「結局、何だったのかしらね……バラルって」



 戦争は一応の決着を見た。
 痛み分け、と言うのが素直な実状で、完全解決には程遠い溝が、未だナチュラルとコーディネーターにはある
 そんな事もあり……一部の人間がその間際に、コーディネータ……いや宇宙に生きる全ての人類の存亡を賭けた大立ち回りを演じていた事等、誰も気付きはしなかった。
 プラント臨時評議会で尽力した、イザークやディアッカらの頑張りもあった。
 前線で戦い抜いた彼らは、評議会にも最低限の報告しかしていない。
 ただ単に“連合残党の暴走”……それだけ。
 戦闘終了直前離脱した、ドミニオン事主天使の様な誤魔化しきれない損失さえも、ヤキン攻防戦での被害にねじ込んだ。
 此処らへんの手腕はあのクルーゼのやり口からであったと言うのは、皮肉である。


「神を語るだけの事はあって……恐ろしい相手ではあったけどね」


 そもそも、“バラル”は係わり合いになった当事者にも説明しきれない部分が多く、現在行方不明のパトリック=ザラが吹き飛ばした遺跡の調査が待たれている状態だが、期待は殆ど出来ない。
 更にはスーパーコーディネーターの存在がある。
 奇形であってもデバイスさえ整えれば十分な戦闘行動が可能であるならば、リスクを承知で敢えて性能に特化したコーディネーターを創り出す輩が出かねない。
 それを防ぐ意味でも情報非開示は必要だった。
 後は当人らの胸の中にしか、真実は無い。


「最も恐ろしいのは、そんなものを世に残した人間よ。野放しにするばかりか利用しようなんて考える辺り、寒気がする」


 故に彼らは、真実を語る舞台から、敢えて遠ざかる必要があった。
 イザークは一軍人として証言台に立ち、ディアッカは父親の補佐を続けた後……解散した臨時評議会に続き設立された新評議会からの誘いを断った。
 ちなみにアスランとニコルについては、ややこしい事態になっている。
 ニコルは音楽家として再出発する事を決めたらしいのだが、スランプに陥ったのか行方を晦ましている。
 しかしペンダントに加工されたマラカイトの原石と、砕けた鏡と共に残された譜面は中々の完成度だったらしい。
 家族曰く。


『何だこれは? 湿っぽくて色気が無くて、滅入る様なメロディ……そうさな、これに少しの色気ぐらい加味すれば……大抵誰も騙されて全てを水に流す気分になるさ……だそうですよ?』


 証言した母ロミナ以外の言葉らしく、重要な参考情報になるかと思われたが。


『あの子“ら”は好きにさせてやってくれないか』


 と、父ユーリは訴えを撤回させてしまった。
 が、司法局のほんの一部は諦めていないらしい。
 結構な人数を動員して捜索を続けている。 
 除隊手当てで家族サービス真っ最中のミゲルが言うには。


『いやー、アイツ許婚ほったらかしとは良い度胸してる』


 これを聞いて事情を知る者には……アスランの“戦い”がまだ終わっていない事が解った。


「往生際が悪い事……」

「いや、その、アスランは……まあ……」


 無論、双方単なる身勝手で動いている訳では無い。
 “巫女”は未だ不穏な動きが止まらぬプラントを外部から見つめ、同時に外からの干渉にも過敏でなければならないと気負い。
 アスランはプラントの内部構造を修繕する為にも、敢えて社会の裏の立場に立つ覚悟を決めた。
 双方道連れを必要とするのは、潔さとは程遠いが……かつての偽神にはない、人間味に満ちている事だけは確かだった。
 それぞれの立場で、来るであろう忌まわしい日々の再来に備え、双方準備に余念が無い。
 それはあの戦いを経験した者全てに、当てはまる。
 







「でもそうやって、当たり前の時間の為に、命を賭けられる人も居るんだ」


 脱走艦であり、幾度と無く連合軍に打撃を与えて来た筈の大天使だったが……その裏で多くの友軍を救うべく、尽力したのもまた事実。
 連合軍内でもブルーコスモス派を排除したいと言う思惑が重なり、艦長であるマリューを始め、極刑は免れた。
 彼女は除隊処分と言う形で軍を去り、残った大天使は、再編された第八艦隊旗艦と言う肩書きと共に、ナタルに託される事となった。
 沈艦寸前までの損害を受けた大天使一隻と、数機のMS・MAで構成されるだけの艦隊を預かるナタルには、気苦労が多い。
 だがフラガを初め優秀なスタッフは残存。
 但し、オクト小隊も加わった事で気苦労は倍らしく、胃薬は常備している。


