「あー……こんなに……」


 サイの嘆声が、灰塵と化したタッシルの街に響いた。
 瓦礫と化した家を、スコップ他で掘り返し、無事な本や置物等を見つけては、これ以上壊さないようそっと掘り出していく。
 背後に控えているフレイが不満げな表情でそれをかき集め、纏めていく。
 軍に入って正式に通達されたまともな仕事が、戦地復興の名の元の後片付けなのだから、不本意なのだろう。
 だがマリューとやり取りをしているゼンガーの姿を見た途端、倍の速度で手が動いたりする。


「皆疲れているのに……よかったんでしょうか?」

「艦内に閉じこもっている方が、よっぽど精神衛生上まずい。過酷な環境だが、何か得られる物があるはずだ」


 ゼンガーは修練の目的で彼らを外に出したのではなかった。
 技能面はともかく、身体的にどれほど出来るのか確かめる必要があったのだ。


「サイ君とミリアリアさんは、それなりの体力を持っているようですが、カズイ君が……」


 今にも倒れそうな表情で作業を続けているカズイを横目で見つつ、マリューは続けた。


「後フレイさんとトール君……彼女らは意外でしたね」

「ああ。二人共あれで中々粘りがある。それに……」


 朝日の直撃を受けていた彼らの頭上が、急に暗くなる。
 のっそりとした動きで瓦礫をまとめてどかしていく、伍式の影に入ったのだ。


「トール=ケーニヒには面白い才能がある。俺ですら苦戦した伍式を短時間であそこまで扱うとはな」

「思い出しますね。私達も最初は転倒を繰り返し、機体も身体も傷だらけになりました。私もベルトを締めていたせいで胸元が痛くて……」
 


 意識せずに胸に手を当てるマリュー。ゼンガーに下心が無い事が、解りきっているからこその行為である。
 ……そして彼が、想いを寄せる人物はたった一人しか“居なかった”事を、マリューは理解している。


“ビシッ”


「うわやべえあんな所でポイントを……うわっと!」

「邪魔してないで手伝ってよ!」


 そんな様子を多少誤解して見ていた人物が、焼け残った柱にヒビを入れてしまったりするが、今は只フレイの怒りを買うだけだった。
 ……只でさえフレイは苛立っているのだ。
 ぎこちないながらも、ゼンガー以外の人間によって動く伍式を見て……。





「……」

「どうした? やっぱり傷が痛むのか?」

「ううん、平気さ」


 ジープから降りたキラは、先に飛び出していたカガリに対しぎこちない笑顔で答える。
 先日迷彩バクゥを破壊され、自身も少なからず傷を負ったにも関わらず、キラは何故か元気だった。
 アークエンジェルの医師曰く、常人なら一週間は寝込む筈だと言うのに……。


「本当か? ならいいんだけどさ……」


 むくれた顔でカガリは答えるが、その表情には後ろめたさがある。
 自分達の軽率な行動でこうなったのだ。ゼンガーの叱咤もあり、責任を感じるようにはなっていた。


「大丈夫さ……僕は、君を守らないといけないから」


 市場が開かれているここ、バナディーアは砂漠の虎の駐屯地だ。
 彼らにとっては敵地の真っ只中だが、タッシルを焼かれ武器弾薬食料その他諸々を灰にされた以上、形振り構ってはいられなかった。
 サイーブはナタルやトノムラと共に“通常の店舗では扱えない物”、つまりアークエンジェルの消耗機材を揃えに。
 そしてカガリは日用品を調達する為、キラを護衛として連れていた。


「護衛だしな。それなりに頼りにしてるよ」


 軽い調子で雑踏の中へと入っていくカガリだったが、キラの目は真剣だった。
 実は数刻前まで、キラはとても動ける状態では無かった。
 肉体的には問題は無かったが、精神的にかなり参っていたのだ。
 キラは今まで、これほどまでの負けを経験した事が無かった。
 遊びで多少負けた事はあっても、肝心な時には必ず勝っていた。
 そういう場面では“遠慮”が必要無いからだ。自らが場に溶け込む為の。
 ……だがこの場所では、そもそも遠慮等無用だった。
 全力を出せば出すほど、周囲は褒め称えてくれる。恐れ離れていくなどあり得ない。
 だから先日来の戦闘でも、キラは仲間達と共に勇んで出て……彼だけが戻った。
 ジャアフル、アヒド、そしてアフメド……彼らには家族だっていたし、待っててくれる人だって居たのだ。
 それをむざむざ殺してしまった……何も出来ないまま、一方的に。
 ……自分が全力を出せなかったから。必死でやっても結果が出なかったから。
 だからゼンガーを羨んだ。
 全力を出し切れるMS(よろい)を駆り、その全力をもって勝利を得る事が出来る彼を。
 


