第十六話 虎の牙




「熱・・・下がんないね・・・」

高熱でうなされているキラを見ながら、ミリアリアは不安げに呟いた。

フレイが傍らにキラの座り、額にかいた汗を拭いてあげている。

大気圏突入時にキラは意識を失い、帰艦した際にカミーユがコックピットから下ろしたのだ。

「・・・どうなんだ、ファ?」

フレイの隣りで、キラの診断をしていたファにカミーユが問いかける。

「―――私もコーディネーターを診た事無いから断言できないけど、精神的なものと、慣れない環境の所為だと思うの」

「精神的・・・?」

「慣れない環境・・・ですか?」

トールとフレイがファに聞き返す。

「ええ。最初は熱中症みたいなものもあると思ったけど、コックピットの温度はそこまで上がらなかった・・・と言うより、
上がる前にカミーユが助けたんだからそれは無い。そうなると、単機で大気圏突入した時に感じた恐怖とか、あの状況での戦闘での
疲労・・・その可能性が高いわね」

いくらコーディネーターと言っても、精神は普通の人間、同年代のナチュラル達と変わりは無い。

少年とも言える歳で、自分が大気圏で燃え尽きるかも知れない恐怖と戦いながら、戦闘をしていたのだ。

体調の1つ崩した所で不思議は無い。

そして、ファは確認する様にトール達に質問する。

「ねえ、キラ君って生粋のスペースノイドじゃない?」

「確か・・・生まれたのはオーブ―――地球の病院だけど、直ぐに月に移ったって前に聞いたっす」

タスクの返答に、ファは納得がいった様に頷き、

「なら尚更ね。地球の重力に慣れてないスペースノイドが、降りてくると体調を崩す人が多いんだし・・・コーディネーターだから熱も下がるわ」

ファの説明を聞き、トール達は胸をなで下ろした。

「ミリィ、フレイ・・・代わるから、休めよ」

トールが2人を気づかう様に声をかけるが、フレイはベッドからはみ出したキラの腕を、上掛けの下に戻しながらそっけなく返す。

「大丈夫よ」

「でもフレイ、付きっきりだろ? 俺達に任せて、少し休んだ方が・・・」

サイも言ったが、彼女は顔を上げて悲しげに微笑み、

「みんなは艦の仕事があるでしょ? 私は、他に何も出来ないから・・・」

「・・・そういえば、フレイの仕事・・・まだ決まってなかったわね・・・」

ファが思い出した様に呟くと、フレイは頷き応える。

「ええ・・・仕事が正式に決まるまでは、出来るだけ付いていたいんです」

それきり、ベッドの上のキラに目を戻すと、フレイは周囲を拒絶する様な空気を放ち、それに気付いたファとカミーユが不審気に眉を顰めた。




「ここがアラスカ」

フラガの指がモニターの一点を指し、そのまま下がり世界地図を横断していく。

「―――で、ずっと下がって・・・ここが現在位置。まったく、やなトコに落ちちまったねえ。みごとに敵の勢力圏だ」

「仕方がありません。あのまま、ストライクとΖガンダムと離れる訳にはいきませんでしたから・・・」

マリューはカップを口元に運びながら応えた。

しかし、彼女の表情は言葉と裏腹に迷いが表れていた。

フラガの言う通り、この辺りの地域はザフトの勢力下である。

しかも性質が悪い事に、ザフト軍が一年戦争から戦いを続けている、ジオン軍残党と結びついたり、旧西暦から活動している
過激派が協力をしていたりと、敵勢力の複雑化が進んでいたりもする地域だ。

友軍に助けを求めようにも、この地域は残留ミノフスキー粒子の濃度が高く、遠距離の通信はまず望めない。

しかし、マリューはこんな事になるなら、ストライク達を見捨てた方が良かったとは、決して思わなかった。

Nジャマーで開戦前のMS、PTが動けなくなった今、新型機であるストライクを何としてでもアラスカへ運び、生産ラインに乗せなくてはならない。

それに、Ζガンダムとカミーユはロンド・ベル隊の主力、エースの一角だ。

彼がいるのといないのとでは、戦力にかなりの差が出てくるだろう。

そのうえでは、彼女の判断は間違いはなかった筈だ。

しかし―――その結果、クルー全員を新たな危険に晒す事になった。

これで、アラスカに辿り着けなかったとしたら本末転倒ではないか。

マリューは暗い顔でカップのコーヒーを見つめていた。

(判ってる・・・これは私の甘さ・・・)

新型MS、Ζガンダム・・・カミーユの事は勿論だが、善意で艦に残り、力を貸してくれると決意した少年の命を自分は惜しんだ・・・
切り捨てる事が出来なかったのだ・・・と。

「ラミアス艦長。 別に、気にする事はないさ」

それまで黙っていたアムロが、カップに口をつけながら言う。

「あの状況なら、ブライトも君と同じ命令するだろうしな。クルーを、仲間を簡単に切り捨てる艦長では、誰もついては来ないぞ」

「アムロ少佐・・・」

ブライトも同じ事をすると言われ、マリューは少し救われた気持ちになる。

「・・・少佐。 なんか、難しい顔をしてますけど?」

フラガが、アムロの僅かな表情に気付き問いかけると、やや苦笑いをして、

「ああ・・・尽く、状況が一年戦争の時に似てるな、と思ってね・・・こことは違うが、ホワイトベースも砂漠の敵勢力内を突っ切った事があるしね」

「そういえば、そうでしたね・・・噂では、その時脱走した事があるとか?」

微妙にからかいを含んだ口調で、フラガがアムロに問いかける。

「・・・噂になってたのか。だが、事実だ。俺も子供だったって事さ」

『それ以上は勘弁してくれよ』 と言うように、苦笑いを浮かべるアムロを見て、フラガとマリューは笑うが彼女の笑みに力が無いと気付くと、

「大丈夫か?」

ふと、向かい側に腰掛けていたフラガが優しい口調で尋ねた。

マリューは目を上げ、フラガだけでなくアムロの目が穏やかな色をたたえて自分を見つめている事に気付く。

「ええ・・・」

なんとか少し、笑みを浮かべる事が出来たが、フラガの次の問いかけにその笑みも強張った。

「―――副長さんとも?」

「・・・・・・大丈夫よ」

これまでに衝突してきた事を思い返しながら、マリューは何とか口に出すがその言葉は空虚なものだった。

「なら、いい。じゃ、俺は坊主の様子を聞いてから寝るよ。あんたももう寝な。艦長がクタクタのボロボロじゃ、どうにもならないぜ」

フラガが腰を上げ、何時もの軽い調子で言いながら艦長室を出て行き、アムロもそれに続く。

「フラガ大尉、いや、少佐の言う通りだ。ブライトの時みたく、過労で倒れでもしたら大変だからな」

2人を見送った後、マリューは冷めてしまったコーヒーを流しに捨てた。

そして、ため息をついて暗い表情でモニターを見つめる。

(―――これからどうすればいいのだろう)

目的地は判っているが、どうやったらそこまで辿り着く事が出来るのか・・・彼女には、思い描く事さえ出来なかった。




一方、アークエンジェルを沈め損ね、第八艦隊の約5割を取り逃がしたザフト軍は、プラントへの帰還の途についていた。

「表情が暗いわね〜・・・そんなにキラ君の事が心配なの?」

帰艦してからずっと沈んでいるアスランに、リムが呆れた様に問いかける。

「・・・そんなんじゃない」

「―――説得力がないわよ」

力なく返すアスランに、ため息をつきながらリムは返した。

「貴方ね、キラ君を討つって決めたのにそんなんで大丈夫なの?」

リムがたしなめる様に言うが、アスランは俯いたままでなんの返事もない。

(まあ・・・そんな簡単に、割り切れたりするもんじゃないけどね・・・・感情ってのは)

「あ、ここにいたんですか。アスラン、リム」

リムが胸中で呟いた時、ニコルがパイロット控え室に入って来た。

「イザーク達から連絡がありました。いろいろあったみたいですが、無事に地上の基地に降りたって」

嬉しそうに報告するニコルに、リムが怪訝そうに眉を上げる。

「いろいろ・・・?」

「ええ。大気圏突破した所が、連邦の勢力圏の端だったようで、危うく高射砲に撃たれる所だったそうです」

「・・・良く無事に基地に行けたわね・・・」

感心した様な、呆れた様な感想をリムはもらす。

「なんでも、バーニアを全開にしてこちらの勢力圏まで滑空したそうです」

「そうか・・・」

相槌をうちながら、アスランは―――リムの言うように―――ずっとキラの事を考えていた。

(―――キラ・・・無事だろうか?)

大気圏突入の際、ウェブライダーにストライクが乗った所を目撃しているので、無事に降りた事は理性では解っているが・・・どうにも落ち着かない。

自分の手の届かない場所に行ってしまった彼の事が、赴く先が気がかりでならなかった。

既に、突入角からアークエンジェル達の降下地点は割り出されており、ザフトの勢力圏の只中である事も判っている。

「帰投は、未定ですって。しばらくはジブラルタル基地にとどまる事になるそうです」

「ふーん・・・じゃあ、私達も降りる事になるかもしれないわね」

リムの発言に、ニコルだけでなくアスランも驚いた。

「えっ!? どういう事です!?」

「・・・何か聞いてるのか?」

「だって、あの2人Xナンバーを持ったままなのよ? あのお調子者がいないから言うけど、私達はザフト軍でもトップレベルの部隊よ?
宇宙ではポセイダル軍との戦闘もあるから、2人の・・・2機の戦力は必要になるのに戻って来い、機体を上げろなんて言わない。
2機だけで、足つきを・・・ロンド・ベル隊を倒せなんて狂った命令を『現状の』上が出すとは思えない・・・
となると、考え付く事は一つ・・・その内、私達・・・いえ、私達プラスαが降下して、2人と合流、
足つきを叩けって言う命令が出る可能性が高いって訳よ」

「なるほど・・・考えられますね・・・」

リムの推論に、ニコルは頷くが何かに気付いたように問いかける

「なら、この帰投命令が・・・?」

「いえ・・・この命令は別の作戦に関するものだそうよ。大方、ポセイダル軍に関するものじゃないの?」

リムのあっさりとした返事に、ニコルは緊張したような苦い顔になる。

「今後は連邦だけじゃなく、ポセイダル軍とも戦わなくてはいけないという事ですか・・・」

「何言ってるの。それは連邦軍も同じだし、ロンド・ベル隊なんて4、5個の組織を一編に相手したりするでしょうが?」

「あ、それもそうですね」

リムの指摘にニコルは気付き、苦笑いを浮かべた。

終始無口だったアスランは、ニコルがが控え室から出て行った後も苦い顔で考え込んでいた。

彼の頭の中には、地上に降りた仲間の事も、今のニコルとリムの会話の事もない。

現状では敵でしかなく、次に会った時は討たねばならない1人の少年の事―――重力の井戸へと落ちていった幼い頃からの親友しかなかった。

(・・・思っていたよりも、重症ね。ラクスに発破でもかけて貰おうかしら・・・?)

