たとえばこんな聖杯戦争
ザ・タワー・オブ・○○○ー○
「来たわね綺礼」
縁石に片足をかけその膝に自分の腕で体重をかけながら、前屈みになって遠坂凛は下を見下ろした。
ビルの屋上から下方240mの路上に、黒い外衣をまとった言峰綺礼と黄金色の鎧を身につけたギルガメッシュがいる。
「逃げずに来たのね」
「当然だ。聖杯たるアインツベルンの娘をお前が連れ出したとなれば出向かざるを得まい」
夜空に浮かんだ月を背に、魔力に乗せた声を言峰に聞かせる凛。
同じようにビル風を物ともしない声が返ってきた。
「イリヤはこのビルの60階よ。欲しかったらここまで取りに来るのね」
「ふむ、サンシャイン60を指定したからにはそんなことだろうと思った」
少し考え込むようなそぶりを見せる言峰。
「エレベーターは止めたのだろう? 凛」
「当たり前よ。ルールはわかるわね」
「ああ、よくわかっている」
言峰と言い合う凛の後ろで衛宮士郎がポツリと呟いた。
「なんか遠坂の奴、ワルモンみたいだな」
「ええ、どう見ても悪の親玉です」
それに同調するセイバー。
二人の言葉を聞いてアーチャーが鼻で笑う。
「ふん、正義の味方馬鹿は黙っていろ」
士郎がムッとした顔をする。
彼が声を荒げる前に、背後の3人を凛がギロリとにらみつけ黙らせた。
「しかし良いのか凛。このルールでは君は私に勝ってくれと言っているような物だぞ」
「そんなのやってみなければわからないでしょ」
強気の態度を崩さない凛に、言峰は哀れみを交えて答えた。
「私はこのゲームを極めるためにコインを抱えて通い詰めたのだよ。サーバントとしてギルガメッシュを選んだのもその経験故にだ」
「はん、そんな昔のことを」
「いやいや、実際私は今でも教会でやっているのだよ。これでな」
得意げな声と共に、外衣の内側から一枚の板を引きずり出す綺礼。
「それは!?」
「察しの通りだ凛。ブームが去ってたたき売られてた基盤だ」
神父が恭しく目の前にかざすそれ。
「これがアーケード版『ドルア○ガの塔』だ」
凛が口の端を悔しげに噛む。
「まさか持ち歩くほど大切にするとはね」
「「いやいやいやいや」」
意外そうに、半ば悔しそうに呟く凛に、背後で男二人が首を横に振る。
聖杯戦争中だというのになんだこの会話は。
「そして、彼を召還するための触媒でもあった」
「!!」「何だって!?」「馬鹿な!!」
驚きの声を上げる凛、士郎、アーチャー。
「さすがは世界のすべてを手に入れた英雄王。私の時代より遙か昔にあのような精巧な物を持っていたとは……」
「こんな……こんな物で我は……」
感心の声を漏らすのはセイバー。
そして両手両膝を地面についてガクリとうなだれるギルガメッシュ。その姿に士郎とアーチャーは憐憫の情を禁じ得ない。
「なんてデタラメ」
凛がギリと歯を食いしばる。
「っていうか、召還できるのかよ!?」
「できたのだろうよ。現に英雄王はあそこに存在する」
あきれたようにアーチャーは下でうなだれたままの金ぴか王を指し示す。
「迷路の用意はいいか。遠坂凛」
「ふん、あんたこそコンティニュー用のコインをたんまり用意しときなさい、綺礼」
背後に両替機とジョイスティックを浮かび上がらせつつ見上げる言峰。
穴の開いた財布と真っ赤な家計簿を背後に背負い、凛が応じる。
「行くぞ、アーチャー」
ギルガメッシュの襟首をひっつかんで意気揚々と入り口に向かおうとした言峰に、凛が思い出したように付け加えた。
「ワンプレイ10万円金貨一枚だからね」
「「高ッ!!」」
期せずしてハモる士郎とアーチャー。
「問題ない、金はアーチャーがだす」
勝手にギルガメッシュの懐から虎縞の革袋を引っ張り出しつつ言峰は歩き続ける。
「それ以前に、私は1コインプレイどころか1ギルプレイを極めている」
チャリーンとコイン投入口に金貨を放り込みながら得意げに凛を見上げる言峰。
「30分後に会おう」と言い残し、黒衣の神父は金色のサーバントを引きずりながらビルの入り口へと消えた。
「勝算はあるのかね、凛」
「あいつよっぽど得意そうだったぞ」
凛に詰め寄る男2人。
「それ以前に話が見えないのですが」
首をかしげる蒼銀の騎士。
士郎とアーチャーを無視して凛はセイバーに向き直る。
