ゼンガーは生きている。
自爆したマガルガの中に居ても、自らが無事だった事がその予想の根拠であったが、パトリックが見せた映像が完全な決め手となった。
ニュートロン・ジャマー・キャンセラーを搭載した新型MS、フリーダム。
その面前の迷い無き姿は、かつて事を構えた時よりも、更に気迫が上がっている様にも思えた。
例え敵陣の中であろうとも、ああまで威風堂々としている事が出来るのは何故か?
彼は、そういう男なのだと……真の武士(もののふ)とは、抜かれてもいない刃を恐れはしないと、実際に目を合わせ、拳も合わせるぐらいしなければ解からないだろう。
そんな事は映像を見ただけでは、データだけでは何も解からない。故に理解不能とし、特別扱いする。
パトリックが思わず口走った“異能者”という言葉……それは自らの力が、それ程強く無い事を示してしまったのではないだろうか。脅威を排除すれば済むと言う状況では、もう無い。
コーディネーターは間違いなく、行き詰りつつある。
ククルはその手にトランクを抱き抱えていた。
特殊合金で製造されたその中には、彼女が託された想いが詰っている。
X-09A“ジャスティス”の、起動キーとマニュアルが……。
パトリックから託された、もう一機のニュートロン・ジャマー・キャンセラー搭載のMS。
任務を遂行する手段としての兵器……そしてもう一つ。“敵”を取る為の復讐の牙。
何時かのコンサート以来だった……ニコルの父、ユーリ=アマルフィと会ったのは。
母親のロミナと共に、何処かのんびりとした人物であった。
戦果の拡大を嫌い、シーゲルに並ぶ穏健派だったのだが……それは単(ひとえ)に、愛し、誇りでもあった息子の為だった。
……そのニコルを、ククルはむざむざ殺してしまった。
犠牲を無くす為……勝つ為……そして、ニコルを討った敵を、ゼンガー=ゾンボルトに続く異能者を倒す為。
ユーリは心血を注ぎ、Xナンバーのデータをプラントの技術で昇華させて組み込んだ、二機のMSを建造していた。
もう戦争を止めるという悠長な事は考えていない。奪われた事への憎しみと、裏切りによる憤りが今の彼を突き動かしていた。
現在シーゲル一派は国家反逆罪で手配されている。
しかし綿密な作戦を練っていた為か、未だ足取り一つ掴めていないのが実状であった。
……当たり前である。
全てを投げ打ってでも、例え命を賭けてでも何かを変えようとする人々を……現状にしがみ付く事しか考えられぬ者達に、そう易々とどうこう出来はしない。
変わると言う事は、流動的である事。
その動きを捉えたくば、相手がどう動くかを臨機応変に考えていかねばならないだろう。
力で否定しては、排除でしかない。
かつてクライン邸だった廃墟に、ククルは座り込んでいる。
官憲が捜索を行ったのだろうが、その為に何もかもを破壊する必要は何も無い。
有機ガラスも調度品も、何から何まで。それで得られた物は何か?
