〈しかし困りましたね……完全に取り残されてしまいました〉

「むう……」

 ゼンガーは今の所ザフトの撃退に成功し、状況には若干の余裕があった。
 しかし当初にして最大の目的、ソフィア博士の救出に関しては全く持って進展が無かったのだ。
 ザフト軍によるヘリオポリス潜入の際、ゼンガーはモルゲンレーテ工場の外部に居た為、ザフト兵が行った破壊工作に巻き込まれずに済んだ。
 そして鍛錬で使用していたカタナ片手に格納庫に戻ると……あの戦闘に巻き込まれたわけだ。

〈ざっと検索しただけでも酷い状況です。特に軍関係の施設は、もう……〉
 
「中立という立地が慢心を呼んだか……無様なっ」

 しかし今は死んだ人間の事は考えられなかった。
 彼らの無念は怒りとして胸に秘め、今助けを求める人々を守る力としなければならないのだ。

〈何とか地下の研究フロアまで辿り着けたのですが……通路が崩れて閉じ込められています〉

「クッ、矢張り伍式のオプションにはドリルをつけるべきだったか……」


〈螺旋衝角はバッテリーを使い過ぎますから……モビルスーツの武装としてはちょっと問題が〉

「……それ以前にあいつが目を付けて伍式を黒に染めかねないか、失礼しました」

「ふふ……いいえ」


 必死なのが解るだけに、ソフィアはゼンガーの無茶な発想に只苦笑していた。


“パン”


 和やかさすら感じられた二人の空気を、一発の銃声がかき消した。


〈?! ゼンガー少佐?〉


「申し訳無い、ネート博士……貴女の救助は少し先になりそうです」

〈ええ、待っています〉

 何事かとコクピットから下を覗いた瞬間、ゼンガーは表情を強張らせる。
 先程まで逃げ送れた子供達に頼んで、負傷していたマリュー=ラミアス大尉の手当てをしてもらっていた筈だった。
 それがどうだ。今はマリューが子供達に銃を向けていたのだ。

「なっ、何をするんです!!」

「これは軍の最高機密よ。民間人が無闇に触れていいもので」


「民間人に無闇に銃を向けてどうするっ!!」

“バッ!!”

 断固とした口調でそう言うと、ゼンガーは伍式のコクピットから飛び出した。
 ……ちなみに伍式事X-105の全高は約18メートル。コクピットから地面までは10メートル以上ある。
 普通の人間ならこんな高さから飛び降りればタダではすまないはずだが、ゼンガーは何事も無く地面に着地した。
 そのダイナミックな行動に、緊張していた子供達からも思わず歓声が。


