとフォウが医務室に行った時は、既にフレイは眠っており、少し後で行こうとしたら、例の騒ぎが起こったのでタイミングを逃していた。
「そうか・・・これは後でエクセレン少尉にも頼む事だが・・・フレイの事を少し注意して見ていてくれないか?」
「どうしてですか?」
首を傾げて問いかけるファに、アムロはアキトが言っていた事をそのまま教える。
「じゃあ、アムロ少佐はあの子が復讐に走ると?」
「・・・その可能性が否定できないんだ。万が一にも、そんな事をさせない為に頼まれてくれるか?」
フォウの言葉に苦い顔で返し、アムロが問いかける。
「フレイの事は私達も心配ですし・・・わかりました。 ロンド・ベル隊全員に知らせますか?」
「いや・・・誰に言うかは、2人とエクセレン少尉に任せる。俺もそれとなく見ておくよ」
「アタシから、逃げるなんて良い度胸だな・・・?」
「あうあうあう・・・・」
食堂でタスクを捕まえたカチーナが、指をパキパキと鳴らしながら詰め寄る。
「あの、中尉・・・彼は民間人ですから・・・」
ラッセルが何とかカチーナを宥めようとする。
「安心しろ、軍人なら全身の骨を粉砕する所だが、民間人だしな」
「そうそう、ここはデコピン一発で・・・」
タスクが提案をするが、
「アバラ12本粉砕で許してやる」
「それって、アバラ完全粉砕っすよ!!」
カチーナからの死刑宣告に思わずツッコミを入れる。
「中尉、そこまでにしたらどうですか? 充分、タスクも反省した様ですし・・・」
頃合を計り、カミーユがタスクに助け舟を出す。
「そうですよ、冗談はそれくらいで・・・」
サイも一緒にフォローするが、カチーナは平然と返す。
「アタシは本気で言ってるんだけどな?」
「目がマジだーっ!!」
タスクは叫び逃げようとするが、あっさりと捕まり、コブラツイストをかけられる。
「まあ、本当に粉砕する訳にもいかねえからな。こいつでカンベンしてやるよ!!」
「カ、カチーナ中尉・・・! ギ、ギブッす!!」
「・・・何の騒ぎ?」
タスクが痙攣してきた所で、ラトゥーニが食堂へと入って来た。
「おう、ラトゥーニ。ちょっとした、修正だ」
技を解き、カチーナがラトゥーニに返すと、サイは驚いて彼女の方を見た。
「なっ!? この子も軍人なんですか!?」
「そういや、紹介してなかったか? でも別に驚く事じゃないだろう? ロンド・ベル隊にだってラトゥーニと同じ位の子供が戦ってるんだしよ。
それに、下手したらラトゥーニの方がそいつ等よりも、腕が立つかもしれないぜ? スクールって言う特殊機関出身だからな」
「スクール!? という事は・・・アラドとゼオラと同じ機関の!?」
カミーユの言葉に、ラトゥーニが驚きカミーユに詰め寄る。
「!! 2人を知ってるの!?」
ラトゥーニの問いかけにカミーユは頷き、
「ああ。前の大戦時に共に戦った仲間さ。その様子だと、キミも彼等と同じ様に、仲間を探しているのか?」
「ええ・・・スクールが解散された時に、多くの仲間が死んでしまったけど、誰かは生きてると思って戦ってきたの・・・
ゼオラは生きていると思っていたけど、アラドも・・・2人は何処に?」
ラトゥーニは少しの望みを託して聞くが、カミーユはすまなそうに首を振り、
「2人は仲間を探すといって、部隊から、いや、軍から離れた・・・今、何処にいるかは流石に・・・」
「そう・・・」
肩を落すラトゥーニ。だが、カチーナが軽く頭をポンッと叩き、
「大丈夫だって、その内逢えるだろ。 生きている事が判ったんだからな」
「うん・・・」
少し時間が経ち、キラが食堂に入ると、激しく咳き込んでいるタスクが目に入った。
「・・・どうしたの、タスク?」
「ゲホッ!! いや、ちょっとな・・・」
ついさっきまで、落ちており未だに呼吸が整っていなかったのだが、何とか誤魔化す。
「・・・水、取ってこようか?」
「わりぃ・・・」
給水機に向かう途中、サイの直ぐ隣りを通ったのだが、先程のフレイの事がお互いに気に掛かり、どちらともなく視線を逸らした。
奥の方でカミーユと、フォウ、ファが話しているが、
「ア・・・が・・・!?」
「しん・・・でも・・・クワ・・・」
「念・・・フレ・・・フォロー・・・」
会話が途切れ途切れで聞こえてきた。しかし、距離が離れている為に内容までは聞き取れず、キラは大して気に留めなかった。
「フレイ・・・!?」
カップを取った所で、サイの声が聞こえキラが振り向くと、フレイが食堂へと入って来た。
「フレイ・・・その、大丈夫なのか? まだ休んでいた方が・・・」
サイが声をかけるが、彼の方を見もせず、フレイは真っ直ぐキラの方へと歩み寄っていく。
つい先日の出来事を思い出し、キラは思わず体を強張らせた。
フレイは俯いてキラの前に立ち、
「キラ・・・・・・あの時は、ごめんなさい」
「え・・・・・・・・?」
身構えていたキラは、彼女がしおらしい調子で言った事に反応できず、思わず聞き返した。
「あの時、私・・・パニックになっちゃって・・・凄い酷い事、言っちゃった・・・」
ちらと上げたフレイの目に、涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい・・・貴方は一生懸命戦って、あの時は自分も危なかったんでしょ? それでも、私達を、守って戦ってくれたのに・・・私・・・」
「フレイ! そんな・・・いいんだよ、そんなの・・・!」
キラは慌てて言うが、フレイは気が済まないという風に首を振り、言葉を続ける。
「私にも解ってるの! 貴方が、ロンド・ベル隊でも、軍人でもない貴方が、頑張ってくれているって・・・なのに・・・」
嫌われて、憎まれてしまっている事を覚悟していただけに、フレイの言葉にキラの胸がじわりと暖かくなる。
―――父親を亡くしたばかりで、辛いのに自分の気持ちをこんなに思ってくれている。
「・・・ありがとう、フレイ。僕こそ・・・お父さんを・・・何も守れなくて・・・・」
キラは言葉に詰まる。
「戦争って嫌よね・・・早く終わればいいのに・・・」
フレイが言った時、艦内に警報が鳴り響いた。
全員が警報に注意が向き、発したフレイの声が抑揚を欠いている事に気付かなかった。
『総員第一戦闘配備!! 繰り返す、総員第一戦闘配備!!』
「ザフト軍の追撃か!? キラ、先に行くぞ!!」
放送が流れると、カミーユ達はキラ達よりも先に食堂から出て行く。
「タスク! 動けるか!?」
「少し喉がいてぇが・・・なんとか」
サイがタスクに声をかける。
「あっ!? ゴメン、水」
キラは水の事を思い出し、立ち上がったタスクにコップを渡した。
「―――ふぅ。ったく、もう少しで合流だってのに・・・!」
タスクは水を飲み干し、キラ達と一緒に急いで食堂から出ようとして、通路を駆けていた避難民の女の子にぶつかってしまった。
「ごめん! 大丈夫・・・?」
尻餅をついてしまった幼女をキラは助け起こそうとするが、それを制する様にフレイが前に出て立ち上がらせる。
「ごめんねぇ、お兄ちゃん急いでるから」
彼女はニッコリと笑いかける。