多分、何も無かったからこその、苛立ちの現われだろう。
かつての敬意も敬愛も……憎しみで全て塗りつぶされていくものなのか。
何もかもの頂点に達し、他の全てを排除する……。
それは戦いの終わりでもあり……全ての破滅だ。
進化を止めた生物に、生きる価値は無い。
進化は異なる存在と交わり、初めて果たされるものだ。初めから一つしかないなら、もう次は無い。
かつてククルはアスランの母、レノアと共に多くの命を育んできた。
より多くの収穫を求め、幾度となく種を交わらせ、最上の遺伝子の組み合わせを見つける事に腐心していた。
……結論から言えばその試みは失敗した。
余りに気まぐれなのだ。植物は。
そもそも芽が出ない事もしばしば、立ち枯れする事もあったし、大き過ぎて自重で折れてしまった事もある。
味もぱさぱさしたり水気が無かったり、そもそも人が取り入れるには相当問題なものが含有する事もあった。
多かれ少なかれ、遺伝子を弄くるというのはそういったリスクを伴う……結局、一番確実なのは自然交配による地道な作業だけだった。
土を肥やし、豊かな太陽光を取り入れ、水や虫やらあれこれ手を加え、ようやく納得の行く作物を収穫出来たのだ。
目の前の茂みがかさこそと静かに揺れる。
今や見る影も無い、踏み荒らされた花壇だ。それでもまだ、生きている苗もある。手を加えなければ荒れるがままか、ひょっとしたら元よりもっと美しく花が咲いているかもしれない。
密やかに、という意味ではない。
例え踏みしめられ無残な姿となっても……しぶとく立ち上がり、元よりずっと頑強となる。
僅かばかりのものを得て、時に無慈悲なまでの陽光を遮る程に、伸びるのだ。
前へと進む為の活力も、より強くなる為の苦渋も……。
両親やレノア、そしてパトリックの顔が過ぎるが、最後に現われたのは、矢張り彼だった。
今も目を瞑れば、何処からとも無く耳触りの良い音が響きそうで……。
でもそれは楽しみに待っていなければならない。全てが終わる、その時まで。
斜陽を背に受け進むククルに、幾つかの影が静かに転がり、後を追っていった……。
与えられる事は、何処か落ち着かない。
少なく共アスランにとってはそうだ。
物心ついた時から何かにつけて課題と要求を突きつけられた彼には、何かを与えられれば、必ず倍に比するものを要求されると思っていた。
何をさせるのだろう、何を求めるのだろうと脅え、不安でしょうがなかった。
だからせめて、こちらからは何も求めない、何も望まない事を心掛けてきたが……友人達がその意固地な態度を変えてくれた。
彼女は笑ってくれた、只ひたすら。
嬉しい時は勿論の事、他人の失敗を笑い飛ばし、怒らせ、こちらが追及しているうちに全てを忘れさせてくれた。
彼も笑ってくれた。
求める物は大きいが、それに見合うだけの……いやそれ以上の輝きをもった感謝の微笑を、彼はいつも返してくれた。
……皮肉な事に、忘れられない程素晴らしい笑みは、別れの時に見せたものだったが。
プラントと地球の関係が悪化し、月の寄宿舎生活からプラントへと戻る羽目になり……後から来ると言った彼とは、結局そこでロボット鳥を渡したきり、彼とは会っていない。
彼女とはもっと情けない別れになった。
その微笑が嘲笑だったのか、苦笑だったのか……それとも親愛のものだったのかすら解からない。
確かめる術は無い。思い出そうにも、その度に身体中が痛み、悲鳴を上げる。
……与えられこそすれ、奪われたのは初めてだった。
何も返せていないのに、只一度もこちらからは与える事が出来なかったのに……。
そしてまたしても、アスランは奪われそうになっている。今度は親が決めた婚約者を。
……自力で得た訳では無い。矢張り父に言われるがまま始めた関係を、ずるずると続けて来た。
自分には釣り合わないほど愛らしく……そして聡明で威厳すらある、立派な人物である。
癇癪を起こした愚かな父の手に掛かるような事は、何としても阻止する。
彼女を誑(たぶら)かした存在を、完膚なきまで叩きのめす……。
アスランは生まれて初めて、奪われない為に戦う決意を、固めていた。
しかしそれは自分の為と言うよりかは寧ろ……。
オクトベール市にある、ホワイト・シンフォニーホール。
そこはかつて、ラクスが始めてのコンサートを行った思い出深い場所だった。
彼のアカデミー時代の教官である、ユウキ隊長に事実だけを伝えられ、独自に彼女の行方を追っていたアスランは、クライン邸でこのホールと同じ名を持つ、薔薇の垣根で隠れていたピンクハロと共に、ここに赴いていた。
戦争が進行した為、娯楽への感心が薄れた為に現在このホールは閉鎖されている。
スポットライトで照らさずとも、セットのみならず既に建物全体が廃墟と言って良い有様だった。
重々しい防音ドアを開けた途端、明瞭に聞こえて来た彼女の歌声……儚い様子ながらも、奥に秘めた力強さが印象的だったが、それは今のアスランには怒りを呼んだ。
……何故歌える?
自らが追われる身だと言うのに、何をそんなに呑気に歌えるのか?
……そしてその悪びれない様子。
自分がどれだけのものを失い、苦しんでいるのかも知らずに……!
