紅の軌跡 第14話
「ふむ。何と戦うか、か。」
毅然とした表情で問い掛けてくるラクス。
キラの横で優しく彼をいたわっていた時の様子はかけらも見られず、ただ、まっすぐに物事を正面から受け止め、それでも前に進もうとするものに特有の鋭さが見受けられる。
その様は、地球連合の無理難題を凌ぎ、逸らし、そしてプラントの自主独立を得んと奮闘してきた稀代の政治家シーゲル・クラインの娘であることを万人に認めさせるものであった。
政治家として人の上に立つものとして、パトリックの息子であるアスランを資質の上で間違いなく上回っていよう。
「今次大戦は、人類による初めての大規模宇宙戦争という点では過去に例を見ない。
だが、その争いの争点は歴史的に見ても使い古された植民地の独立戦争ということでしかない。」
そんなラクスを前に、まるで分かりきったことを告げるようなパトリックの表情は淡々としている。
「もっとも、生誕種差別というこれまでになかったエッセンスが加わっているところが、これまでの歴史と若干違っているがな。」
そう言うと視線をラクスら三人の若人に戻す。
「もし、戦争に勝利を収めれば、プラントはひとつの国家として独立し、地球連合は経済的植民地を失い、その権勢を低下させるだろう。
逆に、戦争に敗北したならば、プラントは地球連合の下、これまでの半世紀を越える長き屈従の歴史を歩むことになる。」
パトリックの言葉は続く。
そこにはシーゲル・クラインと共に、政治結社「黄道同盟」を設立し、数十年の長きにわたり自治権、貿易自主権を求め、地球連合の弾圧と戦い続けてきた戦う漢の姿があった。
「この戦争に引き分けはあり得ない。
仮に戦況がこう着状態のまま推移し、このまま停戦に至ったとしよう。
その場合、我らプラントは勝利を収めたことを意味する。」
パトリックはそう断言した。
「何故そういえるのでしょうか?」
「理由は至極簡単だ。
いま、プラントは地球連合のくびきから完全に逃れている。
そして、我らは自らの道を自らで決めることができる。
これを独立国家と呼ばずして、何と呼ぶのかね?」
いささか乱暴な説明であったが、パトリックが示した別の角度からの現状分析は正しいといえる。
いま、プラントは戦争状態にあるが、間違いなくひとつの国家として振る舞い、そして地球上の諸国家もプラントを事実上の国家として扱っている。
いうなれば、プラントの戦争目的である独立は達成されたも同然の状態なのだ。
つまり、独立国家が国民に提供する「生命・財産の安全」という役目を果たすために、侵略者である地球連合と戦っているという図式が描けるのだ。
「ラクス嬢。人が戦う相手、つまり人の敵は人しかあり得ないのだよ。
それは我らコーディネイターが、より高くより遠くに飛ぶことに成功していると仮定するならば、異星人と出会うまでは変わることはないだろう。」
「では、パトリックおじ様はコーディネイターとナチュラルの共存はあり得ないとおっしゃるのですか?」
そう尋ねたラクスの瞳には、父親と同じ理想を追い求める炎が宿っているかのように力強く輝いていた。
「そうは言っていない。
コーディネイターとナチュラルの共存、そしてプラントと地球連合の戦争、その二つは全くの別問題なのだと私は考えている。」
「・・・なるほど、それで先ほどの言葉が出てくるのですね。」
「そういうことだ。
プラントと地球連合の戦争は、あくまで独立戦争でしかない。
そこには本来、コーディネイターとナチュラルの共存あるいは互いの排斥という理念の争いは持ち込むべきではない。」
「ですが父上、現状はプラント=コーディネイター、地球連合=ナチュラルという図式の下での戦争です。」
父親の言うことに納得がいかなかったのか、アスランが思わず口を挟む。
それを特にとがめることなくパトリックは視線をアスランに向けた。
「確かに現状ではそのように見える。
だが、プラントにはナチュラルは一人もいないのか?