女の子は、サイの軍服を見てフレイに問いかけた。
「また戦争なの?」
長い間軍艦にいた為、どの服装の人が忙しそうに動くと戦争が始まるのか理解できて来たのだろう。
「ええ。でも、大丈夫よ。このお兄ちゃんが、他のお兄ちゃん達と一緒に戦って守ってくれるからね」
「ほんとぉ?」
女の子はおずおずとキラを見上げると、フレイは力強く頷いた。
「うん、悪い奴はみんなやっつけてくれるんだよ」
「オイ、キラ! 早く行かないと、マードックのおっさんにどやされるぞ!?」
「わかった!」
先を行くタスクに呼びかけられ、立ち止まっていたキラは走り出した。
肩越しに一度振り返ると、フレイは女の子の手をつないでキラ達を見送っていた。
「そうよ・・・」
キラの姿が通路の先に消えた時、フレイが呟きだした。
「みんなやっつけてもらわなくちゃ・・・コーディネーターも・・・蜥蜴も・・・」
「―――い、いたぁい!」
フレイの手に突然力がこもり、女の子は鳴き声を上げてその手を振り払った。
フレイは彼女を見ようともせず、自分の手に力がこもった事にも気付かない。
その口元には切り裂かれた傷口の様な、冷ややかな笑みが浮かんでいた。
「ひっ!!」
彼女の顔を見た女の子は、何故か恐ろしくなり、短く悲鳴を上げるとベソをかきながら母親を探して駆け出した。
1人取り残された事に気付いた様子もなく、フレイは突っ立ったまま、調子の外れた声で何度も繰り返す。
「みんな、みぃんな・・・やっつけて・・・」
フォウとファは、更衣室でノーマルスーツを着ながらフレイの事を話し合っていた。
「フォウ、どう思う?」
「ひっかかるのよ・・・どうも・・・エクセレンの話だと、サイくんとフレイは婚約者同士で、仲が良かったのよね?」
フォウの確認にファは頷き返す。
「ええ。仲が良いのに、あの場で話しかけて来たサイに一言も無いのは・・・妙よね・・・」
「そうよね・・・それに、今のフレイの感じ・・・なんとなく『あの人』に似てると思わない?」
「『あの人』・・・?」
フォウの言う人物を思い出せず、ファは聞き返す。
「ええ・・・バルマー戦役でジュピトリアン側に付いて、遠い未来の世界で命を落とした人に・・・」
(・・・アムロ少佐の言うとおり、念の為、少し注意して置いた方がいいわね・・・)
少し時間は戻り、アークエンジェルが戦闘配備につく少し前・・・
ガモフのブリッジでは、イザーク達が宙域地図を見ながら意見を出し合っていた。
補給を終え、ヴェサリウスと一度は合流したのだが、別部隊にラクスを送り届ける途上があったので、
ガモフがアークエンジェル追撃を引き継いだのだ。
「補給を終えたとは言っても、ロンド・ベル隊と真正面から戦うのは分が悪すぎるな・・・」
ディアッカが難しい顔で唸る。
数の上でなら、ジンUを20機補給した自分達が上だが、ロンド・ベル隊には多少の戦略上の有利等は通用しない。
「ですよね・・・現に、ヘリオポリスでは僅か4機のロンド・ベル隊の機体で、リム以外の全ての機体が撃墜されてますし・・・」
ディアッカの言葉にニコルも頷きながら返した。
「ロンド・ベル隊さえいなければな・・・あの旧式とストライクの方は何とかなるんだが・・・」
「・・・それだ」
ディアッカの半ば愚痴の様な言葉に、イザークは思いついた様に声を漏らす。
「は・・・?」
意味が判らず、ディアッカは思わず聞き返す。
「それだディアッカ! 足つきとあの旧式、ストライクだけならジンUはいらない。オレ達だけで充分落とせる!!」
「どういう事・・・・・なるほど、そうか」
ゼルマンも最初は判らなかった様だが、直ぐに気が付き頷く。
「あの、どういう事ですか・・・?」
「いいか? まず部隊を3つに分けるんだ。足つきを直接落とすオレ達3機、そして、ジンUを10機ずつの2つの部隊に分ける。
最初にジンUを出撃させて、ロンド・ベル隊達を出来るだけ足つきから引き離す。
引き離した所で、10機が左右から後ろに回りこんで足つきへの道を塞ぐ。いくらロンド・ベル隊でも、
囲みを突破するのに多少時間が掛かるだろうからな。その間に、オレ達が足つきを攻撃し、落とす・・・これが作戦だ」
聞き返してくるニコルに、イザークが自分の考えた案を教える。
ニコルは作戦を聞き、頭の中で何度もシュミレートすると、幾つかの問題がある事に気付いた。
「でも、イザーク。幾つかの問題がありますよ? もし、誰かがこの作戦に気付いたら、僕たちは足つきとロンド・ベル隊に挟撃されます。
それに、足つきが月艦隊と合流するまでに追いつけますが、こちらが月艦隊の射程に入るまで10分しかありません。
その間に、これだけの作戦を展開し、足つきを落とせるかどうか・・・」
「なに、引き離せないんならこっちから出て、さっさと道を防いでしまえばいいのさ。それに、今まで落とせなかったのは
ロンド・ベル隊がいたからだ。連中が、アムロ・レイがいなければ、足つきを落とすのは10分でも充分だ」
「同感だ。怖いんなら残ってても良いんだぜ?」
ニコルの慎重論を、イザークとディアッカが笑い飛ばす。
「ヴェサリウスはすぐに戻ってくる。それまでに、足つきはオレ達で沈める・・・いいな?」
「OK。でも、お前、何時もみたくMSとか、アムロ・レイに目移りするなよ?」
「・・・わかってる。足つきに護衛MSがいなければ、今回は我慢する」
「今の間はなんだよ・・・・? ニコル、お前はどうする?」
やや呆れながら、イザークに返すと、ディアッカはニコルに問いかけた。
「・・・・仕掛けるのが決まっているのなら、戦力は多い方がいいでしょうし・・・わかりました」
躊躇っていたニコルも、結局は頷いた。
「ザフトはローラシア級1隻、ジンU20機です!」
ミリアリアが全機に状況を伝えると、アムロが怪訝な顔になる。
「ん? Xナンバーは出ていないのか?」
「はい。確認されていません」
「・・・妙ですね・・・」
ミリアリアの返答にキョウスケも怪訝な顔になる。
「ああ。タイミングからして、他の部隊とは考えにくいな・・・何かの作戦の可能性が高い、か・・・
念の為だ、キラとフラガ大尉は出撃を見合わせてくれ」
アムロが2人に指示を出した時、アストナージが通信を開いた。
「アムロ少佐、リ・ガズィの修理はまだ完全じゃありません。今回はBWSをパージしないでください」
「了解した。各機、出るぞ!」
アムロは頷きながら返し、各機に呼びかけ出撃していった。
「もう少しで第八艦隊と合流できます! それまで、持ち堪えて!!」
マリューは全クルーに向かって、鼓舞するように呼びかけたが、
「はっ! 何、言ってんだ! これだけの戦力があるんだぜ? 合流の前に蹴散らしてやるよ!!」
カチーナは聞こうともせずに、機体を加速させ、ジンUに攻撃を仕掛けていく。
しかし、ジンUは2連マシンキャノンをかわすと、ビームライフルを撃ちながら少しずつ後退していく。
「逃がすか!!」
カチーナはビームライフルを回避し、そのままジンUを追いかけていく。
(これだけのMSがいて、後退する・・・だと?)