『……お前さ、一体何の為に戦ってるんだ?』


 そんな気持ちで伍式を見上げていたキラに、問いかけをして来た人物が居た。
 トールだ。しかも地球連合軍が採用しているパイロットスーツを着用して。


『……トールには解らないよ、きっと』


『実は自分でも解ってないんじゃないか? お前』


 戦場を知らないトールに対し、突き放すような言葉を言ったつもりだったキラ。
 だが見事に返され、はっとなる。


『俺らだって遊びでブリッジ入ってるんじゃないんだ……それに加え俺は、これだもんな』


 レジスタンスのメンバーに劣らない、引き締まった表情で伍式を見上げるトール。


『こないだシミュレーターで適性試験受けてさ、一番点数良かったんでね。今は少佐の使わない間……警戒態勢以外でしか動かせないけど』

『動かすって、このMSを?!』

『色々手が居るのに、四六時中少佐に動かしてもらう訳にもいかないだろ? ブルドーザー代わり程度なら、俺だって』


 視線をキラに戻すと、トールは微笑を浮かべつつ続けた。


『俺さ、ヘリオポリスで知り合った女の子が居るんだ。でも浮気じゃないぞ? ミリアリアよりもずっと小さい……イルイって子なんだ。逃げてる途中でたまたま見つけて、一緒になって逃げ回っていたけど……悔しかったな』

『悔しい?』

『今にも泣き出しそうな顔して、俺の手をぎゅっと握ってるのに、俺は一緒になって走り回る事しか出来ないんだぜ?』


 力の篭った言葉でトールは続ける。


『イルイがオーブに帰る時だってそうだった。シャトルが被弾して突入角が狂った時は、ミリアリアと一緒にブリッジで祈る事しか出来なかった』

『……』

『結局、ヘリオポリスで窮地を救ってくれたのも、シャトルの軌道を元に戻したのも少佐だった……嫌だったな、自分が。何もできない事が解りきっていて、それを受け入れる事しか出来ない自分が』

『トール……』

『だから俺はできない事を減らす事にした。そうすれば何時か、自分の手であの子に笑顔をあげれるかな……って』
 


 トールの言葉を受け、キラも自分が嫌になって来た。
 今まで自分が戦って来た理由は何だったのか?
 ザフトの様な大義名分に拠るものでもなく、カガリ達の様な決意も無い……根底にあるものは、自己保身だけでは無いのか?
 そう嫌悪感に苛まれていると、トールが笑って呼びかける。


『いやサイの話聞いてるとお前、戦う為に守ってる様な気がして不安でさ』

『!!』


 キラは思わず呻いた。
 認めたく無いが、戦闘中言い様の無い高揚感に襲われた事もあったが、それは仲間との連帯感から来るものとばかり思っていた。
 ……だが実際は何の事は無い。単なる自己陶酔でしか無かった。
 他の皆が抱える戦意の拠り所を、自分の中で誤魔化し再現する為の。


『守る為に戦うんだ、俺達は。お前だってそういうの居るだろ?』

『な?! どうしてそこでカガリが?!』

『フッ、誰もあの子とは言ってないだろー? 正直な所何処まで行ったんだよ、素直に吐けキラ!』

『や、止めろよー?!』


 急に素に戻ったトールにたじたじになったキラだったが、直にトールが伍式共々呼び出されたお陰で難は逃れた。
 ……そして同時に、キラも山を越える事が出来たのだ。
 このまま戦っても、何も守れなかった。自分の命さえも……。


「そう……今度は、守らないと……」


 何の為に戦うのか。何を守る為に戦うのか……キラはようやく、おぼろげながら答えを見付け出そうとしていた。
 



  

  


