紅の軌跡 第28話

 

 

 

 

 プラント本土を構成する巨大な砂時計のようなコロニー群。

 それら整然と並ぶ100基を越えるコロニーから流れ出つつある光点は、徐々に集まりながらえ、地球へ向けて動いていく。その様は、天に浮かぶ蚕が光の糸を吐き出している、あるいは、夜の川面で蛍の群舞が行われているかのようだ。

 「地上軍、それもアフリカ・ヨーロッパ方面軍への補給船団・・・か」

 その様を少し離れた宙域でモニターに映し出して見ているパイロットがいた。

 ザフトのMSパイロット用ノーマルスーツを着用し、バイザーを上げている。コーディネイター特有の整った顔立ちと均整の取れた身体つきがスーツ越しにも見て取れる。

 そんな彼の操るMSは、巨大な円盤型のユニットを背負っているのが最初に眼に入る。全体はダークグレイの塗装が施され、重厚な雰囲気を有すると同時にある種の禍々しさを漂わせている。

 頭部のツインアンテナブレードとツインアイ、ふくらはぎから足首に多数存在するバーニア、大型ビームライフルと複合兵装防盾を装備したその機体は比類ない頼もしさも発散している。

 これらを見て取るだけで、このMSがどれほど強力なものであるかを無言のうちに物語っていた。

 

 ZGMF−X13Aプロヴィデンス

 

 それがザフトのテストパイロットを務めているコートニー・ヒエロニムスが今現在操っている機体の名称である。

 ZGMF−X9AジャスティスやZGMF−X10Aフリーダムの系列に連なるNジャマーキャンセラー搭載機であり、他の2機種と同様に核動力の膨大な出力を転用することで比類ない攻撃力を誇るMSである。

 そんな強力極まりないMSの胸部上方に設けられたコックピット内で、コートニーが視界に映る光景にひとり分析を加えている。

 「護衛部隊に改修型の艦艇を受領したホーキンス隊を初めとする有力な部隊を複数つけているか。

  さすがに訓練未了の部隊をつけるわけにもいかんとはいえ、慌しいことだ。

  まあ、これほどの規模の補給船団だ。月の連合軍も存在は感知しているだろうしな。

  何より地上軍が喉から手が出るほど欲しがっている増援部隊も相当数積んでいる。間違っても沈められるわけにはいかない以上、当然の用心というべきか」

 自らの言葉を確認するかのように手元のスイッチを操作しモニターを拡大すると、多数の大型輸送船が船倉にたらふく物資を詰め込んでいることを示すかのようにゆったりとした動きで陣形を整えている様子が映り込んでくる。

 「この船団が地上に到着すれば、ヴァシュタール隊も反撃に移れるな。

  今は、物資の不足から連合軍をあしらっているだけのようだが、懸念が解消されれば死神の鎌を再び振りかざすのに躊躇はあるまい。

  となれば、船団到着前に連合軍がどこまで押し込めるかがポイントとなるが・・・」

 そうごちる彼の視線の先で多数の輸送船は、はためにはゆっくりと、その内実は慌しく動いている。

 これほどの数の輸送船が一斉に動く様は、はたから見ればマスゲームの延長に位置する、ある種の芸術であるかのようにも思える。

 そのまましばしの間、無言でそんな意図せざる芸術を見やっていたが、いつもでもそうしてはおれないことを思い出す。

 「ふむ。いつまでも眺めているわけにはいかないか。

  試験項目の消化はおおよそ完了している。さっさと戻るとしよう」

 そう呟くと巨大な機体をAMBAC動作のみで反転させる。すると正面のモニターに、歪んだYの字のような巨大な隕石が入り込んでくる。

 

 宇宙要塞ヤキン・ドゥーエ

 

 C.E.70年4月17日に行われた地球連合宇宙艦隊のうち、第5・第6の2個艦隊によるプラント本土強襲という事実を踏まえ、最高評議会が資源衛星の要塞化を決定し、誕生した巨大宇宙要塞である。

 プラント本土の防衛線を構成する最大最強の壁であると同時に最終防衛ラインでもある。

 常時400機以上のMS部隊と半個艦隊を越える艦艇を擁しており、宇宙要塞ボアズとの間に形成された強固な防衛線を突破するには「最低でも3個宇宙艦隊を必要とする」と豪語せしめる堅牢さを誇っている。

 と同時に、複数の工廠も備えたMS及び各種兵装等の生産施設としての面と、駐留する部隊の訓練基地としての面も持っており、前線での過酷な戦闘を繰り返してきた部隊が戦力回復と部隊の再編成を行うため、あるいは改修を受けた機体や艦艇の慣熟訓練のために、ヤキン・ドゥーエ所属の部隊と配置を交代することが頻繁に行われている。

 また、前線に出す前の試作MS部隊の実験も、巨大な収容能力を持つことから頻繁に行われており、コートニーの操るプロヴィデンスのほかにも様々な機体の試験が行われている。

 

 そんな現在のところの住処となっているヤキン・ドゥーエに向かって、プロヴィデンスは断続的にスラスターを噴射しつつ機体を進ませる。

 「・・・最後にもう一度、確認しておくか」

 そう言うと、そのまま仮想の連合艦隊を演習領域のデータ上に展開する。同時に展開したデータを実際のものと認識させる命令を、レーザー通信で追随するジンへと送る。

 4機全てからの命令受信を確認すると、コートニーは脳裏で[攻撃開始]と念じる。

 ヘルメットに内蔵された感知装置によりコートニーの命令を受け取ったシステムは、胸部から背部ユニットへと延びる実験用ケーブルを経由し、量子通信によってジン部隊へと攻撃命令を下す。

 ジン4機は、鳳仙花の花のように広がりながらプロヴィデンスを追い越すと、仮想上の敵艦に向けて演習用ライフルを発射しながら突進していく。

 [シープ1、シープ2は右舷から、シープ3、シープ4は左舷より攻撃]

 再びコートニーの思考命令を受け取った各機体のコックピット部分に設置された戦闘用AIが、ランダムに回避アルゴリズムを選択し、データの上だけの敵艦艇による迎撃を避けながら次々と命中弾を叩き込んでいく。

 その攻撃の様子を機体に増設された各種カメラ及びセンサーで記録しながらプロヴィデンスが追いかける。

 「・・・やはり、反応が遅いか」

 攻撃開始から時間が経過し、敵艦の対MS戦闘の迎撃方法が近接防御に切り替わると同時にミラージュコロイドの展開を中止し新たな艦艇が姿を現したその瞬間、わずかの間だがジン部隊からの攻撃の手が緩んだのをデータ上で確認し、コートニーが軽いため息をつく。

 ジン部隊に最初に転送した演習シナリオに従った状況の変化であるが、予想通りの結果であってもやはり気落ちするのは避けられない。

 そのまま、短くはないが同時に長くもない仮想戦闘によって敵艦がデータ上で沈んだことを確認すると、今度は言葉に出して「集合」の命令を下し、4機のジンが集結するのを確認すると今度こそヤキン・ドゥーエに帰還するために機体を正面に浮かぶ要塞へと向けて再びスラスターを噴射した。

 

 その後は特に何事もないままヤキン・ドゥーエの至近まで接近したコートニーは、後続のジンたちが遅れていないことをちらりとモニターに視線を向けて確認すると要塞管制局に対しレーザー通信を開く。

 「ヤキン・ドゥーエ管制、こちらゴッド1。

  演習プログラム終了に伴い、格納庫への着陸を許可されたい」

 「こちらヤキン・ドゥーエ管制、了解した。

  現在着陸予定の機体なし。アプローチを開始せよ」

 「こちらゴッド1、了解。シープ1よりアプローチを開始する」

 今度も脳裏の思考で「帰還」をイメージし、量子通信を通じてシープ1こと改造されたジンに対して着艦命令を送る。

 命令を受け取ったジンは、速やかにスラスターを噴かしながらヤキン・ドゥーエへと接近していく。

 一定の距離に近づいた後は、要塞の発進口近くに設けられているシステムにコントロールが移り、フルオートで着艦作業が進んでいく。

 宇宙要塞の着陸システムも軍艦の着艦システムも基本は同じであるため、アプローチの手順も変わらない。

 速度を落としながら低速で近づいていき、相対速度を合わせるだけである。もっとも要塞が移動することはないので、要塞着陸時に相対速度を合わせるのは着陸する機体の方だけだが。

 これが緊急着艦や機体の損傷により速度制御ができない場合は、防護ネットを展開するなりして非常事態に備えるが今回はそのような必要は一切ない。

 フルオートのまま問題なく相対速度を合わせたジンが、無事着地しハッチの中に格納されていく。

 それを見届けたコートニーが、続けて2機目のジンに指令を送る。

 先ほどと同様に2機目のジンもハッチにアプローチし、格納されていく。もっとも、このあたりは有人無人を問わず長年の宇宙開発の蓄積があるので事故が起こる可能性は極小に過ぎない。

 3機目、4機目も何ら変わりなく格納が終了し、最後にコートニーの操るプロヴィデンスの番になる。

 「さて、最後にとちらないようにしないと」

 ゆっくりとスロットルを開き、機体を進ませる。

 ベクトルが合致した後は、緊急着艦でないため、メインスラスターを噴かすことなくサイドスラスターの噴射のみでハッチに向かって進んでいく。

 

 着地の際、ズシンという鈍い音が機体を通してヘルメットに響く。

 さすがにプロヴィデンスは総重量100トン近い重量級の機体だけあって、コートニーのような優れたパイロットであっても多少の揺れが起こるのはどうしようもない。

 テストパイロットとしての癖で瞬時にモニターを確認し、特に異常のないことをチェックすると、コートニーはそのままハッチの内部へと機体を進ませる。

 機体が完全にハッチの内部へと入ると外側のハッチが閉まり、その後、空気の補充が成されていく。エアーが一定の濃度に達すると今度は内側のハッチが開いていく。昔ながらの方法だが、安上がりかつ空気を無駄遣いせずに済むので今でもこの方法は続いている。