キョウスケはそのジンUの動きに疑問を感じ、念の為、他のジンUの動きを観察する。
見ると、他のジンUも同様にビームライフルを放ち、反撃されると回避しながら徐々に後退をしていた。
その機体を囮にし、別角度から接近戦を仕掛ける様な気配もなく、全機が同じ行動をしている。
「アムロ少佐、この動きは・・・?」
カミーユも気付いたらしく、アムロに問いかける。
「ああ。中尉、あまり深追いはするな! 何かおかしい」
「小細工があるってのかい!? どの道、全機叩き落せば関係ない!!」
アムロの制止も聞かず、カチーナはそのまま機体を突出させた。
1機だけ突出させる訳にはいかないので、アムロ達も援護に向かう為に、徐々にアークエンジェルから引き離されていく。
「そうか!! アムロ少佐! これは、罠です!! アークエンジェルと我々を引き離す・・・」
敵機の動きを観察していたキョウスケが、作戦に気付き声を上げるが、少し遅かった。
後方から左右に分かれ回り込んでいたジンU達が、キョウスケ達とアークエンジェルの間に割り込んだ。
「くっ! 遅かったか!!」
キョウスケは舌打ちをしながら、回り込んできたジンUに3連マシンキャノンを放つ。
ジンUはそれを回避するが、そこを狙って放たれたヴァイスの3連ビームキャノンのよって貫かれた。
「あらら・・・私達は上手く、はめられたって訳ね・・・おろし金上のえび?」
「・・・まな板の上の鯛、だ。だが、奴等にとって鯛なのは我々ではなく、アークエンジェルだ」
キョウスケの言葉を証明するように、アークエンジェルから報告が入って来た。
『敵艦より、発進する機体を確認!! これは・・・デュエル、バスター、ブリッツです!!』
「あれだけのジンUを囮に使うなんて・・・!」
マリューは感心した様に呟きながら、敵の目的が理解できた。
ロンド・ベル隊を艦から引き離し、少数精鋭―――つまり、Xナンバー―――のみでアークエンジェルを沈める気なのだ。
ナタルもその事に気付き、苛立ちが顔に浮かび呟いた。
「ロンド・ベル隊がいなければ、どうとでもなると思っているのか・・・!!」
ここに到るまで、確かにロンド・ベル隊を頼りにしていたが、自分達も能力が及ぶ限り、最大限の努力をして来たつもりだ。
その努力を、能力をここまで軽く見られている事に怒りを感じた。
「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布!! ストライク、メビウス・ゼロ出撃!! イーゲルシュテルン作動、アンチビーム爆雷用意!!
艦尾ミサイル全門セット!!」
軽く見た事を後悔しろ、と言うかのように、アークエンジェルは分厚い弾幕を展開する。
3機のXナンバーが密集隊形をとり突っ込んで来る。
この弾幕を強行突破するつもりなのか、と思いきや3機は一気に散開し、その直後、今まで3機がいた空間を高出力のビームが貫いてきた。
MSがこちらの視線を遮り、ガモフの射線をギリギリまで隠していたのだ。
「面舵、回避!!」
アンチビーム爆雷が間に合わないと判断し、マリューは叫ぶ。
1発は回避に成功するが、あと1発がアークエンジェルに着弾する。ラミネート装甲のおかげで損傷こそ無いが、激しい振動が艦を襲う。
そこを狙い、バスターが高インパルス砲を構えるが、
「おっと!! やらせるかよ!!」
すぐさま、フラガがガンバレルを展開しながら攻撃を加える。
「くっ、またかよ!!」
ディアッカは苦い顔で毒つき、攻撃を止め回避行動をとる。
「この2機、艦に残っていたのか!? ニコル、足つきは任せたぞ!!」
イザークはニコルに一方的に告げると、ストライクにビームライフルを放った。
「くっ、この!!」
キラは何とか回避すると、ビームライフルを連射し撃ち返した。
イザークはシールドを構え、ビームライフルを弾きながら、強引にストライクへと接近する。
デュエルのシールドもアンチ・ビームシールドであるが故にの強行手段だった。
「なっ!? うわ!!」
その強引さにキラは驚き、一瞬反応が遅れて、デュエルの体当たりをまともに食らってしまう。
体勢が崩れた隙に、イザークはビームサーベルを抜き放ち振り下ろす。
「終わりだーーーっ!!」
「こ、のっ!!」
しかし、キラはストライクのバーニアを右片方だけ全開にして、勢いの乗った蹴りを放ち、デュエルを弾き飛ばした。
「ぐ!? こいつ・・・」
前に戦った時、格闘戦はビームサーベルだけではないと叫んだが、ストライクが短い期間でそれを実行してきた事に、
イザークは少なからず驚いた。
「少しばかり腕を上げたか・・・そうでなくっちゃな!!」
イザークは叫び、ストライクへと再度斬りかかって行った。
「バリアント、てぇーー!!」
ブリッツはバリアントを難なく回避すると、ふいに陽炎のように揺らいで見えなくなった。
「ブリッツをロスト!!」
サイが戸惑い気味に声を上げた。
「ミラージュコロイドを展開したんだわ!」
「アムロさん達がいないのに・・・!」
トールが弱気な声を上げるが、
「馬鹿者!! 誰が造ったと思ってるんだ!? 対策くらい、幾つでもある!!」
「ナタルの言う通りよ。アンチビーム爆雷! 対空榴散弾頭を!!」
ナタルの言葉に同意し、マリューは素早く指示を出し爆雷が発射された。
不意に何も無いように見える空間からビームが放たれ、爆雷に散らされて辺りを照らし出すと、すかさずマリューが叫ぶ。
「ビーム角からブリッツの位置を測定!」
「榴散弾頭、てぇーーー!!」
ナタルの号令とともに放たれたミサイルが、数十の弾頭に分かれ、算出された予測空間に殺到する。
「くっ!」
ニコルは慌ててミラージュコロイドを解き、フェイズシフトをオンにし、シールドを掲げ防御する。
すかさず、ナタルが続けて指示を出す。
「イーゲルシュテルン、手動に切り替えろ! ブリッツを集中砲火するんだ!!」
全てのイーゲルシュテルンがブリッツに集中し、ニコルは堪らず機体を一旦下がらせた。
「嘘みたい・・・姿の見えない敵に当てられた・・・」
ミリアリアが信じられないという様な顔で呟く。
「姿が見えないだけで、消えた訳ではない。本来ならこういう手で相手を探し、迎撃するんだ・・・私としては、アムロ少佐達みたいに、
気配を感じて、迎撃、攻撃して当てられる方が『嘘みたい』と呟きたいぞ・・・」
ナタルがため息をついて答える。
その言葉に、マリューもため息をつきたくなった。
今は敵機だが、元々は自分が開発に関わっていた機体で、ブリッツのコンセプトがセンサー、肉眼に察知されない、
何者にも気付かれない偵察能力を持った機体なのに、初使用時にあっさりとアムロに見破られ、機体を小破されている。
しかも方法が『気配を感じて』・・・極端な話、ニュータイプの勘、だ。
コンセプトそのものが、ニュータイプには通用しないと言われてる様な気がしてきてしまう。
マリューは息を吐いて、思考を切り替えた。
ブリッツはまだ攻撃そのものを諦めた訳ではないのだから・・・
「そういえば、元々はそちらの機体でしたね。ニュータイプがいなくとも、対処はバッチリか・・・」
一度機体を下がらせたニコルは、呟くと攻撃方法を変え、ビームライフルで突入する事にした。
(・・・タイムリミットまで後、7分・・・取り付ければ沈められるか・・・?)
