「レセップス突破……容易にはならないでしょう」

「だよねえ……陸上戦艦相手に、MS一機と戦闘機一機で、どう立ち回ればいいのやら」


 物資の補給を完了したアークエンジェルは、すぐさまザフトアフリカ方面軍の戦力圏を突破すべく、動き出していた。
 これ以上時間を与えると、相手に戦力増強の機会を与えてしまう事となり、時間が経つに連れて不利になるばかりなのだ。
 またそれは明けの砂漠にとっても同じ事……このまま突破口を見出せない限り、自分達もいずれバナディーアの様におもねるしか、生きる道は無くなる。
 


「皆さんの戦力も頼りないもんだしねえ。バクゥはスクラップ、戦闘員の半分は動けない……言っちゃ悪いが、これじゃ焼け石に水だぞ」

「ああ、言ったら不味いわね」


 と、マリューは格納庫の隅に居たカガリを指差し、フラガは慌てて口をつぐむ。
 だが当の本人は二人に全く気が付いていなかった。


「うわーすげえ! これで十五機目だぜ?!」


 スカイグラスパー本体と一緒に持ち込まれた、連合軍のフライトシミュレーターで、カガリは遊んでいた。
 とは言っても本当に軍で使用される訓練システムであり、その難易度はゲーム所では無い。
 事実、カズイやミリアリア等は開始後瞬殺されている。
 


「へー、センスはあるね」

「でも彼女を戦力とは数えられません」

「……だな、あんな無鉄砲なのには、戦闘機は任せられん。俺達アーマー乗りってのは、周囲に気を配れないようじゃやってけないからな」


 珍しく神妙な意見を述べるフラガに、マリューはきょとんとした表情をする。



「あ、ひでえ。俺には似合わないって顔してる」

「い、いえそんな事は……」


 しかしマリューの反応を見て、フラガは自分の言葉そのものに反応したのではなく、“単語”によるものかと勘ぐった。


「“同業者”と何かあったのかねえ……」


「え……?」

「いや、いいさ。それよりも……」


 今度は格納庫の端から端まで駆け足をしている、フレイ達の様子を見る。
 ゼンガーの視線を受け、黙々と走り込みを続けるフレイとトールの表情は、徐々に変化しつつあった。
 少なくとも始めて出会った時とは見違えている。


「甘めに見てようやく、二人共“半人前”だな」

「二人で一人前だと?……厳しい判断ですね」

「一旦戦場に出て見ん事にはねえ……かといって、次の戦闘じゃあフォローが利かん。複座でも出したくは無いな」

「では、二号機は出せないですね……」


 現在フラガが搭乗しているスカイグラスパー一号機の隣にある、カバーを被ったままの二号機。
 あわよくばこれも戦力に、と考えていたが、どうやらこれは予備機として置くしか無さそうだった。


「……」


 只、他の皆がシミュレーターに夢中になる中、キラだけが白く輝く機体を見上げていた事に誰も気が付かなかった。




 フレイは訓練が終わり、暗い部屋の中で電気もつけずにベッドに倒れ込んだ。
 ゼンガーから課せられるカリキュラムは過酷そのものであったが、四六時中彼と共に居る事になるのだから大分苦痛は和らいでいた。
 ……が、身体の方が言う事を利かない。空腹と渇きよりも先に、休息を求めて瞼を閉じそうになった。
 ノックの音がするまでは。


「……誰?」

「フレイ、俺だよ」


 ドアが開き、現われた人影に目を覚ましたフレイ。
 夕食と湿布を持ったサイが、躊躇いがちに入ってきたのだ。
 


「食事、疲れてるだろうから持ってきた。医務室からこんなものも貰ったし……良かったら」

「サイ……」


 戸惑い気味に見上げるフレイは、弱々しげに見えた。
 が、それに対しサイは憐憫の表情をするでもなく、いつも通りだ。


「こんな事しか出来ないけど……お互い、頑張ろうな」

「え……? 何処行くの?!」

「当直。ブリッジに交代に行かなきゃ」


 一旦は背を向けたサイだったが、物言いたげな雰囲気を感じ立ち止まって振り返る。


「フレイもトールも大変なんだ。俺も頑張るよ、別の場所で……」


 ブリッジクルーは極めて人材不足であり、交代要員など無くかなりの負担を強いられていた。
 しかしそれも、サイらが本格的にシフトに組み込まれた事によってかなり軽減されており、サイは立派に“任務を遂行”していると言えた。
 それだけに、今は只足掻くしかない自分が、フレイは惨めだった。