「簡単な話よ。このビルの中に迷路を造ったの。鍵を見つけて次の階へ行く扉を開けなければここにはこれないのよ」
なるほどと頷くセイバー。しかしすぐに首をかしげた。
「だが、ギルガメッシュであればゲートオブバビロンで迷路など簡単に吹き飛ばすのではありませんか?」
「そ、そうだぞ遠坂」
「迷路など足止めにもならんな」
焦る士郎に皮肉気なアーチャー。
対する遠坂は涼しい顔で答えを返した。
「ああ、壁はバキュラで作ったから」
「「ゼ○ウスかよ!!」」
またしてもハモる士郎とアーチャー。
「ソ○バ○ウのザッパーを256発当てるか、途中で手に入れるマトックじゃないと壊せないから」
「よくわかりませんがギルガメッシュには簡単に壊せないと?」
「そういうこと」
凛が得意げにニンマリと笑う。
そこへアーチャーが皮肉な笑みを浮かべて告げた。
「凛、ザッパーのそれは嘘情報だぞ」
「え、マジ!?」
「ああ、ただのゼビ○スにおいて、ザッパーでは壊せないことになっている」
慌てる遠坂と、皮肉気に、心なし得意げに語るアーチャーを見ながら士郎が呟く。
「いや、どっちにしろどうでもいいし」
「まあ、次はよく調べるとして。綺礼がアーケード版を得意だってのを逆手に取ったトラップを仕掛けたからここまでこれないでしょ」
「次もあるのかよ」
勇ましい音楽が一通り鳴り響くと、ギルガメッシュと言峰が部屋の中に出現する。
「アーチャー、まずはグリーンスライムを3匹殺すのだ」
「黙れ、言峰! 我は勝手にやらせてもらうぞ!!」
背後の言峰にそう吐き捨てると、ゲートオブバビロンを開き目の前の壁を吹き飛ばそうとするギルガメッシュ。
宝具の群れが飛び出し、数瞬後には壁が崩れ去るはずだった。
すさまじい振動と騒音が消え去った後、現れたのは傷一つない元の壁。
「馬鹿な! 何だこれは!!」
英雄王は一声叫ぶと乖離剣を取り出す。
「おおおおおおおぉぉ!!」
ありったけの魔力を込められ、膨大な力を解放する回転剣。
そのエネルギーがぶつかれば、この星にあるすべての物がまっぷたつになるであろう力の奔流。
そして視界が晴れたときには、やはり傷一つない壁がそびえ立っていた。
「!!」
「なるほど、バキュラか」
「なんだそれは!?」
言峰の指し示した先に幾何学模様が描かれている。
「ゼビ語だな。ここに書いてある。これでは壊せまい」
「なぜだ!? なぜ、我のエアで――」
怒り狂う金色のサーバント。それを無視して思案する言峰。
「アーチャー、スライムだ。早くしたほうがいいぞ」
「五月蠅い! 黙れ!」
言峰に促され、荒々しく歩き出したギルガメッシュが緑色のプルプルしたゼリーの側に立った。
「なぜこんな下衆な生き物を、我が相手せねばならないのだ……」
ブツブツと呟くギルガメッシュ。
次の瞬間、大して素早くもない動きでスライムがギルガメッシュの足にピトッと触れる。
どういうわけか彼は体をひねって避けることができなかった。
どこからともなく響いてくる情けない音と共に彼の体が点滅した。
再び鳴り響く勇ましげな音楽。鳴りやむとギルガメッシュは最初の地点に現れる。
「言峰、説明しろ!!」
「お前が一回死んだということだ」
「死んだ!? 我が死んだだと!!」
「安心しろ、ゲームオーバーするまであと2回ある」
自分が死んだということにいたくプライドを傷つけられ、ギルガメッシュが猿のようにわめき散らす。一方の言峰は落ち着き払って沈思している。
「我が死んだとはどういう事だ!? こうして我はここに――」
「少し黙れアーチャー」
「黙れだと!! 我を誰だと思っている! もう我慢ならん、我は帰るぞ!!」
言峰の眉がぴくりと動き、彼は腰のベルトをゆるめシャツをまくり上げた。
そこにあったのは宴会で見られる腹芸用の顔だった。
六つに割れた腹筋の上にぱっちりとした目が二つ。それより薄くなった舌を出した口がへその下にあった。不○○のペ○ちゃんそっくりである。
「それは!」
「令呪だ」
「フン、下らん。令呪で言うことを聞かせるか」
「使ったのは10年前だから、令呪の縛りを忘れたか」
言峰が指を鳴らす。
「私に逆らったら“泰山”の麻婆を5杯食べること。最初に会った日に令呪で命じたはずだ」
「や……やめろぉぉぉ!!」
