何もかもが小波の中に消えたかの如く、かつて全てを失ったこのちっぽけな島には、何一つ残っていなかった。
 戦禍もまた、何時までも悲しみに暮れぬ様にと、再生と未来の名の元に消えていく。
 かつてのアラスカ基地はクレーターと化し、水没。
 パナマ基地も鬱蒼と生い茂る緑の中に消えつつある。
 ……ククルは巡礼の如くこれらの地を回って来た。
 僅かな欠片でも構わぬと、友らの面影を探したのだ。
 ニコルや、ディアッカだけではない。
 彼女が守り抜いた事で、前へ前へと戦いにのめり込んでいった……“正義”の御旗の元、集った者達。
 その生い立ちも、心に秘めたる想いも、彼女は知らない。
 だが確かに言葉を交わし、一秒一秒を戦いの中で共有し、死の手を潜り抜けてきた以上他者ではない。


「……その痛み、無念を己の物とするのは宜しくなかったな……」 


 パナマの惨状を直接その目で見た。
 敢えてコクピットを打ち抜かれたMS、醜く潰された肉塊、弾痕の後に散らばる液体の跡……これら同胞がやらかした行為に嫌悪を抱くと同時に、既にこれらの傷跡が癒されつつある事に、ククルは戦慄していた。
 木々が鉄塊を覆い隠し、様々な動物が人であった何かを土へと変換し、時にはそれら纏めて雨で洗い流す……何年もすれば何も残らないだろう。
 だがプラントと、宇宙と決定的に違うのは……消えるのではなく、生まれ変わると言う事。
 血肉はまた血肉に戻り、巨大な循環の中にある意味“正常”な形で復帰していくのだ。
 残骸も小動物の家となるだろう。弾薬・塗料の汚染すら、人が“在る”うちとまでは行かずとも改善されていく。
 ……プラントではそうはいかない。
 一度汚されれば取り返しのつかない事となる。かつて遺伝子研究を行っていた実験プラントは、バイオハザードによって全滅しているぐらいだ。
 そして失ったものは、自らの手で取り戻さなければ決して戻らない。宇宙は決して、優しく包み込むような場所ではないのだ。
 だが今こうして、人の良心尊厳全てをかなぐり捨ててまで取り戻そうとするのは、何か?
 人が望む事が全て“摂理”に適う訳では無い。
 人の道理は時として……それらを超越してしまうのだ。
 あの二つの基地の末路や……ユニウスセブンが何よりの証明であった。
 人が決して、自然に従った正道な存在では無い事の。






 オーブでは、連合による最後通告が示した時間が、刻一刻と迫っていた。
 住民の避難はほぼ完了している。
 人の笑顔は平和の証……それが消えた今、楽園の如きこの国の軋む音は、銃火となって響き渡るだろう。
 これを大きくして、遂には崩壊させるか。或いは全力で押し止めるか。
 それは今此処に残っている人間全てに掛かっている。ウズミ=ナラ=アスハも、キラも……そしてカガリも。
 



「襟が曲がってるよ」

「あ」


 M1部隊格納庫。
 ロールアウトから日が経っておらず、慣熟訓練も不十分。
 あのジュリやマユラ、アサギらがエースとされているのだから、如何に戦力不足であるか。
 そんなままならない状況にカガリは苛立ちを隠せず、フラフラしている所でキラに見つかったのだ。
 かかるプレッシャーは相当なものであり、カガリはその役目と、肩書きに押し潰されまいと必死だ。
 だが必死になればなるほど張り詰められてしまう……そう察したキラは、静かな様子で彼女の礼服を調えた。


「……お前、何で……オーブが戦場になるんだぞ?! 何でそんなに落ち着いて……」


 中立。
 オーブが取った政策が誤りであったから、このような事態になったのか?
 灰色である事は、疑惑しか生まなかったのか……。
 一人で悩むならば、幾らでも悩める。だが悩んでいる時間は残されておらず、この先には無常な結果が待ち構えているのだ。
    