「何ですって?! キラ君とカガリさんが戻らない?!」


 それから四時間。
 予定の時間になってもキラ達は合流しなかった。
 流石にこの頃には作業を一端中断し、マリューらも通常の待機状態に戻っていた。


〈ああ。時間を過ぎても現われない。サイーブ達はそちらに戻ったか?〉

「いいえ、まだよ」

〈市街では“ブルーコスモス”のテロもあったようだ〉


 キサカの口調にも不安が滲み出る。
 ブルーコスモスは自然主義を掲げるロビー組織である。
 “人類よ、自然に還れ”をテーマに、自然の摂理に反すると言う理由で徹底的にコーディネーターへの弾圧を行っている。
 連合政府にも大きな発言力を持つに至った政治団体だが、一方で過激なテロリズムに走るグループも存在する。
 と言うより、ジョージ=グレンの死を皮切りに次々に起こったコーディネーター殺傷事件には、必ずこの組織が噛んでいると噂されている程だ。
 


〈電波状況が悪くて、こちらからは彼らと連絡が取れん。何か探ろうにも人手が足らん〉

「パル伍長! バジルール中尉を呼び出して」

〈そちらで呼び出せたら何人か街に戻るように言ってくれ〉


 通信が切れ、慌しくなったブリッジの中で、ポツリとチャンドラが呟いた。


「どうせ遊び過ぎて、時間忘れちまっただけだよ。みんなが大騒ぎしてるうちに、ひょっこり現われるさ」


 だがそれは楽観ではない。
 そうであって欲しいと言う、願望が込められていた。
 そういった不安を増幅させるかのように、サイの顔色は優れなかった。


「言葉をかけるチャンスがあったのに……俺は……!」

「大丈夫よ……トールがちゃんと言ったって」


〈おいそっちに坊主はいるか?!〉


 その時、格納庫のマードックからすっとんきょうな声が響いた。
 マードックは時より異様に固有名詞を省いた言い回しをする事が有るが、ここではトールの事を指していた。


「いますけど?」


 本人がそ知らぬ顔で答えるが、マードックの顔は怒りに満ちている。


〈じゃあ誰が伍式を動かしてるんだよ!!〉


 これを聞いてブリッジ一同は大いに慌て、サイが咄嗟に正面モニターに格納庫を映し出した。
 そこにはギクシャクした動きでよろりと足を動かす伍式の姿と、整備員達が必死で叫んでいるにも関わらず、進路上で立ち続けるゼンガーの姿があった。


「一体どうなってるの?! 少佐じゃないとしたら誰が!」

〈そういやさっき嬢ちゃんの姿を見たような……〉

「……フレイ!!」


 サイの叫びにトールらは目を見開いた。
 その時、伍式は前に踏み出そうとしたときにバランスを崩し、つんのめるようにして倒れ出していた。
 先にゼンガーが居るにも関わらず……。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ミリアリアの悲鳴の後、皆が身を竦ませていたが、やがて恐る恐る目を開ける。
 ゼンガーは相変わらず健在だった。
 数十センチ先には伍式のブレードアンテナが迫っていると言うのに、汗一つかいていない。
  


〈……無茶をする〉


 涼しい口調でゼンガーが言うと、四つんばいになった伍式のハッチを開け、呆然とした表情で咽び泣くフレイを抱き起こしていた。   
 





「……お咎め、無しですか?」

「それより先に再教育の必要がある。不完全なロックしかしなかったトール共々な……」

「う、すいません……」


 通常の軍隊なら懲罰ものの行為だった。
 無断でMSを動かし、クルーを危機に晒した事は、それ程重い罪である。


「正式な訓練も教育も受けていない臨時志願兵に対し、軍法に法った営倉入りは相応しくない」

「ナタルが聞いたら激昂ものでしょうけど……確かにそれを考えると、通常の半数以下のクルーしか居ない状況とはいえ、私を含めた全員の管理責任を問わないとならなくなりますしね」


 艦長室で苦々しく溜息を付くマリュー。
 一体どうやってナタルを言いくるめたらいいか、正直悩んでいるのだ。


「よってこれから一週間。俺が軍の基礎を叩き込む。休み無しだ、覚悟しろ」


「……お願い、します」


 泣き疲れたのか、フレイの声は弱々しい。
 正直こんな状態の彼女に罰を与える事に、マリューは後ろめたさを覚えるぐらいだ。


「強く……なりたい……あんなに、何も出来ないなんて嫌……」


 トールにも出来るのだから自分にも、とフレイは考えていた。
 キラの窮地に駆けつける事で、認めてもらおうと画策したのだ。
 だがそれは甘かった。
 自分にはトールの様な才能も何も無い事を、嫌と言うほど思い知らされるだけだった。
 これでは自分を磨くどころではない。


