紅の軌跡 第37話

 

 

 

 

 「カガリは攻勢に出たようだな」

 オーブ軍主力艦隊が動いた旨の報告を受けたウズミが、戦況報告の詳細に目を通しつつ呟く。

 「土壇場で果断な決断を下すところなど、兄上にそっくりですな」

 「いらぬところまで似てくれねば良いのだが、な」

 同じく詳細を確認しているホムラの感想につい苦笑を浮かべるウズミ。手間が掛かる子ほどかわいいと言うが、カガリも世間一般から見れば十二分に手間が掛かった子と言えるだけに、その苦笑の中に含まれる想いは如何ほどのものであろう。

 そんな兄の想いを見越したかのようにホムラが言う。

 「カガリもオーブを守るために戦ったことで、これまでの兄上の苦労を察しその力量に感服していることでしょう」

 「アスハの名を継ぐものとして必要な教育は施してある。

  それを糧に真っ直ぐに成長してくれればそれでよい。そしてなお幸せになってくれればいうことはない」

 たとえ血は繋がらずとともウズミが注いできた愛情に偽りはない。何より大切だからこそ厳しく育て上げてきた。それでも、若くしてオーブの運命を背負うような立場に追い込んでしまったことに、心の一部に忸怩たる想いがあるのも事実。

 そんな想いがウズミほどの偉人にそのような言葉を吐かせたのかもしれない。

 だが、戦況が一気に動き始めたこの時が感傷にひたる時間を与えてはくれない。

 「兄上にはこの後、大使との会談をお願いしたいと考えております」

 弟の言にゆっくりと視線を報告書から上げて

 「ふむ。地ならし、といわけか」

 「はい。どちらの目が出ようとも交渉しておく必要がありますゆえ」

 双方が兄弟ではなく政治家としての顔でやり取りを交わす。

 オーブ攻防戦がターニングポイントに差し掛かり、政治家として動くべき時が到来したとの両者の判断だった。

 ウズミが代表首長を退いてからすでに数ヶ月が経過しているが、未だホムラを傀儡と見なす国外の勢力は少なくない。それは、それだけウズミの政治的手腕が良い意味でも悪い意味でも諸外国から高く評価されていたことの裏返しでもあるのだが、この場合、その諸外国の見方をうまく利用しようというわけだ。

 かつて諸外国と丁々発止の外交を繰り広げ、今も広い人脈を持ち、なおかつ情報漏れの心配を一切する必要のない人物を水面下の交渉に投入する。見事な人材活用といえる。

 そして万が一、何らかの問題が発生したとしても、正式な地位から退いている以上、オーブ政府は正式な会談ではないと主張することができる。政治の世界では例えそれがどんなにあからさまであったとしても、提示された建前で押し通すことができることを考慮に入れた、実に強かというべき依頼であった。

 「いいだろう。それで順番はどうする?」

 見当はついているが念のため聞いておこうという雰囲気でウズミが尋ねる。

 「まずは赤道連合を」

 「では、プラントは最後だな」

 「はい」

 主導権を相手側に握られっぱなしでは、プラント陣営と協力することに反対の国内勢力を納得させることが困難になる。まずはそこから取り掛かられねばならない。この点に関して、二人の認識は完全に一致していた。

 そもそも国家の間には国益を念頭においた関係があるだけだ。それ以外のものはそれを覆い隠す枝葉に過ぎない。

 国家間の関係を良好に保つには双方にそれ相応のメリットがなくてはならず、そしてより多くのメリットを引き出すためには交渉の主導権を一部なりともこちらが握る必要がある。

 「だが、赤道連合はプラントから相当の支援を受けている。懐柔は簡単ではないぞ」

 「おっしゃるとおりです。が、付け入る間がないわけではありません」

 ウズミの指摘に対してホムラの表情に特に変化はなく、淡々とすべきことを成すだけという意志のみが現れている。

 「どうやら勝算は立っているようだな」

 ウズミが代表首長に就いていた時、ウズミの代理として何度も諸外国に出向いているホムラには、どうやらウズミも把握していない伝手があるようだ。おそらく、そこから交渉の成否についての感触を既に得ているのだろう。

 無論、ウズミ自身も赤道連合への交渉の突破口について目処を付けている。先に彼自身が言った赤道連合が受け入れている支援。それそのものが交渉の切っ先となる。

 「プラントに対しての立場の強化。それを軸に交渉すればいいのだな?」

 「はい。それでお願いします。

  ただ、プラントも活発に動いていますので条件については臨機応変に対処してもらうことになるかと」

 「うむ。そうだな」

 彼らの脳裏に先に得た「プラントが北東アジアにおいて強い影響力を持つツグモグループに接触している」という情報がよぎる。おそらく、接触した当事者以外でこのことを知っているのは会談場所となったオーブだけだろうが、諜報機関はオーブが察知することを承知の上であえて会談を行ったという予測を報告書に記している。つまり、接触を察知させることでこちらをミスリードさせる可能性があるというわけだ。ただし、プラントがアイリーン・カナーバ議員を中心に地上において活発に外交活動を行っていることも事実であり、いずれかに断定することは非常に困難であるといえた。

 いずれにせよ、一手先ではなく、二手三手その更に先を見越して動かなければ、この戦乱の世界を生き抜くことは困難であることに変わりはない。これからホムラたちが行おうとしているのは二手か三手先にあたるものだが、それだけで安心することはできないということだ。

 物理的な弾丸の飛び交う戦闘が終われば、今度は言葉という弾丸が飛び交う、外交という名の戦闘が始まる。戦争において戦闘が行われない時などない。常に形を変えた戦闘が行われている。

 そのことを改めて認識した彼らは、自らの祖国のため本格的に動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外交という言葉による戦闘が活発化の兆しを見せる中、命を大量に消費しながら燃え盛る戦闘も激しさを増している。

 ヤラファス島北方海域に位置する連合軍主力に、2方向から攻撃を仕掛けたザフト。

 戦法としてはごくありきたりの時間差をつけた挟撃に過ぎない。しかしながら、あえて使い古された戦法を採用したのには当然それなりのわけがある。その目的は、ザフトの介入を受けた連合軍の意識を一度南に振り向けさせた上で、斜め後方にあたる方向から挟み撃ちを行うことで、連合軍将兵の心理的な動揺を誘うことであった。

 ザフト上層部は連合軍の練度が低下していることの意味をきちんと理解している。

 経験が浅く、十分な訓練が施されていない将兵は、通常であればなんということもない子供だましのような揺さぶりであっても、戦場という極限状態において簡単に引っ掛かり動揺するということを。

 そのために、オーブ軍と向き合っている連合軍へ横撃を加え、更に横撃に対処するための行動を取ったところに更なる横撃を加えたのだ。

 

 短時間で激変する戦況。

 

 それに動揺することなく柔軟に対応するには、ただ訓練と経験を積み重ねるより方法はない。しかし、練度の低下している連合軍にはその両者が不足している。ならば導き出される結論は目に見えている。

 ザフトの目論みはおおよそ予想通りの効果を発揮し、連合軍将兵のかなりの部分が挟み撃ちという事態に浮き足立っていた。

 浮き足立った将兵は、普段なら何気なくできることに時間がかかり、必要以上に周囲の様子を伺うようになり、それ以外でもひとつひとつの行動に迷いが滲み出る。

 積み重なった小さな差異は、部隊という群体の動きを鈍らせ、被る損害の大きさを拡大する。

 だが、それでも地球圏の双璧と呼ばれた軍事力があっけなく崩壊するわけではない。

 数が少なくなっているとはいえ要所には熟練兵が配備されている部隊もある。そういった部隊は率先してミサイルを迎撃し、練度の低い部隊もそれらの部隊の奮戦に感化され迎撃を活発に行っていく。

 対空砲と迎撃ミサイルの数が増加し、次々と撃破されていくザフトのミサイル。

 連合軍は挟撃の動揺による影響をなんとか抑え込み、敵ミサイル群第一陣を最小限の損害で切り抜けたように見えた。

 

 だが、それすらもザフトの予定の内。

 

 迎撃されたことで弾頭部に積まれていた撹乱粒子が連合軍艦隊の周囲に散布され、各種センサーの探知能力は著しい低下を見せている。光学観測以外の大半の索敵手段を妨害する撹乱粒子の層がまるで迷路のように築かれれば、いくら熟練兵が奮闘しようとも迎撃効率の低下は避けられない。

 むろん、探知システムを妨害する撹乱粒子の散布は、ザフト自身の索敵手段をも限定してしまう諸刃の剣的な面も持っている。現出した物理現象は敵味方を区別しない。しかし、そういった事態に陥ることを想定していた側と想定していなかった側では対応に雲泥の差が出ることになる。

 そのために、これからMS部隊と同時に敵艦隊へと突入するミサイル群はシーカー部分に光学系の索敵センサーを充実させたミサイルであり、実質上のミサイル攻撃の本命でもある。

 

 攻撃側だからこそ可能な手段の選択。

 

 ザフトは自らの手に得た戦場の主導権を見事に活用しているといえた。

 さらに、それをより効果的になさしめるために立ち塞がる防空網を撃破しようと、突入するザフトMS部隊の中で最強のMSがその真価を見せようとしていた。

 「ターゲッティング、1号機との同調、問題なし。FCSオンライン。全兵装オールグリーン」

 淡々と手順を進めるデライラの言葉に合わせてロックオンのマークがスクリーン上で増えていく。

 機載量子コンピュータが捕捉した目標の脅威度を判定し、最適なロックオンしていく。

 「セーフティ解除確認。ファイア」

 湖面の佇みを思わせる声音で手順を済ませたデライラは、キラの搭乗するフリーダム01と自らの搭乗するフリーダム02の2機による統制射撃を実施した。

 南洋の空に噴火する火山が2つ発生し、まるで投網のように火線が連合軍機へと被さっていく。

 

 無数の炎の華が南洋の空を彩る。

 

 イージス艦に匹敵あるいは凌駕する索敵、捕捉能力を持つフリーダムの統制射撃に狙われた連合軍機は現実化した悪夢に襲われたとしかいいようがない。射線に絡め取られたパイロットたちは悲鳴を上げる時間もなく、乗機のF−7Dスピアヘッドもろとも大空に散っていく。

 だが、その悪夢のような事態を招いたほうは湖面の静けさを湛えたまま

 「ターゲッティング良好。攻撃を続行する。

  ヘルガ、近づく奴は任せる」

 「任された。ただ、数が多い。油断はするなよ」

 「誰に向かって物を言っている」

 「狙った獲物は決して逃がさないスナイパー様にさ」

 「ふん」

 無駄口を叩きながらも彼女らの眼は素早く周囲の情報を読み取り、連合軍へ災厄を振り撒き続ける。

 フリーダムに搭載されたFCSは主にターゲットの熱量変化と移動ベクトルの推移で命中判定を行っている。

 熱量変化、すなわち温度が急上昇したということは火災が発生していることを意味し、そのまま温度に低下が見られなければ自動消火に失敗したということになる。

 移動ベクトルの推移の場合、高度が急速に下がっていれば墜落中と見なせる。対象が複数に分かれたならば、被弾によって機体が分解したということになる。

 むろん、この二種類以外にも様々な補正パラメータが働き効率的な射撃を行っている。

 ただし、その実行速度は凄まじく速い。

 仮に神の視点でフリーダム両機を人間が目視したとしても、両機はただひたすら、

 撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

 という動作を繰り返しているようにしか見えないだろう。

 だが、フリーダム01と02の機載量子コンピュータは、着実にターゲットの変化を確認し、次の攻撃目標に砲口を移すという動作を繰り返している。

 むろんフリーダムの搭載する各種レーダー及びセンサーも戦場の妨害や撹乱を受けている。何よりザフト自身がばら撒いた撹乱粒子の層が精密射撃を大きく阻害しているため、百発百中には程遠い射撃精度しか出していない。