「どの道が正しいかは……みんなが決める事だ」

「そ、そうか……そうだな……い、いやでも?!」

「正道なんて、誰が決めんだい?」
  


 カガリは呆気に取られた様子でキラを見る。
 以前の彼ならば、“力”ある者が、“想い”続ける事のできる者こそが、正しいと言っただろう。
 だが実は……先日その考えは容易に崩されてしまったのだ。


『いやー油断しちゃったわね……アララ君だったっけ? 』


 力を持つだけの想いがあるにも関わらず……“彼女”は負けた。
 それも想いも何も無い筈の、力の塊りとも言える軍事用コーディネーターの手によって。
 コーディネーターには第一世代、第二世代といったカテゴリーの他に、調整方法によって分けられる事を、キラはこの時初めて知った。
 元々コーディネーターの技術は、軍事的な側面とは無縁ではなかった。
 初期段階において、各国家は最強の兵士を“製造”するべくしのぎを削っていた。
 元から人を殺す組織である軍隊は、人道に抑圧される事が無かったのである。
 だが強大な力の反動は心に来た。心理コントロールに失敗した個体は暴走・脱走といった行動に走る事になった。
 ……これを防止する為に取った行動は、遺伝子そのものに刷り込み(インプリティング)を施すと言う、外道めいた行為だった。
 これでは行動原理を完全に掌握されるばかりか、意思すら犯される。
 しかもプラントとの戦争が始まった事で、彼らの運命は最悪の方向へと進む。
 刷り込みでさえも心理コントロールが完璧とは言えず、裏切りを恐れる余り殆どが処分されていったのだ。
 ……コーディネーター“アラド”は、そんな運命から逃れてきた。
 だが人類に服従すると言う刷り込みは健在であり、自らを的(まと)としてではなく、戦力として有用である事を証明すべく……最強と名高い傭兵である彼女に挑んで来たのだ。
 その結果……。


『……負けたんだよね……私……』


 一瞬の隙をつかれ、彼女は敗退した。
 不意打ちによる二対一の状況ではあったが、彼女は何一つ言い訳しなかった。
 自らのプライドを……傭兵部隊〈パラディス・リント〉の名を汚された事に、唇を噛んでその事実を認容していた。


「……想いだけでも……力だけでも、駄目なんだ」


 始めはキラは只悔しかった。
 信じ、敬い、畏れすら抱いた彼女が、どうしてその様な歪な存在に敗退したのか、どうしても納得がいかなかった。
 だが……。


『必死だったもんね……あの子』


 状況を良く聞いて、キラはアラドの気持ちが少しだけ解かった。
 彼は……自らの命等捨てる覚悟だった。
 そもそも連合軍から脱走したのも、彼女と戦う道を選んだのも……彼が、護るべき者の為。
 パートナーが生きる事をアラドは望み、人類の為に戦う事を望んだパートナーの為に道を切り開いたのだ。 
 その覚悟、その気迫が無ければ……彼らは生きて帰れなかったから。
 彼女に容赦の文字は無いのだ。少なく共戦場に置いては……。


「……力と、想いを……自分が正しいと、信じる道の為に向ける事が出来る……志(こころ)がいる」

「キラ……」

「……僕の志(こころ)はもう決まっている。この国の大義も、理想も……君も護る」


 静かで、冷たさすら感じるキラの声。
 自らを研ぎ澄ましているのだ。自らがどれだけの事が出来るかは解からないが、たかが知れている事は理解している。
 キラは負けて、負け続けて来た……それでも立ち上がれたのは、目の前の涙目の少女が手を差し伸べ、或いは背中から蹴り出してくれたから。
 道を、教えてくれたから……。
 だから今度は、自らが導く。
 やろうと思えば、その身を翻す事も出来るだろう……だが、この期に及んでそれはどうか?
 今まで進んだ道はもう、彼だけのものではない。そしてそれはカガリも同じなのだ。
 此処に至って正道でも外道でもない……邪道に堕ちてはならないのだ。
 