「だけども……特別じゃ無いと我慢できない奴も居るわ」


 肩書きだけならまだしも、新型量産機105ダガーの運用等、本格的な任務はこなしている。
 矢張りブルーコスモスの影響はそう簡単には拭えるものではなく、アズラエルが死亡した後も即座に新総帥が就任している。
 これに対する警戒が、特に月方面では強い。
 万が一にも全面戦争ともなれば、再び最重要攻撃目標されるのは明白。
 次も大漸駄無の特攻といった神業で切り抜けられると、楽観する者は一人も居ない。
 停戦条約である“ユニウス条約”では、ジェネシスの様な大量破壊兵器は無論、MSの保有量にも制限がかけられているが……額縁通りに信用は出来ないでいる。 
 それどころか連合軍を構成する国家間の軋轢も表面化しつつあり、次が来たならば一層の泥沼化は必須となるだろう。
 もしもに備え戦力を抱え込みたいのは何処も同じ。
 シースに参加した連合軍兵士は、追及もそこそこに復帰出来た者が多い。


「……先が見えない事に恐怖する日々を、次の世代に引き継がす訳にはいかない……」

「そお? あんまり先をさっぱりし過ぎると、それこそバラルの二の舞になるわ」


 或いはようやく訪れた平穏に、戻っていく者も居た。


「だったら多少唐突な方が良いじゃない。良きにせよ悪きにせよ、ね」


 フレイ=アルスター。
 彼女は例外の一人。
 先を指差す彼女の目には喜びが。


「……! こんな、所に?」



 キラ=ヤマト。
 彼もまた平穏を捨てた。
 それでも僅かな一時をと……願ってみたが無駄だった。
 事件は彼を、逃さない。


「久しいな、フレイ」

「……来訪が遅れた事を、詫びよう」


 二人の武人によって、脆く儚い世界を知らされ……そこから逃げ出す事無く立ち向かったが為に。








「お互い忙しかったみたいで」

「ああ。そちらは第8艦隊の再編に苦戦している様だな」


 サイやミリアリアが除隊した後も、フレイは軍に残った。
 伍式を駆って、敵味方御構い無しに暴れていた前歴は都合が悪いらしく、何時の間にか“アルスター外交官の忘れ形見”に戻っていた。
 当初危惧されていた宣伝塔代わりの扱いを受けた訳だが、それを彼女は逆手に取って来た。
 新鋭機の配備、積極的な作戦への参加……どれも精々治安維持レベルの任務であり、難易度は低い。だから上層部もタカをくくっていたのだろうが、そんなものばかりを廻されてもフレイは腐る事無く、その全てを全力で完遂し続けた。
 次第に、彼女の実力は本物であると評判を広げる事に成功していた。
 但し……。


「惜しい人を亡くしましたから……そちらもブルーコスモス相手に大立ち回り、ご苦労様です」


 ゼンガーに師事を受けたという事実が、公的には抹消されている。
 連合軍やザフトの一部、それにブルーコスモスにとっては怨敵と言って良い存在である。
 文字通り社会的に抹殺された扱いを受けているが……史実と真実は常に異なるもの。
 公言こそ出来ない物の、あの戦争を生き延びた誰もがその名を刻んでいる。
 だから、誰かが勇気をもって尋ねてくれば躊躇う事無く師を誇る。
 それがフレイ=アルスターのあり方だった。   


「奴らは全く懲りては居ない……寧ろ偽神の縛りが無くなり歯止めが利かないのかもしれん」


 これだけの事をしながら……と、ゼンガーは呟き土を踏みしめる。
 ここには……オーブにはブルーコスモスに扇動された者達に蹂躙され、朽ち果てた者達も多く眠っているのだ。
 彼らの存在から目を背ける事を、彼はしなかった。
 一向に収まる気配のない……寧ろ過激化するテロリズムに対し、ゼンガーは刃を振るい続けている。
 戻るべき鞘はあると言うのに……彼の義が、世界の叫びがそれを拒む。