「しょ少佐、ですが!」

「成すべき事を違えるな! 俺達が今すべき事は彼らを守り抜く事……そうではないか?」

「そ、それは……申し訳ありませんでした」

「俺ではなく彼らに詫びろ……すまなかったな」


 ゼンガーと共に頭を下げるマリューの姿に、子供達は当惑していた。

「あ……いや、俺らも不注意でした……すいません」

「じゃ、じゃあ私達避難します。さっきは助けてくれてありがとうございました……」

「待て」
 

 まだ何かあるのかと言う風に、子供達は押し黙ってしまう。
 

「……ここいら一体は既に焼け野原だ。使用可能なシェルターまでは何キロもあるぞ」

「ええっ、そんなあ……」


 案の定不平不満を漏らし始める子供達だったが、ゼンガーはそのまま言わせておいた。
 連合の無策でこんな目に遭ったのだ。文句の一つも垂れたくなるだろうと。


「済まんが一時的にこちらの保護下に入ってはくれないか。俺はお前達を再びさ迷い歩かせる訳にはいかない」

「で、でももうザフトは行ったんじゃ……」

「いや……奴らは必ずこちらに来る」

 
「そりゃ同感っすね」

 いきなり会話に割り込んできた声の方に皆顔が向く。
 そこには連合のパイロットスーツ姿の長身の男が、ともすれば軽薄にすら見える笑みを浮かべ立っていた。


「ムウ=ラ=フラガ大尉であります、ゼンガー少佐……同じアーマー乗りとしてお会い出来て光栄です」 

「君は……“鷹”か! そうか、あのメビウス・ゼロは君が……この機体の使い手はもう廃れたかと思っていたぞ」

 と、コロニーの斜面に不時着しているオレンジ色の宇宙戦闘機を眺め、ゼンガーが言う。
 メビウス・ゼロとは、地球連合軍の主力宇宙戦闘機"メビウス”のプロトタイプ。
 流線型で軽いボディ故の高い加速性能、ガンバレルと呼ばれる有線式遠隔砲台を搭載する事で高い制圧能力を有している反面、操作が煩雑過ぎて使える者は殆ど居なかった。
 数少ない例外がここにいいる“エンディミオンの鷹”事フラガ大尉、そしてゼンガーを始めとした“教導隊”のメンバーだった。
 教導隊は宇宙戦闘機を始めとしたMA(モビルアーマー)の戦技研究・構築の為に、軍部から選りすぐりの人材を集めて結成された部隊だった。
 彼らが作り上げた戦術は後のMA運用に大きな影響を及ぼしたが、隊長を始めとした多くの隊員が行方不明となってしまい、現在では解散している。


「コダワル男はいるもんですよ、少佐。それよりどうしますこれから? 俺の乗ってた偽装船は沈んじまったし、護衛のヒヨッコも全滅してます。アークエンジェルが健在とは言えこの状況は厳し……って何処いくんですか少佐?!」


 説明を続けていたフラガの横を素通りし、ゼンガーは伍式に再び搭乗しようとしていたのだ。
 上空に現われた真っ白い戦艦に対しても、ゼンガーはさほど興味を引かないようだった。
 アークエンジェルはXナンバーの運用母艦として同時開発されていた強襲機動特装艦で、陽電子砲や225センチ収束火線砲等今までの連合艦艇を遥かに上回る火力を有し、熱量を外部に分散させる事でダメージを抑える“ラミネート装甲”、融助剤ジェルによる単独での大気圏突入すら果たす。
 正に万能戦艦であったが、それだけに中立コロニーという場所では違和感がある存在であった。


「俺にあの船の事は解らん……ラミアス大尉、やってくれるか?」

「わ、私?!」

「俺は他人の事を気にしてまで戦う余裕が無い。それに、伍式の乗り手は今の所俺だけだ」


 ハッチが閉じると同時に伍式のツインアイが光り、位相転移装甲を停止させたままモルゲンレーテ工場跡へと向かっていった。


「ラミアス大尉! ご無事で……」


 いきなりの事で頭が鈍くなっていたマリューだったが、後から軍用車両で駆けつけてきたナタル=バジルール少尉に呼ばれた事で正気に戻った。
 予定ではナタルを始めとした数人の将校でアークエンジェルを運用する筈だったが、先のザフト襲撃で生き残った士官は彼女とマリュー、そしてフラガとゼンガーのみになっている。
 元々副長として配属予定だったマリューに、ナタルは指示を求めてきたのだ。


「貴女達こそよくアークエンジェルを……」


 それからのマリューの立ち直りは早く、すぐさま伍式の予備パーツの収容とメビウス・ゼロの回収を命じ、ザフトの再襲来に備え戦闘配備などを整えさせていった。
 何かをやっていたほうが、彼女らにとっては落ち着けたのだ。


「……さて俺はゼロも動けない事だし子守りとするか。ねえお嬢ちゃん名前何て言うのかな?」
 

 学生とおぼしき一団の中、たった一人だけ子供がいた。
 明らかに年齢がかけ離れているのだ。誰かの妹かと思えばそうではなく、途中で見つけて保護したらしい。
 ぼーっとした表情のまま、栗色の大きな瞳で歩み続ける伍式を眺め続けている少女。
 透き通りそうに白い肌と水々しい金髪のお陰で、随分とその姿が際立つ。
 

「何か……戦闘のショックで記憶が混乱してるみたいで……」

「可哀想だよな……ザフトの連中本当無茶苦茶だよ」

 言い様の無い憤りを感じている学生達だったが、フラガは複雑な表情をしていた。
 “無茶苦茶な事”は、地球連合だってやったのだ、と。

「……イルイ」

「ん?」

「私……イルイ」

 ようやくそれだけ言うと、イルイは再び伍式の後姿に見入っていた。
 まるで網膜に、その姿を焼きつけるかの様に。


 
〈被弾した。帰還する!〉

〈クルーゼ隊長が……?!〉

 ククルは機体を失ったミゲルと共に、母艦であるヴェサリウスへと帰還途中だった。
 他の潜入メンバーは順調に任務を達成したようで、ジンに混じって見慣れない機体……105と303以外のXナンバーがヘリオポリスから離脱していくのをククルは見つめていた。