ゼルマン艦長から、足止めだけで充分だと言われ、ジンUのパイロット達はあまり積極的に打っては出なかったが、
それでも、わずか3分の間に7機が落とされていた。
ジンU2機がリ・ガズィを狙い、ビームライフルを連射するが、アムロはBWSのまま回避しつつ接近し、ビームキャノンを2発放つ。
1機は直撃を受け爆発し、残る1機は運良く回避運動が取れたのでメインカメラを破壊されるだけに止まった。
「各機、戦闘能力を失った機体には構うな。 足が速い機体は囲みを突破し、アークエンジェルの援護に回るんだ」
『了解!!』
アムロの指示に全機が返す。
カチーナはビームライフルを右に左に回避しながら、機体をジンUへと肉迫させ、プラズマステークを構える。
「ぶっとべ!! プラズマステーク!!」
プラズマステークはジンUの胴体を貫き、ゲシュペンストが後ろに下がった瞬間、爆発した。
その爆炎を貫いて、別のジンUがビームライフルを放ってくるが、
「危ない!! 出力全開!!」
アルトアイゼンがカチーナの前に飛び出し、ビームライフルがアルトの目の前で拡散される。
「これを貫いても装甲がある・・・くってはやれん・・・!」
そのまま、キョウスケはアルトをジンUに接近させると、
「返しは痛いぞ・・・ステーク!! いけぇ!!」
リボルビングステークがジンUに突き刺さり、後ろに吹っ飛ばされ爆発する。
「キョウスケ、わりぃ」
「いえ・・・これで後7機・・・か。エクセレン、そっちはどうだ?」
アークエンジェルへの道を塞いでいるジンUと戦闘中のエクセレンに通信を送る。
「後、3機って所ね。今、カミーユとダバ君が突破したわ」
「そうか。キョウスケ、エクセレン少尉の方へ回ってくれ。残りの者は、このまま・・・」
エクセレンの通信を聞いていたアムロは、全機に指示を与えようとした時、
「!? アムロ少佐・・・識別不明機が接近中・・・! 数は30機、アークエンジェルにも10機向かっています・・・!」
ラトゥーニがレーダーに捉え、アムロに報告した時、それは全員の視界に入って来た。
「なんだ? あの機体は・・・?」
甲児が接近してくる、キューブの形をした識別不明機を見て呟く。
「新手の異星人でしょうか・・・?」
コウが意見を求める様にアムロに聞いてくる。
瞬間、殺気の様なものを感じ、アムロは全機に叫んだ。
「!? 全機、散れ!!」
その叫びにキョウスケ達、全員が反射的に反応し、その場から散開する。
事態が掴めず、1機のジンUがその場に取り残され、キューブ型から放たれたビームバルカンに破壊された。
「取り合えず、味方じゃねえみたいだな・・・」
甲児が呟き、キューブ型に狙いを定めた時、それは起こった。
先程、アムロにメインカメラを破壊され、行動不能になったジンUに1機のキューブ型が取り付き、コックピットハッチを破壊した。
「え・・・?」
ジンUのパイロットは何が起こっているのか理解できなかった。
次の瞬間、一瞬にして心臓を抉り出され即死したのだから。
その光景は比較的近くにいた甲児、カミーユから見えた。
「まさか・・・こいつら・・・!?」
呻く様に声を出す甲児に、カミーユは深刻な表情で頷き、
「ああ・・・こいつ等が、『刈取り』の実行犯だ・・・」
心臓を抉り出したキューブ型は、それを自分の内部に収納した。
しかし、収納して少し間が空いた時、いきなりそれを射出し破棄したのだ。
「なんだ、破棄した!?」
「どういう事なんだ・・・?」
ラッセルとキースが状況についていけず声をもらした時、ブリットはキューブ型の意識がこちらに向いている事に気付いた。
「こいつら・・・オレ達を狙ってる!?」
「攻撃だ!! いいか、コックピットの周囲に取り付かれるなよ!!」
アムロが全員に呼びかけた瞬間、全てのキューブ型がロンド・ベルに攻撃を開始した。
「この、念動フィールド!!」
放たれるビームバルカンを念動フィールドで弾きながら、ブリットはキューブ型へと接近していく。
「切り裂け!! インフェリア・ジャベリン!!」
ジャベリンを横に薙ぎ、3機のキューブをまとめて切り裂くと、後ろから1機のキューブが体当たりをしてきた。
「あまいぞっ!!」
ブリットは振り向く事無くジャベリンを後ろに突き出し、石突きの部分でキューブを叩き壊した。
(・・・妙だな、こいつらから僅かだが、意思の様なものを感じる・・・?)
アムロはビームバルカンを回避しながら、ノイズの様なものを僅かに感じていた。
(だが、この動きは無人機のものに近い・・・どういう事なんだ・・・?)
そう考えながらも、アムロはキューブ型2機とすれ違い様ミサイルを2発放ち、破壊する。
その進路を塞ぐ様に、3機のキューブが一斉にビームバルカンとミホーミングサイルを放ってくるが、
「みえるっ!!」
ビームバルカンを回避しながら、ビームキャノン発射し全てのミサイルを撃ち落すと、そのまま3機にビームキャノンを撃ち返す。
今の集中砲火を回避されるとは思っていなかったのか、3機は回避運動も出来ずに破壊された。
キューブが放つ数多くのビームバルカンやミサイルをものともせずに、甲児はマジンガーZを加速させる。
「超合金Zは、こんな攻撃じゃビクともしないぜ!!」
甲児は叫び、更にマジンガーZを加速させ、キューブの射線上にスクランダーを合わせる。
「くらえっ! スクランダーカッター!!」
超合金Zの翼によって、射線上にいた2機のキューブが真っ二つにされる。
マジンガーZを反転させ、更に後方から追いすがってくる4機のキューブに狙いを定める。
「ドリルミサイル!!」
咄嗟に散開するが、間に合わず3機のキューブは発射された大量のミサイルの餌食となった。
「逃すかよ! ロケットパーンチ!!」
何とか回避できたキューブも、続けて放たれたロケットパンチに貫かれ爆発する。
「なんでぇ、結構脆いじゃねえか」
「甲児、上!!」
コウが甲児に教えるが、少し遅かった。
何時の間にか上に散開していたキューブが、パイルダーに取り付いた。
防御用の高出力電流が流れるが、怯みもせずにキューブは機体を固定させる。
「このっ! 離しやがれ!!」
甲児が片手で引き剥がそうとするが、肩に2機のキューブが取り付き腕の自由を奪う。
「やばい! 甲児!!」
「動かないで・・・!!」
キースが叫んだ瞬間、ラトゥーニがパイルダーに取り付いているキューブに、ビームキャノンを放った。
少しでも狙いが下だったら、パイルダーに直撃し、上過ぎても致命傷にならず甲児の命はない。
しかし、ラトゥーニの放った一撃は上すぎず、下すぎずベストな所に命中し、その機能を停止させた。
「助かったぜ! この、何時まで張り付いてんだよっ!!」
甲児はロケットパンチを操作し、肩に張り付いているキューブに直撃させる。
ロケットパンチとマジンガーZのボディに押しつぶされ、1機のキューブが爆発すると肩を振り回してもう1機を振りほどいた。
キューブが再び張り付こうとするが、後ろからプラズマステークを叩き込まれ爆発する。
「オイ、甲児!! マジンガーZとかは操縦席がモロ見えなんだ。 こいつ等にとってはカモにしかなんねぇぞ!!」
「うるせぇ!! ボスボロットよかマシなんだよ!!」
パイルダーに残っている残骸を取りながら、カチーナに怒鳴り返し、先程から攻撃をしてこないジンUに目を向けた。
「こいつ等・・・さっきから攻撃してこないな・・・?」
ジンU達は現在、アムロ達に攻撃を仕掛けず、必死で回避運動をとったり、近づくキューブにビームライフルを連射して己の身を守っていた。
「まあ、いきなり味方があんな殺され方したんだ・・・無理もない様な気もするけどな」
カチーナは苦い顔をして答える。
「各機へ、ザフト軍が攻撃してこないのなら手を出すな。刈取り部隊への攻撃を優先させるんだ」
『了解!!』
アムロの指示に応え、全機は散開していった。
ビームバルカンをファは何とか回避するが、そこを狙いホーミングミサイルが飛来してきた。
「この!」
ビームガンを連射し、撃ち落そうとするが5発撃ちもらしてしまう。
(あたる・・・!?)