「よう、今日の飯は何なんだよ?」
「今夜は鰤大根だな」
「なら辛口のポン酒も出してくれよ」
テレビを見ながら居間でくつろぐランサー。
こたつで一心不乱にミカンを剥いていたセイバーが険しい顔を上げる。
「ランサー、あなたがなぜここに寝泊まりするのです」
「何言ってやがる。そこの嬢ちゃんがうちのマスターをビルに縛り付けてるせいで、何もすることがねぇんだよ」
「だからといって――」
「いいじゃないかセイバー、食事は大勢いた方が楽しいし」
熱燗をランサーの前に置きながら士郎がセイバーをなだめる。
その向こうでは銀行通帳をながめながら凛がニヤニヤとしていた。
「いいわ、綺礼。どんどんコンティニューしてちょうだい」
○階。
「見えぬ! メイジゴーストが見えぬ!」
「やはり経験の少ないアーチャーにはキャンドルが必須か。罰として“泰山”の麻婆3杯だアーチャー」
○階。
「真っ暗ではないか! 何とかしろ言峰!」
「貴様がブックオブライトを取ろうとしなかったのが悪い。やはり“泰山”行きだな」
○階。
「グハァッ!?」
「やけに簡単に宝箱が出るはずだ。毒薬とは。“泰山”に行って――」
ピンポーン。
10日後、衛宮邸の呼び鈴を鳴らす小さな姿があった。
「これがギルガメッシュ!?」
「先日はお兄さんにいろいろご迷惑おかけしました」
驚愕の声を上げる士郎の前で、深々と頭を下げる金髪の少年。
奥からランサーが現れる。
「お、来たのか」
「あ、ランサーさん」
「ランサー、本当にこの子が!?」
「ああ、そうだぜ。ずっとこのなりだったら可愛げもあるんだがな」
ランサーの後からアーチャーが顔を出す。
「それでこいつは何をしに来たのだ?」
「えっとぉ……」
「古本屋?」
「はい。マスターは攻略本を買いに古本屋へ」
「フフフ、何が“30分後に”よ」
勝ち誇り呟く凛へあきれたような視線を向けるアーチャー。
「最初から分かっていたのだろう、凛」
「当然!」
グッと拳を握る凛。
「ていうか、攻略本なんてまだあるのか?」
「ナムコクラシックのならまだあるのではないか?」
「甘いわね」
士郎とアーチャーが振り返ると、凛が仁王立ちしていた。
「あたしがモデルにしたのはファミコンのアナザー・ドルア○ガの塔! 通称“裏ドル○ーガ”よ!」
「「今時ファミコンかよ!」」
「あれのせいで、夜も寝られず何日徹夜したことか」
「しかも最近になってプレイか!?」
「というか同じゲームにはまってるあたり、やっぱり兄弟弟子ってことかよ」
「それで結局、子ギルは何しに来たんだ?」
「マスターのせいで……」
「まともな食事ができねぇってんでな、ここに来たらうまい飯が食えるぞって言ったんだよ」
ランサーが子ギルの肩に手を回してバンバンと叩く。
「うちはただ飯屋じゃないんだぞ」
「ああ、すみません。お代はランサーさんの分もちゃんと払いますから」
そのセリフを聞いたとたん、凛が子ギルの両手を握りしめる。
「好きなだけ居てちょうだい。あなたのおなかと私の懐が一杯になるまで」
「おい遠坂!」「リン、何を言っているのです!?」
ウットリとした顔の凛に、正義の味方コンビの声は聞こえていない。
「じゃあ、お言葉に甘えて。お姉さんにも迷惑かけましたし少し多めにお金出しますから」
「まあ、ありがとう」
優雅な笑みを浮かべる凛。今更ながら猫かぶりモードだ。
「今日は急に人数が増えたから、こんな物しか出せんが」
そこへ台所からお盆を抱えたアーチャーが現れる。
トンと子ギルの前に暖かそうな湯気をたてる丼が置かれた。
柔らかそうな白い物体にトロリとした餡がかけられている。
その餡は少し赤身がかかっていた。
「麻婆丼だ」
「うわああああぁぁぁぁぁぁーーん」
ザ・タワー・オブ・麻婆ドーフ − 終わり
きっかけは、単に「ドルアーガの塔」の主人公がギルガメッシュだっただけだから。
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
爆笑。
それで奴の鎧は金色だったのかw
しかし最後のところ、ハーリーダッシュしてるようにしか思えん(爆)>子ぎる
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