アスランがずっとキラの事を考えていると読めたリムは、プラントに戻ってからの予定を考え始めた。




「マニュアルに目は通したけど、楽しそうな機体だねえ・・・ストライカーパックも着けられる、支援用戦闘機か」

「2機あるが、もう1機は予備か?」

フラガの言葉を聞きながら、アムロがもう1機を見てアストナージに問いかけた。

「ええ。運用法としては、使用してないストライカーパックを常に装着させる事になりますね」

「それで、必要に応じて俺が乗り換えるって訳か。まっ、確かにいちいち付け替えるより方が早いからな・・・
ロンド・ベル隊の機体と含めて、どの位で使える?」

フラガは肩をすくめて言い、後半は真剣な表情で問いかける。

現在、敵陣中にいるのに各機体―――細かい微調整が不要のマジンガーZとグルンガスト改以外―――が重力下、
砂漠用の調整中で出撃が出来ない状況だ。

出来るだけ早く、出撃が可能の状態にしたいのは当たり前の事だ。

「遅くても明日、明後日にはコイツを含めてスラスター系の作業は全機終らせますよ。後の微調整は、パイロットの仕事ですし。
ただ、地上戦用・・・アルトアイゼンとかの方が比較的早く仕上がりますが・・・」

「ああ。そういや、あの機体は元々地上戦が得意だったけな」

忘れがちになっていた事を、頬をかきながらフラガは言う。

そこへ、ストライクの各部の整備をしていたマードックが話しに入って来た。

「師匠、ストライクのOSはどうします? このままじゃ、砂漠に足とられますよ?」

「俺達じゃどうにもならないよ。従来のMSやPTとOS構造その物が違うんだから」

アストナージの返答に、マードックは苦い顔をしながら頭をかく。

「はあ〜、坊主待ちですか。大尉、坊主の熱は?」

「オイオイ、少佐だろ? お前も階級が上がって曹長になってんだから」

そう指摘され、マードックは『いけねぇ』と声をもらす。

「ああ、朝には下がったってよ。今はまだ寝てるけど―――しかし、ハルバートン提督の計らいとはいえ、こんな状況で昇進してもね・・・」

新しい階級で呼ばれたフラガは、少々ウンザリした表情になる。

ハルバートンがアークエンジェルを離れる際、満足に人員を補給出来ず、せめてもの親心でアークエンジェルのクルーを軒並み昇進させたのだ。

「給料上がんのは嬉しいけど、何時使えんの? アムロ少佐達、ロンド・ベル隊は何時使ってます?」

「俺は必要な時以外は殆ど使わないからな。甲児やカミーユ達は補給や半舷休息で降りた街で、買い物や食事に使ってるみたいだが・・・?」

「はあ・・・どの道、しばらくは使えないか」

アムロの返答に、フラガはため息をつく。

「ガキ共は野戦任官って事らしいっすよ。坊主は少尉・・・まあ、新型機のパイロットですからね」

地球降下の際に志願したサイ達にも、今は階級がある。

サイやトールは二等兵だが、タスクは―――マードックがタスクの腕は二等兵程度ではないと直談判をして―――伍長、
キラは士官の階級が与えられていた。

「あーあ、あんなガキどもがね・・・」

「まあ、すぐ一人前になりますって」

やれやれという様な表情でフラガが言うと、マードックが笑い飛ばす。

「ま・・・確かに、なってもらわなくちゃ困るんだよね・・・実際・・・」

「ああ・・・でないと、彼等どころか俺達・・・艦も沈む事になる」

マードックに聞こえない様な小声で、フラガとアムロが呟いた。

今が危険な状況下にある事に、クルーの殆どが実感を持って考えてないかの様に、おおむね平静に受け入られていた。

恐らく、アークエンジェルのクルー全員の頭の中で、『ロンド・ベル隊がいるから』と考えいるからだろう。

そのロンド・ベル隊も―――バルマー戦役等で遭った―――絶望的な状況に慣れ過ぎているのか、殆どのメンバーが平静に構えている。

アムロと同じく―――どう切り抜けるか―――を考えているのは極一部しかいないであろう。

「マードックさん、まだ空けてないコンテナがあるんだけど・・・あれは? ストライクのパーツみたいだけど・・・?」

HMの調整が一段落したのか、キャオが未だ空けていないコンテナを指差し問いかけた。

「ああ。ランチャーパックだ・・・って、一度も使ってねえな・・・いざ使う時になって、四苦八苦してたらシャレになんねぇし・・・一度着けてみるか」

マードックが頭をかきながら言い、ストライクへと向かって行く。

本来、ストライカーパックの装着はブリッジを通しての機械作業なのだが、アストナージが合流してからは
他のロンド・ベル隊の機体と同じ様に、整備班だけで装着が出来るように工程に変化が生じていた。

「みぎゅ」

いきなり、格納庫に奇妙な声が響き、それを聞いた全員―――少し離れた所で、ゲシュペンストの整備をしていたタスクも―――が
首を傾げて声の主を探す。

「何の声っすか・・・?」

「さ、さあ・・・?」

タスクは人の声と自信が持てなかったので、あえて『誰の』とは問わなかった。

「ぐぎゅっ」

再び声が響き、タスクがそっちの方へ進んでいくと、

「違うわよ、エクセレン少尉。ほら、こうやって関節を・・・」

「ラーダさん、ちょ、タンマタンマ!」

「・・・何やってんスか、少尉?」

状況が掴めず、とりあえず声の主―――エクセレンに問いかける。

「わお、タスク君。お姉さんのあられもない声・・・聞かれちゃった・・・?」

「・・・何かが踏み潰されたような声は聞こえたっすけど。それに、俺どころか、アムロ少佐達にも・・・つーか格納庫全体に響いてたっすよ」

「ああ、一瞬、新手の生物かと思ったぞ?」

フラガも笑いながら同意する。

「あちゃ〜・・・美容に効くっていう、ヨガのポーズを教えてもらってたのよね」

「ラーダ姉さんってヨガの達人なんすか?」

珍しい特技だなと思いつつ、タスクが質問する。

「その言い方が合っているかどうかはわからないけど・・・効果は確かよ」

「いや、もう少し体を柔らかくしてから再トライね・・・関節と鼻が砕けるかと思ったわよ」

肩を回しながら、エクセレンが苦笑いをしながら言う。

(どんなポーズだったんだ?)

格納庫にいた全員が、胸中で一斉にツッコミをした。

「ごめんなさいね、ラーダさん。呼び止めちゃって。私も整備に戻るんで」

エクセレンは礼を言い、ヴァイスの方へ戻ろうとした時、

「フラガ少佐、ストライクの中にこれ落ちてたんですけど・・・ゴミですかね?」

マードックがコックピットの中で見つけた、折り紙で出来た花をフラガ達に見せると、エクセレンが脇からひょいっと花を手に取り、

「ちょっと失礼。・・・折り紙で折った花、ね・・・キラくんのお守りかもしれないし、私が渡しとくわ」

軽く笑うと、それをそっとポケットにしまった。




キラは目を覚まし、身体を起こそうとして違和感を覚えた。

(なんだ―――? 身体が・・・重い・・・?)

キラは身体が何時もとは違う、何か重りが付いたように感じた。

不意に、カーテンが開きフレイが顔を覗かせる。

「あ、キラ。気が付いた?」

「フレイ!? くっ・・・」

キラは慌てて身を起こそうとするが、やはり身体が重く、普段以上の力が必要になった。

「あ、いきなり起きないで。まだ重力になれてないんだし」

フレイが肩に手を置き、優しくベットにキラを戻させる。

横になるとキラは今の言葉に気が付き、

「重力って!? じゃあ、ここは・・・?」

「地球よ。砂漠・・・キラ、ストライクの中で気を失ってたから判らないだろうけど、カミーユさんがここまで運んでくれたのよ」

フレイの言葉に、カミーユに感謝を覚えながらも、身体に感じる重さに納得がいった。

(地球に降りると、身体が重いって話・・・本当だったんだ・・・)