 フリーダム同士でリンクし、相互のデータで補正を行うことで少しでも精度を上げているが満足のいくものには程遠い。

 また、敵機自体もそうだが、彼らが放つミサイルもまた無視するわけにはいかない。

 いくらPS装甲を備えているとはいえ、センサー部など非装甲部に命中すれば損害は免れない。ゆえに、攻撃の手を迎撃にも回さなければならず、結果として敵の撃破数は低下する。

 そんな各種要因による命中率の低下を射撃回数の増大で補いつつフリーダムは戦う。

 しかも戦っているのはフリーダムだけではない。多くの場合、敵の放ったミサイルはフリーダムに接近する前に、アスランとヘルガの操る2機のジャスティスによって叩き落される運命をたどっている。

 「狙いは悪くない。けど、相手が悪かったね」

 完全に相手を捉えたヘルガの操るジャスティスが、フリーダムに迫ろうとしていた連合軍機を叩き落す。

 「簡単に近寄らせたりしたら、後でデラに奢らされるからね。っと!」

 爆発の勢いを利用するかのように機体を遷移させ、僚機の犠牲を無駄にしないよう爆発を隠れ蓑にジャスティスを回避しようとした別の敵機に牽制のバルカンを放つ。

 ジャスティスから放たれた赤い射線に絡め取られる寸前で、眉間に稲妻が走ったのかはたまた直感が働いたのか、敵機は間一髪のところで攻撃を避ける。が、無理な姿勢の転換でフリーダムへの攻撃ラインからはずれてしまい、機位を思いっきり落とし離脱を図る。そこへ止めを刺そうとライフルを向けようとして

 「やれやれ。売れっ子は辛いね」

 離脱中の敵機を放っておき、別の方向から接近しつつあった機体をへライフルを向け直し、狙撃する。発射されたビームは狙い過たず目標とした機体の垂直尾翼の片方を直撃し、空力が狂った機体がでたらめに機動しながら高度を落としていく。

 ミーティアとの連動を念頭に生産されているジャスティスは、フリーダム同様に高い索敵・識別能力を有しており、更に近寄ってくる敵機を多く捉えている。

 だが、見事な射撃を見せたヘルガの表情に満足のそれは欠片もない。むしろ緊張の度合いのほうが多いように見受けられる。

 「やはり腐っても連合軍の双璧の一角、か。ここに至っても数が多い」

 冷静に周囲の状況を見ながらそうコックピットでつぶやく。

 開戦以来のベテランである彼女は決して連合軍を見下したりしない。親友にして彼女の指揮官であったマリーと共に、彼らの持つ数の力がどれだけの威力を発揮するのかをしっかりと学習してきたからだ。

 実際、連日に渡った一連の戦闘行動で消耗しているはずにもかかわらず、こちらの介入にこれだけの数を迎撃に回せる底力。それが恐ろしいと心底ヘルガは思う。

 落としても落としてもまるで海の底から湧き出てくるようにすら思える連合軍機を撃ちもらしのないよう全周警戒をしつつ

 「これはちょっとばかり坊やには厳しかったかもしれないねえ」

 と、能力は高いがその性向が戦いには不向きな教え子の姿を脳裏に浮かべる。が

 「まあ、乗っている機体が機体だ。躊躇っても余程のことがない限り命に別状はないか」

 そう、あっさり突き放した。

 もっとも彼女の感想もそれほど無責任というわけではない。キラ・ヤマトが搭乗しているフリーダムは彼女の操るジャスティス同様、実体弾攻撃に対し比類なき防御力を有し、その格段に違う防御能力は大きな安心感をもたらしてくれる。非装甲部に被弾すれば損傷を免れないが、致命的なものにはならない。そして連合軍の迎撃の主力であるF−7Dの主兵装は実体弾なのだ。

 もっとも、それはキラに限った話だ。ルーキーである彼とは異なり古参の自分がそれに安住するようでは歴戦のパイロットとしての腕が泣く。

 核動力によってエネルギー切れの心配はなく、性能は折り紙つき。

 これだけの機体を預けられていながらこれまでと同じ程度の戦果しか上がられなければ、元の部隊の連中にどんな嫌味を言われるかわかったものではない。

 ヘルガの脳裏に嬉々として自分を扱き下ろすであろうメンバーの姿が幾人か浮かぶ。

 「そんな羽目にわざわざ好んでなるつもりはないんでね」

 戦場であえてくだらないことを思い浮かべ精神をリフレッシュする。このあたりの緩急の付け方も経験のひとつだ。

 的確かつ着実にどんな場面でも仕事をこなせるオールマイティなパイロットがひとり、部隊の要にいるだけで部隊全体の効率が驚くほどに違ってくることは古くから知られている。ヘルガは敵に突っ込んでかき回す近中距離での戦闘が最も得意であったが、歴戦のパイロットの嗜みとして仕事人的な戦いも十分こなせる技量は持っていた。

 そう、彼女は編成されたばかりの部隊であるザラ隊にとって、欠くことのできない要のひとつなのだ。

 最高評議会議長であるパトリックの後押しがあったとはいえ、一年以上の長きに渡る戦争によって疲弊しつつあるプラントの人的資源に、隊の全ての人員を熟練兵で構成できる力はない。優秀だが経験の浅い兵が少なからずいる。

 そんな後ろに続くパイロットたちの目前で比類なき戦いぶりを見せることで、彼らの心に掛かる重圧を軽減する役目も彼女は同時に果たしている。

 自らの役目とばかり攻撃の切っ先として戦い続ける彼女の機体のモニターに映し出される敵の数はまったく減ったように見えない。

 それは徒労感を引き出し迎撃を行うパイロットの精神を削る。戦いは数といわれる所以のひとつは、物理的な圧力だけでなくこうした精神的な面でも発揮されることにもあるのだ。

 だが、歴戦のパイロットにとっては必ずしもその影響は発揮されるわけではない。歴戦のパイロットは経験的に自分が苦しい時は相手もまた苦しいということを知っている。物量を誇る連合軍とはいえ、戦力が有限であることに変わりはなく、落とした数だけ間違いなく連合軍の戦力は減っているということを。その厳然たる事実を、ヘルガはきちんと理解している。

 だから余裕を持ってモニターに映る眼前の敵部隊に不敵に告げることができる。

 「フリーダムのところにそう簡単にいけると思わないことだね」と。

 

 連合軍とザフト、双方の勢力がぶつかり合う南洋の空を2つの赤い牙が縦横無尽に駆け巡る。

 

 そんなヘルガとアスランの援護を受け続けながら、デラとキラのフリーダム2機は、一定範囲の掃討が終わるとそのまま敵陣の奥へと踏み込み、防衛網の破口を広げていく。

 そんな切り込みの基点となっているフリーダムを狙って多数のミサイルが押し寄せてくる。迎撃網を突破されまいと防御するほうも必死に食らい付こうとしているのだ。

 それを護衛についているアスランとヘルガが片っ端から叩き落す。が、あまりの数の多さにさすがに完璧というわけにはいかない。

 だが、フリーダムは海面上で二次元の機動しか行えないイージス艦とは異なる。現存するMSの中でも最高峰に匹敵する高機動MSでもあるフリーダムは、防御を突破したミサイルが接近すると、いったん攻撃を止め、ランダム機動でミサイルを振り払うか、あるいは自ら迎撃を行うかで安全を確保したのち、一斉射撃を再開する。

 

 不沈の火力砲台と化したフリーダムとそれを護衛する鉄壁と化しているジャスティス。

 

 連合軍将兵にとって両者ともに悪夢の化身であった。

 そしてその悪夢は更なる災厄をもたらす為に前進する。アスラン直卒部隊による抉り込むような攻撃は連合軍防空網に巨大な破口を生み出し、その破口に後続のディン部隊が流れ込み、さらにその破口を大きくしていく。

 戦いの潮目が変わる時は、一瞬にして訪れるという。その時が今まさに南洋の空に訪れていた。

 それまで踏みとどまっていた部隊も隣が崩れるとそれに引きずられるように崩れていく。

 連合軍パイロットの練度の低さ、経験のなさが最悪のタイミングで露呈してしまったのだ。

 周りに味方がいることでそこそこの動きができていた部隊の動きが、次第にぎこちなく悪くなっていき、そのことで撃墜される機体が増え、さらに味方の減った部隊の動きが悪くなるという悪循環が回り始めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 ザフトの攻撃がこちらの防空網を力ずくで押し込みつつあることは戦闘情報センター正面のスクリーンに映し出される結果から明らかだった。

 それに対し連合の参謀たちも手をこまねいているわけではない。防空網の崩壊を防ぐため、未だ攻撃を受けていない方向の部隊を次々にスライドさせ、防空網の綻びを何とか繕っていく。実際、その手腕は素晴らしく、破れかけた場所に侵入してきたディン部隊に再三再四、出血を強い撃退することに成功している。

 ただ、それらの手際も今のままでは時間稼ぎぐらいにしかなっていないことも事実であった。

 最強の戦力を局所に集中させたザフトの攻撃の凄まじい圧力は、司令部の参謀たちの努力を悉く無に帰さしめるように、新たに投入された戦力を時間と共に削り取っていく。予想を遥かに超える撹乱粒子の大量散布による迎撃ミサイルの命中率の低下は、それほどまでに艦隊防空に深刻な影響を及ぼしていた。

 今はまだ、防空網の破口を繕う戦力が残っているからいい。

 だが、このまま推移していけばいずれ繕うための戦力が不足し、防空網が崩壊する時が必ず訪れる。そのことは司令部の要員が誰よりもよく分かっていた。同時に現時点で、取りうるべき最善の手段というものがないこともまた分かっていた。

 ザフトは挟撃という戦法こそ用いたものの、それ以降は己が質の高さと攻撃側に許される局所的な戦力の集中を生かした単純な力による平押しで攻撃してきている。それが今の段階では可能であることを彼らは知っている。そして、単純な攻撃ほどそれに対抗する防御手段は限られる。

 はっきりいえば今は個々の奮戦と運を期待するよりほかに方法はない。

 未確認の、おそらくは新型MSがまるで破城槌のように防衛線を突き破っているという情報も既に司令部に入っている。その戦闘能力は極めて高く、例の連中が持ち込んでいる機体よりも強力かもしれないという予測と共に。

 それほどの高性能MSを相手取るにはF−7Dスピアヘッドではあまりにも荷が勝ちすぎる。ゆえに次のような確認が行われたとしても不思議ではなかった。

 「連中を防衛線に投入しますか?」

 参謀の一人が表情を曇らせながらもベイスに尋ねる。言った当人も100%乗り気というわけではないのだろう。

 確かに、カラミティ、レイダー、フォビドゥンを投入できれば状況が改善する望みはある。

 運動性と攻撃力に優れたレイダー、フォビドゥンであれば、新型を相手取ったとしてもそう十分に戦えるであろうし、飛行能力を持たないカラミティも、その絶大な火力を活かせば敵の迎撃に有効に働くだろう。

 だが、他の兵器と一線を画する戦闘ユニットを戦場に投入するには注意すべき点がある。それは、軍隊には統制された行動が重要であり、一線を画すということそのものが統制された行動を乱す要因となるということだ。

 攻撃側が一線を画す戦闘ユニットを投入する場合、攻撃の先頭に用いることがもっとも混乱が少なくかつ有効に活用できる運用方法だろう。それは今まさにフリーダムとジャスティスが行っている行動そのものだ。

 一方、防御側では防衛線が破れたところに駆けつける火消しとして投入するのが最適だろう。防御は攻撃よりもなお一層統制された行動が重要となるため、そこに一線を画すユニットを配備し運用するのは非常に困難であり、適材適所の面からそうすべきだろう。

 だが、火消し部隊として用いる場合、絶対に外せない重要な要件がある。

 それは火消し部隊が上からの命令に確実に従わなければならないということだ。さもなくば、味方エリアを火消しのために動きまわる部隊の行動そのものが、防衛線が破れる引き金と成りかねない。

 

 さて、そこで問題である。

 唯でさえ通常の指揮系統に含まれていないカラミティ、レイダー、フォビドゥンの3機。

 そんな彼らが司令部の命令を聞くだろうか?