ファがそう覚悟した時、横からビームライフルが飛んできて残ったミサイルを全て撃ち落した。
「ファ、下がって!!」
フォウが叫びながら、ビームライフルをキューブに向かって連射する。
1発が命中し、体勢が崩れた所に更に1発命中してキューブが爆発する。
爆炎を突っ切り、2機のキューブが体当たりをしてくる。
フォウはビームライフルで迎撃するが、2機は被弾しながらも突っ込んで来る。
「くっ! MK-Uの出力じゃあ・・・なら!」
ハイパーバズーカに持ち替え、拡散弾タイプで発射する。
これは流石に食らう訳にはいかず、2機はとっさに回避行動をとるが、
「そこそこぉ! いただきっ!!」
エクセレンがそこを狙い、別の角度からオクスタンランチャーで2機まとめて貫いた。
「接近させる訳にはいかないから、ヴァイスちゃん向きの戦いになるわね」
エクセレンは言いながら、オクスタンランチャーを別のキューブへと向け発射する。
キューブが高出力のビームに撃ち抜かれ、別のキューブがホーミングミサイルを発射してくるが、バーニアの出力を最大にして一気に振り切った。
「それは当たんないでしょ。さようなら〜」
「油断するなエクセレン!! 下だ!!」
キョウスケが警告するが、既にキューブがヴァイスの下から急接近をして来ていた。
「やばっ!!」
回避しようとするが、間に合わず懐に入り込まれコックピットハッチを破壊される。
(あらら・・・美人薄命ってやつ?)
内心で呟いて最後の覚悟をするが、キューブはエクセレンを見ると、何を思ったのかそのままヴァイスから離れていった。
「・・・あら?」
エクセレンが不思議そうに首を傾げる。
離れたキューブは、全速で向かってきたアルトのステークで破壊される。
「エクセレン、無事か!?」
「ええ・・・ハッチは壊されちゃったけど・・・」
エクセレンの言葉を聞き、キョウスケは一つの疑問を覚えた。
(ハッチを破壊しておきながら、エクセレンを見逃すだと・・・? 先程のコーディネーターの事といい、
奴等が『刈取る』対象には何か基準があるのか・・・?)
心臓が抉り出される所を見た、ゼルマンは通信をイザーク達に送った。
「イザーク、ディアッカ、ニコルそいつ等は『刈取り』事件の犯人だ! 1人やられたが、それ以降我々には手を出さないみたいだ。
念の為、注意だけはしておけ!!」
続けて、ジンU各機にも呼びかける。
「そいつ等は『刈取り』事件の犯人だが、我々には手を出さない様だ。念の為、注意だけはして、作戦を続行せよ」
とは言うものの、ジンUのパイロット達の士気が低下している事は、ゼルマンは判っていた。
実際、今の通信の効果はなく、ジンUの動きが逃げ腰になり、ロンド・ベル隊の足止めという任務を忘れ、
キューブにのみ注意が行っている事が、ブリッジにいても掴めた。
(・・・無理もないか。パイロットは全員、子供といえる年齢だからな・・・逃げ出したり、パニックに陥らないだけ救いがあるか・・・)
ゼルマンは胸中で呟くと、少し考えて頭を振り考え直した。
(いや・・・何よりの救いは、戦っていた部隊がロンド・ベル隊という事か・・・他の連中ならば、今の内にジンUを攻撃しただろうからな・・・)
そう、ロンド・ベル隊は現在ジンUへの攻撃は中止し、キューブ型への攻撃のみ行っている。
他の連邦の部隊ならば、否、どんな軍隊でも浮き足立った敵勢力への攻撃は確実に行うだろう。
その場では脅威にならないが、それを乗り越えれば敵になる事には変わりはないのだから。
「だが、部隊が恐惶に陥るのも時間の問題でもある、か・・・敵艦隊の射程まで、後どのくらいだ?」
「後、1〜2分ほどです」
ゼルマンはレーダー士の答えに頷き、『どの道、頃合か』と呟くと、
「撤退信号を放て! この宙域から離脱する」
時間は少し戻り、ゼルマンの指示が出る少し前・・・
ストライクのビームサーベルをシールドで受け流し、デュエルはビームサーベルを突き出す。
キラは機体を半身捻ってかわし、一度距離をとった。
その時、視界の端にキューブ型が映り、3機がアークエンジェルに向かっていた。
「あれは・・・?」
「なんだ・・・?」
キラとイザークはキューブ型の正体が判らず、首を傾げる。
『キラ、フラガ大尉すまない。刈取りの機体3機、撃ちもらした!!』
『イザーク、ディアッカ、ニコルそいつ等は『刈取り』事件の犯人だ! 1人やられたが、それ以降我々には手を出さないみたいだ。
念の為、注意だけはしておけ!!』
キラ達の方にはカミーユから、イザーク達にはゼルマンから通信が入る。
『刈取り・・・こいつ等が!?』
キラ達全員がほぼ同時に呟く。
「アークエンジェルが危ない!!」
キラはアークエンジェルに向かおうとするが、イザークはその進路を塞いだ。
「ディアッカ、ニコル、そいつ等に手は出すなよ! オレ達の目的は足つきの撃沈なんだからな!!」
ストライクに斬りかかりながら、イザークが告げる。
「くっ、通してくれ!! このままじゃ、アークエンジェルが・・・!!」
ビームサーベルを受け止めながら、キラは呻く。
『キラ! 戻って!! ブリッツと『刈取り』機に・・・・!!』
後半の方はミノフスキー粒子の影響で聞こえなかったが、状況はキラの所からでも見て取れた。
ブリッツがアークエンジェルに取り付き、近距離からビームライフルを連射している。
キューブ型も分厚い弾幕を掻い潜りながら、徐々にアークエンジェルへと接近していく。
「ちぃ! させるかっ!!」
フラガが吐き捨て援護に回ろうとするが、
「おっと、行かせるか!!」
ディアッカが高インパルス砲を散弾型に切り替え、発射する。
「ちぃ!!」
フラガは舌打ちをしながら回避し、続けてガンバレルを展開する。
「へっ!! いい加減、慣れて・・・」
馬鹿にした様に鼻で笑い、回避行動を取ろうとするが、ガンバレルからはビームが発射されなかった。
「げっ!! フェイント!?」
「いい加減、慣れてきてると思ってたからな!!」
フラガは叫び、ビーム砲を放った。
ディアッカは慌ててバーニアを吹かすが、間に合わず左脚に被弾し破壊される。
「この、間に合え!!」
フラガは機体を反転させ、全速でアークエンジェルへと向かっていった。
「ち・・・! 待て!!」
左脚を失いながらも、ディアッカはフラガの後を追う。
「ラミネート装甲内、温度上昇!! このままでは破壊されます!!」
サイの報告が入って来て、ナタルは顔を顰める。
「ロンド・ベル隊とフラガ大尉達は!?」
「ロンド・ベル隊は刈取り部隊と思われる機体と交戦中、ストライクはデュエルに阻まれています。現在、フラガ大尉がこちらに向かっています」
「刈取りの機体を取り付かせないようにして!! 移住区周辺、ブリッジ、カタパルトにでも取り付かれたら取り返しがつかないわ!!」
マリューが指示を出した途端、再び艦が激しく振動し、装甲から煙が上がり始めた。
「装甲内、更に温度上昇!! 後、3、4発受ければ持ちません!!」
その光景を見たキラの耳に、フレイの声が蘇った。
『このお兄ちゃんが、他のお兄ちゃん達と一緒に戦って守ってくれるからね』
(沈めさせるものか・・・! 今度は守ってみせる・・・!!)