子供の頃に聞いた話―――当時は冗談かと思っていた―――を思い出しながら、額に腕を置く。

「キラってずっとコロニー・・・宇宙暮らしだったんでしょ? 重力に慣れるまで、少し時間がかかるんだって・・・ご飯、食べれる?」

フレイが言いながら、レーションを渡してくる。

キラは頷き、レーションを受け取りながら一つ問いかけた。

「・・・どの位、僕は寝てたの・・・?」

「ここに降りたのが、昨日の夜遅くだから・・・ほぼ丸一日よ」




「キラ、気がついたんだって?」

ミリアリアが声を弾ませて聞くと、サイも安堵したように応える。

「うん、今フレイが食事を・・・あ、戻ってきた」

話の途中でフレイが戻ってきた事に気付くと、一緒に食事を摂っていたカミーユが声をかける。

「どうだ、キラの様子は?」

「もう大丈夫みたいよ。食事も摂ったし・・・まだ地球の重力に慣れないみたいだけど・・・昨日の状態が嘘みたいよ」

「そう。でも2、3日もすれば慣れると思うわ」

カミーユの隣りにいるフォウが頷きながら言う。

「フレイも疲れただろう? 少し休んだ方が・・・」

気づかうサイの言葉を遮るように、フレイは首を振り冷ややかに答えた。

「私は大丈夫よ・・・艦の仕事はまだ言われて無いし、昨日はファさんと交代で着いてたんだから・・・まだキラが心配だから着いてるわ」

彼女はサイに背を向け、ドリンクをカップに注ぐと直ぐに出て行こうとする。

「フレイ・・・でもさ、あまり無理は・・・」

サイがフレイを呼び止めるが、彼女は振り返り、煩そうに彼を見据えた。

「なによっ!? 私は大丈夫だって言ってるでしょ!?」

サイだけでなく、ミリアリア達もフレイの態度に驚いた。

この艦に乗って以来、事あるごとにサイにまとわりついていた彼女の豹変に、誰もが信じられなった。

フレイは目を落とし、固い口調できりだした。

「サイ・・・あなたとの事は、パパが決めた事よ。そのパパも・・・もういないわ」

「え・・・?」

一瞬、フレイが何を言ってるか理解できずに、サイは思わず聞き返していた。

「まだ、お話だけだったんだし、こんな状況だから・・・何も昔の約束に縛られる事はないと思うの・・・」

サイだけでなく、その場にいる全員が話しの内容に呆然としている。

みなが呆然としている内に、フレイは前に向き直り、食堂から出て行った。

「・・・何か、彼女無理している様に見えるわ・・・」

そのフォウの言葉に、ミリアリア達が振り向き、問いかける。

「どういう事ですか? と言うより、何に対して無理をしているって・・・?」

ミリアリアの問いかけに、アムロに頼まれている事を隠しながら応える。

「自分に対して、嘘をついているというのが近いかしらね・・・今だって、サイ君どころか、私達にも目を合わせて話さなかったんだから」

「・・・そういえば」

今のやり取りのフレイの視線の位置を思い出し、トールが納得したように頷く。

「だから、サイ君? 今は・・・」

「ええ・・・フレイに任せますよ」

サイがフォウの言葉にあっさりと頷くのを、カミーユは意外に思い聞く。

「いいのか? 婚約者なんだろう?」

「まあ、話だけでしたし。それに、これは誰が決めたでも、誰に流されたでもなくフレイが―――多分、初めて―――自分で決めた事ですから
俺はそれを見守りますよ・・・危なくなるまでは」

我に返ったサイが、やや沈んだ口調で答えるが、自分が発した言葉である事に気付いた。

(・・・まさか、フレイは『俺』じゃなくて、『父親が選んだ男』だから付き合っていたのか・・・?)

だが、その可能性を信じたくはなく、サイは気を落ち着かせる為にコップの水を一気に煽った。




通路を進みながら、フレイは呟いた。

「駄目よ・・・私は賭けに勝ったもの・・・」

それはここにはいないサイに対しての言葉か、それとも自分に言い聞かせているのか―――どちらにも取れる言葉だった。

そして、キラの部屋の前に着くと扉をノックした。



控えめなノックがした後、ドアが開きフレイが入って来た。

キラはそちらに目をやり、彼女の姿を見た途端どうしたらいいか判らなくなり、思わず視線を逸らした。

キラの胸中など知らず、髪が微妙に湿っているのに気付いたフレイが声をかけてくる。

「シャワー、浴びたの? 大丈夫?」

「う、うん。汗かいたから・・・」

優しく問いかけられ、キラはぎこちなく頷き、それを隠すようにタオルで髪を拭く。

昨夜、自分が熱に浮かされている時から―――ファと交代しながら―――そばにいてくれたのだという。

それが嬉しく無い訳ではないが、何となく戸惑ってしまう。

彼女はコーディネーターを嫌っている筈なのに、どうして自分に優しくしてくれるのだろう? と。

相手の好意を期待しつつ、フレイにはサイがいる―――という禁忌の気持ちと、期待して裏切られる恐れが邪魔をする。

「どう? 少しは重力に慣れた?」

ドリンクカップを手渡しながら、フレイが優しげに聞いてくる。

「あ、ううん。まだ、何となくだけど身体が重い様な感じが取れないんだ」

カップを受け取り、ドキマギしながらキラが応えると、フレイは少し意外そうな顔をする。

「へぇ・・・スペースノイドっていうか、宇宙暮らしが長いとやっぱりそう思うものなのかしらね・・・?」

「うん。今は平気みたいだけど、アムロさ・・・少佐も一年戦争の時、地球に降りた時そう思ったらしいよ」

昔読んだ雑誌の記事を思い出しながら、キラは返す。

「・・・あ〜っと、いい雰囲気の所悪いんだけど・・・」

エクセレンが気まずそうに苦笑いを浮かべながら、部屋に入ってくる。

『え、いやそんな事は・・・』

キラとフレイは頬を赤くしながら返すが、お互いが同時に言った事に気付き、顔を見合わせて言葉を切る。

「はいはい。ラブコメは他でね? フレイちゃん、艦の仕事の説明をするから・・・って言っても、ロンド・ベル隊の全員が
待機中に良くやる事だけど・・・一緒に来て」

エクセレンがフレイに向かって手招きするが、彼女は困惑の表情を浮かべた。

「え・・・でも、まだキラが心配だから着いていようかと思ってたんですけど・・・それに、ロンド・ベル隊の人達がやる事と同じ事を、
私が出来るとは思えないし・・・」

「う〜ん・・・心配なのは解るけどねぇ〜。年頃の男の子と部屋でずっと2人きりにさせる訳にはいかないのよ・・・かなり規則が緩くても、
ロンド・ベル隊、アークエンジェルは軍隊なんだし・・・もしある行為の結果が出ちゃったら、色々と問題が出るしね」

エクセレンが言わんとしている事に気付いたキラは、視線を逸らし顔を真っ赤にして押し黙っている。

フレイは何処か忌々しげに、エクセレンを見るが彼女は気付きもせずに呟く。

「・・・出来れば私もキョウスケと・・・でも、キョウスケ乗ってきそうもないけどね・・・」

小さくため息をつき、フレイの方を視線を戻して話を続ける。

「仕事の方は、そう難しいものじゃないわよ? ロンド・ベル隊にはパイロットの他に、色んな人が一緒に行動するのは知ってるでしょ?
その人達がやる事を主にやって貰うだけなんだから。ちなみに、これはパイロットでもやる事だから」

「―――パイロットも? じゃあ、アムロさ・・少佐とかも?」

かなり意外そうに聞くフレイにエクセレンは頷き、

「そうよ。まあ、詳しくは歩きながら説明するわね・・・っと、忘れてた。キラ君、これ―――コックピットに落ちていたそうよ。
誰からのプレゼントかしら〜?」

キラに折り紙の花を手渡し、からかう様に問いかけた。

「これは・・・プレゼントとか、そういう類じゃないですよ」

花を受け取りながら嬉しそうに―――少し誇らしげにキラは静かに答える。

「これは―――僕が初めて誰かを守れた証です」




少し時間は流れ―――キラが目を覚ました日の深夜―――

「ねえ、ちゃんと起きてる?」

「んー・・・講義の時間までは寝てられたから・・・」

ミリアリアは、寝ぼけ眼で部屋から出て来たトールに問いかけるが、返答は起きてるとは言い難いものだった。

「んもう! 寝ぼけないで!! ほら、ちゃんと服着ないと、バジルール中尉に叱られるわよ!?」

「うい・・・」

ミリアリアに服を直されながら、トールは何とか目を覚ましブリッジへと向かう。

「ねえ、タスクは? 部屋にいなかったけど・・・?」

トールとタスクは相部屋になっており、部屋を見た時にタスクの姿がなかったのが気に掛かった。

「・・・まだ戻ってなかったのか? まだ格納庫だとすると・・・あいつ、何時間働いてんだよ!?」

「大体・・・16時間かな? 機体の調整、大変みたいだね・・・」

指折りをしながらミリアリアが気の毒そうに言う。

その時、通路の向こう側からサイの声が聞こえて来たので2人は思わず足を止めた。

「フレイ・・・こんな時間にゴメン」

そっと通路の奥を覗き込むと、フレイの部屋の前から中に向かって声をかけているサイの姿が目に入った。

現在、ロンド・ベル隊を混ぜても女性の人数が少ないので、男性の殆どが相部屋、女性は全員1人部屋と割り振られていた。

「―――あの、話す時間がとれなかったから、こんな時間になっちゃたけど・・・さっきの事で聞きたい事があるんだけど・・・って、起きてる?」

フレイがいると思われる寝台にはカーテンが引かれ、サイの呼びかけに動く気配もない。

サイは起きないと判断したのか、ため息をついてその場を後にする。

トールとミリアリアもサイがいなくなったのを確認してから、その場を立ち去る。

すっかり目が覚めた様子のトールがぼそりと言う。

「・・・婚約者って話も驚いたけどな」

「確定してなかったんじゃないの? 話だけだった、って」

「同じ様なもんだろ?」

詳しい経緯を知らない―――知ってるのは当人と、その親類だけであるが―――2人は複雑な表情だ。

「俺達みたいな普通のカップルかと思ってた」

「・・・彼女のお父さん、過保護だったから・・・あの人が了承しないとって・・・まあ、納得はしたけど・・・でも・・・」

ミリアリアは一度言葉を切り、フォウの言葉を思い出すと、

「フォウさんに言われて私も気付けたんだけど・・・フレイ、変だね」

「うーん・・・」

何処が如何変なのか、イマイチ理解できないトールが呻く。

「以前は―――宇宙で初めて蜥蜴と戦う前までは―――キラの事、嫌ってた・・・っていうか・・・」

「コーディネーターが嫌いなんだろ。まあ、あの後からは、微妙に苦手に思ってた位だったけど・・・」

トールの簡単な物言いに、ミリアリアはちょっと睨んだ。

だが、トールの言う通りだ。コーディネーター嫌いのフレイはキラがコーディネーターだと判った時、面と向かって嫌悪する事はなかったが
明らかに一定の距離を常に置いてた。あの蜥蜴との戦闘の後では、その傾向を多少弱めていたが、親しい友人の様な接し方はなかった。

故に、今回甲斐甲斐しくキラの看病をするフレイを見て、意外の念を抱いたのはミリアリアだけではない。

その変化も、最初は微笑ましく嬉しくも思ったのだが、今は妙な危なっかしさを感じる。

「フレイってさ、学内でも目立ってたじゃん・・・前からキラ、彼女の事さ・・・」

フレイは一級下で学年も専攻も違っていたが、たまたまミリアリアと同じサークルに所属していたから、行動を共にするキラと会う確率が高かった。

ミリアリア、トール、タスクも直ぐにキラの気持ちに気付き、密かにその思いを応援していたものだ。

タスクが彼女がサイと婚約しているという情報を仕入れてからは、フレイが誰を選ぶかを
―――少々不謹慎ではあるが―――予想を立てたりもした。

ミリアリアはサイ、トールは友情を取りキラに、タスクは大穴、第3者に賭けたが、あの頃はこんな事態になるとは考えもせず、
軽い気持ちで、クイズの様なノリで賭けていた。