「……私の事、馬鹿だと思ってるでしょ?」


「は?」

「身の程知らずだって、陰で笑ってるでしょ……」


 苛立たしげな口調だったが、語尾になるとその勢いは消えていた。


「身の程を知る事は、確かに大事だと思う。けど……」


 そんなフレイの様子に、サイは何かを感じ取った。


「身の程って……自分の限界って、そう簡単に図れる物かな?」

「え?」

「俺も今はブリッジにいるけど……ひょっとしたら向いていないかもしれない」


 何時に無く弱気な言葉に、フレイは顔を見上げた。


「誰だって……戦うのは嫌さ。実際に銃握った訳では無いけど……俺の誘導で、誰かを殺したのは確かなんだ。撃墜の報告を聞いて喜ぶ反面、怖くなる時もある」

「怖い……」

「失われた命と、今残っている命。どっちが重くてどっちが軽いか……エル達避難民が乗ってる時は、それ程気にならなかったけど、これからはね」



 フレイは微かにサイから目線をそらした。
 殺される側の気持ち等、考えた事が無かったのだ。
 襲ってくる方が悪い、コーディネーターだから当然と。
 ……だがそれにだって事情がある。自分のように、ユニウス・セブンで誰か大切な人を無くし、これからそうさせない為にも戦う者だって居る筈だ。


「で、でも戦争なんだから仕方が無いじゃない! 敵の事まで気にかけていたら、私達……」


「そうだね。俺達は自分の事で精一杯だ……でも少佐は違う」


 その名を呼ばれ、フレイは目を見開いた。


「ブリッジで聞いていると、少佐何度も敵に呼びかけているんだ。“甘い”、“気合が足りない”、“出直して来い”……あれは“敵”に対する態度と言うよりか、等身大の“相手”としてのものだ」

「少佐が……相手を殺す事に、何の躊躇いも無いの?」

「あの人は“業”を背負ってるんだ。例え人殺しの汚名を背負おうとも、果たす事があるんだろうね……」


 それだけの覚悟が果たしてあるのか?
 血で汚れて、誰も近寄らなくなり、一人で道を歩く事に……耐えられるのか?
 そんなフレイの不安を察し、サイは一言こう言った。


「……フレイが何を果たしたいかは解らない。でも、俺は離れたりしないよ」

「!」

「俺は俺の立場で……君に出来る事をやっていく」


 最後に優しい微笑を残すと、サイは部屋から出て行った。
 一人取り残されたフレイは、座り込んで動けなかった。


「馬鹿ね……サイ……もう私達……婚約者でも何でも無いのに……何で……」


 それは復讐を固めた彼女にとって枷にしかならない筈だった。
 だが不思議な事に、フレイは僅かに残っていた苦痛がすうっと和らいでいく気がした。






「枯れ木も山の賑わいと言うけど……これじゃあね」


 実はバルトフェルド側も、大して戦力を増やせていなかった。
 ジブラルタルに要請していたバクゥの補充も果たせず、代わりにやって来たのが伍式と同じXナンバー、そして先に降下したイザークとディアッカだ。


「かえって邪魔になりそうな気がするけどな。地上戦の経験無いんでしょ、彼ら?」

「エリート部隊ですからねえ」


 嫌味たっぷりのダコスタの返答に、バルトフェルドは苦い表情をする。


「どうせなら“黄泉の巫女”を降ろして欲しかったもんだ。彼女なら地上戦も出来る」

「……ですが“赤”ですよ?」

「正確には、違う。彼女は“アカデミー”出身ではないからな」


 ザフトの士官学校とも言えるアカデミーにおいて、総合成績が十番以内の者にのみ、赤い制服が与えられる。
 ただしこれは成績が判断基準なので、戦地での実績は関係無い。


「彼女の場合箔がつくからと、クルーゼが勝手に調達したそうだ……無論、配属された他の四人は不満を述べたが……」

「あえなく返り討ち、ですね」

「主席の方は頑強に抵抗して、一矢酬いたものの腕折られて後方送りにされたぐらいだ。知ってたかい?」


 大体ザフトでは優秀な人員が揃っている為、その中でエースとなるには相当の実力が必要となる。
 バルトフェルド自身は宣伝誇張も入り混じった通り名だが、ククルや“龍”の異名を持つ少女は実力でもぎ取った。