その微笑みも、今では残酷なまでの仕打ちにしか感じれなかった。
否定もせずに、値踏みするような態度を取るラクスに、苛々したアスランは叫んだ。
ラクスの静かな返答に、胸をなで下ろそうとするアスラン。
だがその期待はものの見事に裏切られる。
アスランは凍りついた様に立ちすくんだ。
そしてその手に持った銃を……静かにラクスへと向けた。
これにはラクスも眉をひそめ、真摯な表情でアスランを見据える。
……アスランは全く動じない。
奪われる痛みを知った以上、それから逃れたい。これ以上は苦しみたくない。
もっとも、喪ったものは余りに大きい……これ以上の痛みはありえない。
例え今ここで、引き金を引いたとしてもだ。
求めてはいけなかった。
望んではならなかった。
目の前の存在は、自らを何ら満たす事無く、只奪っていくだけ。
そう言うのも居ると、教えてくれた筈なのに……彼女が信じたから、自分も信じてしまった。
迂闊であり、愚かであった。
自分が馬鹿でなければ、馬鹿に甘んじていなければ、回避できたかもしれない悲劇だったのだ。
もうこの頃には、ラクスの声にも懇願するかのように苦しげだった。
自分の知るアスラン=ザラとは明らかに違う目の前の男は……恐るべき覚悟をもって立ちはだかっているのだから。
同期達の訃報も続々と耳に入っていた。
誰も彼も、夢もあったし愛するものがあった。
どれもが果たされぬまま虚空に消え、また何処とも知れぬ大地に沈んでいった……それをさも当然の様に感じている人間達が、アスランには許せないでいる。
自らを嘲るその物言いは、ラクスでさえ戦慄を覚える程だった。
無力を悔い、変わろうとする意思は立派だが、なまじ力があった分、急速な変化が間違いなく無理を生んでいる。
彼の頬を伝っているものにも、彼自身は多分気づいてはいない。
その動揺に一気につけ入る様に、アスランは畳み掛けた。
今一度銃を突きつけるアスランに、ラクスは唖然として言葉を飲む。
そんなラクスの驚きに斟酌する事もせずに、アスランは言い放った。
奪われない為に、奪う。
それがアスランが継いだ“想い”……。
取り返しのつかない事が、この世界には多過ぎる以上……伸ばされた手を全て振り払う。
その中には稀に、純粋な興味、切実な救いを求める事によって、伸ばされたものもあるだろう。
……それすらも排除する。例えそれが何処から来ようと、同じ地で生きる者であろうと、妥協は無い。
登りつめる為でも、何かを変えようとする為ではない。
……今を守る為。
今を守る為に消えていった、多くの想いの為に……変わる事を許さない、変質する事を認めない。
それが未来に必要な事でも……彼自身の未来に、望むべき者は既に亡いのだから。
ラクスはそんな彼を、哀願も憎しみも無い静かな目で、只真っ直ぐに見つめていた……。
そして銃声が鳴り響いた。
凛とした声と共に、黒服の男達が数人ホールに駆け込んで来た。
舞台上の二人を取り囲む形で、弓状隊形で近付いていくその中心には……硝煙立ち昇る銃口を向けた、一人の少女がいた。
二人はその声に殆ど反射的に顔を向け、一様に破顔してしまった。
スポットライトに照らされた銀髪は、自ら輝きを発している様で……廃墟の中にあって、まるで舞い降りた女神の如き神々しさすら感じられる。
実際、アスランにもラクスにも救いが与えられた。
失ったとばかり思っていた自らの一部が……想いを注いだ存在が、こうして目の前で現われたのだから。
だが神は何も与えない。よって彼女は女神などでは無かった。
ラクスの表情が急転する。
そんな彼女に頓着する事無く、ククルは冷め切った目で顎をしゃくる。
黒服らは素晴らしい動きでみるみる距離を詰め、ラクスを包囲していく。
あれほど求めていた存在が、今となっては深刻な脅威の様に思えて、アスランは脅えた目でククルを見た。
つい先程、自ら引き金を引こうとした事も忘れて。
そう、彼女は黄泉の巫女。
“敵”とした者を容赦無く閻魔の前へと突き出し、そのくせ自らは常に門前払いを食らうのだ。
今度もそれについては、例外が無い。