その瞬間、キラの中で『何か』が弾けた。
振り下ろされるデュエルのサーベルがスローに見える。
バーニアを吹かして上に回避すると、そのまま背後に回り込みビームサーベルでデュエルの脇を薙ぐ。
「なっ!? 動きが!?」
いきなりストライクの動きが変わった事に驚きながら、イザークは機体を前進させる。
あの場所を動かなければ、2つに断たれると判断してだった。
キラはそこまで読んでいたのか、デュエルが前に逃れると同時にバーニアを全開にし、一直線にアークエンジェルへと向かって行く。
「逃がすかっ!!」
イザークは叫びビームライフルを連射するが、キラは速度を落とす事無く右へ左へと回避しながら、徐々にその距離を開けていく。
ストライクの進路上に、キューブが2機立ち塞がりビームバルカン、ホーミングミサイルを放ってくる。
しかし、その動きも何故かキラは遅く感じていた。
ビームバルカンの発射向き、何処にミサイルが飛んでくるのか全て読めた。
直進しながら、最小限の動きでビームバルカンを回避し、ミサイルも2、3発撃ち抜き、近くにあるミサイルと共に誘爆させる。
爆炎に紛れキューブに近づき、すれ違い様ビームサーベルを一閃し、2機を2つに断つ。
そのまま速度を保ち、アークエンジェルに攻撃を続けているブリッツへと斬りかかって行く。
「やめろォォォォッ!!」
キラが斬りかかると、ブリッツはその場を飛び退こうとするが、『今は』キラの反応速度のほうが速かった。
あっという間に、飛び退いたブリッツに追いつき膝蹴りで胴を蹴り上げた。
その瞬間、追いついてきたイザークが背後からサーベルを振り下ろす。
「もらったーーー!!」
キラは膝蹴りの勢いのまま機体を回転させ、回し蹴りを放つ。
「がっ!? なに!?」
この状況で、しかも死角から蹴りが飛んでくる事はイザークも思ってはおらず、頭部に回し蹴りがまともに入り機体が横に流れる。
追い討ちをかける様に、アーマーシュナイダーを1本取り出し、デュエルへと投げつけた。
イザークが機体を立て直した時、頭部メインカメラにアーマーシュナイダーが突き刺さり、モニターがブラックアウトする。
「モニターが!? サブカメラ!!」
イザークが急いでサブカメラに切り替えた瞬間、一瞬の内に接近したストライクが、先程サーベルが当たった所に
アーマーシュナイダーを正確に突き刺した。
激しいスパークがデュエルに走り、コックピット内はその所為で小規模の爆発が起きる。
「!? うわっ!!」
爆発した破片がコックピット内を弾きまわり、バイザーを貫通してイザークの顔に直撃する。
傷口を押さえるのにイザークは操縦どころではなくなり、デュエルは慣性のまま宙を漂う。
「イザーク! どうしましたか!? イザーク!?」
「痛い・・・痛い・・・痛いっ・・・!」
ニコルはブリッツを接触させ、通信を開くがそこからはイザークの呻き声しか聞こえてこない。
「くっ、ディアッカ!!」
『どうした、ニコル!?』
「イザークがやられました」
『なっ!? 嘘だろ!?」
ニコルの言葉にディアッカが目を剥き、聞き返す。
今回、自分達の相手にはロンド・ベル隊はおらず、旧式とストライクだけだった筈だ。
いくら相手が同じXナンバーだからといって、イザークが負けるなんて事が信じられなかった。
「それに、もう少しで敵艦隊が来ます。この状況では・・・」
ニコルが何を言おうとしてるのか察し、苦々しくディアッカが後を続ける。
「沈めるのは無理、か。俺のバスターも左脚持っていかれたし・・・退くぞ」
その直後、皮肉にもガモフからも撤退信号が上がった。
アークエンジェルの甲板に立ち、キラは退いていく2機を見送った。
(―――守りきれた・・・)
キラは大きく息を吐き、一度目を閉じるが、
『キラ!! 前!!』
ミリアリアの声に反応し、反射的に顔を上げると、目の前にキューブが1機迫ってきていた。
「! まだいたのか!?」
慌ててキラは再度戦闘態勢をとろうとするが、それよりも早く、脇から飛んで来たビームにキューブが貫かれる。
「え・・・?」
『コラ、坊主! 油断するなっての』
フラガが半分からかいを含んだ調子で告げる。
『でも、まぁ、アムロ少佐達の力を借りないで、連中を撃退できたんだ、よくやったぜ・・・オイ、キラ?』
「フラガ、大尉・・・?」
呟いた途端、急に夢から覚めた様な気持ちになり、キラはキョロキョロと辺りを見回す。
(なんだったんだ・・・一体・・・? あの五感が研ぎ澄まされた様な感覚は・・・?)
『キラ、お前・・・』
覚えてないのか? と聞こうとするが、フラガは苦笑いして止め、
『・・・いや。凄い奴だよ、お前は』
その賛辞も、キラはまるで自覚がない、ぽやっとした表情で聞いていた。
その時、ミリアリアから『敵機、全て撃退を確認』という通信が入って来た。
帰艦する途中で、キョウスケがエクセレンと甲児に通信を開いた。
「・・・2人とも、刈取り事件に関する詳しい資料を持ってきているか?」
「キョウスケ、私が持ってきてると?」
エクセレンがにこやかに問い返してくるが、
「すまん。聞く相手を誤った・・・甲児、どうだ?」
「持ってきてないのかよ、アンタ・・・。俺は持って来てはいるが、全部じゃないぞ? 必要なのは何の資料なんだ?」
甲児がエクセレンに呆れながら、キョウスケに聞き返した。
「・・・被害者リスト、出来れば出身地等の詳しい情報が載っているのだが・・・」
その言葉に甲児は難しい顔をして、思い出そうとする。
「・・・わりぃ、そこまでのは流石に持ってねえや。ただ、この事件は連邦軍も調査してる筈だからな。
第8艦隊に合流すれば資料は見れると思うぞ?」
「そうか。すまんな」
キョウスケは短く返し、自分の考えをもう一度整理した。
(被害者の共通点が俺の思っている通りなら、エクセレンは・・・)
一方その頃、ラクスを乗せたヴェサリウスは、別部隊と合流していた。
「お迎えに上がりました」
アスランが声をかけてドアを開けると、目の前にピンクの塊が飛び出してきた。
『ハロハロ・アスラーン、ゲンキカ?』
彼は飛んで来たハロを、慌ててキャッチした。
「ナイスキャッチ。 何時より、元気なんじゃないのこの子?」
先に部屋に来ていたリムが、ハロを見ながらラクスに問いかける。
「ええ、久しぶりにアスランに会えたので嬉しいみたい」
にこやかに言うラクスの笑顔に、アスランは一瞬見とれてしまい、慌てて目を逸らしながら返す。
「ハロに感情プログラム等はつけてませんよ」
「さてと・・・席、外すわね? 2人の邪魔をしちゃ悪いし」
リムが最後の言葉をラクス達に向かって言う。
「リム、茶化さないでくれ」
アスランが赤面してリムの背中に文句を言うが、彼女は聞かずに、
「ごゆっくり、どうぞ。 ランチの方は事情話して、少し待ってもらうからねー」
手をひらひらさせ、振り返らずに退出していった。
リムが退出し、僅かに沈黙が訪れるが、アスランは意を決してラクスに話しかけた。
「あー・・・その、ご気分はいかがですか? その、人質にされたりとかいろいろありましたから・・・」
「わたくしは元気ですわ。あちらの艦でも、ロンド・ベル隊の皆様や、貴方のお友達が良くしてくださいました」
「・・・そうですか」
苦い物を含んだ様な顔で、アスランが応える。
彼の顔を見て、ラクスがふっと寂しげに笑った。
「キラさまは、とても優しい方ですのね。そして、とても強い方・・・」
あの時、キラは頷いてこちらに来ればあの艦で感じていた疎外感からは開放されただろう。
しかし、彼はそれを選ばず友達を守る為に、あえて辛い道を進む事を決意した強い意志を持っている・・・
ラクスがそう言いたい事は、アスランも判っており、自分もそれに気付いて、あの場で無理矢理連れて行くという選択肢を取らなかったのだが。
それでも、彼は感情に任せて叫んだ。
「あいつは・・・馬鹿です!!」
理性は止まれと命令しているが、一度爆発した感情は簡単には止まらず、そのまま言葉が続いた。
「軍人でも、ロンド・ベル隊でもないのに、まだあんな物に乗って戦う気なんだ!! あいつは、自分が利用されている事を知らない・・・
いや、考えてないんだ!! ナチュラルに『友達』とかなんとか言われて、それを真に受けて・・・!