「……イルイは……どうなりました?」

「細胞の老化を止める良い手が見つからん……まだ、ネート博士の世話になりそうだ」


 そう、怒れる武神を目覚めさせた原因とも言える、ソフィア=ネートは生存していた。
 ヘリオポリス崩壊時に辛うじて難を逃れたものの、ザフトに身柄を拘束され、ジェネシス建造等に強制的に協力させられていた。
 だが影ではかなり自由に動けたらしく、難病患者に対する冷凍冬眠による遅延措置等、医療面での尽力もあり密かに協力者を得ていたと言う。
 ヤキン=ドゥーエ攻防戦後、彼らの助けもあり脱出には成功する。
 だがジェネシスを巡って多くの命が失われた事に心を痛め……二度と、表社会には現われない気で居た。
 現在ではエルザムの支援を受けつつ、細々と患者の治療に当たっている。
 その中には……バラルの贄にされかけた無垢な少女も。


「次世代に負債を押し付ける輩の、何と醜い事か」

「遠まわしに、女は子を産み育て死ねって言ってます? 少なく共私はそんなの御免ですから……私だって、そんな奴らは許せない」

「……杞憂、だったな」
 


 戦争が終わっても尚続く流血の連鎖。
 その只中に身を置き続けた彼の微笑みは、何処か罅割れているかの様にも見えた。
 だがそれでも。
 それでも彼女だけに見せた……もう彼女ぐらいにしかにしか出来ない、貴重な微笑みだった。


「ううん……私も結局人間だから……弱い部分だってある。あー、だからと言って優しくされるのも困るかも」

「……難しいものだな」


 久しぶりの出会いに溢れる感情。
 泣いて喚いて掴みかかって、大いに胸を塗らしたい。
 それをフレイ=アルスターの良心が却下する。
 此処に立つ事を。
 一人で立って歩んでいる所を、誇ってもらいたい。
 彼が。
 多くを救えなかった彼が、たった一人でも救ってくれた事を伝える為にも。


「そうよ? それもまた、女ですから」


 精一杯、輝かんばかりに、笑うのだ。
 それが彼に対する、最大の激励になると知って居るから。











「……参ってくれて、ありがとうございます」


 キラは立ち止まっていた。
 銀髪の乙女と共に、かつての級友の墓の前で。
 戦争と言う荒波に消えていったトールだったが、まさか自分を殺した当人がやってくるとは、露とも思わなかっただろう。
 草葉の陰で驚いているに違いない。
 ……バラルとの戦闘で、一瞬だけ姿を見せたX−105型のMS。
 その動きは正しく舞そのものだった……が、間近で垣間見たアスランも、思い余って当機で出撃せんとして、止められたであろうカガリも、多くは語らなかった。
 ニコルなら全部を知るだろう……当人と共に行方が知れないが、今なら案外近くに居るのかもしれない。


「そなたがオーブ独立の為、走り回っているとは聞いていたが……大変なのだな」


 合掌し、瞑目していた背中が立ち上がる。
 振り向いた拍子に、胸元で輝くペンダントが目に入る。


「それ……!」

「ああ……ニコルの母君だけあって曲者よ。確実に私が寄るであろう者の元へと送りつけておった」


 と言う事は、既にカガリは彼女に会っていたのだ。
 道理で今までカリカリしていたのが急に機嫌が良くなった訳だ、と納得すると同時に、秘密にされていた事が少し残念ではあった。
 まだ、彼女の全幅の信頼は得られていないのかと。


「腹に一物二物持っているのはお互い様だろうに。一々根に持つのは公平では無いぞ?」

「うっ……」


 キラはそのままオーブに残り、カガリを公的にも私的にも支え続けていた。
 連合により暫定政権は成立しているものの、その主権はなきに等しい。
 そんな状況を歯痒く想っているのは何もカガリらだけではなく、国民全体の願いであった。
 オーブ五氏族の生き残りである彼女を、上手く御輿にせんとする動きもあり、徐々にだが独立の気運は高まっている。
 ちなみにサハク家に繋がる“アポロン”なる人物は、依然として静観を保っている。
 軌道エレベーターアメノミハシラから帰還したカズイ曰く、“真のオーブは隠した”らしい。
 民あっての国であり、時が来れば民はまた集うと言う。現状ではアメノミハシラにはアポロン本人と、僅かな防衛戦力が残るだけだそうだ。
 元大天使のクルーと何処で知ったのか、“彼女”は彼には真実を伝えたのだ。 
 ……その反面、キラは未だにカガリに“真実”を伝えられず、危うい橋を渡っているのだが。