「焦っても何も生まれんぞ、フレイ。人は誰しも、一日(いちじつ)で強くはなれぬ」

「……はい」


 すっかり消沈してしまったフレイを労わるように、トールは共に退出した。
 数時間後から開始されるハードスケジュールに備える為だ。 
 


「まさかフレイがね」

「俺も正直驚いている。トールのOSロックは完全だった……故に、フレイは“手動”で……」


 コクピットロックを忘れると言う、単純なミスが今回の騒動の原因だった。
 確かにゼンガー以外で伍式を動かせるのは今の所トール、そしてマリューのみなのだ。
 管理意識が甘くなるのも無理は無い。
 マリューも正直、このようなダークホースの出現は予測していなかった。
 完全マニュアル操作は余程機体に精通しているか、相性が合わなければまず不可能とされていた。
 ただ逆に、工業技術系の知識を持たぬ彼女がOSを使った操縦ができるかと言えば……難しいだろう。


「……とは言え、今のままでは彼女は十分と持ちませんね。全手動操作では総運動量がとんでもないですから……MAやスカイグラスパーとは別次元でしょう」

「どの道軍人には体力が要る。アークエンジェルのカタパルトは空きが多い……この際利用させてもらう」

「……まさかあの“鍛錬”を?」


 Xナンバーを開発していた頃、マリューはゼンガーが毎日日課としていた鍛錬に付き合った事があった。
 会ったばかりでよく解らないゼンガーとの理解を深めようとしたのだが……これをやってマリューは二日間筋肉痛で寝込む羽目になった。
 常人では本気でゼンガーについて行こうとするとこうなってしまう。
 元々肉体派ではないマリューでは尚の事辛かったが、その甲斐は確かにあった。
 だがこれを若い彼らにやらせるのは……と、マリューは思う。
 


「北村式説教よりかは確実に身に入る」

「き、キタムラ式……懲罰の方がまだマシですね、それなら」


 教導隊名物の地獄の説教を引き合いに出され、無理矢理納得するマリューだった。




「……何で人にこんな扮装をさせたりする。お前本当に“砂漠の虎”か? それとも……これも毎度のお遊びの一つなのか?」


 一方その頃、バルトフェルドは端整な表情をした、ドレス姿の美少女に自慢のコーヒーをご馳走していた。
 少々野性味があり、良く日焼けしているのが多少惜しいが、アイシャの見立てもありそれすら個性として際立っている。
 ただ残念なのは、今度は上手く煎れた筈のコーヒーが、彼女はともかく同伴の少年には口に合わなかった事だろうか。


「……毎度のお遊びとは?」

「変装してお忍びで街に出かけて見たり、住民を逃して街だけ焼いてみたり、って事だよ」
 


 つい先刻、バルトフェルドはお忍びでバナディーアの市街で遊んでいた。
 観光客の様な浮かれた格好をし、たまたま行きつけのカフェにいた面白そうな二人……彼女らの事だ……をからかっていた所、テロに巻き込まれた。
 その場は変装した自分の部下と……目の前の少年の活躍によって程無く“処理”する事が出来た。
 巻き添えを食って服を台無しにされた彼女に、替わりの服をプレゼントし、先のお礼ともう一つ、確かめる事があったので彼らを招いていたのだ。


「はっはっは……実に良い目だ」


 バルトフェルド暫し彼女を見つめた後、口元を曲げて不敵に言った。


「“テロリスト”相手に本気出してどうすんの。大人気無い」

「貴様っ!!」


 彼女が叩き付けた拳によって、カップが倒れ中身が広がっていく。


「カガリ!」


 震える彼女の肩を抑えるようにして、青年が立ち上がった。
 ……が、その目には彼女同様、怒りに満ちていた。
 それに答えるかのように、バルトフェルドもすうっと目の色を変える。