「君の願いを……君が護ろうとする願いを……僕は、可能な限り叶えてあげたい」

「き……キラっ!」


 矢張り前置き無しで、突如抱きついてきたカガリをキラは慌てて抱き止めた。
 手放しで泣きじゃくる彼女の頭を、ゆっくりと撫でながら。


『……その為に……あの人の力を借りる事になるなんて……僕は……まだ弱い』


  
 その潔すぎる道を、共に歩んで来たのだ。
 だからキラはどうしても、目の前の影が兵器に見えず、不甲斐無い自分達に対する、道標に見えて仕方が無かった……。 
  


「おいおいちょっと待てよ……」


 オノゴロ島のドックから叩きだされる様にして、ディアッカは釈放されていた。
 ……既にアークエンジェルは軍属から離れており、ザフトとはある意味無縁……近い将来連合と共に三つ巴になる可能性も無きにあらずだったが。
 故にディアッカは単なる非戦闘員だった。軍で無い以上捕虜扱いは出来ない。
 とはいえ、赤道直下とは言え夜空の下放り出されても、やれる事は殆ど無い。
 


「ったく、勝手な連中だぜ」


 不貞腐れたディアッカは近くの丘でおもむろに横になった。
 ただ、そう愚痴るディアッカには後ろ髪引かれる想いがあったことは事実。 
 艦内クルーは意思決定に時間を取られていたが、ミリアリアだけは違った。
 このドタバタした状態で、自ら率先して釈放の旨を彼に伝えて来たのだ。
 ……何だかんだで、お互いがお互いの為にかなりの時間を割いていたのだ。特に、尋問も何も無かったディアッカにとって、彼女と語らう時だけが気を紛らわせてくれた。
 ところが……今になって考えると、自分の方が勝手だった事に気がつく
 アラスカからこの方、彼女は軍人としての義務でそうした訳では無いのだ。
 想い人を殺した敵の一味等早く忘れる事も出来なのに、そうしなかった。
 ……忘れようとしなかったのだ。
 同じ“人間”によって……トールと呼ばれた想い人は殺されたという事実を。
 コーディネーターと言う別のカテゴリーに当てはめ、特別扱いし、だから仕方が無かったと納得してしまわない為に。
 人でなくとも恨む事は出来るだろうが、哀れむ事は人に対してしか出来ない。
 ……そしてそれらを受け止められるのも、人だけ。
 


「……投げ下手、取り下手ばっかりだったのかもな」



 この戦争……当初から相手を自分達とは別の存在と割り切ってしまったのがそもそもの間違いだったのだ。
 どんなに近付いていこうとも、“〜だから”の一言でそこから先が続かない……。
 


「……俺はそんな、情けなくはなりたくねえ……」


 何処か他所を向いていたディアッカの目線は、遂に前を向いた。
 同じ様に前だけを見つめ、祖国の危機を受け入れた上で、戦いへと身を投じた仲間と、彼女の様に……。
 





「……どうやら避けられぬ様だな。オーブと地球軍との戦闘は」


 
 その頃、ククルはオーブへと速力を上げつつ接近していた。
 彼女が与えられた新型MSジャスティス……もといマガルガ。
 格闘戦を主体として考慮されたニュートロンジャマー搭載機であったが、設計者であるユーリ=アマルフィが彼女にあやかってコードネームを変更していたのだ。
 もう一つの旗頭となる予定であったフリーダム……漸駄無は、あろう事かコーディネーター最大の仇敵、ゼンガー=ゾンボルトに強奪され、アラスカ攻略戦においてザフト軍に“壊滅的な損害を与えた”……とされている。
 最早その名は呪われた物以外の何者でもなく、これに対するには“正義”等という半端なものでは太刀打ちできない……そうユーリは考えたのだと言う。


「……解かっている筈だ。その名を、無意識の中で否定していると言う事を……」


 ユーリとて有能な技術者である。一度決定されたプランを名称のみとはいえ変更する事には相当の抵抗を有する筈だった。
 ……だがその抵抗は別の方にあった。
 どんな理屈があろうと……どのような経緯があろうと、愛する者が何者かを奪い……愛する者が同じ様に奪われた戦いに何の正義があったのか。
 何が正しく、何が悪か……そんなものは個人の感情の前には飴細工の様な物。
 怒り、悲しみ、嫉妬、不信……これらは容易く敵を作る。
 これを広げる事を良しとしないのが、人として、生受ける時から併せ持った本質の筈だった。だが……。