「・・・変な風にならなきゃいいんだけどな」

トールの言葉にミリアリアは顔を曇らせる。

キラもサイも、彼女にとって大事な友人であり、その2人が1人の女性をめぐって争う場面なんて見たくはない。

でも、それ以上に『変な』感じがしてミリアリアはそれをトールに伝えようとするが、上手く言葉に出来ない。

(フォウさん達なら上手く言葉に出来るかもしれないけど・・・)

胸中でそう思いながらも、彼女はただ不安そうに、

「そうだね・・・」

と、答える事しか出来なかった。




「―――どうかな? 噂の『大天使』の様子は」

上官の声に、赤外線スコープを覗き込んでいたダコスタは顔を上げた。

「はっ! 依然、何の動きもありません」

「―――この辺りは、残留ミノフスキー粒子の影響で電波状況が無茶苦茶だからな。
スヤスヤ眠っている所に、何者が押し入っても気付かねえ。気付いた時には、『美味しく』食われる直前だ」

隣りで共にアークエンジェルを監視していた男―――ガウルンは心底愉快そうに笑いながら言い放つ。

何か汚物を見る様な目でダコスタはガウルンを見るが、彼の上官―――『砂漠の虎』、アンドリュー・バルトフェルドは
困った顔でガウルンを嗜める。

「オイオイ、あまりそういう表現は使わないでくれよ? 部隊には若い連中が多いんだ」

そう言いながら、バルトフェルドは口にカップを運び表情を変え、ダコスタは咄嗟に身構えた。

「なにかっ!?」

異変でもあったのかと見守る彼の前で、彼は満足そうに顔をほころばせた。

「いや、今回モカマタリを少し減らしてみたんだがね、こいつはいいな!」

「けっけっけ、びびるなよ。毒が入ってて、血反吐吐いた訳じゃねえんだからよ」

ガウルンはがっくりと拍子抜けするダコスタに、性質の悪いからかいの言葉を投げかける。

だが、何故かダコスタには冗談を言っている様には感じなかった。

この男が体から、行動から常に狂気が出ているからだ。

だが、バルトフェルドはこの男の狂気に気付きながらも、作戦行動中とは思えない程悠然とした態度で、砂丘を下っていく。

空になったカップが投げ捨てられ、ダコスタは慌ててそれを受け止めた。

月の光を受けて、光る砂丘の麓に巨大な機体とヘリコプター、バギー、そして周囲で動き回る男達の姿があった。

バルトフェルドの姿に気付いた男達の半数は素早く整列し、残りの半数もガウルンの姿に気付くと整列をした。

そして、バルトフェルドが口を開く。

「あー、諸君。これより、地球連邦軍新造艦『アークエンジェル』及び、ロンド・ベル隊に対する作戦を開始する」

声は張っているものの、口調はかなり無造作に近い。

「―――目的は、敵艦及び搭載MS、現状のロンド・ベル隊の戦力評価であり、作戦はジブラルタルから派遣されたAS部隊と合同で行う!」

その言葉を受けて、1人のAS乗りがニヤニヤしながら質問した。

「倒しちゃ、マズイですか?」

すると、バルトフェルドとガウルンは少し考えた。

「まあ、その時はその時だが・・・あの艦はクルーゼ隊、ザフトのエース部隊が沈められず、ハルバートンの第八艦隊が全戦力の6割を
犠牲にしてまで地上に降ろした艦である。猛者揃い、半分化け物ともいえるロンド・ベル隊がいる事も忘れるな」

「一応、だがな」

バルトフェルドの後をガウルンがしめる。

ザフトの正規兵達は多少緊張するが、AS乗り達はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「では、諸君の無事と健闘を祈る」

その合図に兵士達はさっと敬礼をし、バルトフェルドも片手を上げて返した。

「総員、搭乗!!」

ダコスタの号令を受け、兵士達とガウルンを含んだAS乗り達が各々の乗機へと乗り込む。

ダコスタは指揮車へと向かいながら、バルトフェルドに問いかけた。

「隊長・・・信用できるんですか? あの連中、特に・・・」

「ガウルン、か? 腕は良いがな」

ダコスタが言わんとする事を察し、バルトフェルドは返す。

ガウルンがこの部隊に来た時、部下の何人かとトラブルが起こりちょっとした喧嘩になったのだが、コーディネーターであり
ザフトの正規兵である者達、5人を彼は1人で重傷を負わせた―――しかも、その場にバルトフェルド達が駆けつける、僅か3分の間にだ。

「恐らく、総合戦闘能力は並、それ以上のコーディネーターよりも上だろうな」

「ナチュラルでも・・・ですか?」

バルトフェルドの言葉に、ダコスタは信じられないと言う様に聞き返した。

「ナチュラルだから、我々よりも弱いなんて限らんだろ? 良い例がロンド・ベル隊だ。ニュータイプだって、身体能力はナチュラルと変わらん」

「しかし、戦闘能力と信頼出来るかは・・・」

「ああ、別問題だな。ダコスタ、拠点に戻ったらジブラルタルに確認を取ってくれ。幾つか気になる点がある」

あっさりダコスタの言葉に頷くと、バルトフェルドは指示を出した。

「気になる点・・・ですか?」

「そうだ。前もって何人かがこちらに来る事も話は聞いていたが、辞令はネットを介して受け取った・・・いや、介して作成されてるからな。
データが電脳空間にある限り、ハッキング等で改ざんは幾らでも出来る」

「ジブラルタルの防壁に侵入できるハッカーが、地球にいるとは思いませんが・・・?」

「甘いぞ、ダコスタ君。極東方面の様に、オーバーテクノロジーを持ってる連中が他にもいるかも知れないんだ。
ナチュラルだからありえない・・・そういった過信は持たない方が良い―――確認、頼むぞ」

「はっ、了解しました」

ダコスタはそう答え運転席に座ると、バルトフェルドも指揮車に乗り込んだ。

「うーん、コーヒーが美味いと気分が良い」

瞬間、呑気そうにしていた男の瞳に物騒な光が宿る。

「さあ―――戦争をしに行くぞ!」




トール達がブリッジに入り、『交代です』と声をかけると、ノイマンが軽く睨んだ。

「遅いぞ」

「すいませーん」

トールが誤魔化し笑いを浮かべて席に座ると、ほぼ同時にナタルが入って来た。

「異状はないか?」

彼女の問いかけに、士官がシャキっとして『異状、ありません』と答える。

ナタルはそのままパイロッシートへと歩み寄り、持ってきたドリンクの一つをノイマンに手渡した。

「すいません」

「船穀の歪みデータは出たか?」

「はい、簡易測定ですが許容範囲内に止まってます。詳しくは―――」

ノイマンは話しながらキーボードを叩こうとして―――今までの癖で―――ドリンクから手を離した。

ここが宇宙空間であるなら、ドリンクはその場で漂っている筈だが今いる場所は地球であり、当然重力が引力がある。

ぽとりと落ちたドリンクを見て、ナタルが呆れた様な息をついてから、拾ってやる。

「何時までも無重力気分では困るな、少尉」

「す、すいません」

横目で見ながら、トールは笑いを噛み殺していたが、自分も降りてきたばかりの時に無重力感覚で床を蹴り、そのまま通路の床に
顔から落ちるという失敗を連続したのである。

「―――重力場にムラがあるな。地下の空洞の影響が出ているのか・・・」

計器を見ながらナタルが呟くと、トールも気になりその手元を覗き込む。

「なんです? これ?」

「一年戦争前のデータで正確な位置は判らないんだが、この辺りには石油等の廃坑があるんだ」

「えーっと、つまり・・・?」

ナタルの言葉をイマイチ理解できず、ノイマンに質問する。

「要するに、地面の下はデッカイ穴だらけって事だよ。迂闊に着地したら、危ないって事」

その言葉を聞いて、ようやく理解したトールが鼻白む。

「ここ・・・大丈夫なんですか? 寝てる間に地面が陥没して、気付いたら砂の中って事はないですよね?」

「はは、まさかそんな、大丈夫・・・ですよね?」

ノイマンが軽く笑って、ナタルを振り仰ぐが―――彼女は答えず、あさっての方向を見ながらドリンクに口をつけた。

ノイマンの笑顔が固まり、ブリッジに沈黙が流れる。

「大丈夫・・・ですよね・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・さあ?」

小さく呟いたナタルの声が、ブリッジにいる全員の耳に入り、沈黙は更に重くなった。

その時、沈黙を切り裂くかの様に警報が鳴り響いた。

「どうしたっ!?」

「本艦、レーザー照射されています!! 測定照準と確認!!」

レーダー士の報告を受けると、ナタルは全艦に放送を流す。

「総員第二戦闘配備!!」




フレイは放送を聞いて、意識を覚醒させた。

エクセレンから仕事の説明を受け終えたフレイは、そのままキラの部屋に戻っていた。

フレイが戻った時には、再びキラは眠っており彼女はずっと隣りで見守っていたのだが、何時の間にか眠ってしまったらしい。

(第二戦闘配備・・・? 敵?)