 

 もしもこちらが主導権を握ることが可能な攻撃側であれば、適当な戦場を選ぶことができた。先のヤラファス島における戦闘のように、コントロールのきかない戦力でも、敵がわんさといる戦場に放り込んであとはほったらかしにしておけば、勝手に敵戦力を削ってくれるだろう。

 だが、先にも述べたように防御は秩序だった行動こそが最も重要だ。そこに強力とはいえ、コントロールのきかない戦力を投入するということはその秩序、すなわち防衛網を自ら破壊するに等しい。

 そして秩序を失った迎撃が、どれほど効率の低下と混乱をもたらすかは戦史を紐解けばいくらでも載っている。

 ベイスにはどうしても彼らが命令どおりに動く様子が浮かばなかった。むしろ、敵を求めて好き勝手に動き回り混乱を拡大することで低下している迎撃効率を更に落としかねない様子が浮かんできてしまう。

 そして恐らく、それは彼の妄想ではない。だから彼はこう応えるしかなかった。

 「いや、連中は投入しない。ぎりぎりまで現状の戦力でしのぐ」

 「分かりました」

 ベイスの言外の思慮を読み取ったのか、特に反駁することもなく言いだしっぺの参謀が頷く。

 実際、可能性の高い未来として未確認の新型MSがレイダー、フォビドォンと交戦しながら味方艦隊に突入してきた事態を想定するとぞっとする。まず間違いなく両機とも流れ弾が味方艦隊に当たることを考慮せずに戦闘を続行するであろうからだ。

 (頭でっかちの学者が現場を知ろうとせずに机上だけで物事を進めようとするから、まともに運用することすら難しい代物が出来上がるのだ)

 内心に巻き起こる憤懣を、それでもまったく表に現すことなく、現状では最善と思われる判断をベイスは下す。

 だが、彼の下した判断を聞いた参謀連中は

 (空戦用MSが実戦投入可能であれば)

 おそらくは全員がそう思っていることだろう。

 前線勤務のベイスたちの耳にもザフトのディンに対抗するための空戦用MSが実戦投入は間近であるとの情報は入っている。そのMS部隊が今、手元にあればと心底思わずにはいられない。

 それにしても、政治的な状況がオーブ侵攻作戦の早期実行を求め、そのせいで軍が敗北の危機に瀕している。それが一層の政治的苦境を招きかねない。

 まさに負の循環。ジリ貧、かつ泥沼であるといえた。

 しかし、彼らは軍人であり、まごうことなきプロフェッショナルの集団である。そんな彼らにあきらめることは許されない。1機でも多く敵に損害を与え、1人でも多く味方を助けることが義務付けられている。

 だからこそ、ただひたすら方法を探し、あがき続ける。それはある意味、軍人としてのひとつの完成形と断言してもいいのかもしれない。

 だが、そんな彼らにザフトは一切の容赦というものを与えない。一歩間違えれば自分たちが追い立てられる立場になるのだからそれも当然といえた。

 

 別働隊へ戦力をシフトせざるを得なくなり、防空網の綻びへの手当てが一部で混乱した連合軍に対し、ザフト本隊からの攻撃は深く鋭く綻びを突破しつつあった。

 そして、そのザフトの攻撃の先端部に一人の修羅がいた。

 「邪魔だ!」

 バルカン砲をばら撒きながら彼の機体に突っ込んできた敵機を、いなすように回避したクルーゼの操るディンは、振り向きざま手に持ったマシンガンを発砲する。

 マシンガンの数発に一発混じっている曳光弾による赤い射線は数百m先で敵機と重なりあい、連合軍機の上面にミシン目のように連続した穴を開け、次の瞬間巨大な炎と黒煙に自らの存在を変化させる。

 だが、その様をまったく見ることなしにクルーゼは機体を翻し、周囲の索敵を行いつつ次の獲物を探している。

 戦果確認のため、唯でさえ的になりやすい直線飛行を続けるなど愚の骨頂。

 例えその本性が狂人であったとしても、同時にザフトの誇るエースパイロットの一人であるラウ・ル・クルーゼは、激戦の中を生き抜いてきたことで身体が戦闘技法を覚えこんでいる。

 だが、その脳裏は自分の望みとはかけ離れた方向に向かおうとしている世界への苛立ちが渦巻いていた。

 「パトリックめ、これほどまでに自在に戦局を動かすとは。

  奴の力量を見誤っていたというのか!この私が!」

 まるで感情というものが感じられぬ冷え切った言葉は呪詛を吐くかのようだが、その姿は一見する限り静謐に見える。だがよく目を凝らして見ると、圧縮されすぎてそれゆえに押さえきれぬ激情が黒々とまるで瘴気のように彼の身体に纏わりついているように見えるようだ。まさに鬼気迫る雰囲気を漂わせるとはこのことだろう。

 だが、今現在、情勢を変えるために彼ができることはほとんどない。それゆえ、クルーゼはやり場のない抑圧のはけ口として、手近の地球連合軍に己が鬱憤を全てぶつけている。

 「私の邪魔をするな!」

 コックピット内を震わす叫びと共に、マシンガンの射線に絡めとられた連合の戦闘機が黒煙を引きながら墜落していく。激しいスピンに陥った戦闘機パイロットは、凄まじい荷重で脱出装置を作動させることすらかなうまい。

 だが、そんなことには目もくれず、クルーゼは次から次へと目に入る敵機を撃墜していく。その攻撃の激しさと的確さは連合軍から見れば死神そのものに見えたかもしれない。

 だが、それでもクルーゼの中から激情が消え去ることはない。

 

 クルーゼから見て、ここ数ヶ月、パトリック・ザラが主導したと思われる数々の行動によって戦況は大きくザフト優位に傾き、彼の当初の目論見とはまるで異なる世界が現出している。

 ここ最近では、戦力の質において連合軍に勝るザフトが各地の戦闘の主導権を活用した結果、劣勢に陥っていた連合をさらに追い詰めることとなっている。ようやくのことで連合軍による中東方面での反攻が開始されはしたものの、南米ではザフトに支援されたゲリラ活動の活発化によって駐留する連合軍部隊は出血し続け、東南アジアではプラント寄りに軸足を移した赤道連合との対立が深まりつつある。

 そして、今現在。南太平洋におけるオーブを巡る争いでは著しい出血の上でザフトの強襲を受けるはめになっている。

 (パトリック・ザラは、いったいどんな魔法を使ってこの状況を招いたというのだ)

 クルーゼの苛立ちがさらにつのる。

 かつてのパトリックはナチュラルへの復讐に身を焦がしており、その復讐心の深さゆえにその打つ手をある程度クルーゼにも見通すことができた。復讐する相手こそ異なるが、その深さは決してクルーゼも引けを取るものではなかったゆえに、クルーゼは事前にパトリックの歓心を買うように行動でき、周囲から見て事実上のパトリックの懐刀としての地位を得ることができていたのだ。

 だが、それも少し前までの話だ。

 正直なところ、今のクルーゼにはかつてのようにはパトリックの打っている手が見えない。パトリックが何を見、何を考え、どう判断しているのかがクルーゼには分からない。

 これほどまでに一人の人間の行動が変化するには理由があるはず。そう明らかにパトリックに何かがあったはずなのだ。

 だが何があったのかがまるで見当がつかない。そのことが余計にパトリックへの警戒を呼び起こす。

 

 しかしながら神の視点から物事を客観的に見れば、クルーゼはパトリックをいささか過大評価し過ぎているといえた。

 そもそも国家の指導者が、軍事作戦の細かい部分にまで口を出すことは百害あって一利なしということは過去の歴史が額縁つきで証明している。別世界の住人と融合した今のパトリックもそのことは承知しており、基本的に今回のオーブ攻防戦への介入には口を挟んでいない。ザフトの上層部が提出してきた作戦をほぼ全面的に承認しただけである。

 だが、国家指導者としてはそのあり方は正しい。

 国家指導者はいわゆる大戦略を定めることがもっとも重要な責務であり、それ以外のことは枝葉末節でしかない。

 融合によりナチュラルへの憎悪という頚木からある程度開放されているパトリックは、その本来の能力を生かし政治的に活発に動くとともに、軍に対しては適材適所を要請する以外では、アスランの部隊に編成に便宜を図るよう影響力を行使した程度であった。

 確かに、かつてのパトリックは憎悪のあまり可能な限り自らの手でナチュラルに死を与えようと動いていた面があった。だからこそ同様に世界全体に憎悪を抱くクルーゼにはパトリックの行動の予測が可能であったのであり、同時に変貌によりその面が弱体化したパトリックの行動を読めなくなったのもまた当然であった。

 そして、異界の住人との精神融合などという変貌の理由を察知できるはずもないクルーゼが、なまじかつてのパトリックの抱いていた憎悪の深さと強さを知るだけに戸惑うのも無理はない。

 だが、その戸惑いはクルーゼの心情に無視できない影響を与えている。

 また1機、敵機を落としながらクルーゼは内心で自身に強く言い聞かせる。

 自分は望みをかなえることなく、こんなところで死ぬつもりなど毛頭ない。

 自分は世界を滅ぼすその日まで、絶対に死ぬわけにはいかない。

 クルーゼの根幹を成すその想いは、今もなお胸の中で轟々と燃え盛っている。

 だが、同時に激しい焦慮が彼の意思をちろちろと焼いている。

 クローンとして生れ落ちたこの身が、正確にいつまで生きられるのかはクルーゼ当人はもとより症状を緩和する薬をよこしたギルバートにもわかっていない。

 だが、年々薬の効きが落ちていることは摂取している自分が一番よく知っている。また、発作の間隔も徐々にではあるが短くなりつつある。おそらくこのままのペースでいけば、自分が生きていられるのはそれほど長くない。もって数年、あるいはもっと早く限界が訪れるかもしれない。

 だからこその焦慮なのだが

 「だが、人類を滅ぼすための方策が、今の私の手にはない」

 ぎりっと強くかみ締められた口の傍が軋む。

 彼の望みを叶えるのに最も近いであろう情報、すなわちジェネシスについての情報はクルーゼも入手している。だが、ここ最近は作業の進捗度合いや実際に発揮されるであろう威力の詳細などの情報が手に入りにくくなっている。何らかの防諜が行われていると見るべきだろう。

 核兵器を使用可能にするNジャマーキャンセラーにしても、ようやくその存在を掴んだところでしかない。こちらも機密情報の入手に手間が掛かるようになっているせいで、設計図の入手には今しばらくの時間が必要だ。

 より大量の人類を死に追いやるには、多数の大威力兵器が使用されることが望ましい。

 そういった意味では再び核兵器の使用を可能とするNジャマーキャンセラーの情報を得ることが出来たのは、最近の数少ない良い知らせといえるだろう。だが、これだけではまだまだ足りない。Nジャマーキャンセラーの詳細な情報を入手し、それを連合のしかるべき筋へ流さねば、何の布石にもならない。

 

 そして何としてもジェネシスを地球に向けて発射させ、人類全体に憎悪を振りまき、互いに殺し合った果てに世界を終焉へと導かねばならない。

 

 クルーゼの望みはそこに集約している。

 だが、状況は困難になる一方であり、自らの望みから事態が離れていく傾向にさすがのクルーゼも冷静ではいられない。

 本来、焦りや怒りは過ちを引き起こす要因となる。ただ、ここは戦場だ。幸いにしてその矛先を向けられる相手はこの場において事欠かない。

 「死ね!私の前から消えてなくなれ!」

 クルーゼの発する瘴気が込められたような攻撃が周囲の連合軍へと叩きつけられる。まるで何かが憑いているかのように敵の行動を先読みし、狙った獲物を確実に撃破していく。

 その様は、まさに一騎当千。みるみるうちに周囲から敵機が排除されていく。

 「さすがはクルーゼ隊長!」

 「何て凄い!敵がまるで虫のようだ!」

 「ザフトの誇るトップエースの力を思い知ったかナチュラルども!」

 自らの鬱屈を一時でも晴らすため、傍から見て連合軍に対し獅子奮迅の戦いぶりを見せ付けているクルーゼ機の後方で、恐れをなし迂回してきた連合軍機を相手取りながらもクルーゼを尊敬の目で見ているものたちがいた。