「人は矢張り、人の中でしか人にはなれぬか……」



 人を超えた存在は、人ではない何かでは断じて無かった筈だ。
 超えているのならば、何も畏れる事は無い。深い海原へ、自ら漕ぎ出していけばいい。先へと進む力があるのならば。
 ……それをしない。しようとしないのは何故か。
 何故あくまで人を制し、人の上に立つ事に拘るのか……。
 醜い優越感か、それとも思い上がりか……どれも違う。
 単なる畏れだ。ナチュラルの中に、まだ自分達が持ちえていない何かが……越えられない壁が存在するが為に。
 それを越えず、壊し、何事も無かったかのように……初めから自分達しか存在していなかったかの如く振舞う事は、無謀であり傲慢。
 かつてこの星で繁栄した多くの生命は、競争に敗れた。
 だがそれは地球という厳しいフィールドで適応し、正等に生き抜いたからこその賜物だ。
 自然に反し、自らの手に負えないような力で駆逐せんとすれば、やがてコーディネーターに待ち構えているのは一つしかない。
 退化。
 競争を忘れ、敗北を知らぬ様になれば、見上げる事を忘れいつの間にか下へ下へと落ち込むだけだ。
 


「この戦争は必然的な生存闘争等ではない……只の、滅昆(ほろび)だ!!」


 終わらせなければならない。
 取り返しのつかない段階まで、人類の種としての限界が進行するより先に……。
 それは人類の為というおこがましい物ではない。
 只単に……彼女は望んでいる。
 これほどまでの混沌の中、導き抜かれた何かが創って行くであろう未来を。
 ……滅ぼされた、ユニウスの民の為。
 死んでいった同胞……そして愛した人々の分も。





 ……翌、九時。
 最後通知の時間が経過し、警告通り連合軍との火蓋が切られた。
 各連合艦艇から尾を引いてミサイルが発射され、次いでオーブ艦隊及びオノゴロ島に配備された戦車隊が一斉に迎撃を開始する。
 ミサイル爆撃を援護とし、戦闘機部隊に加え強襲揚陸艇、大型輸送機が飛び立っていく。
 対するオーブ軍は海軍が主力である為、空戦戦力がやや少ない。だがその存在感は遥かに連合軍を越えている。
 この島を落とすには……この島に羽を下ろした巨大な天使と、相対せねばならないからだ。


「オーブ軍、戦闘開始しました!」

「対空戦闘開始! 速やかに弾幕を処理し上陸部隊の足を止める!!」


 射撃管制官に配置変更となったサイの報告に対し、すかさずマリューは指示を飛ばす。
 ……基本的にブリッジクルーは健在だったが、カズイのみが下船しているのだ。
 戦争と言う極限的な状況に、流石にこれ以上耐えられなかったのだ……しかし。


〈艦長、相変わらずモルゲンレーテの連中ダンマリだ。その辺のパイロットノシて、M1を拝借するか?〉

「ここに至って士気の混乱を招く真似は無理です……モルゲンレーテについてはカズイ君に任せましょう」


 マリューは、逃げ出したという後ろめたさに潰されそうになっていたカズイに、ある一つの依頼をした。
 ……モルゲンレーテの内部調査だ。
 とはいえ、何も諜報員紛いの事を期待している訳では無い。モルゲンレーテ、もといサハク家が対外的アクションを起こすならば、まず真っ先にオーブ国民に対してだろうと踏んだのだ。
 どんな些細な動きでも構わない、と言ったものの……実は、彼の罪悪感が多少なりとも軽減されるならば、それだけでも構わないとも考えていた。


「ムウ、最後まで諦めないで。決して早まらないように」

〈あいよ。ここまで来て馬鹿な死に方はできんからね〉


 
 未だモルゲンレーテ地下工場にいるフラガ。
 上空には多数の戦闘機が飛びかっている以上、スカイグラスパーでの出撃は自殺行為に等しかった。
 ザフト軍の制空概念はあくまでMSによるものであり、そのスピード、空力学的な観点からも工夫さえあれば対応は可能だった。
 しかし連合軍は数が多く、戦術も均一化されている。
 集団戦においては数で勝る相手側の方に、圧倒的なアドバンテージがあるのだ。 