地球連合には、コーディネイターは一人もいないのか?」
「それは・・・」
パトリックの指摘に、そうではないことを思い出し沈黙する。
プラントには、第一世代コーディネイターを生んだナチュラルが、ブルーコスモスのテロを恐れてそれなりの数が移住してきており、さらに、コーディネイターに好意的な人達、あるいは家族や一族にコーディネイターがいる人達等もブルーコスモスを恐れて、プラントに移住してきている。
他にも、遺伝子病の治療のためやむを得ず遺伝子調整を受けたもの達も多数いたのだが、ブルーコスモスは、その辺りも見境なく攻撃を加えたため、彼らもまたプラントへの移住を余儀なくされていた。
そして、彼らはそのままプラントの一角で居住を続けており、最高評議会は彼らの生活を手厚く補助している。
なぜなら、第二世代、第三世代のコーディネイターの数が思うように増加しないプラントにとって、第一世代コーディネイターを生んでくれるかもしれない彼らは、非常に貴重な存在だからだ。
さらにこれは余談だが、彼らから生まれ出でた第一世代コーディネイターは、第二世代、第三世代コーディネイターに比べて、ナチュラルに対する偏見や蔑視の意識がひどく薄いというよりもほとんどないのが特徴としてある。
まあ、自分たちの両親がナチュラルであり、その両親に普通に可愛がられて育った子供であれば、もともと聡明なコーディネイターなのだから無用な偏見には捕らわれにくいものだ。
結果として彼らナチュラルの両親に育てられた第一世代コーディネイターの存在は、プラント内部でも一定の勢力を築いており、プラント全体がナチュラル排斥の方向に向かうことを未然に防いでいる。
もちろん戦場の狂気に捕らわれ、ナチュラルを虐殺するコーディネイターがいることも事実であるが、それはあくまでザフトの兵士が地球連合の兵士を虐殺したに過ぎない。
少なくとも後方ではそのような事態には陥ることなく、健全な意識が保たれていた。
プラント市民が恐れているのは、あくまでブルーコスモスを始めとする狂信者達と地球連合という巨大な敵性国家なのだ。
「宇宙においては、お前を月面都市コペルニクスに留学させていたように、もともと生誕種差別の意識がほとんどない。
かつて、地球の船乗りたちは「板子一枚下は地獄」といっていたが、海に投げ出されても漂流した後で救助される可能性は0ではなかった。
だが、宇宙では外に投げ出されたら酸素が切れた時点で必ず死ぬ。
それゆえ、ナチュラルだろうがコーディネイターであろうが、力のあるものがリーダーに立ち、物事を率いている。ジャンク屋達がそのいい例だろう。
地球上の国家でもオーブ連合首長国がナチュラルとコーディネイターの共存を政策として採用している。
オーブほどでないにしても、他の中立国でもそれなりに共存は行われている。」
「はい。」
「もっとも地球連合傘下の諸国家ではコーディネイターが諸悪の根源とのプロパガンダが行き届いているために、コーディネイターにとっては極めて住みにくいものとなっているがな。」
そう言ったときのパトリックの表情にわずかに苦いものが混じるが、すぐに消し去った。
「良いか、アスラン。
我らの敵は地球連合であってナチュラルではない。
そこのところを見誤ってはならぬぞ。」
「わかりました。」
諭すような父親の言葉に、今度は素直にうなずくアスラン。
その隣では、ラクスが真剣な表情でパトリックの言葉を吟味していた。
そして、おもむろに口を開く。
「パトリックおじ様。もうひとつ質問をよろしいですか。」
「私に答えられることであればかまわぬよ。」
「ありがとうございます。」
そこで軽くお辞儀をしたラクスは、パトリックの考えを吟味した結果、どうしても確認しておきたいと考えた事柄を質問した。
「仮にこの戦争が引き分けに終わったとして、パトリックおじ様はどのような戦後を思い描かれていますの?」
「・・・ほう。
戦後のプラント、か。」
ラクスの鋭い質問に思わず感心の吐息を漏らす。
そして、視線をシーゲルに向けると笑みを浮かべた表情で感想を述べた。
