前方、クサナギが立ち往生しているであろうポイントに立ち昇る爆発。
クロトの戦果であるとは露も感じていない。
性急な性格の奴ならば、間髪入れずクサナギを撃沈させるに決まっているのだ。
余韻の様な静けさが全てを証明している……所詮、僕(しもべ)は僕(しもべ)でしか無いと。
地べたには残骸が、天には死に体の大天使。
自分で落としたカラミティ・タイプの頭部を踏みつけ、余裕を持って見上げる。
オルガが取った戦術は悪質そのものだった。
随伴したカラミティ・タイプを全機突っ込ませておいて、後方から構わず制圧射撃を行ったのだ。
回避しようにもカラミティ・タイプへの対応に追われそれもままならず、同時にカラミティ・タイプも攻撃で手一杯の状況で、巻き添えを食って沈んでいった。
今動きがあるのはオルガのカラミティただ一機……否、もう一機。
伍式。
フレイは大天使の剣として最大限努力をし、その役目を果していた。
雨あられと降り注ぐ砲弾をもろともせず、零式対艦刀の一振りで複数のカラミティ・タイプの胴体を泣き別れさせ続けた。
しかし如何せん、攻撃は激しすぎた。
迎撃もままならぬまま次々と落とされていく機体が続出し、伍式は持ち前の分厚い装甲で辛うじて持ち堪えている状態であった。
砲撃によって瞬時に蒸発した氷がまた細やかな形で姿を取り戻し、霧の様に双方の間を遮り続けている。
その下には死屍累々と横たわるストライクダガー部隊があるのだ。ひょっとしたらフュンフもこの下に居るのかもしれないし、何処かに零式が落ちているのやもしれない。
まるで、中世の合戦跡の様である。
フレイ、それにミリアリアとサイの息が詰る。
今でこそ自分達は生き残ってはいるが、それまでにはもう……。
自分の意志ではあった。だがきっかけであった事は間違い無い。
本来あるべき流れ、正道を進んでいれば此処には居なかった。
誰も欠ける事など、ある筈も無く……。
ナタルの顔が怒りで歪む。
直ちに反論の代わりにミサイルなり陽電子なりをぶつけたいのは、ブリッジクルー全員の願いだろうが、無理な相談だった。
ここまで進軍する為に殆どの弾薬は使い切り、ゴットフリート他露出武装は真っ先に破壊されている。
辛うじて左舷ローエングリンのみは機能するが、使いどころを間違えればたちどころに狙撃され、それどころか機体の回収さえままならなくなるだろう。
伍式を無視し、シールドを持つ手を“お手上げ”と言った風に上げるカラミティ。
頭に血が上り、今すぐ斬りかかりそうな伍式に対し、ナタルは小声で待てと言う。
恩師レーツェルでさえも及ばぬ“バラル”と言う存在。
ほんの与太話でも価値はある筈だった。
悪くても、フレイが構え直す時間は稼げる。
静かに先を促すナタル。
まるでギャラリーの反応を待つかのように首を振るカラミティ。
当然ながら反応は無い。
ここが違う、とカラミティが頭部を差す。
オルガ=サブナックは、元々読書を嗜好する事をナタルは思い出した。
生体CPUにされる前からの趣味なのかどうかは不明だが、これによって心理的な自由度が高かったのかもしれない。
本を読むには、音楽やゲームと違い、受身では中々難しいからだ。
ナタルの返事を肯定と取ったのか、凄惨かつ憎たらしい笑みを浮かべるオルガ。
だが。
眉をつり上げるオルガに向かって、ナタルは毅然と言い放つ。
カラミティの砲門が全て大天使に向けられる。
力で得られるものは快楽……そう確信しているからこそ全く躊躇う事は無い。
だがその短絡は、それ以外で動く者へは絶好の機会を与える。
霧と残骸の向こうから真紅の影が飛び出していく。
背後からの奇襲にも関わらずカラミティは冷静に対応。腕だけを後に向け、プラズマサボットバズーカと衝角砲を連射。
二機のフュンフの膝から下を吹き飛ばすも、二機はスラスターを吹かしそのまま組み付こうとする。
脅威になり得ぬと判断し、そのまま大天使への砲撃体勢を維持。
一気にぶちまけようとトリガーを引いた、次の瞬間。
黒い機影が前面一杯に立ち塞がり、弾丸は全てそこに激突し、爆砕する。
超至近距離での余波を受け、流石のカラミティも煽られる。
零式の残骸が降り注ぐ中、カチーナのフュンフが最後の動きを見せる。
カラミティ・タイプとの激戦で折れ曲がったトンファーを、バールの様にカラミティの脚関節にねじ込んだのだ。
体勢を崩すカラミティ目掛けて、また新たな影が迫る。
肩関節部を限界まで酷使した為に、今にもちぎれ飛びそうな腕を振りかざす、伍式。
それに準じて、と言う訳では無いだろうが。カラミティはバズーカで自らの左足を撃ちぬく。
押さえ込み損ねたラッセルのフュンフがカラミティの左足ごと体勢を崩す。
右足のカチーナ機は機能停止。構わずそのままスラスターで体を立たせ、位相転移砲を向けた。
閃光が伍式に到達するのと、一刀が振られるのは僅差で伍式が早かった。
が、零式対艦刀は数多の機体を両断し、疲弊していた。
刃はひび割れ、フレームに致命的な亀裂が走りその形を成さなくなった。
しかしそれは、フレイとて承知の上だった。
自分の握る物ぐらい、勝手は心得なければ。
彼には遠いから。
カラミティの腹部にえぐり込んだ、螺旋衝角。
伍式がそれをゆっくり引き抜いた途端、カラミティは力無く尻餅をついた。
飛び散った零式の残骸の一部、大気圏突入用としても設計されていたコクピットから、フラガが呼びかける。
だがフレイは、まじまじと動かぬカラミティを眺めて何も言わない。
哀れむ様な、憎むような、しかしそれでも後悔は無い顔で。
螺旋衝角の表面から、粉末状に脱落していく紅色の何かを見送る。
これだけの事をする意味が、これほどの罪を被ってもあると、フレイは頑なに信じるしかない。
今も偽りの楽園の中心で、死闘を続ける師と共に。
代理人の感想
善哉善哉、などというシーンではありませんが、それでも原作から一番成長した彼女に拍手。
己の中の闇にも、牙を剥き詭弁を弄するオルガにも、
そして美味しいところをかっさらおうと目論むフラガ&凸凹コンビにも負けず(笑)、
握った剣を最後まで振りぬいた彼女に拍手。
キャラクターを生かすも殺すも書き手次第、ですね。
追伸
だ、だからドリルはよせと言ったのだ・・・・(謎)。