「それすらも覆す何かが……少佐にはあった」


 ゼンガーだけでなく、特殊戦技教導隊そのものがそうだ。
 その最大の要因が何であるかは未だ解からないが、少なく共一つだけ判る事がある。
 ……彼らは、戦場での孤独の意味をよく知り得ている。
 戦争は決して一人では出来ない。後方に控える多くの人々の働きがあってこそ、初めて兵は前進できる。
 それを漫然としてではなく、かっちりと行動理念に組み込んでいる……故に不測の事態に対する無限ともいえる対応手段を備え、逆にその恐るべき事態を敵に対し引き起こす。
 ……今回における“恐るべき事態”……それを引き出す事が出来れば流れが変わる。
 さもなくば、このまま物量に押し潰される事は誰の目にも明らかであった。

 






「ヤロー……この近海に居るのが解かって、あくまで高見の見物か。随分偉くなったじゃねーか」

「いーじゃん所詮人間なんだし」

「それよりとっとと行こうぜ! これは“試練”!」  
  


 地球連合軍艦隊旗艦、パウエル。
 本来旗艦には速力指揮能力が必要とされ、直接打撃力はそれほど必要とされない。
 しかしこの艦は、打撃力に関しては群を抜き……恐らく、現行の地球連合軍の中では随一だった。
 この艦には、三機のXナンバーが搭載されていたのだ。
 ストライク系列とは全く別のルートで設計されていたこれらは、このオーブ戦が初の実戦投入となる。
 ……少なく共、公式の記録ではそうだ。実際は……異なる。
 巨大な翼を持つ可変タイプ“レイダー(強奪)”は、第8艦隊戦において大気圏突入試験、及び重力下における空戦評価を完了。
 背部に甲羅を背負い、鎌を携えた“フォビドゥン(禁忌)は、アラスカ戦において陸上運用試験を実行。
 そして背部にカノン砲を背負った“カラミティ(災厄)に至っては、つい先日のパナマ防衛戦において射撃システムの調整を終えている。全て、実戦に置いて。
 この大きな食い違いを知る者は数少なく……この場では彼ら自身と、ムルタ=アズラエルのみだった。


〈あー、君達。マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません。解かってますね?〉

「……他は幾らやってもいいんでしょ」

「つまりそう言う事」


 シャニ=アンドラスがぼそりと答え、クロト=ブエルがしたり顔で頷く。
 それぞれが“禁忌”と“強奪”のパイロットを務めているが、まだ若い。
 だが彼らから発せられる何処か人間離れした空気は、軽すぎる口調からのみでは無いだろう。


「……おい」


 その点、“災厄”のオルガ=サブナックは、まだ人間味のある雰囲気があった。
 ……とは言え矢張り、歳相応とは言い難い物だったが。
 しかし慣れているのか、アズラエルは普通に応える。



〈……はい?〉

「シェルターはどうする」

〈なるべく外して下さいよ……“巫女”でもいたら縁起でも無い〉

「そうか、努力はする」


〈はぁ?!〉


 ハッチが開かれたのを確認し、オルガは一方的に通信を切った。


『おいおい人間をあんまいじめんなって』

「うっせーよ、お前ら」


 そう言いつつ、オルガの端整な顔には下賎な笑みが浮かんでいた。
 戦場では何が起こるか解からない。何者が殺されるか解からない……。
 それはこの世界の摂理に従う以上は……避けられない事なのだ。


「……ん?」



 そしてそれは、彼とて同じ。



「〈何だぁっ?!〉」

「我が名はゼンガー=ゾンボルト!! 眼前の敵は……全て打ち砕くのみ!」
  



 必殺の一太刀……これを繰り出すための、長い長い前振りは、今終わった。

 



 

 

管理人の感想

ノバさんからの投稿です。

親分、作中に一度も出て来ないなと思ってたら、最後の最後で襲撃かけてるしw

このままアズラエルまで倒しちゃったら・・・どうなるんだろ(苦笑)