現状を把握すると、未だ眠っているキラを起こそうと肩に手をかける。

(まったく、前といい今回といい・・・コーディネーターなのに、目を覚まさないで・・・こんな優しい寝顔をして・・・)

胸中で呆れながら呟くと、キラの頬を軽くペチペチと叩き肩を揺する。

「キラ起きて! 敵襲よ!!」

「―――敵!?」

フレイの言葉にキラは一気に意識を覚醒させ、飛び起きる。

「フレイ!? なんで―――」

この部屋にいるのか? と問い掛けようとすると、フレイが上着を渡しながら、

「まだ、心配だったから。ずっと着いてたの―――」

答えると、そのままキラに抱き寄り―――唇を重ねた。

「―――守ってね・・・この艦を、私を―――」

「―――ああ!!」

フレイの言葉に力強く答え、キラは上着に袖を通しながら部屋を出て行く。



「ふ・・・ふ・・ふ・・・」

キラが出て行った後、フレイの口から乾いた笑いが漏れる。

彼女は、そのまま肩を抱きその場に蹲った。

「―――守って・・・ね・・・」

ポツリ、と漏れた言葉を自らを嘲る様にまたわらう。

―――もう後戻り出来ない、自分は賭けに勝ち―――キラを戦いに、死地に引き込む事に成功したのだから―――

「そうよ・・・あの子は戦って、戦って、戦って・・・誰よりも戦い抜いて―――誰よりも殺して死ぬの。でないと、許さない・・・」

これが父を守れなかった―――父を殺したコーディネーター、その片棒を担いだ木星蜥蜴に対する、彼女の復讐だった。

幼くして母を亡くしたフレイにとって、父は唯一絶対の存在だった。

父がサイを選んだから―――サイの最悪の推察通り―――サイと付き合い、父がコーディネーターが嫌いだから、自分も嫌いになった。

彼女の世界は父が与えた物で完結しており、その父が死んだ時点でフレイの世界は崩壊したのだ。

許さない・・・だが、誰を?―――自分をこんな目に遭わせた者を、だ。

自分がこんなに傷ついたのだ、誰かが、どこかに報いを受ける者がいる筈―――否、居なければならない。

それは論理ではなく、ただの激情―――理不尽に対する理不尽だった。

そして、彼女が標的として選んだのは目の届く範囲におり、サイ達からもお人好しと聞いていた―――『敵』キラ・ヤマトだった。

彼が、父を守ってくれなかったから―――敵と誼を通じてるから―――コーディネーターだから―――情に流されやすいお人好しだから。

その為には彼女は軍に志願した―――キラを戦場から逃がさない為―――ただそれだけの為に。

そして、キラは彼女が意図したとおりに戻ってきた―――これこそが彼女の賭け。

例え、それで自分や友人達を巻き込み、危険に晒す事になってもどうでもいい事だ。

キラに―――コーディネーターに復讐が出来るのであれば。

キラは自分を守り―――その為に、同胞達を友を手に掛けても戦い続ける。

コーディネーター同士が戦い、互いに滅びの道を辿れば良い。

「あいつら・・・みんな、やっつけて・・・」

彼女はあどけなくさえ響く無心な声で呟き、クスクスと笑った。

だが、彼女は気付いていない―――涙を流している事に・・・何に、誰に対して泣いているのか・・・そして、
自分の胸が微かに―――正気の時でも気付かない程僅かに―――痛んでいる事に・・・全てに気付かず、彼女は笑い続けた。




「機体の調整は!?」

「ストライク以外の各機の調整は終ってます。でも、直ぐ出れるのはグルンガスト改とマジンガーZだけです!!」

アムロの言葉に、アストナージがスカイグラスパーの調整をしながら答える。

「後は、自分に合わせて微調整か・・・! ブリット、甲児、何時でも出れる様にしといてくれ!!」

アムロは2人に指示すると、νガンダムの微調整に入る。

「取り合えず、今すぐ飛べる様にしてくれ!! それだけでいい!!」

「無茶言わんでください!! 師匠の腕ででも、少し時間が掛かります!!」

フラガの言葉にマードックが怒鳴るようにして返した。

格納庫の喧騒を聞きながら、キラはストライク―――何故か、既にランチャーが装備されている―――へと乗り込んだ。

『―――砂丘の陰からの攻撃で、発射位置特定できません!!』

通信回線を開くと、ブリッジでのやり取りが聞こえてくる。

『第一戦闘配備に移行! 機関始動!!』

エンジンを始動させる音が艦内を微かに震わせ、その音にキラは身を緊張させた。

『敵影を確認! ザフト戦闘ヘリです!!』

『ミサイル接近!! 機影ロスト!!』

『ヒットアンドウェイを繰り返すつもりか!? フレア発射、迎撃!!』

キラはじりじりして叫んだ。

「敵は何処だ!? ストライク、発進するぞ!!」

『キラ? 待って、まだ―――』

ミリアリアが制止するが、それに取り合わずハッチを閉めながら怒鳴った。

「早くハッチ開けて!」

「待て! まだ敵の位置も戦力も判っていないんだ、焦るな!!」

カミーユが窘めるが、聞かずにキラは叫ぶ。

「何を呑気な事を言ってるんですか!? いいからハッチを開けろ! 僕が行ってやっつけてやる!!」

前半はカミーユに、後半はミリアリアに対して荒々しく叫ぶ。

(何があった・・・? 宇宙にいた時までのキラとは様子が違いすぎる・・・)

キョウスケがキラの豹変に違和感を覚える。

「―――はやく!」

「駄目だ、発進を許可できない」

急かすキラにアムロが答える。

「キラはまだ重力に慣れていないだろう? それに、まだストライクの各部の調整が終って―――」

「もう、いいですよ!! 出ます!!」

アムロの言葉を最後まで聞かず、キラは勝手にストライクをカタパルトへと移動させた。

「ストライク、出るのか!? まだ調整は済んでない筈だぞ!? キラ、待て!!」

キョウスケの制止も聞かず、キラは内部から手動でハッチを開かせる。

ハッチの開閉に気付いたブリッジが、にわかに混乱する。

『ハッチが開く!? 許可してないぞ!! 何をやっている、ストライク!!』

『キラ! キラ、待って!!』

「艦の砲じゃ、小回りが気かないでしょ!? ストライクで対応します!!」

キラはそう答えて、ストライクを発進させた。

急速に近づいて来る地表に、キラは一瞬戸惑いバーニアを吹かすが、上手く体勢を整えられずよろけて膝をつく。

「くっ―――宇宙と地球とじゃ、こんなに勝手が違うものなのか?」

重力に慣れていない所為もあるのだが、まだバーニアが宇宙用の調整のままになっている事をキラは失念していた。

そこに、砂丘の向こうから突如現れた戦闘ヘリがミサイルを発射してきた。

キラは慌てて迎撃態勢を取ろうとするが、立ち上がりかけた時に砂に足を取られてまたバランスを崩した。

ミサイルが着弾し、爆炎が起こるがPS装甲のおかげでダメージはない。

キラは腰だめにアグニを構え、ヘリを狙うが素早く砂丘の陰に隠れられてしまう。

機体が傾ぎ、バランスを保てない事が不思議に思い、足元の砂を見るとまるで液体の様に流れて捉えようがなかった。

「流砂・・・か? なら!!」

キラは機体をジャンプさせると、バーニアを吹かしヘリの後を追った。

だが、宇宙用のままのバーニアなので空中でバランスを崩し、長くは移動していられない。

「ちぃ・・・今はOSを調整して、誤魔化すしかないか・・・!」

機体が着地するまでに、キーボードを凄まじい速度で叩きバーニアを調整する。

着地し、バーニアの調整OSが組みあがった時、警告音がコックピット内に鳴り響いた。

砂丘の向こう側から、黒っぽい影が躍り出た。

「なんだ―――? MS!?」

躍り出た機体はヘリではなく、獣じみた四足歩行の機体であり、その予想だにしてなかったシルエットでキラの反応が遅れる。

砂地をものともせず、四本足の機体は凄まじい速度でストライクに襲い掛かってくる。

その速度は、キラの動体視力でも数を把握する事は出来なかった。

「うわ・・・!」

1機に蹴り飛ばされ、ただでさえ足場が不安定なストライクが倒れる。

そこを狙い、別の機体がランチャーミサイルを放つがキラは倒れた姿勢のまま、肩に装備されたガンランチャーでミサイルを撃ち落した。

しかし、別の角度から放たれたアサルトライフルが着弾し、爆発がストライクを襲った。

「アサルトライフル!? 何処から―――!?」

キラが辺りを見渡すと、砂丘を下ってくる何機もの人型の機体が見えた。




「あれは・・・? 機械獣・・・?」

一見、機械獣や戦闘獣に見えなくもない機体に、マリューが目を見開く。

機種を特定したサイが報告をする。

「敵機10、ザフト軍MSバクゥと確認! 後方からの機体は・・・何だ? AS(アーム・スレイブ)・・・? Rk-92“サベージ”3、
M 6“ブッシュネル”10、ミストラル7!!」

「何だ、その機体・・・?」

トールが聞いた事もない機体の種類、名前に首を傾げるとナタルが説明してくる。

「無理もないだろうな、ASは一年戦争から存在はしていたんだが、MSほどメジャーではないからな」

そう、ASも一年戦争時代から存在はしていたのだが、核融合炉で動いている当時のMSと比べると力負けをするので、
大量生産されず、配備もPT以上に少く、極一部の地域でしか使われていなかった。

だが、Nジャマーの所為で従来のMSが使用出来なくなった事もあり、エステバリスと同じ様にASを実戦配備する所が各地で増えてきていた。

数で押され、未だに重力に慣れていないストライクはバクゥやASにいい様に翻弄される。

ナタルは援護射撃を指示しようとした時、戦場にマジンガーZとグルンガスト改が到着した。




「光子力ビーム!!」

空を飛びながら放たれた光子力ビームが、ブッシュネルを貫く。

「うおおおっ!!」

大上段に構え、落下しながら振り下ろされたインフェリアジャベリンがミストラルを切り裂き、ブリットはそのままジャベリンを振り回し、
周囲にいたブッシュネル2機、サベージ1機、ミストラル2機を破壊する。