 彼らは新たにクルーゼ隊へ配属されたMSパイロットたちであった。

 客観的に数えてみるとクルーゼ隊に属していたアスランとイザークは新たな隊の隊長として転出し、二コルは戦死、ディアッカは行方不明。ヘリオポリス襲撃時にもラスティやミゲルをはじめ、幾人もの犠牲を出している。

 これほどの数のMSパイロットがいなくなっては、クルーゼ隊としてMSパイロットの補充がどうしても必要となる。

 ザフト上層部もそのことはきちんと承知していた。オペレーション・スピットブレイク前は、作戦遂行が優先されたため補充が後回しにされていたが、クルーゼ隊がこれまで上げてきた戦果は評価すべきものがあり、その補充には優先されてしかるべき面があった。だが、熟練兵はどこも引っ張りだこであることは連合もザフトも変わらない。そのため一部の熟練兵を除けば若手を中心にクルーゼ隊への補充人員を集めることになる。

 新たな人員の補充に際して、勇名を馳せたクルーゼ隊への所属を希望するものは多く、最終的に選抜された優秀とされる若手が新たにクルーゼ隊に入隊した。

 クルーゼ直卒の下で大きな戦いに出るのが初めてである彼らの前で繰り広げられた、想定どおりにいかない現実への苛立ちを連合軍にぶつけるクルーゼの戦いぶりが、彼の指揮下にあるものたちからの尊敬を勝ち得ることに繋がっているのはクルーゼにとって皮肉でしかないだろう。

 だが、たとえ皮肉じみていても戦功を積み重ねることは決して無駄にはならないことも事実。

 軍に身を置くものにとって、戦果は何よりも雄弁にその人物の力量を示す証拠となり、間違いなく軍内部での影響力は増大する。いずれの時代においても、机上の空論より実戦に裏打ちされた話に耳を傾けることに変わりはない。

 ザフト内部におけるクルーゼは歴戦の部隊指揮官兼練達のMSパイロットと見なされているおり、それに見合った影響力を有している。

 直近の失点として、アークエンジェルを取り逃がしたという事実はあるが、冷静にその経緯を見直してみれば、その令名に些かの傷もついていないことが分かる。

 改めてクルーゼ隊の最近の軌跡を見直してみよう。

 まず、オーブの裏切りと言うべき連合軍兵器の開発を暴き、連合製の高性能新型MS4機の奪取に成功。さらに、当該宙域よりの離脱を図ったアークエンジェルが寄港したユーラシア連邦有するアルテミス要塞を陥落させている。

 その後、いったんは報告のためプラント本土に戻ったが、ラクス・クライン行方不明との報により前線に戻るや否や、連合宇宙軍第8艦隊先遣隊を全滅させ、さらに他の部隊と協同した上で続航していた第8艦隊本隊に壊滅的ダメージを与えている。

 アークエンジェルを取り逃がしたこと自体も、地上に降りたアークエンジェルが勇猛を謳われたアンドリュー・バルトフェルド隊、マルコ・モラシム隊を続けざまに撃破するという偉業を成し遂げている影響で、逆に部隊を維持したまま追撃戦を繰り広げた指揮官としての能力を改めて高く評価されている。

 こうしてみれば、わずかな期間でそれも一部隊が上げる武勲としては比類なきとしか評価のしようがない。さらに開戦時からの武勲も合わせるとはっきりいってクルーゼの軍人としての立場は磐石といえるだろう。

 また、こうした武勲を立てたことでクルーゼには様々な人物からの接触の手が伸びている。融合前のパトリック・ザラがクルーゼに接触したのも彼の目覚しい戦果に目を留めたからであることは間違いあるまい。

 そのようにしてクルーゼが繋ぐ事の出来た人脈は、人類への復讐という陰謀を進める上で貴重な情報収集の手段として役立つこととなる。先に述べたNジャマーキャンセラーの情報もこうして出来た人脈を通して手に入れたものだ。

 ゆえに、新たな戦果を積み重ね続けることは今後間違いなく役に立ってくれるであろうことをクルーゼの意識の一部は認識している。だが同時に、他の一部分では果たしてそれを有効に活用できる時間が残されているかということを疑問視していた。

 

 ラウ・ル・クルーゼという人間は既に狂っている。そのことに間違いはない。

 だが、狂っているからといって論理的合理的な思考ができないというわけではない。いやむしろ狂っているからこそ常人には不可能とも思える冷徹極まりない思考が可能という一面がある。

 クルーゼにとって死そのものは忌避すべきものではない。ただ、自らの望みを達することなく果てることだけが苦痛なだけである。

 「クルーゼ隊長!」

 焦慮の下、あらかたの敵機を撃破したクルーゼの機体に通信が入る。

 「・・・ロールか。他の連中はどうした」

 「後方にて戦闘中です」

 「そうか。ついてきているのだな?」

 「はっ!」

 こちらを狙っている敵機がいないことを確認した上で、クルーゼは今回の戦闘における状況を確認する。

 滾る憎悪と復讐心に精神を焼かれつつも正確な戦況を把握できるところも、クルーゼの名を広く知らしめるに至った要因のひとつであるかもしれない。

 それに、優れたMSパイロットであり、卓越した部隊指揮官であるという自らの評価を崩すようなことは、ただでさえ困難になっている自らの渇望を遠ざけることに直結するだろう。

 そのようなことはクルーゼにとって決して許されることではなかった。

 だから冷徹な指揮官としての仮面を外すことなく、後方での戦闘を終えた僚機が集まってきた麾下の部隊に命ずる。

 「敵の防衛網は崩れつつある。我々はこのまま圧力を掛け続け、後続の突破口を開く」

 「はっ!了解です」

 クルーゼの指示に、新たにクルーゼ隊に配属されたパイロットたちが一斉に応える。

 荒れ狂う修羅の下、ザフトの精鋭が改めて連合軍へ襲い掛かっていく。

 

 

 

 

 

 ザフト本隊が連合軍の防衛網を広範囲において力ずくで押し潰しつつあったのとほぼ同時刻、アスラン率いる別働隊もまた外郭部の防衛網を突破していた。

 その突破してきたMS部隊に向けて連合軍艦艇が新たな歓迎の挨拶を向ける。

 陸上ではその取り回しの悪さからはるか昔に陳腐化した大口径の高射砲が、76ミリから250ミリに至るまで一切の口径を問わず一斉に火を吹き、海上に火線の嵐が吹き荒れる。

 連合軍の手荒な歓迎を受けたミサイル群がまるで炎の巨人によってなぎ払われたかのように爆発する。

 だが、その爆発の隙間を縫って生き残ったミサイルが次々と懐へと飛び込んでいく。

 迎撃を突破したザフトの対艦ミサイルは、ポップアップした後も高度を維持し、重力加速度を利用して上空からターゲットに突っ込もうとするものと、再び海面すれすれまで高度を下げ、あくまで迎撃を避けようとする2種類に分かれて地球連合軍艦艇に向かって飛翔する。

 レーダー索敵誘導の範囲が狭められた現状では、所定の海域まで飛ばした後、幅広く旋回させ探させるというのが今次大戦に入ってからのミサイル運用方法であった。

 だが、低空に降りたミサイルのいくつかは通常とは異なる動きをしているものがあった。

 いかに索敵効率が低下しているとはいえ、艦隊の間近での奇妙な動きに連合側が気づかないはずもない。

 「敵ミサイルから魚雷らしきものが分離しています!」

 「魚雷だと?ソナーは何と言っている?」

 次々と対空砲火に迎撃される中、それでも絶対物量と効率の問題から多数のミサイルが防衛網を突破し、そのうちの複数のミサイルからカバーが剥がれ落ち、流線型の物体が距離を置いて次々と海面に着水していた。

 ただ、魚雷にしては周囲の艦艇にまったく近寄る様子がない。そんな奇妙な行動をする物体が如何なる意図を持って投入されたのか、ソナー室からの通話が艦橋をコールされたことで判明する。

 「こちら艦長。何か探知したのか?」

 「探知も何もあったものじゃありません!」

 普段は滅多に大声を上げることのないソナーマンが、今まで聞いたことのない怒鳴り声で報告してくる。

 「海中に突然、大量のノイズメーカーが現れました!

  こんな状況では、まともな聴音なんてとてもできません!」

 「ノイズメーカー、だと?」

 艦長の脳裏に、先ほどミサイルから分離した物体が浮かび上がる。ミサイルに搭載されていたため大きさは通常のものよりも小さかったかもしれないが、ノイズメーカーという可能性は十分過ぎるほど、いや、実際に聴音が妨害されている今、間違いなくミサイルによって運ばれてきたのはノイズメーカーだろう。

 「先ほど着水したものはどれくらいだ?」

 「確認できただけで10を超えます!」

 オペレータから分かっている範囲での報告が上がる。

 そこかしこで戦闘が行われ、索敵を阻害する様々な要因が発生している状況でも2桁のノイズメーカーを捕捉できた。となれば、単純に計算すれば戦場全体ではおそらくその数倍は稼動していると考えるのが妥当だろう。

 「複数の、それも数十のノイズメーカーを一気に投入するだと!

  ザフトめ、いったい何を考えている!?」

 敵の思惑が読めない事態に、艦長の額をじわりと冷や汗が流れ落ちる。

 ザフトの行動は、連合軍が知る海上戦闘のセオリーから明らかに外れている。そして、意表を突かれた部隊は予想外の損害を被ることが多い。つい先頃までオーブの地対艦ミサイル部隊に連合軍艦艇が予想外の被害を出したように。

 

 だが、そんな連合軍の戸惑いを他所にザフトは次々と行動を進めていく。

 

 「輸送部隊は、敵艦隊前面に展開しろ。

  妨害する敵機は我々が撃破する」

 「了解」

 防空網を切り裂き敵艦隊至近へと迫った別働隊のMS部隊の一部が、隊長であるアスランの指示を受けて次々と翼を翻し海面すれすれへと降下していく。

 空戦用MSでありながらグゥルに乗ったディン部隊の奇妙な行動をみた周辺空域の連合軍機が、何をするつもりかは知らぬがそうはさせじと突っ込んでくる。が、そうすることをザフト側が予測していないはずがなく、彼等の前に立ちはだかるのは地球圏最強クラスのMSである。

 「お前達を前に進ませるわけにはいかないね」

 両肩から天に突き出されるように伸びるバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲と腰部のクスフィアス・レール砲を展開した高機動空戦モードのフリーダムが2機、彼らの前に立ちふさがる。

 正面モニターに展開された専用の照準システムに次々とロックオンのマーキングが施されていく。

 「ファイア」

 静かに引き金が引かれ、フリーダムが備える全ての砲がその役目を果たす。

 

 轟

 

 2機のフリーダムの火線上にいた戦闘機が、正面からまるで障害物にぶち当たったかのようにひしゃげ、あるいは、粉々になって飛び散る。

 わずか一撃で、迎撃に向かおうとしていた戦闘機4機が撃墜されていた。

 あまりの火力に慌てた残存の戦闘機部隊は、急ぎ回避行動に移り、以後の射撃をかろうじてかわしていく。

 だが、自らの攻撃を回避されながらもコックピットに座るデラは全く慌てる様子はない。

 なぜなら、彼女の彼のいまの役目は、ディン部隊の護衛であるからだ。

 フリーダムの攻撃を逃れるため、回避行動に全力を投入している迎撃部隊は、本来の役目を全く果たせていない。つまるところ、迎撃部隊の無力化という戦術目的を難なく達成しているため、慌てる必要が全くないというのが真相であった。

 そう、個人の戦果を求め、撃墜に拘るような視野の狭い兵士とは文字通り世界が違うのである。

 だが、さすがにじっと同じ空域に留まっているわけにはいかない。それだけ敵艦から狙い撃ちされやすくなるし、何よりフリーダムの真骨頂は高機動を行いながらの掃射射撃にある。

 その本領を発揮できるように勤め、全体としての戦果を拡大するのが熟練者としての役目だともいえる。

 

 一方、派手な援護を受けつつ、艦艇からの直接照準を妨げるために煙幕弾を連続的に発射しながら低空に降りたディン部隊は、多少の損害を出しつつも連合軍艦艇の針路上に、作戦目的通り運んできた荷物を広範囲にばら撒くことに成功していた。

 大量に海面にばら撒かれたのは、一本のひもの両端とその間に突起物のある丸い物体が数珠繋ぎに並んでいる代物である。

 接近するディン部隊に対する迎撃が行われる中、ザフトの行動を確認するため映像をズームしつつ追っていたスコット艦長は、それが何か理解するなり大声を張り上げる。

 「提督、直ちに戦隊全艦に回避命令を!」

 「艦長、いきなり何を言っている?」

 艦長が焦っている理由がわからず戦隊を預かる提督が困惑しながら問い返すが、スコットはそれを無視して周囲に大声で命令を下す。

 「取り舵一杯!全力回避!前方に機雷多数!」

 艦長の叫びを理解した戦闘司令室内の空気が凍る。

 次の瞬間、回避を命じる怒号と被雷に備えての即時待機をダメージコントロール班への命令が飛ぶ。

 「馬鹿な・・・・・航行中の艦隊に対しての機雷攻撃だと言うのか!」

 海面に漂う黒い球体をモニター越しに見てつぶやいたキャラハン少将の声は、矢継ぎ早に艦の針路を修正する航海長の怒鳴り声にほとんどかき消される。

 回避運動に伴う船体の傾きと、船体各所へ指示を出す喧騒が響く中、スコールは猛禽のごとく進行方向の海面を睨み付ける。

 (くそったれ。機雷の群れは、艦隊の進路を完全に遮ってやがる。このまま回避が間に合うか?)