「……ここからはお前一人で行け。私は戻る」

〈どうするつもりだ?〉

「やられっぱなしだと、イザークが五月蝿く言うだろうからな」


 今頃Xナンバーを手にしたであろう仲間を引き合いに出し、ククルはミゲルを別のジンに回収を頼みヘリオポリスへと転進した。
 今までは核兵器を封じられ、旧世代の戦艦とMAを主力とする連合軍などに、ククルは遅れを取らなかった。
 それは最早作業とも言える退屈な戦いばかりだった。
 しかしそれが大きく崩れた事をククルは感じていたのだ。
 ……あのMS、そしてパイロット。あれこそがナチュラルの真の実力に他ならないと。
 無力な相手など退屈でしか無いが、コーディネーターと真っ向勝負が出来る存在はククルにとって魅力であり……ザフトには脅威となる。
 脅威の芽は早めに摘むに越した事は無い……と、ククルは自らの、故郷を滅ぼされた怒りに裏づけされた闘争心に理由付けをした。
 



 そのころゼンガーは、伍式を操作しモルゲンレーテ工場の瓦礫を排除して、どうにかソフィアを救助しようと悪戦苦闘していた。
 しかしその作業も、シグーと入れ違いのようにして現われたジンの編隊によって中断を余儀なくされた。
 


「D装備だと……! 正気か?!」


 D装備はジンの攻撃オプションとしては最大級の破壊力を有する、大小様々なミサイルを積載し、重粒子砲まで背負っている要塞攻略装備だ。
 まかり間違ってもコロニー内部で、しかも中立コロニーで使って良い代物ではない。
 そしてそう易々と装備できるものでもないのだ……指揮官があらかじめ、D装備の使用を許可していたとしか考えられない。
 その非道とも取れる戦法に、ゼンガーは激しい嫌悪感を覚えた。
 伍式はおもむろに対艦刀を掴み、立ち上がった。
 人を人と思わぬ外道に鉄槌を下す為に。だが……。
  

〈はぁ!〉

“ガッ!!!”
 

 突如空中から矢の如き速さでMSが舞い降りたのだ。
 全推力をぶつけたその蹴りに、思わず伍式はよろめく。

〈はぁ! はぁぁぁぁぁっ!〉

“ガガガガガガガガ!!!”

 そこに間髪居れず迅速の蹴りを見舞っていくMS。
 マシンとは思えぬ柔軟さで、次々と脚を繰り出す。
 複雑な機体構造と、OSを限界まで酷使して初めて実現した動作だ。  

〈は! た! はっ! た! 舞え、マガルガ! 比女の舞を!〉

“ザザッ!”

 余りのスピードに激しく土埃が舞ったが、伍式はその蹴りを全て受けきった。
 位相転移装甲を起動させぬままである。

「先の303のパイロットか!!」

 厄介な相手を前にゼンガーはうめく。
 ……実は位相転移装甲を展開しなかったのは、単に不可能だったからである。
 MSは基本的にバッテリー駆動である。
 ニュートロンジャマーは核分裂を阻害する為、地球上のみならず宇宙でも核機関・核兵器は封じられている。
 その為動力はザフト、地球連合問わず全てバッテリーから得るしかなかったのだ。
 位相転移装甲は実弾兵器には極めて強いが、電力消費量が激しいと言う欠点がある。  
 バッテリーが無くなれば機体の稼動が不可能となり、それを防ぐ為に電力が一定まで低下すると位相転移装甲は自動的に“落ちる”。

〈我が名はククル! 黄泉の巫女!! ゼンガー=ゾンボルトとやら……我が舞で黄泉比良坂へ送ってやろうぞ!〉 
 
「断るっ!!」

“ガキン”

 対艦刀の刃を立てて伍式が構える。
 対艦刀は本来収束ビーム刀だが、先端部は通常の実体刃となっており、フレームも相当な衝撃に耐えられるよう設計されている。
 只でさえ少ない電力を対艦刀に回さずとも、まだゼンガーは闘えるのだ。

〈私の舞を見た者には死、あるのみ!〉

 ククルの303、もといマガルガはしなやかな動きで伍式に迫る。
 X−303は他のXナンバーとは全く異なるフレームを使用している。
 一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)能力を追求した結果、推進ユニットを同一方向に向け、四肢を前部に突き出し抵抗を軽減するMA形態への可変を可能としたのだ。
 人間で言えばヨガ並の複雑な可変機構を有しているのだが、それは同時に303の広い関節可動範囲を物語っていた。
 そしてそれは、メインアームのみならず脚部までも使用した格闘戦を得意とするククルにとって有利に働いていた。