「いずれ覚悟を決めい。イザと言う時あ奴を傷つける事になるぞ」

「あー……はい、善処します」


 つい先日も自分の“二人の”師やバルトフェルドにも、同じ事を突っ込まれていた。
 彼らは傭兵として、あるいはジャンク屋として、はたまた善意の協力者として行動を共にしていた。
 バラルによって地球衛星軌道上にまで接近していたユニウス・セブンを、元の軌道まで戻すのはオーブの国家事業であり、ブルーコスモスに利用されたジャンク屋組合の面子を賭けた事業でもあったのだ。
 案の定、あからさまな妨害や工作も行われたが、無事ユニウス条約締結までに移動及び補強を完了している。
 バルトフェルドの駆け引きや、モラシム他元シース所属のザフト兵の応援。ジュリ、アサギ、マユラの頑張り、更には師らの異様なまでの人脈故、果された事だった。


「うむ、それでいい……死人の前で湿った顔をされるよりかは、苦笑いでも笑ったほうがまだマシだ」

「え、ええ……」

「……ミリアリアにそう言われたよ」


 不意打ちだった。
 対処出来ず、思わず愕然となるキラ。


「私が手にかけた者全てを、参る事は出来ぬ……だが覚えている限りはこうしてやりたい」

「贖罪の為に、プラントに戻らず……?」  


 
 彼女を求め、アスランが世界各地を探索し続けている事は知っていた。
 偶に、と言うが数年前月で分かれてから音沙汰が全く無かった頃に比べれば、かなり頻繁に連絡はあった。
 他愛の無い世話話から始まり互いの政治情勢の確認に続き、躊躇いつつも彼女の情報提供を望む。
 それがパターン化していたから尚の事。
 個人的な思いもあろうが、プラントも切実に人手が足りないのだ。
 多くの人材を戦争で亡くし、イザークやディアッカ他、有力な人材はそれぞれの道へとひたすら邁進している。
 巫女の手も借りたい気持ちは良く解る。寧ろオーブ再建の為にも手を貸して欲しいぐらいだった。
 


「無論、死人には何も届かない……だがな、墓前に花一本、鎮魂曲一曲でもかまわん……その死を悼む者が他にも居る事を示せば、残された者には慰めともなろう」


 だがそんな思いもきっと、この言葉を聞けば収まるに違いない。
 アスランの方がずっと彼女を……ククルを理解しているのだから。

 


「ではな」


 別れはあっさりしたものであった。
 潮風に乗るかのように、流れていく。
 彼女は何時までもああしてはいまい。
 本当にどうにもならなくなった時、何食わぬ顔で顔を出すであろう。
 浮世と常世の境は、彼女には無いも同然だ。





 反逆の最先端に、彼らは居る。
 流れにはじき出されながらも、懲りずにまた挑んでいく。
 歓迎はされない。寧ろ排他される。
 世界が世界の有り様を維持する為には、望まれない存在。
 異端(イレギュラー)。


「また往くのだな」


 キラと別れ、待つべき者の場所へと向かうククルは、程無くしてゼンガーに追いついた。


「ネート博士が背負いし十字架。その一端は俺にもある……彼女はこれからの時代に必要な人だ。再び一歩を歩める様、手助けせねばなるまい」

「そなたに必要な者では無いのか? はっきり言おう……独りは、互いに辛いぞ」


 迎えに来たであろう義足義手の少年……ニコルに視線を向けるククル。 
 ゼンガーの姿を見て一瞬焦ったが、直に一礼して返した。
 前にこの島で出会った時は、一方的に敵意をぶつけ合った仲だったのだ。
 不思議なものである。
 ほんの少し価値観を同じくしただけで、こうも融和出来るのだから。
 


「独りでは無い。俺にも彼女にも、多くの同胞と果すべき使命がある」

「男女の本懐を無視してもか……己の為に生きる事をしないのか?」


 ククルの声にゼンガーは僅かに眉を動かす。
 そして断言する。


「お前の様に乱に疲れ、人としての本懐を忘れた人々が再びそれを取り戻せた時……それが我が使命の区切りなのかも知れん」


 そのまま過ぎ去っていく背に向けて、ククルは口元を歪ませた。
 歯痒いのでもない、不甲斐無いのでもない……只単なる、純粋な好意から。


「なればまず、我らがやって見せようぞ。人の本懐……見せてくれる」


 それは強靭かつ健全。寛大にして苛烈。
 人類最強にして最初の存在……“母”としての決意だった。 









「そっちも話は終わったみたいね」

「フレイ……少佐も……」

「ええ。何か話す事でも、あった?」


 キラは静かに横を振る。
 彼の戦いは遠いものではない。
 また自分の戦いも孤独なものではない。
 肩を並べ背をあわせ、一心不乱に戦い抜いた日々を忘れない限り。
 それを踏まえ今に立ち向かい続ける限りは。


「その時になったら、直に顔を合わすさ」


 そう、自分達は流れている。
 どう足掻いても止める事は叶わない歴史の奔流で。
 踏ん張り立ち止まる事も、勢いに乗る事も叶うだろう。
 だが何時までもそうしてはいられない。そう出来るほど人は丈夫ではない。
 やがては納得と言う名の妥協に溺れ、流れそのものに取り込まれる。
 それでは駄目なのだ。
 今も目に見えて不満が、不条理が渦巻いている。
 屈する事無く、最後の最後まで頃合を見計らい、その身砕けるまでは流れに呑まれない事を、心掛けなければならない。
 それぐらいしなければ、とても流れをどうこうする事等出来やしない。


「また、あの人達の背中を追う事になるのだろうか……」


 彼方へ消えていく人影を、キラとフレイは見送る。
 


「まさか! 今度はこっちが矢面に立たなきゃ。ヘマやらかしたら、お尻を蹴り飛ばされるだけよ……後は」


 フレイが僅かに意識を背後に向けたのにつられ、キラもそちらへ意識をやる。
 あくまで視線を向けないままであったが、確かに誰かが居た。
 静かであり、重みのある歩み。
 背負うものは熱く、己の存在すら焼き尽くしかねない程の重圧を秘めている。
 


「同じ様に私達も……後から来るのを引っ張るのよ」


 振り向けば一層それが知れた。
 伏せがちの顔から垣間見れるのは、深い悲しみと……行き場の無い怒り。
 


「君は?」

「あの男は……何です?」


 自らを素通りしていく敵意に、身を強張らせるキラ。
 思わず庇う様に前に出ようとするが、フレイは制した。
  


「あの男は貴女の……何ですか?」


 その瞳には怒りがあり、悲しみがあり……戸惑いが見えた。
 彼には映ってしまったのだろう。
 自分の概念を覆してしまうような光景が。
 信じていたものが揺らぎ出した戸惑いが、そのまま現われていた。
 何処かそれは、鏡を見るようで……キラはむず痒い。


「初対面の女に、随分と難しい質問をするものね……恩人、復讐の手段、父親代わり……上官、恩師、想人……どれもしっくり来ないわ」


 フレイは言葉を転がし続けた。
 その一言一言に反応する少年に対し、ようやくフレイは答えを出した。
 と言うよりも、これしか正しく表現が出来ないと言うべきか。

















「私にとって……ゼンガー=ゾンボルトは、ゼンガー=ゾンボルト以外の何者でも無い……唯一無二の、かけがえの無い人」


 これが、少女に刻まれた一つの絶対。
 裏切る事を知らぬ、究極の真実であった。












   
 完

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

完結おめでとうございます。

今回も含めて最後の方、原作を知らない人に対する配慮が少々足りなかったかとは思いましたが・・・

ま、些細なことです(爆)。

ただ結局「アポロン」は動かなかったし、そう言う意味ではちと拍子抜けでした。

絶対絡んでくると思ってたんですけどねえ。(笑)

 

 

 

・・・しかしまぁ、いいのかキラ君(爆)?