「きょ、狂暴じゃないですか? クルーゼ隊とはいえ、生え抜きの精鋭……多少扱い辛くてもまあ……彼女よりかはマシかと」


 その話を聞いて思いっきり難色を示すダコスタ。
 まさかククルがその主席……アスランを無理矢理引き止めるためにやらかしたとは、思いもしなかっただろう。
 そしてアスランも同じ事を考えていた為、歯止めが効かなくなってしまった事情も。
 


「だって彼女クルーゼ嫌ってるじゃん。僕と同じで」

「は?」

「他人に目を見せない奴なんて信用できるか。それを理解する彼女ならば、と思ったんだが……現実逃避しても仕方が無い」  
   


 愚痴るのを止めて、二人は宇宙からの来訪者を出迎えるべく甲板へと向かった。
 一応晴天だが、離陸する輸送機が巻き上げた砂で視界が遮られる。


「うわ、何だよこりゃ! ひでえ所だな」

「砂漠はその身で知ってこそ、ってね……ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー=バルトフェルドだ」


 砂でやられた目を瞬かせつつ、イザークとディアッカは敬礼した。


「クルーゼ隊イザーク=ジュールです!」

「同じくディアッカ=エルスマンです」


「宇宙から大変だったな、歓迎するよ」
 


 ちっとも心の篭っていない事を口にし、バルトフェルドはイザークの顔を見つめた。
 傷が気になるのだ。


「戦士が消せる傷を消さないのは、それに誓ったものがあるからだ……大天使の剣関係かな?」

「……!! 大天使は、ゼンガーの動きは!!」


 カッとなったイザークは、怒鳴るようにして訊ねる。


「彼ならばここから西方へ180キロの地点……レジスタンスの基地にいるよ。無人探査機を飛ばしてある。映像、見るかね?」


 バルトフェルドはぶらぶらと歩くと、今しがた降ろされたばかりのデュエルとバスターを見上げた。


「成る程、同系統の機体だな……伍式と良く似ている」


 何と無くダコスタは不安を感じた。
 今のバルトフェルドは、何処か伍式に、ゼンガーに魅入られているような気がするのだ。
 


「あの、バルトフェルド隊長は、既に伍式と交戦されたと聞きましたが……」

「ん? ああそうだな……僕もクルーゼ隊を笑えんよ」


 ディアッカに訊ねられた時も反応が遅い。
 止めにこの弱気な発言……ダコスタは自分の感覚を笑い飛ばそうと必死だった。
 いかに相手が強大でも……砂漠の虎が敗退する事など、ありえないと。


 


 幸先の良いスタートとは言えないバルトフェルドに先んじるかのように、アークエンジェルが動き出した。
 アークエンジェルが目指すのは紅海、そして太平洋への脱出だ。
 地球連合軍大西洋連邦最大の軍事拠点、アラスカへ到達するには直線ルートが一番早い。
 だがそれにはザフトの欧州・アフリカ方面への足掛かりであるジブラルタル基地を突破せねばならない。
 幾ら何でも戦艦一隻での強行軍は無謀すぎる為、止む無く迂回ルートを通るしかない。
 仮にアフリカを突破できたならば、今後は海上航路を進む事になる。
 制海・制空権はザフトに握られているとはいえ、陸上よりかは戦力が分散しているからだ。