「甲児さん、ブリットさん!」

「無事か、キラ!!」

「まったく、先走るんじゃねえよ! お前1人で戦っている訳じゃないだからよ!!」

ブリット、甲児はそう言うと、ストライクを守る様に立ち塞がる。

2機のスーパーロボットに睨まれた所為か、敵機は一瞬怯んだがすぐさま攻撃を開始してくる。

バクゥがミサイルランチャーを放つが、マジンガーZは回避しようともせずに、攻撃を受けそのまま反撃してくる。

「くらえ!! ロケットパーンチ!!」

しかし、高速で移動するバクゥに当たらず続けてミサイルを放たれる。

「うわっと! 速いな・・・!」

ブリットもジャベリンでは小回りが利かないと判断すると、ソニックトンファーを構えバクゥに殴りかかるが、やはり高速で回避されてしまう。

「くそ!! 虎龍王なら簡単に追いつけるのに・・・!!」

歯噛みするブリットの背後から、ブッシュネルがアサルトライフルを構えるが、それに気付いたキラがアグニを放つ。

「このっ!!」

しかし、それに気付いたブッシュネルはその場を飛び下がり、アグニを回避しながらストライクに狙いを変えてくる。

キラはその空中に逃げるが、そこをバクゥに狙われミサイルが命中する。

「このっ!!」

キラは機体のバランスを崩しながらも、アグニを連射し反撃するが、全て回避されてしまう。

バランスを崩して、着地すると今度はブッシュネル、サベージのアサルトライフルがストライクに着弾する。

キラはアグニで反撃するが、さっと散開されやはり回避される。

そして、再びストライクを宙に躍らせると、アグニを発射する。

「接地圧が逃げるんなら、合わせりゃ良いんだろ!!」

小さく吐き捨て、キラは空中に逃れた僅かの間にストライクの運動プログラムに修正を加えていく。

「・・・逃げる圧力を想定し、摩擦係数は想定・・・」

常人ではありえない速度でキーボードを叩き、それが終ると同時に着地する―――今度はバランスが崩れない。

そこに、直接攻撃を加えようとしたバクゥが背後から襲ってくるが、アグニの銃床で突き上げ、続けて回し蹴りを食らわせる。

ストライクはそのまま、倒れたバクゥを踏みつけアグニを押し当てると、無造作に引き金を引いた。

爆発の炎が砂漠を明々と照らし、その照り返しを受けたキラの顔に何ら躊躇いはなかった。

彼は底冷えする様な目付きで、敵機を睨みつける。

「―――アークエンジェルは、やらせない・・・!!」

守りきってみせる・・・大切な人達を―――『彼女』を―――その為ならば、もう躊躇いはしない。
例え、その手を同胞の血で染めるとしても―――




「これでもくらえ!! ルストハリケーン!!」

マジンガーZから放たれた、酸性の強風がバクゥ1機とブッシュネル3機、ミストラル2機を巻き込みその動きを止めさせる。

「ブリット、今だ!!」

「応!! ゲットセット、インフェリアジャベリン!!」

動きが止まった所に、インフェリアジャベリンが一閃し、その場にいたバクゥ達が爆発する。

「アムロ達が来るまでに片付きそうだな?」

「油断するなよ、甲児。 新手が来ないとも・・・来た!?」

甲児に返してる最中に、真紅のASが砂丘から飛び下りてきた。




「オイオイ・・・たった3機になんてザマだよ」

ガウルンは戦場を見て、半ば呆れたように呟いた。

落下しながら、ガウルンは35mmライフルを放つ。

「念動フィールド、展開!!」

グルンガスト改は念動フィールドを展開して防御し、マジンガーZ、ストライクは被弾しながらも反撃してきた。

「ドリルミサイル!!」

「いけぇーーーっ!!」

ドリルミサイル、アグニが落下中の真紅のAS―――コダールに迫る。

バーニアを装備していないASに回避する手段がある訳もなく、2機の攻撃はそのまま直撃した。だが―――

「なんだとっ!?」

「無傷・・・・!?」

爆炎が晴れると、無傷のASが現れそのまま地面に着地する。

並みの、並以上のMSやPTでも損傷を負うほどの攻撃だった筈だ。

その攻撃を受けても、目の前にいるASは傷一つ負う事無く無傷で存在していた。

「危ねえ、危ねえ。まともに食らえば、ASの装甲じゃひとたまりもないな」

ガウルンは口元に笑みを浮かべながら言い、そのまま攻撃を開始する。

牽制するように、35mmライフルを連射しストライクに接近する。

「!? 今までの敵と、動きが違う・・・!?」

キラは後ろに跳んで距離を取ろうとするが、そのスピードよりも速くコダールが更に一歩踏み込んでくる。

「おせぇっ!!」

抜き放たれた単分子カッターが、ガンランチャーの銃身を斬りおとす。

「こいつ!!」

ブリットがストライクを援護する様に、コダールの背後からジャベリンで突くが、機体を半回転させ回避され35mmライフルの銃床が
機体頭部の側面を襲う。

「くっ!!」

ブリットは機体を半身下がらせ、回避しながらそのままジャベリンを横に薙ぐ。

「まだ甘めぇよ!!」

だが、ガウルンはジャベリンの刃の裏側を肘で弾き上げ、軌道をずらして回避する。

「なにっ!?」

「スジは良いが、機体のパワーに頼りすぎだな。もっと、技を磨く事だな!!」

そのまま、ジャベリンの柄を掴むとグルンガスト改の重心を少しずらさせ―――投げ飛ばした。

「なっ―――」

グルンガスト改の巨体が投げられた事を直ぐには理解できず、機体の受身を取る事も出来ずに背中から地面に落下する。

そこを狙い、バクゥや他のASがグルンガスト改に攻撃を仕掛けようとするが、フィンファンネルで撃墜された。

「アムロ少佐!!」

「すまない、遅くなった」

アムロは応えながら、牽制のビームライフルを連射する。

その後ろから、Ζガンダム、アルトアイゼン、エルガイム、カルバリーテンプル、カチーナ達のゲシュペンストが到着する。

「はっ、真打登場だな」

普通のパイロットならば、νガンダムやΖガンダムを筆頭にしたロンド・ベル隊の参戦に脅威を覚える状況である。

だが、そんな状況下でもガウルンは口元に不敵な笑みを浮かべていた。




少し離れた所で戦局を見ていたバルトフェルドは、感心した様な口笛を吹く。

「ほお・・・ロンド・ベル隊が揃い踏みだね。かつての全戦力は揃ってはいないが、それでも戦局を引っくり返す力はあるか」

「しかし、報告にあったよりも出撃機体が少ないですね・・・?」

双眼鏡から目を離し、バルトフェルドはダコスタに言う。

「大方、まだ調整が終っていないんだろうな。まあ、この際好都合だ―――残りのバクゥ、ASを出せ、レセップス艦砲射撃開始」




新たにバクゥが10機、サベージ、ブッシュネル、ミストラルが5機ずつ、計15機が戦線に参加し攻撃を仕掛けてくる。

「いくらロンド・ベル隊でも、2本足のMS、PTだ。この足場では宇宙ほど上手く立ち回れまい!!」

バクゥを駆る、ザフト兵が自信気に吼え、アルトアイゼンに高速で接近しながらレールガンを放つ。

だが―――アルトは足場など気にも留めず、宇宙での戦いの時よりも速く踏み込んできた。

「なっ―――!?」

「この機体は元々こっちがホームだ・・・足場が如何であろうと、踏み込みの速度では負けん・・・!!」

ここまで速く踏み込んでくるとは予想しておらず、バクゥは真正面からステークに打ち抜かれ弾き飛ばされて爆発する。

バクゥのミサイルランチャー、それに合わせサベージやブッシュネルが対ASミサイルをΖガンダム、エルガイムに向かって放つ。

Ζガンダムは横に回避運動を取り、エルガイムは上に跳躍しそれぞれ、ビームライフル、パワーランチャーを連射して
バクゥ3機とブッシュネル2機を撃墜する。

上に逃れたエルガイムを1機のバクゥが跳躍して追撃をかけ、ミストラル2機がライフルで狙撃しようと構える。

「かかった!!」

「そこっ!!」

だが、そこを狙い跳躍したバクゥの腹部をカチーナのプラズマステークが、ミストラル達をカルバリーテンプルのサッシュが撃ち抜き破壊される。

ザフト兵達は誰もが自分の目を疑っていた。

局地専用ではない、汎用型のMS、PTが足場の悪いこの場所で局地専用機よりも動けている事に。

それはロンド・ベル隊全員が並以上・・・エース級の実力を持っている事もあるが、一番大きな要因は、アストナージ達、整備班の存在だ。

彼等が時間を多少掛け、陸専用の機体を優先してこの地形で、充分に機体の性能を引き出せる整備をしてくれているおかげである。

他の部隊の整備員も、そうなる様に整備をするがロンド・ベル隊整備班のヌシ、アストナージほど完璧に素早くは出来ないだろう。

この地形でも機体の能力、パイロットとしての能力を完全に引き出せているロンド・ベル隊にザフトは次第に押されていった。

だが、その中でガウルンのコダールだけは違っていた。

ストライク、マジンガーZ、グルンガスト改、そしてアムロのνガンダムを相手にしながらも、未だに無傷であった。

「どうなっているんだ・・・? さっきから何発も被弾している筈なのに、損傷がない・・・?」

アムロはコダールの35mmライフルを回避しながら、確認のため再度ビームライフルを放つ。

「ひゅう、流石ニュータイプ・・・良い狙いをしてるぜ」

ガウルンは口笛を吹き回避するが、そこを狙いキラがアグニを放った。

「これで・・・!!」

タイミング的に完全に回避は出来ない、アグニから放たれた大出力のビームは、確かにコダールに直撃する。だが―――

「また無傷、だって・・・!?」

キラは信じられず驚愕の表情をするが、別の角度から見ていたブリットは仕掛けに気付いた。

「あの機体、命中する直前にバリヤを張ったぞ!!」

「なるほどな! なら、話は簡単だ!!」

「どうするんです!?」

自信を持って言う甲児に、キラが問いかける。

「・・・何時も通りか?」

「そういう事だ! 根性入れて攻撃すれば、バリヤなんてパリンと割れるんだよ!!」

(・・・いや、そう割れるのは光子力バリヤだけだって・・・)