ナチュラル全部が、ロンド・ベル隊の連中の様な人間じゃないって事を考えてないんだ! それに、あいつの両親はナチュラルだし・・・だから!」
ラクスがアスランの髪に触れながら、悲しげに言う。
「貴方と戦いたくはない、とおっしゃってましたわ」
「俺だってそうです! 誰があいつと・・・!」
そこまで叫んでから、ラクスの手が頬に触れている事に気付き、我に返った。
ラクスは包み込む様な深い瞳で彼を見上げている。
アスランは気恥ずかしくなって、慌ててその身を引く。
(彼女とこんなに話したのは、初めてだな・・・何時も、隣りにリムが居て話を盛り上げてくれてたからな・・・)
胸中で呟くと、何とか感情を抑え、出来るだけ事務的な声をつくった。
「流石に、ラコーニ隊長を何時までも待たせる訳には行かないでしょう・・・ランチへ」
「辛そうなお顔ばかりですわね・・・この頃の貴方は・・・」
先立って部屋を出ようとするアスランに、ラクスが悲しげに小さく呟く。
「・・・笑って戦争を出来る人間にはなりたくありませんよ・・・」
冷たく返すアスランに、ラクスは胸中で返した。
(それでも・・・ロンド・ベル隊の人達の様に、辛い時でも笑って欲しいんです・・・私は・・・)
先に部屋を出たリムが格納庫へ入ると、優華隊が集まって話していた。
「白鳥少佐、我々はこれから・・・?」
京子が白鳥に問いかける。
「我々は、一度本国に戻る事になります。この辺りに跳躍門はないので、ラクス殿と共にプラントへ向かい、あちらの跳躍門で帰る事になります」
「・・・本来なら、あのまま月へ攻め入ってたんですけどね・・・」
「仕方がないだろう、飛厘? 出て来た時に出会った部隊がロンド・ベル隊で、こちらの戦力の6割がやられたんだからな。
それに、あのナデシコという艦・・・テンカワ・アキトだけじゃなく、腕が立つのが何人かいる様だしな」
万葉があの時戦った機体、ガイの事を思い出しながら返す。
「万葉どことなく、嬉しそうたい・・・」
「ん? そうか?」
三姫の問いかけに、少し首を傾げて万葉は聞き返す。
(・・・? 零夜さん達がいない?)
リムは優華隊の中に、零夜と枝織の姿がない事に気付き首を傾げた。
「北ちゃん・・・大丈夫?」
「・・・平気・・・だ・・・!」
その時、背後から零夜達の声が聞こえて来たので、リムは振り返った。
零夜に肩を借りながら、紅髪の女性が青い顔で歩いてくるのが見えた。
(枝織・・・ちゃん? でも、気配が・・・違う・・・?)
この場で考えるよりも、本人に聞いた方が早いとリムは判断し、零夜達の方へ歩み寄っていく。
「零夜さん、手を・・・」
貸しましょうか? と言おうとした時、リムは強いアルコールの匂いに気付いた。
「!! 枝織ちゃん・・・お酒、飲んだ?」
「・・・俺は、枝織じゃない・・・北斗・・・だ。誰だ、貴様・・・?」
鼻を押さえながらのリムの問いかけに女性、北斗は胸を押さえながら不機嫌に返した。
その言葉と、表情でリムは大体の状況を察し、零夜に確認を取る。
「ねえ、枝織ちゃんと北斗さんって・・・多重人格者なの?」
その言葉に零夜は少し嫌な顔をするが、自分の口から北斗達の過去を語る訳にもいかないので、
「・・・まあ、そう思ってくれて問題ないよ。って、北ちゃん! 何でお酒なんか飲んだの!?」
簡単に返し、北斗に詰め寄った。
「大声を出さないでくれ、頭に響く。俺が飲んだわけじゃないぞ? いきなり枝織が『北ちゃん、交代』って言って、奥に引っ込みやがった」
耳と頭を抑えながら、北斗が自分が知っている範囲の説明をする。
「それで元に戻った途端、この有様だ。アイツめ、何時もは喧しく話しかけて来るのに、今、呼んでも返事をしやがらない・・・」
忌々しげに北斗が吐き捨てる。
「でも、枝織ちゃん何時の間にお酒なんで飲んだのかしら?」
「あの、それ以前に、軍艦にお酒があるんですか?」
「それは―――」
「その酒はあいつの、船医が勝手に持ち込んでるものですよ」
リムが説明しようとした時、聞いていたのかクルーゼが話に割って入る。
「隊長・・・! いいんですか? 言ってしまって・・・?」
「何、構わんさ。私が何度奴に言ってると思ってる? それでも聞かんのだからな」
リムの言葉にクルーゼは、やや呆れたように肩をすくめて返し続ける。
「おそらく、あいつが枝織殿に酒を勧めたのでしょうな。ディアッカも医務室で休んでいる時に、勧められた事があるといってましたし。
まあ、その時は頷く前に、サボっている所をリムに発見され、連行されたのですが・・・」
「そういうのって、ザフトの軍規だと厳罰ものなんじゃ・・・?」
「確かにその通りです。船医が酒を持ち込んでいる事は私だけでなく、大勢が目撃してるのですが・・・」
「どういう訳か、あの不良船医、アルコール反応が出ないのよ。しかも、部屋中探しても空瓶一つ出てこなかったし・・・」
クルーゼとリムが過去に行った一斉調査の事を思い出しながら、零夜に返した。
「・・・何者なんですか?」
「さあ? 部隊中、いえ、プラント中探しても答えられる人はいないんじゃないかしら・・・?」
(・・・いえ、この1人を除いてね・・・)
胸中で一言つけたし、ちらりとクルーゼを見てから、リムが零夜に答える。
「・・・アイツ、これが嫌で俺と交代したな・・・! 零夜、ランチの方に先に行ってるぞ・・・」
「あ、私も行くよ。北ちゃん1人で歩けそうもないし」
零夜はリムとクルーゼに軽く頭を下げ、北斗と共にランチへと歩いていった。
北斗達がランチに乗り込んでから少し経つと、アスランがラクスを連れて格納庫に入って来た。
「あら、早いじゃないの? もう少しゆっくりでも良かったのに」
「リム・・・こちらの都合を考えて言ってくれ」
リムの言葉にラコーニが呆れて返した。
クルーゼの前で足を止め、ラクスが軽く頭を下げた、
「クルーゼ隊長にも、いろいろとお世話をおかけしました」
「いえ。お身柄はラコーニが責任を持ってお送りするとの事です。故あって、優華隊の方々と一緒の船旅になります」
クルーゼがにこやかに一礼し応じる。
(隊長は、先程の戦闘でラクスに介入された事を気にしてないのか・・・?)