「君も、死んだ方がマシな口かね?」


 二人分の殺気を受けても直、バルトフェルドは悠然と座っていた。
 彼から発せられる威圧感のほうが遥かに上回っていたからだ。


「君はどう思っている? どうしたらこの戦争は終わると思う?」

「……生き残る事が、勝つ事です」

「砂漠の戦争屋らしい考え方だねえ……」

「お前! どうしてそれを……!!」


 カガリが叫んだ後、少年は息を詰めた。
 途端にバルトフェルドも噴出してしまう。


「おいおい、あんまり真っ直ぐ過ぎるのも考え物だぞ」


 余りにあっけなくカガリが挑発に乗ったので、バルトフェルドも苦笑いしていた。
 が、これで望んでいた答えの一つを……引き出した事になる。


「戦争には制限時間も得点も無い……スポーツやゲームみたいにはね、そうだろう?」


 バルトフェルドが立ち上がった事で、少年はカガリを引き寄せ庇う様にして身構えている。


「……だが君の言う通りならば、戦争には明確な判定基準がある事になる。即ち、どちらか滅びた方が負けになる」


 バルトフェルドが一瞬身をかがめた次の瞬間には、その手には銃が握られていた。
 但しそれは、少年も同じ事だ。その華奢な体に似合わぬ大口径の拳銃を、ピタリとバルトフェルドへと向けている。


「撃てないんじゃなくて、撃たなかったんだな」


 テロリストとの応戦中、少年は手元に転がってきた拳銃を撃つのではなく、物陰に隠れていた狙撃主目掛けてぶん投げたのだ。
 お陰でバルトフェルドは背中から撃ちかけられる事を免れたのだが、あれは単に不確実な方法を避けただけ……他人の銃は、信用なら無いと言うのだ。


「今度は、撃ちます」


 張り詰められた表情を見て、バルトフェルドは鼻で笑う。


「やめた方が懸命だな。幾ら君が狂戦士(バーサーカー)でも、暴れてここから無事に脱出できるものか。ここにいるのはみんな、君と同じ“コーディネーター”なんだからね」

「お前っ……!」


 カガリが目を見開いて、何故教えなかったと咎めるような視線で少年を見た。
 どうやら彼女は真っ直ぐ過ぎるらしい。
 少し考えればMSを操れるのは“コーディネーター”だけと言う事に気付く筈なのだ。
 ……無論、最近は“例外”も出始めているが。


「……確かにそうでしょう。ですが彼女を逃す事ぐらいは出来る……僕が無事にここから出られなくても」


「な……!」


 瀬戸際に追い詰められている事を今更ながら自覚し、不安げな表情でカガリは少年を見上げていた。
 少年の表情はあくまで本気である。


「それが君の戦う“寄る辺”か。成る程それでは私と君は……」

「討つべき……敵」

「とは限らないんじゃない? 今日は只、自慢のコーヒーを御馳走しただけだし」


 いきなり調子を変えたバルトフェルドを前に、呆気に取られた表情をする二人。
 そんな彼らを尻目に、バルトフェルドは銃をしまった。


「帰りたまえ。今日は話が出来て楽しかった……最初で最後だろうがね」

「え……」

「次の作戦ぐらいで、大天使とその剣との決着が付く。どっちが勝つかは解らんが……どちらにせよ君と僕が語り合う機会は永遠に失われる」


 それはアークエンジェル共々レジスタンスの完全殲滅をも視野に入れている事を示唆する物言いだった。
 その一方で、最悪生きて帰れない相手である事も、バルトフェルドは理解していたのだ。
 


「語る事はもう無いかもしれません。でも僕は……また戦場で貴方と戦うでしょう」

「死にそうな目に遭ったと言うのに酔狂だねえ、君」

「戦って、傷つくような目に遭ってでも……守りたいものがあるからです」


 少年らはドアを開け、廊下の向こう側へと消えていった。


「ザフトだってそうさ……でも今は、どうなのかねえ」


 窓辺に佇みながらバルトフェルドは呟く。


「ま、戦いそのものの先を求めている、僕が言ってもしまらないか」


 再び戦場に足を踏み入れるとき、かつて無い程の脅威が自分を待つだろう。
 その時自分はどこまでいけるか。どれくらい戦えるのか……そしてその先に何があるのか。
 今のバルトフェルドは、それを知る事だけが望みだった。
   
 
 


  
 

代理人の感想

・・・結局例のイベントは起こすのかw

それよりも、フレイってカテ公化の階段を一歩ずつ上っているような(爆)