 その間に、ようやく分艦隊針路全般に対する変更命令が出された。通常の手順は全てすっ飛ばされ参謀長の怒鳴り声が直接無線に乗って飛んでいる。

 「サノバビッチ!」

 あらん限りの怨念が込められた呪詛のような罵声に、思わずスコットは振り向いた。

 氷のような冷たい目をしたキャラハン提督が、怒りに唇の一部を吊り上げ罵声を発し続けている。

 (馬鹿が!呪詛を振り撒く暇があったらひとつでも命令を下せ!)

 スコットが内心で上官の駄目さ加減に表情を歪めたその時、足元から突き上げるような衝撃が襲い掛かってきた

 (触雷したか!)

 吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた痛みに呻きながら、何とか身体を起こす。サブスクリーンの表示内容が切り替わり、艦が受けたダメージ図を表示している。艦首方向での損傷が示されているが、触雷したにしては被害が少ない。どうやら直接触雷したのではなく艦首波による水流で反応した間接的な触雷だったらしい。それでも爆発による水圧で亀裂が走ったのか、浸水箇所そのものは多い。

 それでも個艦レベルにおいては不幸中の幸いと呼べる状態だったが、残念ながら他の艦にはそんな幸運は訪れなかったらしく、鈍い爆発の轟音が立て続けに響いてくる。

 連続する機雷炸裂による水中衝撃波は、海域全体を文字通り揺さぶっていた。水中での音速はおおよそ秒速1400m前後。衝撃波の発生元は完全な円球だ。それは強大な破壊力を持っており、高性能火薬によって作り出された圧力変化の波が艦体を構成する物体にぶち当たり、圧縮波が立て続けに作用していく。

 「テイラー触雷!」

 オペレーターの声が悲痛に響く。爆発音とともに、前方を航行していた艦から巨大な水柱が立ちのぼる。続いてデ・ヘイブンが、そしてバッチが立て続けに触雷し水柱に包まれる。

 「馬鹿な!いくら多数をばら撒いたからといって密度からすればあり得ん!」

 キャラハン上ずった声で叫ぶ。先の触雷で特に怪我を負ったりはしなかったらしく、苦しんでいる様子はない。そして彼の意見は通常であればもっともだった。確かに機雷は艦隊の前方をさえぎるようなかたちで散布されている。だが、こうも立て続けに触雷するほどの密度ではない。逆上するのも無理からぬものがある。

 対するスコットはようやくのことで身体を起こし、何か突き抜けたような奇妙なほどの冷静さでキャラハンに応じた。

 「ケーブルです、提督」

 「なんだと?」

 「敵MSが散布した機雷は、ざっと見た限り100m単位のケーブルで連結されています。そう、ちょうどネックレスのように。

  我々は機雷で編まれたネックレスの輪に囲まれたのです」

 スコットの説明を聞いたキャラハンは、何度かパクパクと口を開閉してから搾り出すように

 「・・・ば、ばかな、そんな古典的な戦法を!」

 と呟いた。それを聞いたスコットは自分の上官の評価を下方修正しつつ先を見るように促す。

 「たとえ古典的であろうと、今この場では有効な手段です。

  早急に対処法を見つけなければなりません」

 実際、機雷を用いた戦法は非常に古くから存在する。ワイヤーで連結された機雷原もそれほど珍しいものではない。そのため、対処法もそのものはしっかりと確立している。

 ただし、その対処法、すなわち機雷の掃海には通常は掃海艇が必要なのだが、残念ながら今の艦隊に掃海艇は存在しない。だがそれは当然である。何しろ掃海に特化しているがゆえに掃海艇は攻撃力、防御力が通常の艦艇に比べて著しく劣る。揚陸初期を除けば掃海艇の出番は本来ないのだ。

 まさか戦闘がたけなわを迎えたときに掃海艇の出番が来るなどということを事前に想定することなど普通の軍人の思考の埒外でしかない。だが、相手の意表をつき行動を抑制するという点では非常に有効な方法でもある。

 とにかく掃海艇をこの海域に呼び寄せるにしろ、あるいは他の方法を取るにせよ、とにかく一刻も早く行動に移す必要がある。今このときもザフトは動き続けているのだから。

 ズズン

 新たな鈍い爆発音と共に艦全体を揺さぶられた。

 とっさに外部の情報を映し出すスクリーンを見れば、触雷し速度を落とした本艦の脇を抜けようとしたのであろうベネットの艦首付近から、水柱が立て続けに立ちのぼっている。計ったように艦首、中央部、艦尾に連続して、しかも、両舷にだ。どうやら多数の機雷が付いているケーブルの中心部を引っ掛けたようだ。

 初めの爆発で船体がいいように揺さぶられ、浸水を避けるために速度を落とそうとしたところでまた爆発。そのまま浸水を止めることもできずに傾きだしたところでさらに爆発。次から次へと水柱が立ちのぼる中、艦艇が翻弄されるように、あるいはのた打ち回るように、相次いで傾き、海中に姿を消していく。まるで海神ネプチューンが荒れ狂っているかのような光景だった。

 その様子を呆然と見つめるキャラハン提督をなかば無視し、スコット艦長はマイクを取り艦内全てに繋げる。

 「こちら艦長。ダメージコントロール班はそのまま全力を挙げて浸水を止めろ。

  機関室、行き足を止めろ。ただし、機関の運転は続行せよ。電力は絶対に止めてはならん。

  砲撃、近接防御システムで海面に浮かぶ機雷を撃て。海面を徹底的に掃射しろ。

  通信、周囲の味方にも機雷の掃射を行うよう伝えよ」

 「「「了解」」」

 立て続けに下した命令に各所から一斉に応答が返り、しばらくして海域全体から発砲音が響き始める。

 艦上の俯角を取れる全ての砲が海面を志向し、その火力を海に向かって叩きつけていた。

 砲の発射音、爆発音が交錯し、さらには水兵達の怒号や悲鳴が飛び交う。損傷艦から漏れ出した油が海面をどす黒く染め、炎上した艦が吹き上げる黒煙と炎は空を焦がす。

 専用の装具を用いない掃海は非常に効率が悪い。弾薬も相当消費することになる。ザフトのMS部隊が至近にいる状態で弾薬不足に陥るなど考えたくもないが、それでもやるしかなかった。さもなくば艦隊が動けず、動けない艦隊は迫り来る魚雷のいい的にしかならないのだ。

 それでも、やはり意志や覚悟では物理的な制約を打破することはできない。遅々として進まない掃海作業を進める部隊に恐れていた魚雷攻撃が容赦なく迫っていた。

 

 

 

 

 

 天王山を迎えた戦いはひたすら激化の一途をたどっている。それは、これまで連合軍の相手を務め続けてきたオーブ軍とて例外ではない。

 「味方航空部隊、攻撃開始予定時刻まであと3分」

 「アメノミハシラからの直通回線、繋がりました。

  正面、敵艦隊のデータ、入ります。哨戒ヘリとのデータ補正、進行中」

 通信参謀の報告が戦闘司令室に響く。

 カガリが送り出した対艦兵装を搭載可能な航空部隊がまもなく攻撃を開始する。それに合わせて艦隊も攻撃を開始する予定となっている。

 今次大戦ではNジャマーによる電子妨害によって通常の手段で得られる索敵情報は万全には程遠いものとなっている。それを補うために複数の索敵情報をマージしてより精度の高いデータを作り出す技術が進歩しており、複数の哨戒ヘリが艦隊前方上空に展開し、主に光学観測で得られたデータとアメノミハシラからのデータを合わせて精度の高い索敵データを作り出している。

 むろん、この場にいるメンバー全員がモニターに映った情報を読み取って報告の内容を把握している。それでもなお、報告の声が上がるのは海軍としての伝統であった。

 「データ融合及び解析終了。データを見る限り敵艦隊は後退を続けるつもりと見えますな」

 作戦参謀が解析結果の映し出されたモニターを見ながらそう感想を述べる。合成してなお個艦レベルで狙い撃つには精度が足りないが、相手の動きを捉えるならば十分なレベルまで補正は済んでいる。

 「こちらの予測どおり弾薬が乏しいのだろうな。それに戦闘可能な艦艇の数もこちらの方が多い。

  向こうの司令官としては、できれば今は戦いを避けたいところだろう」

 「ですが、我々がそれに付き合わなければならない理由はありませんな」

 「そのとおりだ。これほどの機会が巡ってくることは二度とないと考えるべきだろう」

 「同感です」

 彼らが相手にしようとしているは、敵艦隊の分力でしかない。しかも上陸支援戦闘で少なくない損害を出し、当初よりも戦闘力が低下している艦隊だ。にもかかわらず、残った戦力でオーブ主力艦隊と戦うことが可能なだけの力を有している。

 正直なところ、この状況を作り出せたことだけでも奇跡だと思っている司令部要員は決して少なくはなかった。

 むろん、その奇跡を生み出すために必要とされた犠牲についても決して忘れることはできない。祖国を蹂躙され、仲間が戦火の中に消えていくのを切歯扼腕しながら、ただその刻が訪れるのをひたすら一日千秋の想いで待ち続けた。

 そしてついにたまりにたまった想いを爆発させる刻が来たのだ。

 艦隊乗員の士気はまるで噴火直前の火山のマグマのように限界まで張り詰めている。

 そんな想いを背に受けて、艦隊司令官であるトダカ一佐はマイクを取り言葉を迸らせた。

 「各員に告ぐ。

  祖国が蹂躙される中、防人としての役目を果たせず、ひたすら隠忍自重を続けた日々にようやく終わりが来た。

  そう、待ちに待った時が来たのだ。

  連合軍にオーブを侵すことが如何に高くつくかを教育するために。

  散っていった先達たちが無駄死にでなかったことの証を示すために。

  諸君。今はただ、先達たちに恥じるような戦いはするなかれ。

  以上だ。

  全艦、攻撃開始!」

 「全艦攻撃開始!繰り返す、全艦攻撃開始!」

 トダカ一佐の命令が艦隊内に伝わるや否や、オーブ艦隊から無数の対艦ミサイルが、これまで長きに渡り逼塞することを余儀なくされていた乗員たちの鬱憤を晴らすかのように、盛大に撃ち放たれる。