 開いた内部ハッチの向こうでは、先に着艦したジン4機がいずれもハンガーに格納され整備兵があちこちに群がっていた。

 その様子をモニターに収めながら、プロヴィデンスをこの格納庫で定められているハンガーへ向けて慎重に歩ませる。なにせ試作兵器を多数受け入れて、効率第一でいくつもの作業が進められているため、普段ならばきちんと収められている整備用の機器があちこちに出しっぱなしになっているのだ。もし、うっかりとそれを引っ掛けようものならちょっとした惨劇を引き起こすことになる。さすがに、MSの通り道となる中央部にまで機器が侵食しているようなことにはなっていないが、それでも注意するに越したことはない。

 このような事態に陥っているのも、上層部が次から次へといろいろなものを持ち込んでくるからだと、プロヴィデンス付きの整備兵がぼやいていたのを思い出しながら、ハンガーの前までくると機体をゆっくりと回転させる。

 後はオートでそのままハンガーに収納され、機体が完全にロックされる鈍い音が数回響いてきた後、コックピットハッチが鈍い音と共に開放される。

 空いたハッチから、ハンガーの周りに控えていた整備兵のうちのひとりコックピットの中に入ってくる。

 「お疲れ様でした」

 「整備をよろしく頼む」

 「了解です」

 バイザーを上げたコートニーと挨拶を交わすと、そのままパイロットシート背部の量子通信中継用ボックスへと辿りつき、手に持っていたハンディコンピュータから伸びるケーブルをそれに差し込む。

 量子通信システムの本体はプロヴィデンスが背負う円盤型ユニットの内部に存在しているが、機体からユニットに対してどのように命令が流れたかを分析するにはコックピット内部に設けられた中継ユニットの解析も不可欠なのである。ドラグーンシステムは未だ完成に至らない未成熟なシステムのため、こうした地道な情報収集は必須というわけだ。

 コートニーが脱いだ大振りなヘルメットにはコックピット後部から伸びた無数のケーブルが結びついており、今も何らかの情報が流れているのか、深い海の底で深海魚がぼんやりと照らし出す薄い光のようにケーブルの中を行き来しているようにも見える。

 データを吸い上げる整備兵の作業を他所に、感知装置を内蔵しているため通常のものよりもやや大きくかつ重いヘルメットを外し、重圧から開放されたコートニーが深々とため息をつく。そのまま整備兵の邪魔にならないようにヘルメットを脇に置くと、今度は身体を固定していた六点式のハーネスを外し、ようやくのことでコックピットから外に出る。

 広大な格納庫は、メンテナンスハッチを開放する金属音やパワーローダー等の駆動音、人々のざわめきなどで喧騒に満ちている。それらを聞き流しながらコートニーは、凝った身体をほぐすように大きく伸びをする。その拍子にふっと身体が浮いてしまうが、焦ることなくコックピット前面の装甲に手を伸ばすと自分の身体を床面へと押しやった。

 そのまま格納庫内を静かに床面に向かって流れて行く彼に対して

 「今回の結果はどうだったでしょうか?」

 控えていた技術者が待ちきれないといった雰囲気で声をかけてくる。

 一応、無線式のテレメーター等を用いて機体のデータは逐一追っていたはずだが、プラント本土至近のここいらではNジャマーによる電波障害も強く、完全には程遠いものしか情報を得られていたなかったのが、なおさら彼のエンジニアとしての飢餓感を煽っているのかもしれない。

 そんな彼にコートニーは静かな声音で事実を述べる。

 「音声認識の照合度合はかなりのレベルに仕上がっていると思う。

  が、脳波コントロールの認識は未だ甘く、モビルドールの割り込みに対する反応は前回よりも確実によくなっているとはいえ万人向けというには程遠いな」

 「・・・そうですか」

 がっくりと傍目にも分かるほど技術者が肩を落とすが、

 「だが、一定のレベルに達しているのも確かだ。

  脳波コントロールをオミットした状態で、コントロールする機体の数を制限すれば、エース、あるいはトップエースと呼ばれているパイロット達ならば使いこなせるかもしれん」

 淡々と続けられた台詞に、悄然と落ちていた肩が息を吹き返した魚のように一気に跳ね上がる。

 「ほ、本当ですか!?」

 「嘘をついてどうなるものでもないと思うが」

 「そ、そうですよね!?」

 自らの言動が通常と異なることを認識しながらも、ようやくのことで具体的に現れ始めた結果に小躍りせんばかりの雰囲気を漂わせながら

 「じゃあ、モビルドール自身の方はどうですか?」

 と尋ねてくる。

 「戦闘用AIの行動は悪くないが、やはり突発的な状況の変化に弱い点は変わらないな。先にエースなら戦闘可能かもしれないと言ったが、いきなり乱戦にもつれ込む可能性の高いMS戦は避けるべきだろう」

 「そうですか。いろいろと工夫してみたんですが・・・」

 「その代わりと言っては何だが、対艦戦闘に投入できる可能性は十分にある」

 「いけるんですか!?」

 「ドラグーンシステムの簡略化改修がそれほど進んでいない今の状態では、エースパイロットでも同時に操れるモビルドールは最大で4機までかつモビルドールを使っている時はドラグーンは使えないという注意書きが付くがということを忘れないでくれればな」

 「それでも充分な前進ですよ!

  胸を張ってお偉方に報告できます!!

  やはり、前回の量子通信システムとAIの回路の刷り合わせ作業に効果があったのかな!?」

 そういうと、ぶつぶつと独り言を呟きながら思考の迷路に突入してしまう。

 こうなるとしばらくは帰ってこないことを、それなりの期間を付き合ってきた経験から知っているコートニーは、そのまま相手をほったらかしにする。

 そして、整備兵によってあちこちメンテナンスハッチが開放されケーブル類が繋がれつつあるプロヴィデンスを見やりながら感慨深げに言う。

 「空間認識能力がなくても操ることの出来る簡略化されたドラグーンシステムと戦闘用AIを搭載した無人MSモビルドール。この二つを組み合わせた、指揮者の杖に従ってすべてが動く様から名付けられたオーケストラシステム。

  先はまだまだ長い。が、ようやく完成に至る光明が見えてきたようだ」

 感慨にふけるコートニーの目に、ふと自分の機体と同様に二つ先のハンガーに整備兵が群がっているのが目に入る。

 視線をその機体に向けたまま、質問を投げる。

 「あれは確かフリーダムの6号機だったな?

  随分と慌しいが何の作業をしているんだ?」

 「例のクライン派が中心となって作業しているエクソダス・プロジェクトの研究班のひとつが、外宇宙用に開発した遠距離センサーをドレッドノートに積んで試験していたんです。が、これが予想以上に性能が良かったようで、最終確認も兼ねて交換しているんですよ」

 「ほう。エクソダス・プロジェクトの研究成果が回ってきていたのか」

 「ええ。あっちも重要なプロジェクトですからね。結構な人材・資材・資金が投入されていますし、これまでも成果を回して貰ってますよ。もちろん、こっちからも役立ちそうな情報は全て送ってますし」

 「そうか。ザラ議長が政権を取った時には穏健派と急進派の間で多少問題が起こるかもしれんと思ったが、どうやらいらぬ懸念だったようだな。まあ、連合からの独立を目指すという点ではお互いの目的は一致しているということか」

 「そういうことだと思いますよ」

 「ところで、積み替えているセンサーはそこまで性能が良いのか?」

 「ええ。詳しい数値までは聞いていませんが、かなりのものらしいです」

 「なるほど。それほど高性能の索敵機器をフリーダムに積むのは、機体のコンセプトから見てもは道理にかなっているな」

 「そうですね。万が一の事態ですけど、プラント本土がミサイル攻撃を受けた時に、迎撃精度がより一層高まるでしょう」

 「それにしてもお役御免と一時は思われたドレッドノートも、Xナンバーのテストベッドとして武器に、索敵機器に、推進系にと、大車輪のごとき活躍ぶりだな」

 「そうですね。もともとの出力が高いので特に武装に関しては折り紙付きと言えますから。

  ただ、その分こっちの作業が増大しているのが難点ですが」

 わずかな苦笑を口の端に浮かべながら技術者が言う。

 それにはコートニーも同意見だったので、こちらも苦笑を浮かべつつ応じる。

 「違いない。上層部もなかなか無理を言ってくれるしな」

 「全くです。テストしてもらっている簡略型ドラグーンも、上の強いプッシュがあって開発プロジェクトが組まれましたし、あそこのゲイツが搭載しているゲシュマイディッヒパンツァーもそうですからね。下手な鉄砲数うちゃ当たるってものでもないんですがねえ」

 「苦労のしどころというやつかもしれんな。だが、開発は無理というわけではないんだろう?」

 「そりゃあ、無理なものは無理と、その点に関してだけははっきりと上に言ってますから」

 「ふむ。まあ、オーケストラシステムが実用化されればザフトの航宙戦力は、今の数倍の数を、より柔軟に動かせるようになるだろうし、上が期待するもの無理はないしな」

 プロヴィデンスを見上げながらそうごちる。

 「確かにオーケストラシステムが稼動すれば、数だけの連合に負けるはずはないですがねえ」

 自らが携わっている技術に自信があるのか、それに関してはエンジニアが気軽そうに請け負うが、逆にそれを聞いたコートニーは表情を渋いものに変えてエンジニアを軽くたしなめる。

 「数は力だぞ?だからこそ上層部もオーケストラシステムを強く推進しているんじゃないか?」

 「・・・すみません。ちょっと調子に乗っていたみたいです」

 コートニーから色好い返事が貰えて自身が浮かれすぎていたことを自覚したのか、技術者は神妙そうに言ってくる。そんな彼に一応念を押しておくようにコートニーが続ける。

 「最新の開発プロジェクトに携わる技術者がそんなことでは困るぞ。

  コーディネイターの能力がナチュラルを大きく上回るのは周知の事実だが、それが傲慢になってしまっては勝てる戦いも勝てなくなりかねない。

  それに、昨今の無人兵器開発プロジェクトの大幅な増加は、上層部の危機感の表れとも思えるしな」

 「そうかもしれまんせね」

 「コーディネイターの人口はそう簡単には増加しない。

  仮に出生率の問題が解決したとしても、これから生まれる赤ん坊たちが戦えるようになるまで一体どれほどのときを要するのか。

  それを考えた時、無人兵器の増産はひとつの解決策ではある」

 「しかし、先ほどコートニーさんがおっしゃったように、有人兵器に比べて柔軟性や咄嗟の判断に劣るといった問題が解決できてないのがネックです」

 「それでもだ。そういえば、DSSD(深宇宙探査開発機構)からAI技術を手に入れるという話があったはずだが、あれはどうなったんだ?」

 「やはり中立を厳格に維持するらしく、どうも望み薄のようですね」

 「そうか。まあ、彼らが開発しようとしているAIとザフトが必要としているAIでは方向が違うから、手に入ったとしても直ぐに利用できるとも限らんしな」

 「スターゲイザー計画は、MSに搭載可能なサイズで究極の汎用性を追求していますからねえ」

 「それに対して、局地戦に投入される無人兵器にそれほどの汎用性は必要ないからな。

  まあ、だからこそ、未だDSSDが開発に梃子摺っているAIを限定的ながらも戦闘に投入可能なレベルへと昇華させつつあるのだが・・・」

 コートニーとエンジニアが交わす言葉は、客観的に見て正しいだろう。地球圏において完全自立型AIの開発はDSSDが最も進んでいるというのは事実といえる。

 DSSDには、建前上はナチュラルもコーディネイターもない能力に応じた公平な適材適所が謳われているし、実際に多くのコーディネイターたちがフロンティアの開拓を夢見てDSSDに協力している。

 で、あるならば戦争に全力を投入せざるを得ないプラントに対して相対的にAI開発に投入できる資源と人材はプラントを上回っても不思議はない。その結果が如実に現れている、ということであろう。

 だがしかし。

 一方で限定された能力のAIであれば、プラントでも既に実戦投入可能なものが仕上がりつつあるのも事実である。

 スターゲイザーに搭載されたような完全自立型のAIは、なるほど完成に今しばらくの時間と資源とマンパワーが必要であろう。ましてや、MSのコックピットに収まる程度のサイズにダウンサイジングするともなればなおさらである。

 だが、戦場で使うにあたってはDSSDが求めるような完全自立型である必要はない。

 戦闘情報を最適化し、最良の戦闘パターンを造り上げることは、他の能力が十二分にあるシステムに任せてしまえばよいのである。

 そして、最適化された情報を並列化によってアップデートすればいいのだ。

 宇宙空間は地上と違って、ニュートン力学が幅を利かせている。その分、戦闘情報を最適化する計算のパラメータの数は少なくて済む。というよりも、地上を移動し戦闘を行う兵器の無人化は、宇宙、空中、海中で戦闘を行う兵器に比べて制御の難易度が高すぎる。

 コズミック・イラの世紀に入っても、無人兵器が発達しているのは、航空偵察用の各種ドローンと海上・海中の小型艇が中心なのがそれを証明している。

 もっとも、無人兵器が陸上部隊に普及していない裏の理由のひとつに、軍の高官のポストが減るという生臭いものがあるのは公然の秘密である。

 プラントから吸い上げた富と資源を用いることで、旧世紀と比較しても著しく巨大な軍隊を整備できるようになったプラント理事国において、わざわざ人間の部下が司令部以外に誰もいない部隊の司令官になりたがる将官や佐官は誰もいないというわけだ。

 その逆に、人口において圧倒的劣勢にあるプラントにおいては、連合軍以上の規模とスピードで無人兵器の開発・配備が進んでいるのは至極当然と言えるだろう。

 ただし、さすがのコーディネイターの能力をもってしても陸戦兵器の無人化は一朝一夕にはいかず、航宙兵器の無人化が優先して行われているのは、プラント本土が宇宙空間に浮かんでいることもあって、これまた当然のことと言えるかもしれない。

 

 そのような背景を薄々とコートニーは察しているが、それについて特に意見はない。与えられた任務を余すことなく実現することに注力していればいいと思っている。

 「どうかしましたか?」

 どうやら思った以上に物思いに耽っていたらしく、エンジニアがかすかに怪訝そうな様子で訪ねてくる。

 それに頭をひとつ振って応える。

 「いや。先に地球へ向かう補給船団を確認したが、艦艇やMSの大増産が続いてるにしては、このところ試作兵器や量産試作兵器の生産が多いのではないか?

  特にフリーダムの増産は相当なペースで進んでいるようだが、PS装甲などの生産資源のほうに問題はないのかと思ってな?」

 「それほど無駄な資材は使っていないですから大丈夫だと思います。

  モビルドールに回されているのは、機種変換で回収されたジンばかりですし、改造はコックピット周りだけ。それに制宙権にちょっかいをかけてくる連合の航宙戦力も大人しいおかげで、アステロイドベルトから送られてくる資源衛星の入手には当分の間、問題はないと聞いています。次のキャッチャー部隊もすでに進発済みらしいですし。

  それにPS装甲は、なんでも大規模構造物の改装に必要とされていた資材が、当の構造物の改装スケジュールが伸びたらしくて、一時的に必要のなくなった資材がそれこそ山のように回ってきていますよ。

  おかげでフリーダムの生産ラインに携わる連中は、予想外の事態に嬉しい悲鳴を上げているんじゃないかな」

 「そうか。そういった事情ならば、特に問題はなさそうだな」

 「もう少し、地上での激突が遅かったら中隊単位でフリーダムを投入できたかもしれないのに、ままならないものですねえ」

 「戦争には相手がいる。早々都合よく事態は動かないだろうさ。

  それに、オーブと地球連合の激突へのザフトの介入がどういった結果を招くかわからんが、場合によってはこいつらが戦場に出る日も遠くないのかもしれん」

 ぽんぽんとプロヴィデンスの脚を叩きながら、将来の実現性の高い可能性を指し示す。

 「そうですね。そして、いつその日が来ても大丈夫にしておくのが私たちの仕事です」

 「そうだな。では、今回のテストについての報告書はいつも通り上げておく。整備についてはよろしく頼む」

 「わかりました」

 床を蹴り、身体を浮かせながら頼んだコートニーに対してエンジニアが応じる。

 しばしの滞空の後、手すりを利用して格納庫から伸びる通路の中に飛び込む。そのまま、ぶつかったりしないよう勢いを殺しつつ、通路の中を流れ飛びながらつらつらと考えを進める。

 オーブ攻防戦の結果がいつ頃に出ることになるのか・・・

 大規模な補給を受け取ったアフリカ方面軍がどのような反撃にでるのか・・・

 そして昨今、ザフト内でささやかれるようになった大規模な作戦行動の噂。再び月攻略を目指してのローレンツ・クレーターへ展開するだの、地球衛星軌道上に展開して地球−月間の完全遮断を計る、あるいは衛星軌道上からの敵国本土への無差別艦砲射撃を実施するだの、様々な内容の噂が流れているそれがいつ発動されることになるのか・・・

 

 あるいは今次大戦の決着の時が近づいているのかもしれんな。

 脳裏にそんな思いを浮かべながらテストパイロットとしての報告書をまとめるために自室へとコートニーは向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南国の突き抜けるような蒼天に夜の帳が覆いかぶさり、青から紫紺へ、紫紺から黒へと短時間で色合いを変え、天空の残照が輝く無数の星々に駆逐されていく。

 低緯度地帯には黎明や黄昏はほとんど存在しない。夜から朝へ、昼間から夜への移り変わりは知らない人間にとってあっという間にも思えるほどである。

 天には闇の空、地には漆黒の大地。

 二種類の降りかかるような闇が天地を隠しつつある中で、それに抗するように煌々と照明で周囲を照らし上げ、不夜城を築いている島があった。

 

 オノゴロ島

 

 オーブ連合首長国の経済の雄であるモルゲンレーテの本社が存在する、オーブ本島と呼ばれるヤラファス島に隣接する島である。

 同時にこの島は半官半民の企業であるモルゲンレーテ社の拠点であるだけに、航空機や装甲戦闘車両、MSの生産をつかさどる工場及び工廠、そして陸海空の三軍の基地も存在する、オーブの国防の根幹を成す一大軍事拠点でもあった。

 特にその地下施設は非常識なほど広大で、戦闘用装甲車両やMS生産工場、さまざまな研究施設、各種武器弾薬の貯蔵庫はもちろんのこと、アークエンジェル級を含めて戦闘用艦艇を数十隻単位で収容できる地下港など、考え付く限りのありとあらゆる施設が地下に存在しており、緑を残す中に点在する地上の建物群をまるで寄せ付けない規模を誇っている。

 

 そのオノゴロ島は、陸海空の三軍の基地を初めとする軍事施設も、そしてモルゲンレーテ社の地上社屋及び広大な地下施設、全てが喧騒に包まれていた。

 モルゲンレーテ社が、様々な開発プロジェクトなどの期限に追われ夜通し活動するのは珍しくなかったが、今回のそれはどうみても過去の喧騒を大きく上回るものがあった。

 その理由は大きく分けて2つ。

 1つは、間近に迫った連合軍の侵攻に備えてオーブ軍の展開が夜を徹して行われていることである。

 先にも述べたようにオノゴロ島は、オーブ軍の有する最大の軍事拠点であるため、オーブ全土に展開する部隊の結節点として様々な情報や人員、物資が搬入され、同時に搬出されていく。

 戦争を目前に控えた軍隊が例え一時でも活動を止めるはずもなく、限られた時間を有効に活用するために精魂を費やしているのである。

 もう一つは、上層部それも具体的にロンド・ミナ・サハクより、自身がコーディネイターである社員や家族にコーディネイターを持つ社員に対して、アメノミハシラへの強制避難命令が発せられ、該当する社員たちがやむを得ず最低限の引継ぎ作業を超特急で行っているためである。

 プラントを除けば、地球圏においてもっとも多数のコーディネイターが居住する国はオーブであるという噂は伊達ではなく、止むに止まれぬ事情とはいえ急な異動指示に広範囲に影響が出るのも当然であった。

 特に自身がコーディネイターである社員は自らの居場所を確保するため、もてる能力を十全に引き出し、結果として重責を担っていることが多い。その中には一人で数人分の作業を片付ける剛の者も決して少なくない。そんな人材が受け持ってきた作業の引継ぎがそうそう簡単に終わらせられるはずもなく、深夜遅くまで自宅に帰れない人々が一時的にかつ大量に生まれでたというわけである。

 しかも、このままの調子では到底全てを引き継げる見込みは薄く、よって本当に必要最小限のことだけを伝え、残りはアメノミハシラから順次指示するという見切り発車にならざるを得ないケースが続発していた。

 さらに、ミナはコーディネイターだけでなく当面の戦闘に必要とされない、それでいて優秀な能力を持つ人材に対しても強制避難命令を発していたため、騒乱はうなぎ上りとでもいう状況に陥りつつあった。

 ミナが命令を発した範囲は、軍部を初めとするサハク家の影響が強い分野だけでなく、行政・立法・司法・経済・科学を基本として、考えうるありとあらゆる分野、すなわち他家の影響下にある人材に対しても発せられていた。

 当然のことながら各所にて小さくない混乱が生じた。

 五大氏族がそれぞれ隠然たる勢力範囲を有することは公然の秘密だったが、ミナはホムラ代表より与えられた権限を全面的に行使し、自らの邪魔をするものを片っ端から放り投げ、自侭にことを進めていった。

 ミナの横暴に困惑した者たちは、ミナの振るう権限を与えた代表首長であるホムラのところへと押し寄せることとなる。

 戦争直前の国家指導者という、身体が二つか三つ欲しい状態にあるホムラにとってみればいい迷惑でしかなかったが、さすがに無視するわけにもいかずミナの行動について情報を集めるよう側近に命じる。

 そして、ミナが掻っ攫っていった人材のリストが積み上がっていくにつれ、当初こそ眉をひそめていたものの、やがてホムラは目前にひかえた戦争に影響がない範囲でミナに全面協力するよう、アスハ家の影響下にあるものたちに命を下すようになる。

 ミナの人材集め(いつの間にか「サハクの人狩り」と呼ばれるようになっていた)の目的が国家再建にあると、集めた人材リストからホムラが判断したのがその理由であった。

 

 最悪の事態に備えて準備を進めることは、為政者として当然の義務というべきものである。

 

 ホムラはプラントに対する交渉で介入そのものには約を取り付けたものの、オーブ政府に対するザフトの戦闘行動に関しての情報提供までは至らなかった。

 それでも、ホムラ自身は介入自体を確実としたことで交渉の結果をおおよそ及第と見なしていたし、見通す眼を持つものたちもそれを是としていた。

 だがそうはいってもプラント側の介入のタイミングによってはオーブの国家体制に致命的なダメージを受ける可能性は消えたわけではなく、それゆえ不安の種を心中で大きくする者たちも多い。

 そのため、オーブが戦闘に敗北することを想定し、その時に備え貪欲に人材を抑えておこうとするその姿勢を良しとしたのだろう。むろん、ミナの方も自分の人狩りで戦闘に負けたと指摘されるようなことがあっては本末転倒となるため、人狩りの対象は慎重に定めていたのもそれを後押ししていた。

 

 そして、唯一止め得る人物の容認によりますます勢いを増したサハクの人狩りは、オノゴロ島でも猛威を振るっていたのである。

 

 そんな、ある種の人的な暴風雨が吹き荒れる活気に満ちた社屋の地下深くに設けられた研究所にエリカ・シモンズの姿はあった。

 「コーディネイターまたは親族にコーディネイターを有する者に対する避難命令か・・・・・・やはり逃げないとまずいかしらね」

 空調の音がかすかに響く部屋の中で、少しばかり陰りのある表情でひとりごちるエリカ。

 

 エリカは周囲の同僚に自身がコーディネイターであることを告げていない隠れコーディネイターとでも呼ぶべき存在である。

 さすがに、結婚相手である夫にはコーディネイターであることは伝えてあるが、それ以外でその秘密を伝えたことがある人間は片手の指で数えることが可能な程度でしかない。

 「・・・問題は、移民局のデータでしょうね」

 エリカはオーブ生まれの人間ではない。他国からの移民である。そのため、オーブへ移住した時の詳しい個人情報が移民局のデータバンクの中に残されているはずなのだ。

 特に必要もなかったのでこれまで確認したことはなかったが、自分たちの娘、つまりエリカをコーディネイターにしたことを誇っていた両親が、移住の際にわざわざ出生を隠すなどということをしたとはとても思えないからまず間違いはない。

 「オーブが戦闘に破れて占領された場合、当然移民局のデータは押さえられるわね。

  目的であるマスドライバーを押さえた後は、治安維持も含めてブルーコスモス派による軍政が敷かれることはまず間違いないでしょうし」

 地球連合の第一目標はマスドライバーであることはほぼ誰の目にも明らかであったが、ブルーコスモスが主導権を握る大西洋連邦にとっては、オーブ国内に居住するコーディネイターの排除もかなり重要な目的に含まれるだろう。

 それを考えると、例え同僚に自身がコーディネイターであると察知されることになってもアメノミハシラへ避難すべきであろう。

 それが理性的な判断であることはエリカ自身にも良く分かっている。が、どうしても最後のところで決断を下すことができないままずるずると時間が経過しているのが現状だ。

 (あの子に自分がハーフコーディネイターだと知られる原因になってしまう事態は可能な限り避けたい)

 最愛の我が子に対するその思いが、エリカに最後の一線を越えることを阻ませていた。

 エリカは、自身がコーディネイターであることで幼少の頃に差別を受け続けた。例え自身がどんなに努力をしてもコーディネイターだから当然だと見なされ、その上まるで彼女がずるをしているかのように悪口を言われ続けた経験を持つ。

 そんな人生を歩んできたがゆえに、エリカは息子に自身がハーフコーディネイターであることを伝えていなかった。

 いずれ伝える時が来ることは分かっている。が、できれば事の善悪や是非を自分でしっかりと判断できるようになるまで隠しておこうと考え、秘密にしてきたのだ。そのことに関しては夫とも相談し賛成を得た上で、これまでのところ無事隠し通すことに成功し続けてきた。

 だが、今回の避難命令に従えば周囲の人間から疑問の目が向けられる恐れがある。戦闘がオーブの勝利によって終わり、再び日常が戻ってきた時、それは、これまでの苦労して守ってきた秘密が明らかになってしまう引き金になりかねない。

 「・・・どうすればいいかしら?いっそのこと、オーブの勝利に賭けて避難するのはやめようかしら?ああ、でもそれでは万が一の時に危険すぎる。やはり逃げたほうが・・・」

 なまじ考える時間があっただけに、明晰なエリカの頭脳は様々な可能性とその結末を脳裏に提示してくる。それでも、エリカ自身だけのことであれば、これほど迷うことなく決断できたであろう。あるいは切羽詰って、自身で決断する選択肢すら与えられなければ、すっぱりと残った選択肢を選べたであろう。

 誰よりも何よりも大切な息子のことだけに、かえって踏ん切りがつかない。そんな状態にエリカは陥っている。彼女が決断を下すには、何らかの後押しをする要因が必要と思われた。

 

 さらに、エリカが躊躇っている理由はほかにもあった。

 「でも、仮に逃げるとしてもこの子達は連れて行けないわよね」

 はあっと大きくため息をつきながら、研究室のかなりの面積を占めている彼女専用の量子コンピュータたちを見やる。

 今次大戦が始まって後、オーブのMS開発はそのほとんどがオノゴロ島の地下工場で行われてきた。そして、開発当初、オーブのMS開発で求められていたことは大きく分けて以下の3つであった。

 1.オーブを守るための高い攻撃力

 2.高い生産性と汎用性

 3.ナチュラルによる操縦が可能

 この3つの目標を達成するためにエリカは、自身に与えられた研究室に大型の量子コンピュータ20台を設置、並列処理して設計にあたるという方法を選択した。しかも、それぞれの量子コンピュータには擬似人格が与えられており、彼らは、それぞれが自分のアイデアを出し合い協議して様々な設計案を生み出してきた。

 この、量子コンピュータに擬似人格を与えて問題に対処する方法はエリカが独自に生み出したものだ。

 そして、この仕組みを生み出すことができたがゆえに、通常は数人あるは数十人単位で行うモビルスーツの設計を、エリカ一人で行うことが可能となっていた。

 そんな彼女にとってMS開発の苦労を共にしてきた量子コンピュータたちは信頼できるパートナーとも呼べる存在になっている。

 もし、オーブから避難するとなれば当然量子コンピュータたちは置いていかざるを得ない。その場合は、機密を守るために内部の完全消去を行なう必要がある。そうなった場合、彼女のパートナーたちは一度死ぬといっても過言ではない。優れた職人にとって愛用した道具は欠くことのできないものだが、ここまで成長させたパートナーたちを失うことはエリカにとっても身を切られるように悲しいと同時に、今後のMS開発に支障をきたすという実利的な問題も抱えることになる。

 「・・・ふうっ」

 どうにも解決できない事柄に深いため息しかでない。思考は堂々巡りを繰り返し、貴重な時間だけが矢のように過ぎていく。決断が遅れるほど危険性が増すをわかっていながら動けない。

 そんなある意味追い詰められた状態にある彼女の耳に、背後のドアが開く音がした。

 この忙しい時にいったい誰がと思って、振り返ったエリカの視界に移ったのは、堂々とした体躯を誇る一人の美女の姿であった。

 「・・・・・・ミナ様?どうしてここへ?」

 驚きのあまり、ぽかんとして表情を浮かべていたエリカであったが、我を取り戻すと慌ててそう尋ねる。

 アメノミハシラの総責任者の地位に就いたロンド・ミナ・サハクには、多忙という言葉も生温いほどの激務が襲い掛かっているはずなのだ。その彼女が、わざわざエリカの研究室を訪れるなど予想外のことであった。

 そんなエリカの慌てぶりを、わずかに口の端を吊り上げた表情で見やり簡単に説明する。

 「アメノミハシラへ持っていく資材と人材について、直接モルゲンレーテ上層部と談判する必要が出たのでな。ここによったのはそのついでだ」

 「そうですか・・・」

 ごく短時日のうちに広がったサハクの人狩りについては、あちこちで噂を聞いているのでエリカは頷くしかない。

 「まあ、そなたが未だにアメノミハシラへ移ろうとしないが少々気になったというのもあるがな」

 「えっ!?」

 頷いた矢先に思いも寄らぬことを言われ、エリカが一瞬凍りついたかのように固まる。

 そんなエリカにミナは視線を固定し、おごそかな声音で言う。

 「エリカ・シモンズ」

 その声に含まれる意志がエリカの硬直を開放する。

 そのまま、ミナのほうを見やるしかないエリカに対し宣言は下される。

 「私はお前にアメノミハシラへの異動を要請する」

 「・・・」

 何か言おうと口を開くが、咄嗟に言葉が浮かばない。

 「短時間でノーマルのアストレイから2種類の派生型を設計、生産、実戦配備にまでこぎつけたその手腕を私は高く評価している」

 「・・・ありがとうございます。与えられた職責に見合うだけの成果を出そうと努力しただけです」

 ようやくの事で何とか言葉を振り絞るも

 「謙遜はいい。結果が全てだ」

 小気味良く言い切るミナに、思わず軽い笑みを浮かべるエリカ。

 「モルゲンレーテ上層部はぎりぎりまでお前をここに置いておきたい心算だったようだが、戦争が始まった後の泥縄の機体の改修など才能の無駄遣いにすぎん。

  そんなことよりも、お前の才能はアメノミハシラが必要としている。多少渋りはしたがモルゲンレーテ上層部は説得済みだ。後はお前の返事だけで全ては動くように手配してある」

 「・・・宇宙戦用MSでしょうか?」

 ぐいぐいと話を進めるミナに対し、ほんのしばしの沈黙の後、確認するようにエリカが尋ねる。

 「その通りだ。ザフトの投入してきた新型MSゲイツは、量産型としては現時点で抜きん出た性能を持っている。

  アメノミハシラに配備されているアストレイでは、ゲイツの相手をするのはかなりの困難を伴うだろう。唯でさえパイロットの技量において劣勢にある状態で機体性能まで劣るようでは、勝利は覚束ない。

  それゆえに、アストレイの派生型を短時日で開発生産に漕ぎ着けたその手腕をM1Aアストレイの改良に発揮して欲しいと思っている」

 ミナの説得力溢れる説明にすぐには返事をすることができないエリカ。

 その様子にひとつうなずくとミナは続ける。

 「そなたの家族の避難も既に手配してある。さすがに時間が惜しいゆえ、完全な引越しというわけにはいかぬが、必要なものを家から持ち出すだけの時間を割くことはできよう」

 仮にも五大氏族の次期当主と目されている人物が、これほどまでに意を割くのは異例のことといえるが、あるいはこれもまたロンド・ミナ・サハクという人物の一面かもしれない。

 

 ロンド・ミナ・サハクは傲慢であり非情であるかもしれない。

 だが、残酷でも無情でもない。

 彼女が部下に対して慈悲深い面を表すことも珍しくはない。

 仮にそれがどのような思惑の元に行われた行動であろうとも、その行動の価値そのものが減じるわけではない。

 そして今回、エリカに対してその面が強く現れた。そういうことなのであろう。

 「もし是ならば、後ほど荷の搬送要員が訪ねてくる手筈になっている。アメノミハシラへ持っていく必要のあるものは全てそのものたちに指示するといい」

 ミナの行き届いた配慮で、パートナーである量子コンピュータたちもアメノミハシラへ持っていけそうだ。それはつまり、彼女が逡巡していた大きな理由の片方が消滅したことを意味する。

 「さてエリカ、返答は?」

 鋭い視線に射すくめられたようになりながらも、エリカは自らの逡巡が切り裂かれ、そして躊躇っていた背を強く押されたことを理解した。だとしたらこれも運命なのだろう。

 ゆえに返事はひとつしかない。

 「・・・畏まりました。要請を謹んでお受けします」

 「うむ」

 エリカが頷くのを当然とばかりに受け入れるミナ。

 「では、私は行く。いま少しモルゲンレーテ内で片付けなければならぬことがあるゆえ。

  もし、他の場所にも持っていきたいものがあれば搬送要員に申し付けるが良い。

  アメノミハシラに着き次第、開発作業に取り掛かってもらう予定だ。必要なものが足りないなどということがないようにな」

 そう言って後ろを見せたミナにエリカが声をかけた。普段であればそのようなことはしなかったかもしれないが、危急の際だから気に掛かっていたことも聞いてしまえという勢いがあったからかもしれない。

 「ひとつ、お伺いしたいことがございます」

 「ん?何だ?」

 「ギナ様の件はあれでよかったのでしょうか?」

 「・・・ギナが地球連合軍に参加し続けていることか」

 ふむとばかりにひとつ頷くと、去りかけていた身体を再びエリカのほうへと向ける。

 「地球連合のオーブ侵攻はもはや確実です。

  政府の交渉の申し込みはことごとく門前払いされているようですし、軍もオーブ全土への展開を急ピッチで進めています」

 今この時も全力で生産を続けるMS工場の様子や次々と搬出されていくMSの交換用部品などを積んだ軍用トレーラーなどをモニターに映し出しながらミナの様子を伺う。

 「そのようだな。事前に迎撃の準備を整えていたとはいえ、その手腕はまずは見事といえるだろう」

 190cmを超える長身とモデルもかくやというプロポーションでゆっくりと腕組みをしながら、そのままこつこつと靴音を立てながら歩み寄り、続きの言葉を促す。

 「ギナ様はその地球連合のアフリカ反攻に加勢するために傭兵として地球連合軍に参加されました。

  しかし、その目的は地球連合に協力することでオーブへの圧力をかわすことにあったはずではなかったのですか?」

 エリカ・シモンズはモルゲンレーテにおいてMS開発の第一人者と見なされており、それはほぼ事実である。

 そしてモルゲンレーテ社そのものがオーブ軍との繋がりが太く、それは軍に強い影響力を持つサハク家との繋がりがあることを意味し、そのため自然とエリカはサハク家寄りの人物と見なされることが多い。

 エリカ自身は、自らがどこの派閥に属しているかということにそれほど意味を見出してはいなかったが、その腕前ゆえ、秘密裏にアフリカへ出発する前のゴールドフレーム天自体と武器のメンテナンスに駆り出された過去があるため、ギナがどこにいるかを把握しているのである。

 そのエリカからしてみれば、ギナがわざわざ支援部隊まで設けてアフリカくんだりまで遠征している理由は、今回のオーブ−地球連合間の戦争勃発により失われているとしか思えない。

 にもかかわらず、ギナに対し帰還の命令を送った様子は見られない。

 「お前の言うとおりだ。ギナは、それを目的として地球連合に組していた」

 わずかに頭を上下させ、エリカの考えが間違っていないことを動作でも表してみせる。

 「でしたら、地球連合の侵攻が目前に迫った今、もはや当初の目的は失われたと判断してもよろしいと思いますが?なぜ、ギナ様を地球連合アフリカ反攻軍から呼び戻されないのでしょうか?」

 「ふむ。なるほど、そういうことか」

 エリカの疑問に納得がいったというように頷くミナ。

 あるいは、エリカが気にしているのはギナではなく、自身が調整に携わったゴールドフレーム天であると考えているのかもしれない。

 確かにエリカの意識に欠片もそれがないといえば嘘になるだろう。実際に、手をかけさせる子ほどかわいいという格言を信ずるのであれば、複数回の大規模改装にXナンバーの腕を据え付けるなどという手間をかけさせたゴールドフレーム天は、かわいくてかわいくて仕方がない存在といわれても不思議はない。

 もっともそんなことを他所に二人の会話は続いている。

 「ギナを呼び戻す必要はない」

 「・・・何故でしょうか?」

 きっぱりと誤解の余地のないミナの回答に、さらに先を促すかのようにエリカの相づちがはいる。

 これから話す範囲を吟味したのか、ほんのわずかな沈黙の後、ミナが口を開く。

 「そうだな。まず第一に、直接アズラエル財閥と取引をし、支援部隊を引き連れていったとはいえ、実際の身分は傭兵に過ぎない。むしろ、支援部隊を連れて行ったからこそ、激戦地から離脱するのは困難になる。戦線に何らかのけりがつくまでは、大人しく身分に相応しい行動をとっている方が賢明だ。

  第二に、元からオーブ侵攻を思い止まらせられる可能性は低かったのだ。低いことを承知の上で取引を行ったのだから、こちらから契約を破棄するのは得策ではない。何より、事態が錯綜を深めつつある今このときに、大西洋連邦との貴重な手づるを切るわけにはいかぬ」

 「・・・・・・」

 「何より今回の戦争、オーブに勝機がないわけではない。もしそうなれば、ギナが連合軍に留まり続けたことは後々大きな意味を持ってくる」

 にやりと不敵な笑みを浮かべつつミナは言う。

 エリカにもその意味は分かった。もし、オーブ軍が守り続けている間に、ザフトの横撃が決まれば連合の侵攻部隊は崩壊、そして撤退に至る可能性がある。そうなった時、連合軍に所属するオーブ五大氏族の次期当主候補ロンド・ギナ・サハクの価値は、取引相手として飛躍的に向上するだろう。

 不適な笑みを浮かべつつ自らの目論見を率直に話すミナに対して、そこまで読み取ったエリカは静かに相槌を打つよりない。

 と、そこまで上機嫌のまま話を続けてきたミナが、わずかに憮然とした雰囲気を漂わせる。どうしたのかと視線を向けると

 「ホムラは、ウズミなどよりはよほど時勢が見えていると思ってな。

  あるいは、我等の動きを承知の上で我にアメノミハシラの責任者の地位を振ってきたのかもしれぬ。

  そして、あやつ自身はオーブを生き残らせるのに必要と思われる手段を躊躇なく選択している。

  ザフトと協定を結び、赤道連合を潜在的な味方に引きずり込み、そして手打ちをする時の伝手を我がサハク家を利用して連合内部に設ける・・・。

  こと、ここに至れば、ホムラのことを見誤っていたことは認めねばなるまい。

  ウズミの言うことに従うだけの能しかない人間と見てきたが、どうしてどうして喰えない男だったようだ。

  それに、アスハの一族にしては現実が見えているようだしな」

 話している内により一層憮然とした雰囲気が濃くしながらも、そうごちるミナ。

 そんなミナを内心に大きな驚きをもったままエリカは見つめる。

 実際、これまでも公然と前代表首長であるウズミを初めとするアスハ家に対して批判してやまなかったロンド・ミナ・サハクが、同じアスハ家のホムラを曲がりなりにも認める発言をするのはよほどのことだ。

 エリカは表情に表さないように注意しながらもそう思う。

 「まあ、ホムラの目算どおり事態が推移せず、この戦いで仮にオーブが破られることになったとしても問題はない。

  時機を見てアメノミハシラに移した人材、資源、そして戦力で奪還を試みればよいだけのことだ。もっとも、それすらも見越して私を責任者にしたのであろうがな。

  むろん、そうなった時にはエリカ、お前の成す作業の重要性は段違いに大きくなることになるゆえ、覚悟だけはしておいたほうがよいぞ」

 物騒な感想を言いながらもミナの機嫌はそれほど悪くはなさそうに見える。

 と、ミナは今更ながらにかなりのここでかなりの時間をすごしたことに気づいたようだ。

 改めてエリカの方を向いたミナが言う。

 「少々時間を使いすぎたようだ。そろそろ行かねばならぬ。もし、まだ必要な問題があるようであればアメノミハシラで話を聞こう」

 「お時間を割いて頂き、ありがとうございました」

 「うむ」

 優雅に身を翻すとそのままさっそうとエリカの研究室からミナは去っていく。

 その様子を見送ったエリカは、誰彼構わぬ大きなため息を吐く。

 エリカの心を覆っていた迷いという名の霧は、ロンド・ミナ・サハクという暴風によって吹き散らされてしまった。後に残ったのは、まっすぐに前へと続く道だけだ。

 この道の先には分岐も控えているだろうし、再び霧が満ちることもあるだろう。

 だが、さしあたってはこの道を進むしかない。

 エリカはおもむろに懐から携帯電話を取り出すと、相手に電話をかけた。

 「あ、貴方。ミナ様から話は聞いているかしら?ええ、そう・・・・・・わかったわ。当面必要なものだけでいいと思うわ・・・・・・」

 そのまま夫と引越しについて打合せに入る。

 迷いは晴れたが、エリカ・シモンズの慌しい日々は当分続きそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突く。

 余計な力みは身体の反応速度を落とす。

 ゆえに、不自然に力を入れずに鋭く、それでいて柔らかく真っ直ぐな軌跡を描くことを心がける。

 思うとおりに動いたこの攻撃は悪くないと思う。

 だが、相手に完璧に防がれる。

 そして間髪いれず反撃の突きがくる。

 瞬きをするな。

 見ろ。

 くっ、僕の攻撃と同じはずなのに避けられない。

 ぎりぎりで左腕の盾で受ける。

 軽い!?

 フェイント!?

 咄嗟にバックステップ。

 一般のコーディネイターを遥かに凌駕する身体能力に頼って、からくも連続突きを避ける。

 追撃はどうだ?

 一段と鍛えられた動体視力に反応はない。

 来ない・・・か?

 

 無酸素運動の連続動作を続けていたせいで身体中が酸素を求めて喘いでいる。自然、呼吸はふいごのように大きく荒いものになる。

 身にまとっているトレーニングウェアは自身の汗を吸ってじっとりと重くなっている。

 万一の事故に備えて着けさせられているゴーグルの縁を、じわりと汗が流れ落ちるのを皮膚感覚の片隅で感じながら、先ほどまでの動きのせいで荒くなっていた呼吸を、深く一定のリズムに乗ったものに戻していく。

 身体中に酸素が行渡り、酸欠によって鈍っていた細胞の動きが再び活性化する。

 それを感じながら、ナイフは構えたままで視線は決して逸らさない。

 僕の視線の先には彼と同じように練習用に刃を潰したナイフを構える女性の姿がある。

 腰まで伸びる長髪と卵形の顔、切れ長の瞳、すっと通った鼻梁、紅を差したように艶やかな唇。

 誰もが美しいと納得させられる容姿を持つ。

 ただし、それはこの世に顕現した戦う女神の姿だ。

 そう、キラは思う。

 コーディネイターとしての身体能力にはそれなりに自信があったつもりだったが、航海初日にしてそんなものは粉々に目の前の女性に打ち砕かれた。

 おまけにせっかくのお宝を錆付かせておくなんて言語道断だと、もう一人の美女と合わせて罵倒の嵐を受ける始末。

 実際に今日もこてんぱんにのされているキラに言い訳のしようもない。

 毎日毎日、ヘルガとデラに完膚なきまでに叩きのめされ、座学で必要な知識を叩き込まれ、効果的なトレーニングで身体中の筋肉を作り変えられ、光陰矢の如しを体感するような日々をキラは送っている。

 その効果は日毎に軽くなっていく身体の動きで実感できる。実際、身体が以前とは比べ物にならないほど自由に動くようになったことは間違いない。

 その何よりの証拠として、ナイフによる近接戦闘で目の前のヘルガに秒殺されることはなくなったのだから・・・。

 自分でもちょっと悲しいと思うそんなことを思い浮かべ、本当に彼女の近接戦闘能力は反則だと思うキラであった。

 

 「さて、次で終わりにしようか。

  これ以上やっても疲れだけが溜まっていくだけで向上はないだろうからね」

 キラが内心ちょっぴりブルーになっていると、ヘルガがそう告げてくる。

 ナイフをまるで隙なく構えたままの彼女もかすかに汗をかいている。が、滴り落ちるほどになっているキラとは比べ物にならないほど少ない。

 これだけを見ても双方の身体の使い方、効率の違いというものが透けて見えてくる。

 そんな形なき重圧をうっすらと放っているヘルガに、攻める切欠を見出せないキラの切っ先が心をそのまま表すかのように揺れる。

 それを見たヘルガが言う。

 「強くなりたいんだろう、坊や?

  なら、後先考えず死に物狂いで掛かっておいで。

  じゃないとあんたの望むものは手に入らないよ」

 双眸に妖しい光を浮かべたままキラを招く戦いの女神。

 「強さを・・・手に入れる・・・」

 応えるように、そう小声で呟くと深く大きく息を吸い、次の瞬間キラは渾身の力を込めて足元を蹴った。

 その身が消えるほどに、速く、ただひたすらに速く。

 いくら自分の学習速度が驚異的とはいえ、歴戦の兵士の戦闘技能を一朝一夕に越えられるはずがない。

 ならば、自分に与えられた高い身体能力を引き出すほうが可能性があるはず。

 まるで周囲の時間が止まったかのような錯覚を憶えながら、真正面から一番短い距離を、キラはヘルガに向けて一気に詰め寄った。

 予想外の速度にわずかに驚いた表情を浮かべるヘルガ。

 引き絞られたバネが一気に開放されるように狙い澄ました下方からの斬撃が、高く跳ね上がる。

 刃はまるでキラの手の延長のように、寸分の狂いもなく狙った場所へ走る。

 取った!

 キラはそう思った。

 同時に先の言葉の続きが脳裏に浮かぶ。

 強いということは、負けずに済むということ。

 理不尽な暴力に屈せず、自分の思うところを成せるということ。

 それはつまり、護りたいものを護れるということにつながる。

 あんな思いは二度と御免だ!

 僕は絶対に強さ手に入れてみせる!

 キラが心に強く思ったその瞬間、ヘルガの口元に笑みが浮かんでいるのを視界に捕らえた・・・

 

 

 

 灰色の巨人たちが見下ろす闘技場へ新たな人間が入ってきた。

 キラとヘルガの近接戦闘訓練を眺めていたにもかかわらず、狙撃兵の習性か周囲の変化に耳ざとく気付いたデライラ・カンクネンが視線を飛ばし、入口から自分達の隊長がこちらに歩み寄ってくるのに軽く手を上げた。

 それに応じて入ってきた人物はそちらに歩の先を向ける。

 「やあアスラン。向こうの様子はどうだい?」

 気さくに声をかけてくる自分より遥かに戦歴の長い年上の女性に、生真面目な表情を浮かべたままアスランは応える。

 「どうも、オーブ全土に戒厳令が引かれると同時に避難命令も発せられたようです。

  さらにマスドライバーへ爆薬を設置しているとの公式発表が行われていますね」

 今回入ってきた情報の詳細が記載されている紙をデラに渡しながら、ざっと重要な箇所を口頭で説明する。

 「へえ?予想よりもずいぶんと厳しい対応を取っているね。

  しかも公式発表で自爆装置の設置を発表だって」

 かすかに驚きの表情を浮かべながら、受け取った用紙に素早く目を通すデラ。

 資料の中から必要事項を瞬時に読み取るのも長年の戦歴のもたらすスキルなのか、ごく短時間で内容を把握すると、ほいっとアスランに返すと、再び視線を戦いを続けている二人のほうに戻す。

 締めるべき時は締めるが、普段は軽い態度を崩さないデラに、さすがに表情を崩し、軽い苦笑を浮かべながら返された用紙を受け取ると、同じようにアスランも二人を見やりながらやり取りを続ける。

 「地球連合のオーブに対する通達内容が公表されたこと、国内にいる赤道連合および大洋州連合などの他国籍を持つ人間に対しても可能な限り帰国するよう促す放送が流されていることを合わせて考えると、どうやら地球連合軍を真正面から受け止める気のようですね」

 「日和見を続けてきたあの国にしては珍しく真っ当な判断を下したもんだ」

 皮肉気な声音で頷くデラ。

 それに応じるようにアスランも頷く。

 「ここまで毅然とした対応を取るとは予想もしていませんでしたからね。

  いい意味で予想を裏切られた感じです」

 「オーブの代表首長が変わった影響が思わぬところで出たのかもしれないねえ。

  何にせよ我々にとっては幸先の良いスタートになりそうだ」

 にやりと不敵な笑みを浮かべながら言うデラの表情には、地球連合軍を早く叩きのめしたいという思いが隠れているのだろうか。

 そんなことを頭の片隅に思い浮かべながらアスランは現在の訓練の度合いを尋ねる。

 「それでキラの訓練のほうはいかがですか?」

 「見ての通りさね」

 そうデラが言った瞬間

 

 キーン

 

 と甲高い澄んだ音が響き渡る。

 二人の視線の先では、キラが手に握っていたナイフが弾き飛ばされ、キラ自身もヘルガに組み敷かれている。

 「どうやら、今回もキラの敗北のようですね」

 「そう簡単に勝ちを得られちゃ、教師役を頼まれたあたしらの立つ瀬がないからね」

 小さな声でつぶやくアスランに、同様に小さな声でデラが応じる。

 一応、敗者であるキラに気を使っているようだ。

 

 

 

 一方、評価の対象となった人物たちも会話を交わしていた。

 「最後の攻撃は良かったよ、坊や。これまでの中で最高の一撃だったね」

 首元に訓練用のナイフを押し当てたまま、感心したように褒めるヘルガ。

 こういった訓練では嘘は言わない女性だと、この短い期間でも理解していたから

 「・・・ありがとうございます」

 複雑な表情でそう返すキラ。

 その最高の一撃を完璧にいなされてカウンターをあてられた彼の声に、憮然とした響きが篭るのもやむを得ないだろう。

 「ははっ、拗ねるんじゃないよ」

 笑いながらヘルガが空いている方の手でちょんとキラの額をつつく。

 むっとするキラだったが、ふと自らの視線の先にある見事に隆起した双丘に気付き、硬直したように身体の動きが止まる。トレーニングウェアに包まれながらもしっかりと自己主張しているそれは、キラの視線を釘付けにするに相応しいだけのボリュームを誇っていた。

 突然キラの様子が変わったことに気付いたヘルガは、その視線がどこを向いているかを確認すると、浮かべていた笑みをにやりとした邪悪なものに変え「それにしても暑いねえ」と言いながら胸元に空気を送り込むように上着をパタパタとさせ始めた。

 すると当然、見事な谷間がちらちらろのぞき見えるようになる。

 

 ボッ!?

 

 一瞬にしてキラの顔面が紅く染まり、耳の先まできれいに茹で上がった。

 

 連合に比べ著しく人口の少ないプラントの軍隊であるザフトは、地球連合軍に比較して女性兵士の比率が高い。それゆえ、男女のトラブルもそれなりに発生している。

 といっても、トラブルの基本は男性から女性に対してちょっかいを出すという形はナチュラルと変わりはない。

 

 つまり、男のスケベ心は生誕種の違いを超えるという事実が証明されているのだ!

 

 まあそれはともかく、そういった事情を少しでも改善するため、ザフトには男女間のお付き合いに関してガイドラインまでしっかりと用意されている。

 婚姻統制を敷いているプラントではあったが、兵士同士の付き合いに関しては任務に影響がない限り非常におおらかであった(種運命をご覧になった方なら納得して頂けると思う)。

 実のところ、戦場から戻った兵士たちの性欲が増大することは、過去の戦訓からいやになるほどきっちりと科学的に証明されているし、そういった面での力づくの統制は甚だ困難という判断もある。また万が一、戦場での性交渉により子供ができるようだったら、それはそれで出生率の低下に対するカンフル剤になるという公にできない考えがあるのかもしれない。

 まあ、そんなこんなで、ヘルガやデラのようにコーディネイターの中でも特に容姿に秀でている女性兵士、それも歴戦の兵士であれば、男性兵士のあしらい方は慣れたものであった。

 それでもここまで初心な反応をされると可愛いなあという想いがこみ上げてくるのは、女性の持つ普遍的な感情のひとつなのだろう。

 ゆえについついからかってしまうのだが、からかわれるほうにしてみればたまったものではない。事実キラの顔色は赤くなる一方である。

 そんなキラの初心な反応をひとしきり堪能かつ満喫したヘルガは、満足した笑顔のままキラの上から身体をどかすと手を掴んで引っ張り上げる。

 引っ張り上げられるキラの顔はこれ以上ないくらい赤くなったままだ。いやよく見れば、漫画のようにキラの頭上に蒸気がピーと噴き上げている様子が幻視できそうである。

 それにしても、容姿だけをとれば極上の美少女であったフレイ・アルスターの肢体を、不安や恐怖といった感情から逃れるために隅から隅まで一ヶ月以上に渡って貪り尽くしたくせに、変なところで初心なところを見せるのは、やはりキラがある種の天然たる由縁であろうか?

 まあ、その様子を生暖かい目で眺めるデラとアスランに未だ気づいていないのは、果たしてキラにとって幸せであったのかなかったのか・・・

 

 「さて、坊や。いちゃいちゃシーンを演じるのはその辺で終わりにしてクールダウンをしてきな」

 引っ張り上げられてからもかちんこちんに固まったままだったキラに対して、さすがにいい加減気の毒に思ったのかデラがそう声をかける。

 はっと正気に戻ったキラは、ぱっぱっと周囲を見渡し生暖かい眼をしたデラとアスランに気づくと、次の瞬間見事なまでの動きでヘルガの下からすり抜けると一目散にクールダウンのための船内マラソンに出かけていった。

 その素早さはデラがピューと口笛を吹くほどのものだったと言っておく。

 ただし、他の人はその様を見て「逃げた」という感想を持つものがほとんどかもしれなかったが。

 

 自分の親友であるところのキラが二人に苛められる様子を止める様子もなく見ていた、何気に無慈悲な面をみせたアスランは、

 「ヘルガをあそこまで相手にできるとは、大分、動けるようになってきたようですね」

 「まあね。ただ正直、あの飲み込みの早さはちょっとどうかと思うほどだけど」

 こちらもすっと立ち上がったヘルガに歩み寄りながら言う。

 同時に歩み寄ったデラがひょいっと手に持っていたタオルを投げる。

 それを受け取り、さっと汗を拭い取ると視線をアスランに向ける。

 「さて、話は聞こえていたけど念のため資料を見せてもらえるかい」

 そういいながら手を出す彼女にアスランは手に持っていた用紙をのせる。

 キラとの戦いの最中にも周囲に気を配る余裕があったということだろうが、もし、クールダウン中のキラがこれを聞いていたら一段と落ち込むだろうな。そうアスランは渡しながら思う。

 受け取ったヘルガは先ほどのデラと同じようにざっと読み必要事項を素早く頭に叩き込む。

 「介入のタイミングは、まだ決定していないようだね」

 「こちらの保有する戦力はそれなりに大きいとはいえ、オーブに攻め寄せる連合軍全体を相手取ることができるほどではないですから」

 「だが、こいつらがいればそれも不可能ではないとも思えてしまうな」

 感慨深げな口調でそういいながら周囲を見渡すヘルガの目には、灰色の巨人が4機、映っている。

 「ZGMF−X9AジャスティスにZGMF−X10Aフリーダム・・・か。

  まさか、これほどのMSを支給されるとは思ってもいなかったね」

 「だけど、これだけの性能のMSなら、包囲でもされない限り連合のストライクダガーなぞ恐れるに足りないし、ザラ隊への入隊の頼みを聞いて良かったと思うよ」

 ヘルガの独白地味た言葉に、ふてぶてしい笑みを浮かべながらデラが言う。

 「それに、使い方によっては我々だけでも連合軍を撃退するのもあながち不可能じゃないかもね」

 

 実際のところ、オーブ周辺海域を目指しているこの偽装船団は二つの牙を持っている。船倉内部に蓄えた大量の巡航ミサイルと合計で122機に達する搭載MS群だ。

 その搭載MSの内訳は

 ZGMF−X9Aジャスティス 2機

 ZGMF−X10Aフリーダム 2機

 AMF−101ディン 106機

 AME−WAC01早期警戒・空中指揮型ディン特殊電子戦仕様 4機

 UMF−4Aグーン 6機

 UMF−5ゾノ 2機

 である。

 これらのうち、水中用MSであるグーンとゾノは万が一に備えての艦隊の護衛用の機体であり、飛行能力を持つ残りの114機が攻撃用の戦力となる。当然、特務隊の要となっているヘルガとデラは部隊の内容を詳細に把握している。

 「確かにこいつらなら戦いようによっては中隊規模のMS部隊でも容易く殲滅できるだろうね。

  しかも、Nジャマーキャンセラーで活動時間の制限は考えなくてもいいときてる」

 MSパイロットにとって搭載バッテリー枯渇による活動限界は、何よりも重要視されることである。そのため、ヘルガとデラはフリーダム及びジャスティスの高出力攻撃兵装よりも、活動限界がないことを非常にありがたがっている。それも、開戦以来戦い続けてきた兵士としての率直な感想というものなのだろう。実際、動かないMSはただの棺桶にすぎないという、かつては戦車に使われてきた昔ながらの標語がMSにも適用されているし、それは事実でもあった。

 「ですが、Nジャマーキャンセラーを搭載しているのはジャスティスとフリーダムだけです。残りのMSは従来通りですから無理はするべきではないでしょう」

 アスランが二人をたしなめる様に言う。

 「まっ、確かにね」

 「それに、フリーダムとジャスティスが連合の手に渡らないよう注意して戦う必要がありますし、そうそう思うようにはいかないと考えるのが妥当でしょう」

 「ふーん。なるほど、大抜擢にも自分のスタンスは崩れていないようだね」

 「見るべき箇所をきちんと見ているし、問題はなさそうだね」

 「・・・ひょっとして、自分を試していたんですか?」

 相次いで告げられた二人の言葉に、アスランは静かに思い当たる節を尋ねる。

 「まっ、そういうわけでもないんだけどね」

 「ザラ議長は、息子の力量を信頼してはいても過信はしていないということさ」

 「なるほど。やはり、そうでしたか」

 どうやら予想通りだったらしい。しかし、アスランはそれを知っても特に気分を害することはなかった。MSパイロットとしてはともかく、隊を指揮するものとして自らに至らぬ所があることは承知しているからである。それを補佐するためにわざわざベテラン中のベテランを回してくれたのだから、感謝こそすれ、文句などあるはずがない。

 「もし、浮ついたところがあったらそれとなく指摘するつもりだったんだけどねえ」

 「予想以上にアスランが優秀で、お姉さんたちちょっと不満かも」

 「・・・・・・」

 文句はないが、何と答えてよいものやら、返答に困る一言である。

 沈黙するアスランの肩をぽんぽんと笑みを浮かべつつ叩きながら

 「だけど、先に言っていたのはあながち嘘じゃないよ。これだけの戦力、使いようによっては戦局を十分に左右するだけの力を持つからね」

 「そういうこと。そういうこと」

 二人はそう続けるが、なんとなく慰められているような気がしないでもない。

 だが、偽りというわけでもないのは確かだ。それだけは自分でもしっかりと分かっている。

 「そうですね。できればわれわれの手で戦局を決定付けられるものならそうしたいですね」

 だから、そう前向きの返事を返しておく。

 その前向きの姿勢に合わせるように

 「それじゃ、後でシミュレーションでもするかい」

 「お願いできますか?」

 「ああ、いいよ。後で互いの都合のいい時間を合わせよう」

 「よろしくお願いします」

 「気にするほどのことじゃないよ」

 とんとんと話が進んでいく。

 「キラの教育をお願いしている上に、私にも時間を割いてもらうのですから気にしないわけにはいきません」

 「・・・その辺の堅苦しいところは、やっぱり議長に似たのかね」

 デラがぼそりと言う。さすがのアスランはそれに苦笑いし、ヘルガも微笑する。

 その後少しばかりシミュレーションの設定について話を進めた時、ちょっとした邪笑を浮かべたデラが相棒に言う。

 「それにしても、あの坊やの最後の一撃は結構危なかったんじゃないの?」

 「・・・フン。まあね」

 デラの突っ込みにしばし間をおいて、そっぽを向きながらヘルガが応じる。

 それを聞いたアスランは、今度はヘルガの意見を聞いてみようと思い先にデラにしたのと同じ質問をする。

 「ヘルガの目から見てキラの成長はどうですか?」

 「そうだね。最初に出会った頃に比べて格段に成長しているのは確かだ。特に身体制御の基礎についてはさんざん叩き込んだせいもあって十分なレベルに到達したと思う。まあもっとも、まだ当分は負けるとは思わないけどね」

 デラの突込みが彼女の矜持を刺激したのか、そんな風にアスランに答えるヘルガ。

 だが、彼女の言ったように何事にも基礎は重要である。それは、個人戦闘においてもMSを用いた高機動戦闘においても変わりはない。

 基礎が分かっていれば、相手が何処を狙ってくるか、狙ってきた時にはどうすればよいか、最低限のマニュアルが、頭の中に出来るからだ。

 「ただ、これからもこの調子で伸びていくとしたら空恐ろしいものがあるけどね」

 「そうだね。それに関しては同感だ」

 ヘルガの感想にデラも相づちを打つ。

 基礎を学ぶことで対応方法が分かっているのと、分かっていないのでは、全然結果が違ってくるのは動かしようのない真実である。

 その基礎をキラはひたすら鬼教官であるヘルガとデラに叩き込まれ続けてきた。

 その事実を彼女らは知らないが、スーパーコーディネイターである彼に最高級の訓練を与えた結果がどのようなものになるか、想像を絶するものがあってもおかしくはない。歴戦の兵士である彼女らはキラの様子から無意識のうちにある程度の真実を読み取っているのであろう。

 「キラは、それほどのものですか?」

 「ああ。はっきり言えば非常識だね。

  いくらコーディネイターの学習能力が高いといっても、こんな短期間でここまで成長するとはこの目で見ても正直信じ難いものがあるよ」

 「うーん。昔のあいつは、騙されやすいお人よしだったんですが」

 なまじ幼いころのキラを知っているだけに、その身で彼との戦闘を重ねてきた実績がありながらもどうしてかお人よしなイメージが先行してしてしまうアスラン。

 「そのあたりは、今のそれほど変わっていないようだけど?

  ヘルガのからかいにあれだけ見事に反応しているし」

 「それは、まあ、確かに」

 デラの笑いを伴った突っ込みに苦笑を返すほかない。キラをからかったヘルガも苦笑を浮かべている。

 「まあキラは真面目で、誠意を尽くす奴ですから、よほどのことがない限り問題になるようなことはないと思いますよ」

 「そうだね。その点に関しても同感だ」

 「では、何にせよ、私たちはひたすら身を潜めつつ合図を待つだけだね」

 「そういうことになります」

 臨時編成された特務隊への攻撃開始の合図と、攻撃目標の座標データは衛星軌道上の艦艇から直接レーザー通信によってもたらされる予定になっている。それまでは、突然始まった戦争にあたふたする船団を演じることになるだろう。まあ、基本的に赤道連合の領海を行ったり来たりするので、地球連合軍にちょっかいをだされる恐れはほとんどない。

 「まあ、まずはオーブのお手並み拝見といこうじゃないか。

  あれだけ準備する時間があれば、さすがに一日二日で陥落することはないだろうしね。

  抵抗に手を焼いた連合がそれに対処する切り札を切ってくれれば、こちらの死傷者も少なくできる」

 デラの中ではオーブは単なる戦力として割り切られているのだろう。表現がドライだ。

 キラがいればデラに食って掛かったかもしれないが、オーブ国籍を持つキラと違って彼らにはオーブに肩入れする理由がない。むしろ、中立を隠れ蓑に連合のMSを開発していたというどちらかといえば「裏切り者」というイメージの方が強いだろう。

 一応、アスランからヘルガとデラにはオーブに対する強い表現は避けてくれるようお願いしているが、そうでなければキラとの間に何らかの衝突が発生した可能性は否定できない。

 だが、そんな彼らもオーブの持つ地政学的な意味はしっかりと把握している。ゆえに、持てる全力で連合軍に殴りかかるつもりでいる。プライベートな心情を戦闘に持ち込むような真似は決してしたりはしない。

 と、ふとヘルガが思い出したようにアスランに尋ねる。

 「そういえば、カナーバ議員はまだオーブから離れていないのかい?」

 「えーと、先に入った情報では、議員が脱出したとの情報はなかったですね」

 「じゃあ、まだいるんだろうね。穏健派といってもやる時はやるってことか」

 クールダウンを終えたキラが戻ってくるまでの時間潰しとして、彼らの間でさらに雑談が交わされていく。

 

 そんな彼らの乗る船団は、黙々と巡航速度で進んでいく。

 一応の中立国である赤道連合の領海である南国の海上では、世界の戦乱が嘘のように穏やかに時が流れていく。

 それと同時に彼らの進路の先にあるオーブが戦場となるカウントダウンは進んでいる。

 が、アスランたちが新たに生成される戦場に分け入るまでは今しばらくの時が必要であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 

 森羅万象、ありとあらゆるものに寿命はある。

 したがって、Myノートパソコンが壊れたのも必然である。

 ・・・・・・思いっきり腹は立つけどな!(怒)

 稼動期間は約4年。まあまあ持ったほうかもしれないが・・・やはりパソコンは家電じゃないよなあ。

 そして、修理費の見積もりを聞いて、速攻でパソコンを買い直すことに決定。

 だってあと1〜2万追加で出せば安い新品が買える値段なんだもの(苦笑)

 少なくともパソコンに関してだけは「物持ちがいい」という言葉は絶対に適合せんな。

 

 話のほうは相変わらず脇道を驀進中です(笑)

 続きもぼちぼちと書いてはいますのでこれまで同様気長にお待ち頂ければと思います。

 ・・・待っている人がいればの話だけど(汗)

 

 >そりゃ! 当然!

 ぐぁ!?マスターホウメイ直伝の○○○○○かぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ブッ、ツーツーツー

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

コートニーの旦那もこのころは兵器開発に余り悩みを抱いてる様子はないですねー。

まぁ、エリカみたいにマシンに愛着を持ってるような人がそのマシンの使い方を実地でずっと見ていればああなるのもわかりますが。

※コートニー・ヒエロニムスは種デス終了後開発局を辞職して行方不明。

この頃はまだプラントの大義をそれなり以上に信じていたのかも。

 

>PC

なむー。

私はPCを持ち歩く必要性を感じないので、一貫してデスクトップオンリーなんですが、

割と酷使するほうらしく最初のデスクトップは7年で昇天しました。

長いのか短いのか悩む所ですが、電源ユニットやHDDなどは今のPCに組みこまれてしっかり動き続けているので

ノートに比べるとこう言う点はメリットと言えますね。

 

とゆーか、頻繁に持ち歩くんでなければノートにする意味は無いに等しいといっていいんじゃないかなーと思ったり思わなかったり(爆)。