「俺は死なん! 貴様らを全て……地獄に送るまでは!!」

 唸りを上げて対艦刀が振りかぶられ、激しくマガルガとぶつかり合う。
 マガルガは位相転移装甲を展開しているが、対艦刀の衝撃力は位相転移装甲が無効化できるレベルを遥かに超えている。
 ゼンガーの躊躇いの無い操縦……本来あるべき安全基準を全く無視した結果だ。
 他人の事を気には出来ないと言うのはこう言う事だ。機体の性能を限界まで引き上げようとする為、当然パイロットへの衝撃・反動も大きくなる。自分の行動なら自分で何とかできるが、他人はまずついてはいけない。
 教導隊時代もそういった理由で、複座の機体にはそれほど関わらなかった。
 ……しかし実際搭乗すると、教導隊の面々だけは涼しい顔で、ゼンガーの動きに付いていく事が出来ていたりするが。
 

〈243721人の同胞を冥府に送って……まだ足りぬか!〉

「数十億の人間に地獄を見せているのは誰だっ!!」

 互いを罵りあい激しくぶつかる二機のMS。
 マガルガの脚が伍式の装甲を引き裂き、伍式の鉄拳がマガルガの肩部を激しくうち付ける。
 機体状態がほぼ完璧なマガルガに伍式が渡り合っているのは、腕の差によるものが大きい。
 ククルは今しがたこの機体を手に入れたばかりなのに対し、ゼンガーはククルが来るよりずっと前から、この機体と共にあった。
 敬愛する人物と共に、全てをこのX−105改め伍式につぎ込んだのだ。
 それで負ける筈が無いと、ゼンガーも自負していた。

〈……まあいい。今は只、眼界に映る敵を屠るまでだ!〉

「望む所だ!! 遠慮はいらん!全力でかかって来るのだ!!」

〈遠慮などしてはおらぬっ!!〉


 だがそこに、思いもよらぬ出来事が彼らを襲った。

“ゴォォォォォォォォオ!!”

「?!」

〈ま、まさか!〉

“ドォォォォォォォォォォッツ!!”


 宙をのたうつ巨大な物体の音は、あっという間に目の前まで迫り、彼らの周囲の全てをめくれ上がらせ、建物を地面もろとも砕いていった。



 ……ヘリオポリスのような工業コロニーは、資源採掘用小惑星を土台にして円柱が立っているような構造になっている。
 その円柱は巨大なセンターシャフトから伸びる何本ものアキシャルシャフトによって支えられ、コロニー自体の遠心力で外壁が吹き飛ぶのを防いでいる。
 今彼らの目前を横切ったのは、その一本だったのだ。
 彼らの上空ではヘリオポリス脱出を目指すアークエンジェルと、それを阻止すべくジンが激しい攻防戦を繰り広げている。
 コロニーの損傷を気にして、自慢の大火力が使えないアークエンジェルだったが、ジンは容赦無く対艦ミサイルを叩き込んでいく。
 それを戦艦としては驚異的な運動性能でかわすアークエンジェルだったが、そのミサイルはそのままシャフトへ突き刺さり大爆発を引き起こした。
 その破壊力でアキシャルシャフトが焼き切れたのだ。

「クルーゼめっ! これほどまでに派手にやればコロニーは……!!」

 ククルは確かに地球連合に対し激しい敵愾心は持っている。
 しかしナチュラル自体に、何の罪も犯していない中立の人間にまでその矛先は向けては居ないのだ。
 武器を持って立ち上がった者、軍人は幾ら殺しても構わないと考えてはいるが、抵抗する意志亡き者、民間人に対するこれほどまで大規模な攻撃は賛成できなかった。


〈ソフィアっ!!〉

 唖然となるククルの前で、ゼンガーが信じられない行動に出た。
 瓦礫しか無いであろうモルゲンレーテ工場に、伍式もろとも突っ込んでいったのだ。正気の沙汰ではない。
 

〈お、俺は……俺はっ!! これほどまでの力を得ながら、ソフィア一人救えないのか?! これが俺に科せられた……!!〉

“ズゥゥゥゥゥゥン……”


「ゼンガーっ!!」


 再びアキシャルシャフトが近くに燃え落ち、ククルはその場に止まる事が出来なかった。


「ゼンガ……」

〈ククル! 無理矢理付いてきただけあって、根性を見せてくれたな!!〉

 空中に退避したマガルガに、戻って予備機で出撃していたミゲルが声を掛けてきた。
 しかし喜びは感じ無い。達成感も無い……かといって今までの様な怠惰感も無い。
 ……あるのは底知れぬ空虚感だけ。
 

「このような場所で命を刻み込みむとは……ゼンガー、お前は私が黄泉路へ導いてやりたかった」

 今までなら、例え味方がやられようとそれを引きずる事はしなかった。
 すぐさまミゲルと共に、アークエンジェル撃破を目指したはずだった。
 だが何故か、その時のククルにはそれができなかった……。

“バシュ!”