何処からか声が響き、客席や照明室に身を隠していたらしい何者かが、ククルらに銃を向けた。
丁度黒服らにとっては背後に現れた為対応が送れ、撃ち返す事は果たせず倒れ伏せた。
只それは銃弾によるものではない。銃弾はそもそも、放たれなかったのだ。
まずククルが手に持ったトランクを照明室に投げ込み、丁度立ち上がっていた男は高速で飛来したトランクに押し潰され、気絶。
次に背に向けられた銃口を跳躍した事でやり過ごし、不安定な体制のまま、空中で銃を頭に投げつけて一人は昏倒させたが、もう一人日に焼けた赤毛の男が残っている。
座席に脚がついた途端それを蹴り、破壊する。それほどまでの力を込めて加速をつけた彼女を、赤毛の男は捉える事が出来なかった。
首筋を掴まれた赤毛の男は、耳元までククルと急接近する。
そして一拍置いた後、座席に押さえつけられた。
男の首筋から吹き出た、おびただしい量の血液が彼女にかかるが、まるで雑草を刈り取る時のように、只気だるくナイフを払い、溜息をついただけだった。
気付いた時、ホールの中で立っているのは三人だけだった。
後は黒服の周囲で転がり跳ねている幾つかの影のみが、辛うじて動いている。
かつてラクスに髭をかかれたネービーブルーのハロが、しゅんとなった様に動きを止め、只重みによって転がる。
他の色のハロも軒並み同じだ。
ラクスは信じられないと言った様子でアスランを見ている。
……実はハロにはとにかくラクスに喜んでもらおうと、アスランは持てる知識と考えうる限りのオプションを詰め込んでいる。
高度な学習AIや自律ハッキング能力等、ペットロボとしては不必要なまでに高性能なのだ。
スタン・モードも元々は、ラクスが暴漢にでも襲われたら……と、無用の心配をしたが為に取り付けた機能だった。
……あの頃は自分が居ない間でも、どうにかして彼女を守ってやりたい。
何時も和やかで、微笑を絶やさない無邪気なこの人に、傷ついて欲しくないと願って。
それが今彼女を追い詰める為に働いてしまった……守る為の手段が、奪う為の物にいつの間にか変わっていた。
……それにアスランはデジャ・ヴ(既視現象)を感じていた。
突然やってきて、それが起こった時には何かを感じていたはずなのに……慣れてしまっている。
手段ばかりに気を取られ、目的が抜け落ちつつある事に……。
ピンクハロはラクスの手を離れた。
仲間達の元へと向かうのではない。ラクスの前で精一杯飛び跳ねていた。
まるで向けられた銃口から彼女を庇う様に。
無反応。
ピンクハロはひたすらククルを威嚇している。
面白いがそれまで、と言った風に改めて向けられた銃。
しかしその頃には立ち塞がる者がもう一人増えていたりする。
侮るような口調と、心からの驚きが重なる中、アスランはククルを睨め付け、動かないで居た。
その背に立つ、たった一人の少女の為。
アスランの悲痛な叫び。
それは背中越しにラクスに語っているだけでは……無い。
変わる事が怖かったのだ。
プラントで続いた穏やかな時間は、余りに長かった。それなのに“崩壊”は早く、連続だった。
親友と呼べる少年との別れ……故郷と、母の死……受け止め切るには、余りに痛すぎる悲しみだった。
自ら積み上げてきたものが、崩れるどころか土台も全て朽ち果て、壊れるのでは……そう感じたアスランは、ずっと強固に自らを固めた。
二度と、壊れないように。
幸いにもザフトと言う強力な“つなぎ”が、彼を形作る手助けをしてくれた。
ザフトには強い想いも、力もある。だから過ちは起きない、起こさせはしないと思い込んで……。
心も体も冷え切ったアスランを、背中から誰かが暖めてくれた。
その鼓動が、その安堵の息が……安心し切った安らぎの表情が、甘い匂いのする髪が……。
細く、美しい手がアスランの頬を撫でる。
微かにその腕に力が込められた事を、アスランは感じ取り……促しに従って、その唇を重ねた。
名残惜しい様子でラクスは離れ、一人で走り去っていった。
遠ざかるその姿に、思わず手を伸ばしてしまうアスランだったが、ククルがその手を掴み黙って首を振った。