 発射されたミサイルは、目標とされた連合軍南西方面艦隊へ瞬く間に飛翔する。双方の距離は通常のミサイル戦闘を行う時よりも近い。

 それは、損傷艦を抱え込んでいるせいで、艦隊速力を思うように上げられないという連合側の事情と、これだけの海上優勢が巡ってくることはもはや考えられないと判断したオーブ軍上層部の敵を多数撃破するという思惑が合致したために発生した近距離戦闘であった。

 だが、距離の短さは迎撃の対応時間を短くする。それは、通常であれば撃墜可能なミサイルを取りこぼすことに繋がり、双方の被害を増やすことになる。本来、総合戦力において劣るはずのオーブ軍が消耗戦に陥る可能性の高い戦法に出る。それは、連合軍の残弾が不足していることを把握しているからこその荒業だった。

 肉を切らせて骨を絶つ。あえていえばそうなるのだろうが、より勝算は高いと見込んでの行動だ。それは、これまでの連合軍の戦闘行動の分析の結果、今の南西方面の連合軍にはオーブ艦隊の肉を切るだけの力は残されていないとの判断に基づいている。

 むろん、どんなに慎重に分析したとしても敵情の判断に100%確実ということはない。連合軍の継戦能力がオーブの予測を大きく上回っていれば、正面からぶつかることを選んだオーブ主力艦隊も大きな損害を受けることになるだろう。

 それでも、賭けるだけの価値はあるという判断の下、オーブ主力艦隊は乾坤一擲の攻撃に出たのである。あるいは常に冷徹でなければならない上層部にも散っていった同胞たちになんとしても報いようという無意識の働きかけが働いていたのかもしれない。

 だが、既に賽は投げられている。あとはただ結果が出るのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 南西方面でも戦闘が激しくなり始めた頃、連合軍の後方部隊もまた対応に追われていた。

 ミサイルより分離着水後、派手に泳ぎ回るノイズメーカーにより、連合軍艦隊が存在する海中はまるでフルオーケストラが全力で演奏しているかのように騒々しい。ザフト別働隊が襲い掛かった先頭の分艦隊は完全に行き足を止められているため、後方に位置していた補給部隊との距離が詰まり、速度を落としているものの前方部隊、主隊、補給部隊それぞれの距離が狭まっていた。

 左翼の分艦隊はザフト主力からのミサイルとMS部隊、そして魚雷攻撃により多元戦闘を強いられ苦戦している模様だ。

 余裕があれば護衛部隊を切り離し、援護に駆けつけるべきところであった。だが、補給部隊はその規模が非常に大きくまた重要度の高いドック艦なども含まれているため、護衛を最優先するよう司令部からの命令が下っていたため、護衛部隊に属する艦艇の乗員たちはじりじりした思いを抱えつつも周囲に目を光らせていた。

 距離が詰まったといってもある程度の余裕はあり、ザフト別働隊による機雷堰の影響は受けてはいない。しかしながら、敵ミサイルから分離したノイズメーカーは広い範囲に散らばって着水したため、その影響範囲から逃れることができず水中の索敵効率の低下を招いていた。そうした物理的に妨害されると、練達のソナーマンいえどもその技量を発揮する余地は少ない。だが、それでも忠実に黙々と自らの役目を果たしていたソナーマンは、艦に近づいてくる不吉を告げるその音をある程度の距離を残した状態でキャッチすることに成功した。

 「聴音探知!魚雷が向かってきます!方位・・・・・そんなばかな・・・」

 喉頭式マイクを通じ、聴音室からのソナー員に独特のひどく押し殺した声による報告がCICに響いた。

 だが、その報告は中途半端で一瞬顔を見合わせた後、副長が内線電話に飛びつく。

 「ソナー、魚雷の数、及び向かってくる方位は!」

 わずかな沈黙の後、報告が続いた。

 「ノイズメーカーにより数は不明ですがとにかく多数。最低でも50は超えています。

  方位は、0−1−5から0−4−5にかけて、とにかく多方向から迫ってきます。」

 「なんだと!」

 ソナー員の報告に戦闘情報室が凍りつく。

 ようやくのことでミサイル攻撃は終わろうとしているが、MS部隊による攻撃はこれからが本番と思われている。そこに最低でも数十発の魚雷が突入してくれば、如何なる事態が巻き起こされるか分かったものではない。

 ミサイルを被弾し、黒煙を上げながら傾きつつある僚艦を避けるため、急減速し回頭しつつある艦がいる。ノイズメーカーを撃破するために定位置を外れている艦も多い。そんな、艦隊陣形が乱れている状態のところに多数の魚雷に突っ込まれては回避運動にすら困難をきたす恐れすらある。最悪の場合、艦同士の激突すら考えに入れなければならないのだ。

 「全艦に魚雷警報!艦隊旗艦にも連絡しろ!」

 「アイ・サー!」

 真っ先に衝撃から立ち直った艦長であるカリウス少佐が半ば悲鳴混じりに通信員に危機を周りに知らせるよう命じる。

 続けざまに防御担当の士官が

 「判明している概略方向にアンチ魚雷を発射しろ!出し惜しみはなしだ!」

 と、ソナーから報告のあった方位に対潜魚雷を発射するように命じた。ともかく接近する魚雷の数を減らさなければならない。だが、現状はそれすら許さない。

 「駄目です。ノイズメーカーの影響が強すぎます。

  魚雷のセンサーでは敵の魚雷をキャッチできません!」

 「なんだと!?ま、まさか、ザフトめ、これを狙って!?」

 愕然とつぶやく担当士官の抱いた疑いは当たっていた。

 ザフトが大量にばら撒いたこれまでになく派手に音響を喚きたてるノイズメーカー。それは、地球連合艦隊の耳を潰すと同時に、反撃の切っ先をあらぬ方向へそらす役目を持っていたのである。

 さらに凶報は続く。

 「敵ディン部隊、こちらに向かってきます!」

 おそらく主力を迂回してきたであろうMS部隊の接近が報じられる。

 「即時対空戦闘用意!敵航空戦力を近寄らせるな!

  アンチ魚雷は有線のまま発射しろ!1本でも撃破できればいい。

  デコイを降ろせ!すこしでも被雷の可能性を落とすんだ!」

 「アイ・サー!」

 カリウスは、立て続けに命令を下すと同時に針路の変更と速力を変えた。効果があるかどうかは不明だが、敵の発射管制データを無効にしようという目論みと接近するディン部隊への射界を広く取るための指示である。

 「敵MS、我が方の哨戒ヘリに接近!」

 「魚雷接近!」

 スクリーンにザフトの魚雷が水面に薄く白い航跡を残しながらやってくるのが捕らえられる。MS部隊のほうは先にこちらの目と耳を潰すつもりらしい。分散して哨戒ヘリへと接近していく。

 こうなると味方のヘリが射線に入るため、砲による迎撃がうまくいかない。さしあたりヘリには一時退避するよう命令が下されるがどれだけ生き残れるかは全くわからない。

 一方、接近してくる魚雷の速度はかなり遅い。おそらく最高速度の半分から戦闘艦艇の全速力をわずかに上回る程度でしかない。その事実は、戦闘艦艇にとっては比較的朗報といえるだろうが、それ以下の速度しか発揮できない守るべき支援艦艇にとっては何の慰めにもならない。

 「本艦に接近してくる魚雷は3本!方位は3−5−0!」

 ソナーマンからの音声による報告と共にスクリーン上の情報が変化する。オブライエンが針路を変えたため、魚雷の接近針路が当初とは変わっているのだ。

 「これほどのノイズメーカーが活動していては、確かに魚雷の迎撃に支障をきたすが、それはザフトも同じはず。

  この状態では誘導ケーブルを用いた音響誘導はでず、魚雷のセンサーでもろくな探知はできないずだ」

 魚雷の動きを示すスクリーンを見やりつつ、自分を冷静にコントロールしようとしながら現状を言葉にしながらまとめていく。

 効果があまりないと分かっていつつ投入されたアンチ魚雷が有線誘導で迫る魚雷に立ちはだかる。精確な位置を把握できないままケーブルを通じて爆破されたアンチ魚雷によって一部の敵魚雷が機能を失うが、まだまだ生き残っている魚雷の数が多い。

 だが、相変わらずザフトの魚雷からの探信音波らしきものはキャッチされない。

 焦りが強まるのを感じつつ、未だ距離のある魚雷に対して対潜ロケットを用いた迎撃を命じながら

 「ザフトが作戦を誤った?いや、介入までに十分な時間を取れた連中がそんな簡単なことを見落とすはずがない。

  現に敵のMS部隊が来ている。だが、だとしたらいったい何を目論んでいる?」

 予想外の事態に、自身が混乱状態に陥ることを防ぐため意識して論理的な思考を心がける。怒涛のごとく流動する状況に翻弄されないためには意識しての行動が不可欠だ。だが、そんな艦長の努力をさらに惑わす報告がソナーマンから入ってくる。

 「変です!?敵の魚雷が探信音波を発していません!」

 「何!?間違いないか?」

 「間違いありません!ノイズメーカー以外の探信音波は一切キャッチできません!」

 「デコイはどうなっている?」

 「作動中です」

 オブライエンはいっそう増速しながら、艦尾を魚雷から隠すように舵をきりつつある。代わりに投下したデコイが魚雷の前面に展開する。通常であれば間違いなく反応する距離だ。

 「!?。敵の魚雷がデコイに反応しません!一直線に艦隊内部に突っ込んでいきます!」

 「なんだと!」

 上がった報告に外部を映し出しているスクリーンを見やるが、確かにデコイのあるあたりに水柱は立ちのぼっていない。報告の通り、ザフトの魚雷はデコイをすり抜け、そのまま支援艦艇が密集している艦隊中央に向かって突進していく。

 「どういうことだ?何故デコイに反応しない!?」

 これまでも防御を突破されることがあったとはいえ、長年有効であった戦法がまるで効果がない事態にさすがに艦長という立場にあっても焦りが表に出てしまう。

 そんな彼に開戦前からずっと聴音探知に携わってきた数少ない熟練ソナーマンからの回答が寄せられる。

 「艦長、探信音波がないこととデコイに反応しなかった理由はひとつしか考えられません。

  おそらくザフトの魚雷はホーミング機能が切られ、着発信管で発射されたのです!」

 「・・・ばかな!そんな常識はずれの魚雷攻撃を行うとは!」

 だが、それは事実であった。

 ボズゴロフ級による潜水艦部隊から発射された魚雷は、ホーミング機能及び近接信管の機能は全て遮断されており、搭載したプログラムによってのみ進行方向を決定していた。

 「魚雷が補給船に命中します!」

 オペレータが上ずった声でそういい、迎撃をすり抜けた魚雷の航跡がスクリーン上で点滅する。その魚雷の先には満載した補給物資と燃料で喫水を深くした輸送船がなんとかかわそうともがいていた。

 ほんのかすかに白く濁っている航跡はそのまままっすぐ近づいていく。

 その様子にカリウスにできることは何もなかった。ただぎゅっと拳を握り締め、無言の怒りを込めてにらんでいる先で補給船に魚雷が命中した。

 

 舷側に高々と水柱が立ちのぼり、下腹に響くような爆発音が艦体を震わす。

 

 ザフトの魚雷は輸送船の艦首を食い破っていた。輸送船の艦首は原型をとどめず、爆発によって竜骨が分離しかかっている。引き続き聞こえた凄まじい金属音は、艦首が船体からちぎれつつある音だった。艦首に大穴が開いた状態だが、急に止まることはできず惰性で進んでいる輸送船は、自らのもっていた速度がもたらす浸水圧力に隔壁が耐え切れず次々と浸水箇所が増大してゆく。

 被雷した時点で船長が総員退艦を命令したのか、わらわらと艦上に人が飛び出てくる。そのまま大急ぎで備え付けられた救命ボートを下ろそうとするが、その間にも浸水は続き、艦体の傾きがひどくなってゆく。

 しばらく後、何隻かの救命ボートが無事海面に下ろされたが、そのころには甲板を波が洗うほどになっていた。そして、補給船はボートが離れるのをまたず海底の寝台に自らの船体を眠らせにゆく。