ブリットは内心でツッコミながら、ジャベリンを構えた。




その頃、アークエンジェルでは遠距離から飛来する熱源を探知していた。

「南西より熱源!! 艦砲射撃です!!」

「離床っ! 緊急回避!!」

砂を高く巻き上げながら、アークエンジェルは離床し、イーゲルシュテルンが目先まで迫っていたミサイルを撃ち落す。

何発かは逸れて地面に命中し、その振動はアークエンジェルを揺るがした。

「何処からだ!?」

「南西20キロ地点と推測!! 艦の武装では対応できません!!」

ナタルの叫びに、サイが報告をする。

『ようやく調整が終った! スカイグラスパー、ヴァイスリッターで出るぞ!!』

『私の台詞なんですけど・・・ヴァイスちゃんのとこ』

フラガとエクセレンの報告が入って来て、マリューは顔を上げる。

『俺が行って、レーザーデジネーターを照射する! それを照準にミサイルを撃ち込め!!』

『ヴァイスちゃんも一緒に行って、先に攻撃を仕掛けるから援護よろしく〜♪』

「そんな! 今から索敵しても・・・!」

ナタルは無理だと言う様に叫ぶが、

『やるしかねえだろうが!! それまで当たるなよ!!』

『こっちからも出来るだけ撃ち落すけど、何発か行くかもしれないからね?』

2人はそう応えると、アークエンジェルから出撃して行き、視界から消えていく。

その間もなくして、サイの報告がブリッジに響く。

「第二波接近!! 直撃コースです!!」

「最後まで諦めないで! 回避運動、総員衝撃に備えよ!!」




「アークエンジェルが・・・!」

「まずい!! 直撃する・・!?」

キラやアムロ達は飛び来る艦砲の軌跡を捉えた。

あれが全て直撃すれば、アークエンジェルでもかなりの損傷を負ってしまう。

キラの脳裏に、出撃する際のフレイの言葉が浮かび上がる。

「―――守ってね・・・この艦を、私を―――」

その瞬間、以前と同じ様にキラの中で『何か』が弾ける。

キラはアグニを構え、アークエンジェルに迫るミサイルを狙って放った。

艦の直前で先頭のミサイルに吸い込まれる様に当たり、その射線上にあった2発のミサイルも破壊される。

「手の空いてる機体は、ミサイルを撃ち落せ!!」

アムロは全機に指示し、フィンファンネルを放出する。

放出されたフィンファンネルと共に、ビームライフルを連射し、迫るミサイルを次々と破壊していく。

「こっちもいる事、忘れんな!!」

ガウルンが背後からストライクに斬りかかって来る。

今度は、コダールにアグニを向けるが警告音がコックピットに鳴り響いた。

キラは息をのみ計器を見ると、バッテリーがレッドゾーンになっていた。

「!? バッテリーが!? アグニを使いすぎた!?」

慌てて機体を下がらせ様とするが、コダールの方が早い。

やられるっと思った瞬間、ストライクを横殴りの衝撃が襲い横に倒される。

「助かった・・・?」

「悪い、キラ。ちっと手荒になった」

甲児は謝りながら、ロケットパンチを装填する。

甲児はキラが回避に間に合わないと判断し、ロケットパンチで―――手は平手だったが―――ストライクを押し飛ばしたのだ。

「クックックッ・・・愉快な手だな、オイ!?」

今の光景を見て、ガウルンは愉快そうに大笑いする。

その所為で、コダールの身動きが一瞬止まり、甲児はすかさずマジンパワーをオンにし、

「バリヤを張ってても、これなら貫けるだろ!! ブレストファイヤー!!」

最大出力のブレストファイヤーだ、まともに食らえば戦艦だろうとただでは済まない、が。

そのブレストファイヤーも、コダールには損傷を与えられなかった。

「なっ!? 冗談だろ!!」

「クックッ・・・温い攻撃だな? お手本、見せてやろうか?」

驚く甲児にガウルンは笑いながら、ふざけた様に指で銃の形を作り、

「バァーンッ!!」

撃つ真似をした瞬間、マジンガーZの装甲にヒビが入り、大きく弾き飛ばされた。

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

「甲児!?」

「嘘だろっ!? マジンガーZが!?」

ロンド・ベル隊の誰もが、否、その戦場にいる誰もがその光景を信じられなかった。

超合金Zで出来ているマジンガーZが、一撃で弾き飛ばされ多大な損傷を負っている事に。

「オウオウ、頑丈だな? ASやMS、PTなら今ので破壊されてるんだぜ?」

ガウルンも―――ロンド・ベル隊とは違う意味で―――驚きながら、マジンガーZを見ていた。

「野郎―――!!」

頭に血が上ったブリットが、ソニックトンファーでコダールに殴りかかる。

それに気付いたガウルンは、再度同じ事をするが、目の前に展開された念動フィールドに阻まれる。

「何!? ラムダ・ドライバは同じ物でしか防げない筈だろ? まさか、こいつも・・・!?」

ガウルンは呟くと、確認する様にその場に止まり、ソニックトンファーを正面から受ける。

「くっ・・・! 通らない・・・!!」

「ふん・・・ラムダ・ドライバが搭載されてる訳じゃない、か。不明な所が多い装置だな」

ソニックトンファーはコダールの目の前で、壁に阻まれたようにして止まっていた。

興味を失くしたガウルンは、トンファーを掴むと右に傾けさせ、逆の足で足払いをしグルンガスト改を転倒させる。

その後ろから、何時の間にか肉迫していたアルトアイゼンがステークを構えていた。

「妙なフィールドを持っているようだが・・・打ち貫くまでだ・・・!!」

キョウスケは吼えて、ステークを叩き込むがブリットの時と同じ様に、壁の様なもので阻まれコダールまでは届かない。

「ぬっ・・・! ステークでも無理かっ・・・!?」

「そういう事だ。残念だな?」

ガウルンは答え、ラムダ・ドライバを放とうとした瞬間を狙い、

「ならば・・・! クレイモア!! 抜けられると思うな・・・!!」

攻撃と防御は一緒には出来ないと踏んでの賭けであった。

大量のベアリング弾がコダールに襲い掛かり、キョウスケはアルトを下がらせる。

「やったか、キョウスケ?」

「いえ・・・」

アムロはキョウスケの答えを聞きながら、アルトを見た。左肩のクレイモアが破壊されている。

「あちらは、無傷です・・・まさか攻防を同時に出来るとは・・・」

驚愕を覚えながら、キョウスケはコダールを見る。

確かに無傷ではあるが、何故か身動きを取ろうとはしない。

「まいったな・・・充電しないで、連続使用したからオーバーヒートか。オイ、回収しろ!!」

ガウルンは困った様に頭をかくと、近くにいたブッシュネルに回収を命じた。

ブッシュネル2機がコダールを抱えて後退し、それを守る様に他のASが壁になりながらライフルを連射してくる。

「キラ、甲児!! 後退出来るか!?」

カミーユが回避をしながら、甲児達に問いかける。

「・・・バッテリーが心細いですが、何とか」

「こっちは・・・くそっ!! どこか回路がやられたか、立てねえ・・・!!」

甲児はマジンガーZを立ち上がらせようとするが、脚が上手く動かず、ジェットスクランダーを吹かして立たせようともする。

しかし、こちらも回路が故障したのかジェットスクランダーからの反応がなかった。

それをチャンスと見たバクゥが6機、マジンガーZとストライクへと襲い掛かる。

「いかせない・・・!!」

ラトゥーニとラッセルのゲシュペンストが立ち塞がり、行く手を阻むが2機が彼女達の足を止め、残り4機が突破に成功する。

他の機体が援護に回ろうとしたが、距離がかなり開いておりどう見ても間に合いそうもなかった。

「甲児さん・・・!」

「くそっ!! 動け、動いてくれマジンガーZ!!」

甲児は何とか動かそうとひたすら足掻き、キラはマジンガーZを守る様にストライクを前に立ち塞がせる。

後2、3発でも攻撃を受ければ、PS装甲がダウンすると判っていながら―――。



バクゥがレールキャノンを放とうとした瞬間、突如上空に機体反応が現れた。

「なんだ・・・?」

不思議に思ったザフト兵が上を―――月を見上げると、そこに大鎌を構えた死神のシルエットが浮かんでいた。

「死神・・・!?」

その呟きが味方に聞こえる前に、彼の乗るバクゥは死神の鎌に切り裂かれた。



「オラオラァーッ! 死神様のお通りだ!!」

上空からバクゥを切り裂いた、デスサイズヘルは着地するとそのまま鎌を大きく振るい、近くにいたバクゥ3機を纏めて切り裂いた。

「よお、久しぶりだな。甲児」

「デュオ!? お前、地球にいたのか!?」

「ああ、カトルの付き合いでな。それに、トロワも一緒だ」

デュオの言葉を証明するかの様に、バクゥに切りかかるサンドロックの姿が甲児の所からも確認できた。

そして、カトルをロンド・ベル隊を援護する様にミサイル、ガトリング弾が上空からバクゥ、AS達に降り注ぐ。

「トロワ、『明けの砂漠』の人達は?」

「こちらにむかっている・・・が、歩兵武器だけで戦わせるのは、少々危険だ・・・彼等が来る前に片付ける」

カトルに返すと、トロワは砲撃の手を更に強めた。

負けじとバクゥ、AS達が撃ち返してくるが飛来してくるミサイル、銃弾の量が違いすぎた。

対ASミサイルをダブルガトリングで撃ち落し、そのまま胸部ガトリングガンを撃ち返す。

回避出来なかったASはあっという間に蜂の巣になり、運良く回避出来た機体も同時に放たれたホーミングミサイルに追尾され、
逃げ切れずに次々と破壊されていく。

バクゥは高い機動力を生かし、回避しながらヘビーアームズに接近しようとするが、その前にデスサイズヘルが立ち塞がり、

「邪魔するなっつってんだろ!」

接近してきたバクゥをビームシザースで切り裂いた。



「―――これ以上の戦闘は無意味だ、撤収する―――残存部隊をまとめろ」

バルトフェルドが告げると、ダコスタは急いで全機に撤退の指示を出した。

ガンダムが3機加わった時点で、戦況が一気に加速した―――自分達の敗北へと。

当初の目的は果したのだ。全滅をさせない為にも、残った機体を一刻も早く引きあがらせる必要があった。



色々と、収穫のある戦闘だった。

敵も然る事ながら、ガウルンの駆るAS―――コダール。

マジンガーZの攻撃をもあっさりと防ぎ、多大な損傷を与える事が出来る装置を搭載している。

今の地球、プラント、木連を探してもそんな技術は存在しないだろう。

EOTとも思ったが、何となく系統が違う気がしないでもない。

(本気でジブラルタルに確認を取る必要があるな・・・)

そこまで思考すると、考えはアークエンジェルの方に代わる。

「しかし・・・あのパイロット・・・」

バルトフェルドは興味深げに呟く。

最初は無様に空中でバランスを崩し、更に砂にも足を取られていたというのに、戦闘の最中に突然別の機体の様に動きが変わった。

その事だけで、一つの事実が判明する・・・あのパイロットは戦闘中、バクゥに襲われている最中にOSを書き換えたのだ。

「それにしても、あのミサイルを一瞬で撃ち落すとは・・・アムロ・レイは兎も角、ナチュラルのパイロットが簡単に出来る事か・・・?」

あのパイロットがニュータイプの可能性を考えても、不に落ちない点が多い。

冷静でなければ出来ない事をしたと思えば、エネルギーが切れるギリギリまで気付かずに戦い、自らを窮地に追い込む真似をする。

何とも奇妙な敵だ―――そう思いながら、最後に彼は背後を見やった。

「いずれにせよ、久々に戦いがいのある相手のだな。大天使殿とロンド・ベル隊、そして・・・」

その視線の先には、ちょうどバッテリーが切れたのか、PS装甲がダウンするストライクの姿があった。




一方、アークエンジェルのブリッジでは、引いていく敵にみなが一様の安堵を浮かべていた。

その時、ミリアリアにレーザー通信が入る。

「フラガ大―――いえ、少佐より入電! 『敵母艦を発見するも、攻撃を断念! 敵母艦はレセップス!』」

「レセップス!?」

彼女の報告に、マリューが鋭い声を上げた。

「『繰り返す、敵母艦はレセップス、これより帰艦する』以上です」

マリューの顔が深刻な表情を浮かべているのに気付き、ナタルが声をかける。

「レセップス、とは?」

「・・・砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドの母艦よ・・・さっきの真紅のASといい・・厄介な戦いになりそうだわ・・・」