 その時だった。
 黒煙の中から真紅の鉤爪が飛び出し、アークエンジェルを包囲していたジンを一機掴んだのは。

「なにっ?!」


 ジンは成す術も無く引きずり込まれていき……爆発音と共に二度と戻ってこなかった。

〈トロールっ!!〉
 

 慌ててミゲルが腕部の対艦ミサイルを、四発全て撃ち込んだ。
 爆炎が一層広がるが、着弾点だけは徐々に黒煙が晴れていった……。

「!!」


 そこにいた意外な存在に、ククルは思わず声を上げていた。
 炎に照らされ一層赤く彩られる装甲。
 左腕を中心に装備されたアンシンメトリーな増加装甲。
 そして背部に背負われた巨大な……刀。
 そう、伍式である。
 モルゲンレーテ内に唯一残っていたストライカーパック「ソード」を装備し、その瞳を不気味に発光させていた。


“ゴオッ!!”


 背部スラスターが点火され、伍式は空へと舞い上がった。
 それに気が付いた別のジンが、仲間の敵とミサイルを撃ち込んで来るが……。

“ブンッ”

“ドドドドドド!” 
  

 対艦刀の一振りで全て薙ぎ払われ、伍式は何事も無かったかのように突き進む、そして……。

“断!” 
 

 振り下ろされた対艦刀が、ジンをパイロットごと一刀両断した。
 左右に別れ、それぞれが別に爆発するその光景に、ククルは背筋が凍った。

「何!? あやつの対艦刀は、八束(やつか)の剣とでもいうのか!?」
 

 格闘武器として、ジンにも重斬刀が存在するが、それは重さで叩くものであり切れ味は鈍い。
 このマガルガを含めたXナンバーに装備された収束ビームサーベルも、どちらかといえば焼き切るものである。
 だが先の伍式は対艦刀のビームを発生させず、実体刃のみでジンを両断した。
 限りなく垂直に刃を振らなければ不可能な事だ。コーディネーターでも困難な一撃を、目の前の伍式……そしてゼンガー=ゾンボルトはやってのけた。

〈くそぉぉぉぉっ!!〉

 同時に突入した全てのジンがやられ、ミゲルは怒りに任せて突っ込んでいく。
 ククルが止める間も無く、だ。
 残った脚部ミサイルで伍式を足止めし、背負っていた重粒子砲を至近距離で叩き込もうとした。
 しかし……。

〈お前にこの伍式を止めることは……出来ん!!〉

 ミサイルを避けようともせず、伍式は突っ込んでいったのだ。
 肩や胸に相当数が掠ったが、位相転移装甲の前に殆ど無力化されている。 

〈なにぃ!?〉
   

 愕然となるミゲルには、収束ビームが残像を描く程のスピードの太刀を、見切れなかった。

〈必殺!対艦刀一文字斬り!!〉 

“斬!!” 

〈うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!〉

 今度の振りはジンを上下に引き裂き、相当な距離を落ちてから爆発した。

「ゼンガァぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」

 一刀の元に斬り捨てられてしまったミゲルに、ククルはしばし呆然となった。
 しかし驚きが醒め、懸念が確信へと変わった瞬間、ククルは怒りに顔を歪ませた。
 相手は恐るべき実力を持っているのだ……自らの退屈しのぎ程度ではなく、本気でコーディネーターを滅ぼせる程の。
 それとほぼ同時だった。
 アキシャルシャフトの多数喪失、センターシャフトへの損害増加によって、遂にコロニーが崩壊を始めたのは。
 シャフトがねじ切られ、その支えを失った外壁が次々と亀裂を走らせ、分解していく。
 空気の流出による乱気流の中、ククルらは対峙したままだ。

〈ヘリオポリスの……中立の……戦う術を持たぬ者へのこの仕打ち!! 貴様らの命で償ってもらうぞ!!!〉

「何をぉ!! 我らから全てを奪っておいて……よくも、よくもぉ!!!」

 双方共そのまま斬りかからんとスラスターを吹かす。
 しかし気流が真空の暗闇へと双方を、瓦礫や土砂といった流出物もろとも吸い出していった……。

 

 

 

 

代理人の感想

さすがに濃いなぁ(笑)。

しかしイルイまで出して・・・・この後どうするつもりですか、ノバさん?(爆)