「無論奴も検討をつけているだろう。網は張られていると見て、間違いない」


 既に全艦戦闘配備に入っている。
 トールも“フレイも”それぞれの持ち場に着き、レジスタンスも後方からバギーで追いかけてくる。


「サイーブ氏曰く、この先のタルパティア工業地域に地雷を敷設しているそうですが……私ならば、艦砲射撃で吹き飛ばしますね」

「私もそうするでしょう、ナタル。でもそのお陰で敵艦レセップスの位置を先んじて知る事が……」


 噂をした途端に、鈍い地響きがした。
 但しそれは一回。しかも地平線を撫でるかのように、広い範囲から黒煙が昇っている。


「ま、まさかあれだけの地雷を一斉に……!!」

「これじゃあ発射源の特定なんて無理だわ……」


 敵の予想以上の技術力に頭を抱えるマリューとナタルだったが、ゼンガーは沈着に眺めていた。


「……俺ならば自軍の侵攻ルートのみを狙って爆破する。奴め、フィールド全てを使って立ち回る事を望むか」


「レーダーに敵影とおぼしき影! 攪乱酷く、数は測定不能!! 一時半の方向!!」

「その後方に大型の熱量二! 敵空母、及び駆逐艦だと思われます!!」


 前座の様に戦闘ヘリが肉眼でも確認できる距離まで近付いている。
 ここに来てナタルは、何故伍式での出撃準備を整えないのか……と、まだ居るゼンガーに対し疑念が湧いてきた。


「……総員聞け! 我らに二の太刀は無い、だがそれは奴等とて同じ事! 互いに死力を尽くす以上、苛烈な戦いとなるだろう!最早逃げ場は無いのだ!! ならば後を向く事は無意味!! 不退転の意地を通せ!!」


 先の砲撃等話にならないほどに艦橋を震わせた声に、ナタルは息を飲む。
 それどころか多分、艦内スピーカーを通し隅々まで浸透した事だろう。
 ゼンガーの、覚悟が。


「人は他の何者に敗れるのではない……理想を実現せんとする念いを、持続することに敗れてしまう」

「艦長……」

「逃げ道をつくっておくことは、敗北の道をつくることと同じである。一度真に志を固めたならば……後は前進あるのみ! 対艦・対空・対MS戦闘迎撃開始! 」

「はっ! スカイグラスパー、先行して発進!!」


 敵を見据えたマリューの一声が皮切りになり、全艦が慌しく動き出した。
 もうこの頃には、ゼンガーは消えている。


「Xナンバー開発は挫折の連続だったわ……そんな時はこの少佐の言葉を思い出しているの」

「昔からそうだったのですね……あの人は」

「ええ。でもあの人は逃げ道の作り方を余り知らない。だから……」
 


 丁度カタパルトから飛び出した白い機体を眺め、マリューは言う。
 


「逃げるにしても前に逃げる道を……“突破口”を開こうとするのよ。自分にも……他人にも」

「!!」


 良く見るとスカイグラスパーのキャノピーには、二人分の頭が見えた。
 それが誰だか解った時、ナタルは思わず息を詰めた。






 フラガはアークエンジェルに接近する戦闘ヘリや、VTOL戦闘機を片っ端から牽制しては、落とす。
 しかし余りに数が多すぎる上に、レセップスからの援護も侮れない。
 全長250メートル、喫水線……もとい喫砂線から頭頂部まで60メートルを超えている。
 超振動ユニットであるスケイルモーターによって砂を流動化し、それを制御する事で推進力に変えている。
 艦の前後には連装砲が三基、魚雷発射管を両舷に五門、さらには垂直ミサイルランチャーと思われる発射管がいくつも確認できる。
 もしこの艦の全火砲の射程にアークエンジェルが入ってしまえば終わりだ。
 その強大な火力で、文字どおり粉微塵にされるだろう。


「全く……きりがねえなあ」


 確かに数は多い。
 だがフラガの技量とスカイグラスパーの火力はそれを僅かに上回っている。
 機銃を前面に四門、カノン砲を大小合わせて三門搭載しているこの機体は、本来は伍式のストライカーパックにも対応している。
 が、ソードを残して全てが破壊された以上、素のままで戦うしかない。