 おそらくは、脱出できず船内に取り残された乗員を己が内部に抱えたまま、白い渦を残し、補給船はその姿を南洋の海へと消した。

 

 オブライエンの眼前で展開された光景は、護衛部隊の敗北を意味しており、そして、この悲劇の楽曲はここだけではなく支援部隊の各所で奏でられていた。

 

 ホーミング機能と近接信管機能を切られた状態で上陸船団の内側に潜り込んだ魚雷は、あらかじめ定められた距離を航走すると、それまでの直進から一転してインプットされた捜索パターンに従い、様々な航路を描き始める。

 クローバーリーフパターン、スパイラルパターン、サンダーパターンといったポピュラーなパターンから、潜水艦乗組員自身が組んだのであろう独自のパターンまで多種多彩な白い航跡による模様が描かれる。

 旧世紀、ドイツ第三帝国のUボート部隊が米英を中心とする連合軍輸送船団への攻撃にギヤとカムだけで進行方向を変える船団攻撃用の魚雷を用いていたが、その当時とほとんど同様の景色が海原に描かれている。

 

 歴史は繰り返す。まさしく至言であった。

 

 だが、迫ってくる魚雷の航跡から逃れようと狂奔している連合軍の支援艦艇にとっては、そのような歴史的な観点からの分析など何の役にも立たない。何しろ、先に沈んだ輸送船をみてわかるように、人員、資材を満載した輸送船は1発の魚雷の命中で容易く沈みかねないのだ。

 旧世紀以来、支援艦艇は商船構造で建造されることが多い。それはC.E.の時代においても変わっていない。

 いくらプラント理事国が打ち出の小槌のようにプラントから金を搾り出せたとしても、現実に無限の資金を用意できるわけではない。

 金額が膨大であっても、そこには必ず限界が存在する。従って、無駄は許されない。

 大西洋連邦とユーラシア連邦。

 地球圏の二強と呼ばれ、双方の見栄と意地も重なり、延々と正面戦力の整備に金を注ぎ込んできたせいもあり、経済効率に優れた商船構造による軍用艦艇の建造は連綿と続けられてきた。

 だが、商船構造は効率に優れていることそのものが被害への抵抗力を落としている。

 被弾あるいは被雷した支援艦艇があっけなく沈没に至っているのは、商船構造の欠陥が如実に現れてしまったことの証左であろう。

 

 魚雷を避けるためとはいえ狭い海域での船の狂奔がいつまでも無事でいられるはずもなく、部隊内部のそこかしこで衝突事故が続発していた。

 巨大質量と大きな慣性を持つ輸送船と輸送船の衝突では、その質量により双方の竜骨を歪ませ、巨大な浸水口を生じさせ、短時間で海底へと招待されてゆく。

 輸送船に突っ込まれた護衛艦は、質量の小さな護衛艦がくの字型にへし折れ、沈没を待つばかりになっている。

 阿鼻叫喚の海域は海中を泡立たせ、ただでさえ発見しにくい魚雷をさらに見つけにくくしていく。

 「哨戒ヘリ部隊は何をやっている!」

 悪化する一方の事態に担当士官が怒声を上げるが

 「敵、ディン部隊と交戦中。対潜活動が出来ません!」

 「くそったれがあ!」

 悲鳴のような報告に毒づく。

 

 

 だが、魚雷攻撃にさらされている艦の乗組員は罵声を上げていたが、哨戒ヘリ部隊の一部は何とかディンの攻撃を逃れ必死にピケットラインを形成していた。

 「こちらバトルアクス1、ソノブイナンバー1から4、投下スタンバイ」

 「了解」

 対潜ヘリの胴体下部では発射管に装填されたひとつひとつの小型ブイに対して、戦術コンピュータが間髪をいれずに指令を与えていく。母艦とのデータリンクが全面的に繋がっていれば全自動で行われるのだが、通信が阻害されている状況ではそうはいかない。自動と手動をうまく組み合わせて行動するしかない。

 手際よくマイクロフォンの深度、データを送り返すための無線チャンネルなど、ブイを機能させるのに必要な一連の情報がインプットされ、

 「スタンバイOK!」

 「母艦から送られたブイ・パターンに従って投下開始!」

 「了解。ソノブイ投下!」

 主操縦士は艦隊の相対座標を確認すると投下を命じ、副操縦士が手元のスイッチを入れる。哨戒ヘリの下部発射管から吐き出された金属筒が、ヘリが作り出す空気の流れの乱れに引き込まれながら海面に向かって落下していく。

 一定距離を落下した後、小さな白いパラシュートが勢いよく開き、ソノブイは風に乗る。それからたいして時間をかけず海面にすべり込むように。連続して発射された残りのブイも、一定の間隔をおいて後に続く。

 ディン部隊の攻撃から生き残った僚機のバトルアクス3とバトルアクス6も、彼等と同様にソノブイを投下している。

 「こちらバトルアクス1、バトルアクス3、6、聞こえるか?」

 「こちらバトルアクス3、感度良好」

 「バトルアクス6、問題なし」

 生き残った3機の中でもっとも先任であるバトルアクス1の呼びかけに、生き残りのヘリが応答する。

 「いいか、ザフトの潜水艦部隊から第二次の魚雷攻撃があるはずだ。

  俺たちの仕事はそのくそったれどもを可能な限り食い止めることだ」

 「「了解!」」

 「海上の艦艇は、ノイズメーカーの影響で満足な対潜行動が取れない。

  距離を進出できる俺たちが最後の防壁だ。

  周辺のディンにも気をつけろ。絶対に気を抜くんじゃないぞ」

 「「了解!」」

 

 それからしばし、待機の時間が流れる。現実の時間ではわずかな時間が、目を皿のようにして警戒を続けるヘリの搭乗員達にとっては数時間にも思えるような。

 彼らが見守るスクリーン上では、先に投下したソノブイがひとつひとつナンバリングされたシグナルとして表示され、一連のシグナルが一定のパターンを描いて展開されている。ノイズメーカーの少ない海域に投下できたことで音の具合は悪くない。ただ、そのシグナルの間隔は開戦前と比較して狭められている。Nジャマーによる通信障害がソノブイに搭載されたデータ通信にも作用を及ぼしており、かつてのように大きく展開するとリンクが切れてしまう事象が発生することがあるためだ。

 

 彼等の背後、すなわち支援部隊では船に乗り込む者達にとっての阿鼻叫喚の世界が現出しており、生き残るための戦いが繰り広げられている。最初の攻撃はほぼ終息したようだが、続くであろう攻撃を彼等が阻止しなければ、その世界は更なる拡大を招くであろうことは明白だ。それゆえに、待つ時間は彼らの精神をじりじりとした焦燥感で焼きつかせようとする。

 そしてついに、待っていたが来て欲しくなかった音を副操縦士が捉える。

 「4番に感あり!針路2−6−5、速力は不明なれど、速い!」

 「アクティブソナーを下ろすぞ!」

 主操縦士が哨戒ヘリを即座に降下させる。海面上にローターの風圧により同心円状に波が起こるが、その中心に吊り下げられたソナーが下りる。

 

 カーン

 

 おろされたアクディブソナーから強力な低周波のパルスが生じ、数秒後に反射波を投下済のソノブイが捉えた。その情報は瞬時に哨戒ヘリに伝送され、コックピットのモニターに表示される。

 そこには、海中を高速で接近してくる魚雷が赤のシンボルマークで表示されおり、魚雷の方位と速度は、そのシンボルマークから伸びる線の方向と長さで示されていた。

 熟練した海の男であれば、その海域にある全艦船の位置と状況、および識別した敵の位置と状態を一目で把握することができるそのシステムは、旧世紀の21世紀初頭から細部はともかく基本部分はほとんど変化していないほど簡潔で優れた代物である。

 その優れたシステムの上で、敵の魚雷を示す赤いシンボルマークは刻々とモニターの中で増えていく。

 「数が多いな。ザフトの連中、支援部隊を潰す機会をじっくりと狙っていたと見える」

 「でも、そう簡単にやらせるわけにはいきません!」

 「その通りだ。対潜魚雷のセーフティを外せ。3本とも全部だ!」

 「了解です!」

 バトルアクス1には対潜魚雷が3本と対潜爆雷が9つ搭載されていた。かつてはハードポイント全てに対潜魚雷を装備するのがセオリーだったが、ザフトの水中用MSが対潜魚雷を簡単に回避あるいは迎撃してしまうため、今では連合の海洋で活動するヘリは対潜魚雷と爆雷をセットで装備することが標準となっている。

 ザフトのオペレーション・ウロボロス発動と共に、戦場が地上にまで広がって一年以上が経過したが、その間に何度も水上&水中戦闘が繰り返された。そして、迎撃&回避されてしまう魚雷よりも、むしろ爆雷のほうが効果がある場合が何度も発生し、対水中用MS兵器のひとつとして重視されるようになっていたのである。

 だが、魚雷を迎撃するという今回の場合においては、かつてのように全てを対潜魚雷にすべきだったかと、搭乗員たちが内心で装備の選択を誤ったと思っても無理はなかったかもしれない。

 それでも手持ちの全てで全力を尽くすよりない。

 「セーフティロック解除完了!」

 「よし、1番投下」

 「投下します」

 対潜魚雷のロックが外れる音とともに、一気に数百キロの重さを失った機体がバランスを崩し大きく揺れる。操縦経験の少ないヒヨッコの場合、下手をするとこのままバランスを崩して墜落することもあり得るが、幸いバトルアクス1のパイロットは、それなりに経験を積んだ中堅と呼べるだけのレベルに達していたため、わずかな時間の後、機の姿勢を取り戻すことに成功する。

 その間に、落下した魚雷は海面から静かに自分の戦場に突入している。そしてインプットされたデータに従い動き始める。その時点で、先端部のソナーは破壊すべき獲物を探知している。

 「発射した魚雷は、敵魚雷を指向しています」

 「ノイズメーカーはどうだ?」

 「大丈夫です。それほど影響は出ていません」

 部隊の主力と距離をおいたおかげで、ノイズメーカーによる妨害はかなり抑えられていた。もっとも、そのために彼等は本来の警戒ラインを大きく超えてピケットを張りなおす必要にせまられたのだが、それだけの効果はあったといえる。

 「魚雷、さらに接近!」

 「アクティブソナー、上げろ!」

 「了解」

 魚雷命中時の大音響からソナーを守るため、一時的にヘリを上昇させると同時にウインチでケーブルを巻き上げ、ソナーを海面から引っ張り上げる。

 哨戒へリの右前方600mぐらいの海域で高々と水柱が上がった。

 「魚雷命中!」

 「よし、続けて迎撃だ!」

 「了解です!」

 自らの戦果に気をよくし、元気よく声を上げるソナー員。

 彼等は自らの搭乗するヘリを移動させてから、再びアクティブソナーを下ろす。場所を移動させたのは、海中で発生した魚雷の爆発が数分にわたって海底を揺さぶり、掻き乱された海水がアクティブソナーに歪んだ反射音を送り返すためである。

 そして先ほどと同様に魚雷を探知、再び迎撃することに成功する。

 僚機のバトルアクス3、6も同様に迎撃に成功し、彼等の間で一時的な気分の高揚が成されていく。実際、艦隊に接近する魚雷をインターセプトした影響は少なくない。さらに哨戒ヘリを回してもらえれば、艦艇への損害を極限できるかもしれない。

 

 だがそんな希望は、魚雷とは違う、しかし同様に海中を高速で接近してくる音を、高揚する気分の中でも海中の音を聞きつづけていたソナー員が探知したことで終わりを告げる。

 

 「こ、この推進音は!?」

 「おい、どうした!」

 顔色を変えたソナー員に主操縦士が驚いたように声をかける。

 「新たな推進音を探知!これは魚雷ではありません!MSです!」

 その報告が、哨戒ヘリ部隊に広がっていた一時的な高揚を完全に吹き飛ばした。

 「敵の機種は!?」

 「音紋照合・・・ライブラリーに該当あり!ザフト軍水中用MSグーンです!