「シーゲル、お前は後継ぎの心配をする必要はなさそうだな。」
「さて、どうだろうな。」
口を挟むことなく愛娘と現最高評議会議長との会話を聞いていたシーゲルが苦笑しながら顔を横に振る。
その様子を、あっけに取られたようにキラとアスランが見ていた。
「まあよい。
さて、ラクス嬢、戦後のプラントを私が率いているとは限らないが、仮に率いていたとした時の、私の思い描く戦後の世界だが・・・」
「はい。」
一言も聞き漏らすまいと集中しているラクスの顔を見ながら言葉をつむぐ。
「まずは移民を募るだろう。
今次大戦でプラントは多くのコーディネイターの若者達を失った。
その穴を埋めるためにも、自らの子供をコーディネイターとして生むつもりのあるナチュラル達、そして、コーディネイターとナチュラルの間に生まれたハーフやクオーターといった人達を積極的に受け入れるだろう。」
「ハーフやクオーターの方々ですか?」
「そうだ。
今はまだサンプル数が少なすぎて確証を持てていないが、純粋なコーディネイター同士よりも混血のコーディネイターとの間のほうが子供が生まれる可能性が高いという事前調査の結果が出ている。
戦争を乗り切っても、人口問題はプラントについて回る。
ならば、コーディネイターの血を引く優秀な人間たちを迎え入れるのは検討に値する選択肢だ。」
そういったパトリックにシーゲルが懸念を表明した。
「パトリック、その考えそのものには賛成するがそれは急進派全体の意志なのか?」
もともとナチュラルの血の中にコーディネイターが回帰してもかまわないと考えていたシーゲルにとって、パトリックの出した想定は極めて納得できるものだった。
だが、彼には急進派全体がそのような考えをもっているとは到底思えなかったのだ。
「現時点では私と極一部の者たちだけの意見だ。
だが、生命工学を始めとする科学者達の懸命な研究にもかかわらず、出生率の低下を食い止めることが出来ていない。
そして、現在の状況を見る限り戦後も出生率の問題を解決できていない可能性が高い。
その場合、人口問題を口実に混血のコーディネイターを受け入れることはそれほど難しくはないだろう。
そして、一度受け入れを始めてしまえばそれを既成事実として受け入れを継続させることも難しくはない。
逆に、仮に人口問題が解決したならば、それはそれでプラントを縛る鎖がひとつ外れたことになる。
それはコーディネイターにとって実に喜ばしいことだ。」
「そうか、わかった。」
パトリックの説明に納得し、そのまま言葉を収める。
視線をラクスに戻したパトリックは次の方針を述べる。
「次に地球連合との関係だが、適正価格での貿易を再開することになるだろう。」
「本気ですか、父上?」
驚いたようにアスランが尋ねてくる。
「無論だ。仮に貿易を再開しなければ、地球連合傘下の諸国家は資源の窮乏状態の改善をなしえないだろう。そうなった場合、彼らは市民の目をそらすためにこれまで以上に反コーディネイターのプロパガンダに力を入れると予想できる。
内部の矛盾から目をそらすため、外に敵を作るのは政治の常套手段だからな。」
「はい。おっしゃるとおりです。」
パトリックの指摘にラクスが頷く。
「そうなった場合、一般市民の間でのブルーコスモス思想がより過激に蔓延する恐れが高い。
いたずらにナチュラルとコーディネイターの間に溝を作ることは私の本意ではない。
ならば、貿易を再開し窮乏状態を改善させ、誰が自分たちの生活を支えているのかをゆっくりと理解させるほうがまだましとは思わぬか?」
「なるほど、そういうことならわかります。」
先のシーゲル同様、納得したアスランは言葉を収めた。
「まあ、既に地球連合傘下の国民に実施された洗脳じみたプロパガンダの影響は、後々まで尾を引くだろうがな。」
そう付け加えたパトリックの口調はさすがに苦いものがあった。
戦前のS2型インフルエンザが地球上で蔓延していた時のことを考えれば、パトリックの懸念は確実に発生することが予想できる以上、当然のことであったかもしれない。
あの時、S2型インフルエンザのワクチンを作り出したのも、必要な数を生産し、地球上に輸送したのもプラントのコーディネイターであったにもかかわらず、政府の情報操作に踊らされたナチュラルは、コーディネイターがジョージ・グレンを暗殺された報復としてS2型インフルエンザをばら撒いたと信じ、逆恨みし続けていたのだから。
ちょっとした間をおき、過去のナチュラルの愚行の記憶を追いやったパトリックは再び視線をラクスに向けた。
「大きな考えとしてはこれで最後になるが、外惑星軌道、おそらくは木星近辺のラグランジュポイントに新たなプラントを設立することを考えている。」
「まあ。」
さすがに予想外だったのかラクスが驚いたような声を上げる。
「人が個々にパーソナルスペースを持つように、種としてのナチュラルもまたパーソナルスペースを必要とするのではないかと、私は最近考えている。」
「パーソナルスペースですか?」
「そうだ。親しい人間、例えば家族やら恋人やらが自分のすぐそばにいても不快にはならないだろうが、見知らぬ人間が近くにいれば、警戒しくつろぐことができないはずだ。」
「はい。」
「だが、離れたところに見知らぬ人間がいてもそれほど気にはならない。
簡単にいえば、この不快を感じる距離がその人間の持つパーソナルスペースといえる。」
「なるほど。」
「いまプラントのあるL5は、普通のナチュラルでも到達できる位置にある。
この距離がナチュラルという種にとって、パーソナルスペースを侵されているように感じているのではないかと考えているのだ。
だからこそ、あれほどのヒステリーじみた反コーディネイター活動が行われたのではないかとな。」
「・・・随分と斬新な考えですね。」
感心したようにラクスがうなづく。
「もちろん、外惑星軌道に新たなプラントを設立する目的はそれだけではない。
というよりも、いま言ったことは副次的なものでしかない。
本来の目的は、外惑星に存在する資源のより効率的な採取と精錬を実施すること、そして太陽系外へ向けての恒星間探索を行うための拠点作りにある。」
「恒星間探索!?」
「そうだ。そもそもコーディネイターは、より高くより遠くに到達するために生み出された種だ。
ならば、生み出された本来の目標を達成するための準備を行うことは至極当然のことだと私は思う。」
そういいきったパトリックの表情にためらいや迷いの感情は全く見当たらなかった。
そんなパトリックを見るラクスの瞳にはこれまでになかった畏敬の感情が揺らめいていた。
「私が考えている戦後の重要施策は主にいま説明した3点だ。
これで、君の質問の答えとなっただろうか?」
「はい。不躾な質問に誠実に応えていただいてありがとうございます。」
にっこりと笑うラクスに鷹揚に手を振るパトリック。
「さて、少々長居が過ぎたようだ。
この辺で退去させていただくとしよう。」
ラクスとの会話を終えたパトリックがそう宣言する。
「まあ、もうお帰りになられるのですか?」
「戦争中の国家元首にはなかなか自由な時間は取れないのでね。」
「貴重な時間を私の質問に費やしていただいて申し訳なく思います。」
「いや、私としても貴重な体験ができた。決して無駄に使ったとは思わぬよ。」
テラスを出て、玄関ホールに向かうパトリックの後を追いながらラクスが反省の意を表すが、パトリックは意に介しない。
そのさらに後ろを最後にキラを言葉を交わしていたアスランが追いかけてゆく。
最後にホストたるシーゲルが悠然とした足取りで彼らを追っていった。
「今日はお前の様々な考えを聞くことが出来て、実に有意義な時間を送れたと思っている。」
玄関を出たところでシーゲルがパトリックに話しかける。
「それは重畳だな。」
それに対する返事は簡潔だ。
「お前があのような考えでいるのならば、当面の間、私は例の計画に専念することが出来そうだ。」
「そうか。よろしく頼む。
ところでシーゲル、エクソダス計画に必要として申請のあった例の件だが、議長権限で承認した。
今日明日中に書類と手配した機材が届くはずだ。」
「そうか、それはすまないな。」
「いや、必要なことを行うのにためらいは不要だからな。」
「果断なところはかわらんな、パトリック。」
エレカの前で振り返ったパトリックは右手を差し出す。
それに応えてシーゲルも右手を差し出し、双方の手が力強く握られる。
「では、失礼する。」
「ああ、事故など起こさぬようにな。」
その一言を最後にパトリックはエレカに乗り込んだ。
クライン親子に見送られながら、ザラ親子の乗り込んだエレカがゆっくりと走り出す。
ルームミラーの中でクライン邸が少しずつ小さくなっていき、やがて完全に視界から消え去る。
特に会話もないまま、エレカは中心街に向かって走行を続けている。
クライン邸訪問を終えたパトリックはエレカの後席でじっと腕を組んでいた。
一番の目的であったアスランの精神面での回復は無事なされた。少なくとも気鬱の状態からは完全に脱している。
これで、今後、他の人間から英雄扱いされても自らの想いとのギャップに苦しむことはないだろう。
ジャスティスを操るアスランは十分にエースと呼ばれるだけの能力を発揮できるはずだ。
それほどの腕を持つパイロットを自由に扱えるとなれば、選択の幅も広がるのは間違いない。このことは小さいことかもしれないが無視できることでもない。
まあ、本編のように離反する可能性は0ではないが、シーゲルがこちらの陣営と協調関係にある以上、その可能性はきわめて小さいといえるだろう。
そして、第二の目的であった穏健派への緩やかな牽制もまた達成できている。
キラ・ヤマトがクライン邸に運び込まれた経緯を、こちらがどのような経路で把握したのか判明しないうちはうかつな行動は起こせないはずだ。
情報漏洩のルートが深い部分にまで達していた場合、穏健派の行動がこちらに筒抜けとなっていると考えるだろうから。そうなった場合、それは穏健派に対する致命的な事態を招きかねないと判断するはずだ。
もっとも、今回の行動でこちらが穏健派との協調を崩すつもりはないことは伝わったろう。地球連合のMSパイロットをよりにもよってプラントの中心部に迎え入れていることを知りながら、一切の行動を起こしていないのだから。
さらに、ラクスその人への楔も打ち込めた。
パトリックの考えを否定するにしろ、受け入れるにしろ、ラクス自身、今しばらく検討の時間が必要となるはず。その間は、クライン派が何かしらの行動に出る可能性ははなはだ少ないものとなろう。
まあ、それは別としても、今のところ穏健派との協調はささいなトラブルを除けば問題なく進展している。
エザリア・ジュールを始めとする急進派の面々も、戦争遂行の主導権をこちらが握っていることでそれほどこのことを問題視していない。
第三に、これは努力目標程度であったが、キラ・ヤマトのザフト軍への協力の可能性が高まったことがある。先のアスランの件でもいったように仮にキラがザフトに協力した場合でも、離反の可能性は極めて低い。
そうであれば、あのスーパーコーディネイターの能力を使わないのはもったいないとしか思えないからだ。
また、キラはオーブ中枢に対する揺さぶりの駒としても重要なので、ぜひともザフトに協力してもらいたいものだ。
もし万が一、キラがフリーダムに搭乗したまま離反した場合でも、プロヴィデンスを与えたクルーゼに追討させるなり、対応の方法はある。もっとも、おそらくそのようなことにはならないですむであろうが。
そして最後に、これは全く想像の外にあったが、司とパトリックの完全なる融合がある。
今までも司はパトリックの記憶をもとに様々なことを成し遂げてきたが、本来の自分の能力でなかっただけに十分にその能力を使いこなせてきたとはいえない。
それが、完全に一体化したことにより新しく生まれた私は、これまで以上に高い能力を発揮することができる。
今後の厳しさを増す戦局を考えると非常に強力な武器として頼りになるだろう。
まあ、私自身が誰かという根本的な問題は・・・・・戦争が終わった後にゆっくりと考えるとしよう。
それにしても、クライン親子、まあ死んでしまったシーゲルはともかく、本編でラクスはどうやって戦争を止めるつもりだったのだろう?
訪問の成果の確認作業を終えたパトリックは、ふとそんなことを考えた。
前評議会議長の娘であり、クライン派のカリスマでもあったラクスであれば、ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルが大西洋連邦に強い影響力を保持していたことは掴んでいただろうし、そしてブルーコスモスが理不尽としかいいようがない理由でコーディネイター排斥に勤しんでいたのも知っていたはずだ。
そして、ブルーコスモスが容易にコーディネイターとの交渉に応じるような集団ではないことも把握していたはず。
しかも、本編でパトリックが最後の最後でとち狂った行動(側近を銃で撃つ)をとらずに、理性的にジェネシスの発射を命じていれば大西洋連邦主要部は壊滅していただろう。
そんな滅茶苦茶な状態で一体どうやって・・・?
「わからんな・・・」
「何がでしょうか?」
思わずつぶやいた言葉に隣に座っているアスランから合いの手が入る。
「なに、たいしたことではない。」
「はあ。」
まさか、自分の考えていたことを説明するわけにもいかないので曖昧な返事をする。
若干怪訝そうな表情だったが、特にアスランが問い返してくることはなかった。
そのまま特に言葉を交わすでもなく、エレカは進んでいく。
やがて、アスランが一時的な宿舎として使っているホテルに着いた。
エレカの扉を開け、切れのある動きでアスランが降車する。
「それでは失礼します、父上。」
「アスラン。」
「はっ。」
姿勢を正した状態で返答する。
そんな彼を見ながら言葉を紡ぐ。
「アスラン、お前を苦しめていた友人殺しという要因は取り除かれたはずだ。」
その言葉を聞いた瞬間、アスランの顔が驚きに満ちる。
パトリックが自分の苦しみを感じ取っているなど全く想像していなかったのだろう。
「お前は友を殺してはいなかった。それでよいな。」
「はい。ありがとうございます。」
「キラ・ヤマトがお前とともにオーブ防衛に出撃するかは今の時点ではわからん。」
「はい。」
「だからこそ、私はお前の働きに期待している。」
「!?」
まさかそのようなことを言われるとはこれまた想像の埒外にあったのか、アスランが絶句する。
「お前の友人であるキラ・ヤマトの祖国を守ることは、レノアの愛したプラントを守ることにつながる。
お前の全力を尽くして戦ってくるがいい。」
「父上・・・」
アスランの両の瞳がうっすらと潤んでいる。
それで話は終わりだというようにパトリックの視線が外れ、そしてエレカが走り出す。
静かに遠くなってゆくエレカを、アスランはその場で立ち尽くしたままずっと見守っていた。
翌日、パトリックの下にシーゲルからの連絡が入った。
その内容は、キラ・ヤマトがパトリックの申し出を受け入れるというものだった。
CE71年5月21日、アスラン・ザラとキラ・ヤマトを乗せたカーペンタリア基地への増援部隊がプラント本土を出発した。
あとがき
キラ・ヤマト、ザフトに参加決定!
アスランとパトリックの仲も改善!
ますます地球連合との格差が開いていく〜
そのうちバランス悪すぎということでつまらないという指摘が増えそうだな(爆)
まあ、それは後々の課題ということで、何はともあれ、ようやくクライン邸訪問編が終了しました。
随分とまあ、長くなったものです。80KBほども使うことになるとは思ってもいなかったな(^^;)
この後は、オーブ戦目指してまっしぐら・・・・・というわけにはいかなかったり(苦笑)
下準備やら何やらで、まだこそこそ書くことが残っていたりするから、オーブ戦はもう少し先になるだろうな・・・
それにしても・・・話が進んでねえ(汗)
>それとも、既に歌姫によって洗脳済みだったりして(爆)。
実はそうだったり・・・
昏々と眠り続けるキラを取り囲んだハロ達が、延々と洗脳し続ける・・・シュールな絵柄だ(爆)
代理人の感想
うーむ、アスランもかたくなだけど結構単純ですよねえ(笑)。
だから歌姫の魔手に絡めとられたんだ、あっさりと(爆)。
>じつはそうだったり
冗談に聞こえないなぁ(笑)。