クルーゼの表情を見て、アスランは少し疑問を感じた。
彼の胸中に気付く事無く、ラクス達はそのまま会話を続ける。
「ええ。来る途中でアスランから聞きました。ヴェサリウスは追悼式典に戻られますの?」
「さあ・・・わかりかねます」
「戦果も重要な事でしょうが、犠牲になる者の事もどうかお忘れなきよう・・・」
軽くいなすクルーゼに、ラクスは冷ややかな目で見据えて言う。
「・・・肝に銘じましょう」
クルーゼは動じた風もなく、薄く笑い答える。
2人のやり取りに、アスランは動揺していた。
ラクスが女王然とした―――いや、駆け引きを弄する老成した政治家の様な表情をするとは思わなかったからだ。
それは、あまり顔を合わせる事のないクルーゼも同じ筈なのだが、彼は動じた風もなく応じている。
リムも驚いた風もなく、その光景を見ているので、
(俺が彼女の持っていた、要素を見落としていただけなのか・・・?)
アスランは、やや俯きながら胸中で呟き、婚約者として少し情けなくなる。
だが、アスランとリムに向き合った時、彼女はいつもの穏やかな顔に戻っていた。
「貴方達の分まで式典では祈りますわ」
「すみません・・・式典には出れそうもないですが、俺も此方から祈りますよ」
「・・・私の方は、いいわ。父さんの命日は確かにあの日と同じだけど、犠牲者って訳じゃないし・・・最悪はん「ストップです」」
リムの言葉をラクスが遮る。
「わたくしは貴女のお父様にお世話になりました。例え、プラント中がどう言おうと、わたくしは貴女のお父様にも祈りますわ」
「・・・少しは立場を考えて言いなさいって。貴方の立場で、父さんを擁護する発言はやばいんじゃないの?」
リムはやや呆れながら―――少し嬉しそうに―――ラクスに返す。
ラクスは心配しないでください、と言う様に微笑み最後に一礼してランチへと乗り込んだ。
ランチがエアロックへと移動した後、リムがアスランに話しかけた。
「・・・キラ君と戦う事にしたんだって?」
「!?」
その言葉と内容に、アスランは少なからず動揺する。
「あの子から聞いたわ・・・いいの? 本当に・・・?」
真剣な表情で、リムが確認するように聞く。
「―――ああ。今度戦場で会った時は・・・俺が、あいつを撃つ・・・!」
覚悟していた事だが、口に出すのに抵抗があった。
「そう・・・なら、私も止めないけど・・・アスラン、前に私が言った事、覚えている?」
「え・・・?」
その問いかけにアスランは一瞬詰まるが、直ぐにその時の言葉を思い出した。
『自分にとっての重要な情報は極力隠すか誤魔化すか、した方がいいわ。
今回の様に自分と部隊、両方に重要な情報は、報告するかしないかは自分が選びたい方を選択しなさい。
出来るだけ後悔しないで済むほうをね・・・』
「・・・この間、言っていた事か・・・?」
アスランの確認に、リムは一つ頷き、
「そうよ。言っとくけど、どっちつかずの選択はしない方が身の為よ。でないと、貴方は何も得ずに、自分と部隊にとって大切な『モノ』を失う事になるわ」
「えっ・・・? どういう事だ・・・?」
訳が判らないと言う様に聞き返してくるアスラン。
しかし、リムは答えずに格納庫から立ち去ろうとする。
「あ、それともう一つ。『自分は一体誰なのか』をよく考えなさい。そうすれば、少なくとも全てを失う事にはならない筈だから」
出入り口で振り返り、それだけ言うと今度こそ、リムは格納庫から立ち去っていった。
(少なくなってきたか・・・そろそろあいつに貰いに行くか・・・)
クルーゼは自分のポケットに入っていたケースを見て、胸中で呟いた。
「隊長」
背後から声をかけられ、クルーゼは胸のポケットにケースを入れながら振り返る
「リムか・・・どうした」
「一つ、お聞きします・・・何故、先程出撃されたのですか?」
リムは真正面からクルーゼを見据えて問いかける。
「ふむ・・・その理由が解らないキミではないと思ってたのだがな・・・?」
冷ややかな笑みを浮かべて、クルーゼが返す。
「・・・そうですか。では、聞き方を変えます。ラクスの性格、立場からして、あの子が戦闘を停止させる事は、隊長は予測出来た・・・
いえ・・・『知っていた』筈です・・・何故ですか?」
その言葉に、クルーゼは少し顎を引いた。
「・・・それでは、私が『未来を読める』様な言い方だな? そう思っているのかね?」
リムは肩を軽くすくめて答える。
「まさか。私は、隊長ならその辺りまでは読んでいると踏んでいるんです。これは、私の買い被りですかね?」
「その通りだ。ラクス嬢の性格、立場は私も熟知していたつもりだったのだが・・・彼女は思っていたよりも強い様だ・・・
あのリリーナ・ドーリアンの様にな。そこを読み違えたのさ。いくら彼女でも、ああも堂々と止めるとは思っていなかったのでね」
「・・・まあ、私もたまに驚かされますけど・・・解りました。では、失礼します」
軽く敬礼をし、リムはその場から立ち去っていく。
(・・・まさか、リムも・・・? いや、気のせいか・・・?)
クルーゼは軽く頭を振ると、医務室へと歩みを進めていった。
第十五話に続く
あとがき
作:うーん。微妙にスランプ気味です。戦闘シーン等の構図が頭に浮かんでも、形になかなか出来ない・・・
なっても、浮かんだ物とは微妙に違う様な気が・・・?
愚痴はこの辺にして、アラドとゼオラ、やはり出番がある事になりそうです。なーんか当初の予定よりだんだん増えていってるぞ・・・キャラが・・・
登場は、だいたい『ミスリル』の皆さんと大体同じ位になるかと思います。
そうすると、『第2次』のエンディングと合わない、と言う人もいると思うので、少し書いときます。
この世界でのガン・エデンとの決戦は、クスハルート寄りになります。
つまり、イルイはあの場で救出されており、超人機は(一応)行方不明という展開です。
アラド達以外の皆様は、『第2次』のエンディングと変更はない設定です。
という事で、イルイはクスハと一緒にテスラ研にいます。
そして遂に種割れした、影の薄い主人公キラ・ヤマト。今回は活躍できましたが、次からの種割れしての見せ場
主に虎との決戦と、フリーダム登場ですが・・・他のキャラにお株を奪われる事になるかと思います。(笑)
なんせ、この同時期にロンド・ベル隊のメンバーが一緒に出る事になるので・・・アスランとの決戦を除けば、最後の見せ場になるかと・・・
管理人の感想
コワレ1号さんからの投稿です。
おー、ロンド・ベル名物の修正だ(笑)
ブライトさんじゃなくて、フラガ兄さんが修正するとは思いませんでしたが(苦笑)
無事にフレイ嬢も黒く染まって良い感じ?
キラは今回は見せ場があっても、次回からは活躍する場面が減る一方ですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・ま、どう考えてもキャラが弱いもんなぁ、自分の意見とか意思が全然無いし(汗)
キラ星の如きロンド・ベル隊の前では、ますます存在感が薄れていくんでしょうねぇ