見ると、先程倒された筈の赤毛の男が血糊を拭い、まだ昏倒している仲間を抱えてラクスの後を追おうとしていた。
彼は出口の方へ向かっていく途中、一度だけククルを振り返り頭を下げていく。
……実は彼は首筋を抑えられた時に、圧縮血糊の袋を張り付けられ、本人同意の上でそれを切り裂かれただけだった。
遠目では絶対に解からない小細工であった。
ハロによる攻撃で、気絶していたと思われていた黒服が続々と立ち上がっていた。
この様子だと先程のやりとりも間違いなく聞いていたはずだが……。
後は追う事も連絡も無しに、只淡々と撤収準備を始める黒服達。
そんな彼らと自然を装って話している方が余程……と、口には出さないもののアスランは感じていた。
ククルを隣に乗せ、アスランは車を走らせている。
今度は、納得がいく形で送る事が出来るのだ……彼女を、戦地へと。
アスランは後悔していた。
クルーゼ隊に配属された時、古参としてそこにいたククルを力づくでプラントへ戻そうとした事に。
アカデミー主席の自分の実力なら、必ず……と挑んで無残にも敗れ、傷が癒えるまで無為な時間を過ごす羽目となった。
もしあの時彼女の真意に気がついて……共に戦う事を選んでいたらどれほど……。
その為のあの立ち振る舞い、とアスランは納得した。
実はあの黒服の男達……司法局の人間はククルが掌握していたのだ。
元々司法局の構成メンバーは、かなり特殊な状況に置かれている者ばかりだった。
ククルの様に寄る辺が無い者は勿論、妻子らに重い遺伝子欠陥があり、特別な治療を施さない限りは命は無く、プラントがその医療を保障している者……。
絶対に裏切る事の出来ない、忠実な僕だったが……戦争が深刻化するにつれて真っ先に社会保障への予算が削られる中、彼らも危機感を抱いていたのだ。
度々共同戦線を取る事も多かったククルと司法局には、密接なパイプは確かに存在していた。
だがそれを直結させ、評議会の意向に背く行動へと取らせたのは……あのシーゲル=クラインの影と、とある科学者の存在があった。
“彼女”は病状の進行を冷凍冬眠によって抑え、その間に微小機械での治療を行うという、画期的な方法を発明したのだ。
彼女の“都合”により、プラント社会一般には公表されなかったこの技術は、国家の犬である事を強いられた彼らに光を与えた。
……その光のお陰で、影が影である事を改めて思い出した彼らには、心までそうであり続ける破滅的感傷は無かった。
苦々しい表情のまま、きっぱりと言うククル。
あらゆる存在意義の否定……自らの血が紡いできた全てが、突如“無価値”と切って捨てられる衝撃。
圧倒的な力による進出は、古き人々にとっては“侵略”でしかなかったのだ。
もっと先に、更なる高みへ……だが、その流れに取り残された人間の方が、圧倒的に多かった。
その数すら凌駕する力が、コーディネーターにはあった。
種として駆逐されていく恐怖、これがナチュラルの戦う源……。
車は軍工廠の前で止まるが、ククルは降りずにアスランと顔を見合わせた。
少し前のアスランならば、そのままの意味にとってしまい慌てふためいただろうが今は違う。
彼女は“黄泉の巫女”が不要とされる世界を望んでいる。
もう誰も……人の手で黄泉路に送り出される事が無い事を。
力でも、想いでも……彼女を止める事は出来ない。
それに半分はアスランも望んだ事。戦からの開放……例えそれが自らとの別れとなろうとも……。
だが降りる前、最後にククルは笑いかけた。
彼女は生きるつもりでいる。自らの一部である人々の中から消える事無く、共にあり続ける……。
それが例え草葉の陰からであろうとも……歴史の表舞台から消えようとも。
何時までも彼女の影を追う事はせず、アスランは暗く道筋も解からぬ道を、自分が信じるままに歩み出した。
管理人の感想
ノバさんからの投稿です。
なんかアスランの活躍する場面が無いですね(苦笑)
あのまま逆ギレしていれば、また違った世界も垣間見れたかもしれないのに(待て)
さてさて、ジャスティスは結局誰が乗るんでしょうか?