「下から!」


 フラガは即座に機体を急旋回させると、その真横をバクゥのミサイルが横切った。


「やるねえ、“嬢ちゃん”。俺より先に気がつくなんてよ」


 と、後部座席に目をやるフラガ。
 そこには身体を強張らせながらも必死で状況を見守る、フレイがいたのだ。


「しかし少佐も思い切った事を……本当に大丈夫か?」

「伍式で転んだ時に比べたら、こんなの……!」

「それだけ喋れるなら、まだいけるな!」


 再び急加速した為に思わず呻き声がもれるフレイ。
 しかし目を閉じたりはしない。これはゼンガーと同じ視点に立つという、滅多に無い機会なのだから。
 


『それにしてもレーダーより早い反応ってのはなあ……殺気に敏感なんだろうな』


 フラガが一人考えふけっているうちに、下のバクゥは頭をかち割られていた。
 勢いをつけたまま伍式に突っ込み、こうなったのだ。
 高度を落として射撃してくる戦闘ヘリに対してもパンツァーアイゼンを放ち、更にワイヤーを伸ばしたままムチの様に振り回してヘリを落とす。
 だがこれでも焼け石に水だ。未だレセップスからは次々と戦力が吐き出されている。  
 そして、王手と言わんばかりに最大最強の戦力も、出陣しようとしていた……。





「バルトフェルド隊長! 納得いきません! どうして我々の配置が、レセップス“艦上”なのですか!!」


 激した声イザークの声が、レセップスの格納庫に反響していた。
 Xナンバーは単純な性能ならばレセップス搭載MSの中では随一を誇る。
 にも拘らずこの采配。イザークには合点が行かなかった。


「おーやおや、クルーゼ隊では上官の命令に、兵がそうやって異議を唱えてもいいのかね?」

「しかし! 奴と、ゼンガーとの戦闘経験では俺達の方が……」

「負け経験の間違いでしょ?」


「何ぃ?!」


 アイシャの辛辣な言葉にかっとなるイザーク。


「アイシャ」 

「失礼」


 バルトフェルドがたしなめると、アイシャは身を翻す。
 が、いささかも反省の色は見えない。


「君たちの機体は砲戦仕様だ。高速戦闘を行うバクゥのスピードにはついて来られまい」

「そんな事は……!!」

「もうよせイザーク! 命令なんだ。失礼しました」


 ここでディアッカが止めに入り、一応の騒ぎは収まった。
 が、二人共その目は何か企んでいるようで、混戦になったら何か仕出かす事は確実だった。


「……彼や彼女の様な真似、誰にでも出来る訳でもないだろうしな」


 クルーゼ隊のある意味輝かしい戦果は、バルトフェルドも聞き及んでいる。
 あの黄泉の巫女をもってして互角が精一杯。赤では無いにしろ、月でのグルマルディ戦線を経験したベテランすらも対艦刀の露に消えた。今の二人を含めたエリート達も大苦戦を強いられている。たった一人の、“武人”によって。


「それほどまでの相手ならば、文字通りフルスロットルで、メーターを越える速度をもって相手をせねば……無様な屍を晒す事になるし何より……無礼だろう?」
 


 バルトフェルドの目には大天使が映っていなかった。そう……狙うはゼンガー只一人。


「肩入れしすぎているかな?」

「いいえ。でも敵よ」

「ああ、解っている」
 


 相手を待たせていると言うのに、自分の方が待ちきれない思いでいた。
 矛盾した思いにバルトフェルドは、何ともいえない高揚を覚えている。
 それはアイシャと共に愛機“ラゴゥ”に乗ってますます高まっていく。
 バクゥの上位機種であるこの機体は、ビームサーベルを始めとしてXナンバーの技術が随所に反映されている。
 今回はアイシャと言う凄腕のガンナーまでいる。多少の機体性能差はこれで挽回できる。
 後は……それを操るバルトフェルドの技量次第であった。



「じゃ、艦を頼むぞダコスタ君」

〈はっ!〉


 モニターのダコスタも苦い表情をしつつも嬉しさが滲み出ている。
 彼にとっては指揮官としてよりも、エースパイロットとしてのバルトフェルドの方が自然に写るのだ。


「バルトフェルド。ラゴゥ出る!!」


 これが、バルトフェルドの勝ちの一手となる筈だった。
 もう一つの絡み手と共に……。

 

 

 

代理人の感想

おりょ、一区切りかと思ったんですが。

まだまだ続きますか。

 

 

 

 

・・・それにしても原作と違って燃えるなぁw