  数は2、いや3!」

 「くそっ!よりによってこんな時に!」

 主操縦士が歯噛みをするようにうめく。

 

 UMF−4Aグーンは、水中から地上の拠点や航行する艦艇を叩くためにザフトが開発したMSである。その開発コンセプトから、ジンなどと比べて火力が充実しているのが大きな特徴だ。両腕に、ロケット推進で空中発射も可能な533ミリ七連装魚雷発射管を有し、背面には銛のような47ミリ水中用ライフルダーツ発射管、胸部にはフォノン・メーザー砲を備え、頭部には2発と弾数が限られているが、巡洋艦クラスの艦船であれば一撃で沈めることが可能な破壊力を持つ1030ミリマーク70スーパーキャビテーティング魚雷が装備されている。

 後継機種であるUMF−5ゾノの量産が開始されたことで、かつてほどの重要性はなくなったものの、それまでの対潜作戦の常識を覆し、獲物(水中移動体)と狩猟者(対潜ヘリ)の一方的な関係を逆転させた恐るべき敵であった。

 少なくとも正面から戦って簡単に勝てる相手ではない。だが更に凶報は続く。

 「くっ、敵MSがマスカーを展開!

  更に海面近くの変温層にもぐったようです。敵MSを失探(ロスト)!」

 「位置を変えろ!

  アクティブソナーの発信でこちらの位置が相手には把握できてるはずだ。ぐずぐずしていると落とされるぞ!」

 主操縦士の脳裏にザフトの水中用MS部隊を相手取った戦訓がよぎる。

 地球連合軍の洋上艦隊は大洋州連合近海のタスマン海において、ザフトの水中用MS部隊と初交戦した際、対潜水艦戦用の艦隊編成でありながら、文字通り全滅という戦史に残るであろう大敗北を喫している。

 そのタスマン海での戦闘を皮切りに、ザフト水中用MS部隊と地球連合海軍の対潜水艦戦闘部隊は幾度となく死闘を繰り広げてきたが、そのキルレシオはジンとメビウスの関係など比べ物にならないほど悪いものだった。

 そして、連合軍は未だザフトの水中用MS部隊に対する効果的な戦法を見出していない。

 それはすなわち、圧倒的に不利な戦いを挑まなくてはならないことを意味する。

 だが、逃げることはできない。彼らの背後には未だ混乱の渦中にある支援艦艇の群れがいる。忠実な牧羊犬が、守るべき羊を見捨てるようなことなどできようはずもない。

 バトルアクス編隊は、一時的に見失ったザフトの水中用MSを探して編隊を崩し、思い思いの方向に機位を遷移させていた。

 「後方から味方艦接近!」

 「なんだと!?」

 予想外の報告に機位を傾け、直接後方が見えるように遷移する。確かに後方を、混乱から抜け出したのであろうイージス艦ヒューズが、続けて同様のモーリスが海面に白波を蹴立てながら増速してくる。

 おそらく、バトルアクス編隊同様にザフトの水中用MSを探知し迎撃を試みようとしているのだろう。

 「ばかな、自殺行為だ!」

 支援艦艇を守るため自ら危険な海域に踏み込もうという心意気は買ってもいいかもしれない。しかし、敵の空襲により緊密な対潜警戒網を崩されている連合軍の一部が突出するのは自殺行為でしかない。

 眼下では2隻の艦が対潜ロケットを用いて攻撃を開始し始めている。

 主操縦士は、後退し自分たちの支援に徹するよう連絡を入れるが

 「くそ。応答がない!このままではやられるぞ」

 「艦の上層部が例の連中なのでは?」

 「おそらくな」

 吐き捨てるように応じる主操縦士。

 いわゆるまともな将兵が度重なる戦闘によって消耗し、ブルーコスモスの思想に染まった兵たちが最前線へと出てくるようになって久しい。何らかの思想や信念に染まった将兵というものはメリット、デメリット共に大きいものだが、劣勢に追い込まれている戦場では、良い面が表に出ることも少なくない。特に陸上戦闘においては、個々が自発的に踏み止まり、後ろに下がることなく、己の死を厭わぬ戦闘を行う兵士によって、戦線が全面的な崩壊を起こさずに済んでいる面が確かにあったのだから。

 だが、陸上戦闘においては蛮勇というべき行動も評価できるかもしれないが、よりロジカルな戦闘を行うべき対潜戦闘では、蛮勇は自身の処刑執行書にサインするに等しい。

 その事実は、目の前でモーリスの右舷側に高々と水柱が突き立つことで証明される。

 旧世紀、艦隊のワークホースであった駆逐艦がその装甲厚の薄さを揶揄してブリキ缶と呼ばれていたが、今の時代のワークホースであるイージス艦も、鋼材の材質こそ異なるがその装甲厚はそれほど大きな違いはない。そして、防御能力に直結する装甲の鋼材の材質が向上したように、攻撃能力に直結する炸薬の爆発力もまた向上している以上、現出する状況はかつての駆逐艦が被雷したのとほとんど変わらない。

 実際、モーリスは巨大な破口から黒煙を上げて停止しかかっている。と、被弾による火災が弾薬庫に誘爆したのか一挙に数百メートルの高さに届く巨大な炎と黒煙の交じり合った柱を吹き上げると同時に急速に海面下へと沈んでいく。まごうことなく轟沈だ。

 「くそっ!?魚雷をまともに食らったな。あれじゃ誰も助からん・・・」

 仮に脱出したものがいても、誘爆による衝撃波でばらばらになるか、内臓をぺしゃんこにされているはずだ。離れている彼らの乗機すら揺れたほどの爆発だったのだ。柔らかい人体が耐えられるはずがない。

 「敵影捕捉!」

 沈んだ艦の乗員に対して内心で瞑目していた主操縦士の耳にソナー手の報告が響く。

 咄嗟にセンサーを音響探知から赤外線探知に切替えたことで、比較的浅深度を進んでいた水中の航跡を追跡することに成功したのだ。捉えた反応は、1機のMSが残った駆逐艦ヒューズに向かっているのを示していた。

 「まずい。もう1隻もやられるぞ。魚雷投下!急げ!」

 「イエッサー!」

 バトルアクス01に最後に残った魚雷に火を入れ、敵MSの後方に投下する。海面下に没した魚雷はすぐさま目標とされたMS目指して突進する。

 今次大戦前であれば、この時点でほぼ勝負が決まったものと見なしてよかった。

 しかし、相手は魚雷の放つ音響ホーミングをキャッチすると魚雷の機動力を上回る高速機動で、やすやすと回避し、己が武装で撃破してしまう。

 海面に撃破された魚雷による水柱がそそり立つ。

 それを見て哨戒ヘリによる航空攻撃が失敗したことを見て取ったヒューズは、直ちに水中MS攻撃に有効と見なされた一部において古色蒼然と呼ばれることもある前方投射型の対潜ロケットによる爆雷攻撃を全力で実施する。

 ヒューズの艦首で連続して多数の白色の煙が膨れ上がり、そしてその中から細長い影がまぶしい光の尾を引いて飛び出していった。

 いったん高度約300mまで駆け上がった小さな破壊者達は、目標とされた海面の真上で急速に頭を下げると次々に海面へと踊りこんでいく。

 その技量はそれほど悪くない。先にもいったように、もし狙われた的が潜水艦であったならば、間違いなく爆雷の近接信管の作動範囲内に捕らえることが可能であったろう。

 だが、ザフトの水中用MSはその攻撃すらもあざ笑うかのような見事な回避機動をみせ、やすやすと対潜ロケットによる近接信管の作動範囲から逃れて見せる。

 近距離の攻撃がかわされたこの時点で、ヒューズには既に反撃の術は残されていなかった。それでも、必死の回避運動を行い近接防御システムを用いて銃撃を行うヒューズ。少なくとも強大な敵に対する闘志に不足はないようだ。だが、だからといって不利が闘志だけで不利な状況が覆るはずもなく、奮戦空しく至近距離から発射された魚雷により左舷に2本の水柱が沸き立った。

 つんのめるように行き足を止めたヒューズは急速に傾き、わらわらと乗組員が脱出する中、白い渦を描きながら海底へと引きずりこまれていく。

 「駄目だ!この数の哨戒ヘリじゃあいつらを止めることはできない!」

 味方艦がそろって海神ポセイドンの御許に招かれるのをみているしかなかった主操縦士が苦悶するようにうめく。

 だが、仮に神という存在がいるならば、その存在は彼に後悔の時間を与えなかった。

 どうやらザフトのパイロットは先ほどがうろちょろしている哨戒ヘリをわずらわしく思ったらしく、攻撃の矛先を彼らへと向けたのである。

 「き、機長!?」

 副操縦士の指差した側面の水面が沸き立ち、盛り上がった水のドームが割れると、巨大なエイまたはイカのような機体の上半身が姿を現す。間髪いれず腕が上がり、彼等の機体を指向したかと思うと白煙を引いてミサイルが飛び出した。

 「回避する!?」

 絶叫気味に緊急回避を行うことを伝えつつ、操縦桿を全力でひねるが回避するにはあまりにも余裕がなさすぎた。

 遷移しつつあった機体の後部にグーンの手から発射された炎の矢が突き刺さり、そこから発生した衝撃波が彼等の身体を粉々に打ち砕き、爆炎が吹き出た血と脳漿と内臓と筋肉、全てを焼き尽くす。

 悲鳴の欠片を上げる間もなく搭乗員全員が絶命していた。

 自らを操る存在を失い、一瞬にして高価な軍事兵器から単なるスクラップと化した対潜ヘリはそのまま南太平洋の海にまっさかさまに落ちると海面に白い波紋だけを残して、この世界より永遠に退場していった。

 グーンは、水中航行物の天敵である哨戒ヘリをあっさりと片付けたにもかかわらず、単なる障害物を除去しただけというように機体をさっさと水没させる。おそらく今のグーンにとっては哨戒ヘリを撃墜したことなど眼中にないのだろう。何しろ、通商破壊に携わったことのあるものならば涎をたらさんばかりの獲物の群れがこの海域には存在している。一刻も早く、おいしい獲物に取り付きたいという想いでいっぱいであったとしても不思議ではない。

 だが、たとえ彼らがどう考えていようとも、哨戒ヘリを一蹴し、護衛の艦艇はた容易く撃破した水中用MSのその姿は、連合軍将兵にとってまさしく海の魔物というに相応しかったろう。

 

 

 

 

 

 主導権を握られ、ザフトの圧倒的な攻勢に曝される地球連合軍。さらには、これまでひたすら防戦に努めてきたオーブ軍すら攻勢に転じ、対峙していた部隊はこれまでとは逆に後退し続ける有様。

 何も知らないものがこの状況を見れば、おそらくザフト・オーブ側の勝利を宣言したとしてもおかしくはない。

 だが、ザフトもそしてオーブ軍も、攻撃の手を休めるようなことは一切しない。地球連合軍の恐ろしさは実際に戦ったものが誰よりもよく知っている。だからこそ、徹底的に叩こうとする。

 

 オーブ攻防戦。その終盤における戦いの宴は益々燃え盛っていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 

 祝!更新期間2ヶ月!

 私にとってはまさしく快挙!

 異論はいろんな意味で受け付けません(爆)

 ただし、内容はいつものごとく亀の歩みですが(汗)

 

 それにしても戦闘シーンが続く中でそれ以外の動きをうまくストーリーの中に取り込むのは難しい。

 かろうじてそれらしい政治的な表現を埋め込むのが今回は精一杯でした。

 まあ今後も精進あるのみ、ということでどうかひとつよろしく。

 

 

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
圧倒的じゃないか、我が軍は・・・というのもそろそろ飽きたかなーと(爆)。
なんつーか、ここんとこずっとザフトのターン!ですからねぇ。
もうそろそろ話が進んでも良いんじゃないかなーと(苦笑)。

>クルーゼ
狂気は感情の暴走にあらず、理性の暴走である・・・でしたっけかね。
道徳や感情、本能、義理、世間体と言ったいくつものOSを積んで、それを適宜使い分けているのが普通の人、
その内の何か一つだけが肥大化して暴走しているのが狂人・・・そんなところでしょうか。


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