光り輝く剣を持った勇者が、邪悪なドラゴンを退治する。
使い古されながらもまだまだ後に続きそうな、物語の基本ライン。
大抵は奥まった洞窟や巨大な遺跡のど真ん中で両者はぶつかり合うのだ。
それこそ言葉も無く、一心に。
只々自らの思惑にそぐわぬ存在を潰し去る為。
血戦場に赴いたのは只一人。
後は門前払いをされてしまったのが実状だった。
……パナマで猛威を振るった広域ECM。
十二分な対策を施されていた筈のXナンバーはものの数分で無力化され、無様に立ち尽くす有様である。
大漸駄無はと言えば……矢張りといえばそうなのだろうが、そもそも本来用意されたOS機能を、殆ど用いていない。
セーフモードとでも言うべき手動制御に切り替えてから、寧ろ動作は機敏になっている。
ディアッカもニコルも、苦虫を潰したようになっている。
が、手は一切止まっていない。
エラー表示が続くディスプレイは既に、OSの基盤部分を映し出している。
あの日、ヘリオポリスで突貫作業でコーディネーター用に書き換えたものだ。
後は整備班に任せ切りで、マトモに自己流の調整をしていなかったのがここで災いした。
規範的かつ堅実に組んでくれてはいるが、それだけに理解は難しい。
ましてや、解除となれば。
次の瞬間、何事も無かったかのようにブリッツとデュエルが動き出した。
だが、かつての様な精彩さは何処にも無い。
泥臭く、重々しい、惨めで滑稽であれど……確かな一歩を歩み出したのだ。
「……言ってみただけだって。色んな事、任せ切りだったもんなあ。やれないじゃ、話にならねえ」
程無くしてバスターも復帰。
早速インパルスライフルを結合しようと試みるも、すんなりといかない。
イザークに手を貸してもらいつつ、慎重に組換えを続けるディアッカ。
それを尻目に、ニコルは援護の機会を窺っていたが……無駄である事を思い知る。
あそこは既に、独壇場なのだ。
手が、出せなかった。
同じ時を過ごし、同じものを見続け……同じ願いを持つ者。
だが両者には致命的なまでの錯誤がある。
方向性は交わらず、合わせ鏡の如く逆転している。
フリーダム・タイプの機体には火器は無かった。
爪と牙。それのみで大漸駄無を圧倒する。
それは誰への言葉だったのか。
地球を担うであろう強力な防衛ユニットに対する、保全管理を試みるシステムの警告か。
それとも……僅かな思い出を宝石の様に抱え込みたい、一途な想いか。
にべもなくゼンガーは否定し、そして断言する。
通常のMSよりも一回りは大きいマニュピレーターを、“G.U.N.D.A.M”は薙ぎ払う。
凍結した地面を削岩しつつ、大漸駄無は対艦刀で受け止め、逆に腕部ブースターで押し戻そうとする。
大漸駄無の翼が開く。
ハイマット・モードに移行し、更なる力をゼンガーにもたらす。
より強く踏みしめられる脚が、ゆっくりと前へと踏み込まれる。
もう一歩、更に一歩。
同等の推力を持つ筈の“G.U.N.D.A.M”は今、完全に負けていた。
……何処で?
正直枚挙に暇が無かった。
一言で言えば性能より更に根本の問題……即ち、操る者の信念。
使命、願い。
責務、希望。
目的、未来。
相反する感情に苦しむイルイ。
一方は感情では無く強迫概念ではあるが……それは彼女が生まれた意義そのもの。否定しようがない。
しかしゼンガーは?
ゼンガーは意義を否定し、存在を肯定する。
イルイと言う少女を。目的を逸すれば病人にも劣るコーディネーターを、彼は欲した。
永久の平和よりも何よりも、彼女との時間を彼は望んだ。
……ならば……。
声を上げるしかない。
無力を噛み締め、申し訳なく思っていても……甘えるのだ。
彼を、これ以上傷つけたくない……だから。
竜の首が落とされる。
オイルを鮮血の様に撒き散らし、もがき暴れる“G.U.N.D.A.M”を、大漸駄無は全ての火砲を持って焼き尽くす。
四肢が砕け、がらんどうの胸部にも弾丸が吸い込まれていく。
穴だらけになり痙攣する機体を尻目に、ゼンガーは最後の洗礼を望んだ。
バスターのインパルスライフルの照準を合わせたデュエルが。
ゴットフリートを構え待機していたブリッツが、それぞれ最期の引き金を引く。
インパルスライフルは“G.U.N.D.A.M”の核分裂炉を。
ゴットフリートはシャフト上部にあった砲身らしきユニットを貫いた。
ニコルが顔面を蒼白にさせて着弾点を指差している。
イザークも視線を動かし……絶句した。
そこには何も無かった。
先程まで死闘を演じていた筈のセンターシャフト基部は、巨大な穴に変貌していた。
その下は水を張ったかのように青い……直下、地球の引力圏。
深刻なイザークらに比べどうも緊張感が無いディアッカ。
怒鳴りたいのをグッと我慢して、イザークは問う。
我慢できなかった。
もっともそれを咎める事も無く、ディアッカは空洞の直下。燃え上がる漆黒の艦影を差す。
暫しの沈黙の後。
ディアッカの言わんとしている事がようやく解り、イザークはしまった、と舌打ちする。
やれやれ、と溜息をつくディアッカとニコル。
全く同じ気分にイザークは陥っており、ヘルメットを脱いで同じ様に息を吐くイザーク。
イザークは不敵に笑う。
真実を胸に秘めたまま……まだまだ続くであろう戦いに思いをはせる。
無数の色を携えて、暗い画板を彩る為の。
悲しみを終わらせる、未来を上書く為の……。
代理人の感想
あれ?
メッセンジャー?
・・・ああそうか、一人でゼンガーは飛び出していったわけですね(苦笑)。
ちょっと分かりにくかったかも。