戦闘を終えたアムロ達は全員が機体から降り、カトル達との再会を楽しんでいた。

「久しぶりだな、3人とも」

「ええ、ウィナー家の戦後の復興事業が忙しくて、みなさんと連絡が取り辛かったですし、デュオやトロワも僕を手伝ってくれてましたから」

アムロの言葉にカトルが応える。

「でも、また戦争が始まったんで事業は休止、俺達もガンダムで戦おうかと思っても、Nジャマーの所為で機体が動けなかったからな」

「ああ・・・だから、ロンド・ベル隊が『あの装置』を回してくれた時は助かった」

デュオ、トロワがアムロに言うと、彼は不思議な顔になり、

「・・・何の事だ? ブリット、カザハラ博士は他の部隊にも『例の装置』を?」

「いえ? そんな筈はないですよ。もしそうなら、既に大戦前のMSがあちこちで稼動している筈ですし・・・」

2人の会話を聞いたカトル達は、不審そうに眉を顰めた。

「冗談や誤魔化している訳は・・・いえ、必要はないですね・・・なら、誰が・・・?」

「・・・ロンド・ベル隊の誰か、と言う訳ではないな・・・ロンド・ベル隊と偽った、第3の組織、か」

「何が目的だろうな? 俺達の機体を動ける様にした以上、敵である事は考えにくいぜ?」

カトル、トロワ、デュオが考え込んでいると、少し離れた所からキラとカミーユ、キョウスケの言い争いが聞こえてきた。




ストライクから降りたキラをキョウスケが呼び止める。

「キラ・・・何故、アムロ少佐の命令に従わず勝手に出撃した・・・?」

言葉は静かであったが、内心に含まれている怒気が微かに滲み出ている。

だが、キラはそれに臆さず答える。

「悠長に待っていたら、艦を落とされるかもしれなかったからですよ・・・もういいじゃないですか、結果的に敵を倒せたんですから」

「だが、それは結果論に過ぎん・・・! それに、たった1人で敵を倒せるとでも思っていたのか・・・!?」

「違いますよ! それに、なんで僕だけに言うんですか!? 無断出撃、独断専行はロンド・ベル隊では結構ある事じゃないですか!!」

「確かによくある事だけど、今回のキラとは全然違うぞ」

キラは苛立ち、キョウスケに叫ぶがカミーユが脇から話に入る。

「キラの言う様に、そういう事は甲児や豹馬・・・忍達がよくやるが、仲間を信じて戦う・・・だが、今回のキラは彼等とは明らかに違う。
仲間を信じないで、自分だけで戦おうとしていたぞ」

「そ、そんな事・・・!」

キラは言い返そうとするが、カミーユは軽く首を振り、

「嘘だ。もしそうなら、同時に出撃できた甲児やブリットを待つ事も出来た筈だ」

カミーユに言われた様に、あの時は完全に自分1人で戦っていると思っていた。

自分が、否、自分しかフレイを守れないと思ってしまい、勝手に自分自身を追い込んでいたからだ。

何も言い返せなくなったキラは、俯き愚痴る様に呟いた。

「何で・・・何で僕が責められなくちゃいけないんですか・・・!? 僕は辛いのを我慢して戦っているのに!! なのに!!」

顔を上げ、カミーユを見て叫んだ瞬間、彼の拳がキラの顔を殴り飛ばしていた。

いきなりだったのもあるが、それ以上に拳が速かったのもありキラは避ける事が出来なかった。

受身も取れずキラは砂漠に倒れこみ、カミーユは拳を握り締めたまま叫んだ。

「自分だけが特別だと思うな!! それで、誰が解るものかよ! 守ってくれるのかよっ!!」




「アムロさん、彼は?」

「ああ、紹介してなかったな。彼はキラ・ヤマト少尉。あの新型機、ストライクのパイロットだ」

カトルにアムロが教えると、デュオが少し驚いた顔で問いかける。

「って、止めなくていいのか? 揉めてるみたいだけどよ?」

「いいんだ。カミーユやキョウスケがやらなかったら、俺がやっている所だ・・・似たような経験を持つ者としてな」

「似たような経験?」

聞き返してくるトロワに、『ああ』と短く返し、

「ホワイトベースに乗ったばかりの俺は、今のキラと同じ事を言って、ブライトに殴られているからね・・・2回ほど」

アムロがそう答えた時、彼等に戦闘バギーの集団が近寄ってきた。

「オイ、あいつらは・・・?」

カチーナがその集団を指差しながらデュオに問いかける。

「ああ、今俺達が世話になっている『明けの砂漠』の連中さ」

「サイーブ、ラシード。ゴメンよ、仕掛けが無駄になって」

カトルがマグアナック隊のラシードと、髭顔の恰幅のいい男に声をかける。

「いえ。カトル様がご無事ならばそれで」

「まあな。友が世話になった恩人に何かあったら、申し訳がない。仕掛けなんざ、また後でも使えるからな・・・で、あの『ガンダム』が?」

サイーブが顎でストライクを指すと、後方でそれを応える様にやや高めの声があがる。

「『ガンダム』じゃない。Xー105ストライクと呼ばれる、連邦の新型MSの試作機だ」

アムロ達、カトルの傍にいたロンド・ベル隊の全員が驚いて、声を上げた金髪の少女を見やる。

少女はアムロ達の驚きに気付こうともせず、彼等に問いかけてくる。

「で、誰がアレを使ってるんだ? あんたか、アムロ・レイ?」

まったく遠慮無しにアムロに聞くが、デュオがキラの方を指差し、

「いんや。あそこで・・・今立ち上がっている、キラって奴だぜ?」

デュオに教えられて、キラの顔を見た瞬間、彼女はキラへ向かって駆け出した。

「オイ待て、カガリ!!」

サイーブが制止の声を上げるが、カガリと呼ばれた少女はまったく聞いていなかった。



「おまえ・・・・・っ!!」

立ち上がったキラは背後から、声をかけられ振り返った。

2人はしばしの間、互いの顔を見詰め合っていたがカガリが喧嘩腰に叫び、キラに手を上げる。

「お前が何故、あんなものに乗っている!?」

キラは反射的に拳を受け止め、怪訝な表情になる。

一方、カガリは悔しそうな顔になりキラを睨みつけた。

(―――この子、何処かで会った様な・・・・?)

キラは胸中で呟き、記憶を辿ると・・・直ぐに思い出し、目を見開いた。

「―――きみ、あの時、モルゲンレーテにいた・・・!」

ヘリオポリスが襲撃された時、キラが無理矢理シェルターに押し込んだ少女だった。

(あれから、そんなに月日は経っていないのに、遠い昔の様な気がするな・・・)

キラが暫し呆然とし、カガリは彼の手を振り解こうと身をよじる。

「くっ・・・! 離せ、この馬鹿!!」

カガリの残った拳がキラの頬を殴り、それに驚きキラは思わず手を離し後ずさる。

「カガリ!!」

サイーブに咎められ、カガリは渋々引き下がった―――最後に怒った様な顔で、キラを睨みつけてから。

殴られた痛みより、驚きの方が大きかった。

(―――何故、彼女がこんな場所に・・・?)




一方ブリッジでは、マリューとナタルが頭を抱えていた。

『何で、勝手に降りてるんですか・・・アムロ少佐達は・・・・』

異口同音でマリューとナタルが呟く。

取りあえず、敵ではない様だから良いものの、こちらに危害を加える連中だったらどうするのだ・・・?

2人の呟きにはそんな意味が込められていた。

「・・・ともかく話してみるわ・・・向こうは敵対するつもりはないみたいだし・・・後はお願い」

マリューはナタルに言い、ため息を吐いてからブリッジを後にした。

(今回ばかりは、同情します・・・艦長・・・)

ナタルも一つため息を吐いて、彼女を見送った。




第十七話に続く



あとがき

作:今回、原作同様の展開を何人の方が期待してたでしょうか? いや、あのシーンは無理です。
だって、ロンド・ベル隊ですよ!? 既にマークが付いてるんですよ!? 
それに、キラを泣き落とさせるキッカケの花が勲章の様な物になってますし・・・ここでアッチに走るのも変かな、と。
さて、今回初登場のフルメタル・パニックのキャラと機体如何でしたでしょうか?
最初はラムダ・ドライバをATフィールドの様な扱いにしようかとも思いましたが、ちょっと捻ってみました。
原作の設定では、理論上、核兵器をも無効化できるらしいので、それをやや支持する形にしてみました。
ひたすら力押しってのもつまらないですし・・・どうすれば破れる、無効化出来るかは、もう少し後で詳しく語ろうかと思います。
ちなみに・・・戦争バカの出番は虎との決戦時あたりになるかと思います。少しお待ちください。

なお、前回迷いまくったナデシコサイドの話は、しばらくお待ちを。
地上でロンド・ベルと合流するまでに書き上げますので・・・多分(マテ)

 

 

管理人の感想

コワレ1号さんからの投稿です。

ガウルンの登場ですか・・・私はこいつは大好きです(笑)

登場そうそう、大活躍してますしねぇ。

ま、コイツの事ですから、また裏でコソコソと余計な悪巧みをしてくれる事でしょう・・・というより、悪巧みをしないとガウルンじゃない(爆)

キラは修正されるし、戦争馬鹿も出場予定があるそうなので、実に楽しみですね。

 

> 作:今回、原作同様の展開を何人の方が期待してたでしょうか? いや、あのシーンは無理です。

 

いや、そりゃ無理だろうな(苦笑)

ただでさえ、ニュータイプの